(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6671755
(24)【登録日】2020年3月6日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】超吸収性繊維及び超吸収性粒子を有する創傷ケア用品
(51)【国際特許分類】
A61F 13/00 20060101AFI20200316BHJP
A61F 13/02 20060101ALI20200316BHJP
A61L 15/42 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
A61F13/00 301M
A61F13/00 301J
A61F13/00 301Q
A61F13/02 310A
A61F13/02 345
A61L15/42 110
【請求項の数】19
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-533912(P2016-533912)
(86)(22)【出願日】2014年8月12日
(65)【公表番号】特表2016-527065(P2016-527065A)
(43)【公表日】2016年9月8日
(86)【国際出願番号】EP2014067282
(87)【国際公開番号】WO2015022340
(87)【国際公開日】20150219
【審査請求日】2017年8月10日
(31)【優先権主張番号】102013108734.5
(32)【優先日】2013年8月12日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】202013104893.3
(32)【優先日】2013年10月31日
(33)【優先権主張国】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】317016822
【氏名又は名称】ビーエスエヌ メディカル ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】特許業務法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リーシンガー,ビルギット
【審査官】
米村 耕一
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2013/026912(WO,A1)
【文献】
国際公開第2013/026879(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 13/15−13/84
A61L 15/16−15/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
織布又は不織布から成る少なくとも1つの平坦層を有する創傷ケア用品であって、
・超吸収性繊維と、
・超吸収性粒子と、
を有し、
前記平坦層は、複合繊維を有し、
前記平坦層は、さらに
・セルロース繊維
を備え、
前記複合繊維は、2つの同時押出されるポリマーによって「芯鞘構造」を使用して、もしくは、「並列構造」を使用して製造される創傷ケア用品。
【請求項2】
前記超吸収性繊維は、少なくとも
・アクリル酸又はアクリレート(「AA」)
・メチルアクリレート又はメチルアクリル酸(「MA」)
・アクリル酸又はメチルアクリル酸であって、部分的に中和されたナトリウム塩(「AA−Na」)を形成するもの、
のモノマー成分から形成される架橋ポリマーを有し、
個々のポリマー鎖間の架橋は、アクリル酸又はメチルアクリレートの酸性基と部分的なナトリウム塩基とのエステル結合として、構成されることを特徴とする、請求項1に記載の創傷ケア用品。
【請求項3】
前記複合繊維は、熱溶融性(ホットメルト)接着剤として機能する熱可塑性ポリマーを含むことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の創傷ケア用品。
【請求項4】
前記平坦層は、少なくとも片側において薄い不織布で覆われる又は裏打ちされることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の創傷ケア用品。
【請求項5】
前記超吸収性繊維、前記セルロース繊維及び/又は前記複合繊維はマトリックスを形成することを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の創傷ケア用品。
【請求項6】
前記超吸収性粒子は繊維から成る前記マトリックスに組み込まれることを特徴とする、請求項5に記載の創傷ケア用品。
【請求項7】
