特許第6671225号(P6671225)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6671225
(24)【登録日】2020年3月5日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】煙感知器の作動試験器
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/53 20060101AFI20200316BHJP
   G08B 17/00 20060101ALI20200316BHJP
   G08B 17/10 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
   G01N21/53 D
   G08B17/00 K
   G08B17/10 L
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-83907(P2016-83907)
(22)【出願日】2016年4月19日
(65)【公開番号】特開2017-194320(P2017-194320A)
(43)【公開日】2017年10月26日
【審査請求日】2018年11月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】510103440
【氏名又は名称】吉本 泰一郎
(73)【特許権者】
【識別番号】000003403
【氏名又は名称】ホーチキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】吉本 泰一郎
【審査官】 中澤 真吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭51−131688(JP,A)
【文献】 特開昭53−058796(JP,A)
【文献】 特開2013−127766(JP,A)
【文献】 特開2011−238166(JP,A)
【文献】 特開2011−002809(JP,A)
【文献】 特開2005−320436(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/017591(WO,A1)
【文献】 登録実用新案第3097430(JP,U)
【文献】 韓国登録特許第10−0849941(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/01
21/17−21/61
G08B 17/00−17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に開口部を有し、前記開口部に煙感知器を挿入して前記煙感知器を覆い、前記煙感知器と前記煙感知器が取付けられている天井との隙間をなくす感知器カバーと、
前記感知器カバーの開口部の反対側に配置され、前記感知器カバー内部に煙を放出する水溶性物質の固形化物又はジェル化物からなる作動試験器用発煙組成物を含む発煙剤を保持する発煙部と、
前記作動試験器用発煙組成物を含む発煙剤を発煙させる発煙駆動部を有し、
前記発煙駆動部が、前記水溶性物質に対して触媒として働き、前記水溶性物質の分解反応に伴う反応熱を発生させ、その反応熱を駆動力にして前記水溶性物質をさらに分解、発熱、発煙を生成する金属触媒(白金)の棒体を用い、前記棒体を発煙剤に挿入する形に設けて発煙剤と接触、発熱させ、煙を発生させることを特徴とする煙感知器の作動試験器。
【請求項2】
前記発煙駆動部が、前記水溶性物質に対して触媒として働き、前記水溶性物質の分解反応に伴う反応熱を発生させ、その反応熱を駆動力にして前記水溶性物質をさらに分解、発熱、発煙を生成する金属触媒(白金)を用い、前記金属触媒を前記発煙剤の外囲に設けて発煙剤と接触、発熱させ、煙を発生させることを特徴とする請求項1に記載の煙感知器の作動試験器。
【請求項3】
一端に開口部を有し、前記開口部に煙感知器を挿入して前記煙感知器を覆い、前記煙感知器と前記煙感知器が取付けられている天井との隙間をなくす感知器カバーと、
前記感知器カバーの開口部の反対側に配置され、前記感知器カバー内部に煙を放出する水溶性物質の固形化物又はジェル化物からなる作動試験器用発煙組成物を含む発煙剤を保持する発煙部と、
前記作動試験器用発煙組成物を含む発煙剤を発煙させる発煙駆動部を有し、
前記発煙駆動部が、前記発煙剤の直上に抵抗加熱ヒーターを設け、前記発煙剤の表面を加熱して発煙させることを特徴とする煙感知器の作動試験器。
