(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6671690
(24)【登録日】2020年3月6日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】繊維ボードの製造方法
(51)【国際特許分類】
D04H 3/011 20120101AFI20200316BHJP
D04H 3/147 20120101ALI20200316BHJP
D04H 3/14 20120101ALI20200316BHJP
【FI】
D04H3/011
D04H3/147
D04H3/14
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-82599(P2017-82599)
(22)【出願日】2017年4月19日
(65)【公開番号】特開2018-178325(P2018-178325A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2019年10月3日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089152
【弁理士】
【氏名又は名称】奥村 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】花谷 和俊
(72)【発明者】
【氏名】赤尾 昌哉
(72)【発明者】
【氏名】永塚 裕介
【審査官】
長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−107860(JP,A)
【文献】
特開平08−188947(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0092835(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H1/00−18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯成分がエチレングリコールとテレフタル酸からなる共重合体よりなり、鞘成分がエチレングリコールとアジピン酸とテレフタル酸とイソフタル酸及び/又はジエチレングリコールからなる共重合体よりなる芯鞘型複合繊維を集積して繊維ウェブを形成した後、該繊維ウェブを厚み方向に圧縮すると共に加熱して、該鞘成分を軟化又は溶融させ該芯鞘型複合繊維相互間を融着させて、平板状に成型することにより、三点曲げ試験による初期曲げ弾性率が300MPa以上の繊維ボードの製造方法。
【請求項2】
予め加熱された繊維ウェブを、常温の金属製板に挟んで、厚み方向に圧縮する請求項1記載の繊維ボードの製造方法。
【請求項3】
常温の繊維ウェブを、加熱された金属製板に挟んで厚み方向に圧縮する請求項1記載の繊維ボードの製造方法。
【請求項4】
繊維ウェブにニードルパンチを施して、芯鞘型複合繊維相互間を三次元的に交絡させた後に、厚み方向に圧縮すると共に加熱する請求項1記載の繊維ボードの製造方法。
【請求項5】
繊維ボードの三点曲げ試験による最大曲げ強さが7.3MPa以上である請求項1記載の繊維ボードの製造方法。
【請求項6】
芯鞘型複合繊維が、芯鞘型複合長繊維又は芯鞘型複合短繊維である請求項1記載の繊維ボードの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剛性に優れた繊維ボードの製造方法に関し、特に、製造条件を厳密に管理しなくても、高剛性及び高曲げ強さの繊維ボードを得ることのできる製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、高融点重合体よりなる芯成分と低融点重合体よりなる鞘成分とで構成されている芯鞘型複合繊維を用い、鞘成分のみを溶融させて芯鞘型複合繊維相互間を融着し、比較的高剛性の繊維ボードを製造することは知られている(特許文献1)。