特許第6671531号(P6671531)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6671531
(24)【登録日】2020年3月5日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】水性塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/04 20060101AFI20200316BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20200316BHJP
   C09D 133/06 20060101ALI20200316BHJP
   C09D 143/04 20060101ALI20200316BHJP
   C09D 157/08 20060101ALI20200316BHJP
   C08F 20/26 20060101ALI20200316BHJP
   C08F 259/08 20060101ALI20200316BHJP
   C08F 2/24 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
   C09D201/04
   C09D5/02
   C09D133/06
   C09D143/04
   C09D157/08
   C08F20/26
   C08F259/08
   C08F2/24 Z
【請求項の数】9
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2019-160571(P2019-160571)
(22)【出願日】2019年9月3日
【審査請求日】2019年9月26日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】300075348
【氏名又は名称】日本ペイント・インダストリアルコ−ティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100126789
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 裕子
(72)【発明者】
【氏名】村田 尚紀
(72)【発明者】
【氏名】関根 新
【審査官】 吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−279566(JP,A)
【文献】 特開2012−219126(JP,A)
【文献】 国際公開第2019/009415(WO,A1)
【文献】 国際公開第1999/021921(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
B05D
C08F
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂エマルション(A)、及び
アクリルシリコーン樹脂エマルション(B)、
を含む、水性塗料組成物であって、
前記フッ素樹脂エマルション(A)は、含フッ素シード重合エマルションであり、及び
前記アクリルシリコーン樹脂エマルション(B)のSP値は、9.5〜10.9の範囲内である、
水性塗料組成物。
【請求項2】
前記アクリルシリコーン樹脂エマルション(B)は、水酸基価が30mgKOH/g以下である、請求項1記載の水性塗料組成物。
【請求項3】
前記アクリルシリコーン樹脂エマルション(B)は、モノマー混合物のエマルション重合物であり、
前記モノマー混合物は、アルコキシシリル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーを含む、
請求項1又は2記載の水性塗料組成物。
【請求項4】
前記モノマー混合物はさらに、メタクリル酸メチル、アクリル酸n−ブチル及びアクリル酸2−エチルヘキシルからなる群から選択される1種又はそれ以上を含み、
前記モノマー混合物100質量部に対する、メタクリル酸メチル、アクリル酸n−ブチル及びアクリル酸2−エチルヘキシルからなる群から選択される1種又はそれ以上の合計量は、20〜99.9質量部の範囲内である、
請求項1〜3いずれかに記載の水性塗料組成物。
【請求項5】
前記フッ素樹脂エマルション(A)は、含フッ素重合体粒子をシードとした、ラジカル重合性不飽和モノマーのシード重合物のエマルションである、請求項1〜4いずれかに記載の水性塗料組成物。
【請求項6】
前記水性塗料組成物中に含まれるフッ素樹脂エマルション(A)及びアクリルシリコーン樹脂エマルション(B)の固形分質量比は、(A):(B)=20:80〜90:10の範囲内である、請求項1〜5いずれかに記載の水性塗料組成物。
【請求項7】
フッ素樹脂エマルション(A)及びアクリルシリコーン樹脂エマルション(B)の固形分質量比が50:50である混合物の、乾燥塗膜の膜厚が50μmである塗膜のヘイズ値が4.10以下である、請求項1〜6いずれかに記載の水性塗料組成物。
【請求項8】
建材塗装又は建築物塗装用水性塗料組成物である、請求項1〜7いずれかに記載の水性塗料組成物。
【請求項9】
請求項1〜8いずれかに記載の水性塗料組成物の製造方法であって、下記工程:
含フッ素重合体粒子の水性分散液中で、ラジカル重合性不飽和モノマーを、含フッ素重合体粒子にシード重合して、フッ素樹脂エマルション(A)を得る工程、
アルコキシシリル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーを含むモノマー混合物をエマルション重合して、アクリルシリコーン樹脂エマルション(B)を得る工程、及び
前記フッ素樹脂エマルション(A)及びアクリルシリコーン樹脂エマルション(B)を混合して、水性塗料組成物を得る工程、
を包含する、
水性塗料組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂エマルション(A)及びアクリルシリコーン樹脂エマルション(B)を含む水性塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅、ビル等の建築物の壁面には、風雨に晒されかつ日光の直射を受けながら品質や外観を維持するために、種々の外装用塗料が適用されている。このような塗料は、風雨に対する耐候性、耐水性、耐変色性、基材に対する密着性等の基本性能が要請されているが、近年、環境汚染、塗装作業上の安全性や衛生等の問題から水性化が進んでいる。
【0003】
上記のような長期の耐候性、耐久性が必要とされる場合には、フッ素原子を含むフッ素樹脂(例えば、フッ素樹脂エマルション)を含む塗料組成物が用いられている。しかし、フッ素樹脂エマルションを含む塗料組成物は、一般的に高価である。また、フッ素樹脂エマルションを含む水性塗料組成物においては、近年の更なる性能向上への要請、特に、耐水性に関しては十分に応えられないことがあった。
【0004】
特開2016−138223号公報(特許文献1)には、含フッ素重合体(α)とアクリルシリコーン(β)が水性媒体に分散又は溶解している分散体を含有し、前記含フッ素重合体(α)と前記アクリルシリコーン(β)の配合比「α/β」(乾燥固形分質量比)が、90/10〜30/70であり、前記分散体中の前記アクリルシリコーン(β)の数平均粒子径が50〜150nmである、水性塗料組成物が記載されている(請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−138223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フッ素樹脂エマルションを含む水性塗料組成物は、長期の耐候性、耐久性が必要とされる用途において用いられている。しかしながら、フッ素樹脂エマルションを含む水性塗料組成物によって形成される塗膜は、十分な耐水性を有しないことがある。上記特許文献1には、耐候性及び耐水性に優れた塗膜を形成できる水性塗料組成物として、含フッ素重合体(α)とアクリルシリコーン(β)を含む水性塗料組成物が記載されている。しかしながら、用いる含フッ素重合体及びアクリルシリコーンの種類によっては、形成される塗膜の外観が劣ることのあることが判明した。
