特許第6671129号(P6671129)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6671129シャント抵抗器の製造方法、および溶接済み板材の製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6671129
(24)【登録日】2020年3月5日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】シャント抵抗器の製造方法、および溶接済み板材の製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01C 17/28 20060101AFI20200316BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20200316BHJP
   B23K 26/082 20140101ALI20200316BHJP
   B23K 26/24 20140101ALI20200316BHJP
   H01C 13/00 20060101ALN20200316BHJP
【FI】
   H01C17/28
   B23K26/21 F
   B23K26/082
   B23K26/24
   !H01C13/00 J
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-181884(P2015-181884)
(22)【出願日】2015年9月15日
(65)【公開番号】特開2017-59625(P2017-59625A)
(43)【公開日】2017年3月23日
【審査請求日】2018年7月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227836
【氏名又は名称】日本アビオニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082223
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100094282
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 洋資
(72)【発明者】
【氏名】安藤 元彦
【審査官】 上谷 奈那
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/157435(WO,A1)
【文献】 特開2015−030011(JP,A)
【文献】 実開平06−034876(JP,U)
【文献】 特開平06−224014(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3118918(JP,U)
【文献】 特開2009−071123(JP,A)
【文献】 特開平08−215870(JP,A)
【文献】 特開2014−161909(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 17/28
B23K 26/082
B23K 26/21
B23K 26/24
H01C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ステージ上で長板状抵抗体の両側縁に一対の長板状端子板の側縁を突き合わせ、上からクランプ治具で押さえつつこれら突き合わせた端面を溶接予定ラインとし、この溶接予定ラインに沿って上方からレーザビームを走査させることによりシーム溶接した溶接板材からシャント抵抗部分を切り出して製造するシャント抵抗器の製造方法であって、
前記レーザビームをシングルモードかつ連続波形のファイバーレーザとし、
前記溶接予定ラインに沿ったスリット状の開口部が形成されかつ前記開口部の幅よりも厚い溶接ステージとクランプ治具との間に前記抵抗体および端子板をこれらの端面を互いに突き合わせ押圧し密着させつつ溶接ステージとクランプ治具との間に挟持し、
