特許第6671431号(P6671431)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ブルカー エイエックスエス ゲーエムベーハーの特許一覧

<>
  • 特許6671431-高熱性能を有する分析X線管 図000015
  • 特許6671431-高熱性能を有する分析X線管 図000016
  • 特許6671431-高熱性能を有する分析X線管 図000017
  • 特許6671431-高熱性能を有する分析X線管 図000018
  • 特許6671431-高熱性能を有する分析X線管 図000019
  • 特許6671431-高熱性能を有する分析X線管 図000020
  • 特許6671431-高熱性能を有する分析X線管 図000021
  • 特許6671431-高熱性能を有する分析X線管 図000022
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6671431
(24)【登録日】2020年3月5日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】高熱性能を有する分析X線管
(51)【国際特許分類】
   H01J 35/08 20060101AFI20200316BHJP
   H01J 35/12 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
   H01J35/08 C
   H01J35/08 B
   H01J35/12
【請求項の数】15
【外国語出願】
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-149274(P2018-149274)
(22)【出願日】2018年8月8日
(65)【公開番号】特開2019-50190(P2019-50190A)
(43)【公開日】2019年3月28日
【審査請求日】2018年9月27日
(31)【優先権主張番号】15/679,853
(32)【優先日】2017年8月17日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518283469
【氏名又は名称】ブルカー エイエックスエス ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロジャー ディー.ダースト
(72)【発明者】
【氏名】カルステン ミハエルセン
(72)【発明者】
【氏名】ポール ラドクリフ
(72)【発明者】
【氏名】イエンス シュミット−メイ
【審査官】 鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2016−537797(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0185778(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 35/08
H01J 35/12
H05G 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームが入射するターゲットアノードであって、前記電子ビームによる励起に応答して特性X線を放射するターゲット材料を含む、該ターゲットアノードと、
前記ターゲットアノードが配置されるダイアモンド基板と、
前記ターゲット材料と基板との間に配置された界面層であって、前記ターゲット材料の音響インピーダンスZ1と前記ダイアモンド基板の音響インピーダンスZ2との幾何平均
【数1】
に密接に整合する音響インピーダンスZiを有し、
【数2】
が0.75から1.5の間になるような材料を含む、該界面層と
を備えたことを特徴とするX線管。
【請求項2】
前記ターゲット材料は銅を含み、および、前記界面層は炭化チタン(TiC)と炭化クロム(Cr32)のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1に記載のX線管。
【請求項3】
前記ターゲット材料は銀を含み、および、前記界面層は炭化クロム(Cr32)と炭化モリブデン(MoC)のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1に記載のX線管。
【請求項4】
前記ダイアモンド基板を有する界面での動作温度は、600Kから800Kの間であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のX線管。
【請求項5】
