【文献】
ZHANG Ling, et al.,Direct electrochemistry and electrocatalysis based on film of horseradish peroxidase intercalated into layered titanate nano-sheets,Biosensors and Bioelectronics,2007年 3月30日,Vol.23, No.1,pp. 102-106
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
金属酸化物を含む層状ホスト化合物に金属化合物を反応させて、生成物のナノ結晶子が層状ホスト化合物の2次元結晶内部に複数配列した層状複合体を形成する第1の工程と、
前記層状複合体に酸溶液を用いて、前記ナノ結晶子を溶解することによって、前記層状複合体の各層に貫通孔を形成して、酸化物ナノシート前駆体を得る第2の工程と、
前記酸化物ナノシート前駆体に塩基性化合物を作用させて、層間を剥離させる第3の工程と、
を含む酸化物ナノシートの製造方法。
前記金属化合物は、バリウム化合物、ストロンチウム化合物、カルシウム化合物、ビスマス化合物、及び鉛化合物からなる群から選ばれる1種以上の金属化合物を含む請求項8に記載の酸化物ナノシートの製造方法。
前記第1の工程において、前記層状ホスト化合物は層状チタン化合物であり、Ti元素1molに対して、前記金属化合物の金属元素を0.05〜10molの割合で反応させる請求項9に記載の酸化物ナノシートの製造方法。
前記第1の工程において、40℃〜300℃の温度、0.01時間〜1000時間で水熱条件下で反応させる請求項8〜10いずれか1項に記載の酸化物ナノシートの製造方法。
請求項8〜13いずれか1項に記載の製造方法により得られた酸化物ナノシートを少なくとも1層、多孔性基材の表面を覆うように積層させる酸化物ナノシート膜の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の酸化物ナノシート及び酸化物ナノシート膜の実施形態について、図面を参照しながら以下に説明する。ただし、図の一部又は全部において、説明に不要な部分は省略し、また説明を容易にするために拡大または縮小等して図示した部分がある。上下等の位置関係を示す用語は、単に説明を容易にするために用いられており、本発明の構成を限定する意図は一切ない。
【0029】
<酸化物ナノシート>
本発明の酸化物ナノシートは、厚みが0.4〜3.0nmである金属酸化物の2次元結晶又はその積層体を含み、細孔径0.5〜200nmの貫通孔を有することを特徴とする。本発明の酸化物ナノシートをより具体的にイメージしやすくするため、
図1の生成モデルを用いて説明するが、本発明の酸化物ナノシートは、
図1に示す製造方法に限定されるものではない。
【0030】
図1は、本発明の一実施形態に係る酸化物ナノシート及び酸化物ナノシート膜の生成モデルを示す模式図である。本発明の酸化物ナノシートの製造方法は、
図1の生成モデルに限定されないものの、例えば、
図1に示す通り、層状ホスト化合物として(a)層状チタン酸(H
1.07Ti
1.73O
4・xH
2O(HTO))を準備し、HTOに水酸化バリウムを水熱反応させて、HTOの2次元結晶の内部にBaTiO
3ナノ結晶子を形成させ、(b)BaTiO
3/HTO(層状複合体に相当)を形成させる。次に、(b)BaTiO
3/HTOを酸処理して、BaTiO
3ナノ結晶子を溶解して、溶解部分を細孔とした(c)多孔性HTO(酸化物ナノシート前駆体に相当)を形成する。次に、(c)多孔性HTOの層間を塩基性化合物により剥離させて、(d)多孔性HTOナノシート(酸化物ナノシートに相当)を得ることができる。さらに、多孔性基材(図示せず)の表面を覆うように多孔性HTOナノシートを積層させることで、(e)多孔性HTOナノシート膜(酸化物ナノシート膜に相当)を得ることができる。
【0031】
本発明の酸化物ナノシートは、厚みが0.4〜3.0nmである金属酸化物の2次元結晶又はその積層体を含む。本発明では、酸化物ナノシートとは、層1枚からなる単層のナノシート(2次元結晶)だけでなく、複数層のナノシート(例えば、2〜3層の積層体)も含む概念として用いる。本発明における金属酸化物の2次元結晶の厚みは、金属酸化物の構成元素に依存するものの、2次元の結晶構造を構成する観点から、0.4〜3.0nmである。ここで、本発明における厚みとは、後述の通り、層1枚の厚みは、X線回折のピークより算出した面間隔により求められる値であり、複数層の厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)で積層数を確認し、その積層数をX線回折により求められる層1枚の厚みに乗じて算出する値である。本発明における金属酸化物の2次元結晶の厚みは、0.4〜2.5nmであることが好ましく、0.5〜2.0nmであることがより好ましい。
【0032】
例えば、金属酸化物がチタン酸又はその塩である場合、チタン酸の2次元結晶の厚みは、2次元の結晶構造を構成する観点から、0.4〜2.0nmであることが好ましく、0.5〜1.5nmであることがより好ましい。ここで、本発明におけるチタン酸の2次元結晶とは、チタンを中心として6個の酸素が配位した8面体構造を基本ユニットとし、このユニットが2次元平面上に広がったシート状の構造を言う。なお、非特許文献1によると、出発の層状化合物がK
0.80Li
0.27□
<0.01Ti
1.73O
4である場合、得られるチタン酸ナノシートの層1枚(即ち、Ti
0.87O
20.54−の組成で示される2次元結晶)の厚みが、AFM像より1.1〜1.3nmであることが開示されている。なお、AFMでの測定値は表面および粒子と基板間の吸着したイオンや分子の厚み分大きくなっていると推測される。非特許文献1の厚みの測定方法は、本発明の厚みの測定方法とは異なるため、多少差異はあると推測されるものの、本発明では、チタン酸の2次元結晶の厚みは、表面にイオンや分子を吸着していない場合、約0.4〜0.6nmの範囲であり、イオンや分子を吸着した場合、吸着したイオンや分子の大きさ分大きくなるように選択されることが好ましい。
【0033】
本発明の酸化物ナノシートの厚みは、層1枚からなる単層のナノシートである場合は、2次元結晶の厚みと同様の範囲であることが好ましく、複数層のナノシートも含む場合は、積層されている層数に依存するものの、2次元異方性の高いナノシートを構成する観点から、0.4〜20.0nmであることが好ましく、0.6〜10.0nmであることがより好ましく、0.6〜5.0nmであることが更に好ましい。
【0034】
本発明の酸化物ナノシートの平均粒子幅は、2次元異方性の高いナノシートを構成する観点から、0.1〜500μmであることが好ましい。ここで、本発明におけるナノシートの平均粒子幅とは、後述の通り、透過型電子顕微鏡(TEM)の写真中の粒子5個を無作為に選択して、その径が最も長くなる径(最長径)を粒子幅とし、その平均値を本発明における平均粒子幅とした。本発明における平均粒子幅は、製造効率の観点から、0.5〜300μmであることがより好ましく、1.0〜200μmであることが更に好ましい。このように、本発明では、厚み方向は厚みが0.4〜3.0nmと極めて薄いのに対して、横方向はその数百倍以上のサイズ(例えば、μmサイズ)の広がりを持った2次元異方性の高いナノシートを構成することができる。なお、平均粒子幅は、各種方法によりサイズを制御することができ、例えば、フラックス法等の合成方法を用いることにより、比較的大きい平均粒子幅の酸化物ナノシートを形成することができる。
