特許第6671735号(P6671735)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6671735
(24)【登録日】2020年3月6日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】熱伝導性シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 7/20 20060101AFI20200316BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20200316BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20200316BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20200316BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20200316BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20200316BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20200316BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
   H05K7/20 F
   H01L23/36 M
   C08L101/00
   C08K3/013
   C08K3/04
   C08K7/06
   C08K3/22
   C08J5/18CER
   C08J5/18CEZ
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2019-88161(P2019-88161)
(22)【出願日】2019年5月8日
(62)【分割の表示】特願2018-511918(P2018-511918)の分割
【原出願日】2017年2月27日
(65)【公開番号】特開2019-186555(P2019-186555A)
(43)【公開日】2019年10月24日
【審査請求日】2019年9月11日
(31)【優先権主張番号】特願2016-79171(P2016-79171)
(32)【優先日】2016年4月11日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】313001332
【氏名又は名称】積水ポリマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106220
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 正悟
(72)【発明者】
【氏名】工藤 大希
【審査官】 鹿野 博司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/179318(WO,A1)
【文献】 特開2004−051852(JP,A)
【文献】 特開2012−171986(JP,A)
【文献】 特開2006−335958(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 7/20
C08J 5/18
C08K 3/013
C08K 3/04
C08K 3/22
C08K 7/06
C08L 101/00
H01L 23/373
C01B 32/00
C01B 32/21
C01F 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導性シートの製造方法において、
硬化することで高分子マトリクスとなる反応性液状樹脂と、炭素繊維と鱗片状黒鉛粉末との質量割合が120:10〜60:70の範囲内にある前記炭素繊維と前記鱗片状黒鉛粉末と、を混合して混合組成物を得る工程と、
前記炭素繊維と前記鱗片状黒鉛粉末とを所定の方向に配向させる配向工程と、
前記反応性液状樹脂を架橋、硬化させて塊状成形体を形成する工程と、
前記塊状成形体を、前記炭素繊維の繊維軸方向と前記鱗片状黒鉛粉末の鱗片面の長軸方向とが前記熱伝導性シートの厚み方向に向くようにスライスする工程と、
を順に実行することを特徴とする熱伝導性シートの製造方法。
【請求項2】
前記配向工程は、前記混合組成物を押出成形する工程である
請求項1記載の熱伝導性シートの製造方法。
【請求項3】
前記配向工程は、前記混合組成物に磁場を印加して、前記炭素繊維と前記鱗片状黒鉛粉厚を配向させる工程である
請求項1記載の熱伝導性シートの製造方法。
【請求項4】
さらに、前記スライス面を研磨する研磨工程を有する
請求項1〜3何れか1項記載の熱伝導性シートの製造方法。
【請求項5】
熱伝導性シートの製造方法において、
硬化することで高分子マトリクスとなる反応性液状樹脂と、炭素繊維と鱗片状黒鉛粉末との質量割合が120:10〜60:70の範囲内にある前記炭素繊維と前記鱗片状黒鉛粉末と、を混合して混合組成物を得る工程と、
前記炭素繊維と前記鱗片状黒鉛粉末とを前記炭素繊維の繊維軸方向と前記鱗片状黒鉛粉末の鱗片面の長軸方向とが前記熱伝導性シートの厚み方向に向くように配向させる配向工程と、
前記反応性液状樹脂を架橋、硬化させる工程と、
を順に実行することを特徴とする熱伝導性シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱体と放熱体の間に配置して用いられる熱伝導性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータや自動車部品等の電子機器では、半導体素子や機械部品等の発熱体から生じる熱を放熱するためヒートシンクなどの放熱体が用いられており、この放熱体への熱の伝達効率を高める目的で発熱体と放熱体の間に熱伝導性シートを配置することがある。こうした熱伝導性シートとして、例えば、熱伝導材として炭素繊維を充填して配向させた熱伝導性シートが特開2005−146057号公報(特許文献1)に開示されている。また、炭素粉末がシートの厚さ方向に配向した熱伝導性シートが特開2014−001388号公報(特許文献2)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−146057号公報
