特許第6671079号(P6671079)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6671079
(24)【登録日】2020年3月5日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】イオン液体、その製造方法及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C07C 303/40 20060101AFI20200316BHJP
   C07C 311/48 20060101ALI20200316BHJP
   C07C 211/63 20060101ALI20200316BHJP
   C07C 209/68 20060101ALI20200316BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20200316BHJP
   H01G 11/62 20130101ALI20200316BHJP
【FI】
   C07C303/40
   C07C311/48
   C07C211/63
   C07C209/68
   H01M10/0568
   H01G11/62
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-561891(P2016-561891)
(86)(22)【出願日】2015年11月24日
(86)【国際出願番号】JP2015082916
(87)【国際公開番号】WO2016084792
(87)【国際公開日】20160602
【審査請求日】2018年10月15日
(31)【優先権主張番号】特願2014-242571(P2014-242571)
(32)【優先日】2014年11月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】513244753
【氏名又は名称】カーリットホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119378
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】国府 英司
(72)【発明者】
【氏名】高田 照久
(72)【発明者】
【氏名】千葉 一美
【審査官】 水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−531415(JP,A)
【文献】 特開2005−139100(JP,A)
【文献】 Quian Zhou et al.,Phase Behavior of Ionic Liquid-LiX Mixtures: Pyrrolidinium Cations and TFSI- Anions - Linking Struct,Chemistry of Materials,2011年,23(19),4331-4337
【文献】 S. Ono et al.,High-performance organic field-effect transistors with binary ionic liquids,Organic Electronics,2009年,10(8),1579-1582
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C,C07D,H01M
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が50℃以上であるオニウム塩と、融点が50℃以上であるアルカリ金属塩と、を混合することを特徴とする、元のオニウム塩及びアルカリ金属塩の両者の融点よりも低くかつ100℃以下の融点を有するイオン液体の製造方法であって、
前記オニウム塩におけるオニウムカチオンは、テトラメチルアンモニウムカチオン、エチルトリメチルアンモニウムカチオン、ジエチルジメチルアンモニウムカチオン、5−アゾニアスピロ[4,4]ノナンカチオン及びジメチルイミダゾリウムカチオンからなる群から選ばれ、
前記オニウム塩におけるアニオンは、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン、ビス(フルオロメタンスルホニル)イミドアニオン及びBFからなる群から選ばれ、
前記アルカリ金属塩は、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド及びリチウムビス(フルオロメタンスルホニル)イミドからなる群から選ばれる、
