(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記移動体の前記速度指令を、前記遅れ時間を考慮していない基本速度指令から前記遅れ時間を考慮した理想速度指令に切り替えることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の速度制御方法。
【背景技術】
【0002】
クレーンの操業において、吊荷を巻き上げ、走行し、吊荷を巻き下げるまでのいわゆるサイクルタイムを縮め、極力荷役効率を向上させることが望まれる。その際、クレーンの走行終了時に吊荷の残留振れが生じると、安全上、吊荷を降ろすことができないので、この残留振れが許容範囲に収まるまで待たなければならない。これは、サイクルタイムを増加させ、荷役効率の減少を生じさせる。
【0003】
この課題を解決するため、吊荷の振れ周期に基づいてクレーンの加速時間を設定し、物理法則上、振れが残らない速度パターンを採用するクレーンの振れ止め制御方法が知られている(例えば特許文献1参照)。この振れ止め制御方法において、クレーンの実際の速度は、速度パターンで定められる速度指令に一致するように制御される。
【0004】
しかしながら、クレーンの実際の速度は、応答遅れ、外乱の影響によって、速度指令よりも遅れるので、速度制御だけでは、クレーンを目標位置に高精度に停止させるのは困難である。
【0005】
クレーンを目標位置に高精度に停止させるために、速度制御にクリープ制御を組み込むことが行われている。クリープ制御は、クレーンを減速させる際、速度指令が極低速のクリープ速度に到達したとき、速度指令をクリープ速度に保持する。そして、レーザ距離計等で測定したクレーンの実際の位置が目標位置に到達したとき、クレーンを停止させるものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施形態の速度制御装置を詳細に説明する。ただし、本発明の速度制御装置は種々の形態で具体化することができ、本明細書に記載される実施形態に限定されるものではない。本実施形態は、明細書の開示を十分にすることによって、当業者が発明の範囲を十分に理解できるようにする意図をもって提供されるものである。
(速度制御システムの全体構成)
【0014】
図1は、本実施形態の速度制御システムのブロック図である。
図1において、1aはクレーンの走行用モータ(以下、単にモータという)であり、3は速度制御装置であり、5はクレーンの始点からの位置を検出するレーザ距離計等の距離測定装置であり、6はモータ1aの速度を検出するエンコーダ等の速度センサである。
【0015】
速度制御装置3は、目標位置指令装置2からの信号に基づいて速度パターンを生成する速度パターン生成部3aと、速度パターンに基づいて速度指令を発生させる速度指令発生部3bと、レーザ距離計5が測定したクレーンの位置に基づいて速度指令を補正する速度指令補正部3cと、速度センサ6が検出したモータ1aの速度が補正後の速度指令に一致するように、モータ1aの速度をフィードバック制御する速度制御部3dと、図示しない電流センサが検出したモータ1aの電流値が、速度制御部3dが出力する電流指令に一致するように、モータ1aの電流をフィードバックする電流制御部3eと、を備える。
(速度パターン)
【0016】
図2は、クレーン1の模式図を示す。クレーン1は、レール12の上をロープ14の下端に取り付けられた吊荷13を巻き上げ、巻き下げながらX方向に走行する。クレーン1のX方向の速度を制御するのが、本実施形態の速度制御システムである。
【0017】
図2に示すように、クレーン1の吊荷13は、単振動する振り子とみなすことができる。吊荷13の振れ周期は、ロープ長Lによって以下の(1)式から求められる。
振れ周期T=2π√(L/g)…(1)
ここで、gは重力加速度(m/s
2)である。
【0018】
吊荷13の振れ周期Tに基づいて、クレーン1の速度パターンを設定することで、物理法則上、吊荷13の振れが残らないようにすることができる。
【0019】
図3は、速度パターン生成部3aが生成する速度パターンの一例を示す。
図3は、上段から順番に吊荷13の振れ、クレーン1の速度パターン、クレーン1の加速度パターン、吊荷13の振れ角を示す。
【0020】
速度パターンは、クレーン1の速度を零値から最大速度Vmaxまで加速させる加速区間Iと、クレーン1の速度を最大速度Vmaxに保持する等速区間IIと、最大速度Vmaxから零値まで減速する減速区間IIIとに分けられる。