前記界面層は、前記基板との強力な結合を形成する金属炭化物を含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のX線管。
【請求項6】
前記界面層は、堆積された層であることを特徴とする請求項5に記載のX線管。
【請求項7】
前記ターゲット材料は炭化物形成金属を含む合金を備え、および、前記界面層の前記金属炭化物は前記ターゲット材料の前記炭化物形成金属から形成されたことを特徴とする請求項5に記載のX線管。
【請求項8】
前記ターゲット材料と前記ダイアモンド基板との間の放熱層をさらに備え、前記放熱層は、前記ターゲット材料の熱伝導率の少なくとも2倍の熱伝導率を有することを特徴とする請求項1に記載のX線管。
【請求項9】
前記ターゲット材料は、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、ロジウム(Rh)およびタングステン(W)のうちの1つを含むことを特徴とする請求項8に記載のX線管。
【請求項10】
前記放熱層は、銅と銀のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項8または9に記載のX線管。
【請求項11】
前記放熱層は、5−15μmの厚さを有することを特徴とする請求項10に記載のX線管。
【請求項12】
前記界面層は、前記基板との強力な結合を形成する金属炭化物を備えることを特徴とする請求項8ないし11のいずれか1つに記載のX線管。
【請求項13】
前記ターゲット材料は、3−5μmの深度を有することを特徴とする請求項8ないし12のいずれか1つに記載のX線管。
【請求項14】
前記界面層は、3−10μmの厚さを有することを特徴とする請求項1ないし13のいずれかに記載のX線管。
【請求項15】
前記電子ビームに露光される前記ターゲット材料の表面は、横方向の前記ダイアモンド基板で囲まれていることを特徴とする請求項1ないし14のいずれかに記載のX線管。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の分野
本発明は、一般には、X線管の分野に関し、より詳細には、分析機器に使用される望ましい波長におけるX線の高出力密度生成に関する。
【0002】
関連技術の説明
X線管において、高エネルギー電子ビーム(典型的には、10−100keV)は、ターゲット材料に作用してX線放射を励起する。X線回析など、分析アプリケーションに使用されるX線管の場合、管は、特定の波長で特性放射線を作り出すように最適化される。そのようなアプリケーションに使用される最も一般的なX線管は、クロム、コバルト、銅、モリブデン、銀ロジウムまたはタングステンで構成されるターゲットアノードを組み込む。アノード材料の選択は、本件の分析アプリケーションにとって望ましいX線波長に基づく。
【0003】
X線の電子衝撃励起のプロセスは、相対的に効率が悪い。典型的には、入射電子ビームのエネルギーのおよそ1%しかX線に変換されず、その残りは、排熱として消失する。特に、従来のX線管の輝度は、電子ビームの出力密度に正比例する。これは、管が熱的に制限されること、つまり、最大輝度が融解または蒸発を経たアノードの熱分解によって制限されることを意味する。X線管は、従って、アノード材料の融点未満の温度、典型的には、50−200Kで動作されなければならない。
【0004】
X線管アノードの温度は、アノードスポットの大きさ、電子ビームの出力密度およびアノードの熱伝導率に比例する。微小焦点管(電子ビームの直径がアノード寸法よりかなり小さい管として定義される)の特定の事例において、アノードの温度は、以下の関係によって得られる。
【0005】
【数1】
【0006】
ここにTCは、(アノードの電極ビームスポットの中央の)最高温度であり、T0は、アノードターゲットの(冷却された)側面と背面の周囲温度であり、Pは、電子ビームの出力ローディングであり、Kは、ターゲットの熱伝導率であり、dは、電子ビームスポットの直径である。これにより、ターゲット材料の熱伝導率が高くなる最大許容動作温度TCを所与とすると、可能な出力ローディングを増加することがわかる。
【0007】
上述したように、分析管において、ターゲット材料(および、従って、その熱伝導率)の選択は、本件のX線アプリケーションにとって望ましい波長によって決定される。しかしながら、より高い熱伝導率を有する基板にターゲット材料の薄層を配置することによってターゲットの効果的な熱伝導率を高めることが可能である。従って、図1に示すように、ターゲット材料の層10をより高い熱伝導率の基板12に被覆することができる。その構造から放射される特性X線は、ターゲット材料10に基づく波長を有するが、基材12は、より高い出力密度の電子ビームがターゲット材料を劣化せずに使用されることを可能にする強化された全体の熱伝導率を提供する。
