(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6671746
(24)【登録日】2020年3月6日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】作業補助スーツ
(51)【国際特許分類】
A61F 2/50 20060101AFI20200316BHJP
A61F 5/02 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
A61F2/50
A61F5/02 K
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-197262(P2015-197262)
(22)【出願日】2015年10月4日
(65)【公開番号】特開2017-64335(P2017-64335A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2018年3月9日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年 4月19日兵庫県庁内記者会見会場(兵庫県神戸市中央区下山手通り5丁目10番1号)において開催された記者会見にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】512275547
【氏名又は名称】有限会社アトリエケー
(74)【代理人】
【識別番号】100134669
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 道彰
(72)【発明者】
【氏名】北浦 基広
【審査官】
安田 昌司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−031564(JP,A)
【文献】
特開2011−256507(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0281901(US,A1)
【文献】
特開2011−188896(JP,A)
【文献】
特開2007−051381(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0052568(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0059297(US,A1)
【文献】
特開昭52−137185(JP,A)
【文献】
特開2005−349177(JP,A)
【文献】
国際公開第2018/117243(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/50
A61F 5/02
A41D 13/00−13/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも作業者の脇の下からウエストまでの胴回りをカバーする作業用着衣本体部分と、
前記作業用着衣本体部分のウエスト背面に沿って上下縦方向に配した1本または複数本の板状弾性体である腰部支援用弾性体と、
前記作業用着衣本体部分の脇の下付近からウエスト側面付近まで至る体側に沿って上下縦方向に配した板状弾性体であって、右側の体側面および左側の体側面にそれぞれ独立に沿わせて設けた左側の体側支援用弾性体および右側の体側支援用弾性体を備え、
前記左側の体側支援用弾性体および右側の体側支援用弾性体の縦方向上端の高さが前記要部支援用弾性体の縦方向上端の高さより高い位置となっていることを特徴とする前記作業者の動作を支援する作業支援スーツ。
【請求項2】
少なくとも作業者の肩甲骨の一部をカバーし、前記作業用着衣本体部分とは一体型またはセパレート型の作業用着衣肩甲骨部分と、
前記作業用着衣肩甲骨部分の肩甲骨付近の背面の一部に設けた上部連結具と、
作業者着用のズボンの腰部背面または腰部側面の一部に設けた下部連結具と、
前記上部連結具および前記下部連結具に接続して前記作業用着衣本体部分と前記作業者着用ズボン間に取り付ける弾性体である背筋支援用弾性紐体を備え、
前記作業者の動作を支援する請求項1に記載の作業支援スーツ。
【請求項3】
前記板状弾性体が、板バネ構造体である請求項1または2に記載の作業支援スーツ。
