【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は、本実施例により何ら限定されるものではない。
【0038】
実施例で用いる化合物について以下の記載では次の略語を用いる。
LiFSI:リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド
LiTFSI:リチウムビス(フルオロメタンスルホニル)イミド
SBP−FSI:5−アゾニアスピロ[4,4]ノナンビス(フルオロスルホニル)イミド
SBP−BF4:5−アゾニアスピロ[4,4]ノナンテトラフルオロボレート
SBP−TFSI:5−アゾニアスピロ[4,4]ノナンビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
TMA−FSI:テトラメチルアンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミド
DMI−FSI:ジメチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド
DEDMA−FSI:ジエチルジメチルアンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミド
DEDMA−TFSI:ジエチルジメチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
DMI−FSI:ジメチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド
【0039】
(実施例1)
この実施例では、以下のようにして、LiFSIとSBP−FSIとを混合してなるイオン液体を製造した(モル比、3:7)。
【0040】
<5−アゾニアスピロ[4,4]ノナンビス(フルオロスルホニル)イミド(SBP−FSI)の調製>
アルゴン置換した500ml、4つ口フラスコに公知の方法で製造したSBP−Cl(5−アゾニアスピロ[4.4]ノナンクロライド)50g(0.309mol)を投入し、純水150gに溶解させた。そこに三菱マテリアル電子化成(株)製カリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(KFSI)67.8g(0.309mol)を投入し、70℃で30分間攪拌を行い、その後室温まで冷却した。そこに酢酸エチル120gを投入し、合成したSBP−FSIを有機層に抽出した。混合液を1L、分液ロートに移し変え、分液ロートにて純水150gで5回洗浄を繰り返した。洗浄後の有機層、すなわちSBP−FSIの酢酸エチル溶液を300ml、4つ口フラスコに移し替え、酢酸エチルを350mmHgにて減圧留去した。次いで、常圧に戻し、イソプロピルアルコール100gを投入して再結晶し、SBP−FSIのイソプロピルアルコール湿結晶を得た。露点−40℃以下に管理されたドライルームに設置した減圧乾燥機にて、この湿結晶を10mmHg、80℃で8時間乾燥を行い、75.5gのSBP−FSIを得た(収率:80%)。
合成したSBP−FSIは、NMRを用いて同定を行った。
SBP−FSI
1H-NMR(CD3OD,TMS,300.4MHz)δ2.22(m,8H),δ3.55(m,8H)
19F-NMR(CD3CN,CFCl3,470.6MHz):δ56.6(s,2F)
【0041】
<イオン液体の調製>
露点−40℃以下に管理されたドライルーム内で200ml、4つ口フラスコにLiFSIとSBP−FSIとのモル比が3:7となるように日本触媒(株)製LiFSI粉末14.52g(0.181mol)と合成したSBP−FSI粉末55.48g(0.776mol)とを投入し、室温で緩やかに攪拌を行った。混合粉体は攪拌開始直後から緩やかに液状へ変化し、一晩攪拌後、均一な無色透明液体としてLiFSI−SBP−FSIのイオン液体(常温溶融塩)を得た。
【0042】
<粘度測定>
(株)トキメック製E型粘度計を用いた。まず、JS50標準液にて粘度計を校正した。その後、恒温槽を25℃に設定、装置に試料1mlを注入し、25℃における試料の粘度を測定した。
【0043】
<融点測定>
セイコーインスツルメンツ(株)製示差走査熱量分析DSC装置Exstar6000を用いた。試料1〜5mgを露点−40℃以下に管理されたドライルーム内でSUS316製容器に入れて密閉した。測定条件は30℃保持3minの後、400℃まで10℃/minで昇温させ、その際のリファレンスに対する熱量変化から融点を求めた。
図1は、DSC装置からの出力例である。
30℃以下で液状のものは−20℃恒温槽にて24時間保持して、液状を保持する場合は−20℃未満であると判断し(後述の表では「<−20」と表記)、液状を保持しない場合には−20℃〜30℃であると判定した(後述の表では「<30」と表記)。
【0044】
(実施例2〜18)
実施例1の場合と同様に、他の化合物を用いてイオン液体を製造し、評価した。なお、25℃において固体であるものについては粘度測定を行わなかった。そのようなイオン液体であっても、使用する温度領域によっては本発明の効果を享受することができるので、本発明の範囲内である。各イオン液体の製造にあたって用いた原料は以下のとおりである。なお、オニウムカチオンのハロゲン化物は公知の方法で製造したものを用いた。
LiTFSI:日本ソルベイ(株)製
KTFSI:三菱マテリアル電子化成(株)製
【0045】
混合する前の単一の電解質の融点の測定結果を表1に示す。
【表1】
【0046】
各実施例におけるイオン液体の測定結果を以下の各表に示す。表2〜6はLiFSI−オニウムFSIのイオン液体の測定結果である。
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
【0049】
【表5】
【0050】
【表6】
【0051】
表7はLiTFSI−オニウムFSIのイオン液体の測定結果である。
【表7】
【0052】