【請求項4】
前記作動試験器の動作時には、前記発煙剤と発煙駆動部が、熱的に接触状態を形成するように、前記作動試験器内に配置されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の煙感知器の作動試験器。
【請求項5】
前記発煙組成物が、不燃性で、
前記水溶性物質が、水、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、オキシエチレンオキシプロピレングリコールモノエーテル、ポリオキシプロピレン誘導体、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン誘導体、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ブロックポリマー、グリセリン、グリコールエーテル系化合物の少なくとも1種であり、
前記ジェル化物が、前記水を除いた水溶性物質が水を含むことによりジェル状に自己硬化した物質で、
前記固形化物が、前記水溶性物質が水及び増粘剤を含むことにより自己硬化した物質であることを特徴とする請求項1に記載の煙感知器の作動試験器。
【請求項6】
前記増粘剤が、ゼラチン、多糖類セルロース、ぺプチン、グアーガム、キサンタンガム、カラギーナン、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、合成ケイ酸ナトリウム・マグネシウム、ジメチルジステアリルアンモニウムヘクトライト、シクロデキストリン、ビニル系化合物、ビニリデン系化合物、ポリエステル系化合物、ポリグリコール系化合物、ポリビニルアルコール系化合物、ポリアルキレンオキサイド系化合物、ポリアクリル酸系化合物の少なくとも1種であることを特徴とする請求項5に記載の煙感知器の作動試験器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、煙感知器の作動試験に際して使用される、特別な試験器を使用する必要がなく、きわめて短時間で正確に試験し得る煙感知器作動試験用発煙剤を供する発煙組成物、及びこの発煙剤を使用した煙感知器の作動試験器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
火災の際に発生する煙を早期に感知して、非常ベルなどを作動させて火災の発生を通報するイオン式煙感知器や光電式煙感知器などの煙感知器は、その設置個所において、その作動を定期的に確認するための作動試験を行う必要がある。
【0003】
したがって、その試験に使用する試験手段が多く提案されている。
その代表的な煙感知器作動試験器は、試験用ガスを充填したガスボンベを組み込んだものが用いられていた(例えば、特許文献1から4など参照)。
【0004】
この試験用ガスには、従来特定フロンガスであるフロン12(ジクロロジフルオロカーボン)に0.01〜10重量%の流動パラフィンが混入された試験用ガスが充填されていたが、オゾン層破壊効果の観点から代替フロンへの転換がなされ、代替フロンの一種であるハイドロフルオロカーボン(以下、HFCと称す)やハイドロクロロフルオロカーボン(以下、HCFCと称す)に0.01〜10重量%の流動パラフィン、あるいはグリコールを混入したガス(特許文献5参照)が開示されている。
【0005】
また、ガスを使用しない煙感知器作動試験器として、油を用いた液体式加煙試験器(特許文献6参照)、流動パラフィン(液体)を用いた液体式の作動試験器(特許文献7参照)、発熱、発煙剤に固体の工業用線香を用いた固体式作動試験器(例えば、特許文献8、9、10参照)、毛細現象を利用して供給可能な程度の流動性を持つ水又は水を含んだグリセリン及びプロピレングリコールの混合剤を発煙剤とする加煙試験器(特許文献11、12参照)、グリセリンやプロピレングリコールなどの親水性を有し、保水性の高い水溶性液体を空孔内に含浸した不燃性フィルタをヒーターに当接又は近接配置した加煙試験器具(特許文献13参照)が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−303298号公報
【特許文献2】実開平3−97791号公報
【特許文献3】実開昭63−179594号公報
【特許文献4】実開昭57−65491号公報
【特許文献5】特開平8−77472号公報
【特許文献6】特開平6−309577号公報
【特許文献7】特許5131626号公報
【特許文献8】実開昭62−75594号公報