【特許文献2】特開2014−001388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、電子機器はますます小型化、高性能化が進み、発熱量は増加の一途をたどっており、特開2005−146057号公報(特許文献1)や特開2014−001388号公報(特許文献2)で開示された熱伝導性シートよりも更に熱伝導率を高めた熱伝導性シートが望まれている。
以上のような背景のもとになされたのが本発明である。即ち本発明は、熱伝導性の高い熱伝導性シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成する本発明は次のとおり構成される。
高分子マトリクス中に分散した炭素繊維と鱗片状黒鉛粉末とを含む熱伝導性シートであって、前記鱗片状黒鉛粉末が、前記炭素繊維どうしの間に介在し、前記炭素繊維の繊維軸方向がシートの厚み方向に配向し、前記鱗片状黒鉛粉末の鱗片面の長軸方向がシートの厚み方向に配向するとともに、該鱗片面に対する法線方向がシートの面方向にランダムに向いており、前記炭素繊維と鱗片状黒鉛粉末との質量割合が120:10〜60:70の範囲内にある熱伝導性シートである。
【0006】
高分子マトリクス中に分散した炭素繊維と鱗片状黒鉛粉末とを含む熱伝導性シートについて、前記鱗片状黒鉛粉末が、前記炭素繊維どうしの間に介在し、前記炭素繊維の繊維軸方向がシートの厚み方向に配向し、前記鱗片状黒鉛粉末の鱗片面の長軸方向がシートの厚み方向に配向するとともに、該鱗片面に対する法線方向がシートの面方向にランダムに向いているため、シート面方向に離れた炭素繊維と鱗片状黒鉛粉末が接触し易く、かつシートの厚み方向には配向しているので、シートの厚み方向の熱伝導性が高い熱伝導性シートとすることができる。
【0007】
また、炭素繊維と鱗片状黒鉛粉末との質量割合が120:10〜60:70の範囲内にある熱伝導性シートとしたため、炭素繊維だけや鱗片状黒鉛粉末だけを含む場合よりも高い熱伝導率を得ることができる。なお、この範囲を換言して表現すれば、炭素繊維と鱗片状黒鉛粉末の合計質量に対する炭素繊維の質量割合が0.46〜0.92である範囲と言うことができる。
【0008】
高分子マトリクス100質量部に対して、炭素繊維と鱗片状黒鉛粉末の合計質量が80〜180質量部となる割合で炭素繊維と鱗片状黒鉛粉末とを含む熱伝導性シートとすることができる。
高分子マトリクス100質量部に対して、炭素繊維と鱗片状黒鉛粉末の合計質量が80〜180質量部となる割合で炭素繊維と鱗片状黒鉛粉末とを含むため、熱伝導性シートの柔軟性を損なうこともなく、柔軟な熱伝伝導性シートを得ることができる。
【0009】
炭素繊維および鱗片状黒鉛粉末以外の熱伝導性充填材をさらに含み、この熱伝導性充填材の平均粒径が前記炭素繊維の平均繊維長および前記鱗片状黒鉛粉末の平均粒径よりも小さく、アスペクト比が2以下である熱伝導性シートとすることができる。
炭素繊維および鱗片状黒鉛粉末以外の熱伝導性充填材をさらに含み、この熱伝導性充填材の平均粒径が前記炭素繊維の平均繊維長および前記鱗片状黒鉛粉末の平均粒径よりも小さく、アスペクト比が2以下であるものとしたため、シート厚方向だけでなくシート厚に対する垂直方向での熱伝導性充填材どうしの接触を高め、結果的にシート厚方向の熱伝導性を高めることができる。
【0010】
炭素繊維や鱗片状黒鉛粉末以外のその他の熱伝導性充填材を酸化アルミニウムや水酸化アルミニウムとすることができる。
炭素繊維や鱗片状黒鉛粉末以外のその他の熱伝導性充填材を酸化アルミニウムや水酸化アルミニウムとしたため、磁場の影響を受けずに高分子マトリクス中にランダムに分散させることができ、炭素繊維や鱗片状黒鉛粉末の隙間に介在させて熱伝導性シートの熱伝導性を高めることができる。
【0011】
高分子マトリクス100質量部に対して、前記炭素繊維と前記鱗片状黒鉛粉末と前記熱伝導性充填材の合計を380〜790質量部の割合で含む熱伝導性シートとすることができる。
高分子マトリクス100質量部に対して、前記炭素繊維と前記鱗片状黒鉛粉末と前記熱伝導性充填材の合計を380〜790質量部の割合で含むため、熱伝導性シートの柔軟性を損なうことなく、熱伝導性に優れた熱伝導性シートとすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の熱伝導性シートによれば、柔軟性があり熱伝導性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】熱伝導性シートの模式図である。
図2】熱伝導性シート中の炭素繊維と鱗片状黒鉛粉末の配向状態を説明する模式図である。
図3】熱伝導性シート中のその他の熱伝導性充填材の含有状態を説明する模式図であり、図1の領域Rの部分拡大図である。
図4】熱伝導性シートを炭素繊維の配向方向に沿って切断した断面の170倍の顕微鏡写真である。
図5】熱伝導率測定機の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の熱伝導性シートを実施形態に即してさらに詳しく説明する。
熱伝導性シートは、高分子マトリクス中に炭素繊維と鱗片状黒鉛粉末、そして、炭素繊維や鱗片状黒鉛粉末以外のその他の熱伝導性充填材を含んで構成している。
【0015】
