(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
プラント等において流量のプロセス制御に用いられる調節弁としては、制御対象の流体の圧力が指示された目標値となるようにPID制御によって弁開度が制御される調節弁(所謂コントロール弁)の他に、異常発生時に、保安上緊急に全開または全閉する緊急弁が知られている(JIS B 0100:2013 参照)。
【0003】
一般に、緊急弁は、通常の流量制御時には全開または全閉した状態に固定され、異常が発生した場合に、急速に全閉または全開する。すなわち、緊急時以外は作動しない。そのため、緊急弁が緊急時に正常に作動するか否かを確認するためのテストを定期的に実施する必要がある。
【0004】
緊急弁のテストとしては、PST(Partial Stroke Test)が知られている(特許文献1参照)。PSTは、緊急弁を完全に作動(全閉または全開)させるのではなく、弁を少しだけ開けるまたは閉めるという部分的な動作により、緊急弁の固着による故障等の有無を診断する手法である。これによれば、プラント等をシャットダウンすることなく、緊急弁の診断を行うことが可能となる。
【0005】
ところで、コントロール弁や緊急弁等の調節弁は、一般にポジショナによって弁開度が制御される。ポジショナは、上位装置から指示された弁開度の目標値と当該調節弁の弁開度の実測値(実開度)との偏差を算出し、その偏差に基づいて生成した制御信号をコントロール弁の開閉を操作するための操作器に供給することにより、調節弁の弁開度を制御する機器である。
【0006】
コントロール弁用のポジショナは、フィードバック制御(PID制御)によってコントロール弁の弁開度が一定となるように制御する。これに対し、緊急弁用のポジショナは、緊急時の弁の開閉をオープンループ制御により行っている。例えば、緊急遮断弁用のポジショナの場合、オープンループ制御により、通常時に弁開度の目標値を100%に設定して全開とし、緊急時に弁開度の目標値を100%から0%に設定変更して急速に全閉させる。なお、PSTを行う場合には、緊急遮断弁用のポジショナであってもフィードバック制御(PID制御)によって弁開度が制御される。
【0007】
ポジショナは、上位装置から指示された弁開度の設定値に基づく電気信号MVを空気信号(圧力Pn)に変換するノズルフラッパと、ノズルフラッパから出力された空気信号の圧力を増幅させた出力空気信号(出力空気圧Po)を生成するパイロットリレーとを含む電空変換部(I/P変換部)を備えている。その電空変換部のうち、パイロットリレーは、経年劣化や温度変化による入出力特性(Pn−Po特性)の設計値からのずれは小さいが、ノズルフラッパは、経年劣化や周辺温度、ノズルの排気口等のゴミ詰り等による入出力特性(MV−Pn特性)の設計値からのずれは大きい。そのため、経年劣化等によって、電空変換部全体としての入出力特性(MV−Po特性)が大きく変化し、電空変換部から出力される空気信号の圧力(出力空気圧Po)が最大値(または最小値)から変化し始めるときの電空変換部への入力値(電気信号MV)が大きく変化してしまう。
【0008】
以下、電空変換部の出力空気圧Poが最大または最小の状態から変化し始めるときの電空変換部の入力値(電気信号MV)を「動作点」と称する。
【0009】
コントロール弁の場合、上述したように、ポジショナがPID制御によって弁開度の実測値が目標値と一致するように制御するので、上述した動作点の変動は問題とならない。 一方、緊急弁の場合、ポジショナがオープンループ制御によって弁開度を制御するため、動作点が変動すると、通常時に緊急弁が誤作動してしまうおそれがある。そのため、緊急弁は、動作点が変動した場合でも誤作動しないように十分なマージンを考慮して設計されている。例えば、緊急遮断弁の場合、
図13に示すように、電空変換部への入力(電気信号MV)が100%でなくても、電空変換部への入力が60%以上であれば、出力空気圧が最大(実開度100%)となるように設計されている。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0027】
≪実施の形態1≫
図1は、本発明の一実施の形態に係るポジショナを含むバルブ制御システムの構成を示す図である。
図1に示されるバルブ制御システム100は、調節弁3、操作器2、上位システム4、およびポジショナ1を備えており、例えば、プラント等の流量制御プロセスに用いられる。
【0028】
