【実施例】
【0041】
(材料)
試験に使用した染料1〜26の化学構造を下表1に示す。また、染料1〜23、25、26については、これらに対応する特許文献6に記載の構造式と置換基も併せて下表1に示す。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【0042】
染料1〜5、7、8、12、14、15、24、25、26は、試作合成品として有本化学工業(株)から入手した。染料9は製品名KP Plast Blue Gとして、染料21は製品名KP Plast Yellow HRとして、染料22は製品名KP Plast Yellow 2HRとして、染料23は製品名KP Plast Brilliant Red MGとして、紀和化学工業(株)から入手した。染料6は製品名Kayaset Red Bとして、染料10は製品名Kayaset Blue FRとして、染料11は製品名Kayaset Red 168として、日本化薬(株)から入手した。染料13、染料16、染料20は、それぞれ、ハンツマン・ジャパン(株)製のTeratop Pink 3G、Terasil Pink 2GLA、Terasil Blue BGEから抽出単離した。染料17は、日本化薬(株)製Kayalon Polyester Blue EBL−Eから抽出した。染料18、染料19は、それぞれ、ダイスタージャパン(株)製Dianix Blue GL−FS、Dianix Blue AM−77から抽出単離した。
【0043】
2種類のポリプロピレン布を、三菱レイヨン(株)から入手した。1つは、110dtex/36filamentsのポリプロピレン繊維糸からなり、丸編みラボ機で編まれたものである(ポリプロピレン布No.1)。この編地のループ密度は粗く(ウェール20/2.54cm;コース32/2.54cm)、そのため、マグネチックスターラーの弱い撹拌力で容易に均染できた。残りの1つは、染色堅牢度を測定するための密な二段ニット(ポリプロピレン布No.2;250g/m
2;190dtex/48firamentsの糸;ウェール2×33/2.54cm;コース2×34/2.54cm)であった。この二段ニットを、ソーダ灰(工業用グレード,2g/dm
3)、1g/dm
3界面活性剤(Daisurf MOL−315;第一工業製薬(株))、0.5g/dm
3キレート剤(Sizol FX−20;第一工業製薬(株))を用いて、液流染色機にて、水系で80℃で精練した。その後、ポリプロピレン布No.2を遠心脱水し、切開したものを前処理として130℃でヒートセットした。
【0044】
木綿糸(30/綿番手)を、クロバー(株)から購入した。染色プロセスにおいて、超臨界流体を拡散させ、ポリプロピレン布を包むために3種の綿布を使用した。1種は、ガーゼ構造を有し(綿布No.1:縦糸30本/2.54cm,横糸30本/2.54cm)、第2のものは、片面フランネル構造を有していた(綿布No.2)。これらの布はピップフジモト(株)から購入した。第3のものは、平織構造を有し(綿布No.3:縦糸45本/2.54cm,横糸45本/2.54cm;製品名「山東晒」)、(株)長谷川綿行から購入した。
【0045】
液体二酸化炭素(>99.5%)を、宇野酸素(株)から入手した。試薬グレードのアセトンを、ナカライテスク(株)から購入した。
【0046】
上記染料1〜26を用いて、下記の方法に従ってポリプロピレン布の染色試験を行った。
【0047】
(染色性試験)
染色性試験に使用した装置を
図1に示す。染色性試験装置100は、液体CO
2ボンベ101、停止弁102、107、110、121、ニードル弁103、送液ポンプ106(冷却器104と高圧ポンプ105から構成)、安全弁108、圧力ゲージ109、磁気撹拌恒温空気浴槽119(予熱器111、染色槽112、フィルター116、マグネチックスターラー117、恒温空気浴槽118から構成)、温度ゲージ120、半自動背圧制御弁124(背圧制御弁122、加熱器123から構成)から構成される。磁気撹拌恒温空気浴槽119は、日本分光(株)製の温度制御オーブン内の50cm
