(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6671389
(24)【登録日】2020年3月5日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】極低減衰の単一モード光ファイバ
(51)【国際特許分類】
G02B 6/036 20060101AFI20200316BHJP
【FI】
G02B6/036
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-546604(P2017-546604)
(86)(22)【出願日】2015年12月1日
(65)【公表番号】特表2018-511078(P2018-511078A)
(43)【公表日】2018年4月19日
(86)【国際出願番号】CN2015096109
(87)【国際公開番号】WO2016173252
(87)【国際公開日】20161103
【審査請求日】2017年9月4日
(31)【優先権主張番号】201510206602.7
(32)【優先日】2015年4月28日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】515116272
【氏名又は名称】長飛光繊光纜股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【弁理士】
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】龍 勝亜
(72)【発明者】
【氏名】朱 継紅
(72)【発明者】
【氏名】張 磊
(72)【発明者】
【氏名】呉 俊
(72)【発明者】
【氏名】張 睿
(72)【発明者】
【氏名】王 瑞春
【審査官】
山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2014/0248026(US,A1)
【文献】
中国特許出願公開第102645699(CN,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0106909(US,A1)
【文献】
中国特許出願公開第104360434(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/02−6/036
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア層とクラッド層を含む極低減衰の単一モード光ファイバにおいて、
前記コア層は、半径r1が3.9〜4.7μmであり、相対屈折率差Δn1が−0.08%〜0.10%であり、
前記コア層の外部には、内側から外側へ順に、
半径r2が9〜14μm、相対屈折率差Δn2が−0.40%〜−0.15%である内部クラッド層、
半径r3が13〜25μm、相対屈折率差Δn3が−0.7%〜−0.3%である陥没内部クラッド層、
半径r4が30〜50μm、相対屈折率差Δn4が−0.4%〜−0.15%である補助的外部クラッド層、及び、
純シリカガラス層である外部クラッド層が被覆され、
波長1310nmにおけるモードフィールド径が8.8〜9.6μmであり、
前記コア層は、ゲルマニウムとフッ素を共添加したシリカガラス層であるか、ゲルマニウムのみを添加したシリカガラス層であり、ゲルマニウムの添加による寄与度が0.02%〜0.10%であり、
波長1310nmにおける減衰が0.324dB/km以下であることを特徴とする極低減衰の単一モード光ファイバ。
【請求項2】
前記光ファイバは、ケーブリングにおける遮断波長が1260nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の極低減衰の単一モード光ファイバ。
【請求項3】
前記光ファイバは、波長1550nmにおける色分散が18ps/nm*km以下であり、波長1625nmにおける色分散が22ps/nm*km以下であることを特徴とする請求項1に記載の極低減衰の単一モード光ファイバ。
【請求項4】
前記光ファイバは、波長1550nmにおける減衰が0.184dB/km以下であることを特徴とする請求項1に記載の極低減衰の単一モード光ファイバ。
【請求項5】
前記光ファイバは、波長1700nmにおけるミクロベンド損失が5dB/km以下であることを特徴とする請求項1に記載の極低減衰の単一モード光ファイバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ伝送の技術分野に関し、具体的には、極低減衰性能を有する単一モード光ファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
IPネットワークデータサービスの著しい発展に伴い、伝送容量に対する通信業者の要求がますます高まり、現在のネットワークにおける単一ファイバの容量は既に限界値の100Tbpsに迫っている。100G伝送システムは、商業化が開始されている。100G伝送信号に基づいて更に伝送容量を増加させることは、各システムの製造業者と通信業者が注目する焦点になっている。
【0003】
