特許第6671743号(P6671743)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6671743
(24)【登録日】2020年3月6日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】液晶素子の電極取付方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1345 20060101AFI20200316BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
   G02F1/1345
   G02F1/13 505
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2019-561344(P2019-561344)
(86)(22)【出願日】2019年1月21日
(86)【国際出願番号】JP2019001666
【審査請求日】2019年11月7日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504429644
【氏名又は名称】九州ナノテック光学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114627
【弁理士】
【氏名又は名称】有吉 修一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100182501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100175271
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 宣圭
(74)【代理人】
【識別番号】100190975
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 聡子
(72)【発明者】
【氏名】馬場 潤一
【審査官】 佐藤 洋允
(56)【参考文献】
【文献】 特開2018−185368(JP,A)
【文献】 特開2017−181560(JP,A)
【文献】 特表2010−503048(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1343−1/1345
G02F 1/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する導電膜が取付けられた一対の基材の間に配置可能であると共に液晶組成物を有する液晶層を切開して、同液晶層の表面に開口部を形成すると共に同開口部に連通する空間を同液晶層の内部に形成する切開工程と、
切開工程で形成された前記空間に電極の少なくとも一部を挿入する電極挿入工程と、
前記空間に挿入された前記電極の少なくとも一部を前記液晶層で挟んだ状態で、同電極と同液晶層を接着する接着工程とを備える
液晶素子の電極取付方法。
【請求項2】
前記切開工程において、一対の前記基材の間に配置された前記液晶層に、または一対の前記基材の間に配置される前の前記液晶層に、切っ先から延びる刃先を有する刃を、同切っ先から、同刃先が同基材の延びる方向と同じ方向に向いた状態で挿入した後、同刃を挿入した状態で同刃先が向いた方向へ、同刃を移動させて同液晶層を切開する
請求項1に記載の液晶素子の電極取付方法。
【請求項3】
前記切開工程において、前記基材へ向けられた前記液晶層の面に対して略直交する同液晶層の面に開口部を形成する
請求項1に記載の液晶素子の電極取付方法。
【請求項4】
前記電極は、平面状の本体と、該本体の外側に配置されていると共に導電性物質を含有した接着剤とを有する
請求項1に記載の液晶素子の電極取付方法。
【請求項5】
前記電極の前記本体は、樹脂フィルムであり、
前記導電性物質は、導電性を有するバインダーであり、
該バインダーはグラフェンで形成されたコア材を含む
請求項4に記載の液晶素子の電極取付方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液晶素子の電極取付方法に関する。詳しくは、例えば調光体として使用される液晶素子の電極取付方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