【請求項4】
前記板状弾性体が、可撓性のあるリング板をそれぞれ偏位させつつ多数個重ねて一方向に並べて接続したものである請求項1または2に記載の作業支援スーツ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農作業、介護、工場での荷役作業、引っ越し運搬作業など、腰や背中の曲げ伸ばしを伴う作業の補助を行うことができる着衣型の作業補助具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、作業に従事する若年層の減少に伴い、作業従事者の年齢が高くなる傾向にある。特に、農業の担い手は高齢化が進んでおり、農作業の負担が大きくなっている。また、工場などの作業現場でも作業者の高齢化がみられる。これら前屈姿勢の作業を伴う農作業、荷役作業、介護には足腰への負担が大きく、無理を重ねると腰痛や関節痛を発症するおそれもある。
そこで、従来技術において、作業者の負担を軽減することを目的とした様々な作業補助スーツが知られている。
【0003】
第1に、身体を締めることを中心としたコルセットタイプの補助具が知られている。
例えば、特開平10−127729号に開示されているコルセットタイプの補助具は、
図9(a)に示すように、つぼ等を刺激する突状部材をベルト内側に設けた健康ベルトであり、健康ベルトで腰の胴回り全体を締めて腰を固定するものである。
また、例えば、特開2003−047625号に開示されているコルセットタイプの補助具は、
図9(b)に示すように、凸状の腰椎矯正具を腰ベルト本体の中央付近に配したものであり、腰をまっすぐ固定して背骨や腰椎への負担を軽減するものである。
【0004】
第2に、弾性体が組み込まれた作業動作を助ける着衣型の補助具が知られている。
例えば、特開2004−283423号に開示された腰痛プロテクターは、
図10(a)に示すように、腰全体を固定するコルセットタイプの取り付けバンド1’の後面から背中全体にかけて弾性体である腰部プロテクト板1なるものを設けたものである。屈んだ姿勢になると腰部プロテクト板1が撓り、屈んだ姿勢から直立する動作を行う際には腰部プロテクト板1の弾性力が付与されて作業者の動きを支援するものとなっている。
【0005】
また、例えば、特開昭52−137185号に開示された防腰バンドは、
図10(b)に示すように、コルセットタイプの胴着の背面に板バネ7を組み込んだものである。屈んだ姿勢になると板バネ7が撓り、屈んだ姿勢から直立する動作を行う際には板バネ7の弾性力が付与されて作業者の動きを支援するものとなっている。
【0006】
また、弾性体を腰の側面に配したものも知られている。例えば、特開2012−179347号に開示された腰痛予防サポーターは、
図11に示すように、複数の連結ベルト片をつないで、腰の周りに巻き付けるものであり、巻き付けた姿勢において腰骨の側方に板バネが位置するものである。作業者が腰を曲げた姿勢になると弾性体3が撓り、腰を曲げた姿勢から直立する動作を行う際には弾性体3の弾性力が付与されて作業者の動きを支援するものとなっている。
【0007】
第3に、より積極的にモーターなどのアクチュエータにより作業をアシストするパワーアシストスーツと呼ばれるものが知られている。
例えば、特開2015−39414号に開示された背筋動作補助装置は、
図12に示すように、腰に巻いたサポーターと肩に巻いたサポーターの間をアクチュエータで接続し、そのアクチュエータが電気駆動により機械的にパワーを発揮するものである。作業者が腰を曲げた姿勢から直立する動作を行う際にはアクチュエータが作動して機械的な力を付与し、作業者の動きを支援するものとなっている。近年では、足にも機械的要素を装備し、重量全体も作業者ではなく機械的に支持するものも登場している。
【0008】
【特許文献1】特開平10−127729号
【特許文献2】特開2003−047625号
【特許文献3】特開2004−283423号
【特許文献4】特開昭52−137185号
【特許文献5】特開2012−179347号公報
【特許文献6】特開2015−39414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記した従来技術における様々な作業補助スーツは、腰痛防止などに一定の効果は期待できると考えられるが、改善すべき課題がある。