対称的層構造を有することを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の創傷ケア用品。
【請求項8】
セルロース繊維、発泡材、変性セルロース、及び/又はアルギン酸塩を含む、少なくとも1つの平坦層をさらに有することを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の創傷ケア用品。
【請求項9】
少なくとも部分的に透液性素材から成る覆いをさらに有することを特徴とする、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の創傷ケア用品。
【請求項10】
(1)平面視で、前記平坦層は非湿潤状態にて、前記覆いにより画定された内部の表面積(F2)よりも3〜75%小さい表面積(F1)を有する、及び/又は
(2)前記覆いは、少なくとも特定の部位で柔軟性を持つ素材を有することを特徴とする、請求項9に記載の創傷ケア用品。
【請求項11】
前記覆いは、少なくとも部分的に三次元創傷スペーサメッシュから成り、または、当該メッシュにより覆われる若しくは裏打ちされることを特徴とする、請求項9または請求項10に記載の創傷ケア用品。
【請求項12】
前記覆いは、少なくとも部分的に含浸材、もしくは防水材で形成される、または、当該材料で覆われ、もしくは裏打ちされることを特徴とする、請求項9乃至11に記載の創傷ケア用品。
【請求項13】
少なくとも1種類の重金属であって、成分もしくはイオン形態で、少量含むことを特徴とする、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の創傷ケア用品。
【請求項14】
前記少なくとも1種類の重金属であって、成分もしくはイオン形態で含まれるものが、銅、亜鉛、及び/又は銀を含む群から選択されることを特徴とする、請求項13に記載の創傷ケア用品。
【請求項15】
前記平坦層もしくは前記覆いが、カバーフィルムにより、少なくとも一側面が覆われ、もしくは置き換えられることを特徴とする、請求項9乃至14のいずれか一項に記載の創傷ケア用品。
【請求項16】
前記カバーフィルムは、前記創傷ケア用品の周囲よりも広がっており、創傷の周囲の肌に貼り付け可能であることを特徴とする、請求項15に記載の創傷ケア用品。
【請求項17】
前記平坦層又は前記覆いは、少なくとも片側に接着剤が塗布されたものであることを特徴とする、請求項9乃至16のいずれか一項に記載の創傷ケア用品。
【請求項18】
負圧創傷ケアシステムにおける請求項1乃至17のいずれか一項に記載の創傷ケア用品の使用。
【請求項19】
急性創傷、治療後の創傷、慢性的創傷、糖尿病創傷、褥瘡、腫瘍創傷、火傷、低から高滲出性の創傷、更には欠損を補う必要もありうる深い創傷の治療における請求項1乃至17のいずれか一項に記載の創傷ケア用品の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超吸収性繊維及び超吸収性粒子を有する創傷ケア用品に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、欧州特許EP1507498号に提案されたような超吸収性ポリマーを有する創傷ケア用品が知られており、慢性的及び高滲出性の創傷に対する治癒効果があることが証明されている。このような創傷ケア用品において、超吸収性ポリマー粒子はセルロースマトリックスに内蔵される。
当該手法の結果、超吸収性ポリマーの重量パーセントが比較的低くなってしまうこと(ただし、時に60重量パーセントを超える場合もある)が、所定の領域での装着及び治療効果に関して不利であることが実証され得る。
【0003】
さらに、従来の創傷包帯はかなり固く、柔軟性が低いため、例えば特に傷が深い場合には、常に創傷床に接触することが保証されず、特に不利である。上述のような固さの最も根本的な原因としては、上記創傷包帯又はその内部層の密度が往々にして高いことが挙げられる。
また、従来の創傷包帯は、所定の条件下では吸収された液体が水平に広がり、創傷縁での浸軟が生じる虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】欧州特許第EP1507498号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上述のような欠点のない創傷ケア用品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、提示のメインクレームの特徴により達成される。
本発明の主題は、織布又は不織布から成る平坦層を少なくとも1つ有する創傷ケア用品であって、
・超吸収性繊維と、
・超吸収性粒子と、を有する創傷ケア用品である。