上記製造方法
【請求項2】
上記混合における上記アルカリ金属塩のモル量(M)とオニウム塩のモル量(M)との比M/Mが1/9〜7/3である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
融点が50℃以上であるオニウム塩と、融点が50℃以上であるアルカリ金属塩と、の混合物からなり、元のオニウム塩及びアルカリ金属塩の両者の融点よりも低くかつ100℃以下の融点を有するイオン液体であって、
前記オニウム塩におけるオニウムカチオンは、テトラメチルアンモニウムカチオン、エチルトリメチルアンモニウムカチオン、ジエチルジメチルアンモニウムカチオン、5−アゾニアスピロ[4,4]ノナンカチオン及びジメチルイミダゾリウムカチオンからなる群から選ばれ、
前記オニウム塩におけるアニオンは、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン、ビス(フルオロメタンスルホニル)イミドアニオン及びBFからなる群から選ばれ、
前記アルカリ金属塩は、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド及びリチウムビス(フルオロメタンスルホニル)イミドからなる群から選ばれる、
上記イオン液体
【請求項4】
上記混合物のほかは融点が50℃未満である物質を含有しない請求項記載のイオン液体。
【請求項5】
電池の電解液、有機反応溶媒、抽出溶媒またはキャパシタの電解液である請求項3又は4記載のイオン液体。
【請求項6】
請求項3又は4記載のイオン液体を電解液として有する二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は日本で出願された特許出願、特願2014−242571に基づくものであり、その開示は参照することにより本明細書に含まれるものである。
本発明は、アルカリ金属塩とオニウム塩とを混合してなるイオン液体、その製造方法、及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン液体は、従来の電解質系とは異なるユニークな特性をもつ電池電解質としての可能性や、有機・無機反応、触媒反応、生化学的反応、液−液抽出分離における環境負荷の小さい溶媒としての可能性などが検討されている。例えば、オニウム塩からなる融点の低い化合物からなるイオン液体を溶媒として含有し、この溶媒にアルカリ金属塩を溶解させてなる電解液を用いた二次電池が知られている。
【0003】
特許文献1には、リチウム塩を含む非水電解液を備えるリチウム二次電池が開示されている。この非水電解液は、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンをアニオン成分として含むイオン液体を含有する。このイオン液体は室温で液状であって、溶媒として用いられている。
【0004】
特許文献2には、融点が50℃以下であるイオン性液体と、このイオン性液体より貴な電位で還元分解される化合物と、リチウム塩とを含んでなることを特徴とする非水電解質及びそれを用いた二次電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−207675号公報
【特許文献2】特開2004−146346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
先行技術におけるイオン液体は化合物それ自体の融点が低いものであって、一般的には分子の対称性が低い傾向にあり、イオン伝導性が高いとは必ずしもいいがたい。このことを考慮し、本発明は、イオン伝導性が高い分子を用いて得られる融点の低いイオン液体、その製造方法、及び、当該イオン液体の種々の用途の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討した結果、以下の内容の本発明を完成した。
本発明の製造方法は、融点が50℃以上であるオニウム塩と、融点が50℃以上であるアルカリ金属塩と、を混合することを特徴とし、本発明の製造方法では、元のオニウム塩及びアルカリ金属塩の両者の融点よりも低くかつ100℃以下の融点を有するイオン液体を得る。
上記アルカリ金属塩は好ましくはリチウム塩である。
上記オニウム塩におけるオニウムカチオンは、好ましくは第四級アンモニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン又はイミダゾリウムカチオンである。