【0035】
本発明における金属酸化物としては、2次元の結晶構造を構成できる金属酸化物又はその塩であれば特に制限されないものの、Ti系、Nb、Ta、Ti/Nb系、ペロブスカイト系、Mn、Co系、Mo、W系、Ru系、及びそれらの塩等が挙げられる。なお、酸化物ナノシートは、一般的には、負に帯電しているため、アミン類等の正に帯電した化合物が酸化物ナノシート間にインターカレートされた状態である(場合によっては、アミン類等の正に帯電した化合物と結合している状態である)と推測される。従って、本発明の酸化物ナノシートは、金属酸化物だけではなくその塩も含む場合もある。塩を構成する(場合によっては結合する)化合物としては、後述の塩基性化合物には、アミン類、アンモニウム水酸化物、ホスホニウム水酸化物等が挙げられる。
【0036】
細孔特性を制御する観点、及び親水性を有する観点から、本発明における金属酸化物としては、Ti系酸化物又はその塩を用いることが好ましい。例えば、Ti系酸化物として、チタン酸、Mg、Ni、Co、Fe、Al、Mn、Zr等の他元素を含有するTi系酸化物等が挙げられる。チタン酸としては、前述のような8面体構造の基本ユニットが2次元平面上に広がったものであれば特に制限されないものの、より具体的には、例えば、Ti
0.91O
2、Ti
0.87O
2、二チタン酸、三チタン酸、四チタン酸、五チタン酸、六チタン酸、レピドクロサイト型チタン酸等が挙げられる。他元素を含有するTi系酸化物として、Ti
0.8Co
0.2O
2、Ti
0.6Fe
0.4O
2等が挙げられる。細孔特性を容易に制御する観点から、Ti系酸化物が、チタン酸又はその塩であることが好ましい。
【0037】
その他の金属酸化物の具体例としては、例えば、Nb、Ta、Ti/Nb系酸化物として、Nb
6O
17、Nb
3O
8等のNb系、TaO
3等のTa系、Ti
2NbO
7、TiNbO
5等のTi/Nb系等が挙げられる。例えば、ペロブスカイト系酸化物として、Ca
2Nb
3O
10、La
2Nb
2O
7、SrTa
2O
7、Bi
4Ti
3O
12等が挙げられる。例えば、Mn、Co系酸化物として、MnO
2等のMn系、CoO
2等のCo系等が挙げられる。例えば、Mo、W系酸化物として、MoO
2等のMo系、W
2O
7等のW系等が挙げられる。例えば、Ru系酸化物として、RuO
2等のRu系が挙げられる。
【0038】
本発明の酸化物ナノシートは、細孔径が0.5〜200nmである。ここで、本発明における細孔径とは、後述の通り、透過型電子顕微鏡(TEM)の写真中の細孔10個を無作為に選択して、その平均値を本発明における細孔径とした。本発明における細孔径は、ナノ結晶子の大きさによって細孔径の大きさを制御する観点から、0.7〜150nmであることが好ましく、1.0〜100nmであることがより好ましい。さらに、細孔径の大きさは、目的とする用途によって前記範囲から選ぶことができ、例えば、RO膜用途である場合、2.0nm以下であることが好ましく、0.5〜2.0nmであることがより好ましい。また、例えば、UF膜用途である場合、1.0〜10nmであることが好ましく、MF膜用途である場合、50〜200nmであることが好ましく、70〜120nmであることがより好ましい。
【0039】
本発明の酸化物ナノシートは、貫通孔を有する。ここで、本発明における貫通孔とは、酸化物ナノシートの厚み方向に貫通した孔をいう。本発明では、酸化物ナノシートに形成された貫通孔が、細孔として寄与する。貫通孔の形状は、特に限定されないものの、例えば、円柱状等の形状をしており、ナノ結晶子の形状に依存する。なお、ナノ結晶子を溶解した空間がそのまま細孔となるという特性上、本発明の酸化物ナノシートには、貫通しない孔が存在する場合もある。
【0040】
本発明の酸化物ナノシートは、開孔率が1〜75%であることが好ましい。ここで、本発明における開孔率とは、後述の通り、開孔率(%)=(TEM像中の全細孔面積)/(TEM像中の粒子面積)×100で算出した。本発明における開孔率は、分離膜等に用いるとの観点から、5〜50%であることがより好ましく、10〜40%であることがさらに好ましい。
【0041】
本発明の酸化物ナノシートは、粉末状、顆粒状、ガラス状、ゲル状、分散液状等の各種の形態とすることができるが、使いやすさ、製造容易性の観点から、分散液状であることが好ましい。
【0042】
本発明の酸化物ナノシートは、層状化合物を構成する元素とは他の元素(例えば、磁性元素や希土類元素等)をドープすることもできる。
【0043】
<酸化物ナノシート膜>
本発明の酸化物ナノシート膜は、前記酸化物ナノシートが、多孔性基材の表面を覆うように少なくとも1層積層されている。例えば、
図1(e)に示した通り、多孔性基材(図示せず)の表面を覆うように多孔性HTOナノシート(酸化物ナノシートに相当)を積層させることで、(e)多孔性HTOナノシート膜(酸化物ナノシート膜に相当)を得ることができる。ここで、「多孔性基材の表面を覆うように少なくとも1層積層されている」とは、酸化物ナノシートが単層で多孔性基材の表面を覆うように広がっていることのみを意味するのではなく、酸化物ナノシートの積層体が多孔性基材の表面を覆うように広がっている場合や、単層で多孔性基材上に存在している部分と積層体として多孔性基材上に存在している部分とが混在しながら多孔性基材の表面を覆うように広がっている場合も含む。なお、部分によっては、酸化物ナノシートの積層体の積層数が異なっている場合もある。以降、酸化物ナノシート等で説明したものと同様な点については適宜説明を省略する場合がある。
【0044】
本発明では、前記酸化物ナノシートが、多孔性基材の表面を覆うように少なくとも1層積層されているが、分離膜用等の場合、圧力損失の観点から、1層〜10層積層されていることが好ましい。なお、酸化物ナノシートが積層されている場合の層間の距離は、剥離に使用された塩基性化合物に依存するものの、例えば、2.0nm以下であることが好ましく、0.5〜2.0nmであることがより好ましい。
【0045】
本発明における多孔性基材とは、前記酸化物ナノシートを支持する多孔性基材であれば、特に制限されず用いることができ、ろ過材や担体として既に使用されている公知の多孔性基材を用いることができる。例えば、多孔性基材の材質、形状及び大きさは、用途等に合わせて適宜選択することができる。多孔性基材の材質は、前記酸化物ナノシートが親水性であるため、親水性であることが好ましい。
【0046】
多孔性基材を構成する材料としては、無機材料、有機材料、無機/有機ハイブリッド材料等を挙げることができるが、バクテリア等の汚染を防止する観点からは、無機材料を用いることが好ましい。無機材料としては、アルミナ(α−アルミナ、γ−アルミナ、陽極酸化アルミナ等)、ジルコニア、ゼオライト、セリア、ジルコニア−セリア、シリカ、酸化チタニウム等のセラミックス、ステンレス、ハステロイ合金、インコネル合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金等の金属又は金属メッシュ等を挙げることができ、多孔性基材の作製、入手の容易さの点から、アルミナが好ましい。
【0047】
有機材料としては、セルロース繊維、セルローストリアセテート繊維、ポリエステル繊維、ポリオレフィン系不織布(例えば、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維等)、ポリアミド系不織布、又はこれらを不織布の一部に含む多層不織布、等が挙げられる。また、多孔性基材として、前記無機材料と前記有機材料とのハイブリッド材料を用いることもできる。
