【文献】
Huawei, HiSilicon,Security aspects of dual connectivity operation, 3GPP TSG-RAN WG2♯85 R2-140509,2014年 2月10日,<URL:http://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG2_RL2/TSGR2_85/Docs/R2-140509.zip>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記混合ガス源が、前記圧力勾配が7.5MPa/m以下、又は10MPa/m以上となる条件で、前記多孔質体に前記混合ガスを流入させる請求項4に記載の水素ガス製造装置。
前記セラミックスが、アルミナ質材料、イットリア安定化ジルコニア質材料、及び炭化珪素質材料から選ばれる1種以上の無機材料よりなる請求項7に記載の水素ガス製造装置。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施例の説明に先立ち、基礎となる検討事項を説明する。
【0021】
図1に示すように、多孔質体100の一端面からガスを流入させる。流入されたガスは、多孔質体100を透過して、多孔質体100の他端面から流出する。多孔質体100を、細管100aの集合としてモデル化することを考える。ガスの平均自由行程をλとし、各細管100aの直径を2rとする。
【0022】
r/λが例えば5以上の場合、ガス分子と細管100aの内壁との衝突よりも、ガス分子同士の衝突が優先的に生じるポアズユ流れ(Poiseuille flow)が実現される。
【0023】
ポアズユ流れにおいては、多孔質体100を通過するガスの流束(以下、透過ガス流束という。)J(P)は、下式で与えられる。なお、透過ガス流束は、単位時間当たりに単位断面積を通過するガスの物質量を表し、mol/(sec・m
2)なる次元をもつ。
【0025】
ここで、εは多孔質体の気孔率、Rはガス定数、Tは絶対温度、ηはガスの粘度、Lは多孔質体100のガスが透過する方向の長さを表す。また、ΔP=P
1−P
2であり、P
1は、多孔質体100へのガスの流入圧力であり、P
2は、多孔質体100からのガスの流出圧力である。また、P
E=(P
1+P
2)/2である。
【0026】
一方、r/λが例えば1以下の場合、ガス分子同士の衝突よりも、ガス分子と細管100aの内壁との衝突が優先的に生じるクヌーセン流れ(Knudsen flow)が実現される。
【0027】
クヌーセン流れにおいては、透過ガス流束J(K)は、次式で与えられる。ここで、C
Eは、ガス分子の平均速度である。
【0029】
以下、ΔP/Lで表される物理量を圧力勾配と呼ぶ。式(1)及び(2)が示すように、ポアズユ流れの場合も、クヌーセン流れの場合も、理論的には、透過ガス流束は圧力勾配ΔP/Lに比例する。1<r/λ<5の場合も同様に、透過ガス流束は圧力勾配ΔP/Lに比例すると考えられる。具体的には、圧力勾配ΔP/Lをx軸にとり、透過ガス流束をy軸にとったグラフは、原点を通る直線で表される。
【0030】
その直線の傾き、具体的には式(1)又は(2)の右辺でΔP/Lに掛け算される比例係数の値が、ガス種によって異なる。水素ガスの比例係数は、二酸化炭素ガスの比例係数よりも大きい。即ち、多孔質体100は、水素ガスを二酸化炭素ガスよりも透過させやすい性質をもつ。このため、ガスとして、水素ガスと二酸化炭素ガスとの混合ガスを用いた場合に、水素ガスの濃縮を実現できる。
【0031】
多孔質体100がもつ水素ガスの濃縮機能は、多孔質体100から流出したガスの流束に占める水素ガスの流束の割合(以下、分離係数という。)で評価することができる。
【0032】
ポアズユ流れの場合、式(1)でガス種に依存するのは粘度ηのみである。従って、流束の比をとると粘度η以外の因子はキャンセルされ、分離係数は粘度ηのみで決まる。
【0033】
クヌーセン流れの場合、式(1)でガス種に依存するのは平均速度C
Eのみである。従って、流束の比をとると平均速度C
E以外の因子はキャンセルされ、分離係数は平均速度C
Eのみで決まる。
【0034】
即ち、ポアズユ流れの場合も、クヌーセン流れの場合も、理論的には、分離係数は圧力勾配ΔP/Lには依存しない。1<r/λ<5の場合も同様に、分離係数は圧力勾配ΔP/Lには依存しないと考えられる。
【0035】
従って、従来は、水素ガスの濃縮を能率的に行うために、特許文献1に示すように、多孔質体100をできるだけ高い圧力勾配下で使用していた。
【0036】
ところが、本願発明者らの研究によると、式(1)及び(2)が理論的に示す技術常識とは異なる特性を、多孔質体100が示しうることが判明した。以下、判明した事項のうちの主要な点を、
図2を参照して説明する。
【0037】
図2は、透過ガス流束Jと圧力勾配ΔP/Lとの関係を模式的に示すグラフである。x軸が圧力勾配ΔP/Lを示し、y軸が透過ガス流束Jを示す。
【0038】
水素ガスの透過ガス流束Jは、直線a−1が示すように、概ね理論通りに原点を通る直線、あるいは直線a−2に示すようなy軸切片をもつ直線で表されることが観測された(論文J.Asian.Ceram.Soc.,1,368−373(2013))。
