特許第6671709号(P6671709)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6671709
(24)【登録日】2020年3月6日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】電解液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0568 20100101AFI20200316BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20200316BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20200316BHJP
   C07C 251/24 20060101ALN20200316BHJP
【FI】
   H01M10/0568
   H01M10/0569
   H01M10/054
   !C07C251/24
【請求項の数】2
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2016-57145(P2016-57145)
(22)【出願日】2016年3月22日
(65)【公開番号】特開2017-174550(P2017-174550A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2019年2月28日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度 国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA) 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(73)【特許権者】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(73)【特許権者】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】公立大学法人首都大学東京
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(72)【発明者】
【氏名】江頭 港
(72)【発明者】
【氏名】松原 公紀
(72)【発明者】
【氏名】金村 聖志
(72)【発明者】
【氏名】棟方 裕一
(72)【発明者】
【氏名】秋田 康宏
【審査官】 松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/015369(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/115784(WO,A1)
【文献】 特開2007−188709(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/198658(WO,A1)
【文献】 国際公開第2003/020689(WO,A1)
【文献】 Zhuo Wang, et al.,Fluorescence Sensor Array for Metal Ion Detection Based on Various Coordination Chemistries: General Performance and Potential Application,Analytical Chemistry,2008年10月 1日,Vol.80, No.19,pp.7451-7459
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物(a)と、グリニャール試薬とを、溶媒中にて混合してマグネシウム錯体を得た後、当該マグネシウム錯体を、エーテル系溶媒に溶解させることを特徴とする電解液の製造方法。
化合物(a):1分子内に、窒素、酸素、硫黄、リン及びセレンからなる群から選択される少なくとも2種類の原子、及び少なくとも4個の炭素原子を含む化合物。
【化2】
[式中、Xは酸素原子、硫黄原子又はセレン原子であり;Yは窒素原子又はリン原子であり;Rはヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基であり;R〜Rはヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基、又は水素原子である。]
【請求項2】
前記化合物と前記グリニャール試薬とのモル比が1:1.5〜2.5である、請求項に記載の電解液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電解液、及び当該電解液を有するマグネシウム二次電池、並びに、電解液の製造方法に関する。より具体的には、本発明はマグネシウム二次電池用に好適な新規のマグネシウム錯体を含有する電解液に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、様々分野においてリチウムイオン二次電池が広く用いられている。しかしながら一価のイオンを用いるリチウムイオン二次電池では、理論容量密度の改良に限界があることが知られており、近年では二価のマグネシウムイオンをキャリアとするマグネシウム二次電池が注目を集めている。
【0003】
マグネシウム二次電池は、リチウムイオン二次電池に比して数倍〜十倍又はそれ以上の理論容量密度を有し得るとされている。加えてマグネシウム二次電池は、リチウムイオン二次電池のように、正極(例えば、コバルト系化合物からなる電極)や電解液(リチウムイオンを含有する電解液)に希少金属を使用せず、豊富な資源量を有し、安価且つ安全に使用可能なマグネシウム等の原料を電極や電解液に用いることができるという利点も有する。このような利点からも、マグネシウム二次電池の早期の実用化が望まれている。
【0004】
マグネシウムの電気化学的析出及び溶解反応を負極反応とする非水系マグネシウム二次電池の構築にあたり、マグネシウムの電析を可逆的に進行させる電解液は重要な要素である。
マグネシウム二次電池用の電解液としては、電解液中でハロゲン化マグネシウム錯体を生成するようなマグネシウム化合物を含むものが、充電時と放電時の電圧差、いわゆる過電圧の低減に有効であることが知られている。ハロゲン化マグネシウム塩自体は非水溶媒に難溶であるため、ハロゲン化アルキルマグネシウム錯体のテトラヒドロフラン溶液であるグリニャール試薬が古くから提案されている(非特許文献1参照)。しかしながら、非特許文献1に記載された電解液は、反応性の高いグリニャール試薬を用いているため酸化に対する安定性が低く大気中での取り扱いが困難である上、高電圧下で不安定となるため、実用には適さないという問題があった。またグリニャール試薬の溶媒に用いられるテトラヒドロフランは沸点が70℃程度であり、高温下にさらされる二次電池の電解液溶媒としては必ずしも適さない。しかしながらグリニャール試薬においては、テトラヒドロフランを蒸発し除去すると発火のおそれがあり、溶媒を交換することが困難な点も問題であった。