3ステンレススチール槽のセット(SCF−Sro型)を流用した。送液ポンプ106は、日本分光(株)製の二酸化炭素送液ポンプ(SCF−Sro型)を用いた。半自動背圧制御弁124は、日本分光(株)製の半自動背圧制御弁(SCF−Bpg/M型)を用いた。
【0048】
ガラス繊維フィルター(2×2cm;ADVANTEC GA−55;アドバンテック東洋株式会社製)を用いて、各染料(約3mg)を次のように保持した。最初に、フィルターの1枚をアセトンに浸漬し、次いで、染料を残りのフィルター上に置き、これを浸漬したフィルターで覆った。アセトンは、2枚のフィルターを容易に積層するために使用した。次に、これらを室温で乾燥して、アセトンを除去した。撹拌子115、ポリプロピレン布No.1(約1.0g)114、2枚のフィルター間に挟んだ染料113を、順に染色槽112に入れ、染色槽112を密封した。染色槽112内の空気を大気圧で二酸化炭素に置き換えた。
【0049】
恒温空気浴槽118内の温度が所定の温度(120℃)に達した後、二酸化炭素送液ポンプ106によって、二酸化炭素圧力25MPaまで染色槽112を加圧し、染色温度(120℃)まで再加熱した。背圧制御弁122によって、染色性試験装置系内の二酸化炭素の圧力を25MPaに制御し、染浴をマグネチックスターラーで撹拌した。60分後、撹拌を維持しながら、背圧制御弁122によって、染色槽112を徐々に大気圧まで減圧した。
【0050】
処理したポリプロピレン布を染色槽112から取り出した。次に、染料が繊維内部に拡散することなく繊維表面に析出していた場合、染色した布を室温のアセトンに30秒間浸漬させて、染色した布の表面上に析出した染料を除去した。浸した布を取り出し、室温で乾燥してアセトンを除去した。染色能について、結果を下記の通りに分類した。
○:よく染まる
△:淡く染まる
×:全く染まらないまたはわずかに汚染
【0051】
さらに、2枚のフィルターの間に残存する染料の有無を確認した。また、染色槽112の内壁に析出した染料の有無も確認した。フィルターに残ったものと内壁に析出したものとをあわせた槽内残留染料について、結果を下記の通りに分類した。
◎:残留なし
○:残留微量(目視で粉末が確認できる)
△:残留多い
×:ほぼ全量残留
【0052】
(超臨界流体染色プロセス)
染色性が優れる(すなわち、染色能が良好で槽内残留染料が少ない)染料については染色堅牢度を評価するための染色布を作成した。ポリプロピレン布No.2を、20×150cmに切断し、重さを量った(約75g)。綿布No.1、2および3を、それぞれ、20×100cm、20×75cm、20×35cmに切断した。最初に、綿布No.1および2を順番に、パンチ穴(直径3mm、穴数/面積1.87/cm
2、有効幅190mm)を有するステンレススチールシリンダー(幅220mm;外径30mm、内径26mm)に巻いた。ポリプロピレン布No.2染色に対するパンチ穴の直接的な影響を避けるために、これらの布をアンダークロスとして用いた。アンダークロスは、流体がパンチング穴から直線的に通過することを避け、被染物により均一に流れるようにした。次いで、ポリプロピレン布No.2および綿布No.3を順番に巻いた。綿布No.3は、槽からの放射熱によりポリプロピレン布が縮むのを防いだ。巻き上げたロールは端を綿糸で緩く縛ることで固定した。
【0053】
超臨界流体染色のための装置を
図2に示す。超臨界流体染色装置200は、液体CO
2ボンベ201、フィルター202、冷却ジャケット203、高圧ポンプ204、予熱器205、圧力ゲージ206〜208、磁気駆動部209、DCモータ210、安全弁211、212、冷却器213、停止弁214〜218、ニードル弁219、加熱器220から構成される。布試料を巻き付けたシリンダー221を高圧ステンレススチール槽222(容積2230cm
