(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。しかしながら、本発明は当該実施形態に限定されるものではない。
【0034】
〔ガス拡散電極材〕
本発明の実施形態に係るバイオ燃料電池用のガス拡散電極材は、導電性基材に固定した多孔質の炭素微粒子の細孔に、酵素、又は、酵素及びメディエーターが固定されてある。前記多孔質の炭素微粒子は多孔質構造体として構成され、細孔の一部又は全部が相互に連通されている。細孔は、メソ又はマクロ細孔であり、メソ細孔とは平均径が2〜50 nmの細孔であり、マクロ細孔とは平均径が50 nm 以上の細孔を意味するものとする。
【0035】
多孔質構造体とは、多数の細孔が分散した構造体を意味する。したがって、多孔質の炭素微粒子は、炭素が細孔の外郭部分を構成し、スポンジ状の構造をとることが好ましい。細孔は、他の細孔とは独立した単独孔の他、細孔の一部又は全部が隣接する細孔と相互に連通して連続孔を形成してもよい。三次元的な網目構造を有することが好ましい。
【0036】
かかる多孔質の炭素微粒子は、炭素前駆体と酸化マグネシウム(以下、「MgO」と略する場合がある。)前駆体との混合物を焼成し、得られた焼成物からMgO粒子を除去することによって作製されるMgO粒子を鋳型とする多孔質の炭素微粒子(以下、「MgO鋳型炭素微粒子」と称する場合がある。)として構成することができる。かかるMgO鋳型炭素微粒子は、MgO粒子が鋳型となり、MgO粒子が除去された後に同じ大きさ及び形状の細孔が形成されることとなる。これにより均質な細孔が規則的に整列しているMgO鋳型炭素微粒子が形成することができる。例えば、メソ孔とこのメソ孔の外郭を構成する炭素質壁を備えた多孔質炭素及びその製造方法が開示される特開2012-188309号公報に記載の方法で作製することができる。
【0037】
炭素前駆体としては、炭素を含有し、加熱により炭素化するものである限り特に限定はされない。例えば、炭素前駆体としては、ポリエチレンテレフタラート等のポリエステル系高分子、ポリアクリルアミドやポリアクリロニトリル等のアクリル系、及びポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレンやポリビニルピロリドン等のビニル系高分子、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系高分子、ポリアミド系高分子、ポリイミド系高分子、フェノール系高分子、エポキシ系高分子、並びに、石油系ピッチや石炭系ピッチ等のピッチ等が挙げられる。また、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン等の縮合多環炭化水素化合物、インドール、イソインドール、キノリン等の縮合複素環化合物、及びこれらの誘導体も利用可能である。
【0038】
MgO前駆体としては、加熱による熱分解により、MgO粒子を生成するものである限りは特に限定されない。MgOそのもののほか、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、さらに、酢酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、シュウ酸マグネシウムやグルコン酸マグネシウム等のマグネシウムの有機酸塩を利用することができる。
【0039】
炭素前駆体とMgO前駆体との混合は、両者を粉末どうしで混合してもよいし、両者を水溶液等の溶液として混合してもよく、また一方を粉末、他方を溶液として混合してもよい。混合は両者を均一に分布するように行うことが好ましい。
【0040】
加熱処理は、好ましくは不活性ガス雰囲気下、例えば、アルゴンや窒素雰囲気下、又は、減圧雰囲気下、例えば133Pa以下の雰囲気下で行う。加熱温度は、炭素前駆体から炭素以外の元素を脱離させて炭素化すると共に、MgO前駆体が熱分解によりMgO粒子を生成する温度で加熱する。加熱温度は低すぎると炭素化が進まないことから、好ましくは500〜1500℃、又は500〜1000℃、特に好ましくは、600〜800℃で加熱する。かかる温度で焼成することで、焼成後に炭素前駆体由来の官能基の一部がMgO鋳型炭素微粒子に残存し、MgO鋳型炭素微粒子は良好な撥水性を有すると共に、酵素の触媒活性の発現に好適な親水性環境を提供することできる。
【0041】
続いて、得られた焼成物からMgO粒子を除去する。MgO粒子の除去は、MgO粒子を溶解可能な溶液を用いて行うことができ、例えば硫酸、塩酸、酢酸、クエン酸、ギ酸等の酸性溶液、又はお湯等で洗浄又は浸漬等を行い、MgO粒子を溶解し除去する。酸性溶液を用いる場合には、炭素の性状の変化を抑制すべく弱酸性溶液を用いることが好ましい。
【0042】
MgO粒子の除去後に、更に炭素を結晶化させるため追加の加熱処理を行ってもよい。ここでの加熱処理も好ましくは不活性ガス雰囲気下、例えば、アルゴンや窒素雰囲気下、又は、減圧雰囲気下、例えば133Pa以下の雰囲気下で行う。加熱温度は、非晶質の炭素が結晶化する温度で加熱する。好ましくは800℃以上で加熱する。熱効率の観点から2500℃以下で行うことが好ましいが、酵素の触媒活性の発現に好適な親水性環境が付与されたMgO鋳型炭素微粒子を提供するためには、800〜1000℃で行うことが特に好ましい。
【0043】
加熱処理後の炭素は、微粒子として成形するため粉砕処理を行うことが好ましい。粉砕処理は、圧縮力、剪断力、衝撃力、摩擦力を利用して行うことができ、これらの2以上の複数の力を組みわせてもよい。具体的には、ボールミル、遊星ミル、ジェットミル、乳鉢等を利用することができる。
【0044】
MgO粒子を鋳型とすることで、その表面及び内部に均質な多数の細孔が分散したMgO鋳型炭素粒子を得ることができる。ここで、好ましくは、均質な細孔とは、均一の細孔径を有する細孔が規則的に整列していることを意味する。
【0045】
MgO鋳型炭素微粒子の細孔の平均径は、鋳型であるMgO粒子によって決定され、MgO粒子と同じ大きさの細孔が形成される。細孔の平均径は、大きすぎると細孔に固定した酵素やメディエーターの脱離を効果的に抑制できず、また、小さすぎると細孔に酵素やメディエーターを固定することができない。したがって、細孔の大きさは、細孔に固定する酵素やメディエーターの種類に応じて適宜設定することができるが、メソ又はマクロスケール程度の細孔として構成される。ここで、メソ細孔とは平均径が2〜50 nmの細孔であり、マクロ細孔とは平均径が50 nm 以上の細孔である。具体的には、平均径が30〜100 nmであることが好ましく、特に好ましくは35〜50 nmである。このように構成することにより、MgO鋳型炭素微粒子の細孔に酵素やメディエーターを安定的かつ強固に固定することができる。
【0046】
また、細孔の形状についても、鋳型であるMgO粒子の形状に応じて決定される。形状について特に制限はないが、略球状、多面体状等とすることができ、等方形状及び異方形状の別は問わない。また、略球状とは、完全な球状の他、楕円球状、球状に近い多面体状等を含む。多面体状とは、多角錘状、多角柱状等を含む。さらに、細孔分布についても、鋳型であるMgO粒子の混合割合を変更することにより適宜調整することができる。
【0047】
MgO鋳型炭素微粒子の粒子径は、固定する酵素やメディエーターの種類や固定する導電性基材の種類等に応じて適宜設定することができるが、好ましくは、0.3〜2μmであり、特に好ましくは、0.5〜1μmである。
【0048】
MgO鋳型炭素微粒子は、市販品を利用することができ、例えば東洋炭素株式会社から入手できるCNovel(登録商標)(Mesoporous Carbon)サンプルキット grade: P(4)050を利用することが好ましい。