前記溶接ステージおよびクランプ治具に設けた前記溶接予定ラインに臨むスリット状の開口内に向かって前記溶接ステージおよびクランプ治具に設けた不活性ガス供給通路を通して不活性ガスを供給すると共に、前記ファイバーレーザの照射位置を前記溶接予定ラインを横断させるように振動させつつシーム溶接し、このシーム溶接した溶接済み板材からシャント抵抗部分を切り出すことを特徴とするシャント抵抗器の製造方法。
【請求項2】
ファイバーレーザの照射位置を溶接予定ラインに沿って中心が移動するループを描きながら移動させる請求項1のシャント抵抗器の製造方法。
【請求項3】
ファイバーレーザの照射位置を溶接予定ラインを横断するジグザグ状に移動させる請求項1のシャント抵抗器の製造方法。
【請求項4】
溶接ステージ上で長板状抵抗体の両側縁に一対の長板状端子板の側縁を突き合わせ、上からクランプ治具で押さえつつこれら突き合わせた端面を溶接予定ラインとし、この溶接予定ラインに沿って上方からレーザビームを走査させることによりシーム溶接した溶接板材からシャント抵抗部分を切り出して製造する
ために用いる溶接済み板材の製造装置であって、
前記溶接予定ラインに沿ったスリット状の開口部が形成されこの開口部に前記溶接予定ラインを臨ませた状態で前記抵抗体および端子板を前記溶接予定ラインに向かって押圧しつつこれらを厚さ方向に挟持する前記開口部の幅よりも厚い溶接ステージおよびクランプ治具と;
前記溶接ステージおよびクランプ治具に形成された不活性ガス供給通路を通して前記開口部内に向かって不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段と;
レーザビームの出力を制御するためのレーザ制御信号、レーザビームのスキャン制御信号、および搬送制御信号、を出力する制御ユニットと;
前記レーザ制御信号に基づいて所定出力のレーザビームを射出ヘッドから所定タイミングで出力するファイバーレーザビーム出力ユニットと;
前記射出ヘッドに設けられ、このレーザビームを前記スキャン信号に基づいて前記溶接予定ラインを横断させるように振動させつつ前記溶接予定ラインに沿って移動させるスキャンモータと;
前記搬送制御信号に基づいて前記射出ヘッドおよび溶接対象物の少なくとも一方を搬送する搬送手段と;
を備えることを特徴とするシャント抵抗器の製造に用いる溶接済み板材の製造装置。
【請求項5】
スキャンモータは、ガルバノスキャナである請求項4の溶接済み板材の製造装置。
【請求項6】
制御ユニットは、主制御手段が出力するシーム溶接予定ラインの座標データと振動モードを示すデータとに基づいてスキャン制御信号を出力し、主制御手段が出力するビーム強度データおよびビームの移動速度に基づいてレーザ制御信号を出力し、主制御手段が出力する溶接対象物の搬送データに基づいて溶接対象物を搬送する搬送制御信号を出力する請求項4の溶接済み板材の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レーザビームを用いて長板状の抵抗体と端子板とをシーム溶接した溶接済み板材からシャント抵抗器を切り出して製造するシャント抵抗器の製造方法と、この方法の実施に用いる前記溶接済み板材の製造装置とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
長板状の抵抗体に電極となる長板状金属板を接合し、この接合した板材(溶接済み板材)から所定形状に切り抜いて抵抗器とするものが公知である。この場合に抵抗体は通常、Cu(銅)、Mn(マンガン)、Ni(ニッケル)等のマンガニン金属合金であり、端子板は通常銅板である。このような異種金属を溶接する手段として、電子ビームを用いる方法が公知である。この電子ビームを用いる方法は、真空中で電子ビームを接合部(抵抗体と端子板との突き合わせ部)に照射する必要があるため真空チャンバや真空装置が必要になり、溶接装置が大型化し高価になり、また溶接処理能率が悪いという問題が有った。
【0003】
そこで電子ビームに代えてレーザービームを用いて溶接することが提案されている。特許文献1には、長板状の抵抗体と端子板との突き合わせ端面に外側からレーザビームを照射して、抵抗体と端子板の接触部を溶融接合する方法が開示されている。この種の抵抗器において、いわゆるシャント抵抗器が近年広く使用されている。このシャント抵抗器は自動車などの電子機器などにおいて、電流を検出するために広く用いられるものであるが、この場合は抵抗値が小さく大電流に耐えられる(大定格電力)ものであることが望まれている。