PM−QPSK変調技術、同期検波技術及びデジタル信号処理(DSP)技術を取り入れた100Gシステムは、光信号対雑音比(OSNR)余裕度を10G級まで下げ、光ファイバに対する要求を低下させる。研究によって、100Gシステムにおいて、G.652D光ファイバ、低損失または極低損失の光ファイバは1000km以上の距離の伝送を可能にする。極低損失の光ファイバはリンクを35−40%延長できる。また、極低損失の光ファイバは、あるリンクにおける中継器の数を減らすことができ、全光ネットワークの構築に有利である。100km程度の長距離光増幅器スパンを用いるシステムにおいて、ULL光ファイバはスパン損失を小さくできる。
【0004】
400G伝送システムのもたらしたOSNRの制限、ノーズ及び非線形の問題は、伝送距離を制限する。主な装置製造業者のテスト結果により、デュアルキャリアと16QAM変調技術を取り入れた400Gシステムは、伝送距離が100Gシステムの伝送距離の1/3であるため、高速度システムの構築にはシステム容量と伝送距離を考慮すべきである。リンクの伝送設備側から見ると、マルチキャリア光源、高次変調、同期検波、高速DSPシステムとエラー修正などの技術で、商業用の高速光伝送システムの開発を推進でき、リンクの光ファイバ技術から見ると、極低損失の光ファイバは、システムのOSNRを向上させ、伝送距離を効率的に延長できる。
【0005】
現在、一般的なG.652.D光ファイバの損失が通常0.20dB/kmであり、レーザエネルギーが長距離伝送を経て徐々に減少するため、中継方式で信号の再増幅をする必要がある。光ファイバ/ケーブルのコストに対して、中継ステーションの関連機器と保守コストは、全リンクシステムにおいて70%以上である。よって、極低損失の光ファイバを設計すれば、伝送距離を効果的に増やし、敷設と保守コストを軽減することができる。計算によると、光ファイバの損失を0.20から0.16dB/kmまで小さくすると、全リンクの敷設コストは、全体で30%ほど下がる。以上の記載をまとめると、極低損失で大きな有効面積の光ファイバの研究開発は、光ファイバの製造分野における重要課題のひとつになる。
【0006】
極低減衰の光ファイバの設計が提案された特許文献1(中国特許出願番号201310394404)では、純シリコンコアの設計が採用され、代表的なステップ・インデックス型光ファイバが利用されており、ベンド性能向上ための埋め込みクラッド層が利用されず、コア層へのゲルマニウム(Ge)の添加が行われていないので、母材ロッドを製造する時に粘度の不一致が発生し、光ファイバの減衰性能とベンド性能が、比較的低い。
【0007】
大きな有効面積の光ファイバの設計が提案された特許文献2(国際出願番号PCT/US2010/022533)では、より小さいレイリー係数を取得するために、純シリコンコアの設計が採用され、コア層へのゲルマニウムとフッ素の共添加が行われず、しかもフッ素を添加したシリカを外部クラッド層とする設計になっている。このような純シリコンコアの設計の場合、光ファイバ内部での複雑な粘度マッチングが必須であり、引っ張り工程において極めて低速な引っ張りが要求され、高速な引っ張りによる光ファイバ内部の欠陥に起因する損失の増加を回避することが要求され、製造工程が極めて複雑になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】中国特許出願公開第103454719号明細書
【特許文献2】国際公開第2010/088482号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、本発明における一部の用語を定義し、説明する。
光ファイバのコア軸線から数え、屈折率の変化に応じて、軸線に最も近い層をコア層、光ファイバの最も外の層、即ち純シリカ層を光ファイバの外部クラッド層と定義する。
光ファイバの各層の相対屈折率差Δn
iは、以下の方程式により定義される。
【数1】
ここで、n
iはコアの屈折率であり、n
cはクラッド層の屈折率、即ち純シリカの屈折率である。
光ファイバのコア層におけるゲルマニウム添加による屈折率寄与度ΔGeは、以下の方程式により定義される。
【数2】
ここで、n
Geは、ゲルマニウム(Ge)が純シリカに添加されることによる、コア層のシリカガラスの屈折率の変化量であり、n
cは外部クラッド層の屈折率、即ち純シリカの屈折率である。
ケーブルの遮断波長λ
cc:
IEC(国際電気標準会議)標準60793−1−44の定義によると、ケーブルの遮断波長λ
ccは、光信号が光ファイバの22メートルを超える伝搬後に、もはや単一モードではない波長である。測定では、光ファイバを半径14cmで1巻き、半径4cmで2巻きをしてデータを取得する。
【0010】
本発明の解決しようとする技術問題は、極低減衰の単一モード光ファイバを提供することであり、この極低減衰の単一モード光ファイバは、光ファイバの製造コストが低く、ケーブリングにおける遮断波長が1260nmより小さく、優れたベンド損失と色分散性能を有し、G652標準との互換性を有する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以上の問題を解決するために、以下の技術手段を採用する。
コア層とクラッド層を含む光ファイバにおいて、前記コア層は、半径r
1が3.9〜4.8μmであり、相対屈折率差Δn
1が−0.08%〜0.10%であり、前記コア層の外部には、内側から外側へ順に、半径r
2が9〜14μm、相対屈折率差Δn
2が−0.40%〜−0.15%である内部クラッド層、半径r
3が13〜25μm、相対屈折率差Δn
3が−0.7%〜−0.3%である陥没内部クラッド層、半径r
4が30〜50μm、相対屈折率差Δn
4が−0.4%〜−0.15%である補助的外部クラッド層、及び、純シリカガラス層である外部クラッド層が被覆される。
