【実施例1】
【0021】
まず溶接対象物10を
図2を用いて説明する。この溶接対象物10は、長板状の抵抗体12の側端面にそれぞれ長板状端子板14、14を突き合わせて保持したものであり、これらの突き合わせ端面が後記する溶接予定ライン(溶接ライン)22となるものである。この実施例ではレーザビーム20はこの溶接予定ライン22に対して円弧を描き、溶接対象物10をこの溶接予定ライン22と平行に搬送し、溶接予定ライン22(突き合わせ端面)を溶接するものである。これら2本の溶接予定ライン22、22を溶接した溶接対象物10は、ここでは溶接済み板材という。
【0022】
図1において符号100はファイバーレーザを用いたレーザビーム発生手段であり、この手段100に備える駆動手段102の出力に基づいて、シングルモードかつ連続波形のレーザ(ファイバーレーザ)20を射出可能である。このファイバーレーザ20のレーザビーム発生手段100は、複数個のレーザダイオード(LD)104(1〜n)が出力するレーザを光ファイバー106により集合して全反射ミラーであるFBG(Fiber Bragg Grating)108、アクティブファイバー(共振器)110、出力ミラーであるFBG112に導く。FBG108、112はファイバーコア内に書き込まれたブラッグ・グレーティングである。
【0023】
ここにFBG108は高反射率(HR、High Refrection)であり、FBG112は低反射率(LR、Low Refrection)である。各LD104が出力するレーザはアクティブファイバー110内で共振して同位相かつ所定波形となり、シングルモードかつ連続波形のレーザビーム20となってFBG112から出力される。
【0024】
このレーザビーム20は光ファイバー114によって射出ヘッド116に導かれ、溶接対象物に照射される。すなわち抵抗体と端子板の突き合わせ端面22(接合部、溶接予定ライン)に上面から照射される。ここに射出ヘッド116と溶接予定ライン22の相対位置が制御ユニット118および搬送手段120(
図1)によって制御され、レーザビーム20は所定の溶接予定ライン(走査ライン)22に沿って走査されてシーム溶接されるものである。
【0025】
制御ユニット118は、コンピュータPCからなる主制御手段122が出力するシーム溶接予定ライン22の座標データと振動モードを示すデータとに基づいてスキャン制御信号pを出力し、主制御手段122が出力するビーム強度データおよびビームの移動速度、あるいは被溶接物の材質や熱伝導性などとに基づいてレーザ制御信号qを出力し、溶接対象物の相対移動データに基づいて溶接対象物を搬送する搬送制御信号rを出力する。
【0026】
搬送手段120は、溶接ステージ24に載せた溶接対象物10を射出ヘッド116下方の所定位置に順次移動させるものであり、サーボモータにより駆動される。この搬送手段120は、制御ユニット118が出力する搬送制御信号rに基づいて、射出ヘッド116が出力するレーザビームを溶接予定ライン22に沿って相対移動するように溶接ステージ24を搬送する。すなわち溶接対象物10に対して一本の溶接予定ライン22のシーム溶接が完了するまで溶接ステージ24を移動し、溶接が完了すると、次の溶接予定ライン22の溶接を行うように溶接ステージ24を移動させる。搬送手段120は、溶接ステージ24を移動させるのに代えて、射出ヘッド116を移動させるものであっても良い。
【0027】
また射出ヘッド116にはスキャンモータ116Aが内蔵され、このスキャンモータ116Aは集光レンズ116Bを介して射出するレーザビームを、溶接予定ライン22を横断する円弧状に回転させ、あるいは横断方向に振動させるように偏向する。この時に搬送手段120が溶接ステージ24を溶接予定ライン22に沿って移動させる。このようにスキャンモータ116Aと搬送手段120との協働により、溶接予定ライン22の溶接を行うようにレーザビーム20を走査させてもよいが、溶接ステージ24を停止してスキャンモータ116Aだけでレーザビーム20を振動させつつ溶接予定ライン22に沿って移動させるようにしてもよい。
【0028】
スキャンモータ116Aは、例えばガルバノスキャナとすることができる。このガルバノスキャナー116Aは、レーザビームに対して垂直となる平面上でビーム方向をX−Y方向に偏向させるミラーを、可変磁針形あるいは可変コイル形のガルバノメータ(検流計)の可動部に固定した構造のものである。このスキャンモータ116Aは、主制御手段122が出力する溶接予定ライン22の位置データと振動モードを示すデータとに基づいて、前記制御ユニット118が出力するスキャン制御信号pにより制御される。
【0029】
ここにスキャン制御信号pは、レーザビーム20を溶接予定ライン22を横断する方向に振動させつつ移動するものであり、例えば
図2に示すように、溶接ライン22に沿ってコイル状に螺旋を描くようにスキャンする。また図示してないが、溶接予定ライン22を横断するようにジグザグに振動させてスキャンするものであっても良い。
【0030】
