特許第6671698号(P6671698)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6671698炭素繊維前駆体用処理剤及び炭素繊維前駆体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6671698
(24)【登録日】2020年3月6日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】炭素繊維前駆体用処理剤及び炭素繊維前駆体
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/643 20060101AFI20200316BHJP
   D06M 15/53 20060101ALI20200316BHJP
   D01F 6/18 20060101ALI20200316BHJP
   D06M 101/28 20060101ALN20200316BHJP
【FI】
   D06M15/643
   D06M15/53
   D01F6/18 E
   D06M101:28
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-101341(P2019-101341)
(22)【出願日】2019年5月30日
【審査請求日】2019年5月30日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】土井 章弘
(72)【発明者】
【氏名】大島 啓一郎
【審査官】 川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−030931(JP,A)
【文献】 特開2001−172879(JP,A)
【文献】 特開2011−058129(JP,A)
【文献】 特開2012−102429(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/050639(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第103806131(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00−15/715
D01F 6/18
D01F 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非イオン界面活性剤、アミノ変性シリコーン、及び25℃での動粘度が5〜200mm/sのジメチルシリコーンを含有し、
前記ジメチルシリコーンの含有量に対する前記アミノ変性シリコーンの含有量の質量比は、前記アミノ変性シリコーン/前記ジメチルシリコーン=99.9/0.1〜90/10であることを特徴とする炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項2】
前記非イオン界面活性剤、前記アミノ変性シリコーン、及び前記ジメチルシリコーンの含有割合の合計を100質量部とすると、非イオン界面活性剤を9〜85質量部、前記アミノ変性シリコーンを10〜90.9質量部、及び前記ジメチルシリコーンを0.1〜5質量部の割合で含有する請求項に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項3】
非イオン界面活性剤、アミノ変性シリコーン、及び25℃での動粘度が5〜200mm/sのジメチルシリコーンを含有し、
前記非イオン界面活性剤、前記アミノ変性シリコーン、及び前記ジメチルシリコーンの含有割合の合計を100質量部とすると、非イオン界面活性剤を9〜85質量部、前記アミノ変性シリコーンを10〜90.9質量部、及び前記ジメチルシリコーンを0.1〜5質量部の割合で含有することを特徴とする炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項4】