調節弁(バルブ)3は、一方の流路から他方の流路への流体の流れを制御する装置であり、例えば空気圧式調節弁である。本実施の形態では、調節弁3が緊急遮断弁である場合を一例として説明する。
【0029】
操作器2は、例えば空気式のバルブアクチュエータであり、後述するポジショナ1から供給される出力空気信号Soに応じて調節弁3の弁軸を操作することにより、調節弁3の開閉動作を制御する。本実施の形態では、操作器2が、入力された出力空気信号Soの圧力に応じて調節弁3の弁軸の操作量が決定される構造を備えた単動式の操作器であるものとして説明する。
【0030】
上位システム4は、ポジショナ1を含むバルブ制御システムの統括的な管理を行う上位側のシステムであり、例えば分散制御システム(distributed control system:DCS)である。例えば、上位システム4は、定期的またはユーザの操作に応じて、PSTを含む各種のテストの実行をポジショナ1に対して指示する。
【0031】
コントローラ6は、上位システム4からの指示等に応じて、ポジショナ1に対して調節弁3の開閉を指示する機器である。具体的に、コントローラ6は、例えばバルブ制御システムの通常動作時において、調節弁3が全開となるように調節弁3の弁開度の設定値SP(例えばSP=100%)をポジショナ1に対して与え、何等かの異常が発生した場合に、調節弁3が全閉となるように、調節弁3の弁開度の設定値SP(例えばSP=0%)をポジショナ1に対して与える。
【0032】
ポジショナ1は、コントローラ6から与えられた調節弁3の弁開度の設定値SP、および上位システム4からのテスト(PST)の実行の指示に基づいて、調節弁3の開閉を制御する。
【0033】
以下、ポジショナ1の具体的な構成について説明する。なお、本実施の形態では、ポジショナ1におけるPSTの実行を実現するための機能部について説明し、それ以外の機能を実現するための機能部については説明を省略する。
【0034】
図1に示すように、ポジショナ1は、弁開度検出部17、データ処理制御部10、電空変換部11、複数の圧力センサ14〜16、および表示部18等の機能部を備えている。これらの機能部は、例えば調節弁3の制御対象の流体に対する耐食性を有する金属材料から成る筐体内部に収容されている。
【0035】
弁開度検出部17は、調節弁3の弁開度を弁軸の変位量として検出し、その変位量に応じた検出信号SENを生成する変位量検出器である。弁開度検出部17としては、角度センサや磁気センサ等を例示することができる。
【0036】
データ処理制御部10は、ポジショナ1の統括的な制御を行うとともに、調節弁3の操作量を指示する電気信号MVを生成する電子回路である。具体的に、データ処理制御部10は、バルブ流量制御システムの通常動作時および緊急遮断時に、コントローラ6から与えられた弁開度の目標値SPに基づいて、調節弁3を操作するための電気信号MVを生成するとともに、上位システム4からのPSTの実行の指示に応じて、PSTに関する各種データ処理を行い、そのデータ処理の結果に基づいて電気信号MVを生成する。データ処理制御部10の具体的な構成については後述する。
【0037】
電空変換部11は、データ処理制御部10によって生成された電気信号MVを、空気信号に変換する空気回路である。例えば、電空変換部11は、ノズルフラッパ12と空気圧増幅部13とから構成されている。
【0038】
ノズルフラッパ12は、ポジショナ1の外部に設けられた減圧弁等の空気圧供給源(図示せず)からポジショナ1に供給された空気(エアー)5の圧力(以下、「供給空気圧」と称する。)Psを電気信号MVに応じて変化させることにより、電気信号MVに応じた圧力の空気信号Scを生成する。
【0039】
例えば、ノズルフラッパ12は、一端に固定絞りを介して供給空気圧Psの空気5が供給され、他端から空気圧力信号Scを出力するノズルと、電気信号MVに応じて磁界を変化させるコイルと、当該コイルによる磁界の変化に応じて揺動することにより、上記ノズルから出力される空気信号Scの圧力を変化させるフラッパ(鉄片)とから構成されている。以下、空気信号Scの圧力Pnを「ノズル背圧Pn」と称する。
【0040】
空気圧増幅部13は、電空変換部12によって生成された空気信号Scを増幅することにより、操作器2Bを駆動するための出力空気信号Soを生成する機能部である。例えば、空気圧増幅部13は、よく知られた単動型のパイロットリレー、または単動と複動の切替機能を有するパイロットリレーであり、供給空気圧Psの空気5を、ノズルフラッパ12から出力された空気信号Scの圧力Pnに応じて調圧することにより、出力空気信号Soを夫々生成する。
