【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとしている課題は、冷媒圧縮機などの動力源をほとんど消費することなく 室内空間を冷却できる装置の実現であり、除湿装置と組み合わせて冷房システムを実現するために必要な高性能な空気対空気熱交換器システムの具体化、実現である。
具体的には、冷却する空気の温度を散水によって湿球温度近くまで低温度化した上で冷却される空気と接触させて、効果的に冷却を実現しようとするもので、所謂水蒸発間接冷却器に関するものである。例えば双方の空気が同じ温度でも冷却する空気に散水して湿球温度近くまでその温度を下げ、それで冷却される空気と熱交換させれば冷却される空気を冷却することができるわけで、この原理を利用すれば湿度の低い時には、室内空気を、室外空気の湿球温度によって冷却することが可能になるわけで、冷凍サイクルや、吸着装置、デシカント装置を使うことなく冷房ができるわけである。
【0008】
この空気対空気熱交換器の冷却効果を高めるには、冷却する空気側の伝熱面に散水した水を伝熱面全体に広めて伝熱面全面の濡れ性を維持して伝熱量を確保し、かつ、伝熱面を当該散水した水が流れ落ちることにより全伝熱面の水の温度が均一化されてしまって其の結果十分な総伝熱量を確保できない現象を防ぐ?この両方の性能向上効果を如何に実現するか、大きな課題である。
通常、この種の熱交換器で、双方の空気間で顕熱熱交換する場合、対向流で流す場合は空気の流れ方向に従って温度分布は変わり、全伝熱面が同じ温度に成らない。その効果により冷却伝熱量が増加するのが普通である。
今回の水蒸発潜熱を利用するケースでは冷却用の水を大量に供給して循環させると水の温度は伝熱面に渡って均一化されてしまい、空気を対向流で流してその間の伝熱量を増やそうとする場合、其の対向流による温度傾斜による伝熱量が増える効果は失われてしまうからである。
【0009】
以上の空気対空気熱交換器を用いて熱交換して後に冷却される空気を室内空間に、冷却する空気を室外に排気させることにより室内を冷房させることは可能である。その効果は冷却される空気の到達温度は冷却する空気の湿球温度によって冷却されるため、当該湿球温度以下には下げることが出来ない。例えば冷房機に関するJISの運転標準条件は室外空気温度は35℃、其の相対湿度は40%であり、其の湿球温度は24℃である。従ってこの空気を冷却する空気として利用した場合は冷却される空気の到達最低温度は24℃となり、水の蒸発潜熱利用技術では決してそれ以下の温度は得ることはできない。冷房の快適性から要求される冷房機の吹き出し温度は20℃以下であるので、この温度ギャップが課題であり、冷媒圧縮方式のエアコンが使われる理由であると言える。
【0010】
上記空気対空気熱交換器の冷却する空気側の伝熱面には水を散水して其の温度を下げることが行われる。この散水された水は分散ノズルで通風路上部から散水される。しかしてこの水は通風路の伝熱面を下に流れると同時に相互に集まり、筋状になって伝熱面上を流れ落ちるため、伝熱面にくまなく分散して其の面を濡らすことは無い。このため伝熱面の材料にもよるが、水の存在しない面積が大半となってしまい、当初計画した冷却特性を発揮できない。この伝熱面の濡れ性を確保することが性能向上に重要で、伝熱面に細い繊維を植毛したり、伝熱面上に吸湿性の良い布状の材料を貼り付けたりする。この結果、水濡れ性は向上し、冷却性能が向上する。しかしながら、使用時間が経つと、この方法では水に含まれるケイ酸カルシュームや炭酸カルシュームなどが析出してスケールと成って固着するため、植毛や布は吸湿性を失う。この結果水濡れ性は劣化し、伝熱面を効果的に濡らすことができなくなり、冷却性能を維持できなくなるという問題がある。
【0011】