【0007】
本発明は上記従来の課題を解決するものであり、その目的とするところは、良好な耐水性及び耐候性を有する塗膜を形成することができる水性塗料組成物であって、特定のフッ素樹脂エマルション(A)及びアクリルシリコーン樹脂エマルション(B)を含む水性塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は下記態様を提供する。
[1]
フッ素樹脂エマルション(A)、及び
アクリルシリコーン樹脂エマルション(B)、
を含む、水性塗料組成物であって、
上記フッ素樹脂エマルション(A)は、含フッ素シード重合エマルションであり、及び
上記アクリルシリコーン樹脂エマルション(B)のSP値は、9.5〜10.9の範囲内である、
水性塗料組成物。
[2]
上記アクリルシリコーン樹脂エマルション(B)は、水酸基価が30mgKOH/g以下である、水性塗料組成物。
[3]
上記アクリルシリコーン樹脂エマルション(B)は、モノマー混合物のエマルション重合物であり、
上記モノマー混合物は、アルコキシシリル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーを含む、
水性塗料組成物。
[4]
上記モノマー混合物はさらに、メタクリル酸メチル、アクリル酸n−ブチル及びアクリル酸2−エチルヘキシルからなる群から選択される1種又はそれ以上を含み、
上記モノマー混合物100質量部に対する、メタクリル酸メチル、アクリル酸n−ブチル及びアクリル酸2−エチルヘキシルからなる群から選択される1種又はそれ以上の合計量は、20〜99.9質量部の範囲内である、
水性塗料組成物。
[5]
上記フッ素樹脂エマルション(A)は、含フッ素重合体粒子をシードとした、ラジカル重合性不飽和モノマーのシード重合物のエマルションである、水性塗料組成物。
[6]
上記水性塗料組成物中に含まれるフッ素樹脂エマルション(A)及びアクリルシリコーン樹脂エマルション(B)の固形分質量比は、(A):(B)=20:80〜90:10の範囲内である、水性塗料組成物。
[7]
フッ素樹脂エマルション(A)及びアクリルシリコーン樹脂エマルション(B)の固形分質量比が50:50である混合物の、乾燥塗膜の膜厚が50μmである塗膜のヘイズ値が4.10以下である、上記水性塗料組成物。
[8]
建材塗装又は建築物塗装用水性塗料組成物である、上記水性塗料組成物。
[9]
上記水性塗料組成物の製造方法であって、下記工程:
含フッ素重合体粒子の水性分散液中で、ラジカル重合性不飽和モノマーを、含フッ素重合体粒子にシード重合して、フッ素樹脂エマルション(A)を得る工程、
アルコキシシリル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーを含むモノマー混合物をエマルション重合して、アクリルシリコーン樹脂エマルション(B)を得る工程、及び
上記フッ素樹脂エマルション(A)及びアクリルシリコーン樹脂エマルション(B)を混合して、水性塗料組成物を得る工程、
を包含する、
水性塗料組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
上記水性塗料組成物は、特定のフッ素樹脂エマルション(A)及びアクリルシリコーン樹脂エマルション(B)を含む。上記水性塗料組成物を用いて形成される塗膜は、耐候性に優れることに加えて、耐ブロッキング性及び耐水性もまた優れるという利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0010】
上記水性塗料組成物は、フッ素樹脂エマルション(A)及びアクリルシリコーン樹脂エマルション(B)を含む。以下、各成分について記載する。
【0011】
フッ素樹脂エマルション(A)
上記水性塗料組成物は、フッ素樹脂エマルション(A)を含む。上記フッ素樹脂エマルション(A)として、含フッ素重合体粒子をシードとした、ラジカル重合性不飽和モノマーのシード重合物のエマルション(含フッ素シード重合エマルション)が好適に用いられる。
【0012】
フッ素樹脂エマルション(A)は、例えば、
界面活性剤の存在下において、少なくとも1種のフルオロオレフィンを含むモノマーを水性分散重合して含フッ素重合体(a)粒子の水性分散液を製造する工程、及び、含フッ素重合体(a)粒子の水性分散液中で、ラジカル重合性不飽和モノマーを、含フッ素重合体(a)粒子にシード重合して、フッ素樹脂エマルション(A)を得る工程、を包含する方法によって、調製することができる。
【0013】
上記含フッ素重合体(a)粒子の調製に用いられるフルオロオレフィンは、特に限定されず、例えば、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)等のパーフルオロオレフィン;クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、フッ化ビニル(VF)、フッ化ビニリデン(VdF)、トリフルオロエチレン、トリフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、ヘキサフルオロイソブテン等の非パーフルオロオレフィン;が挙げられる。パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)の具体例として、例えば、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)等が挙げられる。
【0014】
また、フルオロオレフィンとして、官能基含有フルオロオレフィンモノマーも使用することができる。官能基含有フルオロオレフィンが有する官能基として、例えば、水酸基、カルボン酸基、スルホン酸塩基、カルボン酸塩基、エポキシ基等が挙げられる。
【0015】
これらは1種のみを用いてもよく、2種又はそれ以上を併用してもよい。また、フルオロオレフィンと共重合可能な非フッ素系モノマーを併用してもよい。
【0016】
上記含フッ素重合体(a)粒子の調製に用いられる界面活性剤として、フッ素系界面活性剤及び非フッ素系界面活性剤のいずれも用いることができる。
フッ素系界面活性剤として、アニオン性フッ素系界面活性剤が好ましい。フッ素系界面活性剤として、例えば、C−H結合とC−F結合とを有する疎水基と、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基及びこれらの塩等の親水基とを有する部分フッ素化界面活性剤を好適に用いることができる。
非フッ素系界面活性剤として、アニオン性非フッ素系界面活性剤が好ましい。非フッ素系界面活性剤として、例えば、不飽和二重結合基を含む疎水基と、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基及びこれらの塩等の親水基とを有する界面活性剤を好適に用いることができる。このような非フッ素系界面活性剤の具体例として、例えば、アクアロンHS−10(第一工業製薬社製)等が挙げられる。
また、必要に応じて、当業者において通常用いられる、上記以外の界面活性剤を含んでもよい。
【0017】
上記含フッ素重合体(a)粒子は、上記界面活性剤の存在下で水性分散重合を行なうことによって調製することができる。水性分散重合としては、乳化重合又は懸濁重合が例示でき、特に粒子径の小さい重合体粒子を多数生成させる点から、乳化重合が好適である。上記界面活性剤の使用量は、例えば乳化重合の場合、媒体である水の全量に対して、0.01〜5質量%が好ましく、0.02〜4質量%がより好ましい。
【0018】
重合温度は特に制限はなく、重合開始剤の種類に応じて選択することができる。重合温度は、例えば40〜120℃であるのが好ましく、50〜100℃であるのがさらに好ましい。重合において、モノマーの供給は連続的であっても逐次供給してもよい。
【0019】