通電を制御することによって透明状態と不透明状態とを切替えることができる、調光体などの液晶素子は、オフィスにおける間仕切り、住宅における窓ガラス、ホームシアターの映像スクリーンなどに使用されている。
【0003】
このような調光体は一般的に、透明導電膜が取付けられた2枚のガラスあるいは2枚のフィルムの間に液晶層が配置された構造を有する。
そして、透明導電膜に導通可能に取付けられた電極に電圧を印加することによって、液晶層に含まれる液晶分子の配向状態を変化させ、入射した光を散乱する不透明状態と、入射した光を透過する透明状態とを切替えている。
【0004】
また、このような調光体について、様々な技術が提案されている。
例えば特許文献1には、図4に示す、調光体を用いた合わせガラスが記載されている。
【0005】
すなわち、特許文献1に記載の合わせガラス100は、対向する一対の板ガラス(101A、101B)と、板ガラス(101A、101B)の各々における対向面に配置された、透明な中間膜(102A、102B)と、中間膜(102A、102B)の間に挟持された調光体103とを備える。
【0006】
また、調光体103は、液晶層108と、間に液晶層108を挟持する一対のPETフィルム基板(109A、109B)と、一対のPETフィルム基板(109A、109B)の各々における対向面に配置された透明導電膜(110A、110B)とを有する。
また、調光体103の一端において液晶層108、透明導電膜110A及びPETフィルム109Aが切り欠かれることによって露出した透明導電膜110Bの上に電極が設けられている。
【0007】
また、電極は、露出した透明導電膜110B上に塗布された銀ペースト111及び銀ペースト111の上側に貼着された銅テープ112から成る接続基部と、一端が銅テープ112に圧着され、且つ、他端が合わせガラス100の周縁部から突出した板状のコネクタ113とを有する。
また、コネクタ113には、ハンダ114によって、外部電源より電力を供給するリード線115が固着されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】日本国特許第4060249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載のように、液晶層108、透明導電膜110A及びPETフィルム109Aが切り欠かれることによって露出した透明導電膜110Bの上に電極を設けるという方法では、液晶層108を取除く際に透明導電膜110Bの表面にダメージを与え、表面抵抗値が高くなってしまうという問題がある。
【0010】
また、透明導電膜110Bが露出して、油脂、水分、その他の液や酸素を含むガスに触れてしまい、透明導電膜が劣化するという問題もある。
さらに、表面抵抗値を下げるため、銀ペーストなどの導電性ペーストを透明導電膜の表面に塗る必要があり、電極を取付けるために、液晶層と導電膜とフィルム基板を取除いたり、導電性ペーストを塗布したりという工程が必要であり、特定の技能が要求されると共に工程が煩雑であるという問題もある。
【0011】
本発明は、以上の点に鑑みて創案されたものであり、工程を簡素化できる液晶素子の電極取付方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明の液晶素子の電極取付方法は、導電性を有する導電膜が取付けられた一対の基材の間に配置可能な液晶層を切開して、同液晶層の表面に開口部を形成すると共に同開口部に連通する空間を同液晶層の内部に形成する切開工程と、切開工程で形成された前記空間に電極の少なくとも一部を挿入する電極挿入工程と、前記空間に挿入された前記電極の少なくとも一部を前記液晶層で挟んだ状態で、同電極と同液晶層を接着する接着工程とを備える。
【0013】
ここで、液晶層を切開して、液晶層の表面に開口部を形成すると共に開口部に連通する空間を液晶層の内部に形成する切開工程によって、電極が液晶層に挟まれた状態で接着されて液晶層に取付けられるための空間を液晶層の内部に形成できる。また、液晶層の一部を除去する必要がないので、液晶素子の厚みが減少せず、液晶素子の強度の低下を回避できる。
【0014】