【0008】
このような構造は、過去に使用された。例えば、タングステンターゲットは、排熱を効率的に除去する銅基板に配置されている。さらに高い熱伝導率を有するダイアモンドも、強化された熱伝導率をいくつかのアプリケーションに提供するための異なる構成でターゲット材料に使用されている。そのような基板材料の使用により強化された熱放散、従って、より高い輝度のX線ビームが可能となったが、そのような管の全体性能になおも制限がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に従って、熱的性質が改善されたX線管が提供され、従って、これまでに可能な輝度よりも高い輝度でX線管の生成ができるようにする。X線管は、電子ビームによる励起に応答して特性X線を放射するターゲット材料を有するターゲットアノードを含む。ターゲットアノードは、アノードからの熱を放散するダイアモンド基板に配置される。第1の実施形態において、X線管はまた、ダイアモンド基板と、金属炭化物を含むターゲット材料との間に中間層も含み、せん断応力に抵抗するダイアモンド材料とのより安定した結合与える。この中間層は、製造プロセス中に基板に堆積する層になる。中間層はまた、炭化物形成金属を含む合金を備えるターゲット材料を使用こと、およびその後、ターゲット材料において層の形成が生じる反応を誘発することによって形成されてよい。
【0010】
ターゲット材料は、銅または銀などの相対的に高い熱伝導性材料となり、そのような場合、管は、ダイアモンド基板が600Kから800Kの間である接点の温度で動作するように構成されてよい。発明はまた、ターゲット材料と基板との間に配置された界面層を含むこともでき、界面層は、ターゲット材料の音響インピーダンス(Z1)とダイアモンド基板の音響インピーダンス(Z2)との幾何平均
【0011】
【数2】
【0012】
に密接に整合する音響インピーダンスZiを有する材料を含む。この実施形態の例示的バージョンにおいて、この整合は、
【0013】
【数3】
【0014】
が0.75から1.5の間であることに十分近い。界面層はまた、金属炭化物を含むこともでき、上記のように、中間結合層として機能する。一変形形態において、ターゲット材料は銅を含み、その界面層は、炭化チタン(TiC)と炭化クロム(Cr32)のうち少なくとも1つを含む。別の変形形態において、ターゲット材料は銀を含み、その界面層は、炭化クロム(Cr32)と炭化モリブデン(MoC)のうち少なくとも1つを含む。
【0015】
発明の別の態様において、ターゲット材料は、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、ロジウム(Rh)またはタングステン(W)など、相対的に低い熱伝導材料を含み、X線管もターゲット層とダイアモンド基板との間に放熱層を含む。この放熱層は、ターゲット材料の熱伝導率よりもかなり高い(例えば、少なくともその2倍)熱伝導率を有する材料を含み、ターゲットアノードからの熱放散を強化する働きをする。1つのバージョンにおいて、放熱層は、銅または銀を含む。
【0016】
発明の例示的な実施形態において、管は、アノード材料、ダイアモンド基板および他の層が限定角度、典型的には、電子ビームの方向に対して2−30度(即ち、入射電子とターゲットの面法線とのなす角度)で配向されるような反射モードで動作される。そのような反射モード管において、ターゲット材料は、電子ビームの電子の最大侵入度に対応する最小の厚さでなければならない。例えば、モリブデンターゲット材料の厚さは、3−5μmとなる。アノードはまた、電子ビームに露光されるターゲット材料の表面は、横方向のダイアモンド基板で囲まれている異なる構成を有することもできる。
【0017】
X線管の製造は、構造の層を適切な順序で堆積することを伴う。ダイアモンド基板が最初に提供され、その後適切な熱界面層が堆積されて、最終的に、望ましいターゲット材料が堆積される。ターゲット材料が銅または銀など、高熱伝導性金属である実施形態において、中間金属炭化物層使用することができ、炭化物層は、ターゲット材料に堆積する前にダイアモンド基板に堆積される。代替実施形態において、炭化物形成金属または炭化物形成金属を含む合金を備えるターゲット材料が提供される。この材料は、その後ダイアモンド基板に直接堆積されて、適した熱処理を経て、その結果としてダイアモンド基板に隣接する金属炭化物の形成が生じる化学反応が誘発される。クロム、モリブデン、ロジウムまたはタングステンなど、より低い熱伝導率のターゲット材料が使用されると、音響的に整合した熱界面層は、より高い熱伝導性ターゲット材料と同様、ダイアモンド基板に堆積される。しかしながら、銅または銀など高熱伝導性材料を備える放熱層も堆積され、ターゲット材料は、放熱層に堆積される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】従来の分析X線管のターゲットアノード構造の概略図である。