【0004】
またシャント抵抗器では抵抗値が安定していることと、耐久性が高いことなどが必要である。特に大電流で用いる抵抗器では抵抗体と端子板が厚くなるので、両者の突き合わせ端面の厚さ方向の溶接が不安定になって抵抗値が大きくなったり、溶接部にクラック(微小な亀裂)が発生して抵抗値が不安定になることがあり得る。
【0005】
そこで特許文献2では、第1パルスレーザ光と、これより波長が短い第2パルスレーザ光とを同軸状に同時に照射する方法を提案している。すなわち比較的波長が長い第1パルスレーザ光は溶融している溶融部に吸収されやすく溶融部を加熱して溶融深さを深くする機能が大きく、また比較的波長が短い第2パルスレーザ光は固体状態の溶融部を速やかに溶融するのに適するから、これら2種類のパルスレーザを同時に照射することによって厚さ方向全域にわたって確実に溶接することができる、というものである。
【0006】
また特許文献3では、特に溶接部の厚さが大きい場合に、レーザビームとしてシングルモードかつ連続波形のファイバ−レーザを用いることにより、レーザビームが溶接部を深く溶融させて溶接の信頼性を向上させることを提案している。すなわちこのファイバーレーザは、集光性が良く微小ビームスポットにすることが可能であることから、パワー密度を高くし焦点深度を深くできるという特性を持ち、このため溶接痕の幅(ビード幅)を細くし、溶け込み深さを大きくできるからである(段落0021)。またファイバーレーザを溶接予定ラインに対して横断するように細かく振動(横断動、ループ動)させることにより、ビーム位置の制御精度を過度に高める必要を無くすことも提案している(段落0022)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実用新案登録第3118918号公報
【特許文献2】特開2009−71123号公報
【特許文献3】特開2015−30011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしこれらの従来技術では、溶接時に接合部表面付近、特に溶融した抵抗体表面が高温になって酸化し易く、抵抗特性が不安定になったり経時劣化し易くなるという問題が有ることが解った。また溶融時に溶融飛沫(スパッタ)が周囲に飛散し、シャント抵抗器の品質低下を招くという問題もあった。
【0009】
この発明はこのような事情に鑑みなされたものであり、電子ビームを用いる場合の問題点、すなわち真空装置が必要で装置が大型化し効率が悪い、という問題点を解決すると共に、レーザビームを用いるにもかかわらず、溶融部の温度上昇を抑制して接合部表面の酸化発生を防止し、抵抗特性を安定にし、耐久性を向上させることができるシャント抵抗器の製造方法を提供することを第1の目的とする。またこの製造方法の実施に用いる抵抗体と端子板とを溶接した溶接済み板材の製造装置を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明によれば第1の目的は、溶接ステージ上で長板状抵抗体の両側縁に一対の長板状端子板の側縁を突き合わせ、上からクランプ治具で押さえつつこれら突き合わせた端面を溶接予定ラインとし、この溶接予定ラインに沿って上方からレーザビームを走査させることによりシーム溶接した溶接板材からシャント抵抗部分を切り出して製造するシャント抵抗器の製造方法であって、
前記レーザビームをシングルモードかつ連続波形のファイバーレーザとし、
前記溶接予定ラインに沿ったスリット状の開口部が形成されかつ前記開口部の幅よりも厚い溶接ステージとクランプ治具との間に前記抵抗体および端子板をこれらの端面を互いに突き合わせ押圧し密着させつつ溶接ステージとクランプ治具との間に挟持し、
前記溶接ステージおよびクランプ治具に設けた前記溶接予定ラインに臨むスリット状の開口内に向かって前記溶接ステージおよびクランプ治具に設けた不活性ガス供給通路を通して不活性ガスを供給すると共に、前記ファイバーレーザの照射位置を前記溶接予定ラインを横断させるように振動させつつシーム溶接し、このシーム溶接した溶接済み板材からシャント抵抗部分を切り出すことを特徴とするシャント抵抗器の製造方法、により達成される。
