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特許6671371トンネル電界効果トランジスタ及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6671371
(24)【登録日】2020年3月5日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】トンネル電界効果トランジスタ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/336 20060101AFI20200316BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20200316BHJP
   H01L 29/66 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
   H01L29/78 301J
   H01L29/78 301H
   H01L29/66 T
【請求項の数】16
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-531887(P2017-531887)
(86)(22)【出願日】2015年11月4日
(65)【公表番号】特表2018-504775(P2018-504775A)
(43)【公表日】2018年2月15日
(86)【国際出願番号】DE2015000531
(87)【国際公開番号】WO2016095885
(87)【国際公開日】20160623
【審査請求日】2018年10月11日
(31)【優先権主張番号】102014018382.3
(32)【優先日】2014年12月15日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390035448
【氏名又は名称】フォルシュングスツェントルム・ユーリッヒ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100173521
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 淳司
(74)【代理人】
【識別番号】100153419
【弁理士】
【氏名又は名称】清田 栄章
(72)【発明者】
【氏名】ツァオ・クィン−タイ
(72)【発明者】
【氏名】マントル・ジークフリート
(72)【発明者】
【氏名】ブレーザー・ゼバスティアン
【審査官】 岩本 勉
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第08384122(US,B1)
【文献】 特開2008−227495(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0147838(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0278542(US,A1)
【文献】 特開2012−164699(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0193678(US,A1)
【文献】 L.Knoll, ET AL.,Si Tunneling Transistors with High On-Currents and Slopes of 50 mV/dec Using Segregation Doped NiSi2 Tunnel Junctions,SOLID-STATE DEVICE RESEARCH CONFERENCE (ESSDEC) 2012 PROCEEDINGS OF THE EUROPEAN , IEEE,IEEE,2012年,pp.153-156
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/336
H01L 29/66
H01L 29/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソース領域、チャネル領域及びドレイン領域を有するトンネル電界効果トランジスタ(TFET)を製造する方法であって、
−シリコン基板(101,121)上にエピタキシャル層(102,123)が配置され、
−この層の上に、ゲート電極(104,125)を有するゲート構造が着設され、ゲート絶縁体(103,124)がゲート電極とシリコン基板との間に配置され、
−ドープされたポケット領域(106,123)が、ゲート領域に隣接するようにゲート絶縁体(103,124)の下側に形成され
る工程を有する方法において、
−ソース領域には、選択的にシリサイド化された領域(108,128)がゲートの下側に至るまで形成されており、
−ソース領域にはさらに、ポケット領域(106,128)とは逆型にドープされた領域(111,129)が、シリサイド化された領域(108,128)からのドーパントの外方拡散によってポケット領域(106,128)に隣接して形成され、これにより、トンネル接合のトンネリングがゲート電極(104,125)の電気力線に平行に実現されることを特徴とする方法。
【請求項2】
エピタキシャル層にSi−Ge、Ge、Ge−SnまたはSi−Ge−Snが用いられる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ドープされた領域(111,129)は、ソース領域(108,128)の選択的なシリサイド化、続いてドーピング、さらに続いてドーパントの外方拡散によって生成される請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
ドープされた領域(111,129)は、ソース領域(110)のドーピング、続いて選択的シリサイド化、さらに続いてドーパントの外方拡散によって生成される請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ドーパントの外方拡散は、シリサイド化された領域(108,128)からポケット領域(106,128)内に至るまで行われる請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ドープ領域(111,129)は、シリサイド化された領域(108,128)に対して自己整合的に形成される請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
プレーナ型のSi基板が使用され、逆型にドープされた領域(111)が、ドープされたポケット領域の下に形成される請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
逆型にドープされた領域(129)が、周囲のドープされたポケット領域(123)の中心に形成される請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ドレイン領域(105)は、ドープされたポケット領域(106,123)と同じ導電型にドープされる請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
トンネル電界効果トランジスタ(TFET)であって、
−Si基板(101,121)と、
−その上に配置されたエピタキシャル層(102,123)と、
−その上に配置された、ゲート電極(104,125)と、当該ゲート電極とSi基板との間に配置されたゲート絶縁体(103,124)とを有するゲート構造と、
−ゲート絶縁体の下側に配置されたチャネル(102,121)及び当該チャネルに隣接するドレイン領域(105,127)と、