【0010】
特許文献1や2に示したコルセットタイプの補助具では、作業負荷そのものの補助ができないという問題がある。弾性体やアクチュエータが組み込まれていない従来のコルセットタイプの補助具は、身体を締めること自体には腰椎のずれや背骨のずれなどの事故を防止する等の効果があるが、高齢者や女性など筋力が弱い作業者の力をアシストできるものではない。つまり、作業に必要な力はすべて作業者の筋力に頼るものであり、高齢者や女性など筋力が弱い作業者の作業負荷の低減を行うことはできない。
【0011】
次に、特許文献6に示したパワーアシストスーツは、機械的に大きな力を発揮できるものであるが、大掛かりな装置であり、農作業や介護現場にて常用できるようなものでなく、また、高価なものであり、低コスト化が求められる農作業や介護現場での使用に向かない。また、装着自体に大変な労力を伴うものであり、高齢者などが装着するには無理がある。
【0012】
次に、特許文献3から5に示した補助具では、体側の曲げやひねりや回旋などの動きを補助することができないものであった。弾性体が組み込まれているので、弾性体の弾性力が働き得る方向にのみ作業負荷を低減できるが、従来の特許文献3から5に示した補助具では腰回りと背筋の前後方向にしか弾性体が組み込まれておらず、体側の曲げやひねりや回旋などの動きには対応できないものであった。人体の構造上、体幹は、あばら骨で包まれた“胸部”と、あばら骨と腰骨の間の腰椎のある“ウエスト部”と、腰骨のある“腰部”があり、構造的な特徴が異なる。ここで、従来の弾性体を組み込んだ補助具は“腰部”か“背中”に配するものばかりであり、“胸部”側面や“ウエスト部”側面に配しているものがない。もっとも特許文献3のように、背筋に沿うように背中全体を覆っている場合、“胸部”背面と“ウエスト部”背面に配されている訳であるが、これは体の正中線に沿った屈みと直立という動作しか支持し得ない。農作業者介護サービスには、体側の曲げやひねりや回旋などの動きが求められ、“胸部”側面や“ウエスト部”側面での曲げやひねりのサポートが求められるが、従来技術においてこの問題を解決したものはない。
【0013】
そこで、本発明は、“腰部”へのサポート、“ウエスト部”背面サポートに加え、“胸部”側面や“ウエスト部”側面でのサポートを行い、体側の曲げやひねりや回旋などの動きの負荷を低減できる「作業補助スーツ」を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を備える。なお、以下に記載の構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。また、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに限定されることなく、明細書全体および図面に記載され、或いはそれらの記載から当業者が把握することの出来る発明思想に基づいて認識されるものであることが理解されるべきである。
【0015】
本発明の作業補助スーツは、少なくとも作業者の脇の下からウエストまでの胴回りをカバーする作業用着衣本体部分と、前記作業用着衣本体部分の脇の下付近からウエスト付近まで至る体側に沿わせて配した弾性体である体側支援用弾性体を備え、前記作業者の体側の動作を支援する作業支援スーツである。
例えば、作業支援スーツは、いわゆる“チョッキ”と呼ばれる袖なし形状に仕上げても良く、いわゆる“ジャケット”と呼ばれる袖あり形状に仕上げても良く、いわゆる“腹巻”と呼ばれる形状に仕上げても良い。
上記構成により、従来にはなかった体側に配された体側支援用弾性体によって、作業者は本発明の作業補助スーツを装着するだけで、体側の曲げ、ひねり、回旋といった体側の動作を支援することができる。農作業、介護サービス、工場荷役、引っ越し運搬作業など、体側の動作を伴う作業に広く役立つ。
【0016】
ここで、体側支援用弾性体の例としては、曲げ方向に対する弾性が得られるものであり、例えば板バネ構造体とすることができる。