前記アミノ変性シリコーンの25℃の動粘度が、50〜800mm/sのものである請求項1〜3のいずれか一項に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の炭素繊維前駆体用処理剤が付着していることを特徴とする炭素繊維前駆体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維前駆体の紡糸工程における毛羽を抑制できる炭素繊維前駆体用処理剤、及びかかる炭素繊維前駆体用処理剤が付着している炭素繊維前駆体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、炭素繊維は、例えばエポキシ樹脂等のマトリクス樹脂と組み合わせた炭素繊維複合材料として、建材、輸送機器等の各分野において広く利用されている。通常炭素繊維は、炭素繊維前駆体として、例えばアクリル繊維を紡糸する工程、繊維を延伸する工程、耐炎化処理工程、及び炭素化処理工程を経て製造される。炭素繊維前駆体には、炭素繊維の製造工程において生ずる繊維間の膠着又は融着を抑制するために、炭素繊維前駆体用処理剤が用いられることがある。
【0003】
従来、特許文献1,2に開示される炭素繊維前駆体用処理剤が知られている。特許文献1は、ポリアルキレンポリアミンと、飽和若しくは不飽和の直鎖又は分岐鎖を有し、かつ炭素数が8〜24である脂肪酸とを反応させることにより得られるポリアルキレンポリアミン脂肪酸縮合物の中和塩を含有する炭素繊維用集束剤組成物について開示する。特許文献2は、動粘度が1500cStのアミノ変性シリコーン、ノニオン性界面活性剤、動粘度が100,000cStのジメチルシリコーン等を含有する炭素繊維前駆体繊維用油剤について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−138296号公報
【特許文献2】特開2007−113141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の炭素繊維前駆体用処理剤は、炭素繊維前駆体の紡糸工程における糸の毛羽抑制効果が未だ不十分であった。
本発明が解決しようとする課題は、炭素繊維前駆体の紡糸工程における糸の毛羽を抑制できる炭素繊維前駆体用処理剤、かかる炭素繊維前駆体用処理剤が付着している炭素繊維前駆体を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
しかして本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、非イオン界面活性剤、アミノ変性シリコーン、及び特定粘度のジメチルシリコーンを含有する炭素繊維前駆体用処理剤が正しく好適であることを見出した。
【0007】
すなわち本発明の一態様では、非イオン界面活性剤、アミノ変性シリコーン、及び25℃での動粘度が5〜200mm/sのジメチルシリコーンを含有し、前記ジメチルシリコーンの含有量に対する前記アミノ変性シリコーンの含有量の質量比は、前記アミノ変性シリコーン/前記ジメチルシリコーン=99.9/0.1〜90/10であることを特徴とする炭素繊維前駆体用処理剤が提供される。
【0008】
前記炭素繊維前駆体用処理剤は、前記非イオン界面活性剤、前記アミノ変性シリコーン、及び前記ジメチルシリコーンの含有割合の合計を100質量部とすると、非イオン界面活性剤を9〜85質量部、前記アミノ変性シリコーンを10〜90.9質量部、及び前記ジメチルシリコーンを0.1〜5質量部の割合で含有することが好ましい。
【0009】
本発明の別の態様では、非イオン界面活性剤、アミノ変性シリコーン、及び25℃での動粘度が5〜200mm/sのジメチルシリコーンを含有し、前記非イオン界面活性剤、前記アミノ変性シリコーン、及び前記ジメチルシリコーンの含有割合の合計を100質量部とすると、非イオン界面活性剤を9〜85質量部、前記アミノ変性シリコーンを10〜90.9質量部、及び前記ジメチルシリコーンを0.1〜5質量部の割合で含有することを特徴とする炭素繊維前駆体用処理剤が提供される
前記炭素繊維前駆体用処理剤は、前記アミノ変性シリコーンの25℃の動粘度が、50〜800mm/sのものであることが好ましい。
【0010】
本発明の別の態様では、前記炭素繊維前駆体用処理剤が付着している炭素繊維前駆体が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、紡糸工程における糸の毛羽を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