【0005】
グリニャール試薬の安定性を高める目的で、これまでグリニャール試薬に塩化エチルブチルアルミニウムなどルイス酸性を示す化合物を添加したものが報告されている(非特許文献2参照)。またハロゲン化マグネシウム錯体自体の安定性を向上させる目的で、配位子をアルキル基からアルコキシド基(非特許文献3参照)、あるいはアミノ基(非特許文献4参照)に変換した化合物が提案されている。しかしながら、グリニャール試薬の溶媒を交換する操作が可能な安定性と他の非水溶媒への高い溶解度を併せ持つマグネシウム錯体は、まだ提案されていない。
【0006】
一方、近年では、マグネシウムビストリフルオロメタンスルホンイミド(以下、「Mg(TFSI)」ということがある。)とトリグライムとを含有する電解液が提案されている(特許文献1及び非特許文献5参照)。この電解液には沸点の高いトリグライム溶媒が用いられており、また電解質塩であるMg(TFSI)も安定である点で、二次電池電解液として適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014−186940号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】C.Liebenow、Journal of Applied Electrochemistry、27巻、221〜225頁、1997年
【非特許文献2】Doron Aurbachら、Nature、407巻、724〜727頁、2000年
【非特許文献3】Chen Liaoら、Journal of Materials Chemistry A、2巻、581〜584頁、2014年
【非特許文献4】C. Liebenowら、Electrochemistry Communications、2巻、641〜645頁、2000年
【非特許文献5】Yuki Orikasaら、Scientific Reports、4、5622、2014年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
マグネシウム二次電池の電解液への適用を企図した非水溶媒電解液において、現状では2系統の選択肢が取り得るが、それぞれ個別の課題を抱えている。すなわち、非特許文献1〜4に記載されたハロゲン化マグネシウム錯体/テトラヒドロフラン電解液では、溶媒の沸点が低いこと、ハロゲン化マグネシウム錯体の安定性および非水溶媒への溶解度のいずれかが低いことが課題となっている。
一方、特許文献1及び非特許文献5に記載されたMg(TFSI)/トリグライム電解液では、マグネシウムの析出反応と溶解反応との間に室温で1V程度の過電圧が生じ、充放電電圧の差が発生する結果としてエネルギー損失を招いていた。そのため、より高効率で充放電が可能なマグネシウム二次電池用の電解液が求められている。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、良好な充放電効率を有し得るマグネシウム二次電池用の電解液であって、大気中、無溶媒下においても安定に取り扱い得る電解質を用いた電解液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の構造を有するマグネシウム錯体に着目し、当該マグネシウム錯体を電解液に用いることにより、大気中で取扱いが可能となり、且つ、過電圧を低減可能なことを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明の解液の製造方法は、以下の特徴を有するものである。
[1] 下記一般式(1)で表される化合物(a)と、グリニャール試薬とを、溶媒中にて混合してマグネシウム錯体を得た後、当該マグネシウム錯体を、エーテル系溶媒に溶解させることを特徴とする電解液の製造方法。
化合物(a):1分子内に、窒素、酸素、硫黄、リン及びセレンからなる群から選択される少なくとも2種類の原子、及び少なくとも4個の炭素原子を含む化合物。
【0013】
【化2】
【0014】
[式中、Xは酸素原子、硫黄原子又はセレン原子であり;Yは窒素原子又はリン原子であり;Rはヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基であり;R〜Rはヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基、又は水素原子である。]
【0015】
[2] 前記化合物と前記グリニャール試薬とのモル比が1:1.5〜2.5である、前記[1]に記載の電解液の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、マグネシウムの析出/溶解の間の電圧差を低減することができ、その結果として、充放電時のエネルギー損失を低減することが可能となり、高い効率で充放電を行うことができる。また、本発明の電解液で用いるマグネシウム錯体は、大気中で無溶媒の状態とした場合にも安定であることから、本発明の電解液はマグネシウム二次電池に実装し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】試験例1におけるH−NMRの結果を示す図である。
図2】試験例2におけるH−NMRの結果を示す図である。
図3】試験例2におけるSEM/EDX測定の結果を示す図である。
図4】実施例1におけるサイクリックボルタンメトリー測定の結果を示す図である。
図5】実施例1における、エネルギー分散型X線分析装置による電析物解析の結果を示す図である。
図6】実施例2におけるサイクリックボルタンメトリー測定の結果を示す図である。
図7】実施例3における定電流電析測定の結果を示す図である。
図8】実施例4におけるサイクリックボルタンメトリー測定の結果を示す図である。
図9】実施例4における交流インピーダンス測定の結果を示す図である。
図10】サイクリックボルタモグラムを説明する図である。
図11】比較例1、2、実施例6におけるマグネシウム析出/溶解のサイクリックボルタンメトリー測定の結果を示す図である。
図12】実施例7〜10におけるマグネシウム析出/溶解の測定の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<電解液>
本発明の電解液は、マグネシウム錯体と、エーテル系溶媒とを含有する電解液であって、前記マグネシウム錯体が、下記化合物(a)又は化合物(b)に由来する配位子と、ハロゲン原子と、マグネシウム原子とを含む。
化合物(a):1分子内に、窒素、酸素、硫黄、リン及びセレンからなる群から選択される少なくとも2種類の原子、及び少なくとも4個の炭素原子を含む化合物。
