【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、難治性疾患実用化研究事業、「小児期発症脊髄性筋萎縮症に対するバルプロ酸ナトリウム多施設共同医師主導治験の実施研究」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
ARAKAWA, Masayuki,A novel evaluation method of survival motor neuron protein as a biomarker of spinal muscular atrophy by imaging flow cytometry,Biochem Biophys Res Commun,2014年10月24日,Vol.453 No.3,Page.368-374
【文献】
荒川玲子,イメージングフローサイトメトリー法を用いた新規SMNタンパク質解析法,日本人類遺伝学会大会プログラム・抄録集,2015年,Vol.60th,Page.295 P-178
【文献】
ARAKAWA Reiko,Development of SMN protein analysis in human blood cells as a spinal muscular atrophy biomarker,日本人類遺伝学会大会プログラム・抄録集,2016年 4月 6日,Vol.61st(Web),Page.ROMBUNNO.Wed(4)-P-92
【文献】
難病治療研究でサバイバルモーターニューロンの可視化&定量化にイメージングフローサイトメーターを使用, メルク ライフサイエンス リサーチ&バイオロジー,URL,http://www.merckmillipore.com/JP/ja/20160715_072009>
【文献】
RENUSCH, Samantha R,Spinal Muscular Atrophy Biomarker Measurements from Blood Samples in a Clinical Trial of Valproic Acid in Ambulatory Adults,J Neuromuscul Dis,2015年 6月 4日,Vol.2 No.2,Page.119-130
【文献】
CZECH, Christian,Biomarker for Spinal Muscular Atrophy: Expression of SMN in Peripheral Blood of SMA Patients and Healthy Controls,PLoS One,2015年,Vol.10 No.10,Page.e0139950
【文献】
PENA, E,Neuronal body size correlates with the number of nucleoli and Cajal bodies, and with the organization of the splicing machinery in rat trigeminal ganglion neurons,J Comp Neurol,2001年 2月 5日,Vol.430 No.2,Page.250-263
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
脊髄性筋萎縮症(SMA)は、脊髄前角細胞の病変によって引き起こされる筋萎縮症であり、体幹や四肢の筋力低下及び筋萎縮を特徴とする下位運動ニューロン徴候を示す。SMAは、発症年齢と重症度によってI型からIV型に分類され、生後6ヶ月までに発症するI型:重症型(ウェルドニッヒ・ホフマン病とも言う)、1歳6ヶ月までに発症するII型:中間型(デュボヴィッツ病とも言う)、及び1歳6ヶ月以降に発症するIII型:軽症型(クーゲルベルグ・ウェランダー病とも言う)が、小児期発症SMAである。一方、20歳以降に発症するIV型は、成人発症SMAである。
I型SMAは、SMAの約30%を占めており、6ヶ月以下で発症する。その症状は極めて深刻で、生涯座位保持不可能であり、人工呼吸を使わずに2歳以上生存できることは稀である。II型SMAは、生涯起立及び歩行は不可能であり、III型SMAは、自立歩行を獲得するものの、次第に転びやすい、歩けない又は立てないという症状が現れる。しかしながら、依然としてSMAの根本治療法は確立しておらず、SMAは国が指定する難病のうちの1つである。
【0003】
多くの小児期発症SMAの原因遺伝子は、5番染色体長腕5q13に存在するSMN1遺伝子である。多くの小児期発症SMAでは、SMN1遺伝子の欠失又は変異が認められ、小児期発症SMAは常染色体劣性遺伝性疾患として認識されている。SMN1遺伝子からは、SMNタンパク質が発現され、SMNタンパク質が運動ニューロンの形成等に関与していると考えられている。
また、SMN1遺伝子が存在する5番染色体の同領域には、SMN1遺伝子とコーディング領域の塩基が1つだけ異なるSMN2遺伝子が存在している。小児期発症SMA患者では、SMN1遺伝子が欠失又は変異し、SMN1遺伝子由来のSMNタンパク質が低下している一方で、SMN2遺伝子は正常に機能している。そのため、小児期発症SMA患者においても、SMN2遺伝子由来のSMNタンパク質は発現しており、このSMN2遺伝子由来のSMNタンパク質の発現量に応じて、症状の重症度が異なると考えられている。