【特許文献9】特開昭56−47897号公報
【特許文献10】実開昭63−183693号公報
【特許文献11】特開2013−182520号公報
【特許文献12】特開2012−173917号公報
【特許文献13】特開2013−127766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ガスボンベを使用する煙感知器作動試験器で用いられるHCFCは、分子内に塩素原子を有することからオゾン層破壊物質に指定され、又HFCは、温暖化係数が高いことから地球温暖化対策により、その代替物が希求されていた。
また、液体発煙物は移動時、作動時の液漏れ等の安全性等に不都合な点を多々有し、作動試験器の機構からは解決が困難であった。
【0008】
さらに、特許文献5に示されるガスを使用して試験する場合、HFCやHCFCと、添加剤の流動パラフィンとの馴染み性が悪いために、1回の噴射では試験の結果が得られず数回の噴射で初めて煙感知器が作動することがあり、正確な試験結果は得られるが、多数の煙感知器を一度に試験するには試験作業にかなりの手間と時間を必要となっている。
【0009】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決するためになされたものであって、HFCやHCFCのフロンなどの噴射ガス種を用いずに、安全性が高く、取扱いも容易で、短時間に試験作業を完了し得る煙感知器作動試験用発煙剤の発煙組成物、および煙感知器作動試験用器具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の発明は、一端に開口部を有し、前記開口部に煙感知器を挿入して前記煙感知器を覆い、前記煙感知器と前記煙感知器が取付けられている天井との隙間をなくす感知器カバーと、前記感知器カバーの開口部の反対側に配置され、前記感知器カバー内部に煙を放出する水溶性物質の固形化物又はジェル化物からなる作動試験器用発煙組成物を含む発煙剤を保持する発煙部と、前記作動試験器用発煙組成物を含む発煙剤を発煙させる発煙駆動部を有し、前記発煙駆動部が、前記水溶性物質に対して触媒として働き、前記水溶性物質の分解反応に伴う反応熱を発生させ、その反応熱を駆動力にして前記水溶性物質をさらに分解、発熱、発煙を生成する金属触媒(白金)の棒体を用い、前記棒体を発煙剤に挿入する形に設けて発煙剤と接触、発熱させ、煙を発生させることを特徴とする煙感知器の作動試験器である。
【0011】
本発明の第2の発明は、第1の発明における発煙駆動部が、前記水溶性物質に対して触媒として働き、前記水溶性物質の分解反応に伴う反応熱を発生させ、その反応熱を駆動力にして前記水溶性物質をさらに分解、発熱、発煙を生成する金属触媒(白金)を用い、前記金属触媒を前記発煙剤の外囲に設けて発煙剤と接触、発熱させ、煙を発生させることを特徴とする煙感知器の作動試験器である。
【0012】
本発明の第3発明は、一端に開口部を有し、前記開口部に煙感知器を挿入して前記煙感知器を覆い、前記煙感知器と前記煙感知器が取付けられている天井との隙間をなくす感知器カバーと、前記感知器カバーの開口部の反対側に配置され、前記感知器カバー内部に煙を放出する水溶性物質の固形化物又はジェル化物からなる作動試験器用発煙組成物を含む発煙剤を保持する発煙部と、前記作動試験器用発煙組成物を含む発煙剤を発煙させる発煙駆動部を有し、前記発煙駆動部が、前記発煙剤の直上に抵抗加熱ヒーターを設け、前記発煙剤の表面を加熱して発煙させることを特徴とする煙感知器の作動試験器である。
【0013】
本発明の第4の発明は、第1〜第3の発明における作動試験器の動作時には、前記発煙剤と発煙駆動部が、熱的に接触状態を形成するように、前記作動試験器内に配置されることを特徴とする煙感知器の作動試験器である。
【0014】
本発明の第5の発明は、第1の発明における発煙組成物が、不燃性で、前記水溶性物質が、水、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、オキシエチレンオキシプロピレングリコールモノエーテル、ポリオキシプロピレン誘導体、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン誘導体、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ブロックポリマー、グリセリン、グリコールエーテル系化合物の少なくとも1種であり、前記ジェル化物が、前記水を除いた水溶性物質が水を含むことによりジェル状に自己硬化した物質で、前記固形化物が、前記水溶性物質が水及び増粘剤を含むことにより自己硬化した物質であることを特徴とする煙感知器の作動試験器である。