【0039】
これに対し、二酸化炭素ガスの透過ガス流束Jは、直線bが示すように、原点を通らずにx軸切片Cを有する直線で表されることが観測された。即ち、二酸化炭素ガスは、圧力勾配ΔP/Lが或る臨界値(以下、臨界圧力勾配という。)Cに至るまで、多孔質体100を透過しない。
【0040】
本願発明者らは、以上の観測結果に基づいて、上記臨界圧力勾配Cの近傍あるいはそれ以下の低い圧力勾配下においては、水素ガスと二酸化炭素ガスとでの、透過ガス流束Jの傾きの相違のみならず、x軸切片の相違も利用して、水素ガスの濃縮を行いうるとの着想を得た。本発明は、かかる知見に基づいてなされたものである。
【0041】
以下、本発明の実施例及び参考例について述べる。
【0042】
〔実施例1〜3、参考例1及び2〕
比表面積10.5m
2/g、メディアン径310nm、等電点pH8.5のα−アルミナ粉体(住友化学社製、製品名:AKP50)に、pH3の分散剤液を加えて24時間攪拌し、サスペンションを得た。なお、分散剤液は、α−アルミナ粉体の各粒子に電気二重層を形成することで、粒子間に静電反発力を発現させる。サスペンションは、α−アルミナ粉体が30vol%を占め、残部を分散剤溶液が占める。
【0043】
次に、そのサスペンションを上方脱水型ろ過装置でろ過して成形体と成した。さらに、その成形体を空気中、100℃で24時間乾燥した後、空気中、800℃で1時間焼成し、アルミナ質多孔質体を得た。
【0044】
図3Aに、得られたアルミナ質多孔質体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。図示するように、α−アルミナ粉体の粒子同士が固着することで形成された多孔質状の組織が確認された。
【0045】
図3Bは、得られたアルミナ質多孔質体の累積細孔径分布を示す。多孔質体の細孔径分布は、SEM画像を用いてインターセプト法により測定した。最大細孔径は、150nmであり、メディアン径(D50)は、32nmであった。
【0046】
また、アルミナ質多孔質体の密度等をアルキメデス法で測定したところ、相対密度は62.7%であり、開気孔率は36.2%であり、閉気孔率は1.1%であった。なお、相対密度とは、全体積に占める、気孔を除いた固体部分の割合を指す。
【0047】
次に、アルミナ質多孔質体を用いて、室温の温度環境下で、水素ガスの濃縮を行った。なお、本明細書において室温とは、0℃を超え、40℃未満の温度を指すものとする。まず、水素ガスの濃縮に用いた水素ガス製造装置について説明する。
【0048】
図4に示すように、水素ガス製造装置は、多孔質体100と、一端に流入口200aを有すると共に他端に流出口200bを有し、内部に多孔質体100が配置されるガス流路200と、ガス流路200の流入口200aから混合ガスを供給する混合ガス源300とを備える。
【0049】
多孔質体100は、混合ガス源300から供給された混合ガスが流入する流入領域101を有する表面、ガスが流出する流出領域102を有する裏面、及び表面と裏面とをつなぐ側面103を有する略円盤状に形成されている。流入領域101は表面の略中央に位置し、流出領域102は裏面の略中央に位置する。多孔質体100は、表面における流入領域101を除く周縁部、裏面における流出領域102を除く周縁部、及び全周にわたる側面103に、ガス漏れ防止膜104を有する。ガス漏れ防止膜104は、樹脂、具体的にはフェノール樹脂を塗布することで形成されたものである。
【0050】
ガス流路200は、多孔質体100のガス漏れ防止膜104が形成された上記周縁部を厚さ方向に両側から挟み込む冶具210と、冶具210を保持する保持部材220とで構成されている。
【0051】
冶具210は、多孔質体100の表面のガス漏れ防止膜104に接するリング状のシール材211と、シール材211上に配置されたリング状のスペーサ212と、スペーサ212上に配置されたリング状のシール材213とを有する。また、冶具210は、多孔質体100の裏面のガス漏れ防止膜104に接するリング状のシール材214と、シール材214上に配置されたリング状のスペーサ215と、スペーサ215上に配置されたリング状のシール材216とを有する。
【0052】
シール材211、213、214、及び216は、ゴムで形成されている。スペーサ212及び215は、金属、具体的には、ステンレスで形成されている。シール材211、スペーサ212、及びシール材213を、多孔質体100の表面に投影して得られる投影領域は、多孔質体100の表面のガス漏れ防止膜104が形成された領域と略重なる。また、シール材214、スペーサ215、及びシール材216を、多孔質体100の裏面に投影して得られる投影領域は、多孔質体100の裏面のガス漏れ防止膜104が形成された領域と略重なる。
【0053】
保持部材220は、多孔質体100及び冶具210を、多孔質体100の厚さ方向に挟み込む雄部材221と雌部材222とによって構成されている。雄部材221は、シール材213に接すると共に、流入口200aを構成している。雌部材222は、シール材216に接すると共に、流入口200bを構成している。
【0054】
