(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6671070
(24)【登録日】2020年3月5日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】杭打ち治具
(51)【国際特許分類】
E02D 13/10 20060101AFI20200316BHJP
【FI】
E02D13/10
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-215455(P2015-215455)
(22)【出願日】2015年11月2日
(65)【公開番号】特開2017-89098(P2017-89098A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年10月31日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 展示会名:第10回しんきんビジネスマッチング「ビジネスフェア2015」、開催場所:ポートメッセなごや、展示日:平成27年5月27日 [刊行物等]ウェブサイトの掲載日:平成27年7月7日、ウェブサイトのアドレス http://www.b−mall.ne.jp/PrDetail−63419.aspx [刊行物等]展示会名:産業とくらしのグランドフェア2015、開催場所:ポートメッセなごや、展示日:平成27年9月4、5日 [刊行物等]展示会名:産業とくらしのグランドフェア2015、開催場所:マリンメッセ福岡、展示日:平成27年9月11、12日
(73)【特許権者】
【識別番号】514173098
【氏名又は名称】有限会社新光工業
(74)【代理人】
【識別番号】100143410
【弁理士】
【氏名又は名称】牧野 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】新井 光明
【審査官】
荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】
登録実用新案第3018531(JP,U)
【文献】
韓国公開特許第10−2013−0121530(KR,A)
【文献】
登録実用新案第3132047(JP,U)
【文献】
特開2002−327413(JP,A)
【文献】
特開2008−045336(JP,A)
【文献】
実開平02−129446(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 7/00−13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が開口している杭を地面に打ち込むための杭打ち治具であって、
ハンマー等の打撃具により打撃を加える打撃部材と、
杭の一端から挿入可能で杭打ち治具の位置決めを行う位置決め部材と、
前記打撃部材と前記位置決め部材とを打撃方向に同軸に連結し、前記打撃部材に負荷された打撃力を杭に伝達する伝達部材と、を備え、
前記伝達部材は、
前記位置決め部材側で杭の開口端部に係止する外形が円柱状の係止部と、
前記係止部と連続して形成され、前記打撃部材に向かって外径が小さくなる略円錐面を有するテーパー部と、を備え、
前記打撃部材は、前記伝達部材との境界部よりも外径が大きい円板または円柱状に形成され、前記伝達部材より硬度が高く形成されており、
前記伝達部材のテーパー部は、前記打撃部材との境界部において前記位置決め部材の外径と略同一となるように形成されていることを特徴とする杭打ち治具。
【請求項2】
前記伝達部材の係止部は、外径が杭の外径と略同一に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の杭打ち治具。
【請求項3】
一端が開口している杭を地面に打ち込むための杭打ち治具であって、
ハンマー等の打撃具により打撃を加える打撃部材と、
杭の一端から挿入可能で杭打ち治具の位置決めを行う位置決め部材と、