【0048】
多孔性基材の形状としては、板状、円筒状、断面多角形の管状、モノリス形状、スパイラル形状等いずれの形状でもよい。
【0049】
多孔性基材は、三次元状に連続した多数の微細な細孔を有するものである。この細孔の孔径は、分離膜の用途により異なるものの、0.003〜2μmであることが好ましく、0.05〜1μmであることが更に好ましい。
【0050】
多孔性基材の厚みは、特に制限はなく、その構造が安定に保持できれば良いが、通常、0.3〜2mmが例示できる。
【0051】
本発明の酸化物ナノシート膜は、荷電層を介して、前記酸化物ナノシートが積層されていることが好ましい。ここで、本発明における荷電層とは、多孔性基材の表面を覆うように酸化物ナノシートを積層させるための電荷を有する層である。荷電層は、酸化物ナノシートと反対の電荷を有するものであれば特に制限されないものの、通常、酸化物ナノシートは負に帯電しているため、荷電層は正に帯電させることが好ましい。
【0052】
正に帯電する荷電層を構成するポリカチオンとしては、一般的には、4級アンモニウム基およびアミノ基などの正電荷を帯びることのできる官能基を有するものが好ましく、例えば、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)(PDDA)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリビニルアミン(PVAm)、ポリアリルアミン塩酸塩(PAH)、ポリビニルピリジン(PVP)、ポリリジン、ポリ(ビニルピロリドン・N,N−ジメチルアミノエチルアクリル酸)共重合等のカチオン性高分子が挙げられる。製造効率の観点から、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)(PDDA)、ポリエチレンイミン(PEI)が好ましい。
【0053】
負に帯電する荷電層を構成するポリアニオンとしては、一般的に、スルホン酸、硫酸およびカルボン酸などの負電荷を帯びることのできる官能基を有するものが好ましく、例えば、ポリスチレンスルホン酸(PSS)、ポリビニル硫酸(PVS)、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸(PMA)、ポリマレイン酸およびポリフマル酸などが用いられる。
【0054】
これらの有機分子イオンは、いずれも水溶性または水と有機溶媒との混合液に可溶であるが、製造効率の観点から、水溶液として用いることが好ましい。前記高分子以外に、導電性高分子およびポリ(アニリン−N−プロパンスルホン酸)(PAN)などの機能性高分子イオン、ならびに、種々のデオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)および、ペクチンなどの荷電を有する多糖類などの荷電を持つ生体高分子を用いることもできる。
【0055】
荷電層を構成するポリカチオン又はポリアニオンの濃度は、用いるポリカチオン又はポリアニオンにより異なるものの、一般的には、0.1〜100g/Lを例示できる。
【0056】
<分離膜>
本発明の酸化物ナノシート膜は、細孔特性を制御されているため、各種の分離膜に用いることができる。分離膜としては、逆浸透膜(RO膜)、ナノろ過膜(NF膜)、精密ろ過膜(MF膜)、限外ろ過膜(UF膜)等が挙げられる。本発明における分離膜は、例えば、海水淡水化用の分離膜として用いることができる。細孔特性の制御のし易さから、RO膜、UF膜、MF膜等に用いられることが好ましく、RO膜に用いられることがより好ましい。
【0057】
例えば、本発明の酸化物ナノシート膜を分離膜(RO膜)として用いた場合の模式図を
図2に示す。
図2に示す通り、イオン類等の水和イオンは、細孔よりも大きく、細孔を通過できない。一方、水分子のみが選択的に細孔を通過できる。さらに、
図2には、水分子の細孔の通過の方法を示す。酸化物ナノシートが単層で多孔性基材の表面を覆うように広がっている部分では、水分子は単層の細孔を通過できる。また、酸化物ナノシートの単層が部分的に重なっており複数層となっている場合は、水分子は各層の細孔を通過することもできるし、各層の層間を通過することもできる。
【0058】
その他にも、分離膜として、有機分子(例えば、エタノール等)の液体分離膜、気体分子(例えば、水素、酸素等)のガス分離膜等として用いることが可能である。
【0059】
また、本発明の酸化物ナノシート膜は、イオン導電膜(例えば、燃料電池用水素イオン導電膜)等に用いることもできる。
【0060】
<酸化物ナノシートの製造方法>
本発明の酸化物ナノシートの製造方法は、金属酸化物を含む層状ホスト化合物に金属化合物を反応させて、生成物のナノ結晶子が層状ホスト化合物の2次元結晶内部に複数配列した層状複合体を形成する第1の工程と、前記層状複合体に酸溶液を用いて、前記ナノ結晶子を溶解することによって、前記層状複合体の各層に貫通孔を形成して、酸化物ナノシート前駆体を得る第2の工程と、前記酸化物ナノシート前駆体に塩基性化合物を作用させて、層間を剥離させる第3の工程と、を含むことを特徴とする。なお、例えば、
図1では、(a)から(b)が第1の工程、(b)から(c)が第2の工程、(c)から(d)が第3の工程に対応する。以降、酸化物ナノシート等で説明したものと同様な点については適宜説明を省略する場合がある。
【0061】
<第1の工程>
本発明の酸化物ナノシートの製造方法は、金属酸化物を含む層状ホスト化合物に金属化合物を反応させて、生成物のナノ結晶子が層状ホスト化合物の2次元結晶内部に複数配列した層状複合体を形成する第1の工程を含むことを特徴とする。ここで、層状複合体とは、母材となる層状ホスト化合物の2次元結晶を利用して、前記2次元結晶内部に生成したナノ結晶子が複数配列している層状の複合体をいう。
【0062】
層状ホスト化合物は、層状化合物であれば特に限定されないものの、例えば、層状金属カルコゲン化物、層状金属酸化物(例えば、層状チタン化合物、層状ペロブスカイト化合物、層状マンガン化合物、チタン・ニオブ酸塩、モリブデン酸塩等)、層状金属オキシハロゲン化物、層状金属リン酸塩(例えば、層状アンチモンリン酸塩等)、粘土鉱物若しくは層状ケイ酸塩(例えば、雲母、スメクタイト族(モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、フルオロヘクトライト等)、カオリン族(カオリナイト等)、マガディアイト、カネマイト等)、及び層状複水酸化物等が挙げられる。細孔特性の制御の観点からは、前述と同じ金属酸化物を含むものであることが好ましいため、層状ホスト化合物は、層状金属酸化物を含むことが好ましい。層状金属酸化物としては、具体的には、層状チタン化合物、層状マンガン化合物、層状ペロブスカイト化合物等が好ましく、層状チタン化合物がより好ましい。層状チタン化合物としては、具体的には、層状チタン酸水和物であることが好ましい。
【0063】
例えば、層状チタン酸水和物の組成は、一般式H
4x/3Ti
2−x/3O
4・nH
2O(ここでxは0<x<1.0の正の数であり、nは正の数である)で表すことができる。
【0064】
層状チタン酸水和物は、径方向の平均粒子径が0.5〜100μm、幅方向の平均粒子径が0.1〜100μm、厚み方向の平均粒子径が0.01〜1μmであるものが好ましい。
【0065】
層状チタン酸水和物は、例えば、一般式AxMy□zTi