【0015】
本発明の第6の発明は、第5の発明における増粘剤が、ゼラチン、多糖類セルロース、ぺプチン、グアーガム、キサンタンガム、カラギーナン、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、合成ケイ酸ナトリウム・マグネシウム、ジメチルジステアリルアンモニウムヘクトライト、シクロデキストリン、ビニル系化合物、ビニリデン系化合物、ポリエステル系化合物、ポリグリコール系化合物、ポリビニルアルコール系化合物、ポリアルキレンオキサイド系化合物、ポリアクリル酸系化合物の少なくとも1種であることを特徴とする煙感知器の作動試験器である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、煙感知器の作動試験器で使用される発煙剤にジェル状や固形状の発煙組成物を用いることによって、環境温暖化に影響を及ぼす代替フロンガスなどのガスを用いることなく煙感知器の作動試験が可能となり、環境破壊をしない作動試験器を提供できる。
また、本発明に係る発煙組成物は、水を水溶性物質に用いることでジェル化物又は固形化物とし、水溶性物質の発煙剤としての性能を生かし、且つ水の存在による火炎の発生を抑えることができ、発煙剤として固体であり、その取扱いを容易で、さらに人体にも安全で、さらに環境破壊をさせない優れた効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の煙感知器作動試験器の参考例を示す模式図である。
図2】本発明の煙感知器作動試験器の参考例を示す模式図である。
図3】本発明の煙感知器作動試験器の第一の実施例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
煙感知器の作動試験器においては、煙感知器の作動可否を試験するために煙もしくは疑似煙(例えば、霧状粒子、ミストなど)を発生させることが必要となっている。そのための発煙剤には、加熱を要するものとして、工業用線香のような固体発煙剤、液体発煙剤としては油脂、流動パラフィンなどが用いられている。一方、加熱を必要としない霧状粒子やミストを発生する噴射ガス式では流動パラフィンが多く用いられる。
【0019】
この加熱により発煙する作動試験器に使用される発煙剤には、容易に発煙する一方、火炎を発生しない性質、不燃性も必要であり、さらには発煙の制御が可能であることも必要である。
この容易に発煙するためには、作動試験器に組み込まれた加熱源の形状(コイルやワイヤ状、棒状、面状など)との親和性が高く、簡便且つ効率良く加熱されて発煙を生じる形態の発煙剤が望まれ、その形態としてジェル化物、さらには固形化物の発煙組成物が挙げられる。
また、容易には火炎を発生しない性質に対しては、水をジェル化物或いは固形化物にすること、即ち水と水溶性物質とで形成したジェル化物又は固形化物を、加熱源に接することによる水溶性物質の発熱、発煙が生じるが、水の存在下では火炎の発生は抑制されることに着目すると共に、加熱源との接触を制御することにより発煙の制御が可能である点にも着目し、本発明を完成したものである。
【0020】
このような状況において、本発明は発煙剤において、水と水溶性物質を含み、ジェル化物又は固形化物の形態を採る発煙組成物であり、この発煙組成物による発煙に適した構造の煙感知器作動試験器である。
以下、本発明の発煙組成物、ならびに煙感知作動試験器について詳述する。
【0021】
〔発煙組成物〕
本発明は、発煙剤を構成する発煙組成物に、水溶性物質に水を混ぜてジェル化した物質、又は固形化した物質を用いる。
具体的には、水を水溶性物質に加えることでジェル化物或いは固形化物の発煙剤として用いるものである。そこで、より具体的には、水と混合することにより、ジェル化又は固形化する水溶性物質、或いは、さらに増粘剤を加えることにより固形化する水溶性物質と、水、増粘剤の配合比率を、発煙剤の特性に対して適正配合とすることで、発煙剤が構成されるものである。
【0022】