重合開始剤としては、水溶性ラジカル重合開始剤が好適に用いることができる。水溶性ラジカル重合開始剤の具体例として、例えば、過硫酸、過ホウ酸、過塩素酸、過リン酸、過炭酸のアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等が好ましく、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムが特に好ましい。重合開始剤の添加方法は特に限定されないが、例えば、媒体である水に対して数ppm以上の濃度を、重合の初期に一括して、又は逐次的に、又は連続して添加することができる。
【0020】
本発明の製造方法において、さらに分子量調整剤等を添加してもよい。分子量調整剤は、初期に一括して添加してもよいし、連続的又は分割して添加してもよい。分子量調整剤としては、例えば、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、コハク酸ジメチル等のエステル類のほか、イソペンタン、イソプロパノール、アセトン、各種メルカプタン、四塩化炭素、シクロヘキサン、モノヨードメタン、1−ヨードメタン、1−ヨードプロパン、ヨウ化イソプロピル、ジヨードメタン、1,2−ジヨードメタン、1,3−ジヨードプロパン等が挙げられる。
【0021】
重合圧力は、0.1〜10MPa、さらには0.2〜8MPaの範囲で適宜選択することができ、この範囲内であれば、低圧(0.1〜1MPa)であってもよく、高圧(1〜10MPa)であってもよい。
【0022】
撹拌手段としては、例えば、アンカー翼、タービン翼、傾斜翼、大型翼等を用いた公知の撹拌手段を用いることができる。例えば、フルゾーンやマックスブレンドと呼ばれる大型翼による撹拌が、モノマーの拡散とポリマーの分散安定性が良好な点から好ましい。撹拌装置としては横型撹拌装置であってもよく、縦型撹拌装置であってもよい。上記工程によって得られる含フッ素重合体(a)粒子は、平均粒子径が100〜200nmであるのが好ましい。また、上記含フッ素重合体は、数平均分子量が10,000〜1,000,000であるのが好ましい。
【0023】
なお、本明細書中において、平均粒子径とは、動的光散乱法によって決定される平均粒子径であり、具体的には、電気泳動光散乱光度計ELS−800(大塚電子社製)等を使用して測定することができる。また、本明細書中において、数平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)によって測定することができ、ポリスチレン標準による換算値によって算出することができる。
【0024】
次いで、得られた含フッ素重合体(a)粒子の水性分散液中で、ラジカル重合性不飽和モノマーを、含フッ素重合体(a)粒子にシード重合することによって、フッ素樹脂エマルション(A)を得ることができる。シード重合方法として、例えば、特開平8−67795号公報等に記載される従来公知の重合方法を行うことができる。より具体的には、含フッ素重合体(a)粒子の水性分散液に、ラジカル重合性不飽和モノマーを加えて、含フッ素重合体(a)粒子(シード粒子)を核としてラジカル重合性不飽和モノマーを水性分散重合させる方法である。
【0025】
上記ラジカル重合性不飽和モノマーとは、分子中にビニル基等の不飽和結合を少なくとも1つ有するモノマーを意味し、ラジカル重合性不飽和モノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸のエステル類、不飽和カルボン酸類、水酸基含有アルキルビニルエーテル類、カルボン酸ビニルエステル類、α−オレフィン類等が好ましく挙げられる。なお、本明細書中(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸又はメタクリル酸を指す。
【0026】
(メタ)アクリル酸のエステル類の好適な具体例として、含フッ素重合体(a)との相溶性が良好な点から、炭素数1〜10の(メタ)アクリル酸のアルキルエステル、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。
【0027】
不飽和カルボン酸類の具体例としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、クロトン酸、桂皮酸、3−アリルオキシプロピオン酸、3−(2−アリロキシエトキシカルボニル)プロピオン酸、イタコン酸、イタコン酸モノエステル、マレイン酸、マレイン酸モノエステル、マレイン酸無水物、フマル酸、フマル酸モノエステル、フタル酸ビニル、ピロメリット酸ビニル、ウンデシレン酸等が挙げられる。それらのなかでも単独重合性の低いビニル酢酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、マレイン酸モノエステル、フマル酸、フマル酸モノエステル、3−アリルオキシプロピオン酸、ウンデシレン酸が、単独重合性が低く単独重合体ができにくい点、カルボキシル基の導入を制御しやすい点から好ましい。
【0028】
水酸基含有アルキルビニルエーテル類の具体例としては、例えば2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、3−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、4−ヒドロキシ−2−メチルブチルビニルエーテル、5−ヒドロキシペンチルビニルエーテル、6−ヒドロキシヘキシルビニルエーテル、2−ヒドロキシエチルアリルエーテル、4−ヒドロキシブチルアリルエーテル、グリセロールモノアリルエーテル等が挙げられる。これらのなかでも、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、2−ヒドロキシエチルビニルエーテルが、重合反応性が優れる点で好ましい。
【0029】
カルボン酸ビニルエステル類の具体例としては、例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキシルカルボン酸ビニル、安息香酸ビニル、パラ−t−ブチル安息香酸ビニル等が挙げられる。また、α−オレフィン類としては、例えばエチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブテン等が挙げられる。
【0030】
シード重合で用いられる上記ラジカル重合性不飽和モノマーの量は、シード粒子である含フッ素重合体粒子(A)の樹脂固形分100質量部に対して5〜400質量部であるのが好ましく、10〜150質量部であるのがより好ましい。
【0031】
シード重合において、必要に応じて界面活性剤を用いてもよい。界面活性剤として、上述の界面活性剤を好適に用いることができる。界面活性剤を用いる場合の使用量は、例えば、媒体である水の全量に対して0.01〜5質量%であるのが好ましい。
【0032】
上記手順によって得られるフッ素樹脂エマルション(A)は、平均粒子径が100〜300nmであるのが好ましい。また、フッ素樹脂エマルション(A)の数平均分子量が10,000〜1,000,000であるのが好ましい。
【0033】
フッ素樹脂エマルション(A)として、市販品を用いることもできる。市販品として、例えば、ダイキン工業社製ゼッフルSE−310、SE−405、SE−700等が挙げられる。
【0034】
アクリルシリコーン樹脂エマルション(B)
上記水性塗料組成物は、フッ素樹脂エマルション(A)に加えて、アクリルシリコーン樹脂エマルション(B)を含む。アクリルシリコーン樹脂エマルション(B)は、例えば、アルコキシシリル基含有ラジカル重合性不飽和モノマー及び他のラジカル重合性不飽和モノマーを含むモノマー混合物を重合することによって調製することができる。
【0035】