また、切開工程で形成された空間に電極の少なくとも一部を挿入する電極挿入工程によって、電極の両面を液晶層に接触させることができる。
【0015】
さらに、空間に挿入された電極の少なくとも一部を液晶層で挟んだ状態で、電極と液晶層を接着する接着工程によって、液晶層の切開された部分から割れが発生し難い。
【0016】
また、本発明の液晶素子の電極取付方法は、切開工程において、一対の基材の間に配置された液晶層に、または一対の基材の間に配置される前の液晶層に、切っ先から延びる刃先を有する刃を、切っ先から、刃先が基材の延びる方向と同じ方向に向いた状態で挿入した後、刃を挿入した状態で刃先が向いた方向へ、刃を移動させて液晶層を切開する構成とすることができる。
【0017】
この場合、挿入される電極の大きさに対応した空間を液晶層の内部に形成することができる。
【0018】
さらに、本発明の液晶素子の電極取付方法は、切開工程において、基材へ向けられた液晶層の面に対して略直交する液晶層の面に開口部を形成する構成とすることができる。
【0019】
この場合、導電膜や基材を損傷することなく、電極が取付けられる空間を液晶層に形成できる。
【0020】
また、本発明の液晶素子の電極取付方法において、電極は、平面状の本体と、本体の外側に配置されていると共に導電性物質を含有した接着剤とを有する構成とすることができる。
【0021】
この場合、電極の周囲に液晶組成物が存在しても、電極と導電膜とを導通させ易い。
また、電極と液晶層とが熱圧着し易い。
【0022】
また、本発明の液晶素子の電極取付方法において、電極の前記本体は、樹脂フィルムであり、導電性物質は、導電性を有するバインダーであり、バインダーはグラフェンで形成されたコア材を含む構成とすることができる。
【0023】
この場合、電極が柔軟性を有することができ、液晶素子の基材も柔軟性を有する場合には立体的な形状の対象物に液晶素子を取付け易くなる。
また、グラフェンは金属と同じように全体が導電性を有するので、コア材に金属物質をコーティングする必要がない。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る液晶素子の電極取付方法は、工程を簡素化できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明を適用した液晶素子の電極取付方法の切開工程を説明する概略図である。
図2】本発明を適用した液晶素子の電極取付方法の電極挿入工程及び接着工程を説明する概略図である。
図3図2(b)に示すA−A線に沿って切断した電極の概略断面図である。
図4】従来の調光体を用いた合わせガラスの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明し、本発明の理解に供する。
【0027】
本発明の液晶素子の電極取付方法は、切開工程を備える。
この切開工程は、液晶層を切開して、この液晶層の表面に開口部を形成すると共に、開口部に連通する空間を液晶層の内部に形成する工程である。
【0028】
図1(a)は、本発明を適用した液晶素子の電極取付方法の切開工程において、刃を液晶層に挿入するときの概略図である。
また、図1(b)は、本発明を適用した液晶素子の電極取付方法の切開工程において、液晶層に挿入した状態の刃を移動させて液晶層を切っているときの概略図である。
さらに、図1(c)は、本発明を適用した液晶素子の電極取付方法の切開工程において、液晶層から刃を抜き取って液晶層を開いたときの概略図である。
【0029】
図1(a)〜図1(c)に示すように、液晶層4は液晶素子1を構成する部材であり、一対の平面状の基材すなわち、第1の樹脂フィルム基材2Aと第2の樹脂フィルム基材2Bとの間に配置されている。
ここで、第1の樹脂フィルム基材2Aと第2の樹脂フィルム基材2Bはそれぞれ、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂で形成されている。
【0030】
また、第1の樹脂フィルム基材2Aの一方の面には、第1の導電膜3Aが取付けられている。また、第2の樹脂フィルム基材2Bの一方の面には、第2の導電膜3Bが取付けられている。
また、図1(a)〜図1(c)に示すように、第1の樹脂フィルム基材2Aと第2の樹脂フィルム基材2Bは、第1の導電膜3Aと第2の導電膜3Bを対向させて配置されている。