本発明に係る発煙組成物に使用する水溶性物質としては、水を含むことにより自己硬化する物質が望ましく、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド(ポリエチレンオキシド、ポリオキシエチレンとも称す)、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、オキシエチレンオキシプロピレングリコールモノエーテル、ポリオキシプロピレン誘導体、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン誘導体、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ブロックポリマー、グリセリン、グリコールエーテル系化合物の少なくとも1種を用いる。
【0023】
固形化物を形成するための増粘剤としては、ゼラチン、多糖類セルロース、ぺプチン、グアーガム、キサンタンガム、カラギーナン、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、合成ケイ酸ナトリウム・マグネシウム、ジメチルジステアリルアンモニウムヘクトライト、シクロデキストリン、ビニル系化合物、ビニリデン系化合物、ポリエステル系化合物、ポリグリコール系化合物、ポリビニルアルコール系化合物、ポリアルキレンオキサイド系化合物、ポリアクリル酸系化合物の少なくとも1種を用いる。
その添加量は、0.1〜5.0重量%が固形化物の形成には望ましく、より好ましくは0.2〜2.0重量%である。
【0024】
次に、ジェル化物又は固形化物を形成するための上記水溶性物質と水、又は水溶性物質と水と増粘剤の配合比率は、用いる水溶性物質の分子量により適正配合比率が変化するが、分子量が大きいもの程、対水配合比を小さく(水溶性物質を少量とする)設定して発煙組成物を構成すると良い。
【0025】
〔作動試験器〕
図3は本発明における煙感知器の作動試験を行う作動試験器の構成の一例を示す模式図である。図1、2は参考図である。
図1、2、3において、1は部屋の天井2に設置された火災警報用の煙感知器である。そして、3a、3b、3cはこの煙感知器1を覆い、煙を放出して煙感知器1の周囲の雰囲気を煙で構成させる作動試験器である。この作動試験器3a、3b、3cは、その容器を構成し底辺部を有する本体部4と、この本体部4の上側の開口部に接続し弾性を持つ押付部5と、本体部4の底辺外側中心位置に接続して設けられた長い棒状体からなる把手棒6とからなっている。なお、押付部5は蛇腹状のゴム又は金属ベローにより形成されていて、押付け時に弾力をもって天井2との隙間をなくすものである。
【0026】
作動試験器3a、3b、3cの内部には、煙を放出する発煙剤10を設置した発煙部7と、発煙剤10と接触して発熱、発煙を促す発煙駆動部8が備えられている。
発煙剤10は、固形化物又はジェル化物であることから取り扱いが容易であり、発煙部7にセットされる形状の成形品での供給や、試験現場で発煙部7の所定位置に詰め込まれたり(図2図3)、カップ状の熱伝導性の良い発煙剤収納容器10aに充填された状態で取り扱われて発煙部7に容器ごとセットされ、発煙駆動部8で使用される(図1)。
発煙駆動部8は、発煙剤を加熱発煙させる場合では、電気加熱の抵抗加熱ヒーター9(金属発熱体を樹脂で被覆したシーズヒーター)などの直接発煙剤を加熱して、発熱、発煙させるもの(図2参照)や、水溶性物質に対して触媒として働き、水溶性物質の分解反応に伴う反応熱を発生させ、その反応熱を駆動力にして水溶性物質をさらに分解、発熱、発煙を生成する白金などの金属触媒を使用し、発煙剤10や発煙部7の外囲や、棒体(例えば、図3の符号8aに示す発煙触媒の「白金」棒体)として発煙剤10に挿入する形(図3参照)に設けて発煙剤と接触、発熱させ、煙を発生させる。あるいは、発煙剤10の直上に抵抗加熱ヒーターを設けることで発煙剤の表面を加熱して発煙させることでも良い。この電気加熱のためのスイッチ、電源などは、本体部4あるいは把手棒6の内部に設けられている。
さらに、図2図3の作動試験器3b、3cには発煙した煙を効率よく煙感知器1に誘導するようにファン20を設置することもできる。このファン20は、作動試験器3bでは電気加熱のためのスイッチ動作に連動して回転する構造となっている。
【0027】
抵抗加熱ヒーター9のスイッチは、例えば図1に見られるレバー11のように煙感知器1の所定位置に作動試験器3aが押付けられた場合に、レバー11が縮んでスイッチ(図示せず)が「ON」する形式、あるいは図2の作動試験器3bのように、スイッチ12が把手棒6の手元側(本体部4と結合する端部の逆側端部側)に設け、試験者がスイッチ12を「ON」、「OFF」することにより作動試験を行う形式で、いずれも温調装置(図示せず)を把持棒内外に組み込んで、発煙をコントロールするために抵抗加熱ヒーター9の温度制御を行うことも可能である。