より具体的には図1の模式図で示すように、熱伝導性シート1は、炭素繊維3や鱗片状黒鉛粉末4が高分子マトリクス2の中で所定の方向に配向している。その配向方向をより詳しく説明すると、図2の拡大模式図で示すように、炭素繊維3はその繊維軸方向がシートの厚み方向(図2のZ方向)に配向して含有されており、鱗片状黒鉛粉末4はその鱗片面の長軸方向がシートの厚み方向(図2のZ方向)に配向しつつ、その短軸方向(鱗片面の法線方向)は長軸に対して垂直なランダムな方向(図2のX−Y平面内のランダム方向)を向いて含有されている。また、上記その他の熱伝導性充填材5は、図3の拡大模式図で示すように、炭素繊維3や鱗片状黒鉛粉末4とは異なり、高分子マトリクス2の中にランダムに分散して含有されている。
【0016】
以上は熱伝導性シート1を模式的に説明したものであるが、実際の熱伝導性シートの断面を電子顕微鏡で見ると図4に示すような状態にあることから、本発明において炭素繊維がシートの厚み方向に配向している状態とは、50%を超える炭素繊維の繊維軸方向が、シートの厚み方向から15°以内の範囲を向いている状態を意味するものとする。また、鱗片状黒鉛粉末がシートの厚み方向に配向している状態とは、50%を超える鱗片状黒鉛粉末の鱗片面の面方向が、シートの厚み方向から15°以内の範囲を向いている状態を意味するものとする。
また、鱗片状黒鉛粉末の鱗片面の法線方向が面方向にランダムである状態とは、その法線方向がシート面内の特定の方向から15°以内の範囲を向いている鱗片状黒鉛粉末が50%未満である状態を意味するものとする。換言すれば、法線方向がシート面内の特定の方向から15°以内の範囲を向いている鱗片状黒鉛粉末が50%を超える場合は、鱗片状黒鉛粉末の法線方向が面方向にランダムではない状態を意味するものとする。
こうした配向の様子は、電子顕微鏡によって断面を観察することで確認することができる。
【0017】
こうした熱伝導性シートに含まれる材料について説明する。
(高分子マトリクス:)
高分子マトリクスは、熱伝導性充填材を保持する部材であり、柔軟なゴム状弾性体でなる。炭素繊維や鱗片状黒鉛粉末を配向した状態で含有させるためには、配向させる工程の際に流動性を有していることが要求される。例えば、熱可塑性樹脂であれば、加熱して可塑化した状態で炭素繊維や鱗片状黒鉛粉末を配向させることができる。また、反応性液状樹脂であれば、硬化前に炭素繊維や鱗片状黒鉛粉末を配向させて、その状態を維持したまま硬化すれば、炭素繊維や鱗片状黒鉛粉末が配向した硬化物を得ることができる。前者は比較的粘度が高く、また低粘度になるまで可塑化すると樹脂が熱劣化するおそれがあるため、後者の樹脂を採用することが好ましい。
【0018】
反応性液状樹脂としては、反応前は液状であり、所定の条件で硬化して架橋構造を形成するゴムまたはゲルを用いることが好ましい。架橋構造とはポリマーの少なくとも一部が3次元的に架橋し、加熱によって溶融しない硬化体を形成しているものをいう。また、液状樹脂に熱伝導性充填材を加えた混合組成物を作製し、流動性のある液状樹脂中で炭素繊維や鱗片状黒鉛粉末を配向させるため、低粘度であることが好ましく、配向後には所定の条件で硬化可能な性質を備えるものが好ましい。
【0019】
こうした反応性液状樹脂の硬化方法としては例えば、熱硬化性や光硬化性のものを例示できるが、光を遮蔽する炭素繊維や鱗片状黒鉛粉末を多量に含むため、熱硬化性のゴムやゲルを用いることが好ましい。より具体的には、付加反応型シリコーン、ポリオールとイソシアネートの反応を利用するウレタンゴム、アクリレートのラジカル反応やカチオン反応を利用するアクリルゴム、柔軟な骨格を有するエポキシ樹脂等を例示することができるが、付加反応型シリコーンを用いることが好ましい。付加反応型シリコーンは、炭素繊維や鱗片状黒鉛粉末、その他の熱伝導性充填材を高充填しやすく、触媒等により所定の温度で硬化するように調整できるからである。より具体的には、アルケニル基含有ポリオルガノシロキサンおよびハイドロジェンオルガノポリシロキサンの組合せが低粘度で熱伝導性充填材を高充填できるため好適である。
【0020】
(炭素繊維:)
高分子マトリクスの中に含有される炭素繊維には、繊維状、棒状、針状等の各種形状の炭素繊維を含む。炭素繊維はグラファイトの結晶面が繊維軸方向に連なっており、その繊維軸方向に極めて高い熱伝導率を有する。そのため、その繊維軸方向を所定の方向に揃えることで、その方向の熱伝導率を高めることができる。
【0021】
炭素繊維は黒鉛化されたものが好ましく、その原料としては、例えば、ナフタレン等の縮合多環炭化水素化合物、PAN(ポリアクリロニトリル)、ピッチ、ポリベンザゾール繊維等の縮合複素環化合物等が挙げられるが、特にメソフェーズピッチやポリベンザゾール繊維を用いることが好ましい。メソフェーズピッチを用いることにより、その異方性により紡糸工程でピッチが繊維軸方向に配向し、その繊維軸方向に優れた熱伝導性を有する黒鉛化炭素繊維を得ることができる。このメソフェーズピッチは、紡糸可能ならば特に限定されるものではなく、一種を単独で用いても、二種以上を適宜組み合わせて用いてもよいが、メソフェーズピッチを単独で用いること、すなわち、メソフェーズピッチ含有量100%の黒鉛化炭素繊維が、高熱伝導化、紡糸性および品質の安定性の面から特に好ましい。
【0022】
また、ポリベンザゾール繊維は、主鎖の芳香族環を有し、これを熱処理して黒鉛化させると、主鎖方向に黒鉛層面が高度に発達した炭素粉末を得ることができる。そのため、得られる炭素繊維は、六方晶系の黒鉛結晶構造のC軸に垂直な方向、すなわち基底面(黒鉛層面)に平行な方向に特に優れた熱伝導率を有するものとなる。特に、主鎖に芳香族環を有する高分子材料は、その芳香族環構造が多いほど黒鉛化しやすい傾向にあり、ポリベンザソール繊維を用いると、著しく熱伝導性に優れた炭素繊維を得ることができる。
【0023】