3)に入れた。紙ワイプ(KimWipes S−200、日本製紙クレシア株式会社製)で包んだ染料223(ポリプロピレン被染物の質量の0.3%:すなわち0.3%omf)を、槽222内のシリンダー221の上の流体通路に置いた。
【0054】
槽222の弁を閉じ、120℃に加熱した。染色温度に達した後、液体二酸化炭素(1.13kg)を、ポンプ204によって、冷却ジャケット203を介して槽222に流した。二酸化炭素流体を、槽222の底部に取り付けたステンレススチールのインペラ224と磁気駆動部209で循環させた。磁気駆動部209の回転速度は750rpmであった。流体の流れ方向は、シリンダー221の内側から外側であった。
【0055】
温度、圧力循環速度がある一定の値(すなわち、120℃、25MPa、750rpm)に達した後、これらの条件を60分間維持して、ポリプロピレン布を染色した。放出速度を制御し、15分間かけて圧力を25MPaから大気圧へ低下させた。循環は、槽内圧がほぼ臨界圧(8.0〜7.4MPa)に低下するまで続けた。その後、染色したポリプロピレン布を槽222から取り出した。ポリプロピレン布No.2を用いた場合の染色能および槽内残留染料は、ポリプロピレン布No.1を用いた染色性試験の結果と同等であった。
【0056】
循環を継続して緩やかに放圧する操作によりポリプロピレン布の表面上に析出した染料は除去される。したがって、大過剰とならない染料濃度であれば、後の洗浄プロセスが不要となる。染料が表面析出すると異常に低い性能を示す傾向にある摩擦堅牢度(JIS L0849、II型、添付白布:綿)は、この放圧操作により正常となる。本発明の実施例では、乾摩擦、湿摩擦いずれも4−5級から5級を示した。ポリプロピレン布No.2を用いた場合の染色能および槽内残留染料は、ポリプロピレン布No.1を用いた染色性試験の結果と同等であった。
【0057】
(洗濯堅牢度)
洗濯堅牢度試験を、多繊交織布(交織1号:JIS L0803:2005;綿、ナイロン、アセテート、毛糸、レーヨン、アクリル、絹およびポリエステルで織られた布)を使用して、JIS L0844:2005 A−2法(ISO 105−C02:1989 試験2に基づく)によって実施した。多繊交織布の汚染では、最も汚染された部分の評価を示した。また、布への汚染だけでなく、試験液の汚染も、ISO 105−D01:1994を参照して評価した。試験液の汚染の評価では、容器内に残存する試験液を濾紙に通過させた。濾過した試験液の汚染の着色を、汚染評価用のグレースケールでの透過光を用いて、白色カードの前に置いたガラス製試験管(直径25mm)内で、未使用の試験液のものと比較した。
【0058】
(耐光堅牢度)
染色したポリプロピレン布の耐光堅牢度を、JIS L0842(第3露光法)に準拠し、評価した。耐光堅牢度試験を、紫外線カーボンアーク灯光を用いて、3級および/または4級について第3露光法で実施した。
【0059】
(昇華堅牢度)
染色したポリプロピレン布の昇華堅牢度を、JIS L0854に準拠し、添付白布にはナイロン(単一繊維布(I)7号:JIS L0803:2005)を用いて評価した。
【0060】
(測色)
染色されたポリプロピレン布の測色には、分光測色計(CM−600d:コニカミノルタジャパン(株)製)を用いた。分光反射率の測定条件は、無蛍光白色紙上に試料を4枚重ねにし、測定径φ8mm、観察条件2°視野、観察光源D65、測定波長範囲400〜700nm、測定波長間隔10nm、正反射光を除く(SCE:Specular Component Exclude)とした。分光反射率からCIE1976L
*a
*b
*に準拠してL
*、a
*、b
*の値を求めた。さらに、JIS Z8721:1993に準拠して、D65光源における色相Hを求めた。