【0012】
上記技術手段において、前記光ファイバの前記コア層は、ゲルマニウムとフッ素を共添加したシリカガラス層であるか、ゲルマニウムのみを添加したシリカガラス層であり、ゲルマニウムの添加による寄与度が0.02%〜0.10%である。
【0013】
上記技術手段において、前記光ファイバは、波長1310nmにおけるモードフィールド径が8.8〜9.6μmである。
【0014】
上記技術手段において、前記光ファイバは、ケーブリングにおける遮断波長が1260nm以下である。
【0015】
上記技術手段において、前記光ファイバは、波長1550nmにおける色分散が18ps/nm*km以下であり、波長1625nmにおける色分散が22ps/nm*km以下である。
【0016】
上記技術手段において、前記光ファイバは、波長1310nmにおける減衰が0.324dB/km以下であり、好適な条件では0.304dB/km以下である。
【0017】
上記技術手段において、前記光ファイバは、波長1550nmにおける減衰が0.184dB/km以下であり、好適な条件では0.174dB/km以下である。
【0018】
上記技術手段において、前記光ファイバは、波長1700nmにおけるミクロベンド損失が5dB/km以下である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の利点は、以下の通りである。1)ゲルマニウムを添加したコア層の設計により、光ファイバ内部の粘度マッチングが合理的に設計され、光ファイバの製造過程における欠陥を減少させ、光ファイバの減衰パラメータを小さくさせ、光ファイバが極低減衰性能を有する。2)本発明の遮断波長、ベンド損失、色分散などの総合的性能パラメータは、応用波長域で優れ、十分に小さいケーブリングにおける遮断波長により、本発明の光ファイバのC波長域伝送応用で光信号の単一モード状態を保証し、G652標準との互換性があり、幅が広い陥没クラッド構造を有して光ファイバのベンド損失に優れた改良作用を有する。3)最も外部の層の外部クラッド層の構造に純シリカの設計が採用され、光ファイバでのフッ素添加ガラスの割合を低下させることで、光ファイバの生産コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の1つの実施例における屈折率断面構造分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、実施例を参照して、本発明の詳細を説明する。
【0022】
ゲルマニウムとフッ素を共添加したシリカガラス層であるか、ゲルマニウムを添加したシリカガラス層であるコア層と、クラッド層を含み、コア層の外部には、内側から外側へ順に、内部クラッド層、陥没内部クラッド層、補助的外部クラッド層、及び外部クラッド層が被覆される。外部クラッド層は純シリカガラス層であり、半径が125μmである。
【0023】
表1は、本発明の好適な実施例における屈折率断面パラメータである。ここで、ΔGeは、コア層におけるGeの添加による寄与度である。表2は、表1に記載された光ファイバに対応する光伝送特性を示す。
【0026】
(付記)
(付記1)
コア層とクラッド層を含む極低減衰の単一モード光ファイバにおいて、
前記コア層は、半径r
1が3.9〜4.8μmであり、相対屈折率差Δn
1が−0.08%〜0.10%であり、
前記コア層の外部には、内側から外側へ順に、
半径r
2が9〜14μm、相対屈折率差Δn
2が−0.40%〜−0.15%である内部クラッド層、
半径r
3が13〜25μm、相対屈折率差Δn
3が−0.7%〜−0.3%である陥没内部クラッド層、
半径r
4が30〜50μm、相対屈折率差Δn
4が−0.4%〜−0.15%である補助的外部クラッド層、及び、
純シリカガラス層である外部クラッド層が被覆されることを特徴とする極低減衰の単一モード光ファイバ。
【0027】
(付記2)
前記光ファイバの前記コア層は、ゲルマニウムとフッ素を共添加したシリカガラス層であるか、ゲルマニウムのみを添加したシリカガラス層であり、ゲルマニウムの添加による寄与度が0.02%〜0.10%であることを特徴とする付記1に記載の極低減衰の単一モード光ファイバ。
【0028】
(付記3)
前記光ファイバは、波長1310nmにおけるモードフィールド径が8.8〜9.6μmであることを特徴とする付記1又は2に記載の極低減衰の単一モード光ファイバ。
【0029】
(付記4)
前記光ファイバは、ケーブリングにおける遮断波長が1260nm以下であることを特徴とする付記1又は2に記載の極低減衰の単一モード光ファイバ。
【0030】
(付記5)
前記光ファイバは、波長1550nmにおける色分散が18ps/nm*km以下であり、波長1625nmにおける色分散が22ps/nm*km以下であることを特徴とする付記1又は2に記載の極低減衰の単一モード光ファイバ。
【0031】
(付記6)
前記光ファイバは、波長1310nmにおける減衰が0.324dB/km以下であることを特徴とする付記1又は2に記載の極低減衰の単一モード光ファイバ。
【0032】
(付記7)
前記光ファイバは、波長1550nmにおける減衰が0.184dB/km以下であることを特徴とする付記1又は2に記載の極低減衰の単一モード光ファイバ。
【0033】
(付記8)
前記光ファイバは、波長1700nmにおけるミクロベンド損失が5dB/km以下であることを特徴とする付記1又は2に記載の極低減衰の単一モード光ファイバ。