板バネ構造体としては様々なものが採用することができる。例えば、靭性のある金属の平板でも良く、コイル状のものでも良い。なおコイル状の場合、厚みが出ないようにするため、厚み方向に圧縮したものが良い。また、個々が可撓性のあるリング板であり、それを複数個それぞれ偏位させつつ多数個重ねて一方向に並べて圧着や溶着や接着などの手段で接続したものでも良い。コイル状のバネと同様の強い弾性力が得られる一方、厚み方向が薄く、平板の板バネと変わらない程度の厚みとすることができる。
【0017】
ここで、作業用着衣本体部分において、さらに、ウエスト背面の上下方向に配した1本または複数本の弾性体である腰部支援用弾性体を備えた構造も可能である。例えば、ウエストの背中付近に上下方向に沿って腰部支援用弾性体を複数本仕込み、間隔を開けて周回状に配したものがある。背筋付近に沿って弾性体が配されているので、作業者の腰部および背筋の動作を支援することができる。
【0018】
次に、さらなる工夫として、本発明の作業補助スーツにおいて、上記構成に加えて、少なくとも作業者の肩甲骨の一部をカバーするチョッキ型または袖あり型の形状で、前記作業用着衣本体部分とはセパレート型または一体型の作業用着衣肩甲骨部分と、前記作業用着衣肩甲骨部分の肩甲骨付近の背面の一部に設けた上部連結具と、前記作業者着用のズボンの腰部背面または腰部側面の一部、または、前記作業用着衣本体部分の腰部背面または腰部側面の一部に設けた下部連結具と、前記上部連結具および前記下部連結具に接続して両者間に取り付ける弾性体である背筋支援用弾性紐体を備えた構造とすることも可能である。
簡単に言えば、作業用着衣肩甲骨部分は、チョッキ型衣服の上部や、袖あり型の衣服の上部を含むものである。作業用着衣肩甲骨部分は作業用着衣本体部分と一体型でも良くセパレート型でも良い。なお、セパレート型の場合、作業用着衣本体部分と作業用着衣肩甲骨部分が上下に分離していても良く、両者が重複しているもの(つまり重ね着状態)でも良い。
【0019】
上記構成により、本来、腰や背筋の動作には直接寄与しない肩甲骨付近と、腰部背面または腰部側面の一部との間に、背筋支援用弾性紐体を配することで、今まで、腰や背筋の動作には直接寄与しない肩や僧帽筋の力をもって、作業者の腰部および背筋の動作を支援することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の作業補助スーツによれば、従来にはなかった体側に配された体側支援用弾性体によって、作業者は本発明の作業補助スーツを装着するだけで、体側の曲げ、ひねり、回旋といった体側の動作を支援することができる。また、作業者の腰部および背筋の動作を支援することもできる。
例えば、チョッキのように装着するタイプであれば、身体を外界から保護するとともに、体温の調節もでき、また、身体を締めて身体を負荷から保護することができる。チョッキタイプであれば腕が楽に動かせるため、作業を妨害するようなこともない。
農作業、介護サービス、工場荷役、引っ越し運搬作業などの動作を伴う作業に広く役立つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施例1にかかる作業補助スーツ100の構成例を簡単に示す図である。
【
図2】ずれ上がり防止連結具114を取り付け、作業用着衣本体部分110が上方へ移動することがないように工夫した様子を示す図である。
【
図3】体側支援用弾性体120の例を説明する図である。
【
図4】作業者が体を横に曲げて体側の曲げ反りを伴う動作を行った様子およびその状態で発生する弾性力を簡単に説明する図である。
【
図5】業者が体をひねる動作を行った様子およびその状態で発生する弾性力を簡単に説明する図である。
【
図6】作業者が腰を曲げる動作を行った様子を簡単に示す図である。
【
図7】実施例2にかかる作業補助スーツ100aの構成例を簡単に示す図である。
【
図8】実施例2にかかる作業補助スーツ100aを装着した作業者が大きく前に屈む作業をした状態における背筋支援用弾性紐体160による支援を簡単に示す図である。
【
図9】(a)は特開平10−127729号に開示されている従来のコルセットタイプの補助具、(b)は特開2003−047625号に開示されている従来のコルセットタイプの補助具を簡単に示す図である。
【
図10】(a)は特開2004−283423号に開示された従来の腰痛プロテクター、(b)は特開昭52−137185号に開示された従来の腰痛プロテクターを示す図である。
【
図11】特開2012−179347号に開示された従来の腰痛予防サポーターを示す図である。
