【実施例】
【0013】
先ず、
図1に示した印刷機1は、ウェブ状の基材Wに対して、凹版印刷法を用いてインキを転写させることにより、高精細なパターンの機能性膜(導電膜)を形成することができる印刷機となっている。なお、被印刷材となる基材Wは、例えば、比較的薄板となるステンレス鋼板となっている。
【0014】
そこで、
図1に示すように、印刷機1には、繰出リール11及び巻取リール12が回転可能に支持されており、基材Wは、繰出リール11から巻取リール12に向けて搬送される途中で、印刷が施される。即ち、繰出リール11は、ロール状に巻き付けられた基材Wを、巻取リール12に向けて繰り出し可能となっている。一方、巻取リール12は、繰出リール11から繰り出された基材Wをロール状に巻き取り可能となっている。
【0015】
また、繰出リール11と巻取リール12との間における基材搬送経路の途中部分には、複数のガイドロール13、吸引ロール14、及び、バッファロール15が、基材搬送方向上流側から下流側に向けて順に配置されると共に、回転可能に支持されている。
【0016】
このうち、吸引ロール14は中空状をなしており、その中空部には、吸引ポンプ16が接続されている。そして、吸引ロール14の外周面には、複数の吸引孔が開口されており、これらの吸引孔は、中空部と連通している。更に、バッファロール15は、基材Wが吸引ロール14との間において弛むように、当該基材Wを支持しながら案内するものとなっている。
【0017】
つまり、繰出リール11から繰り出された基材Wは、ガイドロール13、吸引ロール14、及び、バッファロール15に案内された後、巻取ロール12に巻き取られる。このとき、吸引ポンプ16を駆動させることにより、吸引ロール14の吸引孔から空気を吸引することができるので、搬送される基材Wの裏面(被印刷面となる表面の反対側の面)を、その吸引ロール14の外周面に密着させることができる。
【0018】
これにより、吸引ロール14が基材Wを吸引しながら回転駆動すると、基材Wに対して、搬送方向下流側に向けた張力が作用することになる。よって、このように張力が付与された基材Wは、繰出リール11と吸引ロール14との間において、弛むこと無く、搬送される。
【0019】
更に、複数のガイドロール13のうち、基材搬送方向最下流側に位置するガイドロール13と、吸引ロール14との間には、支持台21が設けられている。この支持台21の上面には、基材搬送方向左右一対のガイドレール22が、基材搬送方向に延設されている。そして、その対をなすガイドレール22間における中央部には、見当調整装置(ステージ位置調整手段)23が設けられており、この見当調整装置23の上面には、ステージ24が設けられている。このとき、見当調整装置23及びステージ24は、基材搬送経路(基材Wのパスライン)よりも下方に配置されている。
【0020】
ステージ24は中空状をなしており、その中空部には、吸引ポンプ25が接続されている。そして、ステージ24の上面24aには、複数の吸引孔が開口されており、これらの吸引孔は、中空部と連通している。一方、見当調整装置23は、ステージ24における、基材搬送方向(基材長手方向)位置、基材搬送方向と直交する基材幅方向位置(左右方向)、及び、基材搬送方向に対する基材幅方向への傾斜角度(鉛直軸周りの回転角度)を、調整可能となっている。
【0021】
つまり、吸引ポンプ25を駆動させることにより、上面24aの吸引孔から空気を吸引することができるので、ステージ24の上方に供給された基材Wの裏面を、その上面24aに吸引保持することができる。そして、このように、基材Wの裏面をステージ24の上面24aに吸引保持すると、その被印刷面となる表面における被印刷部(被印刷範囲)は、ステージ24の上面24aに配置されることになる。
【0022】
また、見当調整装置23を駆動させることにより、後述する基材位置検出センサ60の検出結果に基づいて、ステージ24における上記3つの位置を調整することができる。これにより、後述する版胴32及びブランケット胴33に対して、上面24aに吸引保持された基材Wの見当を、適切に合せることができる。
【0023】
そして、左右一対のガイドレール22における基材搬送方向上流側には、胴支持用移動フレーム31が、ガイドレール22に沿って、往復移動可能に支持されている。この対をなして立設した胴支持用移動フレーム31間における上部には、ブランケット胴33が、回転可能で、且つ、その胴支持用スライドフレーム31に沿って昇降可能に支持されている。更に、胴支持用移動フレーム31の上方には、版胴32が回転可能に支持されている。
【0024】
即ち、ブランケット胴33は、外周面が版胴32の外周面と対接することができる待機位置と、外周面がステージ24の上面24aに対して転動することができる印刷位置との間において、昇降可能となっている。このとき、版胴32の外周面には、インキ供給装置(図示省略)によって、インキが供給可能となっている。