−ゲート絶縁体(103,124)の下側且つチャネル(102,121)に隣接して配置されたドープされたポケット領域(106,123)及び当該ポケット領域に隣接するソース領域と、
を有するトンネル電界効果トランジスタにおいて、
−ソース領域は、少なくとも部分的にゲート構造の下側に配置されているシリサイド化された領域(108,128)を有し、
−ソース領域は、ポケット領域(106,123)とは逆型にドープされた第一の領域(111,129)を有し、当該領域が、カウンタドープされたポケットに隣接するとともに少なくとも部分的に当該ポケットの下側に配置され、シリサイド化された領域に隣接して配置されており、縦型トンネル接合がゲート電極(104,125)の電気力線に平行に存在し、このトンネル接合を通して、ゲート電極の電気力線に平行にトンネリングを行なうことができる
ことを特徴とするトンネル電界効果トランジスタ。
【請求項11】
Si−Ge、Ge、Ge−SnまたはSi−Ge−Snを含むエピタキシャル層を有する請求項10に記載のトンネル電界効果トランジスタ(TFET)。
【請求項12】
ポケット領域(106,123)とは逆型にドープされた領域(111,129)は、3nmから5nmの間の層厚を有する請求項10から11のいずれか一項に記載のトンネル電界効果トランジスタ(TFET)。
【請求項13】
プレーナ型のSi基板(101)を有し、ポケット領域(106)とは逆型にドープされた領域(111)がポケット領域の下側に配置されている請求項10から12のいずれか一項に記載のトンネル電界効果トランジスタ(TFET)。
【請求項14】
Si基板としてのナノワイヤ(121)と、環状のポケット領域(123)と、環状に配置されたゲート構造(124,125)とを有し、環状のポケット領域とは逆型にドープされた領域(129)が、ポケット領域(123)の中央に配置されている請求項10から12のいずれか一項に記載のトンネル電界効果トランジスタ(TFET)。
【請求項15】
ソース領域(128,129)、チャネル領域(121)およびドレイン領域(127)は、ナノワイヤの内部に形成されている請求項11から14のいずれか一項に記載のトンネル電界効果トランジスタ(TFET)。
【請求項16】
逆型にドープされたポケットは、1018cm−3〜1020cm−3の間のドーパント密度を有している請求項11から15のいずれか一項に記載のトンネル電界効果トランジスタ(TFET)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直なトンネル経路を有するトンネル電界効果トランジスタ(TFET)およびそのようなトンネル電界効果トランジスタ(TFET)を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ますます高性能になる携帯機器や高い能力を持ったコンピュータを開発するには、よりエネルギー効率の高いトランジスタが不可欠である。トランジスタの大きさが減少し続けるとともにパッケージング密度が増加して、トランジスタが1チップあたり10個を超えると、エネルギー消費が大きくなり過ぎるため、厄介な発熱につながる。通常の電界効果トランジスタ(MOSFET)は改良され続け、それによってエネルギー消費も低減されてはいるが、そのスイッチング特性がエネルギー効率に原理的に限界を与えている。これは、トランジスタチャネルに注入される電荷キャリアの、室温における熱的に広がったエネルギー分布に関係している。スイッチング特性は、いわゆるサブスレッショルド係数(inverse Unterschwellensteigung)(サブスレッショルド勾配の逆数)(S)によって表すことができる。サブスレッショルド係数は、出力電流(イオン)を1桁(eine Dekade)(dec)増加させるためにゲート電圧を何ミリボルト(mV)増加させなければならないかを示すものである。室温では、最小のSは60mV/decになる。高性能プロセッサで使用されるような短チャネルトランジスタの場合、短チャネル効果は、ゲートの長さが32nmの場合でSを約100mV/decまで増加させる。これらの原理的な限界は、所定の閾値電圧における出力電流(Ioff)を、つまりは損失をも増加させる。
【0003】
トランジスタのエネルギー消費を低減するには、動作電圧(=ドレイン電圧(Vdd))とサブスレッショルド係数(S)を低減する必要がある。動的なエネルギー消費は、Vddの2乗に比例するが、スイッチング周波数をさらに考慮するとVddの3乗にさえ比例する。Sを低減することが、Ioffを実質的に増加させることなく閾値電圧を低減することを可能にする。
【0004】
これらの要求を満たすためには、新しいタイプのスイッチング素子、いわゆる“スティープスロープ・デバイス(steep slope devices)”が必要である。最も有望な考え方に、本明細書においてトンネルFET(TFET)と称するところのいわゆるバンド・ツー・バンド・トンネル効果(バンド間トンネル効果)(Band−to−band tunneling)(BTBT)トランジスタと、エネルギー・フィルタが前置されたMOSFETとが挙げられる。後者は、技術的な問題が大きいためにまだ実現化されていない。これまでに製造されたトンネル電界効果トランジスタは、出力電流が小さすぎ、さらに、Sが使用できない小さなゲート電圧領域(60mV/dec未満)にしかないので、まだ期待に沿うものなっていないのが現状である。
【0005】
図1は、従来のMOSFETおよびトンネル電界効果トランジスタのスイッチング特性を概略的に示す。図示されているのは、ゲート電圧に対するドレイン側の電流(I)のトランスファー特性曲線(Transferkennlinie)である。破線は、60mV/decのMOSFETの最小のサブスレッショルド係数Sを示す。Vtは閾値電圧を表す。シミュレーション計算によれば、トンネル電界効果トランジスタは、S<60mV/decに到達できる。さらに、トンネル電界効果トランジスタは、基本的にもっと低いゲート電圧でもスイッチを完全にオンにすることができる。こうして、MOSFETと比較して、Ioffを増加させることなく閾値電圧Vを(Sがより小さいことにより)低減できるため、より高いエネルギー効率を達成することができる。
【0006】
図2は、ソース−チャネル−ドレイン構造、例えばp−i−n構造からなり、ゲート構造203,204を有するプレーナ型トンネル電界効果トランジスタの基本的な構造を示し、ゲート構造は、有利には、例えばHfOといった、誘電率(k)が大きいゲート絶縁体203を備えている。ゲート端子(ゲート電極)204は、金属層(例えば、TiN)により構成される。ソース206およびドレイン205は、対称的に構成されたトランジスタの場合には、入れ替えることができる。トンネル接合202は、ソース側またはドレイン側のいずれかに選択的に設けることができる。符号201は真性シリコンを示している。
【0007】
単純化するために、この従来技術については、ソース−チャネル接合でのトンネル接合を選ぶことにする。トランジスタは逆バイアスがかけられる。すなわち、p−TFETについては、nドープされたソースがV=0に設定され、pドープされたドレインおよびゲートに負の電圧が印加される。n−TFETについては、同様に、ソースとドレインの極性ならびにドレイン電圧ないしゲート電圧の極性が入れ替わる。こうすることで、チャネル領域およびドレイン領域における伝導帯および価電子帯を高くする。電圧が十分に高いと、少数電荷キャリア(ここではホール)がソースの伝導帯からチャネル材料の価電子帯にトンネリングするような電子的なバンドの曲がりが生じる。WKB近似によるトンネル確率TWKBは:
【0008】
【数1】