【0031】
また、導電膜を形成する物質としては、導電性を有するものであればどのようなものでもよいが、例えば酸化インジウムスズ(ITO)、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)、銀ナノワイヤー、グラフェンが挙げられる。
【0032】
そして、液晶層4は、第1の樹脂フィルム基材2Aと第2の樹脂フィルム基材2Bとの間に配置され、第1の導電膜3A及び第2の導電膜3Bと固着されている。
【0033】
図1(a)に示すように、第1の導電膜3A及び第2の導電膜3Bに固着された液晶層4を切開するために、刃5を用いる。
刃5は、通常の刃と同じように、切っ先5Aと、切っ先5Aから延びる刃先5Bと、切っ先5Aから延びると共に刃先5Bに対して対向する位置に配置された峰5Cと、切っ先5A、刃先5B及び峰5Cに囲まれた領域である平5Dを有する。
【0034】
また、刃5の切っ先5Aとは反対側にアーム6が取付けられている。
図示していないが、アーム6は切開装置に接続されている。すなわち、切開装置は、アーム6を駆動するための駆動手段を備えており、アーム6は駆動手段に接続されている。
また、駆動手段はアーム6を、mm単位で動かすことができる。
【0035】
また、切開装置の駆動手段がアーム6を動かすことで、アーム6に取付けられた刃5を動かすことができる。
切開装置の駆動手段によってアーム6を動かし、刃5を切っ先5Aから液晶層4に挿入する。
【0036】
このとき、刃先5Bが第1の樹脂フィルム基材2Aまたは第2の樹脂フィルム基材2Bの延びる方向と同じ方向に向いた状態で、刃5を液晶層4に挿入する。
また、刃5を挿入する長さは適宜決定されることができるが、例えば、液晶層4内に挿入される電極の縁と、この縁とは反対側の縁であり電極を取付けたときに液晶層4の外側に露出する縁との間の長さの約2/3に相当する長さだけ、刃5を挿入する。
【0037】
次に、図1(b)に示すように、刃5を液晶層4に挿入した状態で、刃先5Bが向いた方向へ刃5を移動させて液晶層4を切開する。
このとき、刃5を移動させる距離は適宜決定されることができる。
【0038】
刃5を移動させる距離は、例えば、液晶層4内に挿入される電極の縁と、この縁とは反対側の縁であり電極を取付けたときに液晶層4の外側に露出する縁とを結ぶ方向に対して略直交する方向における電極の長さから、刃5の峰5Cと刃先5Bとの間の長さを差し引いた残りの長さに相当する距離とすることができる。
【0039】
液晶層4を切開した後、切開箇所を第1の樹脂フィルム基材2Aの方と第2の樹脂フィルム基材2Bの方へ拡げて、液晶層4の表面に図1(c)に示すような開口部4Aを形成する。
また、このとき、液晶層4の内部に空間も形成し、開口部4Aは、この空間と連通している。
【0040】
また、開口部4Aは、第1の樹脂フィルム基材2Aと第2の樹脂フィルム基材2Bにそれぞれ向けられた液晶層4の面に対して略直交する液晶層4の面に形成される。
【0041】
なお、液晶層の角を横切るように液晶層を切開することも考えられるが、基材に向けられた液晶層の面に対して略直交する液晶層の2つの面に開口部を形成することになるので、必要以上に液晶層の表面に開口部を形成することになり、好ましくない。
【0042】
また、本発明の液晶素子の電極取付方法は、電極挿入工程と接着工程とを備える。
この電極挿入工程は、切開工程で形成された空間に電極の少なくとも一部を挿入する工程である。
また、この接着工程は、液晶層の空間に挿入された電極の少なくとも一部を液晶層で挟んだ状態で、電極と液晶層を接着する工程である。
【0043】
図2(a)は、本発明を適用した液晶素子の電極取付方法の電極挿入工程において、電極が挿入される、切開されて開口部が形成された液晶層の概略図である。
また、図2(b)は、本発明を適用した液晶素子の電極取付方法の電極挿入工程において、切開された液晶層の空間に電極の一部を挿入するときの概略図である。
また、図2(c)は、本発明を適用した液晶素子の電極取付方法の接着工程において、挿入された電極の一部を液晶層で挟んで圧着するときの概略図である。
【0044】
図1及び図2は断面図ではないが、各層を判別し易くするために斜線を付している。
【0045】