前記打撃部材と前記位置決め部材とを打撃方向に同軸に連結し、前記打撃部材に負荷された打撃力を杭に伝達する伝達部材と、を備え、
前記伝達部材は、
前記位置決め部材側で杭の開口端部に係止する外形が円柱状の係止部と、
前記係止部と連続して形成され、前記打撃部材に向かって外径が小さくなる略円錐面を有するテーパー部と、を備え、
前記打撃部材は、前記伝達部材との境界部よりも外径が大きい円板または円柱状に形成され、前記伝達部材より硬度が高く形成されており、
前記打撃部材は打撃面に対向する面に前記伝達部材のテーパー部を圧入可能な凹部を備えており、当該凹部において前記伝達部材と結合されて一体的に形成されていることを特徴とする杭打ち治具。
【請求項4】
前記伝達部材の係止部は、外径が杭の外径と略同一に形成されていることを特徴とする請求項3に記載の杭打ち治具。
【請求項5】
一端が開口している杭を地面に打ち込むための杭打ち治具であって、
杭の一端から挿入可能で杭打ち治具の位置決めを行う位置決め部材と、
前記位置決め部材と打撃方向に同軸に連結され、ハンマー等の打撃具により打撃を加える打撃面を有し、前記打撃面に負荷された打撃力を杭に伝達する伝達部材と、を備え、
前記伝達部材は、
前記位置決め部材側で杭の開口端部に係止する外形が円柱状の係止部と、
前記係止部と連続して形成され、前記位置決め部材の反対側に向かって外径が小さくなる略円錐面を有するテーパー部と、を備え、
前記テーパー部の前記打撃面側には、硬度が高い領域である高硬度部が形成されており、
前記打撃面は、外径が前記位置決め部材の外径と略同一となるように形成されていることを特徴とする杭打ち治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築用部材を支持するため等に用いられる杭を地面に打ち込むために使用する杭打ち治具に関する。
【背景技術】
【0002】
建設作業現場において、建築用部材を支持するため等に用いられる杭(くい)は、手すり、柵などの仮設の構造物やソーラーパネルなどの設置などに用いられ、必要不可欠な建築資材である。
従来、一端が開口した杭(単管を含む)を地面に打ち込むときには、開口部を覆うキャップをかぶせて当該キャップにハンマー等の打撃具により打撃力を負荷していていた。また、その他の方法として、例えば特許文献1には、杭の開口部に径が異なる円柱状部材を組み合わせた杭打ち治具を挿入して、杭を保持するとともに杭打ちを行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−45336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、キャップを用いた場合には、数本の杭の杭打ち作業を行うと変形などにより使用不能となってしまい、耐久性が乏しいという問題があった。また、杭に過大な打撃力が負荷されやすい、打撃力が杭の端部に均等に負荷されないために、杭の変形が起こりやすいという問題があった。
また、特許文献1に記載の治具では、杭に過大な打撃力が負荷されやすく、杭の変形が起こりやすいという問題があった。
【0005】
そこで、本発明では、耐久性が高く、杭が変形せずに杭打ち作業が可能である杭の杭打ち治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明では、一端が開口している杭を地面に打ち込むための杭打ち治具であって、ハンマー等の打撃具により打撃を加える打撃部材と、杭の一端から挿入可能で杭打ち治具の位置決めを行う位置決め部材と、前記打撃部材と前記位置決め部材とを打撃方向に同軸に連結し、前記打撃部材に負荷された打撃力を杭に伝達する伝達部材と、を備え、前記伝達部材は、前記位置決め部材側で杭の開口端部に係止する外形が円柱状の係止部と、前記係止部と連続して形成され、前記打撃部材に向かって外径が小さくなる略円錐面を有するテーパー部と、を備え、前記打撃部材は、前記伝達部材との境界部よりも外径が大きい円板または円柱状に形成され、前記位置決め部材及び伝達部材より硬度が高く形成されて