【0049】
MgO鋳型炭素微粒子を固定する導電性基材は、好ましくは、多孔質基材であり、特に好ましくは導電性繊維の集合体として構成する。例えば、導電性繊維よりなる織布及び不織布等が挙げられる。導電性繊維の材質としては、炭素、アルミニウム、銅、金、白金、銀、ニッケル、パラジウム等の金属又は合金、SnO
2、In
2O
3、WO
3、TiO
2等の導電性酸化物等、当該技術分野で公知の材質の導電性の物質を利用することができる。これらの物質は1種類で利用してもよく、また2種類以上を混合して利用してもよい。好ましくは、カーボンクロス等の炭素繊維の織布やカーボンフェルト等の炭素繊維の不織布等やグラッシーカーボン等の炭素基材を利用することができる。導電性基材は単層又は2種以上の積層構造をもって構成してもよい。さらに大きさ及び形状等は特に限定されるものではなく、利用目的に応じて適宜調整することができる。
【0050】
導電性基材へのMgO鋳型炭素微粒子の固定は、当該技術分野で公知の方法の何れを用いて行ってもよい。例えば、MgO鋳型炭素微粒子を適当な溶媒に分散させた分散液を、導電性基材に塗布、含浸することにより固定することができる。分散液は、超音波処理等により懸濁させてスラリーとして調製してもよい。また、必要に応じて、結着剤を用いてもよい。塗布の方法としては、スクリーンプリント法、ロールコート法、ドクターブレード法、スピンコート法、スプレーによる噴霧法等を利用することができる。また、電着法を利用することもでき、例えば、MgO鋳型炭素微粒子を適当な溶媒に分散させた分散液中に導電性基材と対向電極とを浸漬し、当該導電性基材と対向電極との間に電流を流して導電性基材にMgO鋳型炭素微粒子を固定することもでき、必要に応じて結着剤を用いてもよい。
【0051】
結着剤は、導電性基材とMgO鋳型炭素微粒子を結着させ導電性基材からMgO鋳型炭素微粒子の脱離を抑制すると共に、電極材に撥水性を付与しガス拡散電極材としての機能の発揮に貢献する。結着剤は、MgO鋳型炭素微粒子を導電性基材に結着させ得る物質であれば、当該技術分野で公知の物質を利用することができる。例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンやポリヘキサフルオロプロピレン等のフッ素系高分子、ポリシロキサン系高分子等を利用することができる。結着剤は1種類を単独で用いてもよいし、又は2種類以上併用してもよい。好ましくは、撥水性や化学安定性等に優れることから、フッ素系高分子材料を利用することができる。
【0052】
導電性基材へのMgO鋳型炭素微粒子の固定量は、導電性基材の種類及びMgO鋳型炭素微粒子の形状等により適宜変更することができるものであるが、導電性基材1cm
2当たり、0.05〜0.5 mgのMgO鋳型炭素微粒子を固定することが好ましい。また、結着剤を用いる場合には、結着剤が多すぎると電極材の電子移動抵抗が大きくなり円滑な電子の移動を妨げるために好ましくないことから、MgO鋳型炭素微粒子に対して10〜60%で結着剤を混合することが好ましい。
【0053】
本実施の形態に係るバイオ燃料電池用のガス拡散電極材で利用される酵素は、当該ガス拡散電極材はバイオ燃料電池の正極側電極として利用するものであるので、酸素の還元反応が触媒する酵素である限りは、当該技術分野で公知の何れの酵素を利用することができる。例えば、ビリルビンオキシダーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ、ラッカーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ等の酸化還元酵素の利用が好ましい。酵素は、一種類のみを単独で、若しくは複数種類の酵素を組み合わせて利用することができる。補酵素及び補因子要求性の有無についても特に制限はない。特に好ましくは、ビリルビンオキシダーゼである。
【0054】
ここで、ビリルビンオキシダーゼは、銅イオンを活性中心に持つマルチ銅オキシダーゼであり、ビリルビンからビルベルジンへの酸化反応を触媒する酵素である。基質から取り出した電子を用いて分子状酸素を電子還元し水分子を生成する反応を触媒するという性質を有することから、バイオ燃料電池の正極側触媒としての利用価値が高い酵素である。
【0055】
酵素の由来は特に制限されない。したがって、天然に存在する生物体から適当なタンパク質の単離精製技術により精製された天然由来のものであってよく、また遺伝子工学的手法により組み換え体として製造されたものあるいは化学的に合成されたものあってもよい。さらには、市販品を利用することもできる。
例えば、天野エンザイムから入手できるMyrothecium verrucaria由来のビリルビンオキシダーゼ(MvBOD)等を利用することができる。特に好ましくは、
UniProtKB / Swiss-Prot: Q12737
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/Q12737)で開示されるアミノ酸配列を有するビリルビンオキシダーゼを利用することができる。
【0056】
遺伝子工学的手法により製造する場合には当該技術分野で公知の方法を利用することができる。具体的には、所望の酵素遺伝子の塩基配列を基にして作成したDNAをプローブとして用いるハイブリダイゼーション法により、生物体由来のゲノムDNA、全RNAから逆転写反応によって合成したcDNA等から所望の酵素をコードする核酸分子を調製することができる。ここで用いられるプローブは、所望の酵素と相補的な配列を含むオリゴヌクレオチドであり、常法に基づいて調製することができる。例えば、化学合成法の他、既に標的となる核酸が取得されている場合にはその制限酵素断片等が利用可能である。
【0057】
また、所望の酵素遺伝子の塩基配列を基にして作成したプライマーとして用いるPCRによっても同様に、生物体由来のゲノムDNA、cDNAを鋳型として所望の酵素をコードする核酸分子を調製することができる。PCRを利用する場合に用いられるプライマーは、所望の酵素をコードする核酸配列と相補的な配列を含むオリゴヌクレオチドであり、上記プローブと同様にして常法に基づいて調製することができる。化学合成法に基づきプローブ又はプライマーを調製する場合には、合成に先立って標的核酸の配列情報に基づいてプローブ又はプライマーの設計を行う。
【0058】
ここで、相補的とは、プローブ又はプライマーと標的核酸分子とが塩基対合則にしたがって特異的に結合し安定な二重鎖構造を形成できることを意味する。ここで、完全な相補性のみならず、プローブ又はプライマーと標的核酸分子が互いに安定な二重鎖構造を形成し得るのに十分である限り、いくつかの核酸塩基のみが塩基対合則に沿って適合する部分的な相補性であっても許容される。プローブ又はプライマーの長さはGC含量等の標的核酸の配列情報、並びに、反応温度、反応液中の塩濃度等のハイブリダイゼーション反応条件等の多くの因子に依存して決定される。
【0059】
さらに、常法のホスホルアミダイト法等のDNA合成法を利用して、所望の酵素をコードする核酸分子を化学的に合成することができる。得られた核酸分子を用いて、当該技術分野で公知の遺伝子組換え技術により所望の酵素を製造することができる。
【0060】
具体的には、所望の酵素をコードする核酸分子を適当な発現ベクター中に挿入し、これを宿主に導入することによって形質転換体を作製する。ここで、利用可能なベクターとしては、外来DNAを組み込め、かつ宿主細胞中で自律的に複製可能なものであれば特に制限はない。そして、ベクターは、外来遺伝子がその機能を発現できるように組み込まれ、機能発現に必要な他の既知の塩基配列が含まれていてもよい。例えば、プロモータ配列、リーダー配列、シグナル配列、並びにリボソーム結合配列等が挙げられる。さらに、宿主において表現型選択を付与することが可能なマーキング配列等をも含ませることができる。