雄部材221と雌部材222は、互いに螺合する。雄部材221と雌部材222の一方を他方に対してねじ回すことにより、一方を他方に対して多孔質体100の厚さ方向に進退させることができる。これにより、冶具210を気密に挟み込む圧力を調整できる。
【0055】
多孔質体100として、上述したアルミナ質多孔質体を用い、混合ガス源300から水素ガスと二酸化炭素ガスとよりなる混合ガスを供給させ、室温としての約25℃の温度環境下で、多孔質体100がもつ水素ガスの濃縮能力を調べた。ここで室温の温度環境下とは、具体的には、多孔質体100としてのアルミナ質多孔質体と、ガス流路200と、多孔質体100に流入させる混合ガスとのいずれもが室温である条件を意味する。
【0056】
混合ガス源300から供給する混合ガス中の水素ガス濃度を種々変化させた。また、多孔質体100の流出領域102におけるガスの流出圧力P
2を略大気圧(0.1MPa)に保った状態で、多孔質体100の流入領域101への混合ガスの流入圧力P
1を種々の値に変化させることで、圧力勾配ΔP/Lを種々の値に変化させた。なお、混合ガスが透過する方向のアルミナ質多孔質体の長さ(厚さ)Lは、3mmである。
【0057】
上記各条件において、次式で定義される透過ガス流束Jを水素ガス及び二酸化炭素ガスのそれぞれについて測定した。
【0059】
ここで、Qは、多孔質体100を透過したガスのモル数であり、ガスクロマトグラフィにより測定した。Aは、多孔質体100のガスが透過する方向に垂直な断面の面積である。この面積は、流入領域101及び流出領域102の面積と等しい。tは、ガスが多孔質体100を透過するのに要する時間である。αは、透過係数と呼ばれる。
【0060】
図5に、透過ガス流束の測定結果のプロットを最小2乗法で直線近似したグラフを示す。上段のグラフでJ(H
2)とは上式(3)から求まる水素ガスの透過ガス流束を表し、下段のグラフでJ(CO
2)とは上式(3)から求まる二酸化炭素ガスの透過ガス流束を表す。各グラフに共通の横軸は、圧力勾配ΔP/Lを示す。
【0061】
混合ガス源300から供給する混合ガス中の水素ガス濃度を、20mol%(実施例1)、50mol%(実施例2)、80mol%(実施例3)の3段階に変化させた。また、参考例として、混合ガス源300から供給するガスを二酸化炭素ガス100mol%とした場合(参考例1)、及び水素ガス100mol%とした場合(参考例2)のそれぞれについても透過ガス流束を測定した。
【0062】
縦軸のスケールが上段のグラフと下段のグラフとで異なる。実施例1〜3のいずれにおいても、上段のグラフの傾き、即ち水素ガスの透過係数(式(3)参照)が、下段のグラフの傾き、即ち二酸化炭素ガスの透過係数(式(3)参照)よりも大きい。
【0063】
参考例1のグラフは、
図2の直線bに対応し、参考例2のグラフは、
図2の直線a−1に対応する。厳密には、参考例1のグラフだけでなく、参考例2のグラフもゼロでないx軸切片をもつ。但し、参考例1のグラフのx軸切片と、参考例2のグラフのx軸切片との間には、明確な相違が認められる。
【0064】
実施例1〜3の各々においても、水素ガスの透過ガス流束J(H
2)を表す上段のグラフのx軸切片と、二酸化炭素ガスの透過ガス流束J(CO
2)を表す下段のグラフのx軸切片との間の差(以下、臨界圧力勾配差という。)が僅かながら認められた。
【0065】
臨界圧力勾配差は、実施例1で5.6MPa/mであり、実施例2で4.4MPa/mであり、実施例3で2.8MPa/mであった。
【0066】
また、実施例1〜3の各々につき、下式で定義される分離係数F(H
2)を求めた。分離係数F(H
2)は、多孔質体100がもつ水素ガスの濃縮能力を評価する指標となる。
【0068】
図6に、分離係数F(H
2)の測定結果をプロットしたグラフを示す。上段のグラフは混合ガス源300が供給する混合ガス中の水素ガス濃度を80mol%とした場合(実施例3)の結果を示し、中段のグラフは水素ガス濃度を50mol%とした場合(実施例2)の結果を示し、下段のグラフは水素ガス濃度を20mol%とした場合(実施例1)の結果を示す。各グラフに共通の横軸は、圧力勾配ΔP/Lを示す。
【0069】
なお、破線は、多孔質体100に流入させた混合ガス中の水素ガス濃度を示す。また、
図6には、後述する実施例4〜9の結果も示されており、後の実施例4〜9の説明で再び
図6を参照する。
【0070】
既述のように、理論的には、分離係数F(H
2)は、圧力勾配ΔP/Lには依存しないはずである。ところが、図示するように、実施例1〜3のいずれにおいても、圧力勾配ΔP/Lが小さい程、分離係数F(H
2)が大きくなるという結果が得られた。
【0071】
このような結果をもたらした主な要因の1つとして、上記臨界圧力勾配差の存在が考えられる。即ち、上記臨界圧力勾配差が存在すると、式(4)に示すように透過ガス流束の比をとったときに、圧力勾配ΔP/Lがキャンセルされなくなる。
【0072】
また、上記臨界圧力勾配差の存在に加えて、他の要因として、圧力勾配ΔP/Lが低い領域では、水素ガス及び/又は二酸化炭素ガスの透過ガス流束が、単純に式(1)又は(2)に示す比例関係に従うのではなく、非線形な関係に従うこと等も考えられうる。
【0073】
図6に示すように、圧力勾配ΔP/Lが小さい程、分離係数F(H