【0008】
オニウムカチオンは好ましくは下記式(1)
【化1】
で表される第四級アンモニウムカチオンである。但し、4つのRは好ましくは各々独立に炭素数1又は2のアルキル基である。
【0009】
別途、好ましくは、オニウムカチオンは下記式(2)
【化2】
で表されるピロリジニウムカチオン又はピペリジニウムカチオンである。但し、nは4又は5である。2つのRは好ましくは各々独立に炭素数1又は2のアルキル基であるか、あるいは、2つのRが結合して炭素数4又は5のアルキレン基を形成している。
【0010】
別途、好ましくは、オニウムカチオンは下記式(3)
【化3】
で表されるイミダゾリウムカチオンである。但し、Zは好ましくは水素原子又はメチル基であり、2つのRは好ましくは各々独立に炭素数1又は2のアルキル基である。
【0011】
混合する際、上記アルカリ金属塩のモル量(M)とオニウム塩のモル量(M)との比率について、好ましくはM/Mが1/9〜7/3の範囲である。
【0012】
上述する製造方法により得られるイオン液体もまた本発明の実施の一形態である。換言すると、本発明のイオン液体は、融点が50℃以上であるオニウム塩と、融点が50℃以上であるアルカリ金属塩と、の混合物からなり、元のオニウム塩及びアルカリ金属塩の両者の融点よりも低くかつ100℃以下の融点を有する。このイオン液体は好ましくは溶媒を含有しない。ここで、溶媒は、上記混合物の化合物であって融点が50℃未満であるものを指す。
【0013】
本発明のイオン液体は、電池の電解液、有機反応溶媒または抽出溶媒として有用であり、このイオン液体を有するデバイスもまた本発明の実施の一形態である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、2成分以上の電解質を混合することにより、各成分の融点よりも低い融点をもつイオン液体が得られる。本発明によれば、単一物質としてはイオン液体にはならないオニウム塩を用いたイオン液体が提供できる。一般的に、高い融点をもつオニウム塩は、低分子量で分子の対称性がよく、結晶性に優れていて、溶媒に溶解した場合に、優れたイオン伝導性を示すが、結晶性が高いため、単体でイオン液体とすることが難しかった。また、高い融点をもつオニウム塩は、常温でアルカリ金属塩を溶解しにくいため、常温で駆動可能な二次電池として用いることは困難と考えられていた。
本発明によれば、原料として用いるオニウム塩自体が高融点であっても、融点の低いイオン液体が得られる。このようにして得られるイオン液体は、使用するカチオンの分子量が小さいため、粘性も低くなる傾向があり、融点が低い溶融塩であるため、例えば常温で1mS/cmを超える高いイオン伝導度を達成し得る。本発明によって得られる溶融塩は混合組成によっては、0℃以下の低温でも液状を保つことができる。
本発明により得られたイオン液体を電解液として用いた二次電池は、電解液が低粘度・高イオン伝導度を呈するため、常温においても良好なレート特性を有し、かつ溶媒を用いなくてもよいので、揮発性がなく、難燃であり、安全性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】DSC装置による測定出力例である。
図2】実施例のイオン液体についての、リニアスイープボルタンメトリーの測定出力を表す。
図3】実施例のコイン型電池の構成を示す断面図である。
図4】実施例の二次電池についての、放電レート試験結果を表す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を適宜参照しながら本発明を説明する。図面は例示のために参照するのであって、本発明は図面の記載に限定されない。
【0017】
本発明では、オニウム塩とアルカリ金属塩とが混合される。
本発明では、オニウム塩は融点が50℃以上であるものが用いられ、アルカリ金属塩も融点が50℃以上であるものが用いられる。イオン液体はイオン(アニオン、カチオン)からなる液体の塩であり、本発明では融点が100℃以下のものをイオン液体と呼ぶ。イオン液体の融点は好ましくは65℃以下であり、より好ましくは、30℃以下である。本発明で得るイオン液体は、用いたオニウム塩の融点よりも融点が低く、また、用いたアルカリ金属の融点よりも融点が低い。
【0018】
(オニウム塩)