【0041】
圧力センサ14〜16は、ポジショナ1における各種の空気圧力を計測するための部品である。具体的に、圧力センサ14は空気信号Scのノズル背圧Pnを検出し、圧力センサ15は出力空気信号Soの出力空気圧Poを検出し、圧力センサ14はエアー5の供給空気圧Psを検出する。
【0042】
表示部18は、例えばデータ処理制御部10によって制御され、各種の情報を表示するための機能部である。表示部18としては、例えば液晶ディスプレイ等を例示することができる。表示部18が、例えばPSTの実行結果等を表示することにより、ユーザに対して必要な情報を提示することができる。
【0043】
次に、データ処理制御部10の具体的な構成について説明する。
図2は、実施の形態1に係るポジショナのデータ処理制御部10の構成を示す図である。
【0044】
データ処理制御部10は、CPUとRAMおよびROM等の各種メモリとを搭載したマイクロコントローラ(MCU)等のプログラム処理装置と、外部に対する信号の入力および出力を実現するための各種インターフェース回路と、外部から入力される各種のアナログ信号をディジタル信号に変換して上記プログラム処理装置に入力するためのA/D変換回路と、上記プログラム処理装置によるデータ処理結果に基づくディジタル信号を4〜20mAのアナログ信号に変換するためのD/A変換回路等を含む電子回路(ハードウェア資源)によって実現されている。
【0045】
具体的に、データ処理制御部10は、
図2に示すように、PST実行部30と、動作点探索部20と、記憶部40とを備えている。ここで、上述のPST実行部30、動作点探索部20、および記憶部40は、上述したハードウェア資源と、当該ハードウェア資源と協働して各種機能を実現させるプログラム(ソフトウェア)とによって実現されている。
【0046】
なお、
図2には、データ処理制御部10を構成する各種機能部のうち、上述したPSTを実現するための機能部のみが図示され、その他の機能を実現するための機能部については図示を省略している。また、
図2では、データ処理制御部10から出力される電気信号MVとして、PST処理部30から出力される電気信号を“MV_PSTと表記し、動作点探索部20から出力される電気信号を“MV_OPと表記している。
【0047】
PST処理部30は、PSTを実行するための機能部である。PST処理部30は、後述する動作点探索部20によって探索された動作点を用いて、後述する記憶部40に記憶されたPST条件400に従って調節弁3を操作することにより、PSTを実行する。なお、以下の説明では、PST処理部30は、コントローラ6から与えられる弁開度の目標値SPではなく、記憶部40に記憶されたPST条件400に基づいて、自ら弁開度の目標値SPを変化させてPSTを実行するものとして説明する。
【0048】
PSTは、例えば、調節弁3が全開の状態、すなわち調節弁3の実開度が100%の状態から、調節弁3の実開度が90%になるまで徐々に弁を閉じ、その後、弁を徐々に開けることにより、実開度を再び100%の状態まで遷移させることによって行われる。このとき、PST処理部30は、PID制御(フィードバック制御)によって調節弁3を操作する。具体的には、PST処理部30は、後述する動作点探索部20によって動作点が決定された後、その動作点を初期値として弁開度の目標値SPを変化させるとともに、弁開度検出部17による検出結果SENに基づいて調節弁3の弁開度の実測値PVを算出し、その実測値PVが弁開度の目標値SPと一致するように電気信号MVを生成して、PSTを実行する。
【0049】
記憶部40は、PSTを実行するためのプログラムや各種パラメータ等を記憶するための機能部である。例えば、記憶部40には、上述したPST処理部30がPSTを実行するときに利用する、PSTの処理手順やPST実行時の弁開度の変化率等の情報を含むPST条件データ400の他に、後述する動作点探索部20による動作点探索処理で利用されるMV変化率データ401およびPo基準値データ402や、動作点探索部20によって決定された動作点の情報を含む動作点データ403等が記憶される。
【0050】
ここで、MV変化率データ401は、後述の動作点探索部20が動作点を探索するために電気信号MVを変化させるときの、電気信号MVの変化率の情報(例えば、後述する単位ステップρ1,関数ρ(t)等)を含む。また、Po基準値データ402は、動作点探索部20が動作点を決定する際に基準となる出力空気圧Poの値(後述する基準値Po_th,閾値d_th等)の情報を含む。