2)が大きくなるという効果は、圧力勾配ΔP/Lが50MPa/m未満の領域で確認された。分離係数F(H
2)は、圧力勾配ΔP/Lの増大と共に或る値に収束し、圧力勾配ΔP/Lが50MPa/m以上の領域においては、分離係数F(H
2)は、理論が示すように、圧力勾配ΔP/Lに殆ど依存しなくなることが認められた。
【0074】
以上より、室温の温度環境下で、圧力勾配ΔP/Lを50MPa/m未満に設定することで、多孔質体100がもつ水素ガスの濃縮能力をいかんなく発揮させることができ、多孔質体100に理論値以上の分離係数を発現させうることが判った。
【0075】
特に、
図6に示すように、圧力勾配ΔP/Lが30MPa/m以下の場合に、分離係数F(H
2)の圧力勾配ΔP/Lに対する依存性が大きくなり、分離係数F(H
2)は1に近づく。圧力勾配ΔP/Lが10MPa/m以下の場合には、分離係数F(H
2)がほぼ1となる。
【0076】
〔実施例4〜6、参考例3及び4〕
次に、実施例4〜6、参考例3及び4について述べる。
【0077】
比表面積14.9m
2/g、メディアン径40nm、等電点pH7.8のイットリア安定化ジルコニア(YSZ; Yttria-Stabilized Zirconia)粉体(東ソー社製、製品名:TZ−8Y)に、pH3の分散剤液を加えて24時間攪拌し、サスペンションを得た。なお、分散剤液は、YSZ粉体の各粒子に電気二重層を形成することで、粒子間に静電反発力を発現させる。サスペンションは、YSZ粉体が30vol%を占め、残部を分散剤溶液が占める。
【0078】
次に、そのサスペンションを上方脱水型ろ過装置でろ過して成形体と成した。さらに、その成形体を空気中、100℃で24時間乾燥した後、空気中、1100℃で1時間焼成し、YSZ質多孔質体を得た。なお、混合ガスが透過する方向のYSZ質多孔質体の長さ(厚さ)Lは、3mmである。
【0079】
図7Aに、得られたYSZ質多孔質体のSEM写真を示す。図示するように、YSZ粉体の粒子同士が固着することで形成された多孔質状の組織が確認された。
【0080】
図7Bは、得られたYSZ質多孔質体の累積細孔径分布を示す。多孔質体の細孔径分布は、SEM画像を用いてインターセプト法により測定した。最大細孔径は、190nmであり、メディアン径(D50)は、25nmであった。
【0081】
また、YSZ質多孔質体の密度等をアルキメデス法で測定したところ、相対密度は50.4%であり、開気孔率は40.5%であり、閉気孔率は9.1%であった。
【0082】
次に、既述の実施例1〜3と同様にして、
図4の水素ガス製造装置の多孔質体100として上記YSZ質多孔質体を用い、室温としての約25℃の温度環境下で、水素ガスの濃縮を行った。そして、水素ガス及び二酸化炭素ガスの透過ガス流束を測定した。
【0083】
図8に、透過ガス流束の測定結果のプロットを最小2乗法で直線近似したグラフを示す。混合ガス源300から供給する混合ガス中の水素ガス濃度を、20mol%(実施例4)、50mol%(実施例5)、80mol%(実施例6)の3段階に変化させた。参考例として、混合ガス源300から供給するガスを二酸化炭素ガス100mol%とした場合(参考例3)、及び水素ガス100mol%とした場合(参考例4)についても透過ガス流束を測定した。
【0084】
縦軸のスケールが
図8の上段のグラフと下段のグラフとで異なる。実施例5及び6では、上段のグラフの傾き、即ち水素ガスの透過係数(式(3)参照)が、下段のグラフの傾き、即ち二酸化炭素ガスの透過係数(式(3)参照)よりも大きい。
【0085】
臨界圧力勾配差は、実施例4で3.8MPa/mであり、実施例5で2.5MPa/mであり、実施例6で2.1MPa/mであった。
【0086】
図6には、実施例4〜6についての分離係数F(H
2)の測定結果をプロットしたグラフも示す。実施例1〜3の場合と同様、圧力勾配ΔP/Lが50MPa/m未満の場合に、圧力勾配ΔP/Lが小さい程、分離係数F(H
2)が大きくなるという結果がみられる。
【0087】
また、圧力勾配ΔP/Lが50MPa/m以上の領域においては、分離係数F(H
2)は、理論が示すように圧力勾配ΔP/Lに殆ど依存しなくなることが認められた。
【0088】
従って、室温の温度環境下で、圧力勾配ΔP/Lを50MPa/m未満に設定することで、多孔質体100がもつ水素ガスの濃縮能力をいかんなく発揮させることができ、多孔質体100に理論値以上の分離係数を発現させうる。特に、圧力勾配ΔP/Lが30MPa/m以下の場合に、分離係数F(H
2)の圧力勾配ΔP/Lに対する依存性が大きくなり、分離係数F(H
2)は大きな値をとる。
【0089】
〔実施例7〜9、参考例5及び6〕
次に、実施例7〜9、参考例5及び6について述べる。
【0090】
実施例1〜3に係るアルミナ質多孔質体と、実施例4〜6に係るYSZ質多孔質体との接合体(以下、アルミナ−YSZ二層多孔質体という。)を形成した。アルミナ質多孔質体及びYSZ質多孔質体の厚さをいずれも1.5mmとし、厚さ3mmのアルミナ−YSZ二層多孔質体を得た。
【0091】
既述の実施例1〜6と同様、