本発明では融点が50℃以上であるオニウム塩を用いる。好適には、オニウムカチオン部分の分子量(式量)が150以下である。概略的には、分子が小さいことは、粘度が低くなり、導電性が高くなりがちであるが、分子が小さく分子構造の対称性が高いことは、固化する際の結晶性が高くなる傾向があるから、単一のオニウム塩での融点は高くなる。よって、小分子量のオニウム塩を混合してイオン液体化することは、得られるイオン液体の粘性の低下、導電性向上等に有効である。この観点からオニウム塩の融点は50℃以上であり、好ましくは55℃以上であり、より好ましくは90℃以上であり、さらに好ましくは150℃以上である。オニウム塩の融点の上限値は特に限定は無く、例えば400℃などが挙げられる。オニウムカチオン部分の分子量(式量)は好ましくは150以下、より好ましくは120以下であり、前記分子量(式量)の下限値は特に限定は無く、例えば70である。
【0019】
オニウム塩におけるカチオンは、好ましくは、第四級アンモニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン又はイミダゾリウムカチオンである。
【0020】
上記第四級アンモニウムカチオンは、好適には、上記式(1)で表されるカチオンである。式(1)における4つのRは各々独立に炭素数1又は2のアルキル基であり、分子構造の対称性の高さから好ましくは4つのRは全て同じアルキル基である。
【0021】
上記ピロリジニウムカチオン及び上記ピペリジニウムカチオンは、好適には、上記式(2)で表されるカチオンである。式(2)において、n=4である場合がピロリジニウムカチオンであり、n=5である場合がピペリジニウムカチオンである。式(2)における2つのRは各々独立に炭素数1又は2のアルキル基であるか、あるいは、2つのRが結合して炭素数4又は5のアルキレン基を形成する。分子構造の対称性の高さから好ましくは2つのRは同じアルキル基である。
【0022】
上記イミダゾリウムカチオンは、好適には、上記式(3)で表されるカチオンである。式(3)におけるZは水素原子又はメチル基である。式(3)における2つのRは各々独立に炭素数1又は2のアルキル基である。分子構造の対称性の高さから好ましくは2つのRは同じアルキル基である。
【0023】
これら好適なオニウムカチオンのより具体的な例として、非限定的に、テトラメチルアンモニウムカチオン、エチルトリメチルアンモニウムカチオン、ジエチルジメチルアンモニウムカチオン、トリエチルメチルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、ジメチルピロリジニウムカチオン、エチルメチルピロリジニウムカチオン、ジエチルピロリジニウムカチオン、ジメチルピぺリジニウムカチオン、エチルメチルピぺリジニウムカチオン、ジエチルピぺリジニウムカチオン、ジメチルイミダゾリウムカチオン、トリメチルイミダゾリウムカチオン、アゾニアスピロ[4.4]カチオン、アゾニアスピロ[4.5]カチオン、アゾニアスピロ[5,5]カチオン等が挙げられる。
【0024】
オニウム塩におけるアニオンは特に限定は無く、非限定的に、F、Cl、Br、I、N(FSO、N(FSO)(CFSO、N(CFSO、N(CFCFSO、N(CSO、CFSO、CFCFSO、PF、BF、ClO、AsF等が挙げられる。
これらの中でもアゾニアスピロ[4.4]ノナンカチオン又はジエチルジメチルアンモニウムカチオンと、N(FSO、N(CFSO、BFから選ばれる1種と、の組み合わせが溶融塩の粘度をより下げられる点から好ましく挙げられる。
【0025】
オニウム塩の入手については、市販品を用いてもよいし、従来公知の製造方法を適宜参照してもよいし、例えば、後述の実施例に記載するように、所望のオニウムカチオンのハロゲン化物等と所望のアニオンのアルカリ金属塩等とを水溶液下で混合して、その後、有機溶媒で所望のオニウム塩を抽出してもよい。合成によりオニウム塩を得た場合には、再結晶法等による精製や、減圧乾燥などを施してもよい。
【0026】
(アルカリ金属塩)
アルカリ金属塩におけるアルカリ金属カチオンとしては、リチウムカチオン、ナトリウムカチオン、カリウムカチオン等が挙げられる。本発明では、融点が50℃以上のアルカリ金属塩を用いる。通常のアルカリ金属塩の融点は50℃以上であり、これらを特に限定無く用いることができる。
【0027】
アニオンとしては、F、Cl、Br、I、N(FSO、N(FSO)(CFSO、N(CFSO、N(CFCFSO、N(CSO、CFSO、CFCFSO、PF、BF、ClO、AsF等が挙げられる。これらの中でも特に、N(FSO、N(CFSO、BFが溶融塩の粘度をより下げられる点から好ましく挙げられる。