【0051】
動作点探索部20は、上位システム4からのPSTの実行の指示に応じて、調節弁3の動作点を決定するための動作点探索処理を行う機能部である。動作点探索部20は、上位システム4からPSTの実行の指示を受けると、電気信号MV_OPを生成し、電空変換部11に入力することにより、動作点を探索する。具体的に、動作点探索部20は、オープンループ制御によって電気信号MVを変化させることにより、電空変換部11から出力される空気圧信号Soの出力空気圧Poを変化させ、出力空気圧Poが所定の基準値と一致したときの電気信号MVの値を動作点とする。すなわち、動作点探索部20は、PST処理部30のように、弁開度検出部17の検出結果SENに基づいて算出した調節弁3の弁開度の実測値(実開度)PVが、コントローラ6から与えられた弁開度の目標値SPと一致するように電気信号MVを生成するフィードバック制御は行わない。
【0052】
図3は、実施の形態1に係るポジショナによる動作点探索処理の一例を示す図である。
例えば、
図3に示されるように、動作点探索処理部20は、上位システム4からPSTの実行の指示を受けると、出力空気信号Soの出力空気圧Poが所定の基準値と一致するまで、電空変換部11に入力する電気信号MV_OPを一定の変化率(傾き)で低下させる。そして、出力空気信号Soの出力空気圧Poが所定の基準値と一致したときの電気信号MV_OPを動作点とし、動作点データ403を記憶部40に記憶する。
【0053】
図2に示されるように、動作点探索部20は、上述の動作点探索処理を実現するための機能部として、電気信号生成部21、動作点決定部22、および出力空気圧判定部23を含む。
【0054】
電気信号生成部21は、例えば上位システム4からPSTの実行指示が入力された場合に、電気信号MV_OPを生成する。具体的に、電気信号生成部21は、PSTの実行指示が入力されると、電気信号MVを生成するとともに、記憶部40に記憶されたMV変化率データ401に従って所定の変化率で電気信号MVの大きさを変化させる。
【0055】
出力空気圧判定部23は、圧力センサ15によって検知された出力空気圧Poが所定の基準値に一致するか否かを判定する機能部である。出力空気圧判定部23による判定手法は特に限定さないが、下記に示す手法を例示することができる。
【0056】
例えば、出力空気圧判定部23は、上位システム4からPSTの実行指示が入力されると、圧力センサ15よって検知された出力空気圧Poを監視し、出力空気圧PoがPo基準値データ402に基づく基準値Po_thと一致した場合に、一致したことを示す信号を出力してもよい。あるいは、出力空気圧判定部23は、上位システム4からPSTの実行指示が入力されると、その時の出力空気圧Poを初期値Po(0)として記憶するとともに、初期値Po(0)に対する出力空気圧Poの変化量dがPo基準値データ402に基づく閾値d_thを超えたことを検出したら、そのことを示す信号を出力してもよい。
【0057】
なお、本実施の形態では、一例として、出力空気圧判定部23が、後者の判定方法によって、出力空気圧Poが所定の基準値に一致したか否かを判定するものして説明する。
【0058】
動作点決定部22は、出力空気圧判定部23によって出力空気圧Poが所定の基準値に一致したと判定されたとき、そのときの電気信号MV_OPの値を動作点とし、その動作点の情報を動作点データ403として記憶部40に記憶する。なお、動作点データ403として記憶部40に記憶される情報は、電気信号MV_OPの値であってもよいし、その電信号MV_OPに対応する弁開度の目標値SPであってもよい。
【0059】
次に、実施の形態1に係るポジショナ1によるPST処理の流れについて説明する。
図4は、実施の形態1に係るポジショナ1によるPST処理の流れを示すフロー図である。
【0060】
先ず、ポジショナ1は、例えば上位システム4からPSTの実行指示が入力されると、動作点探索処理を実行し、動作点を決定する(S1)。
【0061】
次に、ステップS1において動作点が決定したら、ポジショナ1は、その動作点を用いてPSTを実行する(S2)。具体的には、上述したように、ポジショナ1のPST処理部30が、ステップS1において決定した動作点を初期値として弁開度の目標値SPを変化させるとともに、弁開度検出部17による検出結果SENに基づいて調節弁3の弁開度の実測値PVを算出し、その実測値PVが弁開度の目標値SPと一致するように電気信号MVを生成して、PSTを実行する。