しかしながら、SMN1遺伝子の転写産物は全長SMN1mRNAの1種類であるのに対し、SMN2遺伝子の転写産物は2種類存在し、SMN1遺伝子から転写される全長SMN1mRNAの量を100%とすると、全長SMN2mRNAがおよそ10%であり、エクソン7の欠失が認められる短縮型SMN2mRNAがおよそ90%である。短縮型SMN2mRNAは非機能的なタンパク質に翻訳され、全長SMN2mRNAのみが正常にSMNタンパク質に翻訳されるため、SMN1遺伝子が欠失又は変異している小児期発症SMA患者においては、SMNタンパク質の発現量が正常者に比べて低く、正常者の10%〜20%ほどしかない。そのため、SMN1遺伝子が欠失又は変異することにより、筋力低下及び筋萎縮が生じることとなる。
小児期発症SMA患者よりも数は少ないが、成人発症SMA患者においても、上記のようなSMN1遺伝子の欠失又は変異が認められる場合があり、やはりSMNタンパク質の発現量に応じて、症状の重症度が異なると考えられている。
【0004】
SMN1遺伝子が欠失しているSMA患者において、SMN2遺伝子は、SMN1遺伝子に置き換わって存在することがある。この場合、SMN2遺伝子は1つの染色体上に2コピー存在することとなり、SMN2遺伝子由来のSMNタンパク質の発現量もコピー数に応じて多くなる。SMA患者において、SMN2遺伝子由来のSMNタンパク質の発現量が増えれば増えるほど、症状は軽くなることがわかっている。
以上のように、SMNタンパク質の発現量は、SMAと密接に関連しており、SMNタンパク質は、SMA、特には小児期発症SMAの診断のためや、薬剤の効果を的確に判断するための有用なバイオマーカーとなる可能性があると考えられている。しかしながら、SMA患者においても、SMNタンパク質の発現自体は認められ、SMNタンパク質をSMAの有用なバイオマーカーとして利用するためには、正常者と患者とを比較した場合のSMNタンパク質発現レベルの差異を検出できるほどの鋭敏さが必要となる。
また、SMAは常染色体劣性遺伝性疾患であり、1対の常染色体のうちの一方においてのみSMN1遺伝子が欠失又は変異している場合には、何ら筋力低下及び筋萎縮の症状は現れず、保因者ということになる。保因者においては、患者よりもSMNタンパク質の発現量は高いものの、保因者と患者との間では、正常者と患者との間のSMNタンパク質の発現量の差ほど大きな差があるわけではないと考えられる。従って、SMNタンパク質をSMAの有用なバイオマーカーとして利用するためには、保因者と患者とを比較した場合のSMNタンパク質発現レベルの差異を検出できるほどの更なる鋭敏さが必要となる。
【0005】
実際に、末梢血単核球細胞を用いた、ELISA法によるSMNタンパク質の定量解析が試みられている(非特許文献1)。しかしながら、Kobayashiらは、小児期発症SMA患者と保因者との間において、ELISA法ではSMNタンパク質発現レベルに有意差が認められないという結果が得られたことを報告している。更に、Kobayashiらは、SMNタンパク質発現レベルは、SMAの診断において信頼性のある指標とはならないとさえ開示している。
また、ELISA法によるSMNタンパク質の定量解析においては、末梢血単核球細胞(PBMC)を用いることを必要とし、患者らから得られた血液サンプルを遠心分離するなどの手間がかかる上に、細胞の収率も低下する。そのため、PBMCを用いるELISA法によるSMNタンパク質の定量では、必要とされる採血量も増大する。
このような状況において、本発明者らはSMNタンパク質の発現を検出する方法を見出し、SMNタンパク質を小児期発症SMAの有用なバイオマーカーとして利用し得ることを報告した(特許文献1)。
しかしながら、特許文献1には、SMNタンパク質の細胞内での局在化や、SMNタンパク質の核内構造体については明らかにされていない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のSMNタンパク質の核内構造体の発現解析方法では、被験者から得た血液に由来するサンプルが用いられる。血液サンプルは、患者への侵襲が少なく、試料として最も適している。被検者は、例えば、小児期発症SMA患者、成人発症SMA患者、保因者、又はSMA患者でも保因者でもない者(正常者、健常者)であり、特に限定されるものではない。小児期発症SMA患者には、I型SMA患者、II型SMA患者及びIII型SMA患者が含まれる。
本発明の方法に用いられる、被験者から得た血液に由来するサンプルは、血液由来の有核細胞を含むものであればよい。本発明の方法に用いられるサンプルは、被験者から得た血液を採血管に採取したものをそのまま使用してもよいし、血液由来の有核細胞を含むように処理したものである限り、被験者から得た血液をどのように処理したものであってもよい。例えば、本発明の方法に用いられる血液由来の有核細胞を含むサンプルとして、被験者から得た血液を遠心分離し、末梢血単核球細胞(PBMC)として分離したものや、血液中の赤血球を溶血させ、次いで遠心分離により沈殿させて得た有核細胞を含むものを使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0015】