炭素繊維は、紡糸、不融化および炭化の各処理を順次行い、所定の粒径に粉砕又は切断した後に黒鉛化したものや、炭化後に粉砕又は切断した後に黒鉛化したものを用いることができる。黒鉛化前に粉砕又は切断する場合には、粉砕で新たに表面に露出した表面において黒鉛化処理時に縮重合反応、環化反応が進みやすくなるため、黒鉛化度を高めて、より一層熱伝導性を向上させた黒鉛化炭素繊維を得ることができる。一方、紡糸した炭素繊維を黒鉛化した後に粉砕する場合は、黒鉛化後の炭素繊維が剛いため粉砕し易く、短時間の粉砕で比較的繊維長分布の狭い炭素繊維を得ることができる。
【0024】
炭素繊維の繊維直径は、好ましくは5〜20μmである。繊維直径が5〜20μmの範囲が工業的に生産しやすく、シートの熱伝導性を高めることができる。一方、繊維直径が5μmよりも小さく、或いは20μmよりも大きいと生産性が低下する。
炭素繊維の平均繊維長は、好ましくは10〜600μm、より好ましくは80〜500μmである。平均繊維長が10μmより短いと、高分子マトリクス中において炭素繊維同士の接触が少なく、熱の伝達経路が不充分となり、熱伝導性が低下するおそれがある。一方、平均繊維長が600μmよりも長いと、炭素繊維が嵩高くなり、高分子マトリクス中に高充填することが困難になる。なお、この平均繊維長は、炭素繊維を顕微鏡で観察した粒度分布から算出することができる。
【0025】
また、炭素繊維の平均繊維長は、シート厚の40%以下が好ましく、且つシート厚の80%を超える繊維長の炭素繊維の含有量が5質量%以下であることが好ましい。シート厚の80%を超える繊維長の炭素繊維の含有量が5質量%を超えるとシートを圧縮したときに、その圧縮厚みを超える炭素繊維が多くなるからである。あるいは、炭素繊維の平均繊維長がシート厚の50%以下であれば、圧縮時にもシート厚を超える炭素繊維の量を少なくすることができる。こうした懸念を考慮すると、炭素繊維の粒度分布は狭い方が好ましい。また、異なる粒度分布を備える複数の炭素繊維を混合して用いることは、熱伝導率を高めるという観点から好ましい。
【0026】
炭素繊維のアスペクト比は2を超えることが好ましい。アスペクト比が2以下では、炭素繊維を特定方向に配向させることが困難で熱伝導性を高め難いためである。より好ましくはアスペクト比が5以上である。なお、ここでいうアスペクト比は炭素繊維の「繊維の長さ/繊維の直径」の値である。
【0027】
炭素繊維の繊維軸方向における熱伝導率は、好ましくは400W/m・K以上、より好ましくは800W/m・K以上、特に好ましくは1000W/m・K以上である。熱伝導性シートの熱伝導率を高めるためである。
炭素繊維の含有量は、高分子マトリクス100質量部に対して60〜150質量部であることが好ましい。60質量部未満では熱伝導性を高め難く、150質量部を超えると、混合組成物の粘度が高くなり配向性が悪くなるおそれがある。
【0028】
(鱗片状黒鉛粉末:)
高分子マトリクスの中で配向する鱗片状黒鉛粉末は、鱗片状や扁平状等と称される扁形した黒鉛粉末を含むものである。鱗片状黒鉛粉末はグラファイトの結晶面が面方向に広がっており、その面内において等方的に極めて高い熱伝導率を備える。そのため、その鱗片面の面方向をシートの厚み方向に揃えることで、シートの厚み方向の熱伝導率を高めることができる。そうした一方で、鱗片面に対する法線方向はランダムな方向を向いている。したがって、シートの広がり方向では異方性を発現せずに、等方的に熱を伝えるように構成されている。
【0029】
鱗片状黒鉛粉末としては天然黒鉛や人造黒鉛が挙げられるが、高分子フィルムを熱分解し、得られた人造黒鉛シートを粉砕して作製した鱗片状黒鉛粉末を用いることが好ましい。こうした鱗片状黒鉛粉末はシート面方向への熱伝導率を高めることができる。黒鉛化の原料となる高分子フィルムにはポリイミド等の芳香族高分子を用いることが好ましい。グラファイト構造が発達した熱伝導性の高い黒鉛フィルムを得ることができるからである。
【0030】
鱗片状黒鉛粉末のアスペクト比は2を超えることが好ましい。アスペクト比が2以下では、鱗片状黒鉛粉末を特定方向に配向させることが困難で熱伝導性を高め難い。より好ましくはアスペクト比が5以上である。なお、ここでいうアスペクト比は鱗片状黒鉛粉末の「鱗片面の長軸の長さ/厚み(短軸)」の値である。また、アスペクト比が高いほど単位重量当りの配向方向の熱伝導率を高める効果が高まるが、一方でアスペクト比が高すぎると混合組成物の粘度が高くなりやすい。このような観点からアスペクト比は10〜1000の範囲であることがより好ましい。
【0031】
鱗片状黒鉛粉末は、その平均粒径が10〜400μmの範囲であることが好ましい。平均粒径が10μm未満では、粘度上昇が大きくなり特性が向上し難い。また、平均粒径が400μmを超えると、シートからの脱落が目立つようになる。
【0032】
鱗片状黒鉛粉末の含有量は、高分子マトリクス100質量部に対して10〜70質量部であることが好ましく、20〜60質量部であることがより好ましい。10質量部未満では熱伝導性を高め難く、70質量部を超えると、混合組成物の粘度が高くなり配向性が悪くなり、また熱伝導性も高まらないおそれがある。また、20〜60質量部の範囲では熱伝導性を飛躍的に高めることができる。
【0033】
炭素繊維と鱗片状黒鉛粉末を合わせた熱伝導性充填材の高分子マトリクス中の含有量は、高分子マトリクス100質量部に対して80〜180質量部とすることが好ましい。80質量部未満では、熱伝導性を充分に高めることができないおそれがあり、180質量部を超えても、熱伝導性をあまり高めることができないばかりか、混合組成物の粘度が高くなりすぎ、炭素繊維および鱗片状黒鉛粉末を配向することが難しくなるためである。
【0034】
ところで、炭素繊維と鱗片状黒鉛粉末を比較して熱伝導性について考察すると次のようになる。
炭素繊維は、一軸の略棒状であるため、液状樹脂内での流動抵抗が小さく配向し易いとともに、粘度が上昇し難いことから高充填し易いという特徴がある。そうした一方で、炭素繊維は一軸状であるため他の熱伝導性充填材と接触する面積は小さく、高充填しなければ熱伝導性を高め難いと思われる。