特許文献1の実施例では、芯成分としてポリエチレンテレフタレートを、鞘成分としてポリエチレンを採用した芯鞘型複合繊維を用い、これを溶融押出装置に投入した後、口金から吐出して、平板状の繊維ボードを製造する方法が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特許第3725488号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、特許文献1記載の発明の改良に係るものであり、芯成分及び鞘成分として特定の重合体を用いることにより、広い範囲の加熱温度並びに広い範囲の加熱及び加圧時間において、高剛性及び高曲げ強さの繊維ボードを得ることのできる製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、芯成分がエチレングリコールとテレフタル酸からなる共重合体よりなり、鞘成分がエチレングリコールとアジピン酸とテレフタル酸とイソフタル酸及び/又はジエチレングリコールからなる共重合体よりなる芯鞘型複合繊維を集積して繊維ウェブを形成した後、該繊維ウェブを厚み方向に圧縮すると共に加熱して、該鞘成分を軟化又は溶融させ該芯鞘型複合繊維相互間を融着させて、平板状に成型することにより、三点曲げ試験による初期曲げ弾性率が300MPa以上の繊維ボードの製造方法に関するものである。
【0006】
本発明では、まず特定の芯鞘型複合繊維を構成繊維とする繊維ウェブを得る。ここで、特定の芯鞘型複合繊維とは、芯成分がエチレングリコールとテレフタル酸の共重合体よりなり、鞘成分がエチレングリコールとアジピン酸とテレフタル酸とイソフタル酸及び/又はジエチレングリコールからなる共重合体よりなるものである。芯成分を構成する共重合体は、エチレングリコールをジオール成分とし、テレフタル酸をジカルボン酸成分として脱水縮合して得られるポリエステルである。なお、ジカルボン酸成分として、ごく少量のイソフタル酸等の他のジカルボン酸成分が混合されていてもよい。芯成分を構成する共重合体の融点は約260℃であり、ガラス転移点は約70〜80℃である。鞘成分を構成する共重合体は、エチレングリコールと必要によりジエチレングリコールをジオール成分とし、アジピン酸とテレフタル酸と必要によりイソフタル酸をジカルボン酸成分として脱水縮合して得られる共重合ポリエステルである。なお、ジエチレングリコールとイソフタル酸は、少なくともいずれか一方を用いる必要があり、好ましくは両者を用いる。ジエチレングリコール及び/又はイソフタル酸を混合するのは、得られる繊維相互間の融着性を向上させるためである。ジオール成分中にジエチレングリコールを混合する場合、一般にエチレングリコール:ジエチレングリコール=10:0.05〜0.5(モル比)程度である。ジカルボン酸成分であるアジピン酸とテレフタル酸の混合割合は任意であるが、アジピン酸:テレフタル酸=1:1〜10(モル比)程度である。また、ジカルボン酸成分中にイソフタル酸を混合する場合、一般にイソフタル酸:アジピン酸:テレフタル酸=0.04〜0.6:1:1〜10(モル比)程度である。鞘成分を構成する共重合体の融点及びガラス転移点は任意であるが、鞘成分同士の融着性や繊維ウェブの圧縮性等を考慮して、融点は約200℃が好適であり、ガラス転移点は約40〜50℃が好適である。
【0007】
芯成分と鞘成分の重量割合は、芯成分:鞘成分=0.3〜
3:1(重量比)程度である。芯成分の重量割合が低すぎると、繊維ボードの剛性が低下する傾向となる。また、芯成分の重量割合が高すぎると、加熱時に鞘成分同士が融着しにくくなり、表面に毛羽立ちが生じやすくなる。芯成分と鞘成分は、同心に配置されていてもよいし、偏心して配置されていてもよい。しかしながら、偏心に配置されていると、加熱時に、収縮が生じやすくなるため、同心に配置されている方が好ましい。
【0008】
芯鞘型複合繊維は、芯成分となる高融点ポリエステルと、鞘成分となる低融点共重合ポリエステルとを、複合紡糸孔を持つ紡糸装置に供給して、溶融紡糸するという公知の方法で得ることができる。芯鞘型複合繊維は、芯鞘型複合長繊維であっても芯鞘型複合短繊維であってもよいが、芯鞘型複合長繊維を用いた方が、剛性の高い繊維ボードが得られる。芯鞘型複合長繊維を用いて繊維ウェブを得るには、いわゆるスパンボンド法を用いるのが一般的である。すなわち、溶融紡糸して得られた芯鞘型複合長繊維を、直ちにシート状に集積して、繊維ウェブを得ることができる。また、芯鞘型複合短繊維を用いて繊維ウェブを得るには、芯鞘型複合短繊維をカード機に通して開繊し、シート状に集積すればよい。繊維ウェブの重量は、少なくとも150g/m
2以上であり、300g/m
2以上であるのが好ましい。繊維ウェブの重量が低すぎると、厚みが薄くなり、繊維ボードの剛性が低下する。また、繊維ウェブの重量に上限はないが、一般に2000g/m
2程度であり、これを超えると重くなって取り扱いにくくなる。
【0009】