冷却効果を高めるため、冷却する空気と冷却される空気は対向流に構成した流路を形成し、一方水はその蒸発潜熱を利用するため、水の自然落下の効果を利用して上部に於いて散水し、下部でドレンパンに集める。これらの空気対空気熱交換器としての構成は簡単では無く、複雑な構成であって高度な冷却性能を発揮させることができる組立構造である必要がある。
【0012】
さらに、冷却器としての次の様な特性に叶った材料、構造である必要がある。即ち全部材の水に対する耐蝕性、水濡れ性、伝熱面と本体枠体の構成と製造性、水の散水と集水保持構造、其の上での熱交換器のサービス交換性などを満たす空気対空気熱交換器を構成する基本的な技術、材料、構造の明確化が重要であり、本発明の空気対空気熱交換器を具体化する技術が求められる。
以上の冷却方式では水の蒸発による冷却効果が需要である。水が蒸発した結果水に含まれるシリカ成分などの硬質水成分が析出しやすくなり、当該熱交換器やドレンパンにスケールやごみとなって堆積する。これを有効に防止する方法の実現が課題である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以上の各種課題を解決するための手段を列記し、各特許提案請求項との関係を明確化する。
この冷房装置を実現する基本的な方式に関する発明を請求項1に示す。この空気対空気熱交換器は冷却される空気と、冷却する空気を別々に一つおきの通風路に通風させて、通風路を構成する伝熱面を通して熱交換させるもので、冷却する空気の通る通風路側の伝熱面上には冷却させるための水を散水して蒸発冷却を行う。この伝熱性能を高めるには両方の空気を対向する様に流して対向流熱交換を行わせることが重要である。並行流では両方の空気の温度変化の和は両方の空気の最初の温度差を超えることは無いが、それが対向流であれば最初の温度差を越えて、夫々が相手の最初の温度に近づくことが可能である。即ち伝熱効率が向上する。
【0014】
冷却する側の空気の温度を湿球温度にして、十分な伝熱量を得ようとする場合は、冷却する空気乃至は伝熱面に水を散水する。この散水が伝熱面を行き渡って全面を湿球温度まで下げようとすると、ポンプの出力をまして其の水の散水量を増加してやることが望ましい。この散水量を増やすと伝熱面上の水は全面に行き渡って連続して流れ落ち、連続的にポンプで汲み上げることが行われる。この場合、流れる水の温度は均一化して熱交換器の入り口も出口も其の水の温度は同一になる。この結果、前述した対向流による伝熱量を増加させる効果は失われる。
【0015】
しかして、伝熱面上の水濡れ性を良くして散水量を増やすか、伝熱面上の温度分布を維持するために散水量を減らすか、二者択一に迫られる。
請求項1は伝熱面の水濡れ性を良好にし、且つ伝熱面の温度分布を保持した状態に維持するという双方の効果を満たす技術として、断続的に散水することを提示している。実験ではアルミ板の伝熱面の場合、30秒間連続最大量散水を行い、6分間散水を停止する方式が有効であった。この繰り返しにより上記の効果を実現できることを確認している。30秒間の多量の散水により伝熱面のほぼ全面に水が行き渡る、散水を停止すると数秒後には伝熱面の各点の温度、即ち水の温度は空気側の条件によって其の分布を変える。この結果、全面が均一な温度であるより多量の伝熱が行われることが確認できている。双方の空気が対向流であれば前述した通りに、より多くの伝熱を行わせえることができるし、対向流でない場合でも、其の伝熱量増加への影響は小さくない。6分間の散水停止時間は伝熱面の状態、即ち水を保持しやすいか否かによって最適時間を選定する。
この様にして高い伝熱性能で冷却された空気は室内に直接吹き出すことにより室内を冷房する。または、室内を冷房する為の循環水をこの冷却された空気を用いて熱交換させて冷却した後に各部屋、各部処にこの循環水を循環させる方式も有効である。この循環水を導き、天井、壁面、床面に冷却器を設置して空間内を冷却・冷房させる方式である。これとは別に当該空間内の空気を除湿する機能を持たせれば、高い快適性の冷房を行わせることができる。