図4の水素ガス製造装置の多孔質体100として上記アルミナ−YSZ二層多孔質体を用い、室温としての約25℃の温度環境下で、水素ガスの濃縮を行った。なお、アルミナ−YSZ二層多孔質体は、アルミナ質多孔質体の側から混合ガスが流入する向きに設置した。そして、水素ガス及び二酸化炭素ガスの透過ガス流束を測定した。
【0092】
図9に、透過ガス流束の測定結果のプロットを最小2乗法で直線近似したグラフを示す。混合ガス源300から供給する混合ガス中の水素ガス濃度を、20mol%(実施例7)、50mol%(実施例8)、80mol%(実施例9)の3段階に変化させた。参考例として、混合ガス源300から供給するガスを二酸化炭素ガス100mol%とした場合(参考例5)、及び水素ガス100mol%とした場合(参考例6)についても透過ガス流束を測定した。
【0093】
縦軸のスケールが
図9の上段のグラフと下段のグラフとで異なる。実施例8及び9では、上段のグラフの傾き、即ち水素ガスの透過係数(式(3)参照)が、下段のグラフの傾き、即ち二酸化炭素ガスの透過係数(式(3)参照)よりも大きい。
【0094】
臨界圧力勾配差は、実施例7で4.7MPa/mであり、実施例8で2.6MPa/mであり、実施例9で2.4MPa/mであった。
【0095】
図6には、実施例7〜9についての分離係数F(H
2)の測定結果をプロットしたグラフも示す。実施例1〜6の場合と同様、圧力勾配ΔP/Lが50MPa/m未満の場合に、圧力勾配ΔP/Lが小さい程、分離係数F(H
2)が大きくなるという結果がみられる。
【0096】
また、圧力勾配ΔP/Lが50MPa/m以上の領域においては、分離係数F(H
2)は、理論が示すように圧力勾配ΔP/Lに殆ど依存しなくなることが認められた。
【0097】
従って、室温の温度環境下で、圧力勾配ΔP/Lを50MPa/m未満に設定することで、多孔質体100がもつ水素ガスの濃縮能力をいかんなく発揮させることができ、多孔質体100に理論値以上の分離係数を発現させうる。特に、圧力勾配ΔP/Lが30MPa/m以下の場合に、分離係数F(H
2)の圧力勾配ΔP/Lに対する依存性が大きくなり、分離係数F(H
2)は1に近づく。
【0098】
また、実施例1〜9のうち殆ど全ての実施例で、圧力勾配ΔP/Lが10MPa/m以下で分離係数F(H
2)はほぼ1となった。分離係数F(H
2)が1のとき、多孔質体からは水素ガスのみが流出する。
【0099】
〔実施例10〜18〕
次に、実施例10〜18について述べる。
【0100】
比表面積:13.4m
2/g、メディアン径:800nm、等電点:pH2.5の炭化珪素(SiC)質粉体(屋久島電工社製)を準備した。炭化珪素質粉体は、SiO
2:0.66mass%、C:0.37mass%、Al:0.004mass%、Fe:0.013mass%、及びSiC:残部よりなる。
【0101】
かかる炭化珪素質粉体100mass%に対して、焼結助剤として、実施例1〜3で用いたα−アルミナ粉体を外かけ2mass%、及びY
2O
3純度99.9mass%超、比表面積15.0m
2/g、メディアン径290nm、等電点pH7.5のY
2O
3粉体(信越化学工業社製)を外かけ2mass%添加し、混合して混合粉体を得た。
【0102】
得られた混合粉体に分散剤液を添加して混合し、固体量30vol%、pH5のサスペンションを得た。かかるサスペンションを24時間攪拌した後、石膏板上で固化させ、固化物を得た。さらに、得られた固化物をAr雰囲気中、39MPaで2時間加圧焼結させ、炭化珪素質多孔質体を得た。
【0103】
固化物の焼結温度を1400℃、1500℃、1700℃とした3種類の炭化珪素質多孔質体を得た。
【0104】
図10A〜Cに、得られた炭化珪素質多孔体のSEM写真を示す。
図10Aは1400℃で焼結したものを示し、
図10Bは1500℃で焼結したものを示し、
図10Cは1700℃で焼結したものを示す。図示するように、炭化珪素質粉体の粒子同士が固着することで形成された多孔質状の組織が確認された。
【0105】
図11は、得られた炭化珪素質多孔体の累積細孔径分布を示す。多孔質体の細孔径分布は、SEM画像を用いてインターセプト法により測定した。炭化珪素質多孔質体のメディアン径(D50)は、1400℃で焼結したものが48nm、1500℃で焼結したものが112nm、1700℃で焼結したものが152nmであった。また、1700℃で焼結したものの最大細孔径は約3000nmであった。
【0106】
また、1400℃、1500℃、及び1700℃のいずれの温度で焼結した炭化珪素質多孔質体も、累積細孔径分布における個数積算頻度が80%となる点の細孔直径(D80)は、800nm以下であった。
【0107】
また、炭化珪素質多孔質体の密度等をアルキメデス法で測定したところ、焼結温度が1400℃の炭化珪素質多孔質体の相対密度は61.1%、開気孔率は36.1%、閉気孔率は2.8%であった。焼結温度が1500℃の炭化珪素質多孔質体の相対密度は69.3%、開気孔率は28.1%、閉気孔率は2.6%であった。焼結温度が1700℃の炭化珪素質多孔質体の相対密度は75.4%、開気孔率は17.9%、閉気孔率は6.7%であった。
【0108】
次に、既述の実施例1〜9と同様、
図4の水素ガス製造装置の多孔質体100として上記3種類の炭化珪素質多孔質体を用い、室温としての25℃の温度環境下で、水素ガスの濃縮を行った。混合ガス源300から供給する混合ガス中の水素ガス濃度を、20mol%、50mol%、80mol%の3段階に変化させた。