【0061】
ベクターへの外来遺伝子の挿入は、例えば、適当な制限酵素で所望の酵素をコードする核酸分子を切断し、適当なベクターの制限酵素部位、又はマルチクローニング部位に挿入して連結する方法等を用いることができるが、これに限定されない。
【0062】
形質転換体の作製に際して宿主となる細胞としては、外来遺伝子を効率的に発現できる宿主細胞であれば、特に制限はない。原核生物細胞を好適に利用でき、特には大腸菌を利用することができる。その他、枯草菌、バシラス属細菌、シュードモナス属細菌等をも利用できる。さらに、原核生物に限定されず真核生物細胞を利用することが可能である。形質転換法としては、塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポソームフェクション法、マイクロインジェクション法等を既知の方法を利用することができる。
【0063】
続いて、得られた形質転換体を、導入された核酸分子の発現を可能にする条件下で適切な栄養培地中で培養し、所望の酵素を製造する。培養は、常法に準じて行うことができ、宿主細胞の栄養生理学的性質を勘案して、培養条件を選択すればよい。利用される培地としては、宿主細胞が資化し得る栄養素を含み、形質転換体におけるタンパク質の発現を効率的に行えるものであれば特に制限はない。また、培養形態についても特に制限はないが、大量培養の観点から液体培地が好適に利用できる。
【0064】
所望の組換えベクターを保持する宿主細胞の選別は、例えば、マーキング配列の発現の有無により行なうことができる。例えば、マーキング配列として薬剤耐性遺伝子を利用する場合には、薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤含有培地で培養することによって行うことができる。
【0065】
形質転換体の培養物から、所望の酵素を単離精製するには、通常のタンパク質の単離、精製法を用いることができる。精製は、上記形質転換体の培養物から、所望の酵素の存在する画分に応じて、一般的なタンパク質の単離精製方法に準じた手法を適用すればよい。具体的には、所望の酵素が宿主細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま利用するか、遠心分離、濾過等の手段により宿主細胞を除去して培養上清を得る。続いて、培養上清に、当該技術分野で公知のタンパク質精製方法を適宜選択することにより、単離精製することができる。
【0066】
また、所望の酵素が宿主細胞内で産生される場合には、培養物を遠心分離、濾過等の手段により宿主細胞を回収する。続いて、酵素的破砕方法、又は超音波処理、凍結融解、浸透圧ショック等の物理的破砕方法等により、宿主細胞を破砕する。破砕後、遠心分離、濾過等の手段により可溶化画分を収集する。得られた可溶化画分を、前述の細胞外に生産できる場合と同様に処理することにより単離精製することができる。
【0067】
また、アミノ酸配列が当該技術分野で公知である酵素については、化学的合成技術によっても製造することができる。例えば、所望の酵素のアミノ酸配列の全部、又は一部を、ペプチド合成機を用いて合成し、得られるポリペプチドを適当な条件の下で、再構築することにより調製することもできる。アミノ酸配列が公知である酵素のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、付加の改変が加えられたアミノ酸配列を有するもの等、少なくとも80%、90%、95%の配列同一性を有する改変体についても、所望の活性を有する限り利用することができる。
【0068】
さらに、酸素の還元反応を触媒できる限り、微生物、細胞小器官及び細胞等の生物体自体であってもよい。また、これらの生物体からの粗精製物であってもよい。
【0069】
酵素は、MgO鋳型炭素微粒子に固定される。好ましくは、酵素はMgO鋳型炭素微粒子の細孔内に固定する。固定の方法は、当該技術分野で公知の方法の何れを用いて行うことができる。例えば、物理的吸着、共有結合、イオン結合、抗体等の生物化学的特異的結合による担体結合法、2以上の官能基をもつ試薬による架橋法、ゲル内に封入する包括法等によって固定することができる。また、これらを組み合わせてもよく、各々の酵素に最適化な酵素固定法を適宜選択することが望ましい。酵素の固定はMgO鋳型炭素微粒子を導電性基材に固定した後に行ってもよいし、MgO鋳型炭素微粒子を導電性基材に固定する前に、MgO鋳型炭素微粒子に酵素を固定してもよい。
【0070】
本実施形態に係るガス拡散電極材は、酵素の種類に応じてメディエーターを必要としない直接電子移動型の酵素電極として構成してもよいし、メディエーターを介したメディエーター型の酵素電極として構成してもよい。したがって、酵素反応と電極間の電子伝達を媒介するメディエーター等の酵素の触媒活性の発現に必要な物質を、必要に応じて電極材に固定することができる。メディエーター等の固定は、酵素と混合して固定してもよいし、酵素の固定の前、若しくは後に固定してもよい。
【0071】
メディエーターは、酵素の触媒反応に応じて酸化還元される低分子の酸化還元物質であり、酵素と導電性基材間の電子移動を媒介する。したがって、メディエーターは、酵素と電子を授受することができる共に、導電性基材とも電子を授受することができる物質である限り何れも利用することができる。例えば、メディエーターは、一重結合と二重結合が交互に並んだπ共役系化合物であることが好ましい。具体的には、2,2'-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)(以下、「ABTS」と略する)、フェリシアン化カリウム等のフェリシアン化物、5-メチルフェナジニウムメチルスルファート(フェナジンメトスルファート:PMS)、5-エチルフェナジニウムメチルスルファート(フェナジンエトスルファート:PES)等のフェナジン系化合物、フェノチアジン系化合物、フェロセンやジメチルフェロセン、フェロセンカルボン酸等のフェロセン系化合物、ナフトキノン、アントラキノン、ハイロドキノン、ピロロキノリンキノン等のキノン系化合物、シトクロム系化合物、ベンジルビオロゲンやメチルビオロゲン等のビオロゲン系化合物、ジクロロフェノールインドフェノール等のインドフェノール系化合物等が挙げられる。
【0072】
本実施形態におけるメディエーターとしては、ABTSを特に好ましく利用することができる。ABTSは、酸性条件下では、ABTS、ABTSの一電子酸化体、ABTSの二電子酸化体は安定であるが、バイオ燃料電池で電極触媒である酵素の生物活性維持の観点から汎用される中性条件の電極緩衝液下では、ABTSの一電子酸化体どうしが不均化反応を起こし、還元体と二電子酸化体を生成する。かかる二電子酸化体は非常に不安定であり、分解により消失していくことからABTS濃度が減少する。そのため、ABTSは優れた酸化還元能を有しながらも、従来は、酵素がその機能を最も発揮し得る中性条件下ではABTSは急速に劣化していくため、これをメディエーターとして利用するバイオ燃料電池用の正極側電極の実現は不可能とされていた(例えば、Tsujimura, S., Tatsumi, H.,Ogawa, J., Shimizu, S., Kano, K., and Ikeda, T. J. Electroanal. Chem., 496 (1/2), 69-75 (2001)を参照のこと)。これに対して、本実施形態においてMgO鋳型炭素微粒子の細孔にABTSを吸着固定することにより、ABTSの一電子酸化体どうしの会合が防止されて不均化反応が生じず不安定な二電子酸化体の生成を抑制することができる。これにより、ABTSの酸化還元反応の安定性が飛躍的に向上させることができる。ABTSをバイオ燃料電池の電極緩衝液として汎用され、かかる多くの酵素がその触媒活性を高活性で発揮し得る中性条件下で利用することが可能になり、バイオ燃料電池の電極性能の向上に貢献することができる。