図2(a)に示すように、電極の少なくとも一部を挿入するために、液晶層4が切開されて液晶層4の表面に開口部4Aが形成されており、また、開口部4Aに連通する空間が液晶層4の内部に形成されている。
【0046】
そして、図2(b)に示すように、切開工程で形成された液晶層4の内部の空間に、電極7の一部を挿入する。
【0047】
また、図3は、図2(b)に示すA−A線に沿って切断した電極の概略断面図である。
図2(b)に示すように、本発明の方法において取付けられる電極7は平面形状を有する。
【0048】
また、電極7は、平面状の樹脂フィルム本体7Dを有する。
ここで、樹脂フィルム本体7Dは、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂フィルムなどの樹脂フィルムで形成されている。
【0049】
また、電極7は、平面状の第1の銅層7Eを有する。
ここで、第1の銅層7Eは銅箔で形成されており、かつ、樹脂フィルム本体7Dの一方の面全体に取付けられている。
【0050】
また、電極7は、平面状の第2の銅層7Fを有する。
ここで、第2の銅層7Fは銅箔で形成されており、かつ、第1の銅層7Eが取付けられた樹脂フィルム本体7Dの面とは反対側の面全体に取付けられている。
【0051】
また、電極7は、平面状の第1の接着剤層7Gを有する。
ここで、第1の接着剤層7Gは、第1の銅層7Eの、樹脂フィルム本体7Dに取付けられた面とは反対側の面全体に取付けられている。
【0052】
また、電極7は、平面状の第2の接着剤層7Hを有する。
ここで、第2の接着剤層7Hは、第2の銅層7Fの、樹脂フィルム本体7Dに取付けられた面とは反対側の面全体に取付けられている。
【0053】
また、第1の接着剤層7G及び第2の接着剤層7Hは、温度により軟化したり硬化したりすると共に、光に反応して接着性を有するようになる物質で形成されている。
ここで、第1の接着剤層7G及び第2の接着剤層7Hは、具体的には例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂またはこれらの混合物で形成されており、絶縁性を有する。
【0054】
また、第1の接着剤層7G及び第2の接着剤層7Hは、導電性物質を含有する。
ここで、導電性物質は、導電性を有するバインダーであり、バインダーは例えば直径5〜50μmの球形状を有し、熱または圧力、あるいは熱と圧力の両方によって変形する。
【0055】
すなわち、第1の接着剤層7G及び第2の接着剤層7Hは、フィルム状のアクリル樹脂などの絶縁性樹脂材料の中に微細な導電性粒子が分散したものであり、圧力や温度が加えられることにより、液晶素子の第1の導電膜3A及び第2の導電膜3Bと接着し、それと同時に導電性粒子を介して第1の導電膜3A及び第2の導電膜3Bと導通する。
一方、第1の接着剤層7G及び第2の接着剤層7Hは、第1の導電膜3Aと第2の導電膜3Bとを結ぶ方向に対して略直交する方向には絶縁の機能を発揮する、すなわち異方性導電フィルム(ACF)である。
【0056】
また、導電性を有するバインダーは、樹脂で形成されたコア材を含む。
また、コア材は絶縁体である樹脂で形成されているので、バインダーに導電性を付与するために、コア材は1種または2種以上の金属物質で被覆されている。
【0057】
また、電極7は、平面状の第1のカバーレイフィルム層7Iを有する。
ここで、第1のカバーレイフィルム層7Iは絶縁性を有し、かつ、第1の接着剤層7Gの、第1の銅層7Eに取付けられた面とは反対側の面の一部に取付けられている。
【0058】
すなわち、図2(b)に示されているように、第1のカバーレイフィルム層7Iは、第1の接着剤層7Gの略中央領域に取付けられている。
さらに、第1のカバーレイフィルム層7Iは、図2(b)に示されているように、第1の接着剤層7Gの略中央領域から、液晶層4の内部に挿入される電極7の縁部とは反対側の縁部の略半分の領域にまで及んでいる。
【0059】
また、図2(b)に示されているように、第1の接着剤層7Gの略中央領域から、液晶層4の内部に挿入される電極7の縁部とは反対側の縁部の残り略半分の領域までは、第1のカバーレイフィルム層7Iは取付けられておらず、第1の接着剤層7Gが露出している。
ここで、第1の接着剤層7Gが露出している部分が電極7の入力部7Cである。
【0060】