【0009】
ここで、Λは自然長、mは電荷キャリアの有効質量、Eはバンドギャップ、ΔΦはチャネル内の価電子帯の下端とソース内の伝導帯の上端との電位差、qは電子の電荷、そして
【数2】
(hクロス)はプランク定数を2πで割ったものを意味する。自然長はΛは、ΛとΛchの和である。一番目の被加数Λは、ゲートによるトランジスタの静電的な制御の目安であり、二番目の加数Λchは、トンネル接合のシャープさ(急峻さ)を表す。
【0010】
トンネル電流の電界依存性(Feldabhaengigkeit)はケーン(Kane)モデルによって与えられる。それによれば、バンド・ツー・バンド‐トンネリングは、トンネル接合における電界と共に指数関数的に増加する。シミュレーション計算により、非常に高い誘電率を有するゲート絶縁体からの漏れ電場(elektrische Streufelder)(英語ではfringing fields(フリンジング電界))がより優れた特性につながることが算定された。
【0011】
非特許文献1(L. Knoll, Q.T. Zhao, Lars Knoll, A. Nichau, S. Trellenkamp, S. Richter, A. Schaefer, D. Esseni, L. Selmi, K. K. Bourdelle, S. Mantl, “Inverters With Strained Si Nanowire Complementary Tunnel Field−Effect Transistors”, IEEE ELECTRON DEVICE LETTERS VOL. 34, NO. 6, pp. 813−815, 2013.)。これまでに実現化されたナノワイヤ型バンド・ツー・バンド‐トンネル電界効果トランジスタは、サブシュレッショルド係数Sが60mV/dec未満であることを示した。これは、シリサイド化された後にドーパント偏析が生じたソース領域を使用することによって、トンネル結合のシャープさが改善されたことに主に起因する。ただ、極めてドレイン電流が低い場合のみである。
【0012】
TFETは、より小さいバンドギャップを有する半導体を用いても提案ないし製造されている。非特許文献2(K. Bhuwalka et al. “P−Channel Tunnel Field Effect Transistors down to Sub−50nm Channel Length” Jap. J. of Appl. Physics 45 (2006) 3106 - 3109頁)より、シリコンゲルマニウム(Si−Ge)によるプレーナ型TFETに関するシミュレーションが知られているが、それにより、より小さなバンドギャップの優位性を証明することができた。この優位性は、非特許文献3(M. M. Schmidt, R. A. Minamisawa, S Richter, R. Luptak, J.−M. Hartmann, D. Buca, Q. T. Zhao and S. Mantl “Impact of strain and Ge concentration on the performance of planar SiGe band−to−band−tunneling transistors”, Proc. of ULIS 2011 Conference)の実験により確かめられたが、ただS>60mV/decであった。この着想では、Geを30〜65at%(アトミックパーセント)含有したSi−Ge合金からなるソース、チャネルおよびドレインが調べられた。
【0013】
また、縦型In0.53Ga0.47As0.47バンド・ツー・バンド‐トンネル電界効果トランジスタは、不利なことにも、これまでのところ期待された結果をもたらさなかった。
【0014】
さらに他の非特許文献4(C. Hu “Green Transistor as a solution to the IC Power Crisis”, Proc. of ICSICT Conference, Peking, 2008 (978−1−4244−22186−2/08 @2008 IEEE)の着想は、複雑なヘテロ構造を使用し、この場合には、nドープされた歪シリコンの薄層が、ソース側におけるゲートの下側に、トランジスタの略ゲート中央まで、pドープされたGeの上に配置される。これにより、pGe/n歪シリコンからなるトンネル接合ができる。この着想は、より小さなバンドギャップを有する材料をトンネル領域内に組み込む上述の長所を備えており、さらに、ゲートの下側に組み込むことでトンネル接合の面積が拡張される。この考え方の主な欠点は、これまで実現化を阻んできた困難な実装である。
【0015】
また、非特許文献5(Bhuwalka et al. Proc. ESSDERC2004, 0−7803−8478−4/04@2004 IEEE)の提案は、トンネル接合においてシャープな境界面を有する極薄SiGeデルタ層を入れてトンネル電流を改善するというものだが、わずかに改善されるにしか至っていない。
【0016】
特許文献1(米国特許第8258031号明細書)より、トンネル接合がゲートの電界に平行に沿ったTFETの製造が公知とされている。カウンタドープされたポケット(gegendotierte Tasche)を有する縦型(垂直な)トンネル接合は、トンネル断面積を増加させ、したがってトンネル電流を増加させる。製造プロセスは、シリコン・オン・インシュレータ(SOI)層から開始する。高ドープされたトンネル接合は、選択成長によって得られるが、これは、不利なことに欠陥密度が高いトンネル境界面を発生させかねない。これがまた、これらの欠陥を介したトンネリングにつながり、その結果、サブシュレッショルド係数(S)を大きくしてしまうことになる。
【0017】
非特許文献6(Kanghoon Jeon, Wei−Yip Loh, Pratik Patel, Chang Yong Kang, Jungwoo Oh, Anupama Bowonder, Chanro Park, C. S. Park, Casey Smith, Prashant Majhi, Hsing−Huang Tseng, Raj Jammy, Tsu−Jae King Liu, and Chenming Hu, “Si Tunnel Transistors with a Novel Silicided Source and 46mV/dec Swing”, 2010 Symposium on VLSI Technology Digest of Technical Papers, 121−122頁)の刊行物に、ホモ接合を有するTFETで、NiSiでシリサイド化されたソース領域を含むものについて報告されている。しかし、シリコン層の厚さまたは幅が変更されるときに、シリサイド化された領域のエッジの特殊な形状の再現性に欠ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第8258031号明細書
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】L. Knoll, Q.T. Zhao, Lars Knoll, A. Nichau, S. Trellenkamp, S. Richter, A. Schaefer, D. Esseni, L. Selmi, K. K. Bourdelle, S. Mantl, “Inverters With Strained Si Nanowire Complementary Tunnel Field−Effect Transistors”, IEEE ELECTRON DEVICE LETTERS VOL. 34, NO. 6, pp. 813−815, 2013.