【0021】
加速区間Iにおいて、加速度パターンは、さらに初期加速区間A、中期加速区間B、終期加速区間Cに分けられる。減速区間IIIにおいても、加速度パターンは同様に初期加速区間A、中期加速区間B、終期加速区間Cに分けられる。なお、
図3において、時間軸tの上側(正方向)がクレーン1の進行方向を示し、下側(負方向)が進行方向と逆方向を示す。
【0022】
初期加速区間Aでは、クレーン1の加速度を零値から最大加速度αまで上げる。初期加速区間Aでは、ロープ長Lの振れ周期T(T=2π√(L/g)に基づいて、クレーン1の加速時間を定める。具体的には、初期加速区間Aは、区間A
1、区間A
2、区間A
3の3つの区間に細分される。区間A
1は、任意時間T
1で加速度を零値からα/2まで一定勾配で増大させる区間である。区間A
2は、振れ周期TとT
1から定まる時間T
2=T/2−T
1だけ加速度をα/2に保持する区間である。区間A
3は、T
1時間で加速度をα/2からαへ一定勾配で増大させる区間である。初期加速区間Aの終了時に吊荷13の振れ角はθ(θ=tan
−1(α/g))となる。
【0023】
中期加速区間Bは、クレーン1の加速度が一定の区間であり、この区間が細分化されることはない。中期加速区間Bでは、クレーン1の加速度を最大加速度αに時間T
3だけ保持する。時間T
3を決定する条件として、加速区間Iにおける加速度線図と時間軸で囲まれる面積がVmaxに等しいと置き、これをT
3について整理することで求められる。中期加速区間Bでは、吊荷13の振れ角はθに保持される。
【0024】
終期加速区間Cでは、加速度パターンを初期加速区間Aの逆のパターンで変化させる。すなわち、クレーン1の加速度を最大加速度αからα/2へT
1時間だけ一定勾配で減少させ、その後上記時間T
2だけ加速度をα/2に保持し、さらに零値まで加速度をT
1時間だけ一定勾配で減少させる。終期加速区間Cの終了時に吊荷13の振れ角は零となる。
【0025】
上記のように、加速区間Iにおける加速度パターンを採用することで、加速区間Iの終了時に吊荷13の振れ角は零になる。また、速度曲線はS字状の滑らかな曲線を描き、クレーン1の速度指令は零値からVmaxまで増加する。
【0026】
等速区間IIでは、振れ角が零のまま、吊荷13は一定の速度で安定走行する。この等速区間IIでは、吊荷13の振れ角は零である。
【0027】
減速区間IIIにおける加速度は、加速区間Iにおける加速度の符号を逆にしたものになるので、振れ角θの符号が逆になるだけである。減速区間IIIの終了時に吊荷13の振れ角は零になる。また、速度曲線は逆S字状の滑らかな曲線を描き、クレーン1の速度指令はVmaxから零値まで減少する。
【0028】
なお、上記では、クレーン1がX方向に走行する場合の速度パターンを説明したが、クレーン1がY方向に横行する場合の速度パターンも同様に作成される。
(速度指令の補正方法)
【0029】
図4は、
図3に示す速度パターンの減速区間IIIを示すタイムチャートである。
図4中の破線が基本速度指令(
図3の速度パターンの減速区間IIIと同一)を示し、
図4中の一点鎖線が理想速度指令を示す。理想速度指令は、遅れ時間を考慮した速度指令である。
【0030】
クレーン1の実際の速度を基本速度指令から一定の遅れ時間だけ遅れた理想速度指令に一致させることができれば、クレーン1を目標位置に高精度に停止させることができる。本実施形態の速度指令の補正方法は、クレーン1の実際の速度が理想速度指令に一致するように補正することを主眼とする。
【0031】
なお、遅れ時間Δtは、基本速度指令とクレーン1の実際の速度とを同一のチャートに記載することで求めることができる。また、理想速度指令は、遅れ時間Δtだけ前の基本速度指令と同一である。
【0032】
速度指令の補正は、まず速度パターン及び遅れ時間に基づいて、減速開始位置から目標位置までの減速距離を計算することから始まる。
図5に示すように、減速開始位置は、目標位置から減速距離分だけ手前に設定される。クレーン1が減速開始位置に到達した時点で減速が開始される。
【0033】
図4に示すように、減速距離は、減速開始時以降の理想速度指令の線図と時間軸で囲まれる面積(応答遅れによる空想距離(a)+理想減速距離(b))から求められる。ここで、応答遅れによる空想距離(a)は以下の(2)式から求められる。
応答遅れによる空想距離(a)=Vmax×Δt(遅れ時間)…(2)