以下に記載の「創傷ケア用品」という用語は、特に創傷包帯、好ましくは平坦な創傷包帯、又は創傷ケア包帯を指す。この創傷包帯は平坦層を備え、吸収性、非吸収性、又はほぼ吸収性がないように構成されてもよい。特に、「創傷ケア用品」という用語は、処置対象の創傷に対し、特定の配置で装着される製品群を指すために使用されてもよい。当該群は、共通の覆い内に様々な製品が組み合わされて、又は可能であれば覆いを用いずにそれら製品が互いに接着されて物理的ユニットを形成してもよい。また、包みにより様々な製品が所定の配置で処置対象の創傷に対し装着されるような、キット状の群を利用してもよい。
【0007】
「不織布」という用語は、織物、編み物及び鉤針編みの生地と異なり、フィラメント製ではなく、個々の繊維から形成された平坦な布地構造体を指す。個々の繊維は互いに接着し合うため、通常、不織布の構造的完全性が保たれる。このような不織布は「ウェブ構造体」とも称され、例えば繊維を紡績することで製造される。「エアレイド」という用語は、可能であれば超吸収性ポリマーが組み込まれた、セルロース及びポリオレフィンにより形成された特殊な不織布を指す。
【0008】
「滲出液」という用語は、血漿の炎症過程で創傷部から滲み出た体液を意味する。血液が栄養素及び他の情報物質の輸送を担い、したがって様々な身体部位に供給を行うのと全く同じ方法で、滲出液は同様に創傷床及びそこで起きる治癒過程のための供給を担う。これらの多数の機能を全うするために、滲出液は、比重が水よりわずかに大きくなる、広範な種類の成分を含有する。ここで、滲出液は浸出液とは異なる。浸出液は、非炎症性過程に由来し、比重は明らかにより低く、細胞及びタンパク質の含有量が少ない。滲出液は、線維芽細胞及び上皮細胞に栄養素を供給することに加えて、成長因子及びサイトカインを高含量で含む組成により、時間的及び空間的に創傷治癒の様々な過程に影響を及ぼす。成長因子及びサイトカインは主として、血小板、ケラチン生成細胞、マクロファージ、及び線維芽細胞によって形成される。それらは、創傷の治癒に関連する様々な細胞の運動性、遊走、及び増殖に影響する。故に、細胞の創傷床への遊走が促進され、血管形成によって新たに形成された肉芽組織の供給も促進される。滲出液は創傷の洗浄にも寄与する。滲出液は種々のセリン、システイン、及びアスパラギン酸プロテアーゼ、並びにマトリックスメタロプロテアーゼを含有し、これらは、厳格に制御された過程で活性することで損傷した組織を不可逆的に破壊し、したがって創傷床を治癒過程におけるその後の段階のために準備する。通常、これらの過程において生理学的滲出液と病理学的滲出液とは区別される。
【0009】
特に、生理学的滲出液は、塩類、グルコース、サイトカイン、及び成長因子、血漿タンパク質、プロテアーゼ(特にマトリックスメタロプロテアーゼ)、顆粒球及びマクロファージを含有する。
【0010】
その繊維特性により、本発明に係る創傷ケア用品は、現在市販されている、3つの異なる種類の創傷ケア用品の特性を組み合わせたものとなる。
・超吸収性粒子が組み込まれたセルロース不織物を含むエアレイドマットを有する創傷ケア用品(例えばSorbion GmbH & Co KG社製の製品「ソルビオン・サシェ(sorbion sachet)」)と同等の吸収能力を持つ。これにより、高滲出性の創傷や、深い浮腫による創傷にも適する。
【0011】
・発泡絆創膏(例えば、Smith & Nephew社製の製品「アレヴィン接着フォーム(Allevyn Adhesive Foam)」)と同等の表面水分量及び緩衝を持つ。これにより、創傷が乾燥する虞を低減しつつ、患者にとって付け心地の良いものとなる。具体的には、大量の空気を捉える綿毛状繊維構造により、柔らかさが得られる。
・カルボキシメチルセルロースにより形成される繊維を含む絆創膏(「ハイドロファイバー(Hydrofiber)」、例えばConvaTec社製の製品「アクアセル(Aquacel)」)同様、垂直方向に液体が吸収され、液体の横方向の分布が大きく低減される。それにより、(1)創傷縁での浸軟が防止され、(2)用品が創傷の外形に適合することが可能となる(「マクロコンタリング」)。
【0012】
このような、本発明に係る創傷ケア用品を含む製品は、例えば「ソルビオン・ソフト(sorbion soft)」という商品名で市販されている。
超吸収性繊維は、好ましくは少なくとも以下のモノマー成分から形成される架橋ポリマーを有することが好ましい。
【0013】
・ナトリウム塩(「AA−Na」)が形成されるように部分的に中和されるアクリル酸又はアクリレート(「AA」)
・メチルアクリレート又はメチルアクリル酸(「MA」)
・特殊アクリレート/メチルアクリレートモノマー(「SAMM」)
個々のポリマー鎖間の架橋は、アクリル酸又はメチルアクリレートの酸性基と部分ナトリウム塩とのエステル結