【非特許文献2】K. Bhuwalka et al. “P−Channel Tunnel Field Effect Transistors down to Sub−50nm Channel Length” Jap. J. of Appl. Physics 45 (2006) 3106 - 3109頁
【非特許文献3】M. M. Schmidt, R. A. Minamisawa, S Richter, R. Luptak, J.−M. Hartmann, D. Buca, Q. T. Zhao and S. Mantl “Impact of strain and Ge concentration on the performance of planar SiGe band−to−band−tunneling transistors”, Proc. of ULIS 2011 Conference
【非特許文献4】C. Hu “Green Transistor as a solution to the IC Power Crisis”, Proc. of ICSICT Conference, Peking, 2008 (978−1−4244−22186−2/08 @2008 IEEE
【非特許文献5】Bhuwalka et al. Proc. ESSDERC2004, 0−7803−8478−4/04@2004 IEEE
【非特許文献6】Kanghoon Jeon, Wei−Yip Loh, Pratik Patel, Chang Yong Kang, Jungwoo Oh, Anupama Bowonder, Chanro Park, C. S. Park, Casey Smith, Prashant Majhi, Hsing−Huang Tseng, Raj Jammy, Tsu−Jae King Liu, and Chenming Hu, “Si Tunnel Transistors with a Novel Silicided Source and 46mV/dec Swing”, 2010 Symposium on VLSI Technology Digest of Technical Papers, 121−122頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、トンネル障壁の幅及びトンネル領域の大きさが、ゲート電極の電界に対するトンネル電流の向きによって効果的に調整できるトンネル電界効果トランジスタ(TFET)を提供することである。
【0021】
本発明のさらなる目的は、上述のトンネル電界効果トランジスタのための製造方法であって技術的に要求されることが少ないものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
この課題は、本発明により、主請求項に記載のトンネル電界効果トランジスタの製造方法および従属請求項に記載のトンネル電界効果トランジスタ(TFET)によって解決される。トランジスタおよび製造方法の有利な変形例は、それらにそれぞれ従属する下位請求項により与えられる。
【0023】
本発明の範囲において、新規な類のトンネル電界効果トランジスタ(TFET)が開発された。このトランジスタは、プレーナ型の構成によってでも、ナノワイヤを用いることによってでも、いずれでも実現化することができる。このトランジスタは、p−i−n構造ができあがるように、湧き出し領域(Quellbereich)(ソース(Source))、目的領域(Zielbereich)(ドレイン(Drain))およびチャネル(Kanal)から構成されている。通常は、ソースとドレインを規定するドープされた領域は、ドープされていないチャネルによって互いに空間的に分離されて存在する。チャネルに接するのは、トランジスタを制御するための制御電極(ゲート)をチャネルに対して隔てるための絶縁体(誘電体)(Dielektrikum)である。以下、全体を通して英語によるソース(Source)、ドレイン(Drain)、およびゲート(Gate)という概念が使用される。
【0024】
本発明によるトンネル電界効果トランジスタ(TFET)は、特に、従来技術に対して二つの長所を有する。先ず一つには、短縮されたトンネル障壁、したがって短縮されたトンネル接合が提供される。本発明によれば、これは、一方では、ソース領域において、シリサイド化と、さらにはドーパント偏析とがなされることによって実現することができ、これらがシャープなトンネルエッジを生じさせる。
【0025】
他方では、選択的で自己整合的なシリサイド化(selektive und selbst justierende Silizidierung)によって、トンネル面積そのものが広げられ、本発明によるトンネル電界効果トランジスタ(TFET)では、ゲートの電気力線に平行に延びるトンネル接合が形成されている。これは、文献では“直線トンネリング(Linientunneln)”として知られており、いわゆる“点トンネリング(Punkttunneln)”とは対照的なものである。したがって、図3に概略的に示されているように、本発明によるトンネル電界効果トランジスタ(TFET)は、バンドギャップがより狭い材料による、ゲート下側の拡張されたトンネル領域に、ゲートの電気力線に平行なトンネル接合をつなげる。
【0026】
このとき、このトンネル接合は、小さなバンドギャップを有する材料において(例えば薄いSiGe層において)実現される。この層は、シリコン層上に疑似格子整合で成長させられており、二軸性圧縮歪みによってバンドギャップが狭められている。以下に、SiGe層を取り上げて本発明をより詳細に説明するが、SiGeの他にも例えばSi−Ge−Sn、Ge−SnまたはGeだけのような他の典型的な材料もまたエピタキシャル層に適していることは当業者には明らかである。
【0027】
バンドギャップが小さいエピタキシャル層の材料の厚さは、このとき10nmを超えてはならない。制御電極の電界を用いたトンネルプロセスに必要な電荷キャリアの空乏化を可能にするためである。シリコン層は、例えば、絶縁体層(SOI(英語でSilicon−on−Insulator))上のシリコンとしてもよいが、この基板に本発明が限定されることはなく、標準的なシリコン基板でも実施することができる。