得られた繊維ウェブは、そのまま厚み方向に圧縮すると共に加熱してもよいし、芯鞘型複合繊維相互間を仮接着させた後に、厚み方向に圧縮すると共に加熱してもよい。また、ニードルパンチを施した後に、厚み方向に圧縮すると共に加熱してもよい。ニードルパンチを施す場合、芯鞘型複合繊維相互間が仮接着されていない状態でニードルパンチを施してもよいし、仮接着された状態でニードルパンチを施してもよい。前者の方法であれば、繊維相互間が仮接着されていないため、ニードルパンチを施した際の繊維へのダメージが少なく、糸切れ等による剛性の低下が起こりにくいため好ましい。また、後者の方法であれば、繊維相互間が仮接着された状態の繊維ウェブであるため、取扱いしやすく、搬送しやすい。ニードルパンチは周知の方法で行われ、これによって、芯鞘型複合繊維相互間が三次元的に交絡され、芯鞘型複合繊維が厚み方向に配列した緻密な不織布が得られる。なお、芯鞘型複合繊維相互間が仮接着されていた場合であっても、ニードルパンチによってこの仮接着は破壊され、芯鞘型複合繊維相互間が三次元的に交絡される。パンチ密度は、10本〜200本/cm
2程度である。
【0010】
繊維ウェブを厚み方向に圧縮すると共に加熱する方法は、従来公知の任意の方法を採用することができる。代表的には、以下の二つの方法が挙げられる。すなわち、予め加熱された繊維ウェブを、常温の金属製板に挟んで、厚み方向に圧縮する方法と、常温の繊維ウェブを、加熱された金属製板に挟んで厚み方向に圧縮する方法である。加熱条件及び厚み方向に圧縮する加圧条件は、芯鞘型複合繊維の鞘成分が軟化又は溶融し、芯鞘型複合繊維相互間が融着する条件で行えばよい。具体的には、加熱温度は100℃〜200℃程度であり、加圧条件は面圧で1〜500kg/cm
2程度である。また、加熱及び加圧時間は、10〜150秒程度である。かかる条件で、厚み方向に圧縮すると共に加熱し、鞘成分を軟化又は溶融させ、芯鞘型複合繊維相互間を融着させて平板状に成型する。その後、放冷等により冷却して繊維ボードを得る。なお、平板状というのは、全体が完全に平板になっていなくてもよく、大略が平板になっており、その他の部位が湾曲又は折曲していてもよい。
【0011】
本発明に係る方法で得られる繊維ボードは、芯鞘型複合繊維の鞘成分の融着により、繊維相互間が強固に接合されてなるものである。鞘成分が十分に溶融した場合には、鞘成分を母体とし、その中に繊維形態を残した芯成分が存在する状態の繊維ボードになる。また、鞘成分が軟化しただけか又は一部溶融した場合には、鞘成分が母体とならず、芯鞘型複合繊維相互間に空隙を多数持つ状態の繊維ボードになる。いずれの状態であっても、本発明に係る方法で得られる繊維ボードは、三点曲げ試験による初期曲げ弾性率が300MPa以上となっており、高剛性である。なお、初期曲げ弾性率は、三点曲げ試験における歪−曲げ荷重曲線の初期勾配に基づいて算出されるものである。
【0012】
本発明に係る方法で得られる繊維ボードは、各種用途に好適に用いることができる。たとえば、吸音材やインテリア部材等として用いることができるし、また従来のプラスチック板の代替品としても用いることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る方法は、芯鞘型複合繊維の鞘成分として、特定のポリエステル共重合体を用いているので、広い範囲の加熱温度並びに広い範囲の加圧及び加熱時間であっても、いずれも高剛性の繊維ボードを得ることができる。したがって、加熱及び加圧条件を厳密に管理又は設定しなくても、高剛性及び高曲げ強さの繊維ボードを得ることができるという効果を奏する。
【実施例】
【0014】
実施例1
芯成分として、エチレングリコールとテレフタル酸の共重合体(融点260℃)を準備した。鞘成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、アジピン酸、テレフタル酸及びイソフタル酸の共重合体(融点200℃)を準備した。なお、ジオール成分としてのエチレングリコールは99モル%でジエチレングリコールは1モル%であり、ジカルボン酸成分としてのアジピン酸は19モル%でテレフタル酸は78モル%でイソフタル酸は3モル%である。上記した芯成分と鞘成分の両者を、複合紡糸孔を持つ紡糸装置に供給して、溶融紡糸を行い、芯鞘型複合長繊維を得た。芯成分と鞘成分の重量割合は、芯成分:鞘成分=7:3であった。これを紡糸装置の下方に設けたエアーサッカーに導入し、高速で牽引細化した後、公知の開繊装置で開繊させ、移動するスクリーンコンベア上に捕集及び集積させて繊維ウェブを得た。この繊維ウェブをニードルパンチ装置に搬送し、パンチ密度90本/cm
2及び針深度10mmでニードルパンチを施し、重量900g/m
2のニードルパンチ不織布を得た。
【0015】