【0073】
補因子を要求する酵素については、ホロ形態でMgO鋳型炭素微粒子に固定することできるし、アポ形態で固定することもできる。アポ形態で固定する場合には、酵素が活性型に変換できるように、補因子をMgO鋳型炭素微粒子に固定するか、別途、補因子をMgO鋳型炭素微粒子に固定した酵素に供給する手段を設けることができる。また、補酵素を要求する酵素の場合にも、補酵素をMgO鋳型炭素微粒子に固定するか、別途、補酵素を供給する手段を設けることが好ましい。
【0074】
本実施形態のガス拡散電極材においては、電極触媒である酵素の大部分がその触媒活性を最大限に発揮し得る中性条件で作動するように構成することが好ましい。酵素は、生体内触媒であるため、電極緩衝液により酵素が機能しやすいpH付近に制御することが好ましい。特に、中性付近では、大多数の酵素が最大活性を発揮し得ることができ、酵素触媒電流の更なる向上を図ることができ、電極性能を向上させることができる。したがって、電極内で用いる緩衝液である電極緩衝液のpHを4〜8、特には6〜8に調製することが好ましい。例えば、MgO鋳型炭素微粒子を導電性基材に固定する際にMgO鋳型炭素微粒子を分散させる溶液、酵素をMgO鋳型炭素微粒子の細孔に固定する際に酵素を溶かす溶液等、本発明のガス拡散電極材の構築及び作動に際して必要となる溶液を、イミダゾール緩衝液やリン酸緩衝液等を用いて、pH 4〜8に調製することが好ましく、特にはpH 6〜8に調製することが好ましい。
【0075】
本実施形態によれば、導電性基材に固定した多孔質の炭素微粒子の細孔に、酵素、又は、酵素及びメディエーターが固定したバイオ電池用のガス拡散電極材を提供することができる。多孔質の炭素微粒子は多孔質構造体であり、メソ又はマクロ細孔を有し、細孔の一部又は全部が相互に連通されていることから、かかる細孔に酵素やメディエーターを安定的かつ強固に固定することができ、酵素及びメディエーターの当該電極材から脱離を抑制することができる。これにより、電極材の劣化を抑制し、酵素触媒電流の安定性を向上することができる。さらに、ガス拡散電極材表面は適度な撥水性を有することから大気中の酸素を電極触媒である酵素に効率よく供給でき、バイオ燃料電池の正極側電極として有効に機能することができる。特に、MgO粒子を鋳型として作製したMgO鋳型炭素微粒子を利用することで、当該MgO鋳型炭素微粒子は、多数の均一の大きさの細孔が規則正しく整列し、かかる細孔に酵素やメディエーターをさらに安定的かつ強固に固定することができ、上記の効果が一層優れたものとなる。
【0076】
また、カーボンクロスやカーボンフェルト等の導電性基材を導電性繊維の集合体として構成することにより、MgO鋳型炭素微粒子を繊維状の当該導電性基材内に詰め込んで固定した電極材を提供することができる。導電性基材が、酵素、又は酵素及びメディエーターを固定したMgO鋳型炭素微粒子から電子を取り出す集電体となり、当該MgO鋳型炭素微粒子間、及びMgO鋳型炭素微粒子と導電性基材の間の電子移動抵抗の低減を導くことができる。これにより、酵素触媒電流を向上させることができ、電極性能の向上を図ることができる。一方、多孔質ではなく、緻密層の炭素微粒子を用いた場合には電子移動抵抗が増大し、酵素触媒電流の向上効果は期待できない。さらに、大気中の酸素が電極内部まで染み渡れることにより有効に機能する酵素量が増大するとの利点があり、電極緩衝液である電解質の電極内部での移動がスムーズとなることにより溶液抵抗の低減を図ることができるとの利点もある。
【0077】
特に、焼成温度を適宜変更し、焼成後に炭素前駆体由来の官能基の一部が残存するように構成することで、MgO鋳型炭素微粒子は良好な撥水性を有すると共に、親水性の酵素の触媒活性の発現に好適な親水性環境を提供することできる。これにより、ガス拡散性及び酵素電極双方の局面から、当該ガス拡散電極材の電極性能を向上させることができる。
【0078】
特に、細孔の平均径を、酵素やメディエーターの大きさに応じて適宜変更でき、これにより、MgO鋳型炭素微粒子の細孔に酵素やメディエーターをさらに安定的かつ強固に固定することができ、酵素及びメディエーターの電極材から脱離を抑制することができる。これにより、電極材の劣化を抑制し、酵素触媒電流の安定性をさらに向上することができる。
【0079】
本実施形態によれば、ABTSをメディエーターとするバイオ燃料電池用のガス拡散電極材を提供することができる。ABTSは優れた酸化還元能を有するが、従来において、中性条件下では、ABTSの一電子酸化体が不均化反応を起こし、還元体と不安定な二電子酸化体を生成することから、ABTSをメディエーターとして使用するバイオ燃料電池用の正極側電極は実現不可能なものであるとされてきた。しかしながら、MgO鋳型炭素微粒子の細孔にABTSを固定することにより、一電子酸化体どうしが会合せず、不均化反応を抑制でき、中性条件下であっても有効にその機能を発揮し得る。これによりABTSをメディエーターとして利用したバイオ燃料電池の正極側電極として利用可能なガス拡散電極材を提供することができる。またABTSの酸化還元反応の安定性が飛躍的に向上することから、電極性能の向上に貢献することができる。
【0080】
特に、ガス拡散電極材に接する緩衝液を中性付近に調製することにより、大多数の酵素が最大活性を発揮し得ることができ、酵素触媒電流の更なる向上を図ることができ、電極性能を向上させることができる。酵素は、生体内触媒であるため、電極緩衝液により酵素が機能しやすいpH付近に制御することが好ましい。好ましくは、イミダゾール緩衝液やリン酸緩衝液等を用いて、pH 6〜8に調製される。また、上記したABTSをメディエーターとして固定したガス拡散電極材であっても、中性付近で良好にその機能を発揮することができる。
【0081】
〔ガス拡散電極材の作製方法〕
本実施形態におけるガス拡散電極材の作製方法は、炭素前駆体と酸化マグネシウム前駆体との混合物を焼成し、得られた焼成物から酸化マグネシウムを除去することによって多孔質の炭素微粒子を作製する工程と、前記多孔質の炭素微粒子を前記導電性基材に固定する工程、及び、前記多孔質の炭素微粒子に酵素、又は酵素及びメディエーターを固定する工程を有して構成される。各工程については、上述した通りである。
【0082】
上記工程には煩雑な工程は含まれず、バイオ燃料電池用のガス拡散電極材を簡便かつ短時間で作製できる。詳細な工程については、上述した。
【0083】
〔バイオ燃料電池〕
本実施形態のバイオ燃料電池は、正極側電極、負極側電極、及び電解質層を1組含んで構成されるバイオ燃料電池用セルを含んで構成される。セルは、バイオ燃料電池の最小単位であり、これを積層することによりセルスタックを形成することができ、これによりバイオ燃料電池を構築することができる。
【0084】
正極側電極は、上記で説明したガス拡散電極材を用いて構成され、当該正極側電極と負極側電極とが、電解質層を挟んで対向するように配置され、正極側電極と負極側電極は外部回路によって接続されている。負極側は、負極側電極に燃料を供給できるように燃料タンクが取り付けられ、正極側は、大気中の酸素を取り入れられるように空気取り込み口等が形成されている。例えば、セルは、セパレーター、燃料タンク、負極、電解質層、正極、セパレーターの順で積層される。
【0085】
負極側電極は、燃料(基質)から生物エネルギーを取り出し電気エネルギーに変換する反応を触媒するように構成される。負極側電極は、適当な導電性基材の少なくとも一部に生体触媒を含んだ生物電極として構成することが好ましい。生体触媒とは、生物体内に存在する物質変換能を有する物質である。生体由来の天然物質のほか、それを模した人工の物質をも含む。例えば、酵素、微生物、細胞小器官及び細胞等が含まれ、適当な導電性基材上に酵素を固定した酵素電極することが好ましい。