以上の処理手順により、調節弁3のテストとしてのPSTが実行される。
【0062】
次に、動作点探索処理(ステップS1)の流れについて説明する。ここでは、
図3に示したように電気信号MV_OPを一定の変化率で低下させて動作点を探索する場合を例にとり説明する。
【0063】
図5は、実施の形態1に係るポジショナによる動作点探索処理(ステップS1)の流れを示すフロー図である。
ポジショナ1が上位システム4からPSTの実行指示を受け取ると、先ず、ポジショナ1における出力空気圧判定部23が、そのときの出力空気圧Poの値を出力空気圧の初期値Po(0)として、記憶部40に記憶する(S11)。
【0064】
次に、電気信号生成部21が、電気信号MV_OPを生成する(S12)。具体的には、電気信号生成部21は、直前の電気信号MV_OPの値(MV_OP(t−1))から単位ステップρだけ減算した値を電気信号MV_OP(t)として電空変換部11に与える。
【0065】
次に、出力空気圧判定部23が出力空気圧Poの変化量d(t)を算出する(S13)。具体的には、ステップS11において記憶部40に記憶した初期値Po(0)の値から、そのときの出力空気圧Poの値Po(t)を減算することによって、出力空気圧Poの変化量d(t)を算出する。
【0066】
次に、出力空気圧判定部23が、ステップS13で算出した出力空気圧Poの変化量d(t)が閾値d_thを超えているか否かを判定する(S14)。ステップS14において、出力空気圧Poの変化量d(t)が閾値d_thを超えていない場合には、ステップS12に戻り、出力空気圧Poの変化量d(t)が閾値d_thを超えるまで、ステップS12〜S14の処理が繰り返し実行される。
【0067】
ステップS14において、出力空気圧Poの変化量d(t)が閾値d_thを超えている場合には、出力空気圧判定部23がそのことを示す信号を出力し、当該信号を受けた動作点決定部22が、そのときの電気信号MV_OP(t)を動作点として決定する(S15)。このとき、動作点決定部22は、上述したように、決定した動作点の情報を動作点データ403として記憶部40に記憶する。以上の処理により、ポジショナ1の動作点を探索することができる。
【0068】
以上、実施の形態1に係るポジショナ1によれば、緊急弁等の調節弁のPSTを実行する前に、ポジショナ1の動作点を知ることができるので、PSTを実行する際に、探索した動作点を弁開度の初期値として設定すれば、経年劣化等によって動作点が設計値からずれている場合であっても、初期値を設定したことによって緊急遮断弁の出力空気圧Poが最大値(実開度100%)から最低値(実開度0%)まで急激に変化することを防ぐことができる。
【0069】
また、ポジショナ1によれば、オープンループ制御によって電気信号MV(弁開度の目標値)を所定の変化率で変化させ、出力空気圧Poが所定の基準値に達したときの電気信号MVの値に基づいて動作点を決定するので、従来のようにフィードバック制御によって弁開度の目標値を100%から徐々に低下させてPSTを実行する場合に比べて、PSTに要する時間をより短くすることができる。
【0070】
したがって、実施の形態1に係るポジショナ1によれば、PSTを安全且つ効率的に行うことが可能となる。
【0071】
なお、実施の形態1では、電気信号MV_OPを一定の変化率(傾き)で変化させて動作点を探索する場合を例示したが(
図3参照)、これに限られず、
図6に示すように、電気信号MV_OPの変化率が徐々に減少するように、電気信号MV_OPを変化させて動作点を探索してもよい。この場合の処理フローは、
図7に示すように、上述した電気信号MV_OPを一定の変化率で変化させる場合の処理フロー(
図5)と全体的な流れは同様であり、電気信号MV_OPの生成ステップ(S12)のみが相違する。具体的には、
図7のステップS12aに示すように、電気信号生成部21は、直前の電気信号MV_OPの値(MV_OP(t−1))から関数ρ(t)を減算した値を電気信号MV_OP(t)として電空変換部11に与える。ここで、関数ρ(t)のパラメータは、MV変化率データ401として記憶部40に記憶された情報であり、電気信号MV_OPについて所望の変化率が得られるように任意に設定すればよい。
【0072】
≪実施の形態2≫