【
図12】特開2015−39414号に開示された従来の背筋動作補助装置を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ、本発明の作業補助スーツ、本発明の作業補助スーツの実施例を説明する。ただし、本発明の範囲は以下の実施例に示したものに限定されるものではないことは言うまでもない。
【実施例1】
【0024】
本発明の作業補助スーツは、チョッキタイプ、半袖タイプなど、様々なバリエーションがあるが、以下では、チョッキタイプを例として説明する。
【0025】
図1は、実施例1にかかる本発明の作業補助スーツ100の構成例を簡単に示す図である。
図1(a)は正面やや斜めからの図、
図1(b)は背面やや斜めからの図となっている。
図1に示すように、実施例1にかかる作業補助スーツ100は、作業用着衣本体部分110、体側支援用弾性体120、腰部支援用弾性体130を備えたものとなっている。
【0026】
この構成例では、作業補助スーツ100は、いわゆるチョッキ型の例となっている。
作業補助スーツ100の素材としては、特に限定されないが、丈夫で通気性があり、表面が撥水加工された素材が好ましい。
【0027】
作業用着衣本体部分110は、作業補助スーツ100のうち、少なくとも作業者の胸部からウエストの胴回りをカバーする部分である。ここでは作業補助スーツ100全体がチョッキ型となっているので、作業用着衣本体部分110はチョッキ状のものである。
作業用着衣本体部分110には前面にファスナーが取り付けられており、ファスナーを閉じて装着するタイプとなっているが、ボタン式で留める方式も可能である。
【0028】
作業用着衣本体部分110は、本体生地部分111、体側弾性体鞘112、腰部弾性体鞘113、ずれ上がり防止連結具114、首裏ポケット115の各部を備えている。
【0029】
本体生地部分111は、チョッキ状の本体である。
【0030】
体側弾性体鞘112は、作業用着衣本体部分110の脇の下付近からウエスト付近まで至る体側に沿うように配された鞘であり、内部に空洞が設けられ、体側支援用弾性体120が内蔵されるものとなっている。体側弾性体鞘112は左体側、右体側の両側に設けられている。
【0031】
腰部弾性体鞘113は、作業用着衣本体部分110のウエスト背面の上下方向に配された鞘であり、内部に空洞が設けられ、腰部支援用弾性体130が内蔵されるものとなっている。この構成例では、腰回りの背面に4個設けられた例となっている。
【0032】
ずれ上がり防止連結具114は、作業用着衣本体部分110の裾付近に設けられたものであり、作業用着衣本体部分110が作業中等の動きによってずれ上がることを防止するものである。この構成例ではずれ上がり防止連結具114は紐輪となっており、
図2に示すように、ずれ上がり防止連結具114をズボンに設けたボタン201に引っ掛けることでズボンと作業用着衣本体部分110の裾を連結して作業用着衣本体部分110が上方へ移動することがないようにしている。
【0033】
首裏ポケット115は、作業者の首裏(正確には、背中の上部付近)に当接する位置に設けられたポケットである。この首裏ポケット115の中に冷媒や熱媒を装着可能とするものである。屋外での作業などでは、夏季や冬季の体温調節のために冷媒や熱媒を装着することがあるが、冷媒や熱媒の作用を効果的に得るには首近くに当接しやすいようにポケットを設けている。
【0034】
次に、体側支援用弾性体120を説明する。
体側支援用弾性体120は弾性体であり、曲がることにより弾性力が発生する。作業用着衣本体部分110の脇の下付近からウエスト付近まで至る体側に沿わせて配されている。この構成例では、左右両側の体側弾性体鞘112の中に挿入されて配設されている。
体側支援用弾性体120の上部は作業用着衣本体部分110の脇の下付近であり、後述する腰部支援用弾性体130の上部は作業用着衣本体部分110のウエスト背面であるので、体側支援用弾性体120の上部の方が高い位置まで延設されていることとなる。
【0035】
図3は、体側支援用弾性体120の例である。
体側支援用弾性体120の構造は曲がることにより弾性力が発生するものであれば良いが、例えば、以下の例がある。
【0036】