【0086】
負極側電極を酵素電極として構成する場合、燃料の種類に応じて、燃料(基質)を酸化できる酵素を選択することができる。例えば、グルコース脱水素酵素、アルコール脱水素酵素、グリセロール脱水素酵素、フルクトース脱水素酵素、ガラクトース脱水素酵素、キシロース脱水素酵素、グルコン酸脱水素酵素、ピルビル酸脱水素酵素、乳酸脱水素酵素等を挙げることができる。好ましくは、グルコース脱水素酵素である。補因子又は補酵素要求性についても特に制限はなく、例えば、ピロロキノリンキノン依存性、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド又はニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸依存性酵素等の酵素が挙げられる。
【0087】
酵素の由来は特に制限されない。したがって、天然に存在する生物体から適当なタンパク質の単離精製技術により精製された天然由来のものであってよく、また遺伝子工学的手法により組み換え体として製造されたものあるいは化学的に合成されたものあってもよい。人工的な製造方法については上述した。さらには、市販品を利用することもできる。
【0088】
導電性基材上への酵素の固定は、上述の通りに行うことができる。また、メディエーター等の酵素の触媒活性、及び電極との電子の授受に必要な物質を固定することもできる。また、これらの物質を別途供給する手段を設けてもよく、燃料等に混合するように構成してもよい。また、補因子を要求する酵素については、ホロ形態で導電性基材に固定することできるし、アポ形態で固定することもできる。アポ形態で固定する場合には、酵素が活性型に変換できるように、補因子を導電性基材に固定するか、別途、補因子を導電性基材に供給する手段を設けることができる。また、補酵素を要求する酵素の場合にも、補酵素をMgO鋳型炭素微粒子に固定するか、別途、補酵素を供給する手段を設けることが好ましい。
【0089】
本発明のバイオ燃料電池用セルの電解質層は、プロトン等を透過できるイオン伝導性を有すると共に、プロトン等のイオン以外の負極構成成分、正極構成成分、及び電子を透過させないという性質を有する限り、その素材及び形状等に制限はない。例えば、固体電解質膜を利用して隔膜として構成することができる。固体電解質膜としては、スルホン基、リン酸基、ホスホン基、及びホスフィン基等の強酸基、カルボキシル基等の弱酸基、及び極性基を有する有機高分子等のイオン交換機能を有する固体膜等が例示されるが、これらに限定するものではない。具体的にはセルロース膜、及びテトラフルオロエチレンとパーフルオロ〔2−(フルオロスルフォニルエトキシ)プロピルビニルエーテル〕:tetrafluoroethyleneとperfluoro[2-(fluorosulfonylethoxy)propylvinyl ether]の共重合体であるナフィオン(登録商標)等のパーフルオロカーボンスルホン酸(PFS)系の樹脂膜を利用することができる。
【0090】
燃料タンクには、燃料が充填されている。燃料としては、負極側電極の触媒酵素によって進められる酸化還元反応により電子を放出可能な物質であれば特に制限はない。したがって、燃料は、酵素の基質と成り得る物質であり、当該酵素の種類に応じて適宜選択することができる。好ましくは、バイオマス燃料である。バイオマスとは生物由来の資源を意味し、これら自体でもよいが、これらを加工したものが好ましい。
【0091】
例えば、糖類としては、単糖類、二糖類、多糖類等を使用することができる。単糖類としては、炭素数4のエリトロース、トレオース、炭素数5のアラビノース、キシロース、リボース、炭素数6のグルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース等が挙げられる。二糖類としては、マルトース、ラクトース、スクロース等を、また、多糖類としては、デンプン、グリコーゲン、セルロース等を例示できる。糖類以外にも、ピルビン酸、オキサロ酢酸、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸、コハク酸、グルタル酸、グルコン酸、フタル酸、乳酸、マロン酸、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、アルコール類、脂肪類、ペプチド、タンパク質等のポリアミノ酸類、アミン類等を用いることができる。
【0092】
燃料は、適当な溶媒に溶解させた形態で供給する、若しくはゲルに燃料を封入させる等、バイオ燃料電池の構造に応じてその供給形態は適宜選択される。溶媒は、水性媒体であり、蒸留水の他、イミダゾール緩衝液やリン酸緩衝液等の適当な緩衝液であってもよい。ゲルとしては、アガロース、アガロペクチン、アラビアゴム、カラーギナン、コラーゲン、ゼラチン等の天然高分子、ポリアクリルアミド系重合体、ポリビニルアルコール系重合体、ポリビニルピロリドン系重合体、ポリビニルエーテル系重合体等の合成高分子等を好適に利用することができる。燃料には、必要に応じて、メディエーターを含んで構成することができる。メディエーターついては上述した。
【0093】
本実施形態のバイオ燃料電池は、当該バイオ燃料電池内において前記正極側電極に接触する緩衝液は、中性付近に調製されることが好ましく、具体的にはpH 6〜8に調製される。かかる電極緩衝液としては、例えば、燃料を溶解させる溶媒、酵素の電極材への固定に際して酵素を溶解させる溶媒、また、炭素微粒子を分散させる溶媒等が例示され、イミダゾール緩衝液やリン酸緩衝液等を用いて、pH 6〜8に調製されることが好ましい。電極触媒である酵素は、溶液のpHに非常に敏感であることから、電極緩衝液により酵素が機能しやすいpH付近に制御することが好ましい。したがって、大多数の酵素が中性付近で最大活性を示すことから、中性付近に調製することが好ましい。これにより、酵素触媒電流の安定化及び向上を図ることができ、バイオ燃料電池の発電能力の向上を図ることができる。
【0094】
本実施形態のバイオ燃料電地は、上述のガス拡散電極材を正極として含んで作製される。ガス拡散電極材の作製工程は、上述した通りである。バイオ燃料電池セルは、例えば、セパレーター、燃料タンク、負極、電解質層、正極、セパレーターの順で積層することにより作製される。かかるバイオ燃料電池セルを本実施形態のバイオ燃料電池として構成してもよく、かかるバイオ燃料電池用セルを複数個直列に電気的に接続して集積させるセルスタックを形成してもよい。セルスタックの形状は、平面状にセルを配列した平面形状であってもよいし、セルを積み重ねる積層形状であってもよい。これにより、バイオ燃料電池の出力を高めることができる。
【0095】
本実施形態のバイオ燃料電池の発電機構を説明すると、燃料が負極側に供給されると、負極上の酵素の触媒作用によって燃料が酸化される。酵素の酸化に伴って生じる電子を導電性基材に伝達する。酵素から導電性基材への電子の伝達は、メディエーターを介して行ってもよい。
【0096】
続いて、電子は負極から外部回路を通って正極に伝達され、電流が発生する。一方、酵素による燃料の酸化反応に伴い電子と共に生じたプロトンは電解質層を通って正極側に移行する。正極上で、プロトンは大気から取り込んだ酸素と外部回路を通して移動してきた電子との反応により水を生成する。
【0097】