このニードルパンチ不織布を、200℃に加熱された一対の金属製平板の間にセットし、一対の金属製平板間に3mmのスペーサーを挟んだ状態で60秒間加圧した。その後、一対の金属製平板間からニードルパンチ不織布を取り出し、室温で放冷して繊維ボードを得た。
【0016】
実施例2
200℃に加熱された一対の金属製平板に代えて、180℃に加熱された一対の金属製平板を用いる他は、実施例1と同一の方法で繊維ボードを得た。
【0017】
実施例3
60秒間加圧するのに代えて、15秒間加圧した他は、実施例1と同一の方法で繊維ボードを得た。
【0018】
実施例4
60秒間加圧するのに代えて、30秒間加圧した他は、実施例1と同一の方法で繊維ボードを得た。
【0019】
実施例5
60秒間加圧するのに代えて、45秒間加圧した他は、実施例1と同一の方法で繊維ボードを得た。
【0020】
比較例1
芯成分として、実施例1で用いた共重合体を準備した。鞘成分として、エチレングリコールとジエチレングリコールとテレフタル酸とイソフタル酸の共重合体(融点200℃)を準備した。鞘成分を構成する共重合体は、ジオール成分としてのエチレングリコールは99モル%でジエチレングリコールは1モル%であり、ジカルボン酸成分としてのテレフタル酸は80モル%でイソフタル酸は20モル%であった。この両重合体を、複合紡糸孔を持つ紡糸装置に供給して、溶融紡糸を行い、芯鞘型複合長繊維を得た。芯成分と鞘成分の重量割合は、芯成分:鞘成分=6:4であった。これを紡糸装置の下方に設けたエアーサッカーに導入し、高速で牽引細化した後、公知の開繊装置で開繊させ、移動するスクリーンコンベア上に捕集及び集積させて繊維ウェブを得た。この繊維ウェブをニードルパンチ装置に搬送し、パンチ密度90本/cm
2及び針深度10mmでニードルパンチを施し、重量900g/m
2のニードルパンチ不織布を得た。
【0021】
このニードルパンチ不織布を、200℃に加熱された一対の金属製平板の間にセットし、一対の金属製平板間に3mmのスペーサーを挟んだ状態で60秒間加圧した。その後、一対の金属製平板間からニードルパンチ不織布を取り出し、室温で放冷して繊維ボードを得た。
【0022】
[三点曲げ試験による最大曲げ強さ(MPa)の測定]
実施例1〜5及び比較例1で得られた各繊維ボードから、長さ150mmで幅50mmの各試験片を採取した。なお、各試験片の厚さは一対の金属製平板間に3mmのスペーサーを挟んでいるので、3mm±0.4mm程度となっているが、小数点以下を丸めて3mmとした。各繊維ボードは機械方向(繊維ウェブの搬送方向)に芯鞘型複合長繊維が配列している傾向にあるので、機械方向を試験片の長さ方向に採取した場合が、最も高い曲げ強さが得られる。したがって、各繊維ボードの機械方向が各試験片の長さ方向となっている。そして、支点間距離100mmとした支点の上に試験片を置き、支点間の中央に押圧板を速度20mm/minの速度で降下させ、荷重を負荷した。繊維ボードが破壊する際の最大荷重を測定して、最大曲げ強さを算出し表1に示した。なお、算出は次式により行った。最大曲げ強さMPa=[6×(最大荷重N)×50mm]/[50mm×(3mm)
2]
【0023】
[初期曲げ弾性率(MPa)の測定]
三点曲げ試験による最大曲げ強さの測定で得られた歪−曲げ荷重曲線から、初期勾配により初期曲げ弾性率を算出し表1に示した。なお、算出は次式により行った。初期曲げ弾性率MPa=[初期勾配×(100mm)
3]/[4×50mm×(3mm)
3]
【0024】
[表1]
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
最大曲げ強さ(MPa) 初期曲げ弾性率(MPa)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
実施例1 9.1 470
実施例2 9.4 550
実施例3 8.7 490
実施例4 11.0 470
実施例5 7.8 440
比較例1 6.8 230
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【0025】
実施例1〜5及び比較例1で得られた繊維ボードの最大曲げ強さ及び初期曲げ弾性率を対比すると、各実施例で得られた各繊維ボードは、比較例1で得られた繊維ボードに比べて、いずれも高曲げ強さで高曲げ弾性率で剛性に優れていることが分かる。また、実施例1〜5で得られた繊維ボードの最大曲げ強さ及び初期曲げ弾性率を対比すると、加熱温度及び加圧時間を多少変更しても、高曲げ強さで高曲げ弾性率の繊維ボードが得られることが分かる。