【0028】
次に、図1、2、3の装置を用いて、その試験動作を説明する。
試験者は把手棒6の部分を持って、押付部5の開口部を煙感知器1の周囲の天井2にあてがい、押付部5の弾力を利用して作動試験器全体を押付ける。
この時、図1の作動試験器3aでは、押付け前はレバー11の先端は押付部5の自然高さより所定長だけ短くなっているから、この押付けによって作動試験器3aの内部上半分が密閉された状態で、レバー11が縮んでレバー11内に組み込まれたスイッチが入り、抵抗加熱ヒーター9が加熱されて発煙剤10を熱して煙を発生させることによって、煙が煙感知器1の周囲に漂うようになる。
また、図2の作動試験器3bでは、把手棒6の手元側に設けられたスイッチ12を入れることによって抵抗加熱ヒーター9の加熱を開始する。
さらに、図3の作動試験器3cでは、発煙駆動部8を発煙剤10の上部の所定位置にセットして、発煙触媒8a(例えば、白金棒等)を発煙剤10に埋没させ、その発煙駆動部8の上部に突出した発煙触媒8aを火炎で炙る、電気加熱などで暖め、発煙剤10との反応を開始することで、発煙剤を構成する水溶性物質が触媒反応を起こして分解、煙を発生させる。
【0029】
この煙は、煙感知器1の機能に対して、あたかも火災時の煙として作用するから、煙感知器1が正常な時はその旨の出力(例えば、発報)を送信することにより、煙感知器1が正常であることが分かる。逆に、煙感知器1が正常でない時は出力を送信しないから、煙感知器1が故障乃至不都合であることが判別できるようになる。そして、1つの煙感知器の試験が終了すると、把手棒6を下げることによって作動試験器3a、3b、3c全体を押付け状態から外してやると、作動試験器3aではレバー11が元の位置に戻り、内部のスイッチも解除されて抵抗加熱ヒーターの加熱も止まり、準備状態乃至次ぎの試験動作に移行することができるようになる。また作動試験器3b、3cでは、スイッチ12を切ることによって加熱を止めて、次の状態に移行できる。
なお、押付部5の全体を透明プラスチックのような弾性体で形成すると、発煙部7から煙が放出したか否かを試験者が目視で確認することができるので、好都合である。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を用いて本発明を説明する。
【実施例1】
【0031】
図3の作動試験器3cの発煙部7に、発煙剤10として分子量の異なる水溶性物質のポリエチレンオキサイドを、対水配合比を変えて作製した表1に示す試験片1から10の発煙剤を置き、煙感知器1(能美防災株式会社製「まもるくん」)に作動試験器3cの押付部5を被せて、発煙剤10(試験片1〜10)を加熱した。16秒後には、試験片1〜10の全ての煙感知器1が作動して発報が確認された。
【0032】
【表1】
【実施例2】
【0033】
発煙剤10として、分子量の異なる水溶性物質のポリエチレングリコールを、対水配合比を変えて作製した表2に示す試験片11から試験片16の発煙剤を用いた以外は、実施例1と同様に作動試験を行った。18秒後に煙感知器1(株式会社ノア社製「NE668」)が作動して発報が確認された。
【0034】
【表2】
【実施例3】
【0035】
発煙剤10として、ポリオキシエチレンとポリオキシプロピレングリコールの混合物であるポリオキシエチレンポリオキシプロピレン誘導体を水溶性物質として用い、1:1の対水配合比で作製した試験片17、18の発煙剤を用いた以外は、実施例1と同様に作動試験を行った。13秒後に煙感知器1(能美防災株式会社製「まもるくん」)が作動して発報を確認した。
【実施例4】
【0036】
発煙剤10として、水溶性物質にグリセリン、プロピレングリコールを用い、対水配合比1.00とし、さらにビニル系化合物の増粘剤を1重量%加えて作製した表3に記載の試験片19、20の発煙剤を用いた以外は、実施例1と同様に作動試験を行った。10秒後に煙感知器1(株式会社ノア社製「NE668」)が作動して発報が確認された。
【0037】
【表3】
【0038】
(比較例1)
発煙剤10に流動パラフィンを用いた以外は、実施例1と同様に作動試験を行った。数秒後に煙の発生を見たが、すぐに炎が生じてしまったために、すぐに試験を中止した。
【符号の説明】
【0039】
1 煙感知器
2 天井
3a、3b、3c 作動試験器
4 本体部
4a 底面部
5 押付部
6 把手棒
7 発煙部
8 発煙駆動部
8a 発煙触媒
9 抵抗加熱ヒーター
10 発煙剤
10a 発煙剤収納容器
11 レバー
12 スイッチ
20 ファン
図1
図2
図3