(2−(x/4+ky/4+z))O
4で表される層状チタン酸塩(ここで、AはNa,K,Rb,Csからなる群の少なくとも一員の元素で、MはLi,Mg,Co,Ni,Zn,Mn(III),Fe(III)からなる群の少なくとも一員の元素であり、kはM元素の価数を表し、□はTiの欠陥部位を示す。xは0<x<1.0の正の数で、yは正の数で、zは0または正の数であり、0<y+z<1.0 かつx>yである)を、硝酸、塩酸等の酸と反応させて得ることができる。例えば、特開2007−022857号公報等に記載の方法により製造できるが、その他の公知の方法で製造することが可能である。この層状チタン酸塩の具体例としては、K
0.80Li
0.266Ti
1.733O
4、K
0.80Mg
0.40Ti
1.60O
4、K
0.575Fe
0.575Ti
1.425O
4、Cs
0.7Ti
1.825□
0.175O
4等が挙げられる。これらの化合物は、公知の各種の方法、例えば、焼結法、フラックス法、メルト法、金属アルコキシド法等により容易に製造されるが、種々の特定形状を付与するためにはフラックス法により製造されたものが好ましく用いられる。また、それぞれの成分となるよう適切な炭酸塩、酸化物の粉末試薬を化学量論比で混合し、1000℃前後で加熱する方法(固相合成法)を用いることもできる。
【0066】
本発明における第1の工程において、層状ホスト化合物の層間に存在するイオン(例えば、HTOの場合H
3O
+)を置換するための金属化合物の金属イオン源としては、Ba
2+,Sr
2+,Ca
2+等のアルカリ土類金属のイオンやPb
2+イオン、Bi
3+イオンをあげることができる。種々のイオン源を用いることができるが、複数のイオン源を用いる場合、最初にBa源を導入してBa系ナノ結晶子(例えば、層状チタン化合物にバリウム化合物を反応させた場合は、BaTiO
3ナノ結晶子)を形成すると、BaTiO
3ナノ結晶子はチタン酸水和物に比べて安定で、生成したBaTiO
3ナノ結晶子とK
+,Na
+等の他のイオンが接触しても、Ba
2+イオンが他のイオンで置き換えられにくいため、Ba源を最初に導入することが好ましい。
【0067】
第1の工程において、金属化合物は、細孔特性を容易に制御する観点から、バリウム化合物、ストロンチウム化合物、カルシウム化合物、ビスマス化合物及び鉛化合物からなる群から選ばれる1種以上の金属化合物を含むことが好ましい。
【0068】
Ba源として使用できるバリウム化合物としては、特に制限されないものの、水酸化バリウム、酸化バリウム、炭酸バリウム、塩化バリウム、硝酸バリウム、及び酢酸バリウムからなる群から選ばれる1種以上のバリウム化合物が好ましく、一般的な原料であり入手しやすさの観点からは、水酸化バリウムがより好ましい。任意の成分としてその他の有機酸バリウムを採用することもできる。
【0069】
Sr源として使用できるストロンチウム化合物としては、水酸化ストロンチウム、酸化ストロンチウム、炭酸ストロンチウム、塩化ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、硫酸ストロンチウム、及び酢酸ストロンチウムからなる群から選ばれる1種以上のストロンチウム化合物が好ましく、一般的な原料であり入手しやすさの観点から、水酸化ストロンチウムがより好ましい。任意の成分としてその他の有機酸ストロンチウムを採用することもできる。
【0070】
Ca源として使用できるカルシウム化合物としては、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、及び酢酸カルシウムからなる群から選ばれる1種以上のカルシウム化合物が好ましく、一般的な原料であり入手しやすさの観点から、水酸化カルシウムがより好ましい。任意の成分としてその他の有機酸カルシウムを採用することもできる。
【0071】
Bi源として使用できるビスマス化合物としては、水酸化ビスマス、酸化ビスマス、炭酸ビスマス、塩化ビスマス、硝酸ビスマス、硫酸ビスマス、及び酢酸ビスマスからなる群から選ばれる1種以上のビスマス化合物が好ましく、一般的な原料であり入手しやすさの観点から、酸化ビスマスがより好ましい。任意の成分としてその他の有機酸ビスマスを採用することもできる。
【0072】
Pb源として使用できる鉛化合物としては、水酸化鉛、酸化鉛、炭酸鉛、塩化鉛、硝酸鉛、硫酸鉛、及び酢酸鉛からなる群から選ばれる1種以上の鉛化合物が好ましく、一般的な原料であり入手しやすさの観点から、水酸化鉛がより好ましい。任意の成分としてその他の有機酸鉛を採用することもできる。
【0073】
層状ホスト化合物を構成する主元素1molに対して、前記金属化合物の金属元素を0.05〜10molの割合で反応させることが好ましく、0.1〜5molの割合で反応させることがより好ましく、0.2〜1molの割合で反応させることが更に好ましい。
【0074】
また、層状ホスト化合物が層状チタン化合物である場合、Ti元素1molに対して、前記金属化合物の金属元素を0.05〜10molの割合で反応させることが好ましく、0.1〜5molの割合で反応させることがより好ましく、0.2〜1molの割合で反応させることが更に好ましい。
【0075】
本発明における第1の工程では、層状ホスト化合物に金属化合物を水熱反応させて、ナノ結晶子を成長させることが好ましい。水熱反応により、ナノ結晶子が層状ホスト化合物の2次元結晶内部に複数配列した層状複合体を得ることができる。水熱処理時の温度としては、水熱反応の温度を高くするほど、ナノ結晶子が成長するため、最適な細孔径を得る観点から、40℃〜300℃が好ましく、60℃〜250℃がより好ましく、80℃〜200℃が更に好ましい。水熱処理時の時間としては、水熱反応の時間を長くするほど、ナノ結晶子の成長が促されるため、最適な細孔径を得る観点から、0.01時間〜1000時間が好ましく、0.1時間〜100時間がより好ましく、1時間〜48時間が更に好ましい。
【0076】
生成物のナノ結晶子の大きさは、得られる細孔径の大きさとほぼ同じとなるため、所望の細孔径となるようにナノ結晶子の大きさをコントロールすることが好ましい。例えば、細孔径が0.5〜200nmである酸化物ナノシートを得たい場合、ナノ結晶子の大きさも0.5〜200nmとなるように反応条件を設定することが好ましい。
【0077】
また、ナノ結晶子の大きさは、貫通孔にも寄与する。従って、例えば、得られる細孔を貫通孔としたい場合、層状複合体の各層(単層)の厚みよりも大きくなるよう、ナノ結晶子の2次元結晶厚み方向の大きさをコントロールすることが好ましい。なお、層状複合体の各層(単層)の厚みは、構成される組成に依存するものの、層状チタン酸水和物の場合、非特許文献1より得られるチタン酸ナノシートの層1枚(即ち、Ti
0.87O
20.54−の組成で示される2次元結晶)の厚みが、AFM像より1.1〜1.3nmであることが開示されている。従って、ナノ結晶子の2次元結晶厚み方向の大きさは、この範囲よりも大きくなるよう反応条件を設定することが好ましい。
【0078】
得られるナノ結晶子は、層状ホスト化合物と金属化合物とに依存し、金属化合物の金属イオンを含むナノ結晶子として得ることができる。また、得られる層状複合体は、層状ホスト化合物の層構成を母材とし、金属化合物の金属イオンを含むナノ結晶子を含むものとして得ることができる。例えば、層状チタン化合物にバリウム化合物を反応させた場合は、得られるナノ結晶子は、BaTiO
3ナノ結晶子であり、得られる層状複合体は、BaTiO
3ナノ結晶子/層状チタン化合物からなる層状複合体を得ることができる。