【0025】
なお、胴支持用移動フレーム31は、例えば、リニアモータ、ラックアンドピニオン、ボールねじ、及び、ロッドレスシリンダ等の移動機構によって、往復移動可能となっている。また、胴支持用移動フレーム31、版胴32、及び、ブランケット胴33は、パターン形成手段を構成するものとなっている。
【0026】
つまり、版胴32及びブランケット胴33を回転させて、ブランケット胴33を待機位置に移動させることにより、版胴32の外周面に巻き付けられた版に対応したインキを、ブランケット胴33の外周面に転写させることができる。
【0027】
一方、ブランケット胴33を印刷位置に位置決めした状態で、胴支持用移動フレーム31を基材搬送方向下流側に向けて移動させることにより、ブランケット胴33の外周面に供給されたインキを、上面24aに吸引保持された基材Wの表面における被印刷部に、転写させることができる。なお、ブランケット胴33によるインキの転写が完了すると、当該ブランケット33をステージ24の上面24aから上方に向けて退避させた後、胴支持用移動フレーム31を基材搬送方向上流側に向けて移動させる。
【0028】
これに対して、
図1乃至
図3に示すように、左右一対のガイドレール22における基材搬送方向下流側には、ロール支持用移動フレーム(移動部材)41が、ガイドレール22に沿って、往復移動可能に支持されている。この対をなして立設したロール支持用移動フレーム41の上端間は、連結板42によって連結されている。なお、ロール支持用移動フレーム41は、例えば、リニアモータ、ラックアンドピニオン、ボールねじ、及び、ロッドレスシリンダ等の移動機構によって、往復移動可能となっている。
【0029】
また、左右一対のロール支持用移動フレーム41の各内面には、固定板43の上端が、2つの固定ピン44を介して固定されており、これらの固定板43の下端間には、回転軸45が回転可能に支持されている。この回転軸45は、全体として、その回転軸方向と直交する横断面が矩形をなす角棒となるものの、固定板43に回転可能に支持される軸方向両端部における横断面が円形をなす丸棒となっている。
【0030】
更に、回転軸45には、左右一対のロール支持部材46の上端が、回転軸方向において位置調整可能に支持されている。このロール支持部材46は、基材幅方向から見た側面視において、L字状をなしている。そして、ロール支持部材46の下端には、貫通軸48が基材幅方向に貫通支持されており、この貫通軸48は、ナット49によって、その軸方向位置が固定されている。
【0031】
一方、ロール支持部材46の下端における内面には、ロール支持軸50が、貫通軸48に対して偏心するように装着されている。このとき、貫通軸48は、ロール支持部材46の下端を基材幅方向に貫通して、ロール支持軸50と連結しているため、そのロール支持軸50は、貫通軸48を回転中心として、回転可能となっている。そして、ロール支持軸50には、均しロール51が回転可能に支持されている。
【0032】
均しロール51は、ステージ24の上面24aに吸引保持された基材Wの中でも、その左右両端部Waのみに転がり接触して、これを押圧することにより、当該左右両端部Waに発生した変形を、伸ばして均すものとなっている。なお、均しロール51の外周部は、例えば、シリコンゴム、エステルゴム、ブチルゴム等のような、弾性を有する高分子材料から形成されている。
【0033】
つまり、ナット49を緩めて、貫通軸48のロール支持部材46に対する固定を解除することにより、ロール支持軸50を、貫通軸48に対して、偏心回転させることができる。これにより、均しロール51の高さ方向位置を変更することができる。一方、ナット49を締め付けて、貫通軸48をロール支持部材46に固定することにより、ロール支持軸50における貫通軸48を回転中心とした偏心回転を、規制することができる。これにより、均しロール51を高さ方向において位置決めすることができる。
【0034】
このように、均しロール51の高さ方向位置を変更することにより、均しロール51における左右両端部Waに対する押圧力を調整することができる。このとき、その押圧力は、例えば、基材Wの材質、板厚、及び、剛性等に応じて設定される。そして、均しロール51は、基材Wの左右両端部Waに転がり接触する際には、その左右両端部Waを基材幅方向に跨ぐようにそれらを押圧する。
【0035】
また、ロール支持部材46には、ハンドル部材47が回転可能に付設されている。このハンドル部材47のねじ軸部は、ロール支持部材46のねじ孔と螺合しつつ、これを貫通して、その先端面が回転軸45の外面と接触している。
【0036】