おり、前記伝達部材のテーパー部は、前記打撃部材との境界部において前記位置決め部材の外径と略同一となるように形成されている、という技術的手段を用いる。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、打撃部材は硬度が高く形成されているので、大きな打撃力を負荷しても変形や破損することがなく、耐久性が高いので、繰り返し長期間にわたって使用することができる。また、打撃面が変形しにくいため打撃面を杭の打撃方向に対して垂直な状態を保つことができるので、杭に対して打撃方向からずれた曲げ方向の応力が負荷されることがなく、杭の変形を防ぐことができる。
伝達部材により、打撃部材に負荷された打撃力をテーパー部により打撃方向から略円錐面の方向に拡張して伝達してから杭の開口端部に負荷するため、過大な打撃力が杭に負荷されることがない。伝達部材は打撃部材よりも軟質であるため、打撃部材に過大な打撃力が負荷された場合でも、打撃力を吸収することができる。このように、杭に過大な打撃力が伝達されることがないため、杭にふくれや座屈などの変形が生じることを防ぐことができる。係止部が円柱状に形成されているので、変形を生じにくいとともに、杭の開口端部に打撃力を確実に伝達させることができる。
位置決め部材を杭の開口した一端から挿入するだけで杭打ち治具の正確な位置決めを行うことができ、がたつきがなく、安定した杭打ち作業を行うことができる。また、杭が内側に変形するような応力が負荷されたときにも位置決め部材により杭の内側から支持して変形しないようにすることができる。
以上のように、耐久性が高く、杭が変形せずに杭打ち作業が可能である杭の杭打ち治具を提供することができる。
また、打撃部材が受けた打撃力が、打撃方向から略円錐面の方向に拡張して伝達してから杭の開口端部に負荷され、打撃方向に伝達して直接杭の開口端部に負荷されることがないため、過大な打撃力が杭に負荷されることがないので、杭にふくれや座屈などの変形が生じることを防ぐことができる。
【0010】
請求項
2に記載の発明では、請求項
1に記載の杭打ち治具において、前記伝達部材の係止部は、外径が杭の外径と略同一に形成されている、という技術的手段を用いる。
【0011】
請求項
2に記載の発明によれば、係止部が杭の開口端部に係止する幅が狭すぎて十分な打撃力が杭に伝達されなかったり杭の端部が変形したりすることがない。また、係止する幅が広すぎて杭が係止部に食い込み係止部が変形することがない。これにより、杭や杭打ち治具の変形などの不具合が生じることなく、安定した杭打ち作業を行うことができる。
【0014】
請求項
3に記載の発明では、
一端が開口している杭を地面に打ち込むための杭打ち治具であって、ハンマー等の打撃具により打撃を加える打撃部材と、杭の一端から挿入可能で杭打ち治具の位置決めを行う位置決め部材と、前記打撃部材と前記位置決め部材とを打撃方向に同軸に連結し、前記打撃部材に負荷された打撃力を杭に伝達する伝達部材と、を備え、前記伝達部材は、前記位置決め部材側で杭の開口端部に係止する外形が円柱状の係止部と、前記係止部と連続して形成され、前記打撃部材に向かって外径が小さくなる略円錐面を有するテーパー部と、を備え、前記打撃部材は、前記伝達部材との境界部よりも外径が大きい円板または円柱状に形成され、前記位置決め部材及び伝達部材より硬度が高く形成されており、前記打撃部材は打撃面に対向する面に前記伝達部材のテーパー部を圧入可能な凹部を備えており、当該凹部において前記伝達部材と結合されて一体的に形成されている、という技術的手段を用いる。
請求項4に記載の発明では、請求項1に記載の杭打ち治具において、前記伝達部材の係止部は、外径が杭の外径と略同一に形成されている、という技術的手段を用いる。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、
打撃部材は硬度が高く形成されているので、大きな打撃力を負荷しても変形や破損することがなく、耐久性が高いので、繰り返し長期間にわたって使用することができる。また、打撃面が変形しにくいため打撃面を杭の打撃方向に対して垂直な状態を保つことができるので、杭に対して打撃方向からずれた曲げ方向の応力が負荷されることがなく、杭の変形を防ぐことができる。