図8は、実施の形態2に係るポジショナのデータ処理制御部の構成を示す図である。
実施の形態2に係るポジショナのデータ処理制御部10Aは、動作点を探索する際、電空変換部11に入力する電気信号MV_OPの変化率を複数段階に分ける点において、実施の形態1に係るポジショナのデータ処理制御部10と相違し、その他の点は実施の形態1に係るポジショナと同様である。
なお、
図8には、実施の形態2に係るポジショナ1Aのうち、実施の形態1に係るポジショナ1と相違するデータ処理制御部10Aの構成のみが図示され、その他の実施の形態1に係るポジショナ1と共通する機能部については図示を省略している。
【0073】
図9は、実施の形態2に係るポジショナによる動作点探索処理の一例を示す図である。
例えば、
図9に示されるように、実施の形態2に係るポジショナのデータ処理制御部10Aは、先ず、電空変換部11に入力する電気信号MV_OPを第1変化率A1で変化させ、ノズル背圧Pnが所定の基準値と一致したら、出力空気圧Poが所定の基準値と一致するまで、電気信号MV_OPを第1変化率A1よりも小さい第2変化率A2で変化させる。そして、出力空気圧Poが所定の基準値と一致したときの電気信号MV_OPを動作点と決定し、動作点データ403として記憶部40に記憶する。
【0074】
具体的に、データ処理制御部10Aは、
図8に示すように、動作点探索部20Aとして、電気信号生成部21A、動作点決定部22、出力空気圧判定部23、およびノズル背圧判定部24を備える。なお、データ処理制御部10Aにおいて、実施の形態1に係るポジショナのデータ処理制御部10と同様の構成要素には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0075】
ノズル背圧判定部24は、圧力センサ14によって検知されたノズル背圧Pnが所定の基準値に一致するか否かを判定する機能部である。ノズル背圧判定部24による判定手法は特に限定さないが、下記に示す手法を例示することができる。
【0076】
例えば、ノズル背圧判定部24は、上位システム4からPSTの実行指示が入力されると、圧力センサ14によって検知されたノズル背圧Pnを監視し、ノズル背圧PnがPn基準値データ404に基づく基準値Pn_thと一致した場合に、一致したことを示す信号を出力してもよい。
【0077】
あるいは、ノズル背圧判定部24は、例えば、上位システム4からPSTの実行指示が入力されると、圧力センサ14によって検知されたノズル背圧Pnと圧力センサ16によって検知された供給空気圧Psとを監視し、供給空気圧Psに対するノズル背圧Pnの変化量r(=Pn/Ps)を算出する。そして、ノズル背圧Pnの変化量rが記憶部40に記憶されたPn基準値データ404に基づく閾値r_thを超えたことを検出したら、そのことを示す信号を出力してもよい。
【0078】
ここで、Pn基準値データ404は、動作点探索部20Aが動作点を決定する際に基準となるノズル背圧Pnの値(後述する基準値Pn_th,閾値r_th等)の情報を含み、Po基準値データ402と同様に、記憶部40に記憶されている。
【0079】
なお、本実施の形態では、一例として、ノズル背圧判定部24が、上述した後者の判定方法によって、ノズル背圧Pnが所定の基準値に一致するか否かを判定するものして説明する。
【0080】
電気信号生成部21Aは、例えば上位システム4からPSTの実行指示が入力された場合に、電気信号MV_OPを生成する。具体的に、電気信号生成部21Aは、PSTの実行指示が入力されると、電気信号MVを生成するとともに、記憶部40に記憶された第1MV変化率データ401_1に従って第1変化率で電気信号MVの大きさを変化させる。その後、ノズル背圧判定部24によってノズル背圧Pnが所定の基準値に一致したことが検出されたら、記憶部40に記憶された第2MV変化率データ401_2に従って第2変化率で電気信号MVの大きさを変化させる。
【0081】
ここで、第1MV変化率データ401_1および第2MV変化率データ401_2は、前述のMV変化率データ401と同様に、動作点探索処理において電気信号MV_OPを変化させるときの、電気信号MV_OPの変化率を示す情報(例えば、後述する単位ステップρ1,ρ2)を夫々含む。ここで、第2MV変化率データ401_2に基づく電気信号MV_OPの第2変化率A2は、第1MV変化率データ401_1に基づく電気信号MV_OPの第1変化率A1よりも小さい(A2<A1)。
【0082】