【0011】
第2の目的は、溶接ステージ上で長板状抵抗体の両側縁に一対の長板状端子板の側縁を突き合わせ、上からクランプ治具で押さえつつこれら突き合わせた側縁と長板状端子板の側縁との突き合わせた端面を溶接予定ラインとし、この溶接予定ラインに沿って上方からレーザビームを走査させることによりシーム溶接した溶接板材からシャント抵抗部分を切り出して製造するために用いる溶接済み板材の製造装置であって、
前記溶接予定ラインに沿ったスリット状の開口部が形成されこの開口部に前記溶接予定ラインを臨ませた状態で前記抵抗体および端子板を前記溶接予定ラインに向かって押圧しつつこれらを厚さ方向に挟持する前記開口部の幅よりも厚い溶接ステージおよびクランプ治具と;
前記溶接ステージおよびクランプ治具に形成された不活性ガス供給通路を通して前記開口部内に向かって不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段と;
レーザビームの出力を制御するためのレーザ制御信号、レーザビームのスキャン制御信号、および搬送制御信号、を出力する制御ユニットと;
前記レーザ制御信号に基づいて所定出力のレーザビームを射出ヘッドから所定タイミングで出力するファイバーレーザビーム出力ユニットと;
前記射出ヘッドに設けられ、このレーザビームを前記スキャン信号に基づいて前記溶接予定ラインを横断させるように振動させつつ前記溶接予定ラインに沿って移動させるスキャンモータと;
前記搬送制御信号に基づいて前記射出ヘッドおよび溶接対象物の少なくとも一方を搬送する搬送手段と;
を備えることを特徴とするシャント抵抗器の製造に用いる溶接済み板材の製造装置、により達成される。
【発明の効果】
【0012】
この発明で用いるファイバーレーザはシングルモードかつ連続波形であるから、集光性が良く微小ビームスポットが可能である。微小ビームスポットにすることによりパワー密度を高くし、また焦点深度を深くすることができる。このため溶接痕の幅(ビード幅)が細く、溶け込み深さが大きい高アスペクト比(溶け込み部の縦横比率)の溶接が可能である。ここに溶け込み幅が小さく深さが大きいため、ビームの走査位置を溶接位置に高精度に制御する必要が生じる。
【0013】
そこでこの発明(請求項1に記した第1の発明)では、このビームの照射位置を溶接予定ラインを横断させるように振動(あるいは移動)させながら走査することにより、溶接位置の制御精度を過度に高くする必要性を無くし、装置の複雑化を防ぎつつ溶接予定ラインに沿った正確な溶接を可能にするものである。また高パワー密度であるため、レーザ出力を低くすることができ、装置の小型化、低価格化、省エネルギー化が図れる可能性が有る。
【0014】
また抵抗体と端子板とを突き合わせた状態に保持する溶接ステージおよびクランプ治具には、溶接予定ラインに臨むスリット状の開口部が設けられ、この開口部内に向かって不活性ガスが供給されているので、接合部表面の酸化発生が防止されると共に、レーザビームで加熱される溶接予定ライン付近が冷却され溶融部の温度上昇が抑制される。このため、抵抗特性を安定にし、シャント抵抗器の耐久性を向上させることができる。
この場合に、溶接ステージとクランプ治具はスリット状の開口部の幅よりも厚くしてあるので、これらの熱容量を大きくすることができ、これらに設けた不活性ガス供給路を通って開口部内に向かって供給される不活性ガスによりこれら溶接ステージとクランプ治具も冷却でき溶接部の放熱性を一層向上させることができる。
さらに溶接ステージとクランプ治具には、レーザビームや不活性ガスを導くスリット状の開口部があるので、溶融時に溶融飛沫(スパッタ)が周囲に飛散しにくくなり、シャント抵抗器の品質低下を招くおそれがない。
【0015】
第2の発明によれば、この製造方法の実施に用いる抵抗体と端子板とを溶接した溶接済み板材の製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】この発明の一実施例を示すレーザビーム溶接装置を示す概念図
図2】同じくレーザビームの振動状況の概念図