本発明の方法において、被験者から得た血液を処理して血液由来の有核細胞を含むサンプルを得るために、本発明の技術分野において従来知られている技術を用いることができる。
本発明の方法において、被験者から得た血液を処理して血液由来の有核細胞を含むサンプルを得る方法としては、細胞の収率が良く、できるだけ細胞を傷つけない方法が好ましい。例えば、血液中の赤血球を溶血させ、次いで遠心分離により沈殿させた有核細胞を分離する方法(溶血法)では、被験者からの採血量が少なくてすみ、かつ血液細胞に対して与えるストレスも小さい。そのため、本発明の方法において、溶血法を用いて、被験者から得た血液を処理して血液由来の有核細胞を含むサンプルを得ることが好ましい。特に、SMAの治療薬又は治療候補薬の試験においてSMNタンパク質をバイオマーカーとして利用する際に、溶血法を用いれば、小児の患者等からの採血量が少なくてすむため有利である。
血液由来の有核細胞を含むサンプル中、有核細胞の1種以上の表面抗原マーカーを、1種以上の標識抗体を用いて標識する工程の前に、被験者から得た血液を溶血法を用いて処理してもよいし、当該標識工程の後に、溶血法を用いてもよい。
また、本発明の方法において、血液由来の有核細胞を含むサンプルとして、上記の通り従来知られている技術により血液由来の有核細胞を分離した後、細胞をリンパ芽球化したものを含むサンプルを使用してもよい。リンパ芽球化の処理についても、本発明の技術分野において従来知られている技術を用いることができる。
【0016】
本発明の方法の一実施態様では、血液を遠心分離して血液由来の有核細胞を含むサンプルを準備する工程を含む。血液の遠心分離は、例えば、約1400〜約3200rpm(190〜1000 x g)で、約5〜約20分間行うことができる。
血液を遠心分離して血液由来の有核細胞を含むサンプルを準備する工程が、溶血法による有核細胞の分離を含む場合、溶血剤による溶血後の遠心分離は約1400〜約2300rpmで、約5〜約8分間行うことが好ましい。有核細胞の1種以上の表面抗原マーカーを、1種以上の標識抗体を用いて標識する工程の後に溶血法を用いる場合も同様に、溶血剤による溶血後の遠心分離は約1400〜約2300rpm(190〜510 x g)で、約5〜約8分間行うことが好ましい。
血液を遠心分離して血液由来の有核細胞を含むサンプルを準備する工程が、PBMCの分離を含む場合、ヘパリン管に採血してフィコール液と重層した後、若しくは血液をBDバキュテイナ(登録商標)CPT
TM単核球分離用採血管に入れた後、遠心分離は約2000〜約3200rpm(390〜1000 x g)で、約15〜約20分間行うことが好ましい。
血液を遠心分離して血液由来の有核細胞を含むサンプルを準備する工程は、本発明の技術分野において従来知られている技術を用いて行うことができる。
本発明の方法において用いられる、被験者由来の血液の量は、SMNタンパク質の核内構造体の発現解析が可能な量であればよく、特に限定されないが、例えば、約0.5mL以上、好ましくは約1mL以上であり、約3mL以下、好ましくは約2mL以下である。なお、従来の、末梢血単核球細胞(PBMC)を用いた、ELISA法によるSMNタンパク質の定量解析では、少なくとも4mLの血液量が必要とされる。従って、本発明の一実施態様では、必要とされる血液量が少ない点で有利である。
【0017】
上述したとおり、本発明の方法に用いられるサンプルは、血液由来の有核細胞を含むものであればよい。しかしながら、全血(末梢血)中にはあらゆる有核細胞が含まれるため、全血は、多様性に富む、いわば不均一な細胞集団を含むものと言える。また、ヒトの血液細胞分画は常に変動するものであるため、血液細胞分画の揺らぎによる血中SMNタンパク質発現量への影響を最小限に抑えることが好ましい。
そこで、本発明のSMNタンパク質の核内構造体の発現解析方法は、血液由来の有核細胞を含むサンプル中、有核細胞の1種以上の表面抗原マーカーを、1種以上の標識抗体を用いて標識する工程を含む。このように標識抗体を用いて表面抗原マーカーを標識することにより、血液中の有核細胞を複数のクラスター(細胞集団)、例えば2〜4つのクラスター、に分類し、クラスターごとにSMNタンパク質発現量を測定することができる。また、表面抗原マーカーと併せて側方散乱(SSC)に基づいて、細胞集団を分類することもできる。これにより、血液細胞分画の揺らぎによる血中SMNタンパク質発現量への影響を低減することができる。
なお、本発明のSMNタンパク質の核内構造体の発現解析方法は、有核細胞内のSMNタンパク質を標識する工程と、有核細胞の核を標識する工程とを含むが、両工程と、血液由来の有核細胞を含むサンプル中、有核細胞の1種以上の表面抗原マーカーを、1種以上の標識抗体を用いて標識する工程とを合わせた3つの工程は、順不同で行い得る。
【0018】