鱗片状黒鉛粉末は、鱗片状であるため、液状樹脂内での流動抵抗が大きく配向し難いとともに、粘度が上昇し易いことから高充填が難しいという特徴がある。しかし、鱗片状であるため他の熱伝導性充填材と接触する面積は大きく、比較的低充填でも熱伝導性を高め易いと思われる。
【0035】
実際に、混合組成物中で炭素繊維や鱗片状黒鉛粉末を配向させるための粘度の上限は、例えば押出し成形等の流動配向を利用する場合には1000Pa・s程度であり、磁場によって配向する場合には500Pa・s程度である。したがって、このような配向可能な所定の粘度内で、熱伝導性充填材を含有させることを検討すると、炭素繊維を単独で含有させる場合は、比較的高充填ができるものの熱伝導性を所望の程度にまでは高めるのは難しい。また、鱗片状黒鉛粉末を単独で含有させる場合は、熱伝導性を高め易いと思われるものの高充填することができず、やはり熱伝導性を所望の程度にまで高めるのは困難である。
【0036】
ところが、炭素繊維と鱗片状黒鉛粉末の合計量を100%としたとき、炭素繊維の割合を46〜92%の範囲としたときに炭素繊維単独の場合や鱗片状黒鉛粉末単独の場合よりも熱伝導性を高めることができ、54〜85%の範囲としたときに熱伝導性を飛躍的に高めることができ、最大で熱伝導率を30%程度高めることに成功したのである。
【0037】
(その他の熱伝導性充填材:)
熱伝導性シートには、炭素繊維および鱗片状黒鉛粉末以外の熱伝導性充填材を含むことができる。ここでは、先に述べた炭素繊維および鱗片状黒鉛粉末以外の熱伝導性充填材を「その他の熱伝導性充填材」と称するものとする。その他の熱伝導性充填材は以下の性質を有することが好ましい。
【0038】
好ましい第1の態様としては、アスペクト比が2以下の熱伝導性粉末を挙げることができる。アスペクト比が2以下の粉末は、ある程度多量に添加しても混合組成物の粘度が上昇し難く、また異なる粒径の粉末どうしを併用することで、単独で用いた場合よりも混合組成物の粘度を下げる効果がある。鱗片状黒鉛粉末がシートの厚み方向に配向し、かつアスペクト比が小さい熱伝導性充填材を含むことで、配向した鱗片状黒鉛粉末の面どうしの隙間にその他の熱伝導性充填材の粉末が好適に介在し、熱伝導率の高い熱伝導性シートが得られる。球状の熱伝導性粉末は、このような効果が特に高いため好ましい。
【0039】
好ましい第2の態様としては、非磁性体または極めて磁性が弱い熱伝導性粉末を挙げることができる。炭素繊維や鱗片状黒鉛粉末は、混合組成物の粘度にもよるが約1T(テスラ)以上の強磁場中に混合組成物を置くと、所望の方向に炭素繊維や鱗片状黒鉛粉末を配向させることができる。そうした一方で、非磁性体や極めて磁性が弱い熱伝導性粉末は、上記磁場中での相互作用が小さいか、無いため、熱伝導性シート中で配向させずにランダムに分散させることができる。このため、こうした非磁性体または磁性が弱い熱伝導性粉末を熱伝導性シートに含ませることで、シートの厚み方向のみならず面方向にも熱を伝え易くすることができる。したがって、この熱伝導性粉末の寄与により炭素繊維や鱗片状黒鉛粉末をシートの面方向に連結する作用が働き、シートの厚み方向への熱伝導性も向上させることができる。
【0040】
こうしたその他の熱伝導性充填材には、例えば、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物などの球状や不定形の粉末、球状黒鉛などが挙げられる。金属としては、アルミニウム、銅、ニッケルなど、金属酸化物としては、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、石英など、金属窒化物としては、窒化ホウ素、および窒化アルミニウムなどを例示することができる。また、金属炭化物としては、炭化ケイ素が挙げられ、金属水酸化物としては、水酸化アルミニウムが挙げられる。これらの熱伝導性粉末の中でも、酸化アルミニウムやアルミニウムは、熱伝導率が高く、球状のものが入手しやすい点で好ましく、水酸化アルミニウムは入手し易く熱伝導性シートの難燃性を高めることができる点で好ましい。
【0041】
その他の熱伝導性充填材の平均粒径は0.5〜50μmであることが好ましい。平均粒径が50μmを超えると、炭素繊維や鱗片状黒鉛粉末の大きさに近づきそれらの配向を乱すおそれがある。一方、平均粒径が0.5μm未満の熱伝導性充填材は、比表面積が大きくなるため粘度が上昇し易く高充填し難くなる。但し、充填性に悪影響がない場合は、0.5μm未満の熱伝導性充填材を含んでもよい。また、平均繊維長が50μm以下の炭素繊維または平均粒径が50μm以下の鱗片状黒鉛粉末を用いる場合には、それらよりも平均粒径の小さい熱伝導性充填材を用いることが好ましい。熱伝導性充填材の平均粒径は、レーザ回折散乱法(JIS R1629)により測定した粒度分布の体積平均粒径で示すことができる。
【0042】
その他の熱伝導性充填材は、高分子マトリクス100質量部に対して、250〜700質量部の範囲で添加することが好ましく、350〜600質量部の範囲で添加することがより好ましい。250質量部未満の場合には、炭素繊維や鱗片状黒鉛粉末どうしの隙間に介在する量が不足し熱伝導性が悪くなるおそれがある。一方、700質量部を超えても、熱伝導性を高める効果が上がることがなくなり、かえって炭素繊維や鱗片状黒鉛粉末による熱伝導を阻害するおそれがある。そして350〜600質量部の範囲では、熱伝導性に優れ混合組成物の粘度も好適である。
【0043】
(添加剤:)
熱伝導性シートとしての機能を損なわない範囲で種々の添加剤を含ませることができる。例えば、可塑剤、分散剤、カップリング剤、粘着剤などの有機成分を含んでも良い。またその他の成分として難燃剤、酸化防止剤、着色剤などを適宜添加してもよい。
【0044】
(製造方法:)
上記原料を用いた熱伝導性シートの製造について説明する。