【0109】
表1に、実施例の番号と、実験条件との関係を示す。
【表1】
【0110】
臨界圧力勾配差は、実施例10では0.3MPa/m、実施例11では1.1MPa/m、実施例12では1.0MPa/m、実施例13では0.3MPa/m、実施例14では2.1MPa/m、実施例15では2.3MPa/m、実施例16では0.7MPa/m、実施例17では0.6MPa/m、実施例18では1.6MPa/mであった。
【0111】
図12に、分離係数F(H
2)の測定結果をプロットしたグラフを示す。実施例10〜18のいずれにおいても、室温の温度環境下で、圧力勾配ΔP/Lが25MPa/m未満の領域において、圧力勾配ΔP/Lが小さい程、分離係数F(H
2)が大きくなるという結果がみられた。特に、圧力勾配ΔP/Lが10MPa/m以下の場合に、分離係数F(H
2)の圧力勾配ΔP/Lに対する依存性が大きくなり、分離係数F(H
2)は1に近づく。
【0112】
以上、室温の温度環境下で、水素ガスを濃縮した実施例について説明した。次に、200℃以上の温度環境下で、水素ガスを濃縮した実施例19〜32について説明する。
【0113】
図13に、水素ガスの濃縮に用いた水素ガス製造装置の部分断面概略図を示す。この水素ガス製造装置は、多孔質体400と、多孔質体400が内部に配置されるガス流路500と、ガス流路500の流入口500aから混合ガスを供給する混合ガス源600と、ガス流路500の流出口500bから不活性ガスとしてのアルゴンガスを供給する不活性ガス源700とを備える。
【0114】
多孔質体400は、混合ガスが流入する流入領域401を有する表面と、ガスが流出する流出領域402を有する裏面と、表面と裏面とをつなぐ側面403とを有する。表面と裏面は、多孔質体400の厚さ方向に対面する。
【0115】
ガス流路500は、平面視で円形をなす多孔質体400の周縁部分を厚さ方向に挟み込み、かつ多孔質体400の側面403を気密に取り囲んだ状態で、多孔質体400を保持する第1保持部材510と、第1保持部材510を多孔質体400の厚さ方向に平行な方向に気密に挟み込む第2保持部材520とで構成されている。
【0116】
第1保持部材510は、金属製の円環状シール材531及び532を介して、多孔質体400を挟み込んでいる。第1保持部材510は、互いに螺合する雄部材511と雌部材512とで構成されている。雄部材511と雌部材512の一方を、他方に対してねじ回すことにより多孔質体400の厚さ方向に進退させることができる。これにより、多孔質体400を挟み込む圧力を調整できる。
【0117】
第2保持部材520は、金属製の円環状シール材541及び542を介して、第1保持部材510を挟み込んでいる。第2保持部材520も、互いに螺合する雄部材521と雌部材522とで構成されており、雄部材521と雌部材522の一方を、他方に対してねじ回すことにより多孔質体400の厚さ方向に進退させることができる。これにより、第1保持部材510を挟み込む圧力を調整できる。
【0118】
雌部材522は、ガス流路500の流入口500aを構成するものであり、内管522aと外管522bとからなる二重管構造を有する。混合ガス源600は、内管522aから混合ガスを流入させる。また、内管522aと外管522bとの間には、バルブ522cが介在している。
【0119】
雄部材521は、ガス流路500の流出口500bを構成するものであり、雌部材522と同様、内管521aと外管521bとからなる二重管構造を有する。不活性ガス源700は、内管521aからアルゴンガスを流入させる。多孔質体400を通過したガスは、アルゴンガスと共に、内管521aと外管521bとの間から流出する。
【0120】
以上説明した水素ガス製造装置は、加熱手段としての電気炉800の内部に設置されている。電気炉800内の環境温度を、200℃、400℃、又は500℃に安定させた温度環境下で、水素ガスの濃縮を行った。ここで、電気炉800内の環境温度をT℃に安定させるとは、具体的には、多孔質体400と、ガス流路500とがT℃に安定している条件を意味する。混合ガスもガス流路500を流れる過程でガス流路500によって加熱され、T℃に近づけられる。
【0121】
多孔質体400の流出領域402におけるガスの流出圧力P
2を略大気圧(0.1MPa)に保った状態で、多孔質体400の流入領域401への流入圧力P
1を種々変化させることで、圧力勾配ΔP/Lを種々変化させた。なお、混合ガスが透過する方向の多孔質体400の長さ(厚さ)Lは、3mmである。
【0122】
そして、実施例1〜3の場合と同様、水素ガスと二酸化炭素ガスのそれぞれについて、上式(3)で定義される透過ガス流速を石けん膜流量計で測定した。測定中は、不活性ガス源700からアルゴンガスを圧力0.1MPa(大気圧)、流量約5ml/minで供給した。これにより、流束の小さな透過ガスの採取をも可能とした。即ち、流束の小さな透過ガスであっても、ガス流路500内に滞留させることなく、アルゴンガスと共に内管521aと外管521bとの間から流出させ、透過ガス流速の測定に供すことができる。
【0123】