【0034】
図6に示すように、面積(b−1)と面積(b−2)は等しいから、理想減速距離(b)は以下の(3)式から求められる。
理想減速距離(b)=Vmax×t1/2…(3)
ここで、t1は速度パターンから求められる減速時間である。
【0035】
次に、
図7に示すように、減速距離から速度制御装置3の1スキャン毎にクレーン1が移動する距離を引くことで、残り減速距離(c)を計算する。1スキャン内でクレーン1が移動する距離は以下の(4)式から求められる。
1スキャン内でクレーン1が移動する距離=理想速度指令V(Δt秒前の基本速度指令)×制御周期…(4)
ここで、制御周期は例えば0.01sである。
【0036】
したがって、残り減速距離(c)は以下の(5)式から求められる。
残り減速距離(c)=1スキャン前の残り減速距離−理想速度指令V(Δt秒前の基本速度指令)×制御周期…(5)
【0037】
次に、計算上の残り減速距離(c)とレーザ距離計が測定した実際の残り減速距離との偏差を速度の補正量に変換し、クレーン1の速度指令(基本速度指令)を補正する。速度補正量は、以下の(6)式から求められる。
速度の補正量(mm/s)=((計算上の残り減速距離(c)−実際の残り減速距離)/残り減速時間)×ゲイン…(6)
ここで、ゲインは、吊荷13の振れへの影響を考慮して決定される定数であり、通常は1である。残り減速時間は、速度パターンの減速時間t1に遅れ時間Δtを加算し、1スキャン毎に制御周期を引くことで、算出される(
図7参照)。
【0038】
上記のように、発生している位置の偏差を残り減速時間で割ることで速度の補正量を得ることができる。そして、速度指令に補正量を加えることで、クレーン1の実際の速度を理想速度指令に近づけることができる。このため、速度制御をしながら位置制御を行うことが可能になり、クレーン1を目標位置に高精度に停止させるこができる。
【0039】
図8は、クレーン1の実際の速度を理想速度指令に近づけたタイムチャートを示す。クレーン1の実際の速度は、基本速度指令から一定の遅れ時間だけ遅れたものにすぎない。クレーン1の実際の加速度も走行指令の加速度から一定の遅れ時間だけ遅れたものにすぎない。走行指令の加速時間とクレーン1の実際の加速時間とには差異はないから、クレーン1の振れ止めも可能であることがわかる。
(速度指令の切り替え)
【0040】
上記のように速度指令を補正することで、
図8に示すように、クレーン1の実際の速度を理想速度指令に近づけることができる。しかし、実験の結果、クレーン1の作動条件によっては、
図9(a)に示すように、クレーン1の実際の速度が理想速度指令よりも落ちて、基本速度指令に一致する状態が発生する場合があることがわかった。
【0041】
クレーン1の実際の速度と理想速度指令とに速度差が生じると、計算上の残り減速距離と実際の残り減速距離との偏差が大きくなり、速度の補正量も大きくなる。これは、吊荷13の振れの増大を招く。
【0042】
そこで、クレーン1の実際の速度を理想速度指令に近づけるべく、
図9(b)に示すように、タイミングT
4の直後に速度指令を基本速度指令から理想速度指令に切り替える。これを詳述するに、タイミングT
4で速度指令を基本速度指令から一定の減速レートで低下させた速度指令(一定レートの速度指令)に変更する。この一定レートの速度指令を理想速度指令が下回った時点で速度指令を理想速度指令に変更する。切り替え前後の速度指令を実線で示す。こうすることで、クレーン1の実際の速度を理想速度指令に近づけることができる。これにより、速度の補正量が大きくなるのを防止でき、吊荷13の振れへの影響を最小限に抑えることができる。
【0043】
本発明は上記実施形態に具現化されるのに限られず、本発明の要旨を変更しない範囲で他の実施形態を採用し得る。
【0044】
上記実施形態のクレーンの速度パターンは一例であり、他の速度パターンを採用し得る。
【0045】
また、速度指令の切り替えを行う替わりに、タイミングT
4で速度指令の補正を停止し、速度指令を一定の減速レートで低下させることもできる。速度指令の補正を停止するので、クレーンの停止位置の精度は低下する。しかし、吊荷の振れへの影響を抑えることができる。
【0046】
さらに、上記実施形態では、クレーンの速度制御を行う例を説明したが、本発明は、クレーンの速度制御に限られるものではない。本発明は、スタッカークレーン、台車、無人搬送車等の速度制御にも適用することができる。