【0028】
ここで、本発明によれば、ドーピングは、ソース領域から出発して、ゲートの絶縁体の下側を横切る(ポケット領域)ように、そして、それにより拡大されたトンネル領域を実現するようにして行われる。この場合、ドーピングは、イオン注入による手段に限定されず、一例としてのSiGe層の成長中におけるイン・サイチュ(in−situ)ドーピングによっても実施することができる。ドーピングは、本発明によれば、ゲートの電気力線に平行なトンネル接合を実現するために、絶縁体の下側まで達する。
【0029】
ドーピングが例えばイオン注入によって行われた場合、ドーパントの活性化は、一例としてのSiGe層の二軸性圧縮歪みを疑似格子整合の成長を通して維持するために、低温(<900℃)の保護ガス雰囲気中でのアニーリングによって行うことができる。
【0030】
ソース側では、エピタキシャル層のドープされた領域、例えばSiGe層は、ゲートの縁まで除去され、その結果、相応のドープされたポケットのみがゲートの下に残る。
【0031】
本発明によれば、これに続けてソース領域内にポケット領域に隣接する逆型にドープされた領域もさらに作成され、この領域によってp−nトンネル接合と、従って、制御電極の電気力線に平行なトンネリングとが実現される。
【0032】
本発明の第一の実施形態ではさらに、ゲートは、分離する層、いわゆるスペーサが側面に備えられている。このスペーサは、ドレイン側では、ドープされたSiGe層上まで、ソース側では、シリコン層上まで達する。続いて、ソース側のシリコン層には、金属層が設けられる。
【0033】
ここで、金属を選択するときに注意すべきことは、金属が、後続のシリサイド化の工程において専らシリコンとは反応するが、一例としてのSiGe層とは反応しないことであり、それにより、自己整合的で選択的なシリサイド化が材料に関して実現して、本来のトンネリングが起きるようにするということである。SiGe層の場合には、自己整合的で選択的なシリサイド化のための金属として特にコバルトが適している。実際のシリサイド化の工程は、一例としてのSiGe層の二軸性圧縮歪みを擬似格子整合の成長により得るために、低温において形成ガス下で改めて実施される。通常、シリサイド化は、できるだけ大きなトンネル面積を作り出すために、側方からゲートの下側に達するまで行われる。
【0034】
その後、注入マスクを用いてシリサイドにのみ注入が行われる。低温での後続のアニール工程がこれに続き、このときに、これらドーパントがシリサイドから一例としてのSiGe層へと外方拡散(ausdiffundieren)(偏析)することで、制御電極の電気力線に平行なシャープなp−nトンネル接合(p−nトンネル移行)(p−n−Tunneluebergang)が生成される。ここで、この工程は、シリサイドからのドーパントの外方拡散に限らず、シリコン層のドーピングを先ず行って、それに続けてシリサイド化を行うこと(第二の実施形態を参照)によっても実施することができる。ドーパント偏析のための適切な温度および対応する時間の選択は、ドーパントがシリサイドから隣接するポケット領域にどの程度拡散するかに影響を与え、必要に応じて当業者によって事前に実験的に決定することができる。
【0035】
図4には、トンネル接合のバンド図が概略的に示されている。トンネル障壁の幅はLtで示されている。明らかなのは、従来技術から公知とされた、カウンタドープされた(gegendotiert)ポケット領域がない構成(破線)と比較すると、本発明が意図したとおりに、トンネル障壁の幅がより狭くなるということである。この幅は、逆型にドープされた(entgegengesetzt dotiert)ポケット領域が存在する場合(実線)、空乏領域がより狭いことに起因して現れるものである。
【0036】
シリサイドからの自己整合的な外方拡散は、TFETに必要なソースドーピングを発生させる(図5の下側の曲線)。その上に載るポケットの逆型のドーピングは、トンネル接合における電界強度を増加させ、その結果、トンネル電流は上昇し続けることになる(図5における破線および点線)。ちなみに、選択的自己整合シリサイド化という概念は、金属がSiGe層と反応しないために、特別なシリサイドが、一例としてのSiGe層に悪影響を及ぼさない(選択的)こと及びドーピングとその後の外方拡散とにより自己整合的にトンネル接合のドーピングが生成されることを意味する。
【0037】
トンネル接合を作製する際の自己整合プロセスは、本発明による製造方法の重要な長所である。これにより、数ナノメートルの精度でトンネル接合、つまり図6に示されているようなp−n領域間の分割線を再現性良く作成することが可能となる。
【0038】
トンネル接続部(Tunnelverbindung)が、シリサイド化およびその後の低温(<700℃)でのドーパントの偏析によって作製されると、この接続部は、例えば純粋にイオン注入だけといった従来の方法の場合に可能であるものよりも何倍もシャープである。このシャープなトンネル接続部は、短縮された自然長Λ、或いは方程式(1)によれば具体的にはΛchにより、短縮されたトンネル障壁Ltをもたらす。カウンタドープされたポケットを組入れることにより、このトンネル障壁Ltはさらに短縮される。さらに、シリサイド化が行われた後のドーパントの偏析により、よりシャープな有利なトンネル接続部が実現されるだけでなく、トンネル接続部におけるより高い絶対的なドーパント濃度が可能になり、これがTFETの線形出力特性を実現可能なものにする。
【0039】
本発明による製造方法の更なる長所は、イン・サイチュ(in−situ)ドーピングの場合とは異なり、シリサイドからの自己整合外方拡散によって、特に欠陥のないトンネル接合を作製できることである。
【0040】
本発明によるトンネル接合は、プレーナ型1ゲートトランジスタならびにマルチゲートナノワイヤ(いわゆるコアシェル型ナノワイヤ電界効果トランジスタ)の両方で実施することができる。したがって、実施形態に応じて、相応に異なる製造方法が考えられ得る。
【0041】