次に、ステップS1の動作点探索処理の流れについて説明する。ここでは、
図9に示したように電気信号MV_OPを2段階に分けて変化させて動作点を探索する場合を例にとり説明する。
【0083】
図10は、実施の形態2に係るポジショナによる動作点探索処理の流れを示すフロー図である。
ポジショナがPSTの実行指示を受け取ると、先ず、出力空気圧判定部23が、そのときの出力空気圧Poの値を出力空気圧の初期値Po(0)として、記憶部40に記憶する(S21)。
【0084】
次に、電気信号生成部21Aが電気信号MV_OPを生成する(S22)。このとき、電気信号生成部21Aは、オープンループ制御によって電気信号MV_OPを生成する。具体的には、
図9に示すように、電気信号生成部21Aは、記憶部40から第1MV変化率データ401_1を読み出し、第1MV変化率データ401_1に従ってオープンループ制御によって電気信号MV_OPを生成する。例えば、電気信号生成部21Aは、直前の電気信号MV_OPの値(MV_OP(t−1))から、第1MV変化率データ401_1に基づく単位ステップρ1だけ減算した値を電気信号MV_OP(t)として電空変換部11に与える。
【0085】
次に、出力空気圧判定部23が出力空気圧Poの変化量d(t)を算出する(S23)。具体的には、ステップS21において記憶部40に記憶した初期値Po(0)の値から、そのときの出力空気圧Poの値Po(t)を減算することによって、出力空気圧Poの変化量d(t)を算出する。
【0086】
次に、出力空気圧判定部23が、ステップS23で算出した出力空気圧Poの変化量d(t)が、記憶部40に記憶されたPo基準値データ402に基づく閾値d_thを超えているか否かを判定する(S24)。ステップS24において、出力空気圧Poの変化量d(t)が閾値d_thを超えている場合には、出力空気圧判定部23がそのことを示す信号を出力し、当該信号を受けた動作点決定部22が、そのときの電気信号MV_OP(t)を動作点として決定する(S30)。このとき、動作点決定部22は、上述したように、決定した動作点の情報を動作点データ403として記憶部40に記憶する。
【0087】
一方、ステップS24において、出力空気圧Poの変化量d(t)が閾値d_thを超えていない場合には、ノズル背圧判定部24が、供給空気圧Psに対するノズル背圧Pnの変化量r(t)=Pn(t)/Ps(t)を算出する(S25)。
【0088】
次に、ノズル背圧判定部24が、ステップS25で算出したノズル背圧Pnの変化量r(t)が記憶部40に記憶されたPn基準値データ404に基づく閾値r_thを超えているか否かを判定する(S26)。ステップS26において、ノズル背圧Pnの変化量r(t)が閾値r_thを超えていない場合には、ステップS22に戻り、ノズル背圧Pnの変化量r(t)が閾値r_thを超えるまで、S22〜S26の処理が繰り返し実行される。
【0089】
ステップS26において、ノズル背圧Pnの変化量r(t)が閾値r_thを超えている場合には、ノズル背圧判定部24がそのことを示す信号を出力し、当該信号を受けた電気信号生成部21が、電気信号MV_OPの変化率を変更する(S27)。例えば、電気信号生成部21Aは、直前の電気信号MV_OPの値(MV_OP(t−1))から、第2MV変化率データ401_2に基づく単位ステップρ2(<ρ1)だけ減算した値を電気信号MV_OP(t)として電空変換部11に与える。
【0090】
次に、出力空気圧判定部23が出力空気圧Poの変化量d(t)を算出する(S28)。算出方法は、ステップS23と同様である。
【0091】
次に、出力空気圧判定部23が、ステップS28で算出した出力空気圧Poの変化量d(t)が記憶部40に記憶されたPo基準値データ402に基づく閾値d_thを超えているか否かを判定する(S29)。ステップS29において、出力空気圧Poの変化量d(t)が閾値d_thを超えていない場合には、ステップS27に戻り、出力空気圧Poの変化量d(t)が閾値d_thを超えるまで、ステップS27〜S29の処理が繰り返し実行される。
【0092】
ステップS29において、出力空気圧Poの変化量d(t)が閾値d_thを超えている場合には、出力空気圧判定部23がそのことを示す信号を出力し、当該信号を受けた動作点決定部22が、そのときの電気信号MV_OP(t)を動作点として決定する(S30)。このとき、動作点決定部22は、上述したように、決定した動作点の情報を動作点データ403として記憶部40に記憶する。