図3】抵抗体および端子板を保持する溶接ステージおよびクランプ治具の概念図
図4】溶接ステージおよびクランプ治具を溶接ラインに対して垂直な面で切断した断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
不活性ガスは、溶接予定ラインに臨む開口部内に向かって、溶接ステージおよびクランプ治具に設けた不活性ガス供給通路を通して送出するが、この場合、不活性ガス供給通路を通る不活性ガスがスリット状の開口部の内壁から直接開口部内に流入すれば、不活性ガス供給通路を通る不活性ガスにより溶接ステージおよびクランプ治具を効率よく冷却することができ、溶接部の熱をこれら溶接ステージおよびクランプ治具を介して不活性ガスに伝達することができるので、冷却性が一層向上する。
【0018】
この発明で用いるファイバーレーザは、溶接予定ラインに沿って中心が移動するループを描きながら移動させることができる(請求項2)。また溶接予定ラインを横断するようにジグザグ状に移動(振動)させることもできる(請求項3)。
【0019】
請求項4シャント抵抗器の製造に用いる溶接済み板材の製造装置において用いるスキャンモータは、ガルバノスキャナが好ましい(請求項5)。このガルバノスキャナは、ビームのスキャン速度が、YAGレーザやCO2レーザなどを用いた従来の走査速度に比べて圧倒的に早いものであり、例えば2000mm/sec(出願人の製品仕様)である。
【0020】
また制御ユニットは、主制御手段が出力するシーム溶接予定ラインの座標データと振動モードを示すデータとに基づいてスキャン制御信号pを出力し、主制御手段が出力するビーム強度データおよびビームの移動速度に基づいてレーザ制御信号qを出力し、主制御手段が出力する溶接対象物の相対移動データに基づいて溶接対象物を搬送する搬送制御信号rを出力するように構成することができる(請求項6)。
【実施例1】
【0021】
まず溶接対象物10を図2を用いて説明する。この溶接対象物10は、長板状の抵抗体12の側端面にそれぞれ長板状端子板14、14を突き合わせて保持したものであり、これらの突き合わせ端面が後記する溶接予定ライン(溶接ライン)22となるものである。この実施例ではレーザビーム20はこの溶接予定ライン22に対して円弧を描き、溶接対象物10をこの溶接予定ライン22と平行に搬送し、溶接予定ライン22(突き合わせ端面)を溶接するものである。これら2本の溶接予定ライン22、22を溶接した溶接対象物10は、ここでは溶接済み板材という。
【0022】
図1において符号100はファイバーレーザを用いたレーザビーム発生手段であり、この手段100に備える駆動手段102の出力に基づいて、シングルモードかつ連続波形のレーザ(ファイバーレーザ)20を射出可能である。このファイバーレーザ20のレーザビーム発生手段100は、複数個のレーザダイオード(LD)104(1〜n)が出力するレーザを光ファイバー106により集合して全反射ミラーであるFBG(Fiber Bragg Grating)108、アクティブファイバー(共振器)110、出力ミラーであるFBG112に導く。FBG108、112はファイバーコア内に書き込まれたブラッグ・グレーティングである。
【0023】
ここにFBG108は高反射率(HR、High Refrection)であり、FBG112は低反射率(LR、Low Refrection)である。各LD104が出力するレーザはアクティブファイバー110内で共振して同位相かつ所定波形となり、シングルモードかつ連続波形のレーザビーム20となってFBG112から出力される。
【0024】
このレーザビーム20は光ファイバー114によって射出ヘッド116に導かれ、溶接対象物に照射される。すなわち抵抗体と端子板の突き合わせ端面22(接合部、溶接予定ライン)に上面から照射される。ここに射出ヘッド116と溶接予定ライン22の相対位置が制御ユニット118および搬送手段120(図1)によって制御され、レーザビーム20は所定の溶接予定ライン(走査ライン)22に沿って走査されてシーム溶接されるものである。
【0025】
