特許第6671593号(P6671593)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6671593
(24)【登録日】2020年3月6日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】タデスミレ花様香料組成物
(51)【国際特許分類】
   C11B 9/00 20060101AFI20200316BHJP
   A61Q 13/00 20060101ALI20200316BHJP
   A61Q 1/00 20060101ALI20200316BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20200316BHJP
   A61K 8/35 20060101ALI20200316BHJP
   A61K 8/31 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
   C11B9/00 D
   C11B9/00 B
   C11B9/00 N
   C11B9/00 C
   C11B9/00 K
   C11B9/00 J
   A61Q13/00 101
   A61Q1/00
   A61K8/34
   A61K8/35
   A61K8/31
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-85237(P2016-85237)
(22)【出願日】2016年4月21日
(65)【公開番号】特開2017-193648(P2017-193648A)
(43)【公開日】2017年10月26日
【審査請求日】2019年4月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(72)【発明者】
【氏名】武藤 仁志
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅光
【審査官】 井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−104855(JP,A)
【文献】 特開2010−043050(JP,A)
【文献】 特開2000−159666(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0091404(US,A1)
【文献】 武藤仁志 他,タデスミレの香気研究,におい・かおり環境学会講演要旨集,(2016.08.01),Vol.29th,Page.80-82
【文献】 辻弘之 他,ニオイスミレの花の香り,季刊香料,(1997),No.193,Page.91-99
【文献】 辻弘之 他,ニオイスミレの花の香気成分,香料・テルペンおよび精油化学に関する討論会講演要旨集 ,(1996),Vol.40th,Page.13-15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 9/00− 9/02
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00−90/00
A61L 9/00− 9/22
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
FSTA(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)リナロール、(B)β−ヨノン、(C)α−ピネン、(D)リモネン、(E)メントール及び(F)バニリンを含有し、(A)リナロール100重量部に対し、(B)β−ヨノンを10〜30重量部、(C)α−ピネンを2〜10重量部、(D)リモネンを0.2〜3重量部、(E)メントールを0.2〜3重量部、(F)バニリンを0.01〜0.1重量部の比率で含有することを特徴とするタデスミレ花様香料組成物
【請求項2】
(A)リナロール100重量部に対し、(G)2,6−ノナジエナールを0.001〜0.005重量部の比率で含有することを特徴とする請求項1記載の香料組成物
【請求項3】
請求項1又は2記載の香料組成物を含有する化粧料
【請求項4】
請求項1又は2記載の香料組成物を含有する室内・屋外用芳香料
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タデスミレの花の香りを再現した香料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
「タデスミレ(Viola thibaudieri)」は、スミレ科の多年生草本で、草丈20〜40cm、タデ類の葉に似た葉をつけることからその名がある。本植物は、世界で長野県の一部地域にのみ生育する希少植物であるところから、環境省のレッドリスト(2007年)で、絶滅危惧1B類にリストされている。また長野県希少動植物保護条例で特別指定動植物にも指定されており、長野県内の環境保護団体が自生地の監視など積極的な保護活動を行っている。(非特許文献1、2)
【0003】
2008〜2012年にかけて、長野県環境保全研究所、中部電力株式会社により保護対策として調査がおこなわれ、増殖技術の開発に成功した結果、2015年の時点で、自生地以外に、国立科学博物館、軽井沢町立植物園、長野県環境保全研究所でも栽培・管理されている。(非特許文献3、4、特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−192543
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】スミレハンドブック 山田隆彦著 文一総合出版 ISBN:978−4−8299−1077−1
【非特許文献2】日本のスミレ いがりまさし著 山と渓谷社 ISBN:4−635−07006−9