以上の処理により、ポジショナの動作点を探索することができる。
【0093】
以上、実施の形態2に係るポジショナによれば、実施の形態1に係るポジショナと同様に、緊急弁等の調節弁のPSTを実行する前にポジショナ1の動作点を知ることができるので、PSTを安全且つ効率的に行うことが可能となる。
【0094】
また、実施の形態2に係るポジショナによれば、動作点を探索する際に、ノズル背圧Pnが所定の基準値を超えるまでは第1変化率A1で電気信号MV_OPを変化させ、ノズル背圧Pnが所定の基準値を超えた後は、第1変化率A1よりも小さい第2変化率A2で電気信号MV_OPを変化させるので、動作点を見つけるまでの時間を短縮することができる。例えば、ノズル背圧Pnの基準値(Pn_th,r_th)を、出力空気圧Poが変化し始める直前のノズル背圧Pnの値に設定することにより、出力空気圧Poが変化し始める直前までは、電気信号MVを高速に変化させることが可能となる。
【0095】
また、上述したように電空変換部11の空気圧増幅部13(パイロットリレー)の入出力特性(Pn−Po特性)は、ノズルフラッパ12の入出力特性(MV−Pn特性)に比べて、経年劣化等による設計値からのずれが小さいので、ノズル背圧Pnの基準値(Pn_th,r_th)を、Pn−Po特性の設計値に基づいて決定しても、電気信号MVを高速に変化させたときに出力空気圧Poが急激に変化する可能性は低い。
【0096】
したがって、実施の形態2に係るポジショナによれば、より短時間且つ安全に、動作点を探索することが可能となる。
【0097】
≪実施の形態3≫
図11は、実施の形態3に係るポジショナを含むバルブ制御システムの構成を示す図である。
実施の形態3に係るポジショナ1Bは、入力された2つの空気信号の圧力差に応じて調節弁3の弁軸の操作量が決まる構造を有する複動式の操作器2Bを駆動する複動用のポジショナである点において、実施の形態2に係るポジショナ1Aと相違する。なお、実施の形態3に係るポジショナ1Bにおいて、実施の形態2に係るポジショナ1Aと同様の構成要素には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0098】
具体的に、実施の形態3に係るポジショナ1Bは、空気圧増幅部13Bから出力される操作器2Bを駆動するための一対の出力空気信号So1,So2の夫々の出力空気圧Po1,Po2を検知する圧力センサ15_1,15_2を更に備える。
【0099】
図12は、実施の形態3に係るポジショナのデータ処理制御部の内部構成を示す図である。
実施の形態3に係るポジショナ1Bのデータ処理制御部10Bにおいて、動作点探索部20Bは、差圧算出部25を更に有する。差圧算出部25は、出力空気圧Po1と出力空気圧Po2との差圧を算出する。差圧算出部25によって算出された差圧は、出力空気圧Poとして出力空気圧判定部23に入力され、実施の形態2に係るポジショナ1Aと同様に、動作点探索処理に用いられる。
【0100】
以上、実施の形態3に係る複動型のポジショナによれば、実施の形態1,2に係る単動型のポジショナと同様に、PSTを安全且つ効率的に行うことが可能となる。
【0101】
以上、本発明者らによってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明はそれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。
【0102】
例えば、上記実施の形態において、電空変換部11は、空気信号Scおよび出力空気信号Soを生成することができる構成であればよく、上述した構成(
図1参照)に限定されるものではない。
【0103】
また、実施の形態2において、電気信号MVの直線的(リニア)な変化率を2段階に変化させる場合を例示したが、これに限られない。例えば、動作点探索時に、ノズル背圧Pn(t)が基準値Pn_th(r_th)と一致するまでは、
図6のように変化率が徐々に減少するように2次関数的に電気信号MV_OPを変化させ、ノズル背圧Pn(t)が基準値Pn_th(r_th)と一致したら、電気信号MV_OPを直線的に変化させてもよい。
【0104】
また、実施の形態3では、実施の形態2に係るポジショナ1Aに複動式の操作器を駆動するための機能部(空気圧増幅部13B、圧力センサ15_1,15_2、差圧算出部25)を盛り込む場合を例示したが、実施の形態1に係るポジショナ1に、複動式の操作器を駆動するための機能部を盛り込んでもよい。