以下に、いくつかの例示的な実施形態および添付の図面に基づいて本発明をより詳細に説明するが、それにより本発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】標準的なMOSFETおよびバンド・ツー・バンド‐トンネルトランジスタ(TFET)のスイッチング特性をトランスファー特性曲線により概略的に示す図である。
図2】従来技術によるトンネル電界効果トランジスタを示す図である。
図3】本発明によるトンネル電界効果トランジスタの一実施形態を示す図である。
図4】カウンタドープされたポケットがあるTFETの構成と、それがないTFETの構成に関するバンドモデルを概略的に示す図である。
図5】プレーナ型のp型TFETのトランスファー特性(トランスファー特性曲線)を示す図であって、pドープされたポケットがそれぞれゲートの直ぐ下側にある本発明の二つの実施形態によるものと、pドープされたポケットがないものとを示し、このうちソース領域のドーピングについては、異なる二つのドーピング密度が調べられたトランスファー特性を示す図である。
図6】n−i−p構造を有する本発明によるトンネル電界効果トランジスタの概略的な構成を示す図である。
図7】本発明によるTFETのプレーナ型の実施形態の製造を概略的に示す図である。
図8】本発明によるTFETのプレーナ型の実施形態の製造を概略的に示す図である。
図9】本発明によるTFETのプレーナ型の実施形態の製造を概略的に示す図である。
図10】本発明によるTFETのプレーナ型の実施形態の製造を概略的に示す図である。
図11】本発明によるTFETのプレーナ型の実施形態の製造を概略的に示す図である。
図12】本発明によるTFETのプレーナ型の実施形態の製造を概略的に示す図である。
図15】本発明によるTFETのナノワイヤを有する他の実施形態の製造を概略的に示す図である。
図16】本発明によるTFETのナノワイヤを有する他の実施形態の製造を概略的に示す図である。
図17】本発明によるTFETのナノワイヤを有する他の実施形態の製造を概略的に示す図である。
図18】本発明によるTFETのナノワイヤを有する他の実施形態の製造を概略的に示す図である。
図19】本発明によるTFETのナノワイヤを有する他の実施形態の製造を概略的に示す図である。
図20】本発明によるTFETのナノワイヤを有する他の実施形態の製造を概略的に示す図である。
図21】本発明によるTFETのナノワイヤを有する他の実施形態の製造を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
トランジスタに電流を供給する領域をソース領域と呼び、トランジスタから電流を排出する領域をドレイン領域と呼ぶ。ドレインとソース間の電流の制御または増幅は、半導体材料(基板)の導電領域および非導電領域をねらい通りに増大させたり縮小させたりすることによって行われる。通常であれば事前にpドープされ、nドープされた半導体材料は、制御電極(ゲート)に印加される電圧またはそれによって生じる電界によって、電荷キャリアが増やされるか、あるいは欠乏する。
【0044】
図5は、プレーナ型のp型TFETのトランスファー特性(ゲート電圧Vに対するドレイン電流Iのトランスファー特性曲線)を示し、pドープされたポケットがゲートの直ぐ下側にある本発明の二つの実施形態によるものと、pドープされたポケットがないものとを示し、このうちソース領域のドーピングについては、異なる二つのドーピング密度が調べられたトランスファー特性を示す図である。Geが55at%のSiGe層は、5nmの初期層厚さを有する。カウンタドープされたポケットを有する実施形態の場合に流れ込む電流(ドレイン電流)は、この実験では2桁近く増加し、サブスレッショルド係数Sは、200mV/decから100mV/decに改善する。さらに改善された技術構成であれば、S<60mV/decになり、したがって、特にエネルギー効率の良いトランジスタになる。pドープされたポケットがないトランジスタに対して、本発明による二つの実施形態の場合のオフ電流(最小電流)が低下していることも明らかに看て取れる。つまり、本発明によるトランジスタにおいては、最小電流に対する限界電流の比は、有利にも少なくとも50倍程度増加する。TFETに特有の両極性特性も、ポケットが使用されれば抑制される。というのも、ソース側では、有利な直線トンネリング(Linientunneln)が起こり、ドレイン側では、点トンネリングが起きるからである。
【0045】
図6は、縦型トンネル接合(垂直なトンネル接合)(vertikaler Tunneluebergang)を有する本発明によるバンド・ツー・バンド‐トンネル電界効果トランジスタ(TFET)の実施形態の概略的な構造を示す。ゲート構造は、高誘電率ゲート絶縁体(HfO)と、TiNからなる金属ゲートとから形成される。i−SiGeからなるチャネル領域は、真性、つまり名目上ドープされておらず、ドレイン領域はこの例ではpドープされている。ゲートの下側には、ソース側にpドープされたポケットが配置されている。このポケットは、本発明によりカウンタドープされた(nドープされた)(シリサイド領域からのドーパントの外方拡散によって形成された)領域に隣接し、その場所に大体10nm程度の範囲に亘って規則正しく拡がる縦型のトンネル接合を形成する。
【0046】
以下に、本発明によるTFETを製造するためのプロセスの個々の工程を、図7図12に示されたプレーナ型TFETに基づき例示的に説明するが、これにより製造のバリエーションに制限が加えられるものではない。
【0047】
図7には、Si(100)基板101が示されている。この基板は、その上に配置された半導体機能層(シリコンゲルマニウム層S1−xGe(ここで0<x<1))を有している。SiGe層は、シリコン基板101上に擬似格子整合で成長させた。このとき、擬似格子整合の成長によるSiGe層内の二軸性圧縮歪みが、緩和されたSiGeに比べてバンドギャップを狭くする。
【0048】
図8に記載されているように、例えば厚さ5nmのSiGe層102が上に配置されたシリコン基板101上に、標準的なMOSFETの製造に従って先ずゲート104を作製した。これに関し、シリコンゲルマニウム層102上に後続の層を全面的に堆積させた。ゲート絶縁体HfOは、後にチャネルになる薄いSiGe層102上に、原子層堆積法(英語でatomic layer deposition,ALD)によって約2〜4nmの厚さで堆積させた。TiNゲート104は、パルス式の気相堆積法によって着設した。例えばTiNおよびポリシリコンからなるゲート全体は、通常は、全体の層厚が40〜150nmの間にある。ゲートは、その後、反応性イオンエッチングと選択的湿式化学エッチング(Nasschemie)でパターニングした。