【0028】
アルカリ金属塩は市販品等をそのまま用いてもよいし、従来技術を適宜参照して製造してもよい。
【0029】
(混合工程)
本発明では、上述のオニウム塩とアルカリ金属塩とを混合してイオン液体を得る。混合においては、オニウム塩と金属塩とが化学的に接触し得るようにすればよく、例えば、乾式混合であってもよいし、適宜な溶媒等を用いた湿式混合であってもよい。湿式混合の場合は、好ましくは、混合後に溶媒を留去させる。本発明では、混合により、元のオニウム塩よりも低融点であり、かつ、元のアルカリ金属塩よりも低融点であり、さらに融点が100℃以下である混合物を得る。具体的な混合工程の非限定的な例は後述の実施例に記載する。
【0030】
オニウム塩とアルカリ金属塩との混合により、低融点のイオン液体を得る際における、両塩の比率についての好適範囲は以下のとおりである。アルカリ金属塩のモル量(M)とオニウム塩のモル量(M)との比率は、好ましくは、M/Mが1/9〜7/3の範囲である。前記範囲内で、混合物の融点が効果的に低下することを本発明者らは見出した。
【0031】
本発明では、オニウム塩及び/又はアルカリ金属塩は、二種以上を混合してもよい。換言すると、例えば、二種のオニウム塩と一種のアルカリ金属塩とを混合することにより「三成分系」のイオン液体を得ることができる。
【0032】
(イオン液体)
このようにして得られるイオン液体もまた本発明の実施の一形態である。換言すると、本発明のイオン液体は、融点が50℃以上であるオニウム塩と、融点が50℃以上であるアルカリ金属塩と、の混合物からなり、元のオニウム塩及びアルカリ金属塩の両者の融点よりも低くかつ100℃以下の融点を有する。本発明のイオン液体は好ましくは溶媒を含まない。ここで、「溶媒」は上記混合物以外の物質であって融点が50℃未満であるものをいう。溶媒を含まないことにより、イオン液体そのものの利点をより実効あらしめることができる。
【0033】
本発明のイオン液体には、上述のオニウム塩とアルカリ金属との混合物に加えて、必ずしも好ましいとはいえないが、他の成分が含まれていてもよい。そのような他の成分としては、非限定的に、アセトニトリル、エチレンカーボネート、スルホラン、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ビニレンカーボネートなどが挙げられる。上述のオニウム塩とアルカリ金属塩とを混合してなる塩が本発明のイオン液体に占める割合は、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上である。もっとも好ましくは、イオン液体は上述のオニウム塩とアルカリ金属塩とを混合してなるもののみからなる。
【0034】
本発明では、イオン液体は、好適には電池の電解質、電解液として単独又は溶媒と混合して用いられる。電池としては一次電池であっても二次電池であってもよく、例えばリチウムイオン電池が挙げられる。用いることのできる溶媒は特に限定は無く、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、ジメトキシエタン、酢酸メチル、蟻酸メチル等の公知の非水有機溶媒が非限定的に挙げられる。本発明では、電解質として上述のイオン液体を用いてもよいし、これをポリマーマトリックスで固定したゲル電解質として用いてもよい。リチウムイオン二次電池等の電池の具体的な構造は従来技術を適宜参照することができ、例えば、電池の正極、負極、セパレータなどは、公知のものをそのまま使用してもよいし、電池の形状としては、例えば、円筒型、角型、コイン型、フィルム状等を挙げることができる。より具体的には、負極材料として、例えば、リチウム金属およびその合金、リチウムをドープ・脱ドープできる炭素材料や高分子材料、金属酸化物などのリチウムインターカレート化合物等が挙げられ、正極材料として、例えば、LiCoO,LiNiO,LiMn,LiMnOなどのリチウムと遷移金属の複合酸化物や、高分子材料等が挙げられる。セパレータとしては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等の高分子材料の多孔膜などが挙げられる。集電体の材料としては、例えば、銅、アルミ、ステンレススチール、チタン、ニッケル、タングステン鋼、炭素材料等が用いられ、その形状は、箔、網、不織布、パンチドメタル等が挙げられる。後述の実施例ではコイン型電池の製造例が挙げられる。
【0035】