【0016】
請求項2は以上の空気対空気熱交換器で伝熱させる2つの空気として双方とも室内空気を用いる方式についての技術を提示している。空気の温度には3種の温度があり、伝熱に応用されている。室内空気を空調する際の基準となるJIS標準条件では冷却する屋外空気の温度における其の3つの温度は、乾球温度として35℃、湿球温度として約24℃であるが其の露天温度は約19℃である。一方室内空気は同様にJIS標準条件では乾球温度27℃、湿球温度は約19℃であるが、露天温度は約15.6℃である。請求項2の技術により室内空気温度を其の露天温度近くまで冷却する技術を提示している。其の方法は室内空気を冷却した出口の冷却された空気の25%程度を分離して其の冷えた空気を用いて水蒸発冷却を行う技術である。最初から25%の空気を冷却する空気とし、75%の空気を冷却する場合は、冷却する25%の空気に散水、加湿し、それを湿球温度(19℃)とし、それで室内空気を冷却すれば、22〜23℃程度まで冷却できる。ところが冷却された室内空気を散水加湿すると露天温度(15.6℃)近く、これを冷却に用いれば室内空気を18〜19℃まで冷却できるもので、この冷却原理を利用し、冷却に用いた室内空気がこの冷却工程で室外空気エンタルピ近くまで到達した後に換気空気として排気させる。と同時に其の換気させる風量とほぼ同等の屋外空気を取り込んで前記室内空気に加えて前記冷却される空気とすれば、室内空気を低温度まで冷却できると同時に換気による屋外空気の蒸し暑い高エンタルピ空気によるエネルギー流入ロスを殆どゼロに抑えることができるものである。以上は熱力学的、及び実験的に実証されている。
【0017】
請求項3は冷却器の伝熱面に関するもので、前述した課題3に対応するものである。特に伝熱面全体に冷却水を保持させ冷却効果を高める為の具体的な技術である。冷却水の膜厚を薄くして伝熱冷却効果を高める為に伝熱面は鉛直に設置し、伝熱面を間隙を開けて多数枚数重ねあわせた構造が望ましい、其の場合、散水により水は伝熱面の上を流れて落ちてしまい、伝熱面を薄く濡らし続けるという理想通りに成らない。そこで伝熱面に給水布を敷く、植毛をするなどの方法が試みられている。其の場合、水の浸透力により其の表面に保持される。しかしながらこれでは水が蒸発することによって生じる残留物であシリカ成分などが堆積するため、やがて保水性は失われ、伝熱面は長期間の使用に絶えない。
そこで請求項3では伝熱面上に水平方向に渡って保水のための溝を形成する方法である。溝の上下巾は3mm程度で溝の深さは0.7mm程度で溝ピッチは6mm程度が選ばれる。伝熱面に水を散水すると各溝の中に水が保持され、5〜6分間伝熱面の冷却に有効に働くことが解って居る。
【0018】
請求項4はこの溝による効果を台無しにすることを防ぐ技術を提示してる。溝は水を保持する効果を有するが、例えば伝熱面の全幅に渡ってこの溝を整形し枠体などに取り付けて冷却器を構成する方法の場合、当該溝に保持された水は伝熱面が枠体と接するところで枠体を伝わり流れ落ちてしまうことが解って居る。そこで枠体と接するところの近傍で当該溝を終了させておくことが有効である。この事実をさらに展開したのが請求項5である。即ち、上記溝が伝熱面の巾方向に渡って形成されるものと同等の効果を持たせる方法として溝状の凸凹を例えば千鳥足状に形成して、散布水が平坦部を流れ落ちることを同様に防止できることが解っている。即ち上下に連続する平坦な道を伝熱面上に形成しないことが有効である。
【0019】
請求項6は、このように伝熱面を鉛直に配置し、冷却される空気と冷却する空気を冷却器の上下から流入させて対向流となし、両方の空気の出口を側面の開口部から流出させる構成である。この構成は散水が伝熱面全体に広がること容易になり、かつ前述した側面の開口部近傍を含めて散水により伝熱面の水濡れを確保でき、伝熱面積を最大に確保して伝熱性能を高めることが可能であるからである。この水濡れ性を確保するのが請求項1のポンプの作動が有効である。