【0049】
図9は、シリコンゲルマニウム層102にドーピングが施される次の工程を示す。SiGe層にホウ素イオンを注入して、制御電極の直ぐ下側にpドープされたポケット(左側)とpドープされたシンク(右側)を形成した。このとき、意識的にエネルギーは十分低く選択し、専らSiGe層だけが注入もしくはドーピングされて、下側にあるシリコンは注入もドーピングもされないようにした。さらに、ドーパントは、SiGe層の二軸性圧縮歪みの緩和を避けるために、低温(<900℃)で活性化された。
【0050】
図10は、その後どのように、pドープされた領域106がさらにドライエッチング工程によってゲートの直ぐ下側の領域に達するまで完全に取り除かれたかを示している。ドライエッチングは、絶縁体103およびゲート104の下側までは行われなかった。したがって、ゲートの下側にはpドープされたポケット106が残っている。
【0051】
制御電極の電界によってSiGe層内に電荷キャリアの空乏化を実現できるようにするのに元のSiGe層102が10nmより厚くなければ、pドープされた領域をシリコン層101に達するまで除去するのにはさらに有利である。
【0052】
次の、ソース領域をシリサイド化する工程(図11参照)のために、SiOまたは窒化シリコンからなる酸化物スペーサ107を側方に配置した。酸化物スペーサは、MOSFET技術の標準的な方法によって製造された。酸化物スペーサ107はまた、絶縁体103およびゲート104を保護する。
【0053】
続いて、電子ビーム蒸着法により、エッチング後に露出したシリコン層101の上に金属を着設した。この場合、金属として適しているのは、Si層のシリコンとは反応するがSiGe層とは反応しない金属である。ここで、SiGe層は一例として理解されるべきものである。Si−SiGeの材料系に対してはコバルトが適している。これは、コバルトシリサイドの形成がSi/SiGe境界面において有利にも自ずと止まるからである。Geはシリサイドに取り込まれない。対照的に、シリサイド化に最も一般的に使用されるNiは、Ni−Si−Ge化合物を形成し、したがってSiGeチャネル層を侵食する。必要に応じて、第一の金属層を酸化から保護するために、第一の金属層にさらなる層を着設してもよい。
【0054】
その後、ソース領域にシリサイド化工程を施し、金属層からの金属をシリコン層中に拡散浸入させてシリコンと金属化合物であるシリサイドを形成した。ソース側にある酸化物スペーサ107とポケット領域106の両方の下側を横切るシリサイド領域108が出来た。
【0055】
マスキング109は、次のドーピングをソース領域に限定する。ドーピングは、その後の温度処理を伴うイオン注入、または別のドーパント拡散プロセスにより行うことができる。このとき、ソース側のドーピングは、ドープされたポケット106およびドレイン領域105とは逆型の、つまりこの場合はリンによるn型ドーピングとして行われる。
【0056】
シリサイド化された領域108にリンイオンをドーピングした直後に、トランジスタを窒素雰囲気中で500℃で10秒間処理する。このときに、リンがコバルトシリサイド108から一方ではSi基板101内に、さらに重要なのは側方や上方、pドープされたSiGe層(ドープされたポケット)106内に至るまで外方拡散する。このプロセスでは、シリサイドからの例えばリンの外方拡散が、熱処理(例えば、500℃で10秒)により数ナノメートル精度で正確に制御でき、トンネルFETにとって重要なシャープな(境目がはっきりした)ドーピングプロファイルを生成することができ、直接的なイオン注入とは対照的に、熱的な外方拡散がSiGe層に結晶欠陥を生じさせることがない点が有利である。このことは、トンネルFETのSを劣化させる欠陥由来のトンネリングを最小化するために重要である。
【0057】
したがって、プロセスパラメータの選択により、有利にも、逆型にドープされたポケット領域のSiGeにリンが数ナノメートルだけ拡散浸入することで、pn接合(=トンネル接合)が好ましくもSiGe層のほぼ真ん中に形成される。
【0058】
このようにして、SiGe層内且つゲートの直ぐ下側に縦型のn−pバンド・ツー・バンド‐トンネル接合(図13に矢印で示されている)を形成することができた。nソース領域111のドーパント密度は、シリコンの場合1020cm−3の範囲内にあるべきであるのに対して、カウンタドープされたポケット106のドーパント密度は、必要に応じて1018cm−3〜1020cm−3の間で調整することができ、これによりプレーナ型TFETの線形出力特性を得ることができる。
【0059】
本発明によるバンド・ツー・バンド‐トンネル電界効果トランジスタ(TFET)は、別の方法でも製造することができる。別の製造ルートは、先ずは図7〜10に示されている工程のステップに従って進行する。
【0060】
しかしながら、エッチング後に露出したシリコン層101には、今度は最初にドーピングが行われる。このドーピングは、イオン注入または他の拡散プロセスによって実行することができる。ソース側におけるドーピングは、ドープされたポケット106とは逆型の、そして必要があればドレイン領域105とは逆の、つまりこの例ではリンイオンによるn型ドーピングとして行われる(図14参照)。ドーピングは、ポケットまで行われてもよいが、元のドーピングを覆いつくすことがあってはならない。その場合にはn−pトンネル接合がもはや存在しないということになってしまうからである。活性化は、ドーピングの直後でも行うことができるが、後続のシリサイド化工程によっても後追いで行うこともできる。
【0061】
続いて、今度はnドープされたシリコン層110の上に電子ビーム蒸着法によって金属が着設される。金属としてこの場合適しているのは、Si層のシリコンとは反応するが、SiGe層とは反応しないようなものである。場合によっては、金属層を保護するためのさらなる層を酸化前に金属層上に着設してもよい。