混合ガス源600から供給する混合ガス中の水素ガス濃度は、20mol%、50mol%、80mol%の3段階に変化させた。なお、水素ガス濃度を変化させる過渡期間はバルブ522cを開くことで、流入口500aからの混合ガスの流出を可能とした。これにより、透過ガス流束の測定結果に、この過渡期間の影響が現れにくくした。混合ガス中の水素ガス濃度が安定した段階で、バルブ522cを閉じ、多孔質体400への混合ガスの流入圧力P
1を高めた。
【0124】
なお、多孔質体400には、既述の実施例1〜3で用いたものと同様、α−アルミナ粉体30vol%と残部の分散剤溶液とよりなるサスペンションをろ過して得た成形体を焼結させたものを用いた。但し、焼結温度を900℃としたものと、1100℃としたものの2種類の多孔質体400を用いて水素ガスの濃縮を行った。
【0125】
焼結温度によって多孔質体400の密度が異なる。900℃で焼結させたアルミナ質多孔質体の相対密度、開気孔率、閉気孔率は、それぞれ59.3%、40.4%、0.3%であった。1100℃で焼結させたアルミナ質多孔質体の相対密度、開気孔率、閉気孔率は、それぞれ70.2%、29.3%、0.5%であった。
【0126】
表2に、実施例の番号と、実験条件との関係を示す。
【表2】
【0127】
図14に、実施例19〜26に係る透過ガス流束の測定結果をプロットしたグラフを示す。上段のグラフでJ(H
2)とは、上式(3)から求まる水素ガスの透過ガス流束を表し、下段のグラフでJ(CO
2)とは、上式(3)から求まる二酸化炭素ガスの透過ガス流束を表す。各グラフに共通の横軸は、圧力勾配ΔP/Lを示す。
【0128】
200℃〜500℃の温度環境下では、水素ガスと二酸化炭素ガスのいずれの透過ガス流速も、横軸に対する切片である臨界圧力勾配を示さなかった。また、水素ガスと二酸化炭素ガスのいずれにおいても、透過ガス流束は、環境温度、即ち電気炉内の温度の上昇に伴い減少した。
【0129】
上段のJ(H
2)のグラフが示すように、実施例21では、水素ガスの透過流束は、圧力勾配の増加に伴い増加した後、やや減少した。また、下段のJ(CO
2)のグラフが示すように、実施例20及び21では、二酸化炭素ガスの透過流束は、圧力勾配の増加に伴い減少し、圧力勾配28Mpa/m以上で、1mmol/s/m
2以下になった。
【0130】
図15に、実施例19〜26について、上式(4)で定義される分離係数F(H
2)の測定結果をプロットしたグラフを示す。上段のグラフは、混合ガス源600が供給する混合ガス中の水素ガス濃度を80mol%とした場合(実施例19〜21)の結果を示し、中段のグラフは、水素ガス濃度を50mol%とした場合(実施例22〜24)の結果を示し、下段のグラフは、水素ガス濃度を20mol%とした場合(実施例25及び26)の結果を示す。各グラフに共通の横軸は、圧力勾配ΔP/Lを示す。
【0131】
各グラフが示すように、環境温度200℃では、分離係数F(H
2)の、圧力勾配に対する依存性は小さい。環境温度400℃又は500℃では、分離係数F(H
2)が圧力勾配の上昇に伴い増加し、環境温度が室温の場合(
図6及び
図12参照)と反対の傾向を示した。上段のグラフにおいて、混合ガス中の水素ガス濃度を80mol%とした実施例21では、分離係数F(H
2)は、圧力勾配29MPa/mで0.995に達した。
【0132】
図16に、実施例27〜32に係る透過ガス流束の測定結果をプロットしたグラフを示す。
図14に示した結果と同様、水素ガスと二酸化炭素ガスのいずれの透過ガス流速も、横軸に対する切片である臨界圧力勾配を示さなかった。また、水素ガスと二酸化炭素ガスのいずれについても、環境温度200℃と400℃とで、透過ガス流束の変動はほぼ同じ傾向を示した。即ち、水素ガスと二酸化炭素ガスのいずれについても、透過ガス流束は圧力勾配が大きくなると増加した。
【0133】
図17に、実施例27〜32についての水素ガスの分離係数F(H
2)の測定結果をプロットしたグラフを示す。上段のグラフは、混合ガス源600が供給する混合ガス中の水素ガス濃度を80mol%とした場合(実施例27及び28)の結果を示し、中断のグラフは、水素ガス濃度を50mol%とした場合(実施例29及び30)の結果を示し、下段のグラフは、水素ガス濃度を20mol%とした場合(実施例31及び32)の結果を示す。各グラフに共通の横軸は、圧力勾配ΔP/Lを示す。
【0134】
実施例27〜32での分離係数F(H
2)の測定は、
図15に示した実施例19〜26の場合よりも、圧力勾配が低い領域で行った。環境温度200℃と400℃とで、分離係数F(H
2)変動はほぼ同じ傾向を示した。即ち、分離係数F(H
2)は、圧力勾配の減少に伴い増加した。
【0135】
図18は、
図15と
図17に示す分離係数F(H
2)を同一のグラフ上にプロットし、プロットの変動を曲線近似したものである。上段のグラフは、混合ガス源600が供給する混合ガス中の水素ガス濃度を80mol%とした場合の結果を示し、中断のグラフは、水素ガス濃度を50mol%とした場合の結果を示し、下段のグラフは、水素ガス濃度を20mol%とした場合の結果を示す。各グラフに共通の横軸は、圧力勾配ΔP/Lを示す。
【0136】