化合物(b):1分子内に、少なくとも2個の窒素原子、及び少なくとも4個の炭素原子を含む化合物(ただし、化合物(a)を除く。)。
【0019】
(化合物(a)又は化合物(b))
化合物(a)としては、1分子内に、窒素、酸素、硫黄、リン及びセレンからなる群から選択される少なくとも2種類の原子、及び少なくとも4個の炭素原子を含み、マグネシウム錯体を形成し得る化合物であれば限定されず、ベンゼン環を含む化合物であることが好ましく、下記式(1)で表される化合物であることがより好ましい。
【0020】
【化3】
[式中、Xは酸素原子、硫黄原子又はセレン原子であり;Yは窒素原子又はリン原子であり;Rはヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基であり;R〜Rはヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基、又は水素原子である。]
【0021】
式(1)で表される化合物(以下、「化合物(1)」ということがある。)は、そのまま、あるいはハロゲン化アルキルマグネシウム錯体との反応により一部が改変されることで配位子として機能し、マグネシウム原子又はマグネシウムイオンと共にマグネシウム錯体を形成するものである。
以下、化合物(1)について詳述する。
【0022】
・X
式(1)中、Xは酸素原子(−O−)、硫黄原子(−S−)又はセレン原子(−Se−)であって、式中の水素原子と結合してヒドロキシ基、チオール基又はセレノール基を形成する。なかでもXとしては、酸素原子が好ましい。
【0023】
・Y
式(1)中、Yは窒素原子(=N−)又はリン原子(=P−)であって、窒素原子が好ましい。
【0024】
・R
式(1)中、Rはヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基である。
のヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基は、脂肪族炭化水素基であってもよく、芳香族炭化水素基であってもよく、脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基との組み合わせであってもよい。
【0025】
脂肪族炭化水素基は飽和であっても不飽和であってもよいが、飽和であることが好ましい。また、脂肪族炭化水素基は、直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族炭化水素基、環構造を含む脂肪族炭化水素基のいずれであってもよい。
なかでも、脂肪族炭化水素基としては、炭素数1〜30の直鎖状、分岐鎖状、又は環状のアルキル基が好ましい。
アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルブチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、2,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、シクロへキシル基、n−ヘプチル基、2−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、2,2−ジメチルペンチル基、2,3−ジメチルペンチル基、2,4−ジメチルペンチル基、3,3−ジメチルペンチル基、3−エチルペンチル基、2,2,3−トリメチルブチル基、シクロヘプチル基、ノルボルニル基、n−オクチル基、イソオクチル基、シクロオクチル基、ノニル基、シクロノニル基、デシル基、3,7−ジメチルオクチル基、シクロデシル基、アダマンチル基、イソボルニル基、ウンデシル基、ドデシル基、シクロドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基等が挙げられる。
なかでも、炭素数1〜10の直鎖状、分岐鎖状、又は環状のアルキル基がより好ましく;メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルブチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、2,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、シクロへキシル基、n−ヘプチル基、2−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、2,2−ジメチルペンチル基、2,3−ジメチルペンチル基、2,4−ジメチルペンチル基、3,3−ジメチルペンチル基、3−エチルペンチル基、2,2,3−トリメチルブチル基、シクロヘプチル基、ノルボルニル基、n−オクチル基、イソオクチル基、シクロオクチル基等の炭素数1〜8のアルキル基が好ましく、炭素数1〜6のアルキル基がさらに好ましく;メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基又はn−ヘキシル基が特に好ましい。
【0026】
これらのアルキル基は、アルキル基の水素原子を置換する1価の置換基を有していてもよく;アルキル基中の炭素原子を含む基(メチレン基等)を置換するヘテロ原子を含む2価の置換基を有していてもよい。
【0027】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
ハロゲン化アルキル基としては、Rのアルキル基として上述したアルキル基において、その水素原子の一部または全部を上記ハロゲン原子で置換した基が挙げられる。
アルコキシ基としては、炭素数1〜10のアルコキシ基が好ましい。
【0028】
また、ヘテロ原子を含む2価の置換基としては、−NH−、−N(CH)−、−O−、−C(=O)−、−C(=O)−NH−、−NH−C(=NH)−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−O−等が挙げられ、窒素原子を含む2価の置換基が好ましい。
これら2価の置換基において、NH中のHはさらに、アルキル基で置換されていてもよい。アルキル基としては、Rのアルキル基として上述したものと同様の基を用いることができる。
具体的には、ジメチルアミノメチル基、ジメチルアミノエチル基、ジエチルアミノエチル基、ジエチルアミノメチル基、メチルエチルアミノメチル基、メチルエチルアミノエチル基、メチルプロピルアミノメチル基、メチルプロピルアミノエチル基等が挙げられる。
【0029】
芳香族炭化水素基は単環であっても多環であってもよく、炭素数は5〜30であることが好ましい。具体的には、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等が挙げられる。
芳香族炭化水素基は、芳香環の水素原子を置換する1価の置換基を有していてもよく;芳香環中の炭素原子がヘテロ原子で置換された複素環基であってもよい。