アルコキシシリル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーとは、アルコキシシリル基を有するラジカル重合性不飽和モノマーである。アルコキシシリル基として、炭素数1〜14のアルコキシシリル基が好適である。炭素数1〜14のアルコキシシリル基を構成するケイ素原子には、炭素数1〜14のアルコキシル基が1〜3個結合することができる。上記アルコキシル基は、特に酸性の環境において加水分解されてシラノール基を形成しやすい。上記シラノール基が脱水結合することにより、シロキサン結合を形成して架橋したり高分子量化したりするので、得られる塗膜の造膜性、耐ブロッキング性及び耐温度変化性が向上し、特に、優れた耐候性、耐温水性を得ることができる利点がある。
【0036】
上記アルコキシシリル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーは、ビニル基等の重合性の不飽和結合を含有する炭化水素基が、上記アルコキシシリル基を構成するケイ素原子に上記アルコキシル基とは別に少なくとも1個結合してなる。上記不飽和結合を有するため、上記アルコキシシリル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーは付加重合を行うこともでき、上記シロキサン結合による効果に加えて、得られる塗膜の造膜性、耐ブロッキング性及び耐温度変化性を向上させることができる。
【0037】
上記アルコキシシリル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーは、炭素数1〜14のアルコキシシリル基を含有するラジカル重合性不飽和モノマーであれば特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸トリメトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸トリエトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸トリブトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸ジメトキシメチルシリルプロピル、(メタ)アクリル酸メトキシジメチルシリルプロピル、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルジメトキシメチルシラン、ビニルメトキシジメチルシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン等を挙げることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種又はそれ以上を併用してもよい。
【0038】
上記アルコキシシリル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーのうち、(メタ)アクリル酸トリメトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸トリエトキシシリルプロピル、ビニルトリメトキシシラン又はビニルトリエトキシシランが特に好ましい。
【0039】
上記モノマー混合物中に含まれるアルコキシシリル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーの量は、モノマー混合物100質量部に対して、下限0.1質量部上限3質量部の範囲内であるのが好ましい。
【0040】
上記モノマー混合物は、さらに、炭素数1〜14のアルコキシシラン化合物を含有してもよい。上記アルコキシシラン化合物を含むと、得られる塗膜に優れた耐候性、耐水性を与えることができる。
【0041】
上記アルコキシシラン化合物は、炭素数1〜14のアルコキシシリル基を有するアルコキシシラン化合物であれば特に限定されず、上記炭素数1〜14のアルコキシシリル基は直鎖状又は分枝状であってもよい。又、上記アルコキシシリル基は上記アルコキシシラン化合物を構成する珪素原子に1〜4個結合していてもよい。本発明において上記アルコキシシラン化合物は、上記アルコキシシリル基含有重合性単量体とは異なり、化合物中にビニル基等の重合性の不飽和結合を有しない。
【0042】
上記アルコキシシラン化合物としては特に限定されず、例えば、テトラメトキシシラン、トリメトキシメチルシラン、ジメトキシジメチルシラン、メトキシトリメチルシラン、テトラエトキシシラン、トリエトキシエチルシラン、ジエトキシジエチルシラン、エトキシトリエチルシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。これらは1種類又は2種類以上を混合して使用することができる。これらのうち、テトラメトキシシラン、トリメトキシメチルシラン、ジメトキシジメチルシラン、メトキシトリメチルシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0043】
上記アルコキシシラン化合物は、上記モノマー混合物100質量部に対し、0.1〜10質量部の範囲内であることが好ましい。
【0044】
上記モノマー混合物は、アルコキシシリル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーに加えて、他のラジカル重合性不飽和モノマーを含む。
【0045】
上記ラジカル重合性不飽和モノマーとしては、特に限定されず、例えば、
アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等のエチレン系不飽和カルボン酸モノマー;
(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等のエチレン系不飽和カルボン酸アルキルエステルモノマー;
マレイン酸エチル、マレイン酸ブチル、イタコン酸エチル、イタコン酸ブチル等のエチレン系不飽和ジカルボン酸のモノエステルモノマー;
(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルとε−カプロラクトンとの反応物等のヒドロキシル基含有エチレン系不飽和カルボン酸アルキルエステルモノマー;
(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ブチルアミノエチル等のエチレン系不飽和カルボン酸アミノアルキルエステルモノマー;
アミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノメチル(メタ)アクリルアミド、メチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のエチレン系不飽和カルボン酸アミノアルキルアミドモノマー;
アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、メトキシブチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のその他のアミド基含有エチレン系不飽和カルボン酸モノマー;
アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル等の不飽和脂肪酸グリシジルエステルモノマー;
(メタ)アクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル等のシアン化ビニル系モノマー;
酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の飽和脂肪族カルボン酸ビニルエステルモノマー;
スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン系モノマー;
等を挙げることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種又はそれ以上を併用してもよい。
【0046】