図2】温度に対するダイアモンドの熱伝導率とさまざまなX線管アノードのターゲット材料のグラフ表示の図である。
図3】銅ターゲット材料を使用するX線管アノードの深度に対する温度のグラフ表示の図である。
図4】X線管アノードのモリブデンターゲット材料における50keV電子軌道のモンテカルロシミュレーションのグラフ表示の図である。
図5】銀、銅およびダイアモンドの熱膨張係数のグラフ表示の図である。
図6】ターゲット材料が音響整合界面層によってダイアモンド層から分離される分析X線管のターゲットアノード構造の概略図である。
図7】より低い熱伝導性ターゲット材料が中間炭化物層によってダイアモンド基板に結合される分析X線管のターゲットアノード構造の概略図である。
図8】ターゲット材料が中央の領域に配置されて、ダイアモンド「基板」で囲まれている分析X線管のターゲットアノード構造の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
ダイアモンド基板は、基板に配置されたターゲット材料からの熱を放散する手段として過去に使用されたが、そのような配置を使用するX線管に多くの現実的問題がなおも存在する。図2は、分析X線管に一般的に使用されるダイアモンドと金属の温度に対する熱伝導率の描画を示す。図示されているように、ダイアモンドは、室温で銅または銀よりもかなり高い熱伝導率、典型的には、合成(化学蒸着した)ダイアモンドの3または4倍を有する。これにより、ダイアモンドがいくつかのアプリケーションの基板に対する魅力的な選択肢になるが、ダイアモンドが提供する熱伝導率の利点は、相対的に低い温度を提示するに過ぎない。およそ800Kを超える、より高い温度において、銅と銀の両方の熱伝導率は、ダイアモンドの熱伝導率を上回る。
【0020】
実際には、分析X線管は、X線放射の輝度を最大にするように、それらの融点に近づく温度で動作されることが多い。銅の融点は、およそ1300Kである一方、銀の融点は、およそ1200Kである。これらのアノード材料の典型的なピーク動作温度は、それらの融点未満の50から200Kの間となるが、その温度は、ダイアモンドの熱伝導率が銅または銀のいずれかより劣る温度範囲内に収まる。その結果として、銅または銀のいずれかのアノードを有する管の場合、ダイアモンド基板上の過度に薄いアノード層は、利点がない。つまり、ターゲット層が薄すぎると、金属−ダイアモンド界面の温度は、800Kより高くなり、代わってダイアモンドは、(銅または銀に対して)熱絶縁体として機能して、熱伝導を強化するよりもむしろ劣化させる。しかしながら、ターゲット層が厚すぎると、温度は、ダイアモンドの強化された熱伝導率が効果的に利用される範囲を下回る。従って、ダイアモンド基板上の銀および銅アノードに対し、界面温度は、理想的には600Kから800Kの間に収まらなければならない。
【0021】
金属界面層における温度対深度は、以下の関係を使用して算出される。
【0022】
【数4】
【0023】
ここに係数Anは、
【0024】
【数5】
【0025】
によって与えられる。上記のように、Pは、電子ビーム出力ローディングであり、dは、電子ビームの直径であり、aは、ターゲットアノードの半径(a>>d)であり、kは、ターゲット材料の熱伝導率であり、λnは、第1種のゼロ次ベッセル関数のルートである
【0026】
上記の関係を使用して、異なる材料の温度対深度(ミクロン)が決定される。例えば、図3は、電子ビームの直径が20μmのピーク温度1200Kで動作される銅アノードの表面からの温度対深度を示す。図から、界面温度を800K未満に収めるために銅ターゲットが少なくとも7μmの厚さでなければならないことがわかる。逆に、層の厚さは、温度が600Kをかなり下回るか、またはダイアモンドの強化された熱伝導率が十分に利用されないような厚さにはならない。従って、この例において、Cuターゲット層は、およそ12μmの厚さを上回ることはない。
【0027】
上記に照らして、本発明は、ダイアモンド/ターゲットの界面温度が、ダイアモンドとターゲット材料の熱伝導率が同じ温度を下回る50−200Kの範囲内に収まるようなターゲット層の厚さの金属ターゲット層をダイアモンド基板に有する分析X線管を提供する。銅または銀の場合、界面温度は、従って、600から800Kの間にならなければならない。これを達成するのに必要な正確な厚さは、電子ビームの直径dと出力ローディングPを含む、管の設計の細部に応じて異なる。これらの他のパラメータが分かると、上記の関係を使用するまたは有限要素数値シミュレーションを使用して適切なターゲット層の厚さが算出される。出力ローディングが30−70Wと電子ビームの直径が20−50ミクロンの範囲の典型的な微小焦点管の場合、銅または銀アノードの厚さは、典型的には5−20μmの範囲になる。