水素原子を置換する1価の置換基としては、アルキル基、ハロゲン原子、ハロゲン化アルキル基、アルコキシ基、酸素原子(=O)、水酸基、カルボキシ基等が挙げられる。アルキル基、ハロゲン原子、ハロゲン化アルキル基、アルコキシ基としては、上記同様である。
複素環基としては、ヘテロ原子として、窒素原子、酸素原子、硫黄原子を含む複素環基が好ましく、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、アゼピン、フラン、オキサゾール、チオフェン、キノリン、イソキノリン等の複素環から水素原子を1つ除いた基が挙げられる。
【0030】
また、脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基との組み合わせの基としては、芳香族炭化水素基の芳香環又は複素環において、水素原子の1つをアルキレン基で置換した基が挙げられる。アルキレン基の炭素数は1〜5が好ましい。より具体的には、ベンジル基、フェネチル基、1−ナフチルメチル基、2−ナフチルメチル基、1−ナフチルエチル基、2−ナフチルエチル基、2−ピリジルメチル基、2−ピリジルエチル基、3−ピリジルメチル基、3−ピリジルエチル基等が挙げられる。
【0031】
なかでもRとしては、直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基においてヘテロ原子として窒素原子を有する基、ヘテロ原子として窒素原子を有する芳香族炭化水素基、又は、ヘテロ原子として窒素原子を有する芳香族炭化水素基とアルキル基との組み合わせの基が好ましく;炭素数1〜10の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、炭素数1〜10の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基中の炭素原子が窒素原子で置換された基、又はピリジン環を有する基が特に好ましい。
【0032】
・R〜R
式(1)中、R〜Rはヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基、又は水素原子である。R〜Rの「ヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基」としては、上記Rの「ヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基」と同様のものが挙げられる。
なかでもR〜Rとしては、直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基又は水素原子が好ましく;炭素数1〜5のアルキル基又は水素原子がより好ましく;R〜Rが水素原子であり、且つ、Rが炭素数1〜5のアルキル基又は水素原子であることが特に好ましい。
【0033】
化合物(1)の好ましい具体例としては、下記式で表される化合物が挙げられる。
【0034】
【化4】
【0035】
【化5】
【0036】
化合物(1)の製造方法は特に限定されず、公知の方法により製造することができる。例えば、次式で表されるサリチルアルデヒド類にアミン類、アニリン類等(RNH)をアルコール等の溶媒中で反応させることにより合成することができる。
【0037】
【化6】
[式中、Xは酸素原子、硫黄原子又はセレン原子であり;Rはヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基であり;R〜Rはヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基、又は水素原子である。]
【0038】
化合物(a)の好ましい具体例としては、下記式で表される化合物が挙げられる。
【0039】
【化7】
【0040】
【化8】
【0041】
(マグネシウム錯体)
本発明におけるマグネシウム錯体は、前記の化合物(a)又は(b)に由来する配位子、ハロゲン原子、およびマグネシウムを有するものである。
ハロゲンとしては、塩素又は臭素が好ましい。
本発明におけるマグネシウム錯体は、後述する[電解液の製造方法]に従って製造されることが好ましい。
【0042】
化合物(a)又は化合物(b)とグリニャール試薬との反応により製造されるマグネシウム錯体は、多様な配位状態による複雑な構造をもつことがある。
例えば、化合物(1)とハロゲン化アルキルマグネシウム(RaMgQ)との反応では、次式(2)の様に、化合物(1)中の−XHの水素原子が抜けてアルカン(RaH)が生成する。また、(2)’式の反応が推定される。
【0043】
【化9】
【0044】
【化10】
[式中、Raはアルキル基であり、Qはハロゲン原子であり、Xは酸素原子、硫黄原子又はセレン原子であり;Yは窒素原子又はリン原子であり;Rはヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基であり;R〜Rはヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基、又は水素原子である。]
【0045】
更に、化合物(1)中の−C(R)=Yの炭素原子にRa(マイナスイオン)が付加する。具体的には、次式(3)の様に、−C(R)=Yの二重結合が還元されたマグネシウム錯体が生成すると推定される。
【0046】
【化11】
[式中、Raはアルキル基であり、Qはハロゲン原子であり、Xは酸素原子、硫黄原子又はセレン原子であり;Yは窒素原子又はリン原子であり;Rはヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基であり;R〜Rはヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基、又は水素原子である。]
【0047】
より具体的に、化合物(1)においてXを酸素,Yを窒素,Rをジメチルアミノエチル基,R〜Rを−H,Rをtert−ブチル基とする化合物(L1)と、塩化メチルマグネシウムとを、テトラヒドロフラン(THF)内で反応させたとき、X線回折により、下記式(4)〜(5)の反応と、下記式(6)、(7)のマグネシウム錯体の存在が推定できた。
【0048】
【化12】
【0049】
【化13】
【0050】
【化14】
【0051】
【化15】
【0052】
【化16】
【0053】
化合物(L1)と、グリニャール試薬とのモル比は、グリニャール試薬を過剰にして反応させることが好ましく、例えば、その比は1:1.5〜2.5とすることがより好ましく、1対2とすることが特に好ましい。
本発明において、化合物(a)又は(b)、或いは化合物(1)に由来する配位子を含むマグネシウム錯体は、化合物(a)又は(b)、或いは化合物(1)を配位子としていてもよく、上記のように、これらの化合物(a)又は(b)、或いは化合物(1)が、グリニャール試薬と反応して、一部が改変されて配位子としてもよい。
【0054】