前記駆動手段102は、前記LD104を駆動するものである。すなわち各LD104は制御ユニット118が出力するレーザ制御信号qによって制御され、所定のビーム強度データとビーム移動速度とに対応する出力としたシングルモードかつ連続波形のレーザビーム20を射出ヘッド116に出力する。
【0031】
ここに用いるシングルモードかつ連続波形のレーザビーム20は、前記したように集光性が良く、微小ビームスポットとなり、エネルギー密度が大きく焦点深度が深い。このため、このレーザビーム20を螺旋状あるいはジグザグ状に振動させた場合には、溶け込み部の断面(溶接予定ライン22に直交する面での断面)は溶け込み深さ方向が大きいほぼ長四角形となる。このため溶接深さが大きくても深さ方向の溶融が確実に行われ溶接が高精度に行われる。
【0032】
すなわちレーザ制御信号qが設定するビーム出力強度データは、主としてこの溶け込み部の深さを設定することになり、また振動モードで設定する振動幅が主としてこの溶け込み部の幅を設定することになる。従って溶け込み部22の深さと幅が適切になるようにこれらのデータを設定することにより、適切な溶接が可能である。またレーザビーム20は溶接予定ライン22を横断して振動しているので、常に深い溶け込み部22を形成することができる。このため溶接の信頼性が向上する。
【0033】
次に溶接予定ライン22を溶接するために用いる溶接ステージ24とクランプ治具38を
図3、4を用いて説明する。溶接ステージ24は、溶接対象物10(
図1、2)を載せて下から支持する板状ブロックであり、前記抵抗体12と端子板14の突き合わせ端面22の下方で下方に開いた開口部(スリット)26、26となっている。すなわち溶接ステージ24はこれら開口部26、26で分割されて3つのブロック28、30、28に分かれている(
図3、4)。
【0034】
溶接対象物10は、突き合わせ端面22が開口部26、26に臨むようにしてこの溶接ステージ24に載せられる。なおこの溶接ステージ24には、開口部26、26を横断するほぼ水平な不活性ガス供給通路32が貫通している。ここには図示しない不活性ガス供給装置からアルゴンガスなどの不活性ガスG1が供給され、この不活性ガスG1が溶接ステージ24自身を冷却すると共に、その一部が開口部26内に導かれてレーザビーム20の照射により高温になった溶接部22を溶接対象物10の下面から冷却する。
【0035】
クランプ治具38は、端子板14、14を外側から押圧して突き合わせた端面22同士を圧力P1で押圧し密着させる左右一対の第1クランプ治具40、40と、溶接対象物10および第1クランプ治具40、40を上から押圧してこれらを溶接ステージ24との間に挟持する第2クランプ治具42とで構成される。なお第1クランプ治具40は端子板14より僅かに薄くして、第2クランプ治具42の下で左右に可動としている。
【0036】
第2クランプ治具42は、抵抗材12を上から押圧するブロック42Aと、端子板14を上から押圧する左右一対のブロック42B、42Bとに分割されている。そしてこれらのブロック42A、42Bは、
図3に示すように、上から所定の圧力P2で押圧される。なおブロック42Aと42Bの間には、溶接予定ライン22に臨み上方に開く開口部(スリット)44、44が形成されている。この開口部44からレーザビーム20が溶接予定ライン22に照射される。これらのブロック42A、42Bには、これらの開口部44、44を水平に横断する不活性ガス供給通路46が貫通している。不活性ガスG2は、これらの不活性ガス供給通路46を介してブロック42A、42Bを冷却すると共に、開口部44に入った不活性ガスは溶接部22の酸化発生を防止しながら効率よく冷却する。
【0037】
以上のように溶接予定ライン22に沿った溶接部は、その下面および上面に導かれる不活性ガスG1、G2により冷却されると共に、溶接部の熱は溶接対象物10およびこれを押さえる溶接ステージ24およびクランプ治具40、42に伝えられ、さらに不活性ガス供給通路32、46を通る不活性ガスG1、G2に伝達されて外に運び出される。このため溶接部22の熱は速やかに放散され、溶接温度が過大になったり高温に長い時間晒されるのを防ぐことができる。この結果溶接品質の劣化を防ぐことができ、抵抗器の安定性向上と耐久性の向上が図れる。
【0038】
なおレーザビーム20は前記のように、集光性が良く広がりにくいので、溶接ステージ24およびクランプ治具42に設ける開口部(スリット)26、44の幅を狭くしかつ深くすることができる。このためこれら溶接ステージ24、クランプ治具42を厚くしてその熱容量を大きくし、溶接部22の放熱性を一層向上させることができる。
【0039】
以上のようにして抵抗体12と端子板14、14とをシーム溶接したものを溶接済み板材として、ここからシャント抵抗器を切り出す。すなわち、溶接予定ライン22の溶接が済んだら、この溶接済み板材を溶接ステージ24およびクランプ治具38から取り外し、溶接ライン22、22を横断する方向に切断して所定幅のシャント抵抗器とする。この切断にはレーザカッタやダイヤモンドカッタなどが使用できる。