本実施形態のバイオ燃料電池によれば、上述の通り優れた特性を有するガス拡散電極材を正極側電極に含むバイオ燃料電池を提供することができる。ガス拡散電極材は、電子移動抵抗を低減させ、酵素触媒電流が向上していることから、これを利用することによりバイオ燃料電池の発電能力を向上でき電池性能を向上させることができる。また、ガス拡散電極材は、酵素及びメディエーターを安定的かつ強固に結合させ、酵素触媒電流の安定化を図れるものであり、これを利用することによりバイオ燃料電池の電池性能の安定化及び耐久性向上を図ることができる。
【実施例】
【0098】
以下に、本発明の実施形態を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0099】
(実施例1)炭素微粒子の種類による電極性能への影響
本実施例では、炭素微粒子の種類によって、電極性能にどのような影響を与えるのかを検討した。ここでは、炭素微粒子として、その内部に多数の細孔を有する多孔質の炭素微粒子と、細孔を有していない緻密質炭素の微粒子を比較した。
【0100】
1.材料
1−1.炭素微粒子
緻密質のケッチェンブラック(Ketjen Black:製品番号EC300、ライオン)、又は多孔質の酸化マグネシウム(以下、「MgO」と略する)鋳型炭素(平均細孔径38 nm、東洋炭素株式会社)微粒子を用いた。MgO鋳型炭素微粒子は、炭素前駆体とMgO前駆体との混合物を焼成し、得られた焼成物からMgO粒子を除去することによって作製された、内部に多数の均質な細孔を有する多孔質の炭素微粒子である。
1−2.結着剤
フッ素樹脂であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE:製品番号PTFE 6-J、三井・デュポンフロロケミカル)を用いた。
1−3.導電性基材
カーボンペーパー(製品番号TGP-H-120、東レ)を用いた。
1−4.酵素
ビリルビンオキシダーゼ(MvBOD、天野エンザイム)を用いた。
1−5.メディエーター
2,2'-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)(ABTS:和光純薬工業)を用いた。
【0101】
2.手順
各炭素微粒子を導電性基材上に塗布した電極材を作製し、当該電極材に酵素を固定した酵素電極の性能を比較した。具体的には、ケッチェンブラック又はMgO鋳型炭素微粒子と結着剤とからなるスラリーを導電性基材に塗布して電極材を作製した。この電極材に、酵素とメディエーターを含浸させて酵素電極を作製し、当該酵素電極の酵素触媒電流を測定した。なお、ケッチェンブラックを用いて作製した酵素電極を「ケッチェンブラック電極」、MgO鋳型炭素微粒子を用いて作製した酵素電極を「MgO鋳型炭素電極」と称する。詳細な手順を以下に示す。
【0102】
2−1.電極材の作製
各炭素微粒子(0.4 g)、PTFE(0.4 g)、イソプロパノール(8 ml)を混合し、氷中で超音波処理(15 W、5分間)してカーボンスラリーを作製した。導電性基材(2 cm × 2 cm)をガラス板上に置き、上記で調製したカーボンスラリーを塗布(200 μl)し、乾熱乾燥機(60 ℃)で6時間乾燥させた。
【0103】
2−2.酵素及びメディエーターの固定
酵素(10 mg/ml×150μl)とメディエーター(50 mg/ml×3μl)の混合液を上記で作製した電極材に滴下し、25 ℃の減圧デシケータ内に電極材を静置して1時間乾燥させた。次に、負極の燃料槽、集電体(チタンメッシュ)、シリコンパッキン、電極材(1枚)、集電体の順に電池セルの筐体内部に積層した。
【0104】
2−3.電気化学測定
電池セルの燃料槽に電極緩衝液(1.5 Mリン酸カリウム緩衝液 pH 7.0)を充填し、上記で作製した各酵素電極を作用電極として、白金線を対極、Ag|AgCl (.sat)電極を参照極とする3電極式の電気化学測定を行った。電気化学測定は、掃引電位0〜+0.7 V、掃引速度5 mV/秒に設定したサイクリックボルタンメトリーにより行った。また、各酵素電極のアンペロメトリー(印加電位0 V vs. Ag|AgCl)を30分間測定した。
【0105】
3.結果
結果を
図1及び
図2に示し、
図1はサイクリックボルタンメトリーの結果を示し、
図2はアンペロメトリーの結果を示す。
図1の波形a及び
図2の波形a´がMgO鋳型炭素電極、波形b及び波形b´がケッチェンブラック電極である。ケッチェンブラック電極とMgO鋳型炭素電極双方で、0.5 V(vs. Ag|AgCl)付近から電流が流れ始め、印加電位0 Vにおいて、MgO鋳型炭素電極は10.5 mA、ケッチェンブラック電極は6.5 mAとなった(
図1の波形aとb)。次に、各電極のアンペロメトリーを30分間測定したところ、大気の拡散が律速となり測定直後に電流値が低下するが、その後において双方の酵素電極で安定的な電流が流れることが確認できた(
図2の波形a´とb´)。
図1及び
図2の結果より、MgO鋳型炭素電極の方が、ケッチェンブラック電極よりも高い酵素触媒電流が得られることも判明した。
【0106】
(実施例2)導電性基材の種類による電極性能への影響
本実施例では、導電性基材の種類によって、電極性能にどのような影響を与えるのかを検討した。ここでは、導電性基材として、カーボンペーパーとカーボンクロスを比較した。
【0107】
1.材料
1−1.導電性基材
実施例1に記載のカーボンペーパー、又はカーボンクロス(製品番号BF-20、日本カーボン)を用いた。
1−2.その他
炭素微粒子としては実施例1に記載のMgO鋳型炭素微粒子を使用し、結着剤、酵素、メディエーターは実施例1に記載のものを用いた。
【0108】
2.手順
実施例1の手順に準じて酵素電極を作製して酵素触媒電流を測定し、酵素電極の性能を比較した。カーボンペーパーを用いて作製した電極を「カーボンペーパー電極」、カーボンクロスを用いて作製した電極を「カーボンクロス電極」と称する。詳細な手順を以下に示す。
【0109】
2−1.電極材の作製
MgO鋳型炭素(0.4 g)、PTFE(0.4 g)、イソプロパノール(8 ml)を混合し、氷中で超音波処理(15 W、5分間)してカーボンスラリーを作製した。カーボンペーパー(1 cm × 1 cm)、又はカーボンクロス(1 cm × 1 cm)をガラス板上に置き、カーボンスラリーを片面に塗布(105μl)した後、もう片面にも塗布(105μl)し、乾熱乾燥機(60 ℃)で6時間乾燥させた。
【0110】
2−2.酵素・メディエーターの固定
上記で作製した電極材(面積1 cm
2)に、酵素(50 mg/ml × 50μl)とメディエーター(50 mg/ml × 5μl)を滴下し、ケミフロン攪拌棒で押し込み浸透させた。次に、負極の燃料槽、集電体(チタンメッシュ)、シリコンパッキン、電極材(1枚)、集電体の順に電池セルの筐体内部に積層した。
【0111】
2−3.電気化学測定
電池セルの燃料槽に電極緩衝液(1.5 Mリン酸カリウム緩衝液 pH 7.0)を充填し、上記で作製した各酵素電極を作用極として、白金線を対極、Ag|AgCl (.sat)電極を参照極とする3電極式の電気化学測定を行った。電気化学測定は、掃引電位0〜+0.7 V、掃引速度5 mV/秒に設定したサイクリックボルタンメトリーにより行った。
【0112】
3.結果
結果を
図3に示し、波形aがカーボンクロス電極、波形bがカーボンペーパー電極である。印加電位0 Vにおいて、カーボンペーパー電極では9.2 mA、カーボンクロス電極では39.0 mAとなり、カーボンクロス電極で4倍の酵素触媒電流が得られた(
図3の波形aとb)。カーボンクロス電極は、カーボンクロスの形状により厚みのある立体的な電極構造になり、かつ、大きな隙間が形成されたことにより、酵素触媒電流の向上を導いたと考えられる。このような立体的かつ大きな隙間のある形状が、(1)大気中の酸素が電極内部まで染み渡ることにより有効に機能する酵素量の増大、(2)電極緩衝液である電解質の電極内部での移動がスムーズとなることにより溶液抵抗の低減、(3)炭素微粒子間や炭素-炭素繊維間の電子移動抵抗の低減、を導き、電極触媒電流が向上したと考えられる。