上記モノマー混合物は、アルコキシシリル基含有ラジカル重合性不飽和モノマー及び他のラジカル重合性不飽和モノマーを含み、他のラジカル重合性不飽和モノマーが、メタクリル酸メチル、アクリル酸n−ブチル及びアクリル酸2−エチルヘキシルからなる群から選択される1種又はそれ以上を含むのが好ましい。また、他のラジカル重合性不飽和モノマーが、メタクリル酸メチル及びアクリル酸n−ブチルを含むのがさらに好ましい。このような態様において、上記モノマー混合物100質量部に対する、メタクリル酸メチル、アクリル酸n−ブチル及びアクリル酸2−エチルヘキシルからなる群から選択される1種又はそれ以上の合計量は、20〜99.9質量部の範囲内であるのが好ましく、40〜99.9質量部の範囲内であるのがより好ましく、50〜99.9質量部の範囲内であるのがさらに好ましく、68〜99.9質量部:の範囲内であるのが特に好ましい。理論に拘束されるものではないが、モノマー混合物の組成が上記条件を満たすことによって、フッ素樹脂エマルション(A)およびアクリルシリコーン樹脂エマルション(B)における相溶性がより良好となり、その結果、より良好なヘイズ値が達成されると考えられる。
【0047】
他のラジカル重合性不飽和モノマーが、メタクリル酸メチル、アクリル酸n−ブチル及びアクリル酸2−エチルヘキシルからなる群から選択される1種又はそれ以上を含む場合は、例えば、スチレンモノマー等の芳香族基含有モノマーを用いることなく、得られるアクリルシリコーン樹脂の物理的強度を高めることができる。これにより、特に、芳香族基由来のラジカル発生が抑制されることで耐候性等の性能を向上させることができるなどの利点がある。
【0048】
上記他のラジカル重合性不飽和モノマーはまた、置換又は無置換のシクロアルキル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーを含んでもよい。シクロアルキル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーとしては特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロオクチル、(メタ)アクリル酸シクロデシル、(メタ)アクリル酸シクロドデシル等を挙げることができる。これらは1種類又は2種類以上を混合して使用することができる。
【0049】
アクリルシリコーン樹脂エマルション(B)は、上記モノマー混合物を、必要に応じた乳化剤及び重合開始剤の存在下で、当業者に知られた手法により重合させることによって、調製することができる。
【0050】
乳化剤及び重合開始剤として、当業者に知られた乳化剤及び重合開始剤を用いることができる。上記乳化剤としては特に限定されず、通常の乳化剤、例えば、分子中にビニル基等の重合性の不飽和結合を有しない非反応性乳化剤、及び/又は、分子中にビニル基等の重合性の不飽和結合を有する反応性乳化剤を使用することができる。上記非反応性乳化剤としては特に限定されず、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸アンモニウム、ジフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエステル等を挙げることができる。上記反応性乳化剤としては特に限定されず、例えば、アクアロンHS−10等のアクアロンHSシリーズ(第一工業製薬社製)、アクアロンRNシリーズ(第一工業製薬社製)、エレミノールJS−2(三洋化成工業社製)、ラテムルS−120、S−180A(花王社製)等を挙げることができる。これらは1種類又は2種類以上を混合して使用することができる。
【0051】
重合開始剤は、熱又は還元性物質等によりラジカルを生成してモノマーを付加重合させるものであり、水溶性重合開始剤又は油溶性重合開始剤を使用することができる。上記水溶性重合開始剤としては特に限定されず、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩系開始剤、又は、過酸化水素等の無機系開始剤等を挙げることができる。これらは1種類又は2種類以上を混合して使用することができる。上記油溶性重合開始剤としては特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、ジ−t−ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス−シクロヘキサン−1−カルボニトリル等のアゾビス化合物等を挙げることができる。これらは1種類又は2種類以上を混合して使用することができる。
【0052】
本発明においては、上記乳化重合を主として水性媒体中で行うため上記水溶性重合開始剤を使用することが好ましく、例えば、過硫酸アンモニウムを好適に使用することができる。上記水溶性重合開始剤又は上記油溶性重合開始剤には、亜硫酸ナトリウム、塩化第一鉄、アスコルビン酸塩、ロンガリット等の還元剤を併用することもでき、これにより、乳化重合速度を促進したり、低温における乳化重合をも行うことが容易になる。
【0053】
上記乳化剤の使用量は、上記モノマー混合物の総量100質量部に対して、下限0.5質量部、上限10質量部の割合であることが好ましい。また、上記重合開始剤の使用量は、上記モノマー混合物の総量100質量部に対して、下限0.5質量部、上限10質量部の割合であることが好ましい。
【0054】
上記アクリルシリコーン樹脂エマルション(B)は、コア部とシェル部とからなる多層構造を有してもよい。多層構造を有するアクリルシリコーン樹脂エマルション(B)は、例えば、特開2002−12816号公報に記載された公知の製造方法に準じて調製することができる。上記アクリルシリコーン樹脂エマルション(B)がコア部とシェル部とからなる多層構造を有する場合における、モノマー混合物の好ましい量及び比率、水酸基価、SP値及び平均粒子径等の特数値の好ましい範囲は、上記又は下記の好ましい範囲と同様である。
【0055】
アクリルシリコーン樹脂エマルション(B)の重合に用いる攪拌機及び重合条件等は、当業者において通常用いられる攪拌機及び条件を用いることができる。例えば、アクリルシリコーン樹脂エマルション(B)の調製における重合温度は特に制限はなく、重合開始剤の種類等に応じて適宜選択することができる。重合温度は、例えば40〜120℃であるのが好ましく、50〜100℃であるのがさらに好ましい。重合において、モノマー混合物の供給は連続的であってもよく、逐次供給であってもよく、段階的に供給してもよい。さらに、2種又はそれ以上のモノマー混合物を段階的に供給することによって、コア部とシェル部とからなるコアシェル構造のアクリルシリコーン樹脂エマルションを調製することもできる。
【0056】
上記アクリルシリコーン樹脂エマルション(B)は、溶解性パラメーター(SP値)が9.5〜10.9の範囲内である。上記SP値は、9.8〜10.7の範囲内であるのが好ましく、10.0〜10.7の範囲内であるのがより好ましい。アクリルシリコーン樹脂エマルション(B)のSP値が上記範囲内であることによって、フッ素樹脂エマルション(A)との親和性(相溶性)が向上し、得られる塗膜の外観が向上する利点がある。
【0057】
上記SP値とは、solubility parameter(溶解性パラメーター)の略であり、溶解性の尺度となるものである。SP値は数値が大きいほど極性が高く、逆に数値が小さいほど極性が低いことを示す。
【0058】
例えば、SP値は次の方法によって実測することができる[参考文献:SUH、CLARKE、J.P.S.A−1、5、1671〜1681(1967)]。
【0059】
サンプルとして、有機溶剤0.5gを100mlビーカーに秤量し、アセトン10mlを、ホールピペットを用いて加え、マグネティックスターラーにより溶解したものを使用する。このサンプルに対して測定温度20℃で、50mlビュレットを用いて貧溶媒を滴下し、濁りが生じた点を滴下量とする。貧溶媒は、高SP貧溶媒としてイオン交換水を用い、低SP貧溶媒としてn−ヘキサンを使用して、それぞれ濁点測定を行う。有機溶剤のSP値δは下記計算式によって与えられる。
δ=(Vml1/2δml+Vmh1/2δmh)/(Vml1/2+Vmh1/2
=V/(φ+φ
δ=φδ+φδ
Vi:溶媒の分子容(ml/mol)