本発明の方法において用いることのできる表面抗原マーカーは、特に限定されるものではないが、例えば、CD45、CD66、CD14、CD3、CD19、CD33、CD123、CD34、CD11c、CD25、HLA-DR等が挙げられる。本発明の方法において、表面抗原マーカーは、単独でも、2種以上を一緒に用いてもよい。このような表面抗原マーカーのうち、CD45は汎血球マーカー、CD66は好中球マーカー、CD3はT細胞マーカー、CD19はB細胞マーカー、CD14は単球マーカーとして一般に知られている。
本発明の方法の一実施態様では、単球の細胞集団又は単球を含む細胞集団を選別することを含み得る。単球を含む細胞集団は、単球を95%以上、90%以上、85%以上、80%以上、75%以上、70%以上、65%以上、60%以上、55%以上、50%以上含み得る。本発明の方法において、単球を含む細胞集団を選別し、当該細胞集団について、SMNタンパク質に対する標識に基づいてSMNタンパク質の核内構造体の発現解析をする場合、正常者とSMA患者の間で、SMNタンパク質の核内構造体(スポット)の蛍光強度についても有意差が認められるため、より好ましい。
【0019】
本発明の方法の一実施態様では、B細胞の細胞集団又はB細胞を含む細胞集団を選別することを含み得る。B細胞を含む細胞集団は、B細胞を95%以上、90%以上、85%以上、80%以上、75%以上、70%以上、65%以上、60%以上、55%以上、50%以上含み得る。
本発明の方法の一実施態様では、T細胞の細胞集団又はT細胞を含む細胞集団を選別することを含み得る。T細胞を含む細胞集団は、T細胞を95%以上、90%以上、85%以上、80%以上、75%以上、70%以上、65%以上、60%以上、55%以上、50%以上含み得る。
本発明の方法の一実施態様では、顆粒球の細胞集団又は顆粒球を含む細胞集団を選別することを含み得る。顆粒球を含む細胞集団は、顆粒球を95%以上、90%以上、85%以上、80%以上、75%以上、70%以上、65%以上、60%以上、55%以上、50%以上含み得る。
【0020】
本発明のSMNタンパク質の核内構造体の発現解析方法は、サンプル中の有核細胞内のSMNタンパク質を標識する工程を含む。
SMNタンパク質は、SMAの原因遺伝子であるSMN遺伝子により発現されるタンパク質であり、運動ニューロンの形成等に関与していると考えられている。SMN遺伝子には、SMN1遺伝子とSMN2遺伝子が存在する。両者ともに5番染色体長腕5q13に存在しており、SMN2遺伝子は、SMN1遺伝子とコーディング領域の塩基が1つだけ異なっている。しかしながら、正常なSMNタンパク質に翻訳される、SMN1遺伝子から転写される全長SMN1mRNAの量を100%とすると、SMN2遺伝子の転写産物は、全長SMN2mRNAがおよそ10%であり、エクソン7の欠失が認められる短縮型SMN2mRNAがおよそ90%である。短縮型SMN2mRNAからは非機能的なタンパク質が生成され、運動ニューロンの形成には役立たない。
本発明の方法において、血液由来の有核細胞を含むサンプル中のSMNタンパク質を標識するために、本発明の技術分野において従来知られている技術を用いることができる。ここで、SMNタンパク質の標識は、全長SMN1mRNA及び全長SMN2mRNAから翻訳される正常なSMNタンパク質を標識できるものであればよいが、短縮型SMN2mRNAから翻訳される非機能的なタンパク質をも標識するものであっても構わない。
【0021】
本発明の方法において用いられるSMNタンパク質を標識する方法としては、例えば、標識試薬と結合した抗SMN抗体を使用することや、標識試薬の結合していない一次抗体としての抗SMN抗体を使用後、標識試薬と結合した二次抗体を使用することが挙げられるが、これらに限定されるものではない。標識試薬には、例えば、酵素、色素、蛍光色素、ビオチン、放射性物質、各種ペプチド、アミノ酸リンカーが含まれるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、標識試薬は蛍光色素であり、例えば、フルオレセイン、ローダミン、クマリン、イミダゾール誘導体、インドール誘導体、Cy3、Cy5、Cy5.5、Cy7、APC、PE、DyLight、AlexaFluor等が挙げられる。
本発明の方法において用いられる、標識試薬と結合した抗SMN抗体または一次抗体として用いる抗SMN抗体は、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体であってもよく、市販品を利用することができる。例えば、抗SMN抗体の市販品としては、Millipore社のMilli-Mark
TMや、BD社、Abcam社、Sigma-Aldrich社から提供される抗体等が挙げられる。
【0022】
本発明のSMNタンパク質の核内構造体の発現解析方法は、サンプル中の有核細胞の核を標識する工程を含む。核を標識する方法としては、本発明の技術分野において従来知られている技術を用いることができる。例えば、核を標識する方法として、蛍光色素による標識、細胞核特異的蛋白質を認識する抗体による標識等が挙げられる。