以下、本発明の炭素繊維前駆体用処理剤(以下、単に処理剤という)を具体化した第1実施形態を説明する。
【0013】
本実施形態の処理剤は、非イオン界面活性剤の他、アミノ変性シリコーン及び25℃での動粘度が5〜200mm/sのジメチルシリコーンを必須成分として含有する。その非イオン界面活性剤の種類に特に制限はなく、例えばアルコール類又はカルボン酸類にアルキレンオキサイドを付加させたものが挙げられる。
【0014】
非イオン界面活性剤の原料として用いられるアルコール類の具体例としては、例えば(1)メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、ヘンエイコサノール、ドコサノール、トリコサノール、テトラコサノール、ペンタコサノール、ヘキサコサノール、ヘプタコサノール、オクタコサノール、ノナコサノール、トリアコンタノール等の直鎖アルキルアルコール、(2)イソプロパノール、イソブタノール、イソヘキサノール、2−エチルヘキサノール、イソノナノール、イソデカノール、イソトリデカノール、イソテトラデカノール、イソトリアコンタノール、イソヘキサデカノール、イソヘプタデカノール、イソオクタデカノール、イソノナデカノール、イソエイコサノール、イソヘンエイコサノール、イソドコサノール、イソトリコサノール、イソテトラコサノール、イソペンタコサノール、イソヘキサコサノール、イソヘプタコサノール、イソオクタコサノール、イソノナコサノール、イソペンタデカノール等の分岐アルキルアルコール、(3)テトラデセノール、ヘキサデセノール、ヘプタデセノール、オクタデセノール、ノナデセノール等の直鎖アルケニルアルコール、(4)イソヘキサデセノール、イソオクタデセノール等の分岐アルケニルアルコール、(5)シクロペンタノール、シクロヘキサノール等の環状アルキルアルコール等が挙げられる。
【0015】
非イオン界面活性剤の原料として用いられるカルボン酸類の具体例としては、例えば(6)オクチル酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、ヘンエイコサン酸、ドコサン酸等の直鎖アルキルカルボン酸、(7)2−エチルヘキサン酸、イソドデカン酸、イソトリデカン酸、イソテトラデカン酸、イソヘキサデカン酸、イソオクタデカン酸等の分岐アルキルカルボン酸、(8)オクタデセン酸、オクタデカジエン酸、オクタデカトリエン酸等の直鎖アルケニルカルボン酸、(9)フェノール、ベンジルアルコール、モノスチレン化フェノール、ジスチレン化フェノール、トリスチレン化フェノール等の芳香族系アルコール、(10)安息香酸等の芳香族系カルボン酸等が挙げられる。
【0016】
非イオン界面活性剤の原料として用いられるアルキレンオキサイドの具体例としては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等が挙げられる。
これらの非イオン界面活性剤の中でも、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、イソブタノール、イソヘキサノール、2−エチルヘキサノール、イソノナノール、イソデカノール、イソトリデカノール、イソテトラデカノール、テトラデセノール、ヘキサデセノール、ヘプタデセノール、オクタデセノール、ノナデセノール等の直鎖アルケニルアルコール、フェノール、ベンジルアルコール、モノスチレン化フェノール、ジスチレン化フェノール、トリスチレン化フェノール等の芳香族系アルコール等の炭素数4〜40の有機アルコール1モルに対しエチレンオキサイドを1〜50モルの割合で付加反応させたものが好ましい。これらの非イオン界面活性剤は、単独で用いることも、また2種以上を併用することもできる。
【0017】
アミノ変性シリコーンとは、(−Si−O−)の繰り返しからなるポリシロキサン骨格を持ち、そのケイ素原子のアルキル側鎖の一部がアミノ変性基により変性されたものである。アミノ変性基は、主鎖であるシリコーンの側鎖と結合していてもよいし、末端と結合していてもよいし、またその両方と結合していてもよい。アミノ変性基としては、例えばアミノ基、アミノ基を有する有機基等が挙げられる。アミノ基を有する有機基としては、下記の化1が例示される。