【0079】
本発明における第1の工程において、好ましい態様としては、例えば、層状チタン化合物にバリウム化合物を水熱反応させて、生成物のBaTiO
3ナノ結晶子が層状チタン化合物の2次元結晶内部に複数配列した層状複合体(BaTiO
3ナノ結晶子/層状チタン化合物)を形成することができる。より具体的には、例えば、
図1に示す通り、(a)層状チタン酸(H
1.07Ti
1.73O
4・xH
2O(HTO))に水酸化バリウムを水熱反応させて、HTOの2次元結晶内部にBaTiO
3ナノ結晶子を形成させ、(b)BaTiO
3/HTO(層状複合体に相当)を形成させることができる。
【0080】
本発明における第1の工程において、反応時に使用する溶媒は、溶解度をコントロールしてトポタクチック生成させる観点から、親水性溶媒であることが好ましい。親水性溶媒としては、親水性を有するものであれば特に制限されず、例えば、水、エタノール、メタノール、イソプロパノール等のアルコール、グリセリン、アセトン、アミン類等の水と自由に混和する溶媒をいい、例えば水とアルコールとの混合液のように、これらの親水性溶媒を2種以上含有する混合液であっても良い。なお、本発明の効果を損なわない程度に不純物が含まれていても良い。溶解度をコントロールしてトポタクチック生成させる観点から、水、又は水とアルコールとの混合液が好ましく、水がより好ましい。
【0081】
溶媒として、水とアルコールとの混合液を用いる場合、水とアルコールとの体積比は、溶解度をコントロールする観点から、100:0〜0:100が好ましく、95:5〜5:95がより好ましく、90:10〜10:90が更に好ましい。
【0082】
<第2の工程>
本発明の酸化物ナノシートの製造方法は、前記層状複合体に酸溶液を用いて、前記ナノ結晶子を溶解することによって、前記層状複合体の各層に貫通孔を形成して、酸化物ナノシート前駆体を得る第2の工程を含むことを特徴とする。ここで、本発明における酸化物ナノシート前駆体とは、細孔を有する多孔性ナノシートであるものの、層間が剥離される前のものであり、複数層が積層された状態のナノシートをいう。以降、その他で説明したものと同様な点については適宜説明を省略する場合がある。
【0083】
本発明における酸溶液は、ナノ結晶子を溶解することができるものであれば、酸の種類は特に限定されるものではないが、例えば、塩酸、硝酸、硫酸などの無機酸や、酢酸、乳酸などの有機酸などを挙げることができる。製造効率の観点から、無機酸が好ましく、具体的には、塩酸を用いることが好ましい。
【0084】
本発明における酸溶液の濃度としては、ナノ結晶子を溶解させつつ、母材を溶解させずにナノシート形状を維持する観点から、0.01〜5.0Mであることが好ましく、0.1〜4.0Mであることがより好ましく、1.0〜3.0Mであることが更に好ましい。
【0085】
本発明における酸処理時の温度としては、ナノ結晶子を溶解させる観点から、10℃〜80℃が好ましく、15℃〜50℃がより好ましい。酸処理時の時間としては、ナノ結晶子を溶解させる観点から、0.01時間〜1000時間が好ましく、0.1時間〜100時間がより好ましく、1時間〜48時間が更に好ましい。なお、酸処理時に使用する溶媒は、水であることが好ましい。
【0086】
本発明における第2の工程において、前記ナノ結晶子を酸処理により溶解することによって、その空間が細孔となる。また、その空間の形状は、細孔径の大きさおよび貫通孔に寄与する。なお、所望の大きさの細孔径とし、貫通孔とするためには、前述の第1の工程において、ナノ結晶子の反応条件を適宜設定することで可能となる。
【0087】
本発明における第2の工程において、好ましい態様としては、例えば、
図1に示す通り、(b)BaTiO
3/HTOに酸溶液を用いて、BaTiO
3ナノ結晶子を溶解して、BaTiO
3/HTOの各層に貫通孔を形成して、(c)多孔性HTO(酸化物ナノシート前駆体に相当)を形成させることができる。
【0088】
<第3の工程>
本発明の酸化物ナノシートの製造方法は、前記酸化物ナノシート前駆体に塩基性化合物を作用させて、層間を剥離させる第3の工程を含むことを特徴とする。ここで、本発明における層間を剥離するとは、層1枚からなる単層のナノシートとなるように剥離することを目的としているが、剥離条件によっては、複数層のナノシートも含まれてしまう場合があるため、単層のナノシート(2次元結晶)だけではなく、複数層のナノシート(積層体)をも含む概念として用いる。以降、その他で説明したものと同様な点については適宜説明を省略する場合がある。
【0089】
剥離のメカニズムは、以下の通りであると推測される。酸化物ナノシート前駆体に塩基性化合物を作用させると、酸化物ナノシート前駆体の層と層との間に塩基性化合物が入り込み、層間が膨潤する。層間の膨潤により、層間は百倍前後に大きく広がる。これにより、層間に働く相互作用は極端に低下した状態となり、溶液全体を振り混ぜるなど機械的シアを与えると、層1枚に近い状態にまでバラバラに剥離させるものと推測される。
【0090】
剥離処理時に用いられる塩基性化合物は、層間に導入することで、高い膨潤状態を誘起し、ホスト層間に働く強い静電的相互作用を低下させて、剥離に導くことができる化合物が好ましく、例えば、アミン類、アンモニウム水酸化物、ホスホニウム水酸化物等が好ましい。
【0091】
アミン類としては、第1級アミン、第2級アミン、及び第3級アミンから選ばれる1種以上が好ましく用いられるが、炭素数1〜10のアルキル基又はアルケニル基を有するアミン類がより好ましい。
【0092】
具体的には、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、トリプロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ペンチルアミン、ジペンチルアミン、トリペンチルアミン、ヘキシルアミン、ジヘキシルアミン、トリヘキシルアミン、ジメチルヘキシルアミン、ジメチルベンジルアミン、ジメチルオクチルアミン等が好ましく挙げられる。また、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の置換アミン類も用いることができる。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。なお、低コストの観点から、プロピルアミンが好ましい。
【0093】
アンモニウム水酸化物としては、炭素数2〜6のアルキル基を有するテトラアルキルアンモニウムヒドロキシド等の第4級アンモニウム水酸化物が好ましく、具体的には、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムムヒドロキシド、及びテトラペンチルアンモニウムヒドロキシドから選ばれる1種以上が特に好ましい。
【0094】
ホスホニウム水酸化物としては、例えば、第4級ホスホニウム水酸化物が好ましく、第4級ホスホニウム水酸化物としては、テトラエチルホスホニウムヒドロキシド、テトラプロピルホスホニウムヒドロキシド、テトラブチルホスホニウムヒドロキシド、テトラペンチルホスホニウムヒドロキシド、及びテトラヘキシルホスホニウムヒドロキシド等の炭素数2〜8のアルキル基を有するテトラアルキルホスホニウムヒドロキシド;テトラフェニルホスホニウムヒドロキシド;エチルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、ペンチルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、2−ジメチルアミノエチルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、メトキシメチルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド等のトリフェニルホスホニウムヒドロキシドが挙げられる。