本発明の方法において、血液由来の有核細胞を含むサンプル中の有核細胞の核を標識するために蛍光色素を用いる場合、例えば、試薬として、Hoechst 33342、Hoechst 33258、4, 6-diamino-2-phenylindole(DAPI)、Propidium iodide(PI)、蛍光標識抗ヒストン抗体、蛍光標識抗ラミン抗体等が挙げられる。
本明細書において、SMNタンパク質を標識する蛍光色素を第1の蛍光色素と言い、核を標識する蛍光色素を第2の蛍光色素と言う場合がある。
本発明のSMNタンパク質の核内構造体の発現解析方法において、有核細胞内のSMNタンパク質を標識する工程が、SMNタンパク質を第1の蛍光色素、例えばAlexaFluor 488、により標識することを含み、かつ、有核細胞の核を標識する工程が、核を第2の蛍光色素、例えばHoechst 33342、により標識することを含むことが好ましい。
【0023】
本発明のSMNタンパク質の核内構造体の発現解析方法は、有核細胞のうち、核及びSMNタンパク質が標識され、かつ1種以上の標識抗体により標識された1種以上の表面抗原マーカー又は1種以上の標識抗体により標識された1種以上の表面抗原マーカーと側方散乱(SSC)とに基づき分類された複数の細胞集団から1つの細胞集団を選別する工程を含む。
ここで、核及びSMNタンパク質が標識されている細胞集団は、インタクトな細胞(生細胞)を100%、95%以上、90%以上、85%以上、80%以上、75%以上、70%以上、65%以上、60%以上、55%以上又は50%以上含む集団である。
本発明の方法の一実施態様では、有核細胞中の核及びSMNタンパク質が標識されている細胞集団は、本明細書の下記実施例1に記載の通り核及びSMNタンパク質を蛍光色素により標識し、その蛍光強度を下記実施例1に記載の通り検出した場合、核の蛍光強度が約1×10
5以上であり、かつSMNタンパク質の蛍光強度が約1×10
3以上である細胞を含む集団である。このような細胞は、インタクトな細胞であると認められる。また、顕微鏡観察にて細胞の形態を保っており、かつアスペクト比(縦横比)と表面積を保っている細胞は、インタクトな細胞であると認められる。インタクトな細胞の判別又はインタクトな細胞を含む細胞集団の判別は、有核細胞中の核及びSMNタンパク質の標識方法によってその基準が異なるが、使用される標識試薬に基づく有核細胞中の核及びSMNタンパク質の検出結果に基づき適宜行うことができる。
【0024】
本発明のSMNタンパク質の核内構造体の発現解析方法は、前述のとおり選別した細胞集団について、SMNタンパク質に対する標識に基づいてSMNタンパク質の核内構造体の発現解析をする工程を含む。
本発明の方法において、前記細胞集団を選別する工程及び前記SMNタンパク質の核内構造体の発現解析をする工程を、40倍以上の対物レンズを使用するイメージングフローサイトメトリーにより行う。このようなイメージングフローサイトメトリーにより、本発明の方法においては、1種以上の標識抗体により標識された1種以上の表面抗原マーカー又は当該表面抗原マーカーと側方散乱(SSC)とに基づき、所望の血球成分を主に含む細胞集団(所望の血液細胞分画)に焦点を当てて、SMNタンパク質の核内構造体の発現解析を行うことができる。そのため、本発明の方法は、SMNタンパク質の機能解析においても広く利用でき、SMAの診断技術及び治療技術に多大な貢献をもたらし得る。
用いる対物レンズの倍率としては、50倍以上が好ましく、60倍以上がより好ましく、その上限は、SMNタンパク質の核内構造体の発現解析が可能な範囲内である限り任意であるが、例えば、200倍以下、150倍以下、100倍以下、80倍以下であり得る。
イメージンングフローサイトメトリーは、市販の装置を使用して、メーカーの取扱説明書に従って適宜行うことができる。
なお、本発明において、SMNタンパク質の核内構造体がスポット状に観測されたことに鑑みて、本明細書において、スポット状に観測されたSMNタンパク質の核内構造体を単に「スポット」と呼ぶことがある。スポットの定義としては、例えば、1)核内にあり、2)大きさが0.34〜3.07μm
2であり、3)バックグラウンドと比較し5倍以上の蛍光強度を示し、4)縦横比0.5〜1.0であるものが挙げられる。また、スポットの別の定義としては、例えば、1)核内にあり、2)大きさが0.34〜8.54μm
2であり、3)バックグラウンドと比較し5.5倍以上の蛍光強度を示し、4)縦横比0.4〜1.0であるものが挙げられる。
【0025】
本発明のSMNタンパク質の核内構造体の発現解析方法において、SMNタンパク質に対する標識に基づいてSMNタンパク質の核内構造体の発現解析をする工程は、SMNタンパク質の核内構造体を定量することを含んでもよい。また、本発明の方法は、例えば、SMA患者、保因者、及び正常者間、具体的にはSMA患者と保因者間又はSMA患者と正常者間で、SMNタンパク質の核内構造体の定量結果を比較する工程を含んでもよい。比較により、SMA患者と保因者、SMA患者と正常者の間でSMNタンパク質の定量結果(発現量又は局在化)に差異が認められることで、SMA患者、保因者、及び正常者をそれぞれ分類することができる。