φi:濁点における各溶媒の体積分率
δi:溶媒のSP値
ml:低SP貧溶媒混合系
mh:高SP貧溶媒混合系
【0060】
なお、アクリルシリコーン樹脂エマルション(B)が複数種のアクリルシリコーン樹脂エマルションを含む場合、アクリルシリコーン樹脂エマルション(B)のSP値は、各単量体のSP値を用いて、アクリルシリコーン樹脂エマルション(B)成分中における固形分質量比を元に平均値を算出することによって、求めることができる。
【0061】
上記アクリルシリコーン樹脂エマルション(B)は、水酸基価が30mgKOH/g以下であるのが好ましい。上記水酸基価は20mgKOH/g以下であるのがより好ましく、10mgKOH/g以下であるのがさらに好ましい。上記アクリルシリコーン樹脂エマルション(B)の水酸基価が上記範囲内であることによって、得られる塗料組成物が良好な耐水性を有する等の利点がある。なお、本明細書中において、水酸基価は、固形分水酸基価を示し、使用したモノマー混合物の固形分水酸基価に基づいて算出することができる。
【0062】
上記アクリルシリコーン樹脂エマルション(B)は、ガラス転移温度(Tg)が10〜25℃の範囲内であるのが好ましく、15〜25℃の範囲内であるのがより好ましい。
【0063】
上記ガラス転移温度(Tg)は、微粒子(重合体)を構成する各モノマーの質量分率を、各モノマーから誘導される単独重合体(ホモポリマー)のTg(K:ケルビンで表す。)値で割ることによって得られるそれぞれの商の合計の逆数として計算することができる。
【0064】
より詳細には、本発明において、微粒子のガラス転移温度(Tg)は、Foxの式(T.G.Fox;Bull.Am.Phys.Soc.,1(3),123(1956))によって算出することができる。
例えば、微粒子が、複数のアクリルモノマーの重合体である場合、下記一般式
1/Tg=w1/Tg1+w2/Tg2+・・・+wn/Tgn
で表されるTgを微粒子のTgとする。
Tga:モノマーAのホモポリマーのガラス転移温度(K)、Wa:モノマーAの質量分率
Tgb:モノマーBのホモポリマーのガラス転移温度(K)、Wb:モノマーBの質量分率
Tgn:モノマーNのホモポリマーのガラス転移温度(K)、Wn:モノマーNの質量分率
(Wa+Wb+・・・+Wn=1)
【0065】
上記アクリルシリコーン樹脂エマルション(B)がコアシェル構造を有する場合は、シェル部のガラス転移温度(Tg)>コアのガラス転移温度(Tg)であるのが好ましく、コアのガラス転移温度(Tg)が0℃以下であり、シェルのガラス転移温度(Tg)が30℃以上であるのがより好ましい。なお、上記アクリルシリコーン樹脂エマルション(B)がコアシェル構造を有する場合における「アクリルシリコーン樹脂エマルション(B)のガラス転移温度(Tg)」は、構成するコア及びシェルの質量分率を、それぞれコア及びシェルTg(K:ケルビンで表す。)値で割ることによって得られるそれぞれの商の合計の逆数として計算することができる。
【0066】
上記アクリルシリコーン樹脂エマルション(B)は、平均粒子径が80〜200nmの範囲内であるのが好ましく、100〜150nmの範囲内であるのがより好ましい。アクリルシリコーン樹脂エマルション(B)の平均粒子径が上記範囲内であることによって、得られる塗膜が十分な耐水性を良好に確保することができる利点がある。
【0067】
水性塗料組成物及び塗膜
上記フッ素樹脂エマルション(A)及びアクリルシリコーン樹脂エマルション(B)を用いて、水性塗料組成物を調製することができる。水性塗料組成物は、例えば、上記フッ素樹脂エマルション(A)、アクリルシリコーン樹脂エマルション(B)、そして、必要に応じて当分野で通常用いられる顔料、添加剤、溶媒等を、当分野で通常用いられる方法により混合することによって、調製することができる。
【0068】
顔料が含まれる場合における顔料は、特に限定されるものではなく、例えば、体質顔料、無機着色顔料、有機着色顔料等が挙げられる。顔料を用いる場合は、塗料組成物の樹脂固形分に対する顔料質量濃度(PWC)が、5〜60質量%となる範囲内で用いるのが好ましい。
【0069】
上記水性塗料組成物の調製において、通常用いられる添加剤、例えば、粘性調整剤、表面調整剤、充填材、分散剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、凍結防止剤、防藻剤、消泡剤、造膜助剤、防腐剤、防かび剤、pH調整剤等を用いることができる。水性塗料組成物の調製法としては特に限定されず、上述した各成分を、攪拌機等を用いて撹拌する等の通常用いられる方法によって調製することができる。
【0070】
上記水性塗料組成物中に含まれるフッ素樹脂エマルション(A)及びアクリルシリコーン樹脂エマルション(B)の固形分質量比は、(A):(B)=20:80〜90:10の範囲内であるのが好ましく、(A):(B)=50:50〜80:20の範囲内であるのがより好ましい。固形分質量比(A):(B)が上記範囲内であることによって、耐候性と耐水性のバランスが良好な水性塗料組成物を得ることができる利点がある。
【0071】
さらに、上記水性塗料組成物中に含まれるフッ素樹脂エマルション(A)及びアクリルシリコーン樹脂エマルション(B)に関して、フッ素樹脂エマルション(A)及びアクリルシリコーン樹脂エマルション(B)の固形分質量比が1:1である混合物を、乾燥膜厚が50μmとなるように上記混合物を塗装して得られた乾燥塗膜(膜厚50μm)のヘイズ値が4.10以下であるのがより好ましい。上記フッ素樹脂エマルション(A)及びアクリルシリコーン樹脂エマルション(B)の固形分質量比1:1混合物の乾燥塗膜のヘイズ値が上記範囲内である場合は、フッ素樹脂エマルション(A)及びアクリルシリコーン樹脂エマルション(B)の親和性が高いことを意味する。そしてこのようなフッ素樹脂エマルション(A)及びアクリルシリコーン樹脂エマルション(B)を用いることによって、良好な耐候性を有する一方で、耐水性も良好である水性塗料組成物を得ることができる利点がある。
【0072】
こうして調製される水性塗料組成物は、各種被塗物に塗装することができる。被塗物として、例えば、住宅又はビル等の建築物の内壁若しくは外壁等の壁面又は屋根に用いられる建材が好ましい。従って上記水性塗料組成物は、建材塗装用水性塗料組成物、又は建築物塗装用水性塗料組成物として用いることができる。上記水性塗料組成物は例えば、建材塗装用水性クリヤー塗料組成物、又は建築物塗装用水性クリヤー塗料組成物として用いることができる。
【0073】
上記水性塗料組成物の被塗物として好適な建材としては特に限定されず、例えば、無機材料建材、木質建材、金属建材、プラスチック建材等を挙げることができる。
【0074】
上記無機材料建材としては、例えば、JIS A 5422、JIS A 5430等に記載された窯業建材、ガラス基材等を挙げることができ、例えば、珪カル板、パルプセメント板、スラグ石膏板、炭酸マグネシウム板、石綿パーライト板、木片セメント板、硬質木質セメント板、コンクリート板、軽量気泡コンクリート板等を挙げることができる。
木質建材としては、例えば、製材、集成材、合板、パーティクルボード、ファイバーボード、改良木材、薬剤処理木材、床板等を挙げることができる。
上記プラスチック建材としては、例えば、アクリル板、ポリ塩化ビニル板、ポリカーボネート板、ABS板、ポリエチレンテレフタレート板、ポリオレフィン板等を挙げることができる。
上記金属建材としては、例えば、アルミニウム板、鉄板、亜鉛メッキ鋼板、アルミニウム亜鉛メッキ鋼板、ステンレス板、ブリキ板等を挙げることができる。
【0075】
上記被塗物は、必要に応じて、シーラー組成物、下塗り塗料組成物等が予め塗装されていてもよい。下塗り塗料組成物として、例えば、顔料(例えば各種着色顔料等)を含む水性下塗り塗料組成物が挙げられる。上記水性塗料組成物は、着色顔料を含む各種下塗り塗料組成物の塗膜に対して良好に密着する利点も有する。
【0076】