【0113】
(実施例3)メディエーターの種類による電極性能への影響
本実施例では、メディエーターの種類によって、電極性能にどのような影響を与えるのかを検討した。ここでは、メディエーターとして、フェリシアン化カリウムとABTSを比較した。
【0114】
1.材料
1−1.メディエーター
実施例1及び2に記載のABTS、又はフェリシアン化カリウムを用いた。
1−2.その他
炭素微粒子は実施例1及び2に記載のMgO鋳型炭素微粒子、導電性基材は実施例1及び2に記載のカーボンクロス、結着剤及び酵素については実施例1及び2に記載のものを用いた。
【0115】
2.手順
ABTSをメディエーターとして用いた酵素電極は、電極基材としてカーボンクロスを用いた実施例2と同様にして酵素電極を作製し、実施例1及び2と同様に当該酵素電極の電気化学測定をサイクリックボルタンメトリーにより行った。また、実施例1と同様にしてアンペロメトリー(印加電位0 V vs. Ag|AgCl)を300秒間測定した。かかる酵素電極を、当該実施例において「ABTS電極」と称する。
【0116】
フェリシアン化カリウムをメディエーターとして用いた酵素電極は、メディエーターとしてフェリシアン化カリウムをメディエーターとして用いた以外は、上記ABTS電極と同様にして作製し、当該酵素電極の電気化学測定を行った。かかる酵素電極を、当該実施例において「フェリシアン化カリウム電極」と称する。
【0117】
また、メディエーターを添加しない酵素電極を、メディエーターを添加しないことを除いては上記ABTS電極及びフェリシアン化カリウム電極と同様にして作製し、当該酵素電極の電気化学測定を行った。かかる酵素電極を、当該実施例において「メディエーター添加(−)電極」と称する。
【0118】
3.結果
結果を
図4及び
図5に示す。
図4はサイクリックボルタンメトリーの結果を示し、
図5はアンペロメトリーの結果を示す。
図4の波形a及び
図5の波形a´はABTS電極、
図4の波形b及び
図5の波形b´はフェリシアン化カリウム電極、
図4の波形c及び
図5の波形c´はメディエーター添加(−)電極である。これらの結果から、印加電位0 Vにおいて、酵素触媒電流は、フェリシアン化カリウム電極では32 mA、メディエーター添加(−)電極では22 mA、ABTS電極では44 mAとなった。ABTS電極が最も高い酵素触媒電流を示した。一方、メディエーターの不存在下でも、ABTSをメディエーターとして添加した場合の1/2の酵素触媒電流が得られることから、直接電子移動型とメディエーター型の双方の電子伝達経路が機能しているものと理解できる。
【0119】
(実施例4)実施例4:メディエーターの電極材への固定状態の確認
本実施例では、メディエーターの電極材への固定状態を確認した。ここでは、酸性条件下で安定であることが知られているABTSの電極材への固定状態を、異なるpH条件下で比較検討した。
【0120】
1.材料
1−1.炭素微粒子
実施例1〜3で用いたMgO鋳型炭素微粒子を用いた。
1−2.結着剤
フッ素樹脂であるポリフッ化ビニリデンPVDF(製品番号W#9300(又はL#9305)、クレハ)を用いた。
1−3.導電性基材
グラッシーカーボン(ビー・エー・エス)を用いた。
1−4.メディエーター
実施例1〜3で用いたABTSを用いた。
【0121】
2.手順
2−1.電極材の作製
炭素微粒子を正極側電極の導電性基材(3 mm×3 mm)に電着法で塗布した。電着法の詳細は、炭素微粒子(15 mg)と結着剤(90 mg)をアセトニトリル(15 ml)中に超音波分散器を用いて分散させ、分散液中に導電性基材と、対極(プラスチックフォームドカーボン、三菱鉛筆)を浸漬し、それぞれの電極間に50 Vの電圧を1分間印加して電着させた。
【0122】
2−2.メディエーターの固定
上記で作製した電極材にメディエーター溶液(1 mM、12.5 μl)を含浸させた。
【0123】
2−3.電気化学測定
電気化学測定は、リン酸緩衝液(pH 3、pH 5、pH 7)中で、サイクリックボルタメトリーを連続25サイクル行い、CV波形の変化の有無を確認した。サイクリックボルタメトリーについては、実施例1〜3に記載の条件で行った。
【0124】
結果を
図6及び
図7に示す。
図6はサイクル1回目の結果、
図7はサイクル25回目の結果を示し、
図6の波形a及び
図7の波形a´がpH 3、
図6の波形b及び
図7の波形b´がpH 7、
図6の波形c及び
図7の波形c´がpH 5である。この結果から、各pH条件下において、得られる電流に有意な変化は認められず、何れのpH条件下においてもABTSは電極材に強固に固定されていることが確認できた。
【0125】
ここで、ABTSは、酸性条件下では、ABTS、ABTS一電子酸化体、ABTS二電子酸化体は安定であるが、バイオ燃料電池の電極緩衝液で汎用される中性pHの条件下では、一電子酸化体どうしが不均化反応を起こし、還元体と不安定な二電子酸化体となる。かかる二電子酸化体は分解するためABTS濃度が減少していくため、従来は、中性pHの電極緩衝液で、ABTSをメディエーターとして使用する正極は実現不可能とされていた(Tsujimura, S., Tatsumi, H.,Ogawa, J., Shimizu, S., Kano, K., and Ikeda, T. J. Electroanal. Chem., 496 (1/2), 69-75 (2001).)。一方、本実施例では、MgO鋳型炭素微粒子の細孔にABTSが吸着固定され、一電子酸化体どうしの会合が防止され不均化反応が生じず、ABTSの酸化還元反応の安定性が飛躍的に向上したと考えられる。ABTSをバイオ燃料電池の電極緩衝液で汎用され、多くの酵素がその触媒活性を高活性で発揮し得る中性pHの条件下で使用することが可能になり、バイオ燃料電池の電極性能の向上に貢献することができる。
【0126】
(実施例5)電池セル性能の確認−1
本実施例では、電池セル性能を確認した。ここでは、正極側電極及び負極側電極を酵素電極として構成したバイオ燃料電池セルを作製し、その電池セルの性能を評価した。
【0127】
1.材料
1−1.正極側電極
炭素微粒子としては、MgO鋳型炭素微粒子、結着剤としてPTFE、導電性基材としてカーボンクロス、正極側酵素としてMvBOD、メディエーターとしてABTSを用いた。これらの詳細は、実施例1に記載の通りである。
【0128】
1−2.負極側電極
導電性基材として実施例1〜3で用いたカーボンクロスを用いた。正極側酵素としてアシネトバクター・カルコアセティカス(Acinetobacter calcoaceticus)NBRC12552株由来のPQQGDHを用いた。かかる酵素の作製方法及び配列情報は、特開2013-45647号に開示されている。以下、当該酵素を「AcGDH」と称する。メディエーターとしてmPMS(1-Methoxy PMS:同仁化学341-04003)を用いた。
【0129】
2.手順
2−1.正極側電極の作製
正極側電極は、導電性基材に炭素微粒子を詰め込んで作製した電極材に、酵素及びメディエーターを固定することにより作製した。詳細には、実施例2に記載した電極材の作製の手順に従って作製した電極材に、当該電極材の面積1 cm
2当たり、酵素溶液(50 mg/ml × 50 μl)及びメディエーター溶液(30 mM × 5μl)を含浸させて正極側電極(面積16 cm
2)とした。
【0130】
2−2.負極側電極の作製
負極側電極は、導電性基材に、直接酵素及びメディエーターを固定することにより作製した。詳細には、導電性基材に面積1 cm