図3(a)に示す例は、単純な金属板を短冊状に成型した板バネである。このような板ばねの場合、平板の面に直交する方向(つまり装着状態で体側左右への曲げ方向)へは曲がりやすく、弾性力も得られやすい。ひねり方向(つまり装着状態で体側をひねったり回旋したりする方向)に対しても弾性力が得られる。しかし、平板の面に水平方向(つまり装着状態で背中の曲げや反りの方向)には比較的に曲がりにくい。
【0037】
図3(b)に示す例は、コイルばねである。このようなコイルばねの場合、360度どの方向にも曲がりやすく、弾性力も得られやすい。つまり装着状態で、体側左右への曲げ、体側のひねりや回旋、背中の曲げや反りの方向のいずれでも弾性力が得られる。しかし、水平断面において円筒形であるので、厚みがやや出てしまう。
【0038】
図3(c)に示す例は、可撓性のあるリング状の板片をそれぞれ偏位させつつ多数個重ねて一方向に並べて接続した弾性体の例である。これはコイルのように線状に連続しているわけではないが、可撓性のあるリング板片が多数個重なって一方向に配設されているので、個々のリング板の可撓性が重畳して一種の擬似的なコイルの働きをする。コイルばねのように360度どの方向でも均等な物性というわけではないが、装着状態で、体側左右への曲げ、体側のひねりや回旋、背中の曲げや反りの方向のいずれでも強い弾性力が得られる。さらに、水平断面において板状であるので、厚みを小さく抑えることができる。
【0039】
体側支援用弾性体120の効果は、次のように説明される。
体側支援用弾性体120を用いない従来技術の状態では、作業姿勢として体側を左右方向に曲げて上半身を左右に屈む姿勢を取る際に、作業者自身が左右方向にそのまま転がらないように無意識に背筋で支え、屈む側の足で踏ん張ることが必要であった。このため背筋に負担がかかり足腰にも負担が掛かっていた。しかし、体側支援用弾性体120があれば、作業姿勢として体側を左右方向に曲げて上半身を左右に屈む姿勢を取る動きに伴い、体側支援用弾性体120がしなって弾性力が発生し、自然と作業者自身が側方に転がらない方向に弾性力が働き、その分、作業時の背筋の負担や足腰の負担が軽減される。
【0040】
さらに、体側を左右方向に曲げて上半身を左右に屈む姿勢を取った後に上半身を戻す復帰動作を行う際にも、体側を起こす方向に体側支援用弾性体120の弾性力が働くため、その分、身体を起こすための復帰動作が体側支援用弾性体120によって支援される。
【0041】
体側の曲げのみならず、ひねりや回旋などの動作についても同様であり、その動作に合わせて体側支援用弾性体120が曲がって弾性力が発生する。この弾性力が、体側のひねりや回旋などの姿勢から作業者の復帰動作を支援する。
【0042】
図4および
図5はその様子を簡単に示す図である。
図4(a)は作業者が体を横に曲げて体側の曲げ反りを伴う動作を行った様子である。この際、右体側にある体側支援用弾性体120が体右側に曲げられ変形している。また、左体側にある体側支援用弾性体120が体右側に反って変形している。この状態において、
図4(b)に示すように、体側支援用弾性体120に生じた弾性力は、作業者の曲げ状態を復帰する方向へ働く。
【0043】
図5(a)は作業者が体をひねった動作を行った様子である。この際も左右にある体側支援用弾性体120が変形している。この状態において、
図5(b)に示すように、体側支援用弾性体120に生じた弾性力は、作業者のひねり状態を復帰する方向へ働く。
【0044】
次に、腰部支援用弾性体130を説明する。
腰部支援用弾性体130は弾性体であり、曲がることにより弾性力が発生する。作業用着衣本体部分110のウエスト背面において上下方向に配された弾性体である。この構成例では、4つの腰部弾性体鞘113の中に挿入されて配設されている。
体側支援用弾性体120の上部は作業用着衣本体部分110の脇の下付近であり、腰部支援用弾性体130の上部は作業用着衣本体部分110のウエスト背面であるので、腰部支援用弾性体130の上部より体側支援用弾性体120の上部の方が高い位置まで延設されていることとなる。
腰部支援用弾性体130の構造は曲がることにより弾性力が発生するものであれば良いが、体側支援用弾性体120と同じく、
図3(a)に示した板ばね、
図3(b)に示したコイルばね、
図3(c)に示した擬似コイルばねなどを採用することができる。
【0045】