硬化して高分子マトリクスとなる反応性液状樹脂等の液状樹脂に、炭素繊維や鱗片状黒鉛粉末、その他の熱伝導性充填材などの熱伝導性充填材と、添加剤等を添加して混合、攪拌し、反応性液状樹脂中に熱伝導性充填材を分散させた混合組成物を得る。反応性液状樹脂が主剤と硬化剤との混合により硬化させるような液状樹脂の場合は、主剤と硬化剤の何れか一方、または両方に熱伝導性充填材を分散させることができ、主剤と硬化剤とを混合して混合組成物を得る。
【0045】
次に所定の型内に混合組成物を注入する。一の実施態様として、ここでは最終的に得られる熱伝導性シートと同一形状の型を用いる。型内の混合組成物に対しては、磁場を印加し、炭素繊維と鱗片状黒鉛粉末をシートの厚み方向に配向させる。そして、その配向状態を維持したまま加熱して混合組成物中の反応性液状樹脂を硬化させ、高分子マトリクス中に炭素繊維と鱗片状黒鉛粉末が配向した熱伝導性シートを得る。
【0046】
磁場配向によって炭素繊維および鱗片状黒鉛を配向させるためには、混合組成物の粘度は、10〜500Pa・sであることが好ましい。10Pa・s未満では炭素繊維や鱗片状黒鉛粉末、その他の熱伝導性充填材が沈降するおそれがあり、500Pa・sを超えると流動性が低すぎて磁場で炭素繊維や鱗片状黒鉛粉末が配向しないか、配向に時間がかかりすぎるためである。しかしながら、沈降し難い熱伝導性充填材を用いたり、沈降防止剤等の添加剤を組合せたりすることによって10Pa・s未満にできる場合もある。
【0047】
磁力線を印加するための磁力線発生源としては、超電導磁石、永久磁石、電磁石、コイル等が挙げられるが、高い磁束密度の磁場を発生することができる点で超電導磁石が好ましい。これらの磁力線発生源から発生する磁場の磁束密度は、好ましくは1〜30テスラである。この磁束密度が1テスラ未満であると、炭素繊維および鱗片状黒鉛粉末を配向させることが難しくなる。一方、30テスラを超える磁束密度は実用上得られにくい。
【0048】
炭素繊維と鱗片状黒鉛粉末の配向は、磁場の印加に変えて押出成形によって行うことができる。押出成形では、流動配向の性質を利用して押出成形中の混合組成物の流動方向に炭素繊維を配向させることができる。すなわち、押出成形で炭素繊維と鱗片状黒鉛粉末を配向させた後、混合組成物を硬化させて熱伝導性シートを得ることができる。
【0049】
また別の実施態様として、最終的に得られる熱伝導性シートとは異なる形状の型で成形することもできる。ここで用いる型は、最終的な熱伝導性シートの形状とする前の段階の塊状成形体を得るためのものである。混合組成物から略直方体の外形をした塊状成形体を形成しておき、これを後工程で切断または切削(以下これらをまとめて「スライス」ともいう)し、薄く形成することで、所望の厚みからなる熱伝導性シートを得る方法である。
【0050】
炭素繊維や鱗片状黒鉛粉末が配向した高分子マトリクスを得るまでの方法は、型が異なるだけでその方法は同じである。得られた塊状成形体は、炭素繊維の配向方向に垂直な平面でスライスする工程を行う。切断手段としては、刃物、線材、レーザなど種々の手段を利用することができ、刃物としてはせん断刃、押し切り刃、カンナなどを用いることができる。得られた塊状成形体をカンナにより切削する場合には、カンナ平面からの刃角を45°、突出する刃先を0.5mmとし、塊状成形体に0.2〜0.3MPa程度の圧力でカンナを押し付けて切削することができる。
【0051】
こうしたスライス工程を行うことにより、得られた熱伝導性シートの表面はスライス面となっている。
このスライス面には、必要に応じて研磨工程を実行することができる。研磨工程では、研磨紙や布やヤスリなどを用いて、シートの表面から露出した炭素繊維の端面を研磨する。これにより、露出した炭素繊維の端面が平坦に潰される。こうした端面は、発熱体や放熱体との密着性を高めて、最終的に得られる熱伝導性シートの熱抵抗を低減する効果を奏する。
【0052】
炭素繊維や鱗片状黒鉛粉末を配向させる方法として、混合組成物をスリットコーターや塗布法によって塗布し、薄い半硬化状の1次シートを形成した後、この1次シートを積層して硬化させ、端部からスライスする方法が知られている。しかしながら、この方法で熱伝導性シートを作製すると、鱗片状黒鉛粉末の鱗片面の法線方向が揃うため、厚み方向に加えて、面内の一方向にも配向したものとなる。そのため、鱗片状黒鉛粉末の鱗片面がランダムな方向を向いた熱伝導性シートは得られない。
また、このような1次シートを積層する方法は、1次シートの形成の際に表面に高分子マトリクスの濃度が高いスキン層が形成される。そのため、1次シートどうしを積層するとこのスキン層が介在してしまうため、高分子マトリクス中に熱伝導性充填材の濃度の薄い部分が生じ熱伝導を阻害するおそれがある。そのため、こうした方法を採用することは好ましくない。
【0053】
(熱伝導性シートの性質:)
熱伝導性シートでは、炭素繊維や鱗片状黒鉛粉末の長軸がシート厚方向に配向しているのでシート厚方向の熱伝導率を高めることができ、また、鱗片状黒鉛粉末の短軸が長軸に垂直なランダムな方向を向いているので、一定方向を向いている場合に比べて鱗片状黒鉛粉末どうしの接触部分が増えることからシート厚方向の熱伝導率を高めることができる。
そして、炭素繊維と鱗片状黒鉛粉末を所定割合で含むため、高分子マトリクスに対して、それほど熱伝導性充填材の含有量を高めることなく熱伝導率を高め、柔軟な熱伝導性シートとすることができる。
【実施例】
【0054】
混合組成物の調製
付加反応型シリコーンの主剤100質量部に対し、炭素繊維(平均繊維長100μm)130質量部と、その他の熱伝導性充填材として酸化アルミニウム(球状、平均粒径10μm)250質量部および水酸化アルミニウム(不定形、平均粒径8μm)250質量部を混合して混合組成物(主剤)を得た。また、付加反応型シリコーンの硬化剤についても主剤と同じように、付加反応型シリコーンの硬化剤100質量部に対し、炭素繊維(平均繊維長100μm)130質量部と、その他の熱伝導性充填材として酸化アルミニウム(球状、平均粒径10μm)250質量部および水酸化アルミニウム(不定形、平均粒径8μm)250質量部を混合して混合組成物(硬化剤)を得た。そして、混合組成物(主剤)と混合組成物(硬化剤)を混合することで、試料1の混合組成物(主剤と硬化剤の混合物)を得た。