表8はLiTFSI−オニウムTFSIのイオン液体の測定結果である。
【表8】
【0053】
表9はLiFSI−オニウムBF4のイオン液体の測定結果である。
【表9】
【0054】
表10〜表11は3成分系のイオン液体の測定結果である。
【表10】
【0055】
【表11】
【0056】
<リニアスイープボルタンメトリー測定>
以下の要領で、実施例2のイオン液体の電位窓をリニアスイープボルタンメトリーで測定した。
【0057】
(還元側電位窓測定)
25℃±1℃の恒温槽内で、北斗電工製電気化学測定システム「HZ−5000」を用いて、イオン液体還元側のリニアスイープボルタンメトリーを測定した。測定は3極式セル(対極:Li、参照極:Li、作用極:Ni)を使用した。作用極の面積は0.8cm
2で、電圧掃引速度1mV/sで実施した。測定結果を
図2に示す。符号11のカーブが還元側の測定結果である。
【0058】
(酸化側電位窓測定)
25℃±1℃の恒温槽内で、北斗電工製電気化学測定システム「HZ−5000」を用いて、イオン液体酸化側のリニアスイープボルタンメトリーを測定した。測定は3極式セル(対極:Li、参照極:Li、作用極:カーボンブラック)を使用した。作用極の面積は0.8cm
2で、電圧掃引速度1mV/sで実施した。測定結果を
図2に示す。符号12のカーブが酸化側の測定結果である。
【0059】
図2に示すとおり、本発明のイオン液体は、広範囲の電位で分解が観測されず、電気化学的に安定であることが確認された。
【0060】
<二次電池の作製>
(正極の作製)
正極活物質であるLiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2を173g、導電材としてアセチレンブラック(電気化学工業社製、商品名デンカブラック)を7.79g、炭素繊維(昭和電工社製、商品名VGCF)を3.89g、バインダーとしてPVdFを9.73g、分散媒としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を130g、それぞれをミキサーで混合し、固形分60%の正極塗工液を調製した。この塗工液を塗工機で厚み20μmのアルミニウム箔上にコーティングし、80℃で乾燥後、ロールプレス処理を行い、正極活物質重量7.4mg/cm
2の正極を得た。
【0061】
(負極の作製)
負極活物質であるグラファイトを123g、導電材としてアセチレンブラック(電気化学工業社製、商品名デンカブラック)を1.28g、バインダーとしてカルボキシメチルセルロース(CMC)を12.8g、スチレンブタジエンゴム(SBR)を12.8g、分散媒として純水を105g、それぞれをミキサーで混合し、固形分55%の負極塗工液を調製した。この塗工液を塗工機で厚み18μmの銅箔上にコーティングし、80℃で乾燥後、ロールプレス処理を行い、負極活物質重量3.4mg/cm
2の負極を得た。
【0062】
(コイン型電池)
電池評価は宝泉(株)製2032規格ステンレス製コインセルにて評価を行った。作製したコイン型電池10の断面図を
図3に示す。正極1には、露点−40℃以下に管理されたドライルーム内にて作成した正極をφ14に打ち抜いた。次に作成した負極2をφ16に打ち抜いた。正極1には正極集電体1aをもち、負極2には負極集電体2aをもつ。同様にポリエチレン系セパレータ7をφ19に打ち抜き、負極2、セパレータ7、ガスケット6、正極1、ステンレススペーサ(1mm)板バネの順で組み合わせた。そこに電解液3として上記各実施例で得られたイオン液体を0.4μl注液した後、−0.09MPaにて1時間電解液を減圧含浸した。これらの発電要素をステンレス製のケース(正極ケース4と負極ケース5から構成されている)中に収納した。正極ケース4と負極ケース5とは正極端子と負極端子とを兼ねている。正極ケース4と負極ケース5との間にはポリプロピレン製のガスケット6を介装することで密閉性と正極ケース4と負極ケース5との間の絶縁性とを担保している。その後かしめ機にてセルを封止し、評価用二次電池セルとした。
【0063】
(充放電サイクル試験)
充放電試験装置を用いて、上限電圧を4.2V、下限電圧を2.7Vに規定し、初回充電を0.1C時間率、初回放電を0.1C時間率で実施した後、1C充電と1C放電による充放電サイクルを50サイクル繰り返した。初回の1C放電容量と比較し、50サイクル目の容量保持率を求めた。
【0064】
(放電レート試験)
充放電試験装置を用いて、上限電圧を4.2V、下限電圧を2.7Vに規定し、充電を0.1C時間率に規定し、放電レートを0.1C、0.2C、0.5C、1C、2C、3C、5C、10Cに規定し、急速放電時の発現容量の確認を行った。
【0065】
各実施例の二次電池で用いたイオン液体は以下のとおりである。
二次電池 イオン液体
実施例19 実施例1
実施例20 実施例2
実施例21 実施例3
実施例22 実施例6
実施例23 実施例7
実施例24 実施例8
実施例25 実施例9
実施例26 実施例11
実施例27 実施例12
実施例28 実施例13
実施例29 実施例14
実施例30 実施例15
実施例31 実施例17
【0066】
表12は、充放電サイクル試験結果を表す。
【表12】
【0067】
本発明のイオン液体を用いたリチウムイオン二次電池は、60℃の電池駆動温度において、20℃駆動時と同等のサイクル容量維持率とより良好な放電容量を得ることができる。
【0068】
図4は実施例19〜21の二次電池についての、20℃における放電レート試験結果を表す。
本発明のイオン液体を用いたリチウムイオン二次電池は、20℃の1Cレート放電において良好な放電容量を発現させることができる。また、実施例19、20、21の比較では、実施例21の電池で最も良いレート特性が得られる。粘度の低い実施例1のイオン液体を用いた実施例19の電池よりも、粘度の高いLi塩のモル比の高い実施例3のイオン液体のレート特性が良好な結果を得られる。本発明のイオン液体は、常温〜中温領域の広い温度範囲で良好な耐久性とレート特性で駆動する二次電池用の電解液として有用である。