本発明の電解液中、溶質であるマグネシウム錯体の含有量は特に限定されるものではないが、0.05〜1Mが好ましい。
【0055】
(エーテル系溶媒)
本発明の電解液は、エーテル系溶媒を含有する。
エーテル系溶媒は特に限定されず、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のモノエーテルであってもよく、ポリエーテルであってもよい。
ポリエーテルとしては、R11−O(CHCHO)−R12(R11、R12はそれぞれ独立に炭素数1〜10のアルキル基であり、nは1〜10の整数である。)で表される化合物が好ましく、エチレングリコールジメチルエーテル(グライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテルが好ましい例として挙げられる。
なかでもエーテル系溶媒としては、ポリエーテルが好ましく、トリグライムが特に好ましい。
エーテル系溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して混合溶媒として用いてもよい。
【0056】
(その他の成分)
本発明の電解液は、上述したマグネシウム錯体及びエーテル系溶媒に加えて、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては例えば、マグネシウム錯体以外の他の溶質や、エーテル系溶媒以外の他の溶媒が挙げられる。
【0057】
他の溶質としては例えば、マグネシウム二次電池電解液用の電解質として従来公知の化合物を用いることができ、例えばMg(N(SO21)(SO22))が挙げられる。
Mg(N(SO21)(SO22))中、R21及びR22は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数1〜10のハロゲン化アルキル基である。
21、R22のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
21、R22のアルキル基としては、炭素数1〜5が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、又はブチル基がより好ましい。
21、R22のハロゲン化アルキル基としては、上記R21、R22のアルキル基において、その水素原子の一部または全部を上記ハロゲン原子で置換した基が挙げられる。なかでも、フッ素化アルキル基が好ましく、パーフルオロアルキル基がより好ましく、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ノナフルオロブチル基が特に好ましい。
本発明の電解液においては、マグネシウム錯体を溶質の第二成分(添加剤成分)として用い、且つ、上述のような従来公知の電解質を主たる電解質(溶質)として用いてもよい。そのような場合、従来公知の電解質(例えばMg(N(SO21)(SO22)))は、上述のようなエーテル溶媒1モルに対して0.01〜0.5モルが好ましく、0.05〜0.4モルがより好ましく、0.1〜0.3モルがさらに好ましい。
【0058】
さらに、他の溶質としては、マグネシウム錯体の形成に用いられた化合物や、マグネシウム錯体形成時の副産物等も挙げられる。
例えば、マグネシウム錯体の形成時に、化合物(1)と、マグネシウム化合物としてマグネシウム塩であるMgX(Xはマグネシウムカチオンに対して対イオンとなり得る成分)とを用いた場合であれば、マグネシウム塩のXに由来する化合物が電解液中に存在する可能性がある。
また、マグネシウム化合物としてグリニャール試薬であるR31MgQ(R31は有機基であり、Qはハロゲン原子である。詳細は後述する。)を用いた場合であれば、R31MgQの化合物自体;R31の有機基のみに由来する化合物;R31Mgに由来する化合物;MgQに由来する化合物、等が電解液中に存在する可能性がある。
【0059】
他の溶媒としては、用いるエーテル系溶媒との相溶性が高い溶媒であれば特に限定されない。
【0060】
<マグネシウム二次電池>
本発明のマグネシウム二次電池は、マグネシウム又はマグネシウム合金を含む負極と、上述した電解液とを有する。
【0061】
(負極)
負極は、マグネシウム又はマグネシウム合金を含むものであって、マグネシウムイオン(Mg2+)を放出し得る電極であれば特に限定されるものではない。好ましくは、マグネシウムのみからなる負極、マグネシウムとアルミニウムとの合金からなる負極、マグネシウムとマンガンとの合金からなる負極、マグネシウムと亜鉛との合金からなる負極等が挙げられる。
【0062】
(正極)
正極は、マグネシウムイオンを好適に挿入及び脱離可能な材料であれば特に限定されるものではなく、例えば、金属酸化物、金属硫化物、硫黄含有有機ポリマー等の正極活物質と、金属薄膜等からなる正極集電体と、必要に応じて含有される導電助剤やバインダーとを有する電極が挙げられる。正極活物質、正極集電体、導電助剤、バインダーとしては従来公知の材料を用いて、公知慣用の方法により正極を形成することができる。
【0063】
<電解液の製造方法>
本発明の電解液は、前記化合物(a)又は化合物(b)と、グリニャール試薬とを、溶媒中にて混合してマグネシウム錯体を得た後、当該マグネシウム錯体を、エーテル系溶媒に溶解させる方法により製造されることが好ましい。
以下、詳細に説明する。
【0064】
まず、化合物(1)とマグネシウム化合物とを溶媒中で混合してマグネシウム錯体を得る。
より具体的には、化合物(1)を溶媒中に溶解させる。また、化合物(1)が溶解された溶媒と同一の溶媒又は当該溶媒と相溶性を有する溶媒中に溶解したマグネシウム化合物を準備する。そして、これらを混合することにより、マグネシウム錯体を得ることができる。
化合物(1)としては前記同様である。
【0065】
マグネシウム化合物としては、化合物(a)又は(b)、或いは化合物(1)と混合することにより、少なくとも化合物(a)又は(b)、或いは化合物(1)に由来する配位子を含むマグネシウム錯体を形成し得る化合物であれば特に限定されるものではないが、「R31MgQ」で表されるグリニャール試薬であることが好ましい。
グリニャール試薬において、R31は有機基であって、炭化水素基として、アルキル基、アルキレン基、フェニル基等が挙げられ、その他の有機基としてアルコキシ基等が挙げられ、マグネシウム錯体形成後に脱離するR31が揮発しやすいものとなることから、メチル基又はエチル基が特に好ましい。
グリニャール試薬において、Qはハロゲン原子であって、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、塩素原子又は臭素原子が好ましい。
【0066】
溶媒としては特に限定されるものではないが、グリニャール試薬の特性上、エーテル系溶媒を用いることが好ましく、テトラヒドロフラン又はジエチルエーテルが好ましい。
【0067】