また、本発明のSMNタンパク質の核内構造体の発現解析方法は、SMAを治療するための薬剤をスクリーニングする方法において用いることもできる。
本発明の方法において、リン酸緩衝液等の試薬で細胞を洗浄する工程等、通常、細胞におけるタンパク質発現を検出する際に行われる操作を適宜行うことができる。
【0026】
また、本発明のSMNタンパク質の核内構造体の発現解析方法においては、血液由来の有核細胞を含むサンプルが被験者から得られたものであり、SMNタンパク質の核内構造体の発現解析をする工程が、SMNタンパク質の核内構造体を定量することを含み、
前記定量により得られた結果を、コントロールと比較する工程を含んでもよい。ここで、コントロールとは、以下の(a)〜(c)より選択され得る:
(a) 前記被験者がSMA患者である場合には、前記コントロールは、正常者又は保因者から得られる血液を用いること以外は、前記被験者から得られた血液を用いてSMNタンパク質の核内構造体を定量した方法と同様にして得られた結果であり、
(b) 前記被験者が正常者又は保因者である場合には、前記コントロールは、SMA患者から得られる血液を用いること以外は、前記被験者から得られた血液を用いてSMNタンパク質の核内構造体を定量した方法と同様にして得られた結果であり、又は
(c) 前記被験者がSMAの治療薬又は治療候補薬を投与された者である場合には、前記コントロールは、前記SMAの治療薬又は治療候補薬の投与前の前記被験者から得られた血液を用いること以外は、前記投与後の前記被験者から得られた血液を用いてSMNタンパク質の核内構造体を定量した方法と同様にして得られた結果である。
【0027】
ここで、「同様にして測定した」とは、SMNタンパク質の核内構造体の定量結果(発現量又は局在化)を比較する上で、SMNタンパク質の核内構造体の定量に実質的に影響を与えない程度の変更は許されるものと解され、例えば、細胞を洗浄する工程などまで完全に一致することは意味しない。
SMNタンパク質の核内構造体を定量することは、検量線法など、本発明の技術分野において従来知られている技術を用いて適宜行うことができる。
なお、本発明の一実施態様は、上記のような比較の工程を含み、かつ比較の結果に基づいて被験者を診断する工程を含むことで、SMAを診断する方法に関すると言うこともできる。また、本発明の一実施態様は、上記のような比較の工程を含み、かつ比較の結果に基づいてSMAの治療薬又は治療候補薬を選択する工程を含むことで、SMAの治療薬又は治療候補薬のスクリーニング方法に関すると言うこともできる。
【実施例】
【0028】
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0029】
実施例1:SMNタンパク質の核内構造体の発現解析
1.サンプルの調製
以下の染色プロトコールに従って、サンプルを調製した。なお、特に記載のない限り、全ての手順は室温で行った。
(1)被験者から得た末梢血1.5mLを、15mLコニカルチューブに移した。
(2)コニカルチューブ内の末梢血中に、30μLのFc受容体ブロッキング試薬(Clear Back, MTG-001, MBL)を添加し、暗所にて15分間インキュベートした。
(3)インキュベート後のコニカルチューブ内末梢血中に、表面抗原(CD19、CD33、CD3)に対するモノクローナル抗体(それぞれBioLegend社より入手)5μLを、下記表1及び2に従って添加し、暗所にて30分間インキュベートした。
【0030】
【表1】
【表2】
AF:アレクサフルオロ
R-PE:R-フィコエリスリン
PE-Cy5:R-フィコエリスリン−シアニン5
Hoechst:Hoechst 33342
BV:ブリリアントバイオレット
【0031】
(4)37℃の水浴で温めた溶血・固定液(BD Phosflow
TM Lyse/Fix Buffer)10mLを各チューブに加えた(8〜10回逆さにしてよく混合した)。
(5)37℃の水浴で10分間インキュベートした。
(6)300 x gで5分間遠心分離した。
(7)<50μLとなるまで上清を除去した。
(8)15mLのPBS(-)で細胞を再懸濁し、上記(6)と同様に遠心分離し、上清を除去した。
(9)1mLのサポニン含有細胞膜透過試薬(BD Phosflow
TM;557885(BD Phosflow
TM Perm/Wash Buffer I とも言う))で細胞を再懸濁し、暗所にて20分間インキュベートした。
(10)上記(6)と同様に遠心分離した。
(11)2mLの細胞膜透過試薬(BD Phosflow
TM;557885)で細胞を洗浄した。
(12)およそ100μLの細胞膜透過試薬(BD Phosflow
TM;557885)で細胞を再懸濁した。
(13)1.5mLマイクロチューブ中に95μLのPBS(-)を準備し、その中に上記12で調製した細胞懸濁液を5μL添加し、20倍希釈して染色用チューブとした。同様に20倍希釈し、コントロール用チューブとした。各チューブ中、細胞懸濁液の濃度は、1 x 10
6 細胞/約50μLであった。