【0095】
本発明における塩基性化合物の濃度は、層間を剥離する観点から、0.01〜5.0Mであることが好ましく、0.05〜4.0Mであることがより好ましく、0.1〜3.0Mであることが更に好ましい。
【0096】
本発明における剥離処理時の温度としては、層間を剥離させる観点から、10℃〜80℃が好ましく、15℃〜50℃がより好ましい。剥離処理時の時間としては、層間を剥離させる観点から、0.01時間〜1000時間が好ましく、0.1時間〜100時間がより好ましく、1時間〜48時間が更に好ましい。なお、剥離処理時に使用する溶媒は、水であることが好ましい。
【0097】
本発明では、剥離処理後に酸化物ナノシートを得るため、酸化物ナノシートは塩となり、剥離処理時に用いられる塩基性化合物と結合している場合もある。例えば、塩基性化合物としてアミン類を用いた場合、アミン類と結合した酸化物塩ナノシートとして存在する場合もある。より具体的には、酸化物ナノシートがチタン酸ナノシートであり、塩基性化合物がアミン類の場合、チタン酸ナノシートは、アミン類と結合したチタン酸塩ナノシートとして存在する場合もある。
【0098】
得られる酸化物ナノシートは、用いる用途により、粉末状、顆粒状、ガラス状、ゲル状、分散液状等の各種の形態とすることができるが、使いやすさ、製造容易性の観点から、分散液状であることが好ましい。酸化物ナノシート分散液とする場合、酸化物ナノシートは水に分散させることができ、分散向上剤等の任意の成分を含むことができる。酸化物ナノシート分散液とする場合の濃度は、0.01〜0.5M範囲が好ましい。また、分散液状のものを、加熱等により分散媒を除去することにより、粉末状とすることもできる。
【0099】
本発明における第3の工程において、好ましい態様としては、例えば、
図1に示す通り、(c)多孔性HTOに塩基性化合物を作用させて、多孔性HTOの各層を剥離させて、(d)多孔性HTOナノシート(酸化物ナノシートに相当)を得ることができる。
【0100】
本発明における第1〜第3の工程を含む工程を経ることで、本発明の酸化物ナノシート、つまり、厚みが0.4〜3.0nmである金属酸化物の2次元結晶又はその積層体を含み、細孔径0.5〜200nmの貫通孔を有する酸化物ナノシートを得ることができる。
【0101】
<酸化物ナノシート膜の製造方法>
本発明では、前記製造方法により得られた酸化物ナノシートを少なくとも1層、多孔性基材の表面を覆うように積層させ、酸化物ナノシート膜を製造することを特徴とする。膜の作製には、レイヤー・バイ・レイヤー法を用いることができる。以降、その他で説明したものと同様な点については適宜説明を省略する場合がある。
【0102】
用いる多孔性基材は、前述の通りだが、酸化物ナノシートを積層する前に、必要に応じて溶媒洗浄、酸洗浄、超音波洗浄等により、多孔性基材の表面を除塵、清浄化してもよい。多孔性基材の表面の有機物を分解する観点から、酸洗浄をすることが好ましい。酸洗浄の条件としては、例えば、アルコール/無機酸(例えば、メタノール/塩酸)の混合溶媒中で、1分〜1時間程度洗浄することができる。アルコール/無機酸の混合割合は、特に限定されないものの、例えば、2:1〜0.1:1程度が挙げられる。
【0103】
酸化物ナノシートを積層する実際の操作としては、(1)酸化物ナノシートが付着しやすくするため、多孔性基材の表面処理を行う。(2)多孔性基材を酸化物ナノシート分散液に浸漬させる。(3)蒸留水で洗浄する。(4)塩基性化合物を含む水溶液に浸漬させる。(5)蒸留水で洗浄する。(6)荷電層を構成するポリカチオンを含む水溶液に浸漬させる。(7)蒸留水で洗浄することで、多孔性基材上に酸化物ナノシートを1層積層することができる。つまり、(2)から(7)の一連の操作を1サイクルとして、1サイクルが1層分に相当するため積層する層数に応じて、サイクル数を決定することができる。例えば、多孔性基材上に酸化物ナノシートを6層積層させたい場合は、6サイクル行う。積層する層数は、各種の用途により、適宜決定することができる。
【0104】
(1)において、多孔性基材の表面には、電荷を有する層を形成することが好ましい。このような層は、前述の荷電層から選択することができる。通常、酸化物ナノシートは負に帯電しているため、正に帯電する荷電層から選択することが好ましい。なお、多孔性基材と酸化物ナノシートとの間の層((1)で用いる荷電層)と、酸化物ナノシートと酸化物ナノシートとを積層したときの間の層((6)で用いる荷電層)とは、同じ荷電層であっても良いし、違う荷電層から選択されたものであっても良い。
【0105】
(1)において、例えば、多孔性基材の表面に荷電層を形成させるためには、前述の荷電層を構成するポリカチオン溶液に、多孔性基材(必要に応じて、表面を酸洗浄した多孔性基材)を浸漬することにより、多孔性基材上に正に帯電する荷電層を形成させることができる。このような浸漬処理時の条件としては、例えば、ポリカチオン水溶液中で、時間は1分〜1時間程度、温度は15℃〜50℃程度の条件で、浸漬させることが好ましい。
【0106】
(2)において、正に帯電する荷電層を有する多孔性基材を酸化物ナノシート分散液に浸漬させることにより、正に帯電する荷電層上に、負に帯電する酸化物ナノシートが複数層固まった状態で積層することができる。このような浸漬処理時の条件としては、前記と同じく、例えば、酸化物ナノシート水溶液中で、時間は1分〜1時間程度、温度は15℃〜50℃程度の条件で、浸漬させることができる。(3)において、蒸留水で洗浄することにより、余分な酸化物ナノシートを除去することができる。
【0107】
(4)において、酸化物ナノシート(複数層を想定)/荷電層/多孔性基材の層構成となっているものを、前述の塩基性化合物を含む水溶液に浸漬させることにより、酸化物ナノシートが、例えば、複数層となっている場合には、複数層の層と層との間に塩基性化合物が入り込み、層間が膨潤し、層間に働く相互作用を低下させて、層間を剥離することができ、層1枚とすることができる。浸漬処理時の条件は、前述の通りである。(5)において、蒸留水で洗浄することにより、剥離された余分な酸化物ナノシートを除去することができる。
【0108】
(6)において、酸化物ナノシート(単層を想定)/荷電層/多孔性基材を、前述の荷電層を構成する構成するポリカチオンを含む水溶液に浸漬させることにより、負に帯電する酸化物ナノシートの表面にポリカチオンからなる荷電層を形成することができ、荷電層/酸化物ナノシート(単層を想定)/荷電層/多孔性基材の層構成とすることができる。浸漬処理時の条件は、前述の通りである。(7)において、蒸留水で洗浄することにより、余分なポリカチオンを除去することができる。
【0109】
(2)から(7)の一連の操作を1サイクルとして、1サイクルを経ることにより1層積層させることができる。
【実施例】
【0110】
以下、本発明に関し実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0111】
[評価方法]
(1)原子吸光分析
原子吸光分析装置(株式会社島津製作所、AA6200)を用いて測定した。
【0112】
(2)X線回折測定(XRD)