【0018】
【化1】
(化1中、R及びRは、炭素数2〜4のアルキレン基であり、それぞれ同じでも異なっていてもよい。zは、0又は1の整数である。)
化1のアミノ変性基を有するアミノ変性シリコーンの具体例としては、例えばジメチルシロキサン・メチル(アミノプロピル)シロキサン共重合体(アミノプロピルジメチコン)、アミノエチルアミノプロピルメチルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体(アモジメチコン)等が挙げられる。
【0019】
アミノ変性シリコーンの25℃の動粘度の下限は、特に制限はないが、好ましくは20mm/s以上、より好ましくは50mm/s以上である。アミノ変性シリコーンの25℃の動粘度の上限は、特に制限はないが、好ましくは4000mm/s以下、より好ましくは800mm/s以下である。動粘度をかかる範囲に規定することにより、処理剤が付与された糸の毛羽の抑制効果をより向上させる。また、処理剤が付与された炭素繊維前駆体から得られた炭素繊維の強度をより向上させる。
【0020】
ジメチルシリコーンは、ポリシロキサンの側鎖、末端がすべてメチル基であるジメチルポリシロキサンを示す。ジメチルシリコーンの種類は、特に限定されず、公知のものを適宜採用できる。ジメチルシリコーンの25℃での動粘度の下限は、5mm/s以上、好ましくは10mm/s以上である。ジメチルシリコーンの25℃での動粘度の上限は、200mm/s以下、好ましくは100mm/s以下である。動粘度をかかる範囲に規定することにより、処理剤が付与された糸の毛羽の抑制効果をより向上させる。また、処理剤が付与された炭素繊維前駆体から得られた炭素繊維の強度をより向上させる。また、処理剤の乳化安定性をより向上させる。これらジメチルシリコーンは、単独で用いることも、また2種以上を併用することもできる。
【0021】
処理剤中における前記アミノ変性シリコーンと前記ジメチルシリコーンとの配合比率は、特に制限はない。処理剤が付与された炭素繊維前駆体から得られた炭素繊維の強度をより向上させる観点から、ジメチルシリコーンの含有量に対するアミノ変性シリコーンの含有量の質量比は、アミノ変性シリコーン/ジメチルシリコーン=99.9/0.1〜90/10であることが好ましい。
【0022】
前記非イオン界面活性剤、前記アミノ変性シリコーン、及び前記ジメチルシリコーンの配合比率に特に制限はない。処理剤が付与された炭素繊維前駆体から得られた炭素繊維の強度をより向上させる観点から、非イオン界面活性剤、アミノ変性シリコーン、及びジメチルシリコーンの含有割合の合計を100質量部とすると、非イオン界面活性剤を9〜85質量部、アミノ変性シリコーンを10〜90.9質量部、及びジメチルシリコーンを0.1〜5質量部の割合で含有することが好ましい。また、非イオン界面活性剤を9〜60質量部、アミノ変性シリコーンを36〜90.9質量部、及びジメチルシリコーンを0.1〜4質量部の割合で含有することがより好ましい。
【0023】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る炭素繊維前駆体(以下、前駆体という)を具体化した第2実施形態について説明する。本実施形態の前駆体は、炭素繊維前駆体に第1実施形態の処理剤が付着している。
【0024】
本実施形態の前駆体を用いた炭素繊維の製造方法は、まず炭素繊維前駆体の原料繊維に上記の処理剤を付着させて前駆体を得た後、製糸する製糸工程が行われる。次に、その製糸工程で製造された前駆体を200〜300℃、好ましくは230〜270℃の酸化性雰囲気中で耐炎化繊維に転換する耐炎化処理工程と、前記耐炎化繊維をさらに300〜2000℃、好ましくは300〜1300℃の不活性雰囲気中で炭化させる炭素化処理工程が行われる。
【0025】
製糸工程は、炭素繊維前駆体の原料繊維に第1実施形態の処理剤を付着させて得られた前駆体を製糸する工程であり、付着処理工程と延伸工程とを含む。