制御ユニット118は、コンピュータPCからなる主制御手段122が出力するシーム溶接予定ライン22の座標データと振動モードを示すデータとに基づいてスキャン制御信号pを出力し、主制御手段122が出力するビーム強度データおよびビームの移動速度、あるいは被溶接物の材質や熱伝導性などとに基づいてレーザ制御信号qを出力し、溶接対象物の相対移動データに基づいて溶接対象物を搬送する搬送制御信号rを出力する。
【0026】
搬送手段120は、溶接ステージ24に載せた溶接対象物10を射出ヘッド116下方の所定位置に順次移動させるものであり、サーボモータにより駆動される。この搬送手段120は、制御ユニット118が出力する搬送制御信号rに基づいて、射出ヘッド116が出力するレーザビームを溶接予定ライン22に沿って相対移動するように溶接ステージ24を搬送する。すなわち溶接対象物10に対して一本の溶接予定ライン22のシーム溶接が完了するまで溶接ステージ24を移動し、溶接が完了すると、次の溶接予定ライン22の溶接を行うように溶接ステージ24を移動させる。搬送手段120は、溶接ステージ24を移動させるのに代えて、射出ヘッド116を移動させるものであっても良い。
【0027】
また射出ヘッド116にはスキャンモータ116Aが内蔵され、このスキャンモータ116Aは集光レンズ116Bを介して射出するレーザビームを、溶接予定ライン22を横断する円弧状に回転させ、あるいは横断方向に振動させるように偏向する。この時に搬送手段120が溶接ステージ24を溶接予定ライン22に沿って移動させる。このようにスキャンモータ116Aと搬送手段120との協働により、溶接予定ライン22の溶接を行うようにレーザビーム20を走査させてもよいが、溶接ステージ24を停止してスキャンモータ116Aだけでレーザビーム20を振動させつつ溶接予定ライン22に沿って移動させるようにしてもよい。
【0028】
スキャンモータ116Aは、例えばガルバノスキャナとすることができる。このガルバノスキャナー116Aは、レーザビームに対して垂直となる平面上でビーム方向をX−Y方向に偏向させるミラーを、可変磁針形あるいは可変コイル形のガルバノメータ(検流計)の可動部に固定した構造のものである。このスキャンモータ116Aは、主制御手段122が出力する溶接予定ライン22の位置データと振動モードを示すデータとに基づいて、前記制御ユニット118が出力するスキャン制御信号pにより制御される。
【0029】
ここにスキャン制御信号pは、レーザビーム20を溶接予定ライン22を横断する方向に振動させつつ移動するものであり、例えば図2に示すように、溶接ライン22に沿ってコイル状に螺旋を描くようにスキャンする。また図示してないが、溶接予定ライン22を横断するようにジグザグに振動させてスキャンするものであっても良い。
【0030】
前記駆動手段102は、前記LD104を駆動するものである。すなわち各LD104は制御ユニット118が出力するレーザ制御信号qによって制御され、所定のビーム強度データとビーム移動速度とに対応する出力としたシングルモードかつ連続波形のレーザビーム20を射出ヘッド116に出力する。
【0031】
ここに用いるシングルモードかつ連続波形のレーザビーム20は、前記したように集光性が良く、微小ビームスポットとなり、エネルギー密度が大きく焦点深度が深い。このため、このレーザビーム20を螺旋状あるいはジグザグ状に振動させた場合には、溶け込み部の断面(溶接予定ライン22に直交する面での断面)は溶け込み深さ方向が大きいほぼ長四角形となる。このため溶接深さが大きくても深さ方向の溶融が確実に行われ溶接が高精度に行われる。
【0032】
すなわちレーザ制御信号qが設定するビーム出力強度データは、主としてこの溶け込み部の深さを設定することになり、また振動モードで設定する振動幅が主としてこの溶け込み部の幅を設定することになる。従って溶け込み部22の深さと幅が適切になるようにこれらのデータを設定することにより、適切な溶接が可能である。またレーザビーム20は溶接予定ライン22を横断して振動しているので、常に深い溶け込み部22を形成することができる。このため溶接の信頼性が向上する。
【0033】