また、図2(b)に示されているように、第1の接着剤層7Gの略中央領域から、液晶層4の内部に挿入される電極7の縁部までは、第1のカバーレイフィルム層7Iは取付けられておらず、第1の接着剤層7Gは露出している。
ここで、第1の接着剤層7Gが露出している部分が導通部7Aである。
【0061】
そして、導通部7Aと入力部7Cによって挟まれた部分がリード部7Bである。
【0062】
また、電極7は、平面状の第2のカバーレイフィルム層7Jを有する。
ここで、第2のカバーレイフィルム層7Jは絶縁性を有し、かつ、第2の接着剤層7Hの、第2の銅層7Fに取付けられた面とは反対側の一部に取付けられている。
【0063】
すなわち、第2のカバーレイフィルム層7Jは、第2の接着剤層7Hの略中央領域に取付けられている。
さらに、第2のカバーレイフィルム層7Jは、第2の接着剤層7Hの略中央領域から、液晶層4の内部に挿入される電極7の縁部とは反対側の縁部の略半分の領域にまで及んでいる。
【0064】
また、第2の接着剤層7Hの略中央領域から、液晶層4の内部に挿入される電極7の縁部とは反対側の縁部の残り略半分の領域までは、第2のカバーレイフィルム層7Jは取付けられておらず、第2の接着剤層7Hが露出している。
【0065】
ここで、第2の接着剤層7Hが露出している部分が電極部7の入力部7Cである。
図3に示されているように、第1の接着剤層7Gが露出した部分と第2の接着剤層7Hが露出した部分は互いに点対称の位置にある。
【0066】
また、電極は必ずしも図3に示したような構造を有していなくてもよく、例えばスルーホール加工が施され、電極の一方の面にはカバーレイフィルム層は配置されず、電極の一方の面とは反対側である他方の面全体にカバーレイフィルム層が配置された構造を有することもできる。
【0067】
そして、液晶層4の内部に形成された空間に挿入された電極7の一部すなわち電極7の導通部7Aとリード部7Bを液晶層4で挟み、入力部7Cを液晶層4の外側に露出した状態で、電極7と液晶層4を接着する。
すなわち、図2(c)に示すように、加熱された第1のヒートバー8Aを第1の樹脂フィルム基材2Aに当てて液晶層4の方へ押すと共に、加熱された第2のヒートバー8Bを第2の樹脂フィルム基材2Bに当てて同じく液晶層4の方へ押して、電極7と液晶層4とを圧着する。
【0068】
このとき、電極7が有する、第1の接着剤層7G及び第2の接着剤層7Hが、第1のヒートバー8A及び第2のヒートバー8Bの熱によって軟化して、液晶素子の第1の導電膜3A及び第2の導電膜3Bと強固に接着する。
また、第1の接着剤層7G及び第2の接着剤層7Hが含有するバインダーが、液晶層4の液晶組成物を突き抜けて第1の導電膜3A及び第2の導電膜3Bと導通する。
【0069】
そして、液晶層4の外側に露出した2つの入力部7Cと、図示していない電源とを導線を介して導通させ、電極に電力を供給できるようにする。
【0070】
また、図1及び図2を参照して、導電膜付き基材に挟持された液晶層に電極を取付ける例を説明したが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではなく、例えば導電膜付き基材に液晶層が挟持される前に液晶層に電極を取付け、電極が取付けられた液晶層を、導電膜付き基材で挟持することもできる。
【0071】
液晶素子が備える基材は、必ずしもポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂で形成されていなくてもよく、例えば、ガラス、ポリカーボネート(PC)樹脂、またはポリメタクリル酸メチル(PMMA)樹脂で形成されていてもよい。
【0072】
また、電極の本体は、必ずしもポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂フィルムなどの樹脂フィルムで形成されていなくてもよく、例えば、ガラス、またはポリカーボネート(PC)樹脂で形成されていてもよい。
【0073】
また、電極の本体には、必ずしも銅層が取付けられていなくてもよく、他の導電性物質で形成された部材が取付けられていてもよい。
【0074】
また、電極において、必ずしも接着剤層が積層されていなくてもよく、例えば、電極を液晶層に取付ける際に電極の金属層などの導電層の縁に、導電性のバインダーを含有したACFなどの接着剤部材が接続されていてもよい。