【0028】
分析管のターゲットアノードとして使用される他の一般的な金属の場合、状況は、それらの熱伝導率がすべての温度においてダイアモンドより低いように異なる。これらの金属をダイアモンド基板に直接被覆することによって、平均熱伝達率の改善が達成される。しかしながら、ダイアモンド基板が最初に(以下に説明される適切な界面層の)銅または銀で被覆され、その後ターゲット金属(Cr、Mo、RhまたはWなど)の薄層が銅または銀の放熱層に堆積する、多層アノードをさらに使用して平均熱伝達率を改善することも可能である。
【0029】
モリブデン(Mo)の具体的事例において、アノードの融点は、2894Kであり、従って、管が2700−2800Kで動作することが典型的には望ましい。図4は、モリブデンターゲットの50keV電子軌道のモンテカルロシミュレーションを示す。これにより、2−3ミクロンの厚さのモリブデンが、ビームを完全に減衰するのに十分であることがわかる。従って、ターゲット層をこれよりも薄くしても付加的なX線を作り出さない。3μmの厚さのMoの層がダイアモンド基板に被覆されれば、20μm電子ビームのダイアモンド/アノードの界面温度は、ダイアモンドの最大動作温度直下である(つまり、ダイアモンドがグラファイトに分解される温度)、1900Kになる。しかしながら、これらの超高温のダイアモンドの熱伝達率は、かなり低く、銅または銀の熱伝達率の半分に満たない。
【0030】
上記に照らして、モリブデンなどのより低い熱伝導性ターゲット材料を使用する分析管の場合、本発明の一実施形態は、上記で説明したような、ターゲット材料が銅または銀の層に被覆され、それが今度は、ダイアモンド基板に配置される多層構造を利用する。例えば、3−5ミクロンのモリブデンの層は、界面温度が銅または銀の層の融点を下回るような(例えば、1000−1200Kの範囲の)銅または銀の層に被覆されてよい。この銅または銀の層はそれ自体、上記で説明したように、ダイアモンド界面の動作温度が600−800Kになるようなダイアモンド基板に接着される。この多層構成は、ダイアモンド基板に直接堆積されたモリブデンターゲットよりも平均熱伝達率がかなり高い。
【0031】
本発明はまた、開示された金属/ダイアモンド構成の力学的考察も考慮する。図5に示すように、ダイアモンドの熱膨張係数は、ほとんどの金属に比べてかなり低く、そのため、金属層とダイアモンド基板との間の界面は、高機械せん断応力に従う。銅と銀のいずれも安定した炭化物を形成せず、ダイアモンドと金属ターゲット層との間の機械的付着は、相対的に弱いファンデルワールス付着を経る。従って、金属ターゲットがダイアモンド基板から機械的に分離される大きな危険性がある。ロバストな機械付着は、ダイアモンド基板とターゲット金属層との間の微視的分離または隙間でさえも結果としてアノードの急速な故障につながる「ホットスポット」が生じるので重要である。
【0032】
機械付着を改善するために、用いられてよいいくつかの異なる手法がある。一実施形態において、ターゲット金属は、少量の炭化物形成金属で合金にされる。例えば、銅ターゲットは、少量のホウ素、クロムまたはチタンで合金にされる銅を使用できる。別の実施形態において、金属の薄い被覆は、ダイアモンドとの強力な炭化物結合を形成する層とターゲット金属との金属間結合との間に介在する。一般に、炭化物界面層は、強力な機械付着を提供するためにほんの数個の分子の厚さしか必要ないが、配置は、構造の熱性能も考慮に入れなければならない。つまり、界面層は、強力な機械付着と界面の低熱抵抗の両方を提供しなければならない。
【0033】
任意の2つの金属間の界面において、カピッツァ抵抗として知られる界面熱抵抗が生じる。この界面抵抗は、金属とダイアモンドの熱伝導が異なるプロセスを経て起こるという事実により金属−ダイアモンド界面では特に著しい。金属において、熱の主要な担体は、伝導電子である一方、ダイアモンドにおいて、熱は、フォノン(格子振動)によって搬送される。従って、金属−ダイアモンド界面の熱抵抗を最小にするために、金属ターゲットの電子媒介熱流とダイアモンドのフォノン媒介熱流との結合を最適化することが必要である。
【0034】