本発明では、イオン液体は、種々の有機合成反応の溶媒として用いることができる。上述のイオン液体は、水への溶解性が低く、例えば、水相及びイオン液体からなる二相系反応場を構築することもできる。本発明では、上述のイオン液体を、極性の低い有機溶媒/水/常温溶融塩からなる三相系反応場の構築のために用いてもよい。トルエン、酢酸エチル、ジエチルエーテル等の極性の低い有機溶媒に対してイオン液体は難溶性であるからである。なお、本発明では、イオン液体を反応溶媒として用い、しかる後に、分離精製用の抽出溶媒として利用してもよい。
【0036】
本発明では、上述のイオン液体を有機合成反応における分離精製用の抽出溶媒として用いてもよい。例えば、金属触媒等を用いた反応混合液から反応溶媒を留去し、得られる残渣にエーテル及びイオン液体を加えると、反応生成物をエーテル相に保持させ、金属触媒等はイオン液体に保持させることができる。このようにして二相系をつくると、生成物及び触媒の分離精製が極めて容易となる。本発明では、上述のイオン液体をメッキの電解液として利用してもよい。本発明で得られるイオン液体は耐熱性が高く、液体状態の温度範囲が広く、イオン伝導性が高いため、好適である。その他、本発明では、イオン液体を、電気二重層キャパシタ等のキャパシタ電解液、電気粘性流体、蓄熱媒体、触媒などとして使用してもよい。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は、本実施例により何ら限定されるものではない。
【0038】
実施例で用いる化合物について以下の記載では次の略語を用いる。
LiFSI:リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド
LiTFSI:リチウムビス(フルオロメタンスルホニル)イミド
SBP−FSI:5−アゾニアスピロ[4,4]ノナンビス(フルオロスルホニル)イミド
SBP−BF4:5−アゾニアスピロ[4,4]ノナンテトラフルオロボレート
SBP−TFSI:5−アゾニアスピロ[4,4]ノナンビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
TMA−FSI:テトラメチルアンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミド
DMI−FSI:ジメチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド
DEDMA−FSI:ジエチルジメチルアンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミド
DEDMA−TFSI:ジエチルジメチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
DMI−FSI:ジメチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド
【0039】
(実施例1)
この実施例では、以下のようにして、LiFSIとSBP−FSIとを混合してなるイオン液体を製造した(モル比、3:7)。
【0040】
<5−アゾニアスピロ[4,4]ノナンビス(フルオロスルホニル)イミド(SBP−FSI)の調製>
アルゴン置換した500ml、4つ口フラスコに公知の方法で製造したSBP−Cl(5−アゾニアスピロ[4.4]ノナンクロライド)50g(0.309mol)を投入し、純水150gに溶解させた。そこに三菱マテリアル電子化成(株)製カリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(KFSI)67.8g(0.309mol)を投入し、70℃で30分間攪拌を行い、その後室温まで冷却した。そこに酢酸エチル120gを投入し、合成したSBP−FSIを有機層に抽出した。混合液を1L、分液ロートに移し変え、分液ロートにて純水150gで5回洗浄を繰り返した。洗浄後の有機層、すなわちSBP−FSIの酢酸エチル溶液を300ml、4つ口フラスコに移し替え、酢酸エチルを350mmHgにて減圧留去した。次いで、常圧に戻し、イソプロピルアルコール100gを投入して再結晶し、SBP−FSIのイソプロピルアルコール湿結晶を得た。露点−40℃以下に管理されたドライルームに設置した減圧乾燥機にて、この湿結晶を10mmHg、80℃で8時間乾燥を行い、75.5gのSBP−FSIを得た(収率:80%)。
合成したSBP−FSIは、NMRを用いて同定を行った。
SBP−FSI
1H-NMR(CD3OD,TMS,300.4MHz)δ2.22(m,8H),δ3.55(m,8H)