【0075】
また、バインダーのコア材は必ずしも金属物質で被覆されていなくてもよく、例えば、カーボンの単結晶であるグラフェンで被覆されることもできる。グラフェンは金属と同じように全体が導電性を有するからである。
【0076】
また、バインダーのコア材はグラフェンで形成されることもできる。コア材がグラフェンで形成されていれば、グラフェンは金属と同じように全体が導電性を有するので、コア材に金属物質をコーティングする必要がなく好ましい。
【0077】
また、バインダーのコア材は、必ずしも樹脂で形成されていなくてもよく、例えばガラスまたは金属で形成されることもできる。
【0078】
また、切開工程において、必ずしも刃を、その切っ先から、刃先が基材の延びる方向と同じ方向に向いた状態で挿入した後、刃を挿入した状態で刃先が向いた方向へ、刃を移動させて液晶層を切開させなくてもよく、例えば取付けたい電極の長さと同じか若干長い長さの刃先を有する平面状の刃を、電極の挿入長さ分だけ液晶層に挿入して液晶層を切開し、液晶層の表面に開口部を形成すると共に開口部に連通する空間を液晶層の内部に形成することもできる。
【0079】
また、液晶層を切開して、液晶層の表面に開口部を形成すると共に開口部に連通する空間を液晶層の内部に形成することができれば、必ずしも刃を用いなくてもよく、例えばレーザーを用いることもできる。
【0080】
<性能評価試験>
本発明の方法を使用して電極が取付けられた液晶素子10個と、従来の方法を使用して液晶層の一部や導電膜の一部を取除いて電極が取付けられた液晶素子10個を作製した。
ここで、液晶素子として幅1000mm、長さ2500mmを有する素子を使用した。
また、電極の取付方法以外は全て同じ条件とした。
【0081】
本発明の方法を使用して、以下のように液晶素子に電極を取付けた。
すなわち、図1(a)〜図1(c)に示すように、液晶素子1の液晶層4を刃5で切開し、液晶層4の表面に54mmの長さの開口部4Aを形成した。
このとき、液晶層4の内部に開口部4Aと連通する深さ5mmの空間を形成した。
【0082】
そして、図2(b)に示すように、液晶層4の内部の空間に電極7の一部すなわち電極7の導通部7Aとリード部7Bを挿入した。
次に、液晶層4の内部に形成された空間に挿入された、電極7の導通部7Aとリード部7Bを液晶層4で挟み、図2(c)に示すように、250℃に加熱された第1のヒートバー8Aを第1の樹脂フィルム基材2Aに当てて液晶層4の方へ押すと共に、同じく250℃に加熱された第2のヒートバー8Bを第2の樹脂フィルム基材2Bに当てて同じく液晶層4の方へ押して、電極7と液晶層4とを熱圧着した。
【0083】
一方、従来の方法を使用して、以下のように液晶素子に電極を取付けた。
すなわち、アルコール溶剤を用いて液晶素子の一方の樹脂フィルム基材の一部と、この樹脂フィルム基材に取付けられた一方の導電膜の一部と、この導電膜と接触した液晶層の一部とを取除いた。
次に、露出した他方の導電膜上に銀ペーストを塗布して、電極7と同じ電極を銀ペーストに取付けた。
【0084】
以上のようにして電極が取付けられた液晶素子それぞれについて、導電膜の表面抵抗値を測定した。
結果を表1に示す。なお、電極を取付ける前の導電膜の表面抵抗値は150Ω/□であった。
【0085】
【表1】
【0086】
表1から明らかなように、本発明の方法によって電極を取付けられた液晶素子の導電膜の表面抵抗値は151〜153Ω/□であったのに対し、従来の方法によって電極を取付けられた液晶素子の導電膜の表面抵抗値は180〜235Ω/□であり、従来の方法では導電膜にダメージを与えてしまうことが判る。
【0087】
また、電極が取付けられた液晶素子それぞれについて、R10のマンドレル試験を行った。そして、本発明の方法によって電極を取付けられた液晶素子については500回曲げた後に導電膜の表面抵抗値を測定し、従来の方法によって電極を取付けられた液晶素子については150回曲げた後に導電膜の表面抵抗値を測定した。
結果を表2に示す。
【0088】
【表2】
【0089】
ここで、「N/A」は測定不可を意味する。表2から明らかなように、本発明の方法によって電極を取付けられた液晶素子については500回曲げられても表面抵抗値の上昇はほとんどなかったのに対し、従来の方法によって電極を取付けられた液晶素子については、150回曲げられた時点で、すでに表面抵抗値が上昇した。