上記水性塗料組成物を塗装する方法は特に限定されず、例えば、浸漬、刷毛、ローラー、ロールコーター、エアースプレー、エアレススプレー、カーテンフローコーター、ローラーカーテンコーター、ダイコーター等の一般に用いられている塗装方法等を挙げることができる。これらは建材の種類等に応じて適宜選択することができる。水性塗料組成物は、乾燥膜厚として30μm〜1mmとなるように塗装することが好ましく、50〜500μmとなるように塗装するのがより好ましい。
【0077】
上記水性塗料組成物を塗装した後、必要に応じて乾燥工程を行ってもよい。乾燥条件は、被塗物の形状及び大きさ等によって適宜選択することができる。乾燥条件の具体例として、例えば、50〜130℃の温度で1〜60分間加熱する等の条件が挙げられる。
【0078】
上記水性塗料組成物は、特定のフッ素樹脂エマルション(A)及びアクリルシリコーン樹脂エマルション(B)を含む。上記水性塗料組成物を用いて形成される塗膜は、耐候性に優れることに加えて、耐ブロッキング性及び耐水性もまた優れるという利点がある。上記水性塗料組成物は、建材塗装用水性塗料組成物、又は建築物塗装用水性塗料組成物として好適に用いることができ、例えば、建材塗装用水性クリヤー塗料組成物、又は建築物塗装用水性クリヤー塗料組成物として好適に用いることができる。
【実施例】
【0079】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」及び「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0080】
製造例1−1 フッ素樹脂エマルション(A−1)の製造
工程(I)
2Lのステンレススチール製のオートクレーブに、イオン交換水500質量部、パーフルオロヘキサン酸アンモニウムの50質量%水溶液2.2質量部、ポリオキシエチレンノニルプロペニルフェニルエーテル硫酸アンモニウム(アクアロンHS−10、第一工業製薬社製)の38質量%水溶液0.789質量部を仕込み、系内を窒素ガスで充分に置換後、減圧にした。続いて、重合槽内を系内圧力が0.75〜0.8MPaとなるように、フッ化ビニリデン(VdF)/テトラフルオロエチレン(TFE)/クロロトリフルオロエチレン(CTFE)(=72.2/16.0/11.8モル%)混合単量体を圧入し、70℃に昇温した。
次いで、過硫酸アンモニウム1.00質量部を4質量部のイオン交換水に溶解した重合開始剤溶液及び酢酸エチル0.75質量部を窒素ガスで圧入し、600rpmで撹拌しながら反応を開始した。重合の進行に伴い内圧が降下し始めた時点で、VdF/TFE/CTFE混合単量体(=72.2/16.0/11.8モル%)を内圧が0.75〜0.8MPaを維持するように供給した。重合開始から7時間33分後に未反応単量体を放出し、オートクレーブを冷却して、含フッ素重合体(固形分濃度:46.1質量%、平均粒子径:112nm)の水性分散液を得た。粒子径は、電気泳動光散乱光度計ELS−800(大塚電子社製)を用いて、測定した。
この水性分散液を−10℃で24時間凍結させ凝析を行った。得られた凝析物を水洗、乾燥して、含フッ素重合体(a−1)粒子を得た。

工程(II)
工程(I)で得られた含フッ素重合体(a−1)粒子を、イオン交換水に分散させ、含フッ素重合体(a−1)の水性分散液(固形分濃度:38.4質量%)を調製した。得られた含フッ素重合体(a−1)の水性分散液1,783.8質量部にポリオキシエチレンノニルプロペニルフェニルエーテル硫酸アンモニウム(アクアロンHS−10、第一工業製薬社製)43.94質量部を加えて充分に混合して、含フッ素重合体(a−1)の乳化液を調製した。
次に、ステンレス容器にメタクリル酸メチル(MMA)513.1質量部、アクリル酸ブチル(BA)162.4質量部、アクリル酸(AA)6.8質量部、メルカプタン2.1質量部、イオン交換水159.0質量部を加え、ディスパーにより混合して予備乳化液を調製した。この予備乳化液の全量を、前記含フッ素重合体(a−1)の乳化液に徐々に添加し、ディスパーで充分に混合し、その後、さらに界面活性剤としてポリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート(RMA−450、日本乳化剤社製)を15.9質量部、メタクリロイルオキシポリオキシアルキレン硫酸エステルナトリウム塩(エレミノールRS−3000、三洋化成工業社製)50%水溶液95.4質量部を加えて、ディスパーで混合した。
反応容器の内温を75℃にまで昇温し、過硫酸アンモニウムの1質量%水溶液75.2質量部を40分ごとに4回に分けて添加しながら重合を進めた。重合開始から2時間後に反応溶液を室温まで冷却して反応を終了し、フッ素樹脂エマルション(A−1)2,857.6質量部(固形分濃度:51.7質量%、平均粒子径:160nm)を得た。
【0081】
製造例1−2、1−3 フッ素樹脂エマルション(A−2)、(A−3)の製造
下記表に従い、ラジカル重合性不飽和モノマーの種類及び量を変更したこと以外は製造例1−1と同様にして、フッ素樹脂エマルション(A−2)及び(A−3)を得た。
【0082】
【表1】
【0083】
製造例2−1 アクリルシリコーン樹脂エマルション(B−1)の製造
ステンレス容器に、メタクリル酸メチル42.9質量部、メタクリル酸シクロヘキシル9.6質量部、アクリル酸ブチル33.7質量部、メタクリル酸ブチル10.5質量部、メタクリル酸1.8質量部及びメタクリル酸3−トリメトキシシリルプロピル1.5質量部を撹拌混合後、乳化剤としてスルホコハク酸ジエステルアンモニウム塩(ラテムルS−180A、花王社製)5.0質量部と水20.3質量部を添加し、ホモミキサーを用いて、室温で15分撹拌し、反応前乳化混合物を得た。
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を取り付けた反応容器に、水94.7質量部を入れ、反応容器中の温度を80℃に上げてから、上記反応前乳化混合物125.3質量部と、反応開始剤として過硫酸アンモニウムの1.5質量%水溶液13質量部を別々の滴下ロートから、同時に2時間かけて滴下した。滴下が終了してから反応容器中の温度を80℃で1時間維持した後、30℃まで冷却し、アクリルシリコーン樹脂エマルション(B−1)233.0質量部(固形分濃度:45.0質量%、粒子径:132nm)を得た。
粒子径は、得られたアクリルシリコーン樹脂エマルションを、電気泳動光散乱光度計ELS−800(大塚電子社製)を用いて、測定した。
【0084】
製造例2−2〜2−5、2−7〜2−8 アクリルシリコーン樹脂エマルション(B−2)〜(B−5)及び(B−7)〜(B−8)の製造
下記表に従い、モノマーの種類及び量を変更したこと以外は製造例2−1と同様にして、アクリルシリコーン樹脂エマルション(B−2)〜(B−5)及び(B−7)〜(B−8)を得た。
【0085】
製造例2−7 コアシェル型アクリルシリコーン樹脂エマルション(B−6)の製造
ステンレス容器に、メタクリル酸メチル17.5質量部、メタクリル酸シクロヘキシル9.6質量部、アクリル酸ブチル29.2質量部、メタクリル酸1.0質量部及びメタクリル酸3−トリメトキシシリルプロピル1.5質量部を撹拌混合後、乳化剤としてスルホコハク酸ジエステルアンモニウム塩(ラテムルS−180A、花王社製)2.5質量部と水30.5質量部を添加し、ホモミキサーを用いて、室温で15分撹拌し、第1反応前乳化混合物を得た。
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を取り付けた反応容器に、水61.1質量部を入れ、反応容器中の温度を80℃に上げてから、上記第1反応前乳化混合物91.8質量部と、反応開始剤として過硫酸アンモニウムの1.5質量%水溶液5.5質量部を別々の滴下ロートから、同時に2時間かけて滴下した。滴下が終了してから反応容器中の温度を80℃で30分間維持し、アクリルシリコーン樹脂エマルションを得た。