【0061】
(実施例1〜6、比較例1〜20)
染料1〜26を使用した実施例1〜6、比較例1〜20のそれぞれの試験結果を表2に示す。ポリプロピレン布の良好な染色が確認できた実施例1〜6、比較例1〜3、比較例6、7、19、20については、染色堅牢度の評価も行った。なお、比較例3は、染色に用いた染料5がタール状であり、秤量が困難であったため、洗濯堅牢度、昇華堅牢度は評価しなかった。また、実施例1〜6、比較例1、2、20の染色されたポリプロピレン布の測色を行った。その結果を表3に示す。
【表2】
【表3】
【0062】
表2に示されるように、実施例1〜6の染色されたポリプロピレン布は、優れた染色性と優れた染色堅牢度の両方を示した。これに対して、比較例1、2、20では、染色能は良好であったが槽内残留染料が多く、洗濯堅牢度と昇華堅牢度の汚染が劣っていた、比較例4、5、8〜18では、ポリプロピレン布が染料によって良好に染色されなかった。比較例6、7、19は良好な染色性を示したが、比較例6では洗濯堅牢度と耐光堅牢度の両方が不良であり、比較例7では洗濯堅牢度が不良であり、比較例19では耐光堅牢度が不良であった。
【0063】
上述した染色試験の結果から、特許文献6に記載の代表的な染料に相当する染料1〜23のうち、ポリプロピレン布を良好に染色できたのは、染料1〜8、11、12、25(実施例1〜5、比較例1〜3、6、7、実施例6)に過ぎず、超臨界二酸化炭素によってもポリプロピレン布を染色できなかった染料が多かったことが理解できる。一方、非特許文献19に記載の代表的な染料(1,4−ビス(オクチルアミノ)−アントラキノン)の位置異性体に相当する染料24(比較例19)は、染色性は良好であったが、耐光堅牢度が悪かった。単に置換位置を換えることで目的とする色相にした染料では染色性、染色堅牢度のすべてを良好なものとすることができないことが理解できる。また、実施例1〜6と、比較例1〜3、6、7、8〜11、19、20との比較から、染色性(染色能、槽内残留染料)、染色堅牢度(洗濯堅牢度、耐光堅牢度、昇華堅牢度)のすべてを良好なものとするためには、染料の化学構造は、上記一般式(1)で示されるように、アントラキノン環の1位の置換基がアミノ基、2位の置換基が第四級炭素を含む分岐アルキル基またはアリールアルキル基で置換されたフェノキシ基、4位の置換基がヒドロキシル基であることを要することが示された。
【0064】
また、実施例1〜6で使用した染料はすべて固体であるのに対して、上記一般式(1)中、R
2が炭素数9の直鎖アルキル基であるものに相当する染料8(比較例3)はタール状であり、染色の程度(色の濃淡)を制御できず、工業生産に向かない。
【0065】
表3に示されるように、実施例1〜6の染色されたポリプロピレン布はいずれも減法混色三原色の赤色を示した。上記一般式(1)中のフェノキシ基上の置換基が分岐アルキル基である染料1、2、4、20を用いた実施例1、2、4、6では槽内残留染料がより少なかった。特に、上記一般式(1)のR
1が2−メチルブタン−2−イル基であり、n=2であり、フェノキシ基の2位および4位にR
1が存在する染料4を用いた実施例4、上記一般式(1)のR
1が2−メチルプロパン−2−イル基であり、n=2であり、フェノキシ基の2位および4位にR
1が存在する染料25を用いた実施例6では、染色の際に痕跡量の染料が紙ワイプ上のシミとして槽内に残留したのみであり、これは、使用した染料のほぼすべてが繊維に吸着されたことを示す。加えて、実施例4、6では、洗濯堅牢度、耐光堅牢度、昇華堅牢度のいずれも優れていた。
【0066】
以上、本発明を上述の実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて実施の形態における組合せや工程の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。