伝達部材により、打撃部材に負荷された打撃力をテーパー部により打撃方向から略円錐面の方向に拡張して伝達してから杭の開口端部に負荷するため、過大な打撃力が杭に負荷されることがない。伝達部材は打撃部材よりも軟質であるため、打撃部材に過大な打撃力が負荷された場合でも、打撃力を吸収することができる。このように、杭に過大な打撃力が伝達されることがないため、杭にふくれや座屈などの変形が生じることを防ぐことができる。係止部が円柱状に形成されているので、変形を生じにくいとともに、杭の開口端部に打撃力を確実に伝達させることができる。
位置決め部材を杭の開口した一端から挿入するだけで杭打ち治具の正確な位置決めを行うことができ、がたつきがなく、安定した杭打ち作業を行うことができる。また、杭が内側に変形するような応力が負荷されたときにも位置決め部材により杭の内側から支持して変形しないようにすることができる。
以上のように、耐久性が高く、杭が変形せずに杭打ち作業が可能である杭の杭打ち治具を提供することができる。
また、他の部材と硬度が異なる打撃部材が圧入により伝達部材と結合されて一体的に形成されるので、杭打ち治具を簡単な工程で作製することができる。
請求項4に記載の発明によれば、係止部が杭の開口端部に係止する幅が狭すぎて十分な打撃力が杭に伝達されなかったり杭の端部が変形したりすることがない。また、係止する幅が広すぎて杭が係止部に食い込み係止部が変形することがない。これにより、杭や杭打ち治具の変形などの不具合が生じることなく、安定した杭打ち作業を行うことができる。
【0016】
請求項
5に記載の発明では、一端が開口している杭を地面に打ち込むための杭打ち治具であって、杭の一端から挿入可能で杭打ち治具の位置決めを行う位置決め部材と、
前記位置決め部材と打撃方向に同軸に連結され、ハンマー等の打撃具により打撃を加える打撃面を有し、前記打撃面に負荷された打撃力を杭に伝達する伝達部材と、を備え、前記伝達部材は、前記位置決め部材側で杭の開口端部に係止する外形が円柱状の係止部と、前記係止部と連続して形成され、前記位置決め部材の反対側に向かって外径が小さくなる略円錐面を有するテーパー部と、を備え、前記テーパー部の前記打撃面側には、硬度が高い領域である高硬度部が形成されており、前記打撃面は、外径が前記位置決め部材の外径と略同一となるように形成されている、という技術的手段を用いる。
【0017】
請求項
5に記載の発明によれば、伝達部材に高硬度部が形成されているので、大きな打撃力を負荷しても変形や破損することがなく、繰り返し長期間にわたって使用することが
できるので、効率的な杭打ち作業を行うことができる。また、打撃面が変形しにくいため打撃面を打撃方向に対して垂直な状態を保つことができるので、杭に対して打撃方向からずれた曲げ方向の応力が負荷されることがなく、杭の変形を防ぐことができる。
伝達部材により打撃力をテーパー部により打撃方向から略円錐面の方向に拡張して伝達してから杭の開口端部に負荷するため、過大な打撃力が杭に負荷されることがない。伝達部材は高硬度部以外の領域は高硬度部よりも軟質であるため、打撃面に過大な打撃力が負荷された場合でも、打撃力を吸収することができる。このように、杭に過大な打撃力が伝達されることがないため、杭にふくれや座屈などの変形が生じることを防ぐことができる。係止部が円柱状に形成されているので、変形を生じにくいとともに、杭の開口端部に打撃力を確実に伝達させることができる。
位置決め部材を杭の開口した一端から挿入するだけで杭打ち治具の正確な位置決めを行うことができ、がたつきがなく、安定した杭打ち作業を行うことができる。また、杭が内側に変形するような応力が負荷されたときにも位置決め部材により変形しないようにすることができる。
以上のように、耐久性が高く、杭が変形せずに、効率的な杭打ち作業可能である杭の杭打ち治具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1実施形態の杭打ち治具の構造を示す斜視図である。