つまり、ハンドル部材47を回転操作して、ねじ軸部を緩めることにより、ロール支持部材46を回転軸方向に移動させることができる。一方、ハンドル部材47を回転操作して、ねじ軸部を締め付けることにより、ロール支持部材46を回転軸方向において位置決めすることができる。これにより、均しロール51の基材幅方向位置(回転軸方向位置)を、基材Wの幅寸法、即ち、基材Wにおける左右両端部Waの基材幅方向位置に応じて、調整することができる。
【0037】
更に、左右一対の固定板43のうち、左側(一方側)の固定板43の内面には、シリンダ支持軸52が固定されており、このシリンダ支持軸52には、エアシリンダ53の基端が上下方向に揺動可能に支持されている。エアシリンダ53は、伸縮可能となる駆動ロッド53aを有しており、その駆動ロッド53を伸縮させることによって、左右一対の均しロール51をステージ24の上面24aに対して同時に着脱させることが可能となっている。このとき、駆動ロッド53aのロッド先端は、レバー部材54の一端と連結されており、このレバー部材54の他端は、回転軸45と連結されている。
【0038】
つまり、
図3において実線で示すように、エアシリンダ53を駆動させて、駆動ロッド53aを伸長させることにより、レバー部材54の一端を下方に向けて回動させることができる。これにより、回転軸45が一方の回転方向に向けて回転するため、均しロール51を、外周面がステージ24の上面24aにおいて転動することができる均し位置まで、下降させることができる。
【0039】
一方、
図3において破線で示すように、エアシリンダ53を駆動させて、駆動ロッド53aを短縮させることにより、レバー部材54の一端を上方に向けて回動させることができる。これにより、回転軸45が他方の回転方向に向けて回転するため、均しロール51を、外周面がステージ24の上面24aから上方に退避した退避位置まで、上昇させることができる。
【0040】
そして、上述した構成をなすことにより、ロール支持用移動フレーム41の移動方向、及び、均しロール51の転動方向は、ステージ24の上面24aに吸引保持された基材Wにおける左右両端部Waの延在方向と一致することになる。
【0041】
これにより、均しロール51を均し位置に位置決めした状態で、ロール支持用移動フレーム41を基材搬送方向上流側に向けて移動させることにより、均しロール51を、上面24aに吸引保持された基材Wの中でも、左右両端部Waのみに転がり接触させることができる。よって、均しロール51による押圧力を、左右両端部Waのみに作用させることができるため、その左右両端部Waに発生した変形を、効率的に伸ばして均すことができる。
【0042】
なお、均しロール51による変形の均しが完了すると、当該均しロール51を退避位置に退避させた後、ロール支持用移動フレーム41を基材搬送方向下流側に向けて移動させる。
【0043】
更に、均しロール51の均し方向(均しロール51の均し動作時における転動方向)は、基材搬送方向下流側から上流側に向かう方向となっており、基材搬送方向と逆向きになるだけでなく、ブランケット胴33の印刷方向(ブランケット胴33の印刷動作時における転動方向)とも逆向きになっている。
【0044】
そして、ロール支持用移動フレーム41における均しロール51の基材搬送方向下流側、言い換えれば、ロール支持用移動フレーム41における均しロール51の均し方向上流側には、左右一対の基材位置検出センサ(基材位置検出手段)60が支持されている。この基材位置検出センサ60は、ステージ24の上面24aに吸着保持された基材Wを撮像し、当該基材Wの上面24aに対する位置を検出するものとなっている。
【0045】
従って、基材位置検出センサ60を、ロール支持用移動フレーム41が基材搬送方向上流側に向けて移動するのに伴って、均しロール51に追従させることができるので、均しロール51の均し動作が開始されると同時に、当該基材位置検出センサ60による検出を開始することができる。
【0046】
次に、印刷機1の動作について、
図1乃至
図3を参照しながら、詳細に説明する。
【0047】
先ず、ハンドル部材47を回転操作して、均しロール51の基材幅方向位置を、基材Wにおける左右両端部Waの基材幅方向位置に応じて設定する。また、ロール支持軸50を貫通軸48に対して偏心回転させて、均しロール51における基材Wに対する押圧力を、当該基材Wの材質、板厚、及び、剛性等に応じて設定する。
【0048】
次いで、繰出リール11から基材Wを所定長ずつ繰り出しながら、その繰り出した基材を、ガイドロール13、吸引ロール14、及び、バッファロール15によって案内させて、巻取リール12に巻き取る。これと同時に、吸引ポンプ16を駆動させて、吸引ロール14による吸引及び回転駆動によって生じる張力を、基材Wに付与する。
【0049】
そして、基材Wの表面における被印刷部が、ステージ24の上面24aにおける所定位置に搬送されると、吸引ポンプ25を駆動させて、基材Wをステージ24の上面24aに吸引保持する。
【0050】