【0090】
また、電極が取付けられた液晶素子それぞれについて、AC60Vの電圧と、AC120Vの電圧を印加して、10秒間隔の点滅を行った。結果を表3に示す。なお、AC60Vの電圧を印加したときの結果は、本発明の方法も従来の方法も同じだったので省略する。
【0091】
【表3】
【0092】
表3から明らかなように、本発明の方法によって電極を取付けられた液晶素子については52万回すなわち2ヶ月を超えても正常に点滅したのに対し、従来の方法によって電極を取付けられた液晶素子については6万回すなわち1週間を超えた時点で点滅しなくなった。
【0093】
以上のように、本発明の液晶素子の電極取付方法は、液晶層を切開して、液晶層の表面に開口部を形成すると共に開口部に連通する空間を液晶層の内部に形成する切開工程を備えるので、電極が液晶層に挟まれた状態で接着されて液晶層に取付けられるための空間を液晶層の内部に形成でき、また、液晶層の一部を除去する必要がないので、液晶素子の厚みが減少せず、液晶素子の強度の低下を回避できる。
【0094】
また、本発明の液晶素子の電極取付方法は、切開工程で形成された空間に電極の少なくとも一部を挿入する電極挿入工程を備えるので、電極の両面を液晶層に接触させることができる。
【0095】
また、本発明の液晶素子の電極取付方法は、空間に挿入された電極の少なくとも一部を液晶層で挟んだ状態で、電極と液晶層を接着する接着工程を備えるので、液晶層の切開された部分から割れが発生し難い。
【0096】
液晶層の一部を除去したり、導電性ペーストを塗布したりすることなく、このような3つの工程で電極を取付けることができるので、本発明の液晶素子の電極取付方法は工程を簡素化できる。
【0097】
また、本発明の液晶素子の電極取付方法によって、導電膜付き基材の一部や液晶層の一部を除去したり、導電性ペーストを塗布したりすることなく、電極を取付けることができるので、取付作業者の技能に関係なく電極を取付けることができる。
【0098】
また、本発明の液晶素子の電極取付方法は、アルコール溶剤を用いて導電膜付き基材の一部や液晶層の一部を除去したり、導電膜を露出させたりしないので、導電膜にダメージを与えることはなく、また、導電膜が油脂、水分、酸素を含むガスなどに触れ難くなり、導電膜の劣化を抑えることができる。
【0099】
また、本発明の液晶素子の電極取付方法は、導電膜付き基材の一部や液晶層の一部を除去しないので、液晶素子の強度を保つことができる。
【0100】
また、本発明の液晶素子の電極取付方法によって得られた液晶素子は、オフィスにおける間仕切り、住宅における窓ガラス、ホームシアターの映像スクリーン、自動車や航空機などの輸送機の窓ガラスなどに使用されることができる。
【符号の説明】
【0101】
1 液晶素子
2A 第1の樹脂フィルム基材
2B 第2の樹脂フィルム基材
3A 第1の導電膜
3B 第2の導電膜
4 液晶層
4A 開口部
5 刃
5A 切っ先
5B 刃先
5C 峰
5D 平
6 アーム
7 電極
7A 導通部
7B リード部
7C 入力部
7D 樹脂フィルム本体
7E 第1の銅層
7F 第2の銅層
7G 第1の接着剤層
7H 第2の接着剤層
7I 第1のカバーレイフィルム層
7J 第2のカバーレイフィルム層
8A 第1のヒートバー
8B 第2のヒートバー
【要約】
液晶層4は液晶素子1を構成する部材であり、一対の平面状の基材すなわち、第1の樹脂フィルム基材2Aと第2の樹脂フィルム基材2Bとの間に配置されている。第1の樹脂フィルム基材2Aの一方の面には第1の導電膜3Aが、第2の樹脂フィルム基材2Bの一方の面には第2の導電膜3Bがそれぞれ取付けられている。アーム6を動かし、刃5を切っ先5Aから液晶層4に挿入する。刃5を液晶層4に挿入した状態で、刃先5Bが向いた方向へ刃5を移動させて液晶層4を切開する。液晶層4を切開した後、切開箇所を第1の樹脂フィルム基材2Aの方と第2の樹脂フィルム基材2Bの方へ拡げて、液晶層4の表面に開口部4Aを形成する。このとき、液晶層4の内部に空間も形成し、開口部4Aは、この空間と連通している。そして、液晶層4の空間に電極の一部を挿入し、電極の一部と液晶層4を接着する。
図1
図2
図3
図4