【
図2】第1実施形態の杭打ち治具の構造を示す側面図である。なお、使用状況を説明するために、杭の断面図を併記している。
【
図3】第1実施形態の杭打ち治具の作製方法の一例を示す側面図である。
【
図4】第2実施形態の杭打ち治具の構造を示す側面図である。
【
図5】比較例で用いた杭打ち治具の概略形状を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
本発明に係る、一端が開口している杭を地面に打ち込むための杭打ち治具について、
図1、2を参照して説明する。ここで、市販されている標準的な杭として、外径48.6mm 肉厚2.4mmの単管の一方の先端にコーン状の尖った部分が形成され、他端が開口している杭をハンマーで打撃する場合を例に説明する。ここで、
図2においては杭打ち治具1の使用状況をわかりやすく説明するために杭Kの断面図を併記している。
【0020】
一般的に杭は単管に比べ高価なので、いわゆる杭でなく、単管を直接地面に打ち込む場合がある。本発明においては、杭としての機能を発現させるものを「杭」として取り扱うため、このような使用方法の単管は「杭」として考える。
【0021】
杭打ち治具1は、ハンマー等の打撃具により打撃を加える打撃部材10と、杭Kの開口した一端から挿入可能で杭打ち治具の位置決めを行う位置決め部材30と、打撃部材10と位置決め部材30とを打撃方向Aの同軸に連結し、打撃部材10に負荷された打撃力を杭に伝達する伝達部材20と、を備えている。
【0022】
杭打ち治具1は、鋼材からなり、打撃部材10、伝達部材20及び位置決め部材30が一体的に形成されている。本実施形態では、機械構造用炭素鋼S25Cを用いたがこれに限定されるものではなく、杭打ち作業が可能な材料を適宜選定することができる。
【0023】
打撃部材10は、伝達部材20との境界部20aの外径D1よりも外径D2が大きい円板または円柱状であり、打撃面10aが打撃方向Aに対して垂直になるように形成されている。また、打撃部材10には焼き入れ処理が施されており、少なくとも打撃面10a近傍は、位置決め部材30及び伝達部材20よりも硬度が高く形成されている。これにより、打撃部材10は大きな打撃力を負荷しても変形や破損することがなく、繰り返し長期間にわたって使用することができるので、効率的な杭打ち作業を行うことができる。また、打撃面10aが変形しにくいため打撃面10aを打撃方向Aに対して垂直な状態を保つことができるので、杭Kに対して打撃方向Aからずれた曲げ方向の応力が負荷されることがなく、杭の変形を防ぐことができる。例えば、打撃部材10(少なくとも打撃面10a)の硬さはロックウェル硬さHRC(JIS Z2245:2011)で30−35とすることができる。なお、杭打ち治具1全体に焼き入れ処理を施すと、脆くなり破損しやすくなるため、打撃部材10のみに焼き入れ処理を施すことが好ましい。
【0024】
打撃部材10の外径は、ハンマー等の一般的な打撃具の打撃部の大きさを勘案して設定される。例えば、ハンマーを用いる場合には、外径60mm程度とすると打撃を加えやすく好適である。また、打撃部材10の厚さt1は、薄過ぎて打撃力で変形する、また、厚過ぎて打撃部材10において打撃力を吸収してしまい杭に適切な打撃力が負荷されなくなる、ことがないように、15−20mmとすることが好ましい。
【0025】
伝達部材20は、位置決め部材30で杭Kの開口端部K1に係止する外形が円柱状の係止部21と、係止部21と連続して形成され、打撃部材10に向かって外径が小さくなる略円錐面22aを有するテーパー部22と、を備えた中実の部材である。
【0026】
係止部21は、外径D3が杭の外径と略同一となるように形成されており、打撃方向Aの厚さt2は打撃により変形が生じにくく、後述するテーパー部22の効果を損なわないような幅に形成されている。本実施形態では、5−7mmに形成されている。
【0027】
テーパー部22は、係止部21との境界部では杭の外径と略同一に形成されており、打撃部材10との境界部20aでは位置決め部材30の外径D4と略同一となるように形成されている。