【0020】
請求項7はこの複雑な構造の空気対空気熱交換器の製造方法に関わる技術である。伝熱面と其の周囲を保持する枠体を一体にし、それを積層して全体の空気対空気熱交換器を構成する。この場合のポイントは散水した水が冷却する空気の通風路のみを流れ、冷却される空気の通風路には流れ込まず、滲み出さない構造が必要である。請求項8は額縁状の枠体に二枚の伝熱面を挿入してその間を通風路とする。その後にその枠体を重ねあわせて熱交換器を構成させる。この二枚の伝熱面と枠体で囲われた通風路を冷却する空気を流し、散水させる様にすれば、冷却される側の通風路に水が流れ込み、乃至は滲みだすことを容易に防止できる。この伝熱面と枠体の間は密着しやすく接着剤などで水の滲み出しを防止する。通常冷却する空気の風量は冷却すされる空気の風量の3〜5分の一に設定されるから、隣り合う2つの通風路は冷却される空気の側の方を広くして其の風量の確保を計る。
【0021】
請求項8は、冷却水の蒸発によって生じるスケールやゴミの析出、堆積を最小化する技術を提示している。供給する水道水を装置が必要とする水量より多くし、ドレンパン等から自然にオーバーフローさせる方法である。極めて簡単な方法で確実は効果が見込める。
水道水の供給水圧には夫々の地域で差があるから、水道水供給部に定圧供給弁を設置するか、装置を設置する時に供給水量を設定した水量に調節できる機構を設置する方法などが有効である。
この冷房機に置いて冷却される空気を冷却する手段は、以上に述べてきた冷却する空気による水状蒸発冷却器によるものと、屋外空気による水蒸発冷却によるものの足しあわ
せた効果により冷房することができる。請求項9はこの屋外空気による冷却を前記空気対空気熱交換器の冷却される空気の入口となる部分に熱交換部を設け、前記空気対空気熱交換器に於いて冷却する空気で冷却される空気を水蒸発冷却する前段で、屋外空気で冷却される空気を水蒸発冷却させることを提示している。後述する実施例で詳細を述べるが、双方の冷却部分を一体化することにより、冷却性能の向上と冷房機のコンパクト化が図れる。
【0022】
以上の様に水蒸発による冷却を行う上で課題となったスケールや汚れの発生に対する対応技術を請求項10に述べている。水道水に含まれるミネラル成分である炭酸カルシュームなどが濃縮されて析出し、スケールとして固着する。これを防ぐには水道水を定量補給してオーバーフローさせて排水させることが必要である。このため、予め運転による蒸発水量を設定し、それより一定量多い水量を補給し、水蒸発冷却器の下部に設けたドレパンから冷房装置外部へ自動的に排水させることが有効である。
【発明の効果】
【0023】
以上の発明により以下の様な効果を期待できる。
1、水蒸発潜熱を有効に使って、ファンモータと水ポンプ以外に熱源や動力源を使わ
ずに室内空気の冷却を行う冷房装置を提供できる。
2、以上の冷房装置は圧縮機や冷凍サイクルを用いた従来の冷房装置に比べ、製造減価の低減が期待でき、また一次エネルギー使用量の少ない冷房装置を実現できる。
3,高い伝熱特性による高性能な空気対空気熱交換を実現でき、これを用いた冷房装置の高性能化、小型化、コスト低減が実現できる
4,冷却用の水の最適利用が実現でき、水の使用量の削減とスケールや汚れの発生を少なくし、製品の長寿命化が実現できる。
5,環境エネルギー装置として今後の普及が期待される燃料電池、バイオマス発電装置、太陽光ハイブリッド発電温熱装置などの電力と温熱をハイブリッドで出力する装置の電力と温熱を夫々本冷房機のファンモータ電力とデシカント再生用温熱に利用して作動させるシステムの実現に適している。
6,本冷房機の低温度及び低湿度化技術を駆使して、低温度出力空気で冷却水をつくりそれを冷房空間の外周壁や床や天井の冷却に利用し、低湿度空気をその冷房空間に送り、合わせて極めて快適な未来型冷房を簡単なシステムで実現することができる可能性がある。