19F-NMR(CD3CN,CFCl3,470.6MHz):δ56.6(s,2F)
【0041】
<イオン液体の調製>
露点−40℃以下に管理されたドライルーム内で200ml、4つ口フラスコにLiFSIとSBP−FSIとのモル比が3:7となるように日本触媒(株)製LiFSI粉末14.52g(0.181mol)と合成したSBP−FSI粉末55.48g(0.776mol)とを投入し、室温で緩やかに攪拌を行った。混合粉体は攪拌開始直後から緩やかに液状へ変化し、一晩攪拌後、均一な無色透明液体としてLiFSI−SBP−FSIのイオン液体(常温溶融塩)を得た。
【0042】
<粘度測定>
(株)トキメック製E型粘度計を用いた。まず、JS50標準液にて粘度計を校正した。その後、恒温槽を25℃に設定、装置に試料1mlを注入し、25℃における試料の粘度を測定した。
【0043】
<融点測定>
セイコーインスツルメンツ(株)製示差走査熱量分析DSC装置Exstar6000を用いた。試料1〜5mgを露点−40℃以下に管理されたドライルーム内でSUS316製容器に入れて密閉した。測定条件は30℃保持3minの後、400℃まで10℃/minで昇温させ、その際のリファレンスに対する熱量変化から融点を求めた。図1は、DSC装置からの出力例である。
30℃以下で液状のものは−20℃恒温槽にて24時間保持して、液状を保持する場合は−20℃未満であると判断し(後述の表では「<−20」と表記)、液状を保持しない場合には−20℃〜30℃であると判定した(後述の表では「<30」と表記)。
【0044】
(実施例2〜18)
実施例1の場合と同様に、他の化合物を用いてイオン液体を製造し、評価した。なお、25℃において固体であるものについては粘度測定を行わなかった。そのようなイオン液体であっても、使用する温度領域によっては本発明の効果を享受することができるので、本発明の範囲内である。各イオン液体の製造にあたって用いた原料は以下のとおりである。なお、オニウムカチオンのハロゲン化物は公知の方法で製造したものを用いた。
LiTFSI:日本ソルベイ(株)製
KTFSI:三菱マテリアル電子化成(株)製
【0045】
混合する前の単一の電解質の融点の測定結果を表1に示す。
【表1】
【0046】
各実施例におけるイオン液体の測定結果を以下の各表に示す。表2〜6はLiFSI−オニウムFSIのイオン液体の測定結果である。
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
【0049】
【表5】
【0050】
【表6】
【0051】
表7はLiTFSI−オニウムFSIのイオン液体の測定結果である。
【表7】
【0052】
表8はLiTFSI−オニウムTFSIのイオン液体の測定結果である。
【表8】
【0053】
表9はLiFSI−オニウムBF4のイオン液体の測定結果である。
【表9】
【0054】
表10〜表11は3成分系のイオン液体の測定結果である。
【表10】
【0055】
【表11】
【0056】
<リニアスイープボルタンメトリー測定>
以下の要領で、実施例2のイオン液体の電位窓をリニアスイープボルタンメトリーで測定した。
【0057】
(還元側電位窓測定)
25℃±1℃の恒温槽内で、北斗電工製電気化学測定システム「HZ−5000」を用いて、イオン液体還元側のリニアスイープボルタンメトリーを測定した。測定は3極式セル(対極:Li、参照極:Li、作用極:Ni)を使用した。作用極の面積は0.8cmで、電圧掃引速度1mV/sで実施した。測定結果を図2に示す。符号11のカーブが還元側の測定結果である。
【0058】
(酸化側電位窓測定)
25℃±1℃の恒温槽内で、北斗電工製電気化学測定システム「HZ−5000」を用いて、イオン液体酸化側のリニアスイープボルタンメトリーを測定した。測定は3極式セル(対極:Li、参照極:Li、作用極:カーボンブラック)を使用した。作用極の面積は0.8cmで、電圧掃引速度1mV/sで実施した。測定結果を図2に示す。符号12のカーブが酸化側の測定結果である。
【0059】
図2に示すとおり、本発明のイオン液体は、広範囲の電位で分解が観測されず、電気化学的に安定であることが確認された。
【0060】
<二次電池の作製>
(正極の作製)