【0028】
位置決め部材30は、円柱または円筒状で、その外径D4が杭の内径(43.8mm)よりわずかに小さく、杭Kの開口した一端から挿入可能で開口端部K1において位置決めを行うことができるように形成されている。これにより、位置決め部材30を杭Kの開口端部K1から挿入するだけで杭打ち治具1の正確な位置決めを行うことができ、がたつきがなく、安定した杭打ち作業を行うことができる。
【0029】
また、位置決め部材30は、強力な打撃力を負荷したときにも、杭打ち治具が杭の開口部から飛び出すことがない長さLに形成されており、例えば、長さLが40mm以上に形成されている。
【0030】
杭打ち治具1を用いて杭を地面に打ち込む方法について説明する。まず、位置決め部材30を杭Kの開口した一端から挿入し、杭打ち治具1を伝達部材20の係止部21が杭Kの開口端部K1に係止する状態に位置決めする。
【0031】
続いて、ハンマー等の打撃具により打撃部材10を打撃し、打撃力を負荷する。打撃部材10に負荷された打撃力は、伝達部材20のテーパー部22を伝達し、係止部21を介して杭Kの開口端部K1に負荷される。
【0032】
ここで、打撃部材10は硬度が高く変形しにくいので、十分な打撃力を負荷することができる。また、打撃面10aが変形しにくいため、杭Kに対して打撃方向Aからずれた曲げ方向の応力が負荷されることがなく、杭Kの変形を防ぐことができる。
【0033】
伝達部材20は、打撃部材10に負荷された打撃力を打撃方向Aから略円錐面22aの方向に拡張して伝達してから係止部21を介して杭Kの開口端部K1に負荷するため、過大な打撃力が杭Kに負荷されることがない。
特に、打撃部材10との境界部では位置決め部材30の外径D1と略同一となるように形成されているため、打撃部材10が受けた打撃力が、打撃方向Aから略円錐面22aの方向に拡張して伝達してから杭Kの開口端部K1に負荷され、打撃方向Aに伝達して直接杭Kの開口端部K1に負荷されることがないため、過大な打撃力が杭Kに負荷されることがない。
また、伝達部材20は打撃部材10よりも軟質であるため、打撃部材10に過大な打撃力が負荷された場合でも、打撃力を吸収することができる。このように、杭Kに過大な打撃力が伝達されることがないため、杭Kにふくれや座屈などの変形が生じることを防ぐことができる。
【0034】
また、係止部21が円柱状に形成されているので、変形を生じにくいとともに、杭の開口端部K1に打撃力を確実に伝達させることができる。係止部21は、外径が杭Kの外径と略同一に形成されているので、係止部21が開口端部K1に係止する幅が狭すぎて十分な打撃力が杭Kに伝達されなかったり杭Kの開口端部K1が変形したりすることがない。また、係止部21が係止する幅が広すぎて杭Kが係止部21に食い込み係止部21が変形することがない。これにより、杭Kや杭打ち治具1の変形などの不具合が生じることなく、安定した杭打ち作業を行うことができる。ここで、係止部21を設けずにテーパー部22のみとすると、変形しやすくなり耐久性が不足する。
【0035】
また、位置決め部材30は、強力な打撃力を負荷したときにも杭Kから飛び出さない長さLに形成されているため、連続して大きな打撃力を負荷することができるので、効率的な杭打ち作業を行うことができる。位置決め部材30は、杭Kにほぼ内接するように形成されているため、杭Kが内側に変形するような応力が負荷されたときにも位置決め部材30により杭Kの内側から支持して変形しないようにすることができる。
【0036】
打撃部材10、伝達部材20及び位置決め部材30は、打撃方向Aに対して同軸となるように形成されているため、杭Kに対して打撃方向Aからずれた曲げ方向の応力が負荷されることがなく、杭Kの変形を防ぐことができる。
【0037】
本実施形態では、伝達部材20と位置決め部材30とは一体に作製されている。打撃部材10は、