化合物(1)とマグネシウム化合物との使用割合は特に限定されず、形成されるマグネシウム錯体の推定構造に応じたモル比で用いることが好ましい。
また、化合物(1)とマグネシウム化合物との錯体形成には時間を要する場合もあるため、溶媒中で混合した後、その状態で一定時間静置することも好ましい。静置の時間は化合物(1)及びマグネシウム化合物の構造、並びに、形成されるマグネシウム錯体の構造に応じて適宜決定することができるが、数日〜数週間が好ましく、1〜10日がより好ましく、3〜7日がさらに好ましい。
必要に応じて静置を行った後、用いた溶媒を揮発させることにより、固体状のマグネシウム錯体を得ることができる。揮発をさせる際には必要に応じて加熱などを行ってもよい。
【0068】
次いで、得られたマグネシウム錯体を、エーテル系溶媒に溶解させることにより、本発明の電解液を得る。
エーテル系溶媒としては前記同様のものを用いることができる。
このとき、エーテル系溶媒には、上述のような他の溶質(例えば、Mg(N(SO21)(SO22)))を溶解させておくことができる。
【実施例】
【0069】
[合成例1:化合物(L1)の製造]
丸底フラスコに撹拌子を入れ、エタノール200mL、N,N−ジメチルエチレンジアミン0.88g、3−tert−ブチルサリチルアルデヒド1.78gを加え、室温で24時間撹拌した。反応後、NMR分析により、サリチルアルデヒドが残っていないことを確認し、減圧下で低沸点の化合物を留去した。ジクロロメタンを加えて抽出し、分液ロートを用いた分液操作により親水性成分を除いたのち、溶媒を留去した。これにより、下記式(L1)で表される化合物(化合物(L1))を得た(収率:87%)。
【0070】
得られた化合物についてNMR分析を行うことにより、得られた化合物(L1)が下記式(L1)で表される化合物であることを確認した。
H−NMR:14.0 (s, 1H, OH), 8.37 (s, 1H, N=CH), 7.31 (dd, J = 1.6, 7.7 Hz, 1H), 7.10 (dd, J = 1.6, 7.7 Hz, 1H), 6.80 (t, J = 7.7 Hz, 1H), 3.71 (t, J = 7.0 Hz, 2H, =N-CH2-), 2.67 (t, J = 7.0 Hz, 2H, -CH2-N), 2.30 (s, 6H, N(CH3)2), 1.43 (s, 9H, butyl) ppm
13C−NMR:166.25 (N=CH), 160.48, 137.37, 129.57, 129.26, 118.68, 117.69, 60.00, 57.66, 45.77, 34.79, 29.32 ppm
【0071】
【化17】
【0072】
[合成例2:化合物(L2)の製造]
減圧コックを付けた丸底フラスコに撹拌子を入れ、エタノール40mL、3−tert−ブチルサリチルアルデヒド1.78g、2−ピコリルアミン1.09gを加え、真空ポンプを用いて減圧し、窒素ガス置換を行った。その後、遮光しながら室温で24時間撹拌した。反応後、NMR分析により、サリチルアルデヒドが残っていないことを確認し、減圧下で低沸点の化合物を留去した。エーテルに溶解させ、分液ロートに加えて分液処理を行った。有機相を取り出し、減圧下溶媒を留去した。これにより、下記式(L2)で表される化合物(化合物(L2))を得た(収率:89%)。
【0073】
得られた化合物(L2)についてNMR分析を行うことにより、得られた化合物が下記式(L2)で表される化合物であることを確認した。
H−NMR:13.8 (s, 1H, OH), 8.56 (d, J = 7.9 Hz, 1H), 8.52 (s, 1H, N=CH), 7.68 (dd, J = 1,8, 7,7 Hz, 1H), 7.39 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 7.34 (dd, J = 1.6, 7.7 Hz, 1H), 7.19 (t, J = 7.7 Hz, 1H), 7.15 (dd, J = 1.6, 7.6 Hz, 1H), 6.82 (t, J = 6.8 Hz, 1H), 4.92 (s, 2H, =N-CH2-), 1.44 (s, 9H, butyl) ppm
13C−NMR:167.52 (N=CH), 169.29, 158.03, 149.24, 137.34, 136.86, 129.92, 129.60, 122.27, 122.02, 118.68, 117.91, 64.90, 34.75, 29.26 ppm
【0074】
【化18】
【0075】
[合成例3:化合物(L5)の製造]
丸底フラスコに撹拌子を入れ、エタノール200mL、ベンジルアミン1.56g、3−tert−ブチルサリチルアルデヒド2.60gを加え、室温で24時間撹拌した。反応後、NMR分析により、サリチルアルデヒドが残っていないことを確認し、減圧下で低沸点の化合物を留去した。黄色固体が得られたため、1−プロパノールを20mL程度加え、ホットプレートであたためながら溶解させた。−30℃で1日以上静置したのち、上澄みの溶液を取り除いた。少量の冷却した1−プロパノールで結晶を洗浄し、得られた結晶を減圧乾燥させた。これにより、下記式(L5)で表される化合物(化合物(L5))を得た(収率:89%)。
【0076】
得られた化合物(L5)についてNMR分析を行うことにより、得られた化合物が下記式(L6)で表される化合物であることを確認した。
H−NMR:13.93 (s, 1H, OH), 8.45 (s, 1H, N=CH), 7.52 (m, 6H), 7.13 (dd, J = 1.6, 8.0 Hz, 1H), 6.81 (t, J = 8.0 z, 1H), 4.80 (s, 2H, =N-CH2-), 1.43 (s, 9H) ppm
【0077】
【化19】
【0078】
[合成例4:化合物(L6)の製造]
丸底フラスコに撹拌子を入れ、エタノール200mL、アニリン1.24g、3−tert−ブチルサリチルアルデヒド2.00gを加え、120℃で24時間撹拌した。反応後、NMR分析により、サリチルアルデヒドが残っていないことを確認し、減圧下で低沸点の化合物を留去した。オレンジ色固体が得られたため、ヘキサンを10mL程度加え、ホットプレートであたためながら溶解させた。−30度で1日以上静置したのち、上澄みの溶液を取り除いた。少量の冷却したヘキサンで結晶を洗浄し、得られた結晶を減圧乾燥させた。これにより、下記式(L6)で表される化合物(化合物(L6))を得た(収率:71%)。
【0079】
得られた化合物(L6)についてNMR分析を行うことにより、得られた化合物が下記式(L6)で表される化合物であることを確認した。
H−NMR:13.89 (s, 1H, OH), 8.64 (s, 1H, N=CH), 7.42 (m, 3H), 7.28 (m, 4H), 6.88 (t, J = 7.6 z, 1H), 1.48 (s, 9H) ppm
【0080】