このとき、ロール状に巻き付けられた基材Wを繰り出しながら、その基材Wに張力を付与すると、特に、その左右両端部Waに、皺やかえりのような、波状の変形が生じる場合がある。このような変形が生じると、基材Wを吸引保持しても、その変形部分がステージ24の上面24aに密着しないおそれがある。
【0051】
そこで、エアシリンダ53の駆動ロッド53aを伸長させて、均しロール51を均し位置に移動させる。続いて、ステージ24における基材搬送方向下流側に待機していたロール支持用移動フレーム41を、均しロール51がステージ24を基材搬送方向上流側に通り過ぎるまで、当該基材搬送方向上流側に向けて移動させる。
【0052】
これにより、均しロール51は、基材Wの左右両端部Waをその上方から押圧しながら、それらの表面上を転動するため、左右両端部Waに発生した変形は、伸ばし均されて平らになる。この結果、基材Wの左右両端部Waは、その裏面がステージ24の上面24aに隙間無く密着するように、当該上面24aに吸引保持される。
【0053】
これと同時に、基材位置検出センサ60は、ロール支持用移動フレーム41の移動に伴って、基材Wの上面24aに対する位置を検出する。
【0054】
次いで、エアシリンダ53の駆動ロッド53を短縮させて、均しロール51を退避位置に移動させる。続いて、ロール支持用移動フレーム41を基材搬送方向下流側に向けて移動させて、均しロール51を元の位置に復帰させる。
【0055】
なお、基材Wの左右両端部Waに発生した変形が、均しロール51による1回の均し動作によって、解消されない場合には、その変形が解消されるまで、上述した均し動作を行う。また、このような場合には、均しロール51を、均し位置に位置決めしたままの状態で、ロール支持用移動フレーム41を基材搬送方向下流側に向けて移動させても構わない。
【0056】
そして、基材位置検出センサ60によって検出された基材Wの位置に基づいて、見当調整装置23を駆動させて、ステージ24の上面24aに吸着保持された基材Wの見当を、版胴32及びブランケット胴33に合わせる。
【0057】
次いで、版胴32及びブランケット胴33を回転させた後、ブランケット胴33を待機位置まで上昇させる。これにより、ブランケット胴33が版胴32と対接することになり、インキは版胴32からブランケット胴33に転写される。
【0058】
そして、ブランケット胴33を印刷位置まで下降させた後、胴支持用移動フレーム31を基材搬送方向下流側に向けて移動させる。これにより、インキは、ブランケット胴33から基材Wの表面における被印刷部に転写されることになり、その被印刷部には、高精細なパターンの機能性膜が形成される。
【0059】
次いで、ブランケット胴33を上昇させて、ステージ24の上面24aから退避させた後、胴支持用移動フレーム31を基材搬送方向上流側に向けて移動させる。続いて、ブランケット胴33を待機位置に移動させておく。
【0060】
そして、吸引ポンプ25の駆動を停止して、基材Wを、ステージ24の上面24aによる吸引保持から解放する。
【0061】
更に、上述した動作を繰り返し行うことによって、基材Wの表面には、高精細なパターンの機能性膜が、所定の間隔で形成されることになる。
【0062】
従って、本発明に係る印刷機1によれば、ステージ24の上面24aに吸着保持したウェブ状の基材Wにおける左右両端部Waのみに対して、均しロール51を転がり接触させて、その左右両端部Waに発生した変形を伸ばして均した後、その変形が解消された基材Wに対して、インキを転写してパターンを形成することができる。これにより、印刷時における基材Wの吸引保持を確実に行うことができるので、印刷不良の発生を抑制することができる。
【0063】
また、基材位置検出センサ60を、均しロール51の均し方向上流側に設けることにより、均しロール51の均し動作を行うと同時に、基材位置検出センサ60の検出動作を行うことができる。これにより、均しロール51の均し動作が完了すると同時に、ステージ24の上面24aに吸引保持された基材Wの見当合わせを、行うことができる。よって、非印刷時間の短縮を図ることができるので、生産性の向上を図ることができる。
【0064】
なお、上述した実施形態においては、基材Wの左右両端部Waに発生した変形を、左右一対の均しロール51を用いて、同時に均すようにしているが、基材Wの左右両端部Waに発生した変形を、1つの均しローラを用いて、それぞれ片方ずつ均すようにしても構わない。ここで、基材Wの左右両端部Waに発生した変形を、1つの長尺な均しロールを用いて、同時に均すようにすることも考えられるが、このような構成を採用すると、変形が生じていない幅方向中央部までも、大きな押圧力で押圧することになり、その幅方向中央部の表面を傷付けてしまうおそれがある。従って、基材Wの左右両端部Waに発生した変形を均す場合には、左右一対の均しロール51を用いて同時に均すことが好適であると考えられる。