用いた多孔質体の気孔率によらず、即ち多孔質体を製造する際の成形体の焼成温度が900℃であるか1100℃であるかによらず、分離係数F(H
2)の変動に同様の傾向がみられる。
【0137】
具体的には、圧力勾配が、0MPa/mを超え、7.5MPa/m以下の領域においては、圧力勾配の減少に伴って分離係数F(H
2)が増大する傾向がみられる。即ち、室温の温度環境下の場合(
図6及び
図12参照)と同様に、圧力勾配が低い領域程、良好な分離係数F(H
2)が得られる。このことから、圧力勾配を低く制限した場合に、多孔質体がもつ水素ガスの濃縮機能を充分に発揮させることができるという効果は、環境温度によらないことが分かった。
【0138】
一方、圧力勾配が10MPa/m以上、より具体的には、12.5MPa/m以上の領域においては、圧力勾配の増大に伴って分離係数F(H
2)が増大する傾向がみられる。即ち、この領域では、圧力勾配が大きい程、良好な分離係数F(H
2)が得られる。この傾向は、室温での実験結果(
図6及び
図12参照)にみられない、200℃以上の高温の温度環境下に特有の現象である。高温下では、高い流入圧力で多孔質体に混合ガス流入させても、多孔質体がもつ水素ガスの濃縮機能を充分に発揮させることができ、良好な分離係数F(H
2)が得られる為、水素ガスの濃縮を能率的に行える。従って、工業的利用の観点からは、高温下で水素ガスの濃縮を行うことが特に望ましいといえる。
【0139】
また、圧力勾配の増大に伴って分離係数F(H
2)が増加する傾向は、混合ガス中の水素ガス濃度が高い程、顕著である。従って、水素ガスの濃縮を能率的に行う為には、混合ガス中の水素ガス濃度は50mol%以上であることが好ましく、80mol%以上であることがより好ましい。
【0140】
なお、以上の実施例19〜32では、加熱手段としての電気炉800によって、ガス流路500と多孔質体400を加熱することで、200℃以上の温度環境下での水素ガスの濃縮を実現したが、ガス流路500と多孔質体400は直接的には加熱せずに、加熱手段によって混合ガスを加熱することで、200℃以上の温度環境下での水素ガスの濃縮を実現することもできる。即ち、混合ガスによってガス流路500と多孔質体400を間接的に加熱することもできる。また、加熱手段によって、混合ガス、ガス流路500、及び多孔質体400を直接的に加熱してもよい。
【0141】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明はこれに限られない。例えば、以下の変形が可能である。
【0142】
(1)多孔質体の素材は特に限定されない。多孔質体は、無機材料で形成してもよいし、有機材料で形成してもよい。但し、耐熱性等の観点から、多孔質体は、無機化合物、金属、半導体等の無機材料で形成することが好ましく、特に、無機材料を焼き固めた焼結体であるセラミックスで形成することがより好ましい。セラミックスを形成する無機材料としては、上記実施例で用いたアルミナ質材料、イットリア安定化ジルコニア質材料、炭化珪素質材料の他、例えば、シリカ質原料、ホウ素質原料、酸化マグネシウム質原料、酸化カルシウム質原料、ジルコニア質材料、窒化珪素質原料、ステアタイト質原料、窒化ホウ素質原料等から選ばれる1種又は2種以上の組み合わせが挙げられる。例えば一具体例として、セラミックスとして分相ガラスを用いることもできる。
【0143】
(2)多孔質体は、水素ガス及び二酸化炭素ガスが透過可能であると共に、水素ガスを二酸化炭素ガスよりも透過させやすい性質をもつものであれば、その細孔径分布は特に限定されない。
【0144】
ここで、水素ガス及び二酸化炭素ガスが透過可能であるとは、多孔質体がいわゆる分子ふるい機能のみによって水素ガスの濃縮を行う訳ではないことを意味する。分子ふるい機能とは、水素分子の分子径よりも大きく、二酸化炭素分子の分子径よりも小さい細孔、例えば直径0.35nm程度の細孔によって水素ガスのみを通過させ、二酸化炭素ガスの通過を阻止する機能をいう。上記各実施例で用いた多孔質体は、水素ガス及び二酸化炭素ガスの双方を透過させうるにも関わらず、水素分子と二酸化炭素分子との分子径の違いや平均速度の違いといった分子に固有の特性のおかげで、水素ガスを二酸化炭素ガスよりも透過させやすい性質をもつ。
【0145】
なお、多孔質体の細孔径が、例えば、10mm程度と大きい場合、多孔質体は、水素ガスを二酸化炭素ガスよりも透過させやすい性質をもつことができない。例えば、
図11に示した実施例によれば、D80で800nm以下の場合、また、D50で400nm以下の場合に、多孔質体が、水素ガスを二酸化炭素ガスよりも透過させやすい性質をもち得ることが確認された。
【0146】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。即ち、本発明の範囲は、実施形態ではなく、請求の範囲によって示される。そして、請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
【0147】
本出願は、2015年7月28日に出願された、日本国特許出願2015−148955号に基づく。本明細書中に日本国特許出願2015−148955号の明細書、特許請求の範囲、図面全体を参照として取り込むものとする。