【非特許文献3】尾関他「絶滅危惧種タデスミレの実生の発生サイトと定着条件」日本生態学会第55回全国大会講演要旨集
【非特許文献4】中部電力株式会社 技術開発ニュース No.148/2013−7
【非特許文献5】辻他 「ニオイスミレの花の香り」 香料 No.193(1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本種は5月下旬から6月上旬にかけて直径1.5cmの白い花をつける。非特許文献2には「ほかのスミレでは感じられないさわやかな香りがある」との記述がある。
【0007】
一般的に香料原料として用いられる「ニオイスミレ(Viola odorata)」の花の香気成分の研究に関しては、非特許文献5があげられるが、タデスミレの花の香気に関しては、香気成分などの研究に関して検討されたものは見つけることができなかった。
【0008】
本願発明者らは、長野県環境保全研究所にて栽培・管理されていたタデスミレの花の香気を実際に調べてみると、一般的にもつスミレの香り(グリーン調)のイメージと異なり、フレッシュなホワイトフローラル調で好感的な香りであることを見出した。
【0009】
本願発明者らは、タデスミレの花の香気をヘッドスペース法を用いて収集し、ガスクロマトグラフ・マススペクトロメトリー法・ガスクロマトグラフ・オルファクトメトリー法を用いて分析し、リナロールが主成分であることを見出した。さらに数十種類の香気成分を見出し、その香気の再現を試みた。
【0010】
本願発明の課題は、タデスミレの花本来の香気を再現し、かつナチュラル感、嗜好性の高い香料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討した結果、リナロール、β−ヨノン、α−ピネン、リモネン、メントール、バニリンを、好ましくはさらに2,6−ノナジエナールを特定重量比で混合することにより、タデスミレ花のフレッシュなホワイトフローラル調で好感的な香りを再現した香料組成物が得られることを見出した。
【0012】
すなわち本発明は、(A)リナロール、(B)β−ヨノン、(C)α−ピネン、(D)リモネン、(E)メントール、(F)バニリンを含有し、(A)リナロール100重量部に対し、(B)β−ヨノンを10〜30重量部、(C)α−ピネンを2〜10重量部、(D)リモネンを0.2〜3重量部、(E)メントールを0.2〜3重量部、(F)バニリンを0.01〜0.1重量部の比率で含有することを特徴とするタデスミレ花様香料組成物である。
【0013】
好ましくは、(A)〜(F)を上記重量部の比率で含有し、さらに(A)リナロール100重量部に対し、(G)2,6−ノナジエナールを0.001〜0.005重量部の比率で含有することを特徴とするタデスミレ花様香料組成物である。
【0014】
本願発明は上記香料組成物を含有する化粧料、室内・屋外用芳香料を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本願発明の香料組成物は、タデスミレ花のフレッシュなホワイトフローラル調で好感的な香りを再現した香料組成物であり、フレグランスやスキンケアなどの化粧料用香料、室内・屋外用芳香料用香料として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
タデスミレは、世界で長野県の一部地域にのみ生育する希少植物で、その花は一般的にもつスミレの花の香りとイメージが異なり、フレッシュなホワイトフローラル調で好感的な香りであることを見出している。
【0017】
本願発明の香料組成物は(A)リナロール、(B)β−ヨノン、(C)α−ピネン、(D)リモネン、(E)メントール、(F)バニリンを含有し、好ましくはさらに(G)2,6−ノナジエナールを含有する。
【0018】
本願発明で用いられる(A)リナロール、(B)β−ヨノン、(C)α−ピネン、(D)リモネン、(E)メントール、(F)バニリン、(G)2,6−ノナジエナールは全て公知の成分である。
【0019】
本願発明の香料組成物は、タデスミレ花のフレッシュなホワイトフローラル調で好感的な香りを再現するため、(A)リナロール100重量部に対して、(B)β−ヨノンを10〜30重量部、(C)α−ピネンを2〜10重量部、(D)リモネンを0.2〜3重量部、(E)メントールを0.2〜3重量部、(F)バニリンを0.01〜0.1重量部の比率で含有する。好ましくはさらに(A)リナロール100重量部に対し、(G)2,6−ノナジエナールを0.001〜0.005重量部の比率で含有する。
【0020】
本願発明の香料組成物は、タデスミレの花の香気を阻害しない範囲で、一般的に溶剤として用いられるエタノールなどのアルコール類、ジプロピレングリコールなどの多価アルコール類、トリエチルシトレート、ジイソブチルアジペートなどのエステル類を含有することができる。
【0021】
また必要に応じて、一般的に香料調製物として用いられる可溶化剤、安定化剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、着色剤などを含有することができる
【0022】
また同様にタデスミレの花の香気を阻害しない範囲で、一般的に香料として用いられる炭化水素類、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、エステル類成分を含有することができる。
【0023】
本願発明の香料組成物は、香水、オーデトワレ、オーデコロン、化粧水、乳液、クリーム、ファンデーション、ソープ、ボディシャンプー、シャンプー、リンス、トリートメント、整髪料などの化粧品に用いることができる。
【0024】
本願発明の香料組成物は、液状、ミスト状、ゲル状、固形などの室内、屋外用芳香料に用いることができる。
【0025】