付着処理工程は、炭素繊維前駆体の原料繊維を紡糸した後、処理剤を付着させる工程である。つまり、付着処理工程で炭素繊維前駆体の原料繊維に処理剤を付着させる。またこの炭素繊維前駆体の原料繊維は紡糸直後から延伸されるが、付着処理工程後の高倍率延伸を特に「延伸工程」と呼ぶ。延伸工程は高温水蒸気を用いた湿熱延伸法でもよいし、熱ローラーを用いた乾熱延伸法でもよい。
【0026】
炭素繊維前駆体の原料繊維は、例えばアクリル繊維等が挙げられる。アクリル繊維としては、少なくとも90モル%以上のアクリロニトリルと、10モル%以下の耐炎化促進成分とを共重合させて得られるポリアクリロニトリルを主成分とする繊維から構成されることが好ましい。耐炎化促進成分としては、例えばアクリロニトリルに対して共重合性を有するビニル基含有化合物が好適に使用できる。炭素繊維前駆体の単繊維繊度については、特に限定はないが、性能及び製造コストのバランスの観点から、好ましくは0.1〜2.0dTexである。また、炭素繊維前駆体の繊維束を構成する単繊維の本数についても特に限定はないが、性能及び製造コストのバランスの観点から、好ましくは1,000〜96,000本である。
【0027】
処理剤は、製糸工程のどの段階で炭素繊維前駆体の原料繊維に付着させてもよいが、延伸工程前に一度付着させておくことが好ましい。また、延伸工程前の段階であればどの段階でも付着させてもよい。例えば紡糸直後に付着させてもよい。さらに延伸工程後のどの段階で再度付着させてもよい。例えば、延伸工程直後に再度付着させてもよいし、巻取り段階で再度付着させてもよいし、耐炎化処理工程の直前に再度付着させてもよい。製糸工程中、付着させる回数は特に限定されない。
【0028】
第1実施形態の処理剤を炭素繊維前駆体に付着させる割合に特に制限はないが、処理剤(溶媒を含まない)を炭素繊維前駆体に対し0.1〜2質量%となるように付着させることが好ましく、0.3〜1.2質量%となるように付着させることがより好ましい。かかる構成により、本発明の効果をより向上させる。第1実施形態の処理剤の付着方法としては公知の方法が適用でき、これには例えば、スプレー給油法、浸漬給油法、ローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法等が挙げられる。第1実施形態の処理剤を繊維に付着させる際の形態としては、例えば有機溶媒溶液、水性液等が挙げられる。
【0029】
本実施形態の炭素繊維前駆体用処理剤及び炭素繊維前駆体の作用及び効果について説明する。
(1)本実施形態では、炭素繊維前駆体の紡糸工程において処理剤が付与された糸の毛羽を抑制できる。また、処理剤が付与された炭素繊維前駆体から得られた炭素繊維の強度を向上させる。また、処理剤の乳化安定性をより向上させる。
【0030】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・本実施形態の処理剤には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、処理剤の品質保持のための安定化剤や制電剤として、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の通常処理剤に用いられる成分をさらに配合してもよい。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0032】
試験区分1(炭素繊維前駆体用処理剤の調製)
(実施例1)
アミノ変性シリコーン(A−1)を178g、ジメチルシリコーン(B−1)を2g、非イオン界面活性剤(N−1)を20gをビーカーに加えてよく混合した。撹拌を続けながら固形分濃度が30%となるようにイオン交換水を徐々に添加することで実施例1の炭素繊維前駆体用処理剤の30%水性液を調製した。
【0033】
実施例2〜7,9、参考例8、及び比較例1〜5の各炭素繊維前駆体用処理剤は、表1に示される各成分を使用し、実施例1と同様の方法にて調整した。
【0034】
【表1】
表1において、
A−1:25℃での動粘度が90mm/s、アミノ当量4000のアミノ変性シリコーン、
A−2:25℃での動粘度が650mm/s、アミノ当量2000のアミノ変性シリコーン、
A−3:25℃での動粘度が3500mm/s、アミノ当量2000のアミノ変性シリコーン、