別容器にて、メタクリル酸メチル25.4質量部、アクリル酸ブチル4.5質量部、メタクリル酸ブチル10.5質量部及びメタクリル酸0.8質量部を撹拌混合後、乳化剤としてスルホコハク酸ジエステルアンモニウム塩(ラテムルS−180A、花王社製)2.5質量部と水25.0質量部を添加し、ホモミキサーを用いて、室温で15分撹拌し、第2反応前乳化混合物を得た。
先に得られたアクリルシリコーン樹脂エマルションを含む容器に、上記第2反応前乳化混合物68.7質量部と反応開始剤として過硫酸アンモニウムの1.5質量%水溶液5.5質量部を別々の滴下ロートから、同時に2時間かけて滴下した。滴下が終了してから反応容器中の温度を80℃で1時間維持した後、30℃まで冷却し、コアシェル型アクリルシリコーン樹脂エマルション(B−6)232.6質量部(固形分濃度:45.0質量%、粒子径:136nm)を得た。
【0086】
製造例3 アクリル樹脂エマルション(C)の製造
下記表に従い、モノマーの種類及び量を変更したこと以外は製造例2−1と同様にして、アクリル樹脂エマルション(C)を得た。
【0087】
【表2】
【0088】
実施例1 水性塗料組成物(1)の製造
フッ素樹脂エマルション(A−1)(固形分濃度:51.7質量%)46.0質量部(固形分23.8質量部)、アクリルシリコーン樹脂エマルション(B−1)(固形分濃度:45.0質量%)21.9質量部(固形分9.9質量部)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(DBDG、造膜助剤)4.6質量部及び水16質量部を加え、次に、プライマルASE60(ダウ・ケミカル社製、増粘剤)0.8質量部を加え、ディスパーで撹拌、混合し、水性塗料組成物(1)を得た。
得られた水性塗料組成物の粘度を、ストーマー粘度計KU−2(BROOKFIELD社製)を用いて、25℃で測定したところ、67KUであった。
【0089】
実施例2〜12及び比較例1〜5 水性塗料組成物(2)〜(17)の製造
下記表に従い、フッ素樹脂エマルション(A)、アクリルシリコーン樹脂エマルション(B)及びアクリル樹脂エマルション(C)の種類、量を変更したこと以外は実施例1と同様にして、塗料組成物(2)〜(17)を得た。
【0090】
実施例及び比較例より得られた水性塗料組成物を用いて、下記評価を行った。評価結果を下記表に示す。なお、比較例5については、(B)を(C)に読み替えるものとする。
【0091】
試験板の調製
サイディングボードに対して、着色顔料を含む水性下塗り塗料組成物であるオーデパワー390スプレー用(日本ペイント・インダストリアルコーティングス社製)を、乾燥膜厚が50μmとなるようにスプレー塗装し、ジェット乾燥器(風速:10m/s)にて100℃で3分間乾燥させた。
次いで、実施例及び比較例で得られた水性塗料組成物を、乾燥膜厚が30μmとなるようにスプレー塗装し、ジェット乾燥機(風速:10m/s)にて100℃で10分間乾燥させて試験板を得た。
【0092】
フッ素樹脂エマルション(A)及びアクリルシリコーン樹脂エマルション(B)を固形分質量比が1:1となるようにディスパーで混合し、エマルション混合物を得た。得られたエマルション混合物を、ガラス板上に、乾燥膜厚が50μmとなるようにドクターブレード(6mil)を用いて塗装し、ジェット乾燥器(風速:10m/s)にて100℃で10分間乾燥させて試験板を得た。
試験機であるヘーズメーターNDH−2000(日本電色工業社製)を用いて、未塗装のガラス板を基準として、得られた試験板のヘイズ値を測定した。
測定したヘイズ値を、以下の基準により評価した。なお、ヘイズ値が小さいほど、塗膜の濁りが小さく、相溶性が良好であることを示す。

○:ヘイズ値が4.10より小さかった。
△:ヘイズ値が4.10以上4.50以下であった。
×:ヘイズ値が4.50を超えた。
【0093】
耐ブロッキング性評価
得られた試験板を、ブロッキング試験機(加美機工社製)を用いて、以下の手順により、耐ブロッキング性の評価を行なった。
試験板2枚の塗装面を重ねて設置し、板温50℃、積載荷重3kg/cmで10分間試験を行い、試験板を引き離したときの塗膜の外観を目視で観察し、以下の基準により評価した。

○:塗膜面に変化がなかった。
△:塗膜一部に損傷が認められた。
×:塗膜の全面に損傷が認められた。
【0094】
耐候性評価(曝露試験)
得られた試験板を、直接曝露試験(JIS Z 2381 屋外暴露試験方法通則及び、JIS K 5600−7−6等に準拠)に基づき、日本ペイントホールディングス社宮古島ウェザリングセンターにおいて2年間曝露試験を実施した。2年後の塗膜の60°光沢値を、光沢計GN−268Plus(コニカミノルタ社製)により測定し、設置前の60°光沢値に対する変化率(光沢保持率)を算出し、以下の基準により評価した。なお、曝露場の位置は、以下のとおりである。
曝露場所:沖縄県宮古島市平良字狩俣3742番地(北緯24度51分)

○:光沢保持率が80%以上であった。
△:光沢保持率が60%以上80%未満であった。
×:光沢保持率が60%未満であった。
【0095】
耐候性評価(促進耐候性試験)
得られた試験板を、サンシャインウェザオメーターS80(サンシャインカーボンアーク式促進耐候試験機、スガ試験機社製)を用いて、6,000時間の促進耐候性試験を行った(運転条件:JIS B 7753に準拠)。6,000時間試験後の塗膜の60°光沢値を、光沢計GN−268Plus(コニカミノルタ社製)により測定し、試験前の60°光沢値に対する変化率(光沢保持率)を算出し、以下の基準により評価した。

○:光沢保持率が80%以上であった。
×:光沢保持率が80%未満であった。
【0096】
耐温水性評価(耐温水浸漬試験)
試験板を、60℃の温水に10日浸漬後、試験板を取り出し、塗膜の外観及びと色差(ΔL値)を、以下の方法及び基準に従い評価した。
色彩色差計CR−300(コニカミノルタ社製)にて、試験前及び試験後の塗膜表面の色相(L値)をそれぞれ測定し、試験前の塗膜のL値(L0)と試験後の塗膜L値(L1)との差(ΔL値(L1−L0))を算出することによって求めた。ΔL値が小さいほど、塗膜の吸水白化が小さいことを示す。

○:ΔL値が2以下であった。
△:ΔL値が2より大きく3未満であった。
×:ΔL値が3以上であった。
【0097】
【表3】
【0098】
【表4】
【0099】
実施例の水性塗料組成物はいずれも、相溶性(ヘイズ値)評価、耐ブロッキング性評価、耐候性評価、耐水性評価において良好であった。
比較例1及び2は、アクリルシリコーン樹脂エマルション(B)のSP値が9.5〜10.9の範囲内ではない例である。これらの例ではいずれも、耐水性が劣ることが確認された。
比較例3は、フッ素樹脂エマルション(A)を含まない例である。この例では、耐候性が劣ることが確認された。
比較例4は、アクリルシリコーン樹脂エマルション(B)を含まない例である。この例では、耐水性が劣ることが確認された。
比較例5は、アクリルシリコーン樹脂エマルション(B)の代わりにアクリル樹脂エマルションを用いた例である、この例では、耐候性が劣ることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0100】
上記水性塗料組成物は、特定のフッ素樹脂エマルション(A)及びアクリルシリコーン樹脂エマルション(B)を含む。上記水性塗料組成物を用いて形成される塗膜は、耐候性に優れることに加えて、耐ブロッキング性及び耐水性もまた優れるという利点がある。上記水性塗料組成物はさらに、フッ素樹脂エマルション(A)として含フッ素シード重合エマルションを含むため、フッ素原子の濃度が高いにも拘らず安価であり、生産コストを低減することができる利点がある。
【要約】
【課題】 良好な耐水性及び耐候性を有する塗膜を形成することができる水性塗料組成物を提供すること。
【解決手段】 フッ素樹脂エマルション(A)、及び、アクリルシリコーン樹脂エマルション(B)、を含む、水性塗料組成物であって、上記フッ素樹脂エマルション(A)は、含フッ素シード重合エマルションであり、上記アクリルシリコーン樹脂エマルション(B)のSP値は、9.5〜10.9の範囲内である、水性塗料組成物。
【選択図】 なし