2当たり、酵素溶液(10 mg/ml×50μl)及びメディエーター溶液(2 M× 1 μl)を含浸させて負極側電極(面積1.6 cm
2)とした。
【0131】
2−3.電池セルの構築
上記で作製した正極側電極と負極側電極の間に隔膜(セルロース膜)を挟んで電池セル筐体に組み込むことにより電池セルを作製した。かかる電池セルには、正極側に大気中の空気をセル内に取り込む空気取り入れ口が設けられている。また、必要に応じて、負極側に燃料としてブドウ糖溶液(1.5 Mグルコース、 1.5 M イミダゾール緩衝液pH 7.0)を2 ml添加した。
【0132】
2−4.電気化学測定
上記で作製した電池セルに、電子負荷装置で一定電流10 mAを負荷して、電圧の変化を測定することにより電池セルの性能を評価した。測定は3時間まで行った。
【0133】
3.結果
結果を
図8に示す。波形aは空気取り入れ口をビニールテープで遮断した電池セル、波形bは空気取り入れ口を通常使用状況に開放している電池セルである。ビニールテープで空気取り入れ口を遮断した電池セルは、30分以内に、電圧が急低下した。つまり、正極側電極はガス拡散電極として作用していることが理解できる。また、負極にブドウ糖溶液を入れない場合は0時で電圧0.1 V以下に急低下した(図示せず)。これらの結果から、負極側電極にはブドウ糖、正極側電極に大気中を供給しないと、電池セルが発電しないことが理解でき、両極の酵素触媒反応で出力が発生していることが確認できた。
【0134】
(実施例6)電池セル性能の確認−2
本実施例では、実施例5に続き、電池セル性能を確認した。ここでは、正極側電極及び負極側電極を酵素電極として構成したバイオ燃料電池セルを作製し、その電池セルの性能を評価した。特に、MgO鋳型炭素微粒子の表面物性が電池セルの性能に与える影響を検討した。
【0135】
1.材料
1−1.炭素微粒子
炭素微粒子としては、MgO鋳型炭素微粒子を用いた。MgO鋳型炭素微粒子は、焼成温度により異なる表面物性を示し、より高温で焼成して表面の官能基を取り除いたものと、表面の官能基が一部残存しているものの2種類を検討した。詳細には、官能基を取り除いたものは600〜800℃で焼成した後、さらに1,000℃以上で焼成したものである。官能基が一部残存しているものは、前者の加熱処理のみで焼成したものであり、上記実施例で用いたものに該当する。
【0136】
1−2.その他
炭素微粒子以外についての正極側電極の作製に必要な材料、及び負極側電極の作製で必要な材料は、実施例5に記載のものを用いた。
【0137】
2.手順
正極側電極の作製は、上記2種類のMgO鋳型炭素微粒子についてそれぞれ電極を作製したことを除いては、実施例5の手順で行った。負極側電極の作製及び電池セルの作製は実施例5の手順で行った。電気化学測定については、測定を12時間まで行った点を除いて実施例5の手順で行った。
【0138】
3.結果
結果を
図9に示す。波形aは高温焼成して表面の官能基を取り除いた炭素微粒子を用いたものであり、波形bは表面の一部の官能基が残存している炭素微粒子を用いたものである。双方とも初期電圧0.7Vから時間経過に伴って電圧低下した。電圧0.5 Vに低下するのは、官能基を取り除いた場合には8.5時間(波形a)、一部残存する場合には10.5時間(波形b)であった。一方、電圧0.1 Vに低下するのは、官能基を取り除いた場合には10.0時間(波形a)、一部残存する場合には11.5時間(波形b)となった。一部の官能基が残存する場合の方が、電圧の保持時間が長いことが判明した。電流負荷を停止した後は、双方の電池セルで開回路電圧が初期電圧と同じ約0.7Vに回復した(図示せず)。
【0139】
(実施例7)電池セル性能の確認−3
本実施例では、実施例5及び6に続き、電池セル性能を確認した。ここでは、正極側電極及び負極側電極を酵素電極として構成したバイオ燃料電池セルを作製し、その電池セルの性能を評価した。特に、メディエーターの種類が電池セルの性能に与える影響を検討した。
【0140】
1.材料
1−1.メディエーター
メディエーターとしては、ABTS又はフェリシアン化カリウムを用いた。ABTSの詳細は実施例1、フェリシアン化カリウムの詳細は実施例2に記載の通りである。
【0141】
1−2.その他
メディエーター以外についての正極側電極の作製に必要な材料、及び負極側電極の作製で必要な材料は、実施例5に記載のものを用いた。
【0142】
2.手順
正極側電極の作製は、上記2種類のメディエーターについてそれぞれ電極を作製したことを除いては、実施例5及び6の手順で行った。負極側電極の作製及び電池セルの作製は実施例5及び6の手順で行った。電気化学測定については、測定を12時間まで行った点を除いて実施例5及び6の手順で行った。
【0143】
3.結果
結果を
図10に示す。波形aはフェリシアン化カリウムを用いたものであり、波形bはABTSを用いたものである。その結果、双方とも初期電圧から時間経過に伴って電圧低下し、初期電圧はABTSを用いた電池セルが0.70 V(波形b)であり、フェリシアン化カリウムを用いた電池セルが0.68 V(波形a)であった。電圧0.5 Vに低下するのは、フェリシアン化カリウムを用いた電池セルが8.5時間(波形a)、ABTSを用いた電池セルが10.5時間(波形b)であり、電圧0.1 Vに低下するのは、フェリシアン化カリウムを用いた電池セルが10.0時間(波形a)、ABTSを用いた電池セルが11.5時間(波形b)となった。これらの結果から、ABTSを用いた方が電圧の保持時間は長いことが理解できる。
【0144】
(実施例8)電池セル性能の確認−4
本実施例では、実施例5に続き、電池セル性能を確認した。ここでは、正極側電極及び負極側電極を酵素電極として構成したバイオ燃料電池セルを作製し、その電池セルの性能を評価した。特に、炭素微粒子の種類が電池セルの性能に与える影響を検討した。
【0145】
1.材料
1−1.炭素微粒子
炭素微粒子としては、高導電性カーボンブラック(ケッチェンブラック)EC600JDライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社
(http://www.lion-specialty-chem.co.jp/ja/catalog/01/k.php)、又は実施例1〜6等で使用したMgO鋳型炭素微粒子を用いた。
1−2.その他
炭素微粒子以外についての正極側電極の作製に必要な材料、及び負極側電極の作製で必要な材料は、実施例5に記載のものを用いた。
【0146】
2.手順
正極側電極の作製は、上記2種類の炭素微粒子についてそれぞれ電極を作製したことを除いては、実施例5〜7の手順で行った。負極側電極の作製及び電池セルの作製は実施例5〜7の手順で行った。電気化学測定については、測定を12時間まで行った点を除いて実施例5〜7の手順で行った。また、電極材の表面観察(倍率:×200)を行った。
【0147】
3.結果
結果を
図11、12及び13に示す。
図11は電気化学測定の結果を示し、波形aはカーボンブラックを用いたもの、波形bはMgO鋳型炭素微粒子を用いたものである。
図12はカーボンブラックを用いた正極側電極の電極材の顕微鏡観察図であり、
図13はMgO鋳型炭素微粒子を用いた正極側電極の電極材の顕微鏡観察図である。双方とも、初期電圧0.7 Vから時間経過に伴って電圧低下した。3時間後には、カーボンブラックを用いた電池セルは電圧0.55 Vに低下したのに対してMgO鋳型炭素微粒子を用いたもの0.65 Vであった。また電極材表面の電極材の表面の観察像から、MgO鋳型炭素微粒子を用いた電極材では、カーボンブラックを用いた電極材と比較し、より立体的な電極構造で、かつ、大きな隙間が形成され、空気中の酸素の電極内部への拡散性の向上、電極緩衝液の電解質の移動性の向上に有利な構造であることがわかる。