また、表1〜表3に示す原材料と配合(質量部)に変更した以外は試料1と同様にして試料2〜試料24の混合組成物を得た。
【0055】
各表に示した原材料において、鱗片状黒鉛粉末は、平均粒径が130μmであり、アスペクト比は約10である。グラフェンは、平均粒径80μm、アスペクト比が8000である。球状黒鉛は、平均粒径20μmである。酸化アルミニウムは、球状であり、平均粒径20μmである。また、試料22〜試料24でのその他の熱伝導性充填材は試料1と同じ酸化アルミニウムと水酸化アルミニウムであり、この両者の含有量は同量としている。
また、各表において、炭素繊維と鱗片状黒鉛粉末の合計質量を(A)+(B)で示し、炭素繊維と鱗片状黒鉛粉末の合計質量に対する炭素繊維の質量の割合を(A)/[(A)+(B)]で示している。
【0056】
上記原材料について、炭素繊維の平均繊維長は電子顕微鏡により測定した。具体的には、電子顕微鏡で100本の炭素繊維の長さを測定し、その平均値を平均繊維長とした。鱗片状黒鉛粉末および熱伝導性充填材の平均粒径は、レーザ回折散乱法(JIS R1629)により測定した粒度分布の体積平均粒径である。
【0057】
熱伝導性シートの作製
試料1〜試料12および試料14〜試料24の各混合組成物を型に流し込み、型内の成形材料に振動を与えながら、炭素繊維や鱗片状黒鉛粉末が型の上下方向に配向するように10テスラの磁場を印加した。続いて、90℃で60分間加熱して付加反応型シリコーンを硬化させた後、型から成形体を取り出した。得られた成形体は、後述する熱抵抗の測定ができる試験片の大きさ、即ち、炭素繊維や鱗片状黒鉛粉末の配向方向を厚み方向として、その厚みが2mmである26mm×26mm四方のシート形状となるように切断して試料1〜試料12および試料14〜試料24の熱伝導性シートを得た。
【0058】
また試料13は、その混合組成物をコーターにより塗布して薄膜状の1次シートを形成し、これを積層して完全に硬化させた塊状体を形成した後、前記積層方向に沿ってスライスして厚みが2mmである2次シートを得た。次にこの2次シートから26mm×26mm四方を切り出して試料13の熱伝導性シートを得た。
【0059】
なお、表1〜表3において、シートの厚み方向と炭素繊維や鱗片状黒鉛粉末の配向方向が揃鱗片状黒鉛粉末の鱗片面の法線方向がシートの面方向にランダムに向いている試料1〜試料12、試料14〜試料24の場合を「〇」、シートの厚み方向と炭素繊維や鱗片状黒鉛粉末の配向方向が揃うものの、鱗片状黒鉛粉末の鱗片面の法線方向がシートの面内の一方向を向いている試料13の場合を「×」と表示している。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
各試料の特性:
(混合組成物の粘度の測定:)
各試料の混合組成物の粘度を測定した。この粘度は粘度計(BROOK FIELD製回転粘度計DV−E)で、スピンドルNo.14の回転子を用い、回転速度10rpm、測定温度23℃で測定した値である。各試料の混合組成物の粘度を表1〜表3に示す。
【0064】
(熱伝導性シートの硬さの測定:)
各試料の熱伝導性シートの硬さを測定した。この硬さは、JIS K6253規定に従ってタイプEデュロメータを用いて測定したE硬度の値である。
【0065】
(熱伝導率の測定:)
熱伝導率は、図5の概略図で示した熱伝導率測定機を用い、ASTM D5470−06に準拠した方法で測定した。より具体的には、試験片Sとしての各試料の熱伝導性シートを、測定面が25.4mm×25.4mmで側面が断熱材11で覆われた銅製ブロック12の上に貼付し、上方の銅製ブロック13で挟み、圧縮率が10%になるようにロードセル16によって荷重をかけた。ここで、下方の銅製ブロック12はヒーター14と接している。また、上方の銅製ブロック13はファン付きのヒートシンク15に接続している。次いで、下方の銅製ブロック12の表面が80℃になるようにヒーター14を発熱させ、温度が略定常状態となる15分後に、上方の銅製ブロック13の温度(θj0)とヒーターの発熱量(Q)を測定し、以下の式(1)から各試料の熱抵抗を、さらに以下の式(2)から熱伝導率を求めた。また、このときの各試験片Sの厚みTも測定した。
【0066】
熱抵抗=(θj1−θj0)/Q ・・・・(1)式
式(1)において、θj1は下方の銅製ブロック12の温度(80℃)、θj0は上方の銅製ブロック13の温度、Qは発熱量である。
【0067】
熱伝導率=T/熱抵抗 ・・・・(2)式
式(2)において、Tは各試験片の厚みである。
【0068】
試料の評価:
(硬さ:)
各試料の熱伝導性シートの硬さについては、試料1〜試料12、試料14〜試料24においてE32〜E37の範囲内にありほぼ同じであった。しかし、試料13はE60となり他の試料よりは硬い結果となった。
【0069】
(熱伝導率:)
試料1は炭素繊維を130部(鱗片状黒鉛粉末を含まない)、試料9は鱗片状黒鉛粉末を130部(炭素繊維を含まない)含んでおり、この両試料は熱伝導性充填材の配合量としては同量であるが、試料1の方が混合組成物の粘度は低く、熱伝導率は高い結果となった(試料1と試料9の対比)。
【0070】
また、試料1よりもさらに炭素繊維の配合量を増やし、磁場配向させる際の限界に近い粘度とした試料10を作製したが熱伝導率は試料1と変わらなかった。一方、炭素繊維を含まず鱗片状黒鉛粉末単独の試料9は、粘度が高かったため、鱗片状黒鉛粉末の配合量を減らし、鱗片状黒鉛粉末を磁場配向させるのに適した限界に近い粘度とした試料12を作製したところ試料9よりも熱伝導率は増大した。これらの結果より、炭素繊維や鱗片状黒鉛粉末だけの配合量を増やしても所定の配合量以上では熱伝導性の向上が見られないことがわかる(試料1、試料9、試料10、試料12の対比)。