X線回折装置(株式会社リガク、RINT−2500)CuのKアルファ線、40kV、50mA)を用いて、走査間隔は0.03°、走査速度は5.0°/minで3〜60°の範囲で測定した。測定結果は、
図6〜7,9に示す。
【0113】
(3)透過型電子顕微鏡(TEM)
透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社、JEM−3010)(以下、TEM)を用いて加速電圧300kV、電流50μAでマイクログリッド上に載せた粉体サンプルを測定した。画像解析ソフト(Image J)を用いて2値化することにより、TEM像から、厚み方向の積層枚数、平均粒子幅、細孔径及び開孔率を求めた。評価結果を表1及び
図3〜5に示す。
【0114】
厚みは、TEMの写真中の粒子から層の枚数を求め、一層の厚みは酸化物ナノシートのX線回折により得られる面間隔から求めた。
【0115】
平均粒子幅は、TEMの写真中の酸化物ナノシート5個を無作為に選択して、その径が最も長くなる径(最長径)を粒子幅とし、その平均値を平均粒子幅とした。
【0116】
細孔径は、TEMの写真中の細孔10個を無作為に選択して、その平均値を細孔径とした。なお、細孔の横断面形状が円状の場合は、同一の横断面積を有する真円に置き換えた場合の直径を細孔径とし、楕円状等のように真円に置き換えることができない場合は、細孔の径が最も長くなる径(最長径)を細孔径とした。
【0117】
開孔率は、下記の算出式により算出した。
【0118】
開孔率(%)=(TEM像中の全細孔面積)/(TEM像中の粒子面積)×100
なお、細孔の横断面形状が円状の場合は、同一の横断面積を有する真円と仮定して、楕円状等のように真円に置き換えることができない場合は、細孔の径が最も長くなる径(最長径)を真円の直径と仮定して、全細孔面積を算出した。
【0119】
(4)紫外・可視吸収スペクトル(UV−vis)
UV−visスペクトルは装置(メーカー名島津製作所、装置名UV−2450)を用いて、波長290〜590nmまで測定した。
【0120】
[実施例1]
(層状チタン酸水和物の調製)
容量30mLの密閉容器内に、原子比でTi:K:Li=5:4:1となるように、酸化チタン3.5g(和光純薬工業株式会社)、水酸化カリウム2.0g(和光純薬工業株式会社)、水酸化リチウム1水和物0.37g(和光純薬工業株式会社)、水16mLを加えて、17rpmで撹拌しながら密閉状態で250℃、20時間加熱保持して、水熱条件下で反応させた。この時の昇温速度は300℃/時間であった。その後、容器内が室温になるまで放冷し、反応物を取り出して、吸引ろ過して、60℃で6時間乾燥した。得られた粒子は、K
0.80Li
0.27□
<0.01Ti
1.73O
4の層状粒子であった。なお、Tiの欠陥部位を示す□は一般に0.01未満の小さな正数である。層状粒子の組成は、原子吸光分析で求め、チタン酸カリウムリチウムであることはX線回折測定(XRD)で確認した。層状粒子9gを1MのHNO
3水溶液1000mL(層状粒子1モル当たりHNO
320モル)と室温で24時間、300rpmで撹拌しながら反応させて、層状構造のH
1.07Ti
1.73O
4・xH
2O(以下、HTO)を得た。
【0121】
(チタン酸バリウム/HTO層状複合体の調製)
容量50mLの密閉容器内に、原子比(モル比)でBa:Ti=0.25:1.0となるように、HTO 0.10g及び水酸化バリウム8水和物0.09g(和光純薬工業株式会社)を、純水30mLに加え、オートクレーブ装置に入れて、17rpmで撹拌しながら密閉状態で100℃、12時間加熱保持して、水熱条件下で反応させた。この時の昇温速度は300℃/時間であった。その後、容器内が室温になるまで放冷し、反応物を取り出して、蒸留水で洗浄し、吸引ろ過後、室温で乾燥した。このようにして、チタン酸バリウム/HTO層状複合体(以下、BaTiO
3/HTO)を得た。
【0122】
(チタン酸バリウムの溶解)
0.21gのBaTiO
3/HTOに2Mの塩酸(40mL)を加え、300rpmで撹拌させ24時間酸処理を行うことによりチタン酸バリウムを溶解させ、多孔性HTO(酸化物ナノシート前駆体)を得た。
【0123】
(多孔質HTOの剥離)
多孔性HTO0.1gを0.1Mのn−プロピルアミン(PA)水溶液100mL中に加え、300rpmで24時間撹拌させることにより、剥離処理を行い、多孔性HTOナノシート(酸化物ナノシート)を作製した。
【0124】
[実施例2〜7]
実施例1において、各条件を表1のように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で多孔性HTOナノシート(酸化物ナノシート)を作製した。
【0125】
[比較例1]
実施例1において、剥離処理を行わず(表1参照)、得られた多孔性HTO(酸化物ナノシート前駆体)を評価サンプルとした。
【0126】
[実施例8]
(酸化物ナノシート膜の作製)
酸化物ナノシート膜の作製には、レイヤー・バイ・レイヤー法を用いた。
【0127】
(1)多孔性基材(メルク製、GSWP02500、セルロース混合エステル)として、0.22μmの孔径を持つ親水性のフィルターを用い、あらかじめメタノール(特級):塩酸12M=1:1(体積比)で30分間洗浄し、2.5g/Lのポリエチレンイミン(PEI)水溶液で20分間処理することにより、多孔性基材表面に正の電荷を有する荷電層を形成した。
【0128】
(2)前記フィルターを実施例1で得られた酸化物ナノシート分散液に5分間浸漬させた。(3)その後、蒸留水で洗浄した。次に、(4)0.1Mのn−プロピルアミン(PA)水溶液に5分間浸漬させ、層間を剥離させた。(5)その後、蒸留水で洗浄した。次に、(6)フィルターを20g/Lのポリジアリルジメチルアンモニウム(PDDA、Polysciences,Inc社製の重量平均分子量(Mw)240,000)水溶液に5分間浸漬させた。(7)その後、蒸留水で洗浄した。
【0129】
上記(2)〜(7)の一連の操作を1サイクルとして、6サイクル繰り返して、多孔性基材上に6層の膜を成膜し、UV−visスペクトルから膜が形成されていることを確認した。
【0130】
(半透膜試験)
半透膜試験は
図11に示すようなガラス製の装置を用いて行った。装置はあらかじめ洗浄を行い、60℃の乾燥機で乾燥させたものを使用した。この装置のイオン水側のセルと純水側のセルの間に、実施例8にて作製した酸化物ナノシートが積層されたフィルターを、セルが傾かないように挟みこんだ。イオン水側のセルに25重量%NaCl水溶液を25mL入れ、純水側のセルに純水25mLを入れた。所定時間経過後のセルの水位変化を記録した。その結果を表2に示す。
【0131】
[実施例9]
(層状チタン酸水和物の調製)
容量30mLの密閉容器内に、原子比でTi:K:Li=5:4:1となるように、酸化チタン3.5g(和光純薬工業株式会社)、水酸化カリウム2.0g(和光純薬工業株式会社)、水酸化リチウム1水和物0.37g(和光純薬工業株式会社)、水16mLを加えて、17rpmで撹拌しながら密閉状態で250℃、20時間加熱保持して、水熱条件下で反応させた。この時の昇温速度は300℃/時間であった。その後、容器内が室温になるまで放冷し、反応物を取り出して、吸引ろ過して、60℃で6時間乾燥した。得られた粒子は、K
0.80Li
0.27□<
0.01Ti
1.73O
4の層状粒子であった。なお、Tiの欠陥部位を示す□は一般に0.01未満の小さな正数である。層状粒子の組成は、原子吸光分析で求め、チタン酸カリウムリチウムであることはX線回折測定(XRD)で確認した。層状粒子9gを1MのHNO