次に溶接予定ライン22を溶接するために用いる溶接ステージ24とクランプ治具38を図3、4を用いて説明する。溶接ステージ24は、溶接対象物10(図1、2)を載せて下から支持する板状ブロックであり、前記抵抗体12と端子板14の突き合わせ端面22の下方で下方に開いた開口部(スリット)26、26となっている。すなわち溶接ステージ24はこれら開口部26、26で分割されて3つのブロック28、30、28に分かれている(図3、4)。
【0034】
溶接対象物10は、突き合わせ端面22が開口部26、26に臨むようにしてこの溶接ステージ24に載せられる。なおこの溶接ステージ24には、開口部26、26を横断するほぼ水平な不活性ガス供給通路32が貫通している。ここには図示しない不活性ガス供給装置からアルゴンガスなどの不活性ガスG1が供給され、この不活性ガスG1が溶接ステージ24自身を冷却すると共に、その一部が開口部26内に導かれてレーザビーム20の照射により高温になった溶接部22を溶接対象物10の下面から冷却する。
【0035】
クランプ治具38は、端子板14、14を外側から押圧して突き合わせた端面22同士を圧力P1で押圧し密着させる左右一対の第1クランプ治具40、40と、溶接対象物10および第1クランプ治具40、40を上から押圧してこれらを溶接ステージ24との間に挟持する第2クランプ治具42とで構成される。なお第1クランプ治具40は端子板14より僅かに薄くして、第2クランプ治具42の下で左右に可動としている。
【0036】
第2クランプ治具42は、抵抗材12を上から押圧するブロック42Aと、端子板14を上から押圧する左右一対のブロック42B、42Bとに分割されている。そしてこれらのブロック42A、42Bは、図3に示すように、上から所定の圧力P2で押圧される。なおブロック42Aと42Bの間には、溶接予定ライン22に臨み上方に開く開口部(スリット)44、44が形成されている。この開口部44からレーザビーム20が溶接予定ライン22に照射される。これらのブロック42A、42Bには、これらの開口部44、44を水平に横断する不活性ガス供給通路46が貫通している。不活性ガスG2は、これらの不活性ガス供給通路46を介してブロック42A、42Bを冷却すると共に、開口部44に入った不活性ガスは溶接部22の酸化発生を防止しながら効率よく冷却する。
【0037】
以上のように溶接予定ライン22に沿った溶接部は、その下面および上面に導かれる不活性ガスG1、G2により冷却されると共に、溶接部の熱は溶接対象物10およびこれを押さえる溶接ステージ24およびクランプ治具40、42に伝えられ、さらに不活性ガス供給通路32、46を通る不活性ガスG1、G2に伝達されて外に運び出される。このため溶接部22の熱は速やかに放散され、溶接温度が過大になったり高温に長い時間晒されるのを防ぐことができる。この結果溶接品質の劣化を防ぐことができ、抵抗器の安定性向上と耐久性の向上が図れる。
【0038】
なおレーザビーム20は前記のように、集光性が良く広がりにくいので、溶接ステージ24およびクランプ治具42に設ける開口部(スリット)26、44の幅を狭くしかつ深くすることができる。このためこれら溶接ステージ24、クランプ治具42を厚くしてその熱容量を大きくし、溶接部22の放熱性を一層向上させることができる。
【0039】
以上のようにして抵抗体12と端子板14、14とをシーム溶接したものを溶接済み板材として、ここからシャント抵抗器を切り出す。すなわち、溶接予定ライン22の溶接が済んだら、この溶接済み板材を溶接ステージ24およびクランプ治具38から取り外し、溶接ライン22、22を横断する方向に切断して所定幅のシャント抵抗器とする。この切断にはレーザカッタやダイヤモンドカッタなどが使用できる。
【符号の説明】
【0040】
10 溶接対象物(溶接済み板材)
12 抵抗体
14 端子板
20 レーザビーム
22 溶接予定ライン(突き合わせ端面、溶け込み部、接合部、溶融部)
24 溶接ステージ
26、44 開口部(スリット)
32、46 不活性ガス供給通路
38 クランプ治具
40 第1クランプ治具
42 第2クランプ治具
100 レーザビーム発生手段
102 駆動手段
104 レーザダイオード(LD)
116 射出ヘッド
118 制御ユニット
120 搬送手段
122 主制御手段
p スキャン制御信号
q レーザ制御信号
r 搬送制御信号
図1
図2
図3
図4