【化20】
【0081】
[合成例5:化合物(L7)の製造]
丸底フラスコに撹拌子を入れ、エタノール200mL、ブチルアミン1.09g、3−tert−ブチルサリチルアルデヒド1.78gを加え、室温で24時間撹拌した。反応後、NMR分析により、サリチルアルデヒドが残っていないことを確認し、減圧下で低沸点の化合物を留去した。これにより、下記式(L7)で表される化合物(化合物(L7))を得た(収率:99%)
【0082】
得られた化合物(L2)についてNMR分析を行うことにより、得られた化合物が下記式(L2)で表される化合物であることを確認した。
H−NMR:14.20 (s, 1H, OH), 8.33 (s, 1H, N=CH), 7.31 (dd, J = 1.6, 8.0 Hz, 1H), 7.09 (dd, J = 1.6, 8.0 Hz, 1H), 6.80 (t, J = 8.0 z, 1H), 3.59 (dt, J = 1.0, 6.8 Hz, 2H, =N-CH2-), 1.70 (m, 2H), 1.45 (m, 2H), 1.44 (s, 9H), 0.96 (t, J = 7.5 Hz, 3H) ppm
【0083】
【化21】
【0084】
[試験例1:マグネシウム錯体(Mg−L1−Cl)の製造]
まず、グリニャール試薬であるCHMgClのテトラヒドロフラン(以下、「THF」ということがある。)溶液を用意した。上記において得られた化合物(L1)を、THFに溶解させた溶液を用意し、この化合物(L1)のTHF溶液を、グリニャール試薬のTHF溶液と室温のグローブボックス内において混合した。この時、化合物(L1)と、グリニャール試薬とのモル比は、1:2となるように調整した。
混合後、室温で4日間静置した後、1.0×10Pa以下に減圧しつつ110℃で加熱することによりTHFを揮発させて、固体状のマグネシウム錯体(Mg−L1−Cl)を得た。
得られたマグネシウム錯体のH−NMRの結果を図1に示す。図1中、下段は化合物(L1)のみの場合のNMRデータであり、上段はマグネシウム錯体とした際のNMRデータである。
H−NMRにおいて、OHプロトンのピークの消失と、芳香環に起因するピークのシフトとが確認されたことから、得られたマグネシウム錯体は、化合物(L1)に由来する配位子を含むことが確認でき、また、X線回折により、下記式(4)〜(5)の反応と、下記式(6)、(7)のマグネシウム錯体の存在が推定できた。(7)の様に、化合物(L1)のイミノ部位へのメチル基の付加は、窒素を含む同部位の柔軟性を増加させ、マグネシウムへの配位を容易にしているものと推測される。
【0085】
【化22】
【0086】
【化23】
【0087】
【化24】
【0088】
【化25】
【0089】
【化26】
【0090】
[試験例2:マグネシウム錯体(Mg−L1−Br)の製造]
グリニャール試薬としてCHMgBrを用いた以外は試験例1と同様にして、化合物(L1):CHMgBr=1:2のモル比で混合した。
混合後すぐに110℃で加熱してTHFを揮発させた場合と、室温で一定期間静置した後に、110℃で加熱してTHFを揮発させた場合との錯体構造について、H−NMR測定、SEM/EDX測定を行った。
【0091】
また、図2に、混合直後と混合後1週間静置後とを比較したH−NMRの結果を示す。
図3は、SEM/EDX測定の結果であって、混合直後と混合後1週間静置後とを、それぞれ3つのスポットに関して測定した結果である。
【0092】
図2に示すH−NMR測定の結果から、混合直後と混合後に1週間程度の静置を行った場合とでは、配位状態が異なる可能性が示唆された。特にH−NMRにおける2〜5ppm付近では明らかな違いが確認された。
また、図3に示すSEM/EDX測定の結果から、静置前後で含有されているMgとBrとの比率に変化がないことが確認できた。
【0093】
H−NMRにおいて、OHプロトンのピークの消失と、芳香環に起因するピークのシフトとが確認されたことから、得られたマグネシウム錯体は、化合物(L1)に由来する配位子を含むことが確認でき、下記式(8)〜(9)の反応と、下記式(11)のマグネシウム錯体の存在が推定できる。
【0094】
【化27】
【0095】
【化28】
【0096】
【化29】
【0097】
【化30】
【0098】
【化31】
【0099】
[実施例1]
上記合成例1、試験例2と同様にして、マグネシウム錯体(L1−Mg−Br)を得た。
【0100】
一方、Mg(SOCF/トリグライム(以下、「G3」ということがある。)=1:5(モル比)の溶液を用意した。そして、このMg(SOCF/G3溶液に、マグネシウム錯体(L1−Mg−Br)を最終濃度が0.2Mとなるように添加して電解液を得た。
この電解液と、厚み0.5ミリメートルの金板からなる作用極と、厚み0.1ミリメートルのマグネシウム板からなる対極と、直径4ミリメートルのマグネシウム棒(断面のみ)からなる参照極とを用いた3電極セルを作製し、アルゴン雰囲気下、室温(298K)で1サイクルの後、333Kで3サイクル、その後再度298Kで1サイクルのサイクリックボルタンメトリー測定を行った。測定結果として、サイクリックボルタモグラムを図4A〜Cに示す。
図4Aに示す結果から、本発明の電解液を用いた場合、マグネシウムの可逆的析出溶解反応が室温で非常に良好に行われることが確認された。また、図4B〜Cに示す結果から、当該析出溶解反応は333K(約60℃)条件で3サイクル電位走査させた際にも、その後室温(約25℃)条件に戻した際にも良好に行われることが確認できた。
さらに、本発明の電解液を用いた場合、特に333Kでのサイクル履歴により、Mg過電圧が大幅に低減され、充放電時の電圧差が大幅に低減されることが確認できた。
過電圧の評価方法を、図10のサイクリックボルタモグラムで示した。
【0101】
上記サイクリックボルタンメトリー測定後、電極の電析物に関し、A地点及びB地点の2カ所についてエネルギー分散型X線分析装置を用いて分析した。A地点、B地点、及びエリア内平均の結果を図5に示す。
Mg、O、Au、C、S、F等のピークのうち、Auは電析に用いている基板、C、S、Fは試料を洗浄する際取り除けなかった電解質塩の成分である。MgとOに当たる位置のピークが、同程度の大きさで現れており、MgOであることを示唆している。電析後測定までに大気中にさらしているため、電析したMgが酸化したものを観測したと考えられる。
図5により、電析したものが確かにマグネシウムであることを確認した。
【0102】
[実施例2]
上記合成例2に従って得られた化合物(L2)を用いた以外は上記試験例2等と同様にして、マグネシウム錯体(L2−Mg−Br)を得た。
【0103】
得られたマグネシウム錯体(L2−Mg−Br)を用い、且つ、マグネシウム錯体(L2−Mg−Br)のMg(SOCF/G3溶液への添加量を0.1Mとした以外は実施例1と同様にして、サイクリックボルタンメトリー測定を行った。