(14−1)染色用チューブに対して、1μLのAF488結合抗ヒトSMNモノクローナル抗体(2B1)、AF647結合抗ヒトGemin3(EPR11283)、AF750結合抗ヒトZNF259(EPR7595)で染色を行った。
(14−2)コントロール用チューブに対して、上記(14−1)と並行して、AF488結合アイソタイプコントロール、AF647結合アイソタイプコントロール、AF750結合アイソタイプコントロールで染色を行った。
(15)暗所にて45分間インキュベートした。
(16)500μLの細胞膜透過試薬(BD Phosflow
TM;557885)を添加し、300 x gで5分間遠心分離した。
(17)500μLの細胞膜透過試薬(BD Phosflow
TM;557885)で細胞を再懸濁し、上記(16)と同様に遠心分離した。
(18)Hoechst 33342(molecular probe(登録商標))を希釈して調製した50μLの希釈Hoechst 33342(0.25μg/mL PBS)で細胞を再懸濁した。
(19)暗所にて15分間インキュベートした。
(20)500μLのPBS(-)を添加し、上記(16)と同様に遠心分離した。
(21)90μLのPBS(-)で細胞を再懸濁し、各チューブが30μLの細胞懸濁液を含むよう3つのチューブに分けた。
【0032】
2.イメージングフローサイトメトリー
上記のとおり得られたサンプルについて、イメージングフローサイトメトリー(ImageStream(登録商標)
x Mark II イメージングフローサイトメーター、Amnis)によりSMNタンパク質の核内構造体の発現解析を行った。対物レンズの倍率は60倍を用い、計50000個以上の細胞をイメージングフローサイトメトリーに供した。
なお、上記のとおり得られたサンプルとして、以下の被験者から得たものを用いた。
正常者(健常者):成人女性2名(38〜51歳)、男女を含む小児8名(1〜7歳)
SMA患者:成人男性1名(21歳)、男女を含む乳児〜小児19名(2ヶ月〜8歳)
【0033】
(1)細胞集団の分画
(i)全分画を含む画像データより、明視野における焦点のパラメータを利用し、焦点距離が正しい細胞群を選択した。
(ii)前方散乱光(FSC)による細胞の大きさと、細胞径の縦横比で展開し、凝集した状態の細胞を除外した。
(iii)Hoechst33342により標識された核DNAの蛍光強度を指標として、有核細胞を選択した(デブリス、埃、赤血球などの除外)。
(iv)側方散乱光(SSC)による細胞の内部構造と、細胞表面抗原CD33発現で展開し、有核細胞群を3群に分けた。結果を
図1に示す。
図1において、R1はリンパ球、R4は単球、R5は好中球を主として含む細胞集団を表す。なお、
図1は、正常者から得られた血液サンプルを用いて、イメージングフローサイトメトリーにより測定した蛍光強度をプロットしたグラフであるが、患者から得られた血液サンプルを用いて測定した場合にも同様に有核細胞群が3群に分けられた。また、
図1は1サンプルから得られた結果を示すものであるが、各サンプルについても同様に、有核細胞群が3群に分けられた。
(v)R1のリンパ球を主として含む細胞集団について、細胞表面抗原CD3およびCD19発現で展開し、CD3陽性T細胞を主として含む細胞集団と、CD19陽性B細胞を主として含む細胞集団の2群に分けた。結果を
図2に示す。
図2において、R2がCD3陽性T細胞を主として含む細胞集団を表し、R3がCD19陽性B細胞を主として含む細胞集団を表す。
以上の解析により、末梢血中の有核細胞が以下の4群に分画された。なお、患者から得られた血液サンプルを用いて測定した場合にも同様である。また、
図2は1サンプルから得られた結果を示すものであるが、各サンプルについても同様に、最終的に末梢血中の有核細胞群が以下の4群に分けられた。
R2:CD3陽性T細胞を主として含む細胞群 (SSC
low, CD33
-, CD3
+)
R3:CD19陽性B細胞を主として含む細胞群 (SSC
low, CD33
-, CD19
+)
R4:単球を主として含む細胞群 (SSC
intermediate, CD33
++)
R5:好中球を主として含む細胞群 (SSC
intermediate, CD33
intermediate)
【0034】
(2)単球を主として含む細胞群におけるSMNタンパク質の核内構造体(スポット)の解析
前述のとおりの方法でイメージングフローサイトメトリーを行い、撮影した細胞写真を
図3及び4に示す。
図3及び4は、SMA患者及び健常者(コントロール)からそれぞれ得られた血液サンプル中の、単球を主として含む細胞群を対象とした細胞写真であり、SMNタンパク質は緑色の蛍光で示される。この細胞写真から明らかなように、細胞全体における蛍光強度、核における蛍光強度、スポットの数、スポットにおける蛍光強度のいずれにおいても、SMA患者よりも健常者(コントロール)の方が大きいことが観測された。
なお、ここで言う「スポット」とは、スポット状に観測されたSMNタンパク質の核内構造体を意味するものであり、本実施例では「スポット」の定義を、1)核内にあり、2)大きさが0.34〜3.07μm