図3に示すように別体で作製し、打撃面10aに対向する面に伝達部材20のテーパー部22を圧入可能な内径がD1(43.8mm)の円筒状の凹部10bが形成されている。焼き入れ処理を施した後の打撃部材10の凹部10bに伝達部材20のテーパー部22を圧入して一体的に形成することができる。このとき、打撃部材10に負荷された打撃力を伝達部材20に有効に伝達することができるように、テーパー部22の先端と凹部10bの底面とが接触するようにする。
これにより、杭打ち治具1は、他の部材と硬度が異なる打撃部材10が圧入により伝達部材20と結合されることにより一体的に形成されるので、簡単な工程で作製することができる。なお、打撃部材10、伝達部材20及び位置決め部材30を一体形成して打撃部材10にのみ焼き入れ処理を行い、硬度を高くすることもできる。
【0038】
(実施形態の効果)
本発明の杭打ち治具1によれば、上記の特徴ある構成を有するため、耐久性が高く、杭が変形せずに杭打ち作業が可能である杭の杭打ち治具とすることができる。
【0039】
(第2実施形態)
第1実施形態の杭打ち治具1において、打撃部材10を設けない構成とすることもできる。
図4に示すように、杭打ち治具2は、杭Kの開口した一端から挿入可能で杭打ち治具の位置決めを行う位置決め部材50と、位置決め部材50と打撃方向に同軸に連結され、ハンマー等の打撃具により打撃を加える打撃面40aを有し、打撃具に負荷された打撃力を杭に伝達する伝達部材40と、を備えている。
【0040】
伝達部材40は、位置決め部材50側で杭Kの開口端部K1に係止する外形が円柱状の係止部41と、係止部41と連続して形成され、位置決め部材50と反対側に向かって外径が小さくなる略円錐面42aを有するテーパー部42と、を備えている。また、テーパー部42の打撃面40a側には、第1実施形態の杭打ち治具1における打撃部材10に相当する硬度が高い領域である高硬度部43が形成されている。打撃面40aは、外径D5が位置決め部材50の外径D4と略同一となるように形成されている。
【0041】
上述の構成の杭打ち治具2によっても、第1実施形態の杭打ち治具1と同様の効果を奏することができる。
【実施例】
【0042】
本発明の杭打ち治具と、異なる形状の杭打ち治具(比較例)を用いて、外径48.6mm、内径43.8mm(肉厚2.4mm)、長さ1000mmの杭打ち作業を行い、杭及び杭打ち治具の状態を調べた。
【0043】
比較例1(
図5(A))
・打撃部材10なし
・伝達部材20が円柱状:テーパー部22なし
【0044】
比較例1では、20回程度の打撃で打撃面が変形し、安定した杭打ち作業ができなくなった。また、杭の開口部近傍が外方に膨れる変形が生じた。
【0045】
比較例2
・形状は比較例1に同じ
・伝達部材20に焼入れ処理
【0046】
比較例2では、杭に過大な打撃力が負荷され、杭の開口部近傍が外方に膨れる変形が比較例1よりも顕著に表れた。
【0047】
比較例3(
図5(B))
・第1実施形態の杭打ち治具1の構成のうち、テーパー部22と打撃部材10との境界部20aの外径が位置決め部材30の外径より小さい形状
【0048】
比較例3では、20回程度の打撃でテーパー部22が境界部20a近傍で変形し、安定した杭打ち作業ができなくなった。
【0049】
比較例4(
図5(D))
・第1実施形態の杭打ち治具1の構成のうち、テーパー部22と打撃部材10との境界部20aの外径が位置決め部材30の外径より大きい形状
【0050】
比較例4では、杭の開口部近傍が外方に膨れる変形が表れ、テーパー部22の奏する効果が低減した。
【0051】
第1実施形態の杭打ち治具(
図2)を用いた場合、杭は変形することなく打ち込み可能で、杭打ち治具にも変形は生じなかった。これにより、本発明の杭打ち治具が奏する効果が確認された。
【符号の説明】
【0052】
1、2…杭打ち治具
10…打撃部材
10a…打撃面
10b…凹部
20…伝達部材
20a…境界部
21…係止部
22…テーパー部
22a…略円錐面
30…位置決め部材
40…伝達部材
40a…打撃面
41…係止部
42…テーパー部
42a…略円錐面
43…高硬度部
50…位置決め部材
K…杭
K1…杭の開口端部