室温(298K)、1サイクル時のサイクリックボルタモグラムを図6Aに示す。また、その後333Kにおいて3サイクル電位走査した際のサイクリックボルタモグラムを図6Bに示す。
これらの結果から、マグネシウム錯体(L2−Mg−Br)を用いた際にも、マグネシウムの可逆的析出溶解反応が良好に行われることが確認できた。
【0104】
[実施例3]
マグネシウム電析において、定電流電析測定を行った。
Mg(SOCF/G3(モル比1:5)を用いた例を図7Aに、Mg(SOCF/G3(モル比1:5)に0.1Mのマグネシウム錯体(L1−Mg−Br)を添加した電解液を用いた例を図7Bに示す。
図7A〜Bの結果から、マグネシウム錯体を用いることにより、析出(充電)と溶解(放電)との電圧差が小さくなり、エネルギー効率が向上し得ることが確認できた。
【0105】
[実施例4]
サイクリックボルタンメトリー測定及び交流インピーダンス測定を行った。
具体的には、Mg(SOCF/G3(モル比1:5)電解液、Mg(SOCF/G3(モル比1:5)に、0.05M又は0.1Mのマグネシウム錯体(L1−Mg−Br)を添加した電解液を用いて、サイクリックボルタンメトリー測定を行った。温度を25℃、サイクル数を1とした以外は、実施例1と同様である。結果をそれぞれ図8A〜Cに示す。
また、このサイクリックボルタンメトリー前後の電解液を用いて、交流インピーダンス測定を行った結果を、図9A〜Cに示す。
図8A〜Cの結果から、0.05M又は0.1Mのマグネシウム錯体(L1−Mg−Br)を添加することにより、充放電特性が良好となることが確認できた。
また、図9A〜Cの結果から、0.05M又は0.1Mのマグネシウム錯体を添加することにより、特にサイクリックボルタンメトリー後(After CV)において、複素平面上で円弧状にプロットされ、円弧の直径も増大することから、CVにより電極上に皮膜が生じていることが確認された。
【0106】
[比較例1]
Mg(N(SO2CF322塩(Mg(TFSA)2)をトリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム、G3)に分子比1:5で溶解した基準電解液(Mg(TFSA)2/G3)を調製した。
この基準電解液を、ビーエーエス社製プレート電極測定セル(作用極:Au、参照極:Ag/Ag、対極:Mg)に加えて測定用セルとし、Solartron社1260+1287測定装置を用いて電位掃引法によりマグネシウムの電気化学的析出/溶解反応を行った。掃引速度は5 mV s-1、掃引範囲は-4〜1 V vs. Agとした。
この基準電解液中でのマグネシウム電気化学的析出/溶解の電位−電流曲線(サイクリックボルタモグラム)を図11(a)に示す。下向きの還元(マグネシウム析出;充電反応)電流が-2.2 V vs. Ag付近で流れはじめるのに対し、上向きの酸化(マグネシウム溶解;放電反応)電流は-1 V vs. Agから見られ、1.2 V程度の過電圧が生じている。
【0107】
[実施例5]
試験例1と同様にして、化合物(L1):CHMgBr=1:2のモル比で混合し、室温で4日間静置して、マグネシウム錯体(L1−Mg−Br)を得た。これを110℃で減圧乾燥した後に、Mg(N(SO2CF322 (Mg(TFSA)2)塩をトリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム、G3)に分子比1:5で溶解した電解液中に、0.1 mol L-1の濃度で溶解した。
この電解液を用いて、比較例1と同じく、ビーエーエス社製プレート電極測定セル(作用極:Au、参照極:Ag/Ag、対極:Mg)に加えて測定用セルとし、Solartron社1260+1287測定装置を用いて電位掃引法によりマグネシウムの電気化学的析出/溶解反応を行った。掃引速度は5 mV s-1、掃引範囲は−4〜1 V vs. Agとした。測定セルは自作の密封容器に入れ、環境試験機(ESPEC SU-221)で温度を制御した。
CHMgBrと化合物(L1)から合成した錯体を0.1 mol L-1溶解したMg(TFSA)/G3電解液中での、マグネシウム電気化学的析出/溶解の電位−電流曲線(サイクリックボルタモグラム)を図11(b)に示す。
過電圧が0.8 V程度に低減した。
【0108】
[実施例6]
実施例5に続いてさらに、このセルを一旦60℃に加温して電位掃引後、再び25℃に戻して掃引すると、過電圧がほどんどなくなり、また、マグネシウム析出と溶解の開始電位がほぼ一致した(図11(c))。
【0109】
[実施例7]
化合物(L1)を下記化合物(L4)に変更した他は、実施例6と同様にして、25℃→60℃→25℃の処理を行った場合の、化合物(L4)に由来する配位子を含むマグネシウム錯体を含有する電解液のサイクリックボルタモグラムを図12(e)に示す。
化合物(L4)に由来する配位子を含むマグネシウム錯体を添加したことにより、過電圧がほどんどなくなり、また、マグネシウム析出と溶解の開始電位がほぼ一致した。
【0110】
【化32】
【0111】
[実施例8]
化合物(L1)を、合成例3で合成した上記化合物(L5)に変更した他は、実施例6と同様にして、25℃→60℃→25℃の処理を行った場合の、化合物(L5)に由来する配位子を含むマグネシウム錯体を含有する電解液のサイクリックボルタモグラムを図12(f)に示す。
化合物(L5)に由来する配位子を含むマグネシウム錯体を添加したことにより、過電圧がほどんどなくなり、また、マグネシウム析出と溶解の開始電位がほぼ一致した。
【0112】
[実施例9]
化合物(L1)を、合成例4で合成した上記化合物(L6)に変更した他は、実施例5と同様にして、錯体を合成し、電解液を作成した。このとき、化合物(L6)に由来する配位子を含むマグネシウム錯体は、上記電解液への溶解度が十分ではなく、0.1 mol L-1の濃度で溶解せず、過飽和の状態の電解液とした。この他は、実施例6と同様にして、25℃→60℃→25℃の処理を行った場合の、化合物(L6)に由来する配位子を含むマグネシウム錯体を含有する電解液のサイクリックボルタモグラムを図12(g)に示す。
化合物(L6)に由来する配位子を含むマグネシウム錯体を添加したことにより、過電圧がほどんどなくなり、また、マグネシウム析出と溶解の開始電位がほぼ一致した。
【0113】
[実施例10]
化合物(L1)を、合成例5で合成した上記化合物(L7)に変更した他は、実施例6と同様にして、25℃→60℃→25℃の処理を行った場合の、化合物(L7)に由来する配位子を含むマグネシウム錯体を含有する電解液のサイクリックボルタモグラムを図12(h)に示す。
化合物(L7)に由来する配位子を含むマグネシウム錯体を添加したことにより、過電圧がほどんどなくなり、また、マグネシウム析出と溶解の開始電位がほぼ一致した。
図1
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図12