金属からダイアモンドへの熱流は、3つの経路で搬送される:1)金属の伝導電子は、ダイアモンドのフォノンを励起する;2)金属の電子は、金属のフォノンを励起し、その後、ダイアモンドのフォノンに結合する;3)金属のフォノンは、ダイアモンドのフォノンを励起する。金属−ダイアモンド界面の具体的事例において、フォノン−フォノン結合(即ち、上記の経路1および2)は、主要な熱経路を表すと見られている。しかしながら、ダイアモンドの平均フォノンエネルギーが金属のフォノンの平均フォノンエネルギーよりはるかに高いので、金属のフォノンがダイアモンドのフォノンを直接励起することは、エネルギー的に不可能である。
【0035】
最近の研究は、熱伝達が、金属層からのフォノンによって散乱するダイアモンド格子のフォノンを伴う、部分伝導モデル(partial transmission model)を支持している。この分野の他の研究は、金属/絶縁体界面のフォノン−フォノン熱コンダクタンスが音響インピーダンスの整合によって最適化されることを示している。金属の音響インピーダンスZは、以下に定義される。
【0036】
【数6】
【0037】
ここにpは、質量密度であり、Vgは、フォノンの平均群速度である。金属界面のフォノン散乱は、異種材料間のインピーダンス不整合により、以下の通りに定量化される。
【0038】
【数7】
【0039】
つまり、フォノンが媒質1と媒質2の両方に同じエネルギーを搬送しなければ、フォノンの一部が反射される。これが界面抵抗の源(source)である。
【0040】
関連した熱抵抗のこのような反射効果は、異種材料間の接点で完全に排除されるわけではない。しかしながら、反射効果は、2つの異種層のインピーダンスの幾何平均である音響インピーダンスを有する界面層を使用することによって最小化され、以下に与えられる。
【0041】
【数8】
【0042】
ここにZiは、界面層の音響インピーダンスであり、Z1とZ2は、隣接する異種材料の音響インピーダンスである。音響的に整合した界面層の使用は、熱界面抵抗を2倍まで減らすことがわかっている。より低い熱抵抗を達成するために複数の界面層を使用することも可能である。
【0043】
本発明に従って、ダイアモンドに対する強力な機械付着と、ターゲット金属とダイアモンド基板との間の最適な音響インピーダンス整合との両方を有する界面層が使用される。上記のインピーダンス整合関係を使用して、以下の音響整合パラメータが得られる。
【0044】
【数9】
【0045】
ここに、上記のように、Ziは、界面層の音響インピーダンスであり、Z1とZ2は、それぞれ、金属ターゲットの音響インピーダンスとダイアモンド層の音響インピーダンスである。この音響整合パラメータは、熱界面抵抗を最小にするためにできるだけ1.0に近くなければならない。
【0046】
以下の表は、異なる界面材料を使用して銅/ダイアモンドおよび銀/ダイアモンド構造の音響整合パラメータを示す。表1は、Cr、Ti、Zr、Mo、W、Cr32、TiC、MoCおよびWCのそれぞれの界面層を有する銅/ダイアモンドの音響整合パラメータを示す。
【0047】
【表1】
【0048】
図示したように、Cuの金属界面層は、(B、Ti、CrまたはZrの2%未満で)合金にされ、Cr、Ti、Zr、MoおよびWの金属界面層は、相対的に低い音響整合である。最良の音響整合は、Cr32とTiCの層である。表2は、Cr、Ti、Zr、Mo、W、Cr32、TiC、MoCおよびWCのそれぞれの界面層を有する銀/ダイアモンドの音響整合パラメータを示す。
【0049】
【表2】
【0050】
この場合、Agの金属界面層は、(B、Ti、CrまたはZrの2%未満で)合金にされ、Zr、MoおよびWは、相対的に低い音響整合である一方、CrおよびTiの層は、相対的に高い。音響的に整合した最良の界面層は、Cr32とMoCである。
【0051】
上記のように、銅−ダイアモンドの場合、典型的な金属界面層は、低い音響インピーダンス整合である。代わりに、最良の整合は、炭化クロム、炭化チタンおよび炭化モリブデンである。銀−ダイアモンドの最良の音響インピーダンス整合は、炭化クロムおよび炭化モリブデンである一方、金属CrおよびTiも許容範囲にある。前述の金属は、単に発明に使用される手法を示しているに過ぎず、分析管に一般的に使用されている他の金属に適用されてよいことが当業者に理解されよう。
【0052】
Cr、RhおよびMoは、これらの金属が界面層無しでダイアモンドとの強力な結合を形成するという意味において特例である。しかしこれらの金属はまた、音響不整合も示し、従ってダイアモンド基板のより良い音響整合を有する介在層の使用によって利益を得る。しかしながら、これらの金属の場合、金属自身の炭化物が優れた音響界面を形成する。従って、一実施形態において、良い音響界面(Cr、RhおよびMoなど)を有する炭化物を形成するターゲット金属は、ダイアモンド基板に被覆され、その後熱処理されておよそ5−10nmの炭化物層を形成する。このようにして、強力な機械結合と良い音響整合の両方をダイアモンドに提供する単一層を使用できる。