2であり、3)バックグラウンドと比較し5倍以上の強度を示し、4)縦横比0.5〜1.0であるものとした。
【0035】
(i)スポット数の平均値
所定の蛍光強度を示す細胞群中のスポット数の平均値を以下のとおり算出した。
(核内照準調整)
核内の解析をより正確に行うために、以下の操作を行った。
1) 核内を染色したHoechst 33342を検出するチャンネルにおける焦点およびコントラストのパラメータで展開し、両パラメータのピーク部分の細胞群に限定した。
2) 上記の細胞群よりHoechst 33342の蛍光強度を指標とし、同程度に蛍光強度を示す細胞群を1000細胞以上選択した。これを照準調整細胞数とした。
(アイソタイプコントロール由来データの減算)
特異的抗体(抗SMN抗体)で染色した試料の数値より、非特異的抗体(アイソタイプコントロール)で染色した試料の数値を減じたものを解析値として評価に用いた。
(スポット数の平均値の算出)
スポット数/照準調整細胞数によりMeanを求め、以下の式によりスポット数の平均値を算出した。結果を
図5に示す。
図5のグラフ中、0.426及び0.295の数値は、それぞれ、試験した全ての正常者由来血液サンプル及びSMA患者由来血液サンプルにおいて算出したスポット数の平均値(算術平均)である。
【数1】
【0036】
(ii)スポット陽性細胞の割合
所定の蛍光強度を示す細胞群中のスポット陽性細胞の割合を以下のとおり算出した。
(核内照準調整)
核内の解析をより正確に行うために、以下の操作を行った。
1) 核内を染色したHoechst 33342を検出するチャンネルにおける焦点およびコントラストのパラメータで展開し、両パラメータのピーク部分の細胞群に限定した。
2) 上記の細胞群よりHoechst 33342の蛍光強度を指標とし、同程度に蛍光強度を示す細胞群を1000細胞以上選択した。これを照準調整細胞数とした。
(アイソタイプコントロール由来データの減算)
特異的抗体(抗SMN抗体)で染色した試料の数値より、非特異的抗体(アイソタイプコントロール)で染色した試料の数値を減じたものを解析値として評価に用いた。
(スポット陽性細胞の割合の算出)
スポット数/照準調整細胞数×100により割合(%)を求め、以下の式によりスポット陽性細胞の割合を算出した。結果を
図6に示す。
図6のグラフ中、35.6及び26.1の数値は、それぞれ、試験した全ての正常者由来血液サンプル及びSMA患者由来血液サンプルにおいて算出したスポット陽性細胞の割合の平均値(算術平均)である。
【数2】
【0037】
(iii)スポット陽性細胞の蛍光強度
スポット陽性細胞に限定したSMNタンパク質の発現の解析を行った。
非特異的抗体(アイソタイプコントロール)で染色した試料における非特異的スポット検出が僅少に抑えられたため(<200細胞)、非特異的抗体(アイソタイプコントロール)で染色した試料におけるスポット陽性細胞の蛍光強度の算出は不可能だった。そのため、アイソタイプコントロールによるバックグラウンドの減算は不必要であると考え、特異的抗体(抗SMN抗体)により算出されたデータを評価に用いた。結果を
図7に示す。
図7のグラフ中、7255及び5364の数値は、それぞれ、試験した全ての正常者由来血液サンプル及びSMA患者由来血液サンプルにおいて算出したスポット陽性細胞の蛍光強度の平均値(算術平均)である。
【0038】
(iv)スポットの蛍光強度
スポットそのものの蛍光強度、即ち、SMNタンパク質の核内構造体の発現の解析を行った。
非特異的抗体(アイソタイプコントロール)で染色した試料における非特異的スポット検出が僅少に抑えられたため(<200細胞)、非特異的抗体(アイソタイプコントロール)で染色した試料におけるスポット陽性細胞中のスポットの蛍光強度の算出は不可能だった。そのため、アイソタイプコントロールによるバックグラウンドの減算は不必要であると考え、特異的抗体(抗SMN抗体)により算出されたデータを評価に用いた。結果を
図8に示す。
図8のグラフ中、332.7及び162.7の数値は、それぞれ、試験した全ての正常者由来血液サンプル及びSMA患者由来血液サンプルにおいて算出したスポットの蛍光強度の平均値(算術平均)である。
【0039】
以上の結果から、スポット数の平均値、スポット陽性細胞の割合、スポット陽性細胞の蛍光強度、及びスポットの蛍光強度のいずれにおいても、正常ヒト血液細胞とSMA患者由来血液細胞に関して、有意水準0.01において有意差が認められた。更に、スポット陽性細胞の蛍光強度と、スポットの蛍光強度の結果を比較すると、スポット陽性細胞の蛍光強度の結果によれば、正常ヒト血液細胞/SMA患者由来血液細胞の相対的な比は1.35(7255/5364)であるが、スポットの蛍光強度の結果によれば、正常ヒト血液細胞/SMA患者由来血液細胞の相対的な比は2.04である。従って、スポットの蛍光強度の結果に基づけばより検出感度が高められることが示唆された。即ち、本発明のSMNタンパク質の核内構造体の発現解析方法は、バイオマーカーとしての信頼性がより高いSMNタンパク質の核内構造体の発現を単に検出するばかりでなく、正常者とSMA患者における差異をより高い検出感度で測定することができる。