なお、本実施例の説明では、その他の熱伝導性充填材を含むものであっても鱗片状黒鉛粉末を含まずに炭素繊維を含む試料を炭素繊維単独、炭素繊維を含まずに鱗片状黒鉛粉末を含む試料を鱗片状黒鉛粉末単独のように称している。
【0071】
炭素繊維と鱗片状黒鉛粉末の合計量が130質量部である試料2〜試料8のうち、試料2〜試料7では、鱗片状黒鉛粉末を含まずに炭素繊維を130質量部含む試料1よりも熱伝導率が高かった。この試料2〜試料7のうち、特に試料3〜試料6では熱伝導率が試料1よりも20%以上高くなり、炭素繊維と鱗片状黒鉛粉末を併用することで、炭素繊維単独や鱗片状黒鉛粉末単独の場合よりも熱伝導性を飛躍的に高めることができた(試料1と試料2〜試料7の対比)。
【0072】
鱗片状黒鉛粉末を全く含まない試料1よりも熱伝導性が向上した試料2では、炭素繊維と鱗片状黒鉛粉末の合計に対する炭素繊維の割合が0.92であることから、炭素繊維の割合が0.92以下となるように混合すれば、熱伝導性を向上させることができることがわかる。そうした一方で、炭素繊維を全く含まない試料9よりも熱伝導性が向上した試料7では、炭素繊維と鱗片状黒鉛粉末の合計に対する炭素繊維の割合が0.46であることから、炭素繊維の割合が0.46以上となるように混合すれば、熱伝導性を向上させることができることがわかる。すなわち、炭素繊維と鱗片状黒鉛粉末の合計に対する炭素繊維の割合が0.46〜0.92の範囲にあれば、炭素繊維単独で、または鱗片状黒鉛粉末単独で用いるよりも熱伝導性が高まることがわかる。特に炭素繊維の割合を0.62とした試料5では、その熱伝導率が炭素繊維単独である試料1に比べて30%以上高くなっていることがわかる(試料1と試料2〜試料7の対比)。
【0073】
配合が同じで鱗片状黒鉛粉末の鱗片面の法線方向がランダムか一方向を向いているかが異なる試料4と試料13の熱伝導性シートを比べると、試料4は試料13に比べて熱伝導性に優れていた。これより、鱗片状黒鉛粉末の鱗片面の法線方向がランダムであることで、熱伝導性を大きく向上させることができることがわかる(試料4と試料13の対比)。
【0074】
鱗片状黒鉛粉末に変えてグラフェンを混合した試料15を見ると、鱗片状黒鉛粉末を用いた試料9よりも熱伝導率が低くなった。また、炭素繊維単独の試料1に対して、その炭素繊維の一部をグラフェンに置き換えた配合となる試料14についても、試料1よりも熱伝導率が低くなった。このことより炭素繊維とグラフェンを併用しても、熱伝導率を高める効果は見られないことがわかる(試料1と試料14、試料15の対比)。
【0075】
同様に、鱗片状黒鉛粉末に変えて球状黒鉛粉末を用いた試料17を見ると、球状黒鉛粉末を用いた試料9に比べて粘度は低いものの、熱伝導率が低い結果となった。また、炭素繊維単独の試料1に対して、その炭素繊維の一部を球状黒鉛粉末に置き換えた配合となる試料16についても、試料1よりも熱伝導率が低くなり、炭素繊維と球状黒鉛粉末を併用しても、熱伝導率を高める効果は見られないことがわかる(試料1と試料16、試料17の対比)。
【0076】
さらに、鱗片状黒鉛粉末に変えて酸化アルミニウムを用いた試料19を見ると、球状黒鉛粉末を用いた試料9に比べて粘度は低いものの、熱伝導率が低い結果となった。また、炭素繊維単独の試料1に対して、その炭素繊維の一部を酸化アルミニウムに置き換えた配合となる試料18についても、試料1よりも熱伝導率が低くなり、炭素繊維と酸化アルミニウムを併用しても、炭素繊維と鱗片状黒鉛粉末を併用したときのような熱伝導率を高める効果は見られないことがわかる(試料1と試料18、試料19の対比)。
【0077】
炭素繊維と鱗片状黒鉛粉末の合計が130質量部であり、その他の熱伝導性充填材が500質量部である試料2〜試料8に対して炭素繊維と鱗片状黒鉛粉末の合計量やその他の熱伝導性充填材の配合量を変えた試料20〜試料24において、試料20はやや粘度が高くなったものの試料1の炭素繊維単独の場合よりも熱伝導率は高くなった。試料21は炭素繊維と鱗片状黒鉛粉末の合計が80質量部であり、試料1の炭素繊維単独で130質量部の場合に対して6割程度に熱伝導性充填材量が減っているにもかかわらず熱伝導率の低下はそれほど認められなかった。
【0078】
試料22は試料2〜試料8と炭素繊維+鱗片状黒鉛粉末の配合量は同じであるが、その他の熱伝導性充填材量を半分に減らしたものの、熱伝導率の低下はほとんどなく試料7とほぼ同程度であった。そして、試料23は炭素繊維+鱗片状黒鉛粉末の合計が70質量部と少なかったため、その他の熱伝導性充填材を700質量部と多めに配合しても熱伝導率は高くすることができなかったが、試料24では高い熱伝導率が得られた。
【0079】
炭素繊維と、鱗片状黒鉛粉末と、その他の熱伝導性充填材の配合量の合計が、試料22で最も少なく380質量部であり、試料24で最も多く790質量部であることから、高分子マトリクス100質量部に対して、加える熱伝導性充填材の合計、即ち、炭素繊維と鱗片状黒鉛粉末とその他の熱伝導性充填材の合計を380〜790質量部とすることで混合組成物の粘度が好適であり、得られる熱伝導性シートの熱伝導率も高いものとなることがわかる。
【0080】
上記実施形態や実施例で示した形態は本発明の例示であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、実施形態や実施例の変更または公知技術の付加や、組合せ等を行い得るものであり、それらの技術もまた本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0081】
1 熱伝導性シート
2 高分子マトリクス
3 炭素繊維
4 鱗片状黒鉛粉末
5 その他の熱伝導性充填材
10 熱伝導率測定機
11 断熱材
12 下方の銅製ブロック
13 上方の銅製ブロック
14 ヒーター
15 ファン付きヒートシンク
16 ロードセル
S 試験片
θj0 上方の銅製ブロック13の温度
θj1 下方の銅製ブロック12の温度
図1
図2
図3
図4
図5