A−4:25℃での動粘度が1500mm/s、アミノ当量3800のアミノ変性シリコーン、
A−5:25℃での動粘度が40mm/s、アミノ当量4000のアミノ変性シリコーン、
B−1:25℃で粘度が10mm/sのポリジメチルシロキサン、
B−2:25℃で粘度が100mm/sのポリジメチルシロキサン、
rb−1:25℃で粘度が1000mm/sのポリジメチルシロキサン、
rb−2:25℃で粘度が2mm/sのポリジメチルシロキサン、
N−1:炭素数12の脂肪族アルコールにエチレンオキサイドが10モル付加した非イオン性界面活性剤、を示す。
【0035】
試験区分2(炭素繊維前駆体及び炭素繊維の製造)
試験区分1で調製した炭素繊維前駆体用処理剤を用いて、炭素繊維前駆体及び炭素繊維を製造した。
【0036】
アクリロニトリル95質量%、アクリル酸メチル3.5質量%、メタクリル酸1.5質量%からなる極限粘度1.80の共重合体を、ジメチルアセトアミド(DMAC)に溶解してポリマー濃度が21.0質量%、60℃における粘度が500ポイズの紡糸原液を作成した。紡糸原液は、紡浴温度35℃に保たれたDMACの70質量%水溶液の凝固浴中に孔径(内径)0.075mm、ホール数12,000の紡糸口金よりドラフト比0.8で吐出した。
【0037】
凝固糸を水洗槽の中で脱溶媒と同時に5倍に延伸して水膨潤状態のアクリル繊維ストランドを作成した。これを試験区分1で調製した炭素繊維前駆体用処理剤の4%イオン交換水溶液を浸漬法にて炭素繊維前駆体用処理剤の固形分付着量が1質量%(溶媒を含まない)となるように給油した。その後、このアクリル繊維ストランドを130℃の加熱ローラーで乾燥緻密化処理を行い、さらに170℃の加熱ローラー間で1.7倍の延伸を施した後に糸管に巻き取ることで炭素繊維前駆体を得た。この炭素繊維前駆体から糸を解舒し、230〜270℃の温度勾配を有する耐炎化炉で空気雰囲気下1時間耐炎化処理した後、連続して窒素雰囲気下で300〜1,300℃の温度勾配を有する炭素化炉で焼成して炭素繊維に転換後、糸管に巻き取った。炭素繊維前駆体の毛羽の他、炭素繊維前駆体用処理剤の乳化安定性、炭素繊維の強度を以下に示されるように評価した。
【0038】
試験区分3(評価)
・毛羽の評価
炭素繊維前駆体の製造において、巻き取り装置の直前に設置した毛羽計数装置(東レエンジニアリング社製のDT−105)により測定した1時間当たりの毛羽数を以下の基準で評価した。結果を表1にまとめて示した。
【0039】
・毛羽の評価基準
◎:毛羽数が0〜5個。
○:毛羽数が6〜10個。
×:毛羽数が11個以上。
【0040】
・乳化安定性の評価
試験区分1で調製した固形分濃度が30%の炭素繊維前駆体用処理剤の水性液を25℃で3か月間静置した後、その外観を肉眼で観察し、以下の基準で評価した。結果を表1にまとめて示した。
【0041】
・乳化安定性の評価基準
◎:ほとんど分離、沈殿は見られず、良好な乳化性を保っていた。
○:わずかに沈殿が見られるが、乳化性は良好であり実用上問題ないレベルであった。
×:乳化が壊れて沈殿、分離が発生した。
【0042】
・炭素繊維強度の評価
JIS R 7606に準じて上記得られた炭素繊維の強度を測定し、以下の基準で評価した。結果を表1にまとめて示した。
【0043】
・炭素繊維強度の評価基準
◎:3.65GPa以上。
○:3.3GPa以上且つ3.65GPa未満。
×:3.3GPa未満。
【0044】
以上表1の結果からも明らかなように、本発明によれば、炭素繊維前駆体の紡糸工程における糸の毛羽抑制及び炭素繊維の強度低下抑制をできると共に、乳化安定性に優れるという効果がある。
【要約】
【課題】炭素繊維前駆体の紡糸工程における糸の毛羽を抑制できる炭素繊維前駆体用処理剤、かかる炭素繊維前駆体用処理剤が付着している炭素繊維前駆体を提供する。
【解決手段】本発明の炭素繊維前駆体用処理剤は、非イオン界面活性剤、アミノ変性シリコーン、及び25℃での動粘度が5〜200mm/sのジメチルシリコーンを含有することを特徴とする。前記アミノ変性シリコーン/前記ジメチルシリコーンの質量比は、99.9/0.1〜90/10であってよい。また、本発明の炭素繊維前駆体は、前記炭素繊維前駆体用処理剤が付着していることを特徴とする。
【選択図】なし