図6は作業者が腰を曲げる動作を行った様子を簡単に示す図である。
図6(a)は背面やや斜め方向からみた様子、
図6(b)は側面方向から見た様子である。
図6(a)に示すように、4本の腰部支援用弾性体130が前方に向けて曲がって変形している。この状態において、腰部支援用弾性体130に生じた弾性力は、作業者の腰を上方へ支える方向へ働く。
【0046】
この腰部支援用弾性体130の効果は以下のように説明される。
腰部支援用弾性体130を用いない従来技術の状態では、作業姿勢として腰を曲げる姿勢を取る際に、作業者自身がそのまま前方に転がらないように無意識に腰の付け根あたりの背筋で支え、足で踏ん張ることが必要であった。このため背筋に負担がかかり足腰にも負担が掛かっていた。しかし、腰部支援用弾性体130があれば、作業姿勢として腰を曲げる姿勢を取る動きに伴い、腰部支援用弾性体130がしなって弾性力が発生し、自然と作業者自身が前方に転がらない方向に弾性力が働き、作業時の背筋の負担や足腰の負担が軽減される。
さらに、腰を曲げた姿勢を取った後に上半身を起こす復帰動作を行う際にも、腰をのばす方向に腰部支援用弾性体130の弾性力が働くため、腰をのばすための復帰動作が腰部支援用弾性体130によって支援される。
【0047】
以上、実施例1に示した作業補助スーツ100によれば、体側支援用弾性体120によって、作業者は本発明の作業補助スーツ100を装着するだけで、体側の曲げ、ひねり、回旋といった体側の動作を支援することができる。また、腰部支援用弾性体130によって、作業者の腰部および背筋の動作を支援することもできる。
【実施例2】
【0048】
実施例2にかかる作業補助スーツ100aを説明する。
実施例2にかかる作業補助スーツ100aは、作業用着衣肩甲骨部分140を利用するものである。
図7は、実施例2にかかる作業補助スーツ100aの構成例を簡単に示す図である。
この構成例も、作業補助スーツ100aは、いわゆるチョッキ型の例となっている。
図7に示すように、実施例2にかかる作業補助スーツ100aは、作業用着衣本体部分110、体側支援用弾性体120、腰部支援用弾性体130に加え、作業用着衣肩甲骨部分140、下部連結具150、背筋支援用弾性紐体160を備えたものとなっている。
【0049】
作業用着衣本体部分110、体側支援用弾性体120、腰部支援用弾性体130については、実施例1に示したものと同様で良く、ここでの説明は省略し、実施例1では示されていない構成について詳しく説明する。
【0050】
作業用着衣肩甲骨部分140は、作業補助スーツ100のうち、少なくとも作業者の肩甲骨の一部をカバーする部分である。ここではチョッキ型を例としているので、チョッキ型の作業用着衣本体部分110の上部形状に対応した形状となっているが、別のパターンとしては袖あり型の形状や、いわゆるタンクトップの肩紐部分の形状のようなものでも良い。
作業用着衣本体部分110と作業用着衣肩甲骨部分140は、セパレート型でも良く、一体型でも良い。この構成例ではチョッキ型の作業用着衣本体部分110とは別の生地で構成されているが、作業用着衣本体部分110の肩甲骨付近の上面に縫着されて一体化されたものとなっている。
【0051】
作業用着衣肩甲骨部分140は、本体生地部分141、上部連結具142の各部を備えている。
【0052】
本体生地部分141は、作業用着衣肩甲骨部分140の本体である。
本体生地部分141の素材としては、特に限定されないが、丈夫で通気性があり、表面が撥水加工された素材が好ましい。
【0053】
上部連結具142は、作業用着衣肩甲骨部分の肩甲骨付近の背面の一部に設けた連結具であり、背筋支援用弾性紐体160の上部を接続固定する部材である。連結具としての形状や方式は、背筋支援用弾性紐体160を接続固定できるものであれば特に限定されない。例えば、いわゆるナスカン、吊りカン、平カン、Dカン、サイドリリースタイプのバックル、フロントリリースタイプのバックルなど多様なものがある。紐輪や紐体であっても良い。
【0054】
下部連結具150は、作業者着用のズボンの腰部背面または腰部側面の一部、または、作業用着衣本体部分の腰部背面または腰部側面の一部に設けた連結具であり、背筋支援用弾性紐体160の下部を接続固定する部材である。ここでは、ズボンの一部に縫製されている布片の上に取り付けられたボタン状のものとなっている。この構成例では、左右それぞれ2箇所に設けられている。