正極活物質であるLiNi1/3Co1/3Mn1/3を173g、導電材としてアセチレンブラック(電気化学工業社製、商品名デンカブラック)を7.79g、炭素繊維(昭和電工社製、商品名VGCF)を3.89g、バインダーとしてPVdFを9.73g、分散媒としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を130g、それぞれをミキサーで混合し、固形分60%の正極塗工液を調製した。この塗工液を塗工機で厚み20μmのアルミニウム箔上にコーティングし、80℃で乾燥後、ロールプレス処理を行い、正極活物質重量7.4mg/cmの正極を得た。
【0061】
(負極の作製)
負極活物質であるグラファイトを123g、導電材としてアセチレンブラック(電気化学工業社製、商品名デンカブラック)を1.28g、バインダーとしてカルボキシメチルセルロース(CMC)を12.8g、スチレンブタジエンゴム(SBR)を12.8g、分散媒として純水を105g、それぞれをミキサーで混合し、固形分55%の負極塗工液を調製した。この塗工液を塗工機で厚み18μmの銅箔上にコーティングし、80℃で乾燥後、ロールプレス処理を行い、負極活物質重量3.4mg/cmの負極を得た。
【0062】
(コイン型電池)
電池評価は宝泉(株)製2032規格ステンレス製コインセルにて評価を行った。作製したコイン型電池10の断面図を図3に示す。正極1には、露点−40℃以下に管理されたドライルーム内にて作成した正極をφ14に打ち抜いた。次に作成した負極2をφ16に打ち抜いた。正極1には正極集電体1aをもち、負極2には負極集電体2aをもつ。同様にポリエチレン系セパレータ7をφ19に打ち抜き、負極2、セパレータ7、ガスケット6、正極1、ステンレススペーサ(1mm)板バネの順で組み合わせた。そこに電解液3として上記各実施例で得られたイオン液体を0.4μl注液した後、−0.09MPaにて1時間電解液を減圧含浸した。これらの発電要素をステンレス製のケース(正極ケース4と負極ケース5から構成されている)中に収納した。正極ケース4と負極ケース5とは正極端子と負極端子とを兼ねている。正極ケース4と負極ケース5との間にはポリプロピレン製のガスケット6を介装することで密閉性と正極ケース4と負極ケース5との間の絶縁性とを担保している。その後かしめ機にてセルを封止し、評価用二次電池セルとした。
【0063】
(充放電サイクル試験)
充放電試験装置を用いて、上限電圧を4.2V、下限電圧を2.7Vに規定し、初回充電を0.1C時間率、初回放電を0.1C時間率で実施した後、1C充電と1C放電による充放電サイクルを50サイクル繰り返した。初回の1C放電容量と比較し、50サイクル目の容量保持率を求めた。
【0064】
(放電レート試験)
充放電試験装置を用いて、上限電圧を4.2V、下限電圧を2.7Vに規定し、充電を0.1C時間率に規定し、放電レートを0.1C、0.2C、0.5C、1C、2C、3C、5C、10Cに規定し、急速放電時の発現容量の確認を行った。
【0065】
各実施例の二次電池で用いたイオン液体は以下のとおりである。
二次電池 イオン液体
実施例19 実施例1
実施例20 実施例2
実施例21 実施例3
実施例22 実施例6
実施例23 実施例7
実施例24 実施例8
実施例25 実施例9
実施例26 実施例11
実施例27 実施例12
実施例28 実施例13
実施例29 実施例14
実施例30 実施例15
実施例31 実施例17
【0066】
表12は、充放電サイクル試験結果を表す。
【表12】
【0067】
本発明のイオン液体を用いたリチウムイオン二次電池は、60℃の電池駆動温度において、20℃駆動時と同等のサイクル容量維持率とより良好な放電容量を得ることができる。
【0068】
図4は実施例19〜21の二次電池についての、20℃における放電レート試験結果を表す。
本発明のイオン液体を用いたリチウムイオン二次電池は、20℃の1Cレート放電において良好な放電容量を発現させることができる。また、実施例19、20、21の比較では、実施例21の電池で最も良いレート特性が得られる。粘度の低い実施例1のイオン液体を用いた実施例19の電池よりも、粘度の高いLi塩のモル比の高い実施例3のイオン液体のレート特性が良好な結果を得られる。本発明のイオン液体は、常温〜中温領域の広い温度範囲で良好な耐久性とレート特性で駆動する二次電池用の電解液として有用である。
【符号の説明】
【0069】
1:正極 1a:正極集電体
2:負極 2a:負極集電体
3:電解液 4:正極ケース
5:負極ケース 6:ガスケット
7:セパレータ 10:コイン型電池
11:還元側のリニアスイープボルタンメトリーの測定結果
12:酸化側のリニアスイープボルタンメトリーの測定結果
図1
図2
図3
図4