【0053】
熱放散を強化するために銅または銀の中間層が、ダイアモンド基板と、相対的に低い熱伝導率のターゲットアノード材料(クロム、コバルト、モリブデン、ロジウムおよびタングステンなど)との間で使用される実施形態では、インピーダンス整合層は、ダイアモンドと銅または銀の放熱材料の間で使用されなければならない。しかしながら、両方の金属層の主な熱流がフォノンによるのではなくむしろ伝導電子によって搬送されるので、2つの金属層の間で音響整合層は必要ない。
【0054】
いくつかの例示的なX線管構成がそれぞれ図6−8において示されている。これらのX線管は、クロム、コバルト、銅、モリブデン、銀またはタングステンなど、ターゲット金属を有する微小焦点密封型X線管になってよい。CVDダイアモンド、結晶ダイアモンドまたは同位体純度のダイアモンドになってよいダイアモンド基板が使用される。
【0055】
銅または銀ターゲットの場合、金属−ダイアモンド界面の温度が600−800Kの範囲になるように金属層の厚さが選択される。ターゲット金属層と基板との間で、炭化物層を使用して、ダイアモンド基板に対するターゲット金属の機械結合を改善することができる。銅ターゲットの場合、厚さが3−10nmのTiCまたはCr32のいずれかの界面層を用いて界面抵抗を最小にすることができる。銀ターゲットの場合、厚さが3−10nmのCr32またはMoCの界面層を界面層として使用することができる。この例は、図6に示され、例において、銅または銀ターゲットアノード材料14は、アノード材料が基板に直接堆積された場合よりも良い音響整合(従って、より低い熱抵抗)を提供するTiCまたはMoCなど、材料の界面層18によってダイアモンド基板から分離される。
【0056】
クロム、コバルト、モリブデン、ロジウムまたはタングステンなど、より低い熱伝導率を有するターゲットの場合、3−5μmのターゲット材料が、銅または銀のいずれかのより高い熱伝導率を有する金属の5−15μmの層から成る中間熱拡散層に被覆される、多層構造が提供される。この場合、ターゲット層は、入射電子の効率的な吸収が達成されるように典型的には、3−5ミクロンほどの厚さにしなければならず、より高い融点のターゲット(Mo、RhおよびW)の場合、中間銅層または銀層の界面温度は、中間層の融点(例えば、銅では1200K未満)よりも低い。この実施形態の1つのバージョンにおいて、銅または銀中間層は、適切な炭化物中間層(例えば、銅では3−10nmのTiCまたはCr32、銀では3−10nmのMoCまたはCr32)のダイアモンド基板に接着される。上記のように、界面層の温度は、600−800Kの範囲にしなければならない。この例は、図7に示され、例において、より低い熱伝導性ターゲット材料20は、2つの中間層によってダイアモンド基板22から分離される。ターゲット材料の隣接は、典型的には銅または銀の中間熱拡散層24である。この層24は、今度は、基板により良い音響整合を提供する界面層26によって基板22から分離される。上記で説明したように、適切な炭化物材料がこの層に使用されると、強化された機械結合もアノードと基板との間に形成される。
【0057】
製造プロセスの例示的実施形態において、適したダイアモンド基板は、標準方法(PVP、CVDまたはスパッタリングを含む)によって最初に界面層に被覆される。銅層または銀層は、その後同様の標準の被覆方法によって付加される。界面層は、炭化物として直接堆積されてよいか、または最初に金属として堆積されて、その後に昇温でダイアモンドと反応することによって炭化物に変換されてよい。堆積した銅層または銀層がターゲット金属であれば、付加的な堆積ステップはない。しかしながら、ターゲット材料がより低い熱伝導性材料(Cr、Co、MoまたはWなど)になれば、その材料は、およそ3−5ミクロンの最終層として、これまでに堆積した銅層または銀層に堆積される。この場合、銅または銀の中間層は、およそ5−15ミクロンの厚さである。
【0058】
図8は、本発明に従ったアノードの代替構成を示す。この実施形態において、形状は、水平層のうちの1つではなく、むしろ横方向に分離した領域のうちの1つである。ターゲット材料28は、中央の領域に配置されて、ダイアモンド「基板」30で囲まれている。材料は、異なる配向であるが、この実施形態の機能は、上記に論じた機能と本質的に同じである。特に、界面層32は、ダイアモンドと金属との間に改善された熱伝達を提供するダイアモンドに隣接して使用されることができ、銅または銀中間金属層は、ターゲット材料がより低い熱伝導性であれば、ターゲット材料28と界面層32との間で使用されることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8