連結具としての下部連結具150の構造は、上部連結具142と同じタイプのものであることが想定されるが、連結具としての形状や方式は、背筋支援用弾性紐体160を接続固定できるものであれば特に限定されない。上部連結具142と同様に、例えば、いわゆるナスカン、吊りカン、平カン、Dカン、サイドリリースタイプのバックル、フロントリリースタイプのバックルなど多様なものがある。紐輪や紐体であっても良い。
【0055】
背筋支援用弾性紐体160は、上部連結具141および下部連結具150に接続して両者間に取り付ける弾性体である。上部連結具141は肩甲骨付近の背面の一部にあり、下部連結具150は腰部背面または腰部側面にあるので、背面において肩と腰を直接つなぐ弾性体となる。なお、この構成例では、背筋支援用弾性紐体160は左右それぞれに設けられ、2本となっている。
なお、背筋支援用弾性紐体160の素材であるが、背筋支援用弾性紐体160がカバーする範囲は背中の上から下までに至り、背中に沿うため厚みがあっては違和感がある。そのため厚みが小さい方が良い。ここでは、いわゆるゴム紐のような素材のものとする。
【0056】
図8は、実施例2にかかる作業補助スーツ100aを装着した作業者が大きく前に屈む作業をした状態における背筋支援用弾性紐体160による支援を簡単に示す図である。
図8は側面方向から見た様子である。
図8に示すように、背筋支援用弾性紐体160が背中に沿って伸びて弾性が大きく生じる。この状態において、背筋支援用弾性紐体160に生じた弾性力は、作業者の肩甲骨を腰の方へ引き戻す方向へ働く。
なお、実施例1で説明したように、別途、体側支援用弾性体120にも胸を起こすような弾性力が働き、また、腰部支援用弾性体130にも腰を起こすような弾性力が働き、それぞれが重ね合わせた力が身体の動作を支援するように働いている。
【0057】
背筋支援用弾性紐体160の効果は、次のように説明される。
背筋支援用弾性紐体160を用いない従来技術の状態では、作業姿勢として大きく屈んで上半身を倒して肩を丸める姿勢を取る際に、作業者自身が前方に転がらないように無意識に背筋で支え、足で踏ん張ることが必要であった。このため背筋に負担がかかり足腰にも負担が掛かっていた。しかし、背筋支援用弾性紐体160があれば、作業姿勢として大きく屈んで上半身を前方に倒して肩を丸める姿勢を取る動きに伴い、背筋支援用弾性紐体160による弾性力が発生し、下部連結具150を介して自然と自分の体重が、作業者自身が前方に転がらない方向に働き、作業時の背筋の負担や足腰の負担が軽減される。
【0058】
さらに、大きく屈んで肩を丸めた姿勢を取った後に上半身を起こす復帰動作を行う際にも、肩を引き戻す方向、また、腰を持ち上げる方向に背筋支援用弾性紐体160の弾性力が働くため、身体を起こすための復帰動作が背筋支援用弾性紐体160によって支援される。
【0059】
一方、腰部支援用弾性体130は、前述したように、腰裏付近に配置された弾性体であり、腰を曲げる姿勢を取る際に効果的に働くが、背筋支援用弾性紐体160は上半身を大きく前方に倒して屈む姿勢を取る際に効果的に働くものであり、両者の働きが異なる。このように、前方に腰を曲げて屈む姿勢を取る際に、腰部支援用弾性体130と、背筋支援用弾性紐体160の果たす役割は異なり、相互に補完するものとなる。
【0060】
以上、本発明の作業補助スーツ100の好ましい実施例を図示して説明してきたが、本発明の技術的範囲を逸脱することなく種々の変更が可能であることは理解されるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の作業補助スーツは、農作業、介護、工場での荷役作業、引っ越し運搬作業など、腰や背中の曲げ伸ばしを伴う作業の補助を行うことができる着衣型の作業補助具として広く適用することができる。
【符号の説明】
【0062】
100 作業補助スーツ
110 作業用着衣本体部分
111 本体生地部分
112 体側弾性体鞘
113 腰部弾性体鞘
114 ずれ上がり防止連結具
115 首裏ポケット
120 体側支援用弾性体
130 腰部支援用弾性体
140 作業用着衣肩甲骨部分
141 上部連結具
150 下部連結具
160 背筋支援用弾性紐体