本願発明の香料組成物は、他のフローラル調、シトラス調、グリーン調、オリエンタル調、シプレー調の香料組成物と共に香水、オーデトワレ、オーデコロン、化粧水、乳液、クリーム、ファンデーション、ソープ、ボディシャンプー、シャンプー、リンス、トリートメント、整髪料などの化粧品に、液状、ミスト状、ゲル状、固形などの室内、屋外用芳香料に用いることができる。
【0026】
前記化粧料、芳香料に対する、本願香料組成物の添加量は、特に限定されるものではないが、通常の香料添加量として0.0001〜30重量%と同程度でよい。
【0027】
次に、実施例をあげて、本願発明をより詳細に説明する。本願発明はこれにより制限されるものではない。尚、表中の数値は、含有量(重量%)を示す。
【実施例】
【0028】
実施例1〜11及び比較例1〜10:香料組成物
表1、表2に示す処方で(A)〜(F)および調整溶媒としてトリエチルシトレートを加え香料組成物を調製し、以下に示す評価方法及び判定基準により評価した。これらの結果を併せて表1、表2に示した。
【0029】
(実験1;香りの類似性評価)
タデスミレ花の香気を確認した専門パネル2名により、下記表1、表2で示す実施例及び比較例の香料組成物に対して「香りの類似度」を評価し、評点を合計して、以下に示す判定基準に従って判定した。
【0030】
<評価基準>
〔香りの類似度〕 〔評点〕
よく似ている :5
似ている :4
やや似ている :3
あまり似ていない :2
似ていない :1
<判定基準>
〔評点の合計点〕 〔判定〕
7〜10 :○
5〜6 :△
2〜4 :×
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
実施例1〜11は、香りの類似性高く良好であった。
【0034】
(実験2;香料組成物の香調評価)
香料専門パネル3名および一般パネル3名により、下記表3で示す実施例12〜16の香料組成物に対して実施例1の香料組成物と比較し、ナチュラル感を感じるか評価し、評点を合計して、以下に示す判定基準に従って判定した。
【0035】
<評価基準>
〔香りの評価(実施例1と比較してナチュラル感を感じるか)〕
〔評点〕
ナチュラル感を感じる :5
ややナチュラル感を感じる :4
どちらでもない :3
ややナチュラル感を感じない :2
ナチュラル感を感じない :1
<判定基準>
〔評点の合計点〕 〔判定〕
24〜30 :◎
18〜23 :○
12〜17 :△
6〜11 :×
【0036】
【表3】
【0037】
実施例12〜16の香料組成物の香調は良好であったが、実施例13〜15に関しては、より評価が高い結果であった。
【0038】
実施例17 タデスミレ花様香気を有するローション
処方 含有量(重量%)
1.1,3−ブチレングリコール 8.0
2.グリセリン 2.0
3.キサンタンガム 0.02
4.クエン酸 0.01
5.クエン酸ナトリウム 0.1
6.エタノール 5.0
7.パントテン酸エチルアルコール 0.1
8.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
9.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(40E.O.) 0.1
10.実施例14の香料組成物 0.03
11.精製水 残余
[製造方法]成分1〜5および11と、成分6〜10をそれぞれ均一に溶解し、両者を混合し濾過して製品とする。
【0039】
実施例18 タデスミレ花様香気を有するミルクローション
処方 含有量(重量%)
1.スクワラン 5.0
2.オリーブ油 5.0
3.ホホバ油 5.0
4.セタノール 1.5
5.モノステアリン酸グリセリン 2.0
6.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 3.0
7.ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(20E.O.) 2.0
8.実施例1の香料組成物 0.1
9.プロピレングリコール 1.0
10.グリセリン 2.0
11.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
12.精製水 残余
[製造方法]成分1〜7を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分9〜12を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら冷却し、45℃で成分8を加え、さらに30℃まで冷却して製品とする。
【0040】
実施例19 フローラル調フレグランス(オーデトワレ)
処方 含有量(重量%)
1.アルコール 85.0
2.実施例14の香料組成物 5.0
3.調合香料(フローラルブーケ調) 5.0
4.精製水 残余
[製造方法]成分1〜3を均一に混合した後、成分4を加え、均一に混合した後、濾過して製品とする。
【0041】
実施例20 タデスミレ花様香気を有するルームフレグランス(ミストスプレータイプ)
処方 含有量(重量%)
1.アルコール 20.0
2.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(40E.O.) 0.6
3.実施例13の香料組成物 0.2
4.精製水 残余
[製造方法]成分1〜3を均一に混合・溶解した後、成分4を加え、均一に混合した後、濾過して製品とする。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本願発明の香料組成物は、香水、オーデトワレ、オーデコロン、化粧水、乳液、クリーム、ファンデーション、ソープ、ボディシャンプー、シャンプー、リンス、トリートメント、整髪料などの化粧料や液状、ミスト状、ゲル状、固形などの室内、屋外用芳香料に用いて、タデスミレ花のフレッシュなホワイトフローラル調で好感的な香りを付与することができる。