【0062】
次いで、既にn−ドープされたソース領域にシリサイド化工程が施され、この工程において、金属が金属層からnドープされたシリコン層を通って側方からSi層101内にまで拡散浸入し、特にSi−Ge境界面に至るまで拡散浸入してシリサイドを形成し、そこに本発明による有利な縦型n−pトンネル接合111を形成する。
【0063】
先に例示的に述べた製造プロセスはさらに、非常に小さな構造、例えばマルチゲートを有するナノワイヤTFETやFin−TFETといったものにも適用することができる。
【0064】
以下に、図15〜21に基づいて他の例示的な製造プロセスを具体的に示すが、これは限定としてみるべきではない。この例では、ゲートはTFETの周りを取り囲むように設けられる。このとき、トンネル接合は、ゲートの電界とそれぞれ平行に配置されており、それぞれソース側では選択的シリサイド化と、ドーパント偏析によるドーピング析出(Dotierungsauslagerung)がなされていることで、本発明によるトンネル接合が形成される。
【0065】
図15は、例えばシリコンからなる自立型半導体ナノワイヤ121を示している。このナノワイヤは、絶縁層122の上に配置されており、この絶縁層がまた基板101上に配置されている。平行に整列された多重ワイヤを有するアレイは、エッチングプロセスと組み合わされたリソグラフィーにより直接的に製造されるか或いはナノワイヤ成長によって製造される。
【0066】
次の工程では、ナノワイヤ121の周りを均一に取り囲むように、エピタキシャル層123を例えば化学気相成長(英語ではChemical vapor deposition)によって成長させる。エピタキシャル層123は、例えば、バンドギャップが小さく、層厚が10nm未満の高濃度にドープされた半導体層とすることができる。そのような層に適した材料として、特にSiGe、Ge、GeSnまたはSiGeSnを挙げることができるが、本発明によれば、他の半導体材料も使用することができる。
【0067】
この場合、ドレイン側とチャネル領域の一部の上のエピタキシャル層を選択的に除去した後、標準的なやり方でゲート構造を本例においてはリング状に形成する。この目的のために、先ずゲート絶縁体124が、さらに続けてゲート金属125が、図17に示されているように然るべく着設されて配置される。
【0068】
続いて、ゲートに覆われていないエピタキシャル層123を除去することにより、図18から分かるように、ドープされた(リング型の)周回するゲートが、ゲート絶縁体の下側に残るので、リングゲート(英語ではGate−All−Around(GAA))が部品の最適な静電的制御を保証する。これはトンネルFETにとって特に有利である。というのも、これにより、ゲート電圧を印加することでトンネル接合内に特に高い電界強度が得られるようになり、これがトンネル確率を高め、それに伴ってドレイン電流を増加させるからである。
【0069】
ゲート構造は、SiOまたは窒化シリコンからなる側方に配置された酸化物スペーサ126によって保護される。
【0070】
さらに、図19による構成では、シリサイド化された領域128がソース側に先ず形成され、選択的自己整合シリサイド化は、ナノワイヤ121のみに関係し、ドープされたポケット123には影響を及ぼさない。場合により、シリサイド化がドレイン側でも行われてもよい。これに続いて、ポケットとは逆型の、ソース側におけるシリサイド化された領域128のドーピングが行われ、次いでドーパントがシリサイドから出てポケット123上に至るまで外方拡散し、その結果、本発明により高ドープされたシリサイド化された領域129ができる。
【0071】
この場合においても、本発明による高ドープされたシリサイド化された領域129が、選択的なシリサイド化と後続のドーピングおよび外方拡散によって最初に形成されるかどうか、或いは、代替的に、領域129が、シリコン層の最初に行われたドーピングと後続のシリサイド化および外方拡散によって形成されるかどうかは重要ではない。
【0072】
続いて、ナノワイヤ121のドーピングによってドープされたドレイン領域127がさらに形成され、ドレイン領域127側におけるドーピングは、高ドープされたシリサイド化された領域129のドーピングとは逆型に選択される。
【0073】
図21には、図20の構成によるトランジスタが断面で示されている。切断面は図20において破線で表されている。ゲート電圧が印加されると、ナノワイヤの中心に配置された高ドープされたシリサイド化された領域129と、反対ドープされた周回するポケット123との間の境界面でトンネリング(矢印によって表されている。)が起きる。
【0074】
この最後の実施形態の特別な特徴は、このほぼ“線”トンネリング以外の何ものでもないものが、従来の“点”トンネリングによる実施形態と比較して、より高いトンネル電流、就中より小さなサブスレッショルド係数(S)を実現できる可能性を有することである。このうちサブスレッショルド係数は、トランジスタの高いエネルギー効率の前提条件である。
【符号の説明】
【0075】
101:シリコン基板
102:エピタキシャル層、例えばSiGe層
103:ゲート電極のための絶縁体
104:ゲート電極
105:ドープされたドレイン領域
106:ドープされたポケット領域
107:側方に配置された酸化物スペーサ、例えばSiOまたは窒化シリコンからなる
108:シリサイド、例えばCoSiまたはCoSi
109:マスク
110:ドープされたシリコン
111:高ドープされた半導体領域、シリサイドからのドーパントの偏析により形成された領域
121:半導体材料からなるナノワイヤ
122:絶縁体
123:ドープされたエピタキシャル層、例えばSiGe層の形成するポケット領域
124:ゲート電極のための絶縁体
125:ゲート電極
126:側方に配置された酸化物スペーサ、例えばSiOまたは窒化シリコンからなる
127:ドープされたドレイン領域
128:シリコン、例えばCoSiまたはCoSi
129:高ドープされた半導体領域、シリサイドからのドーパントの偏析により形成された領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21