3水溶液1000mL(層状粒子1モル当たりHNO
320モル)と室温で24時間、300rpmで撹拌しながら反応させて、層状構造のH
1.07Ti
1.73O
4・xH
2O(以下、HTO)を得た。
【0132】
(チタン酸ストロンチウム/HTO層状複合体の調製)
容量50mLの密閉容器内に、原子比(モル比)でSr:Ti=0.25:1.0となるように、HTO 0.10g及び水酸化ストロンチウム8水和物0.07g(和光純薬工業株式会社)を、純水30mLに加え、オートクレーブ装置に入れて、17rpmで撹拌しながら密閉状態で100℃、12時間加熱保持して、水熱条件下で反応させた。この時の昇温速度は300℃/時間であった。その後、容器内が室温になるまで放冷し、反応物を取り出して、蒸留水で洗浄し、吸引ろ過後、室温で乾燥した。このようにして、チタン酸ストロンチウム/HTO層状複合体(以下、SrTiO
3/HTO)を得た。
【0133】
(チタン酸ストロンチウムの溶解)
0.19gのSrTiO
3/HTOに2Mの塩酸(40mL)を加え、300rpmで撹拌させ24時間酸処理を行うことによりチタン酸ストロンチウムを溶解させ、多孔性HTO(酸化物ナノシート前駆体)を得た。
【0134】
(多孔質HTOの剥離)
多孔性HTO0.1gを0.1Mのn−プロピルアミン(PA)水溶液100mL中に加え、300rpmで24時間撹拌させることにより、剥離処理を行い、多孔性HTOナノシート(酸化物ナノシート)を作製した。
【0135】
以上の分析及び評価の結果を表1〜2及び
図3〜10に示す。
【0136】
【表1】
【0137】
【表2】
【0138】
表1より、水熱処理時の温度を高くすると、細孔径が大きくなることが確認できた。実施例1〜7に示す通り、細孔特性を制御できた。一方、比較例1に示す通り、剥離処理しなければ、ナノシートとすることはできず、積層した多孔性HTO(酸化物ナノシート前駆体)のままで変化しなかった。
【0139】
図3は、実施例6において、
図1と同様の生成工程を経た場合における各工程でのTEM像を示す写真である。
図3(a)は、層状チタン酸水和物(H
1.07Ti
1.73O
4・xH
2O(HTO))のTEM像を示す写真である。
図3(b)は、BaTiO
3/HTO層状複合体のTEM像を示す写真である。
図3(b)のTEM写真中の黒い粒状のものがBaTiO
3ナノ結晶子である。
図3(c)は、多孔性HTO(酸化物ナノシート前駆体に相当)のTEM像を示す写真である。
図3(c)のTEM写真は、剥離前の状態なので、層が重なっており見えにくい部分があるものの、灰色の楕円状のものが多数存在するが、これらがBaTiO
3ナノ結晶子が酸溶解して形成した細孔である。
図3(d)は、多孔性HTOナノシート(酸化物ナノシートに相当)のTEM像を示す写真である。
図3(d)のTEM写真中の灰色の楕円状から円状のものが、細孔であり、これらがナノシートそのものに形成された細孔1つ1つに相当するものである。
【0140】
図4(a)は、実施例1の酸化物ナノシートのTEM像を示す写真である。
図4(a)からは、得られた酸化物ナノシート(写真中央の灰色部分)が円状から楕円状の形状で2次元的に広がったシート状であることが観測できた。平均粒子幅は、
図4(a)のスケールの写真数枚から求めた。
【0141】
また、
図4(a)のTEM写真中の左上の箇所から、実施例1の酸化物ナノシートは、単層ではなく二層が重なっていることが分かった。X線回折の結果から求めた一層の酸化物ナノシートの厚さ(0.9nm)から酸化物ナノシートの厚みが約1.8nmであることが分かった。
【0142】
図4(b)は、
図4(a)の拡大図である。なお、
図4(b)のTEM写真中の灰色の円状のものが、細孔である。
図4(b)から細孔径と開孔率を算出した。
【0143】
図5は、実施例7の酸化物ナノシートのTEM像を示す写真である。なお、
図5のTEM写真中の灰色の楕円状のものが、細孔であり、細孔径は80nmであった。
【0144】
図6は、(a)実施例4、(b)実施例3、(c)実施例2、(d)実施例1でのBaTiO
3/HTO層状複合体のX線回折を示す図である。層状チタン酸に由来するピークが観測され、BaTiO
3に由来するピークは小さすぎるため、観測できなかった。(b)実施例3、(c)実施例2、(d)実施例1を比較すると、Ba/Tiモル比が大きくなるほど、層状チタン酸に由来するピークが小さくなる傾向が見られた。これは、BaTiO
3ナノ結晶子の生成量が増えるためであると推測される。
【0145】
図7は、(a)実施例3、(b)実施例2での酸化物ナノシート前駆体のX線回折を示す図である。つまり、BaTiO
3/HTO層状複合体の酸処理による多孔性HTOのX線回折を示す図である。層状チタン酸に由来するピークや、アナターゼ(TiO
2)に由来するピークが観測され、2次元結晶の構造が維持されていることが分かった。アナターゼはBaTiO
3の溶解反応によって生成したと考えられる。
【0146】
図8は、(a)比較例1、(b)実施例1での酸化物ナノシート分散液にレーザー光を当てた時の写真である。
図8(a)の比較例1では、剥離処理する前の多孔性HTO粒子サイズが大きいため、レーザー光を当てても、光が反射散乱され、溶液中を通過できなかった。一方、
図8(b)の実施例1では、剥離処理して得られたHTOナノシートのコロイド溶液であるため、レーザー光を当てたところ、コロイドに特有なチンダル現象が観測された。このことから多孔性HTO粒子がナノシートに剥離されたことがわかった。
【0147】
図9は、多孔性HTO粒子中にはBaTiO
3ナノ結晶子が存在しないこと(つまり、BaTiO
3ナノ結晶子は全て酸溶解していること)を確認するために行ったものである。
図9は、実施例6において、(a)BaTiO
3/HTO層状複合体、(b)酸処理後の酸化物ナノシート前駆体、(c)酸処理後の酸化物ナノシート前駆体を900℃で2時間の熱処理した後でのX線回折を示す図である。
図9(a)では、BaTiO
3/HTO層状複合体であり、BaTiO
3に由来するピークが観測された。しかし、
図9(b)での、酸処理後の酸化物ナノシート前駆体では、BaTiO
3に由来するピークが観測されなかった。これは、BaTiO
3が酸処理により溶解したためと推測される。さらに、
図9(c)では、
図9(b)のサンプルを、900℃で2時間焼成させた。TiO
2(アナターゼとルチル)のみが生成したことからすべてのBaTiO
3ナノ結晶子が除去されたことがわかった。もしBaTiO
3ナノ結晶子が残りながら、小さすぎてBaTiO
3に由来するピークが観測されなかったのならば、焼成によってBaとTiの化合物が生成するはずであるが、それが観測されなかったため、酸処理ですべて除去された。
【0148】
図10では、レイヤー・バイ・レイヤー法を用いて作製した酸化物ナノシート膜のUV−visスペクトルを示す。HTOナノシートは、波長300〜400nmの範囲で光吸収を示す。積層回数の増加につれて波長300〜400nmの範囲の光吸収が増大した。このことから多孔性基材表面にHTOナノシートを積層した膜が形成されていることが確認できる。
【0149】
一方、表2の結果より、時間経過によってイオン水側の水位が上がっており、水がイオン水側へと移動したといえる。つまり、実施例8で得られた酸化物ナノシートが積層されたフィルター(酸化物ナノシート膜)は、水分子を透過する機能と、イオンを阻止する機能を有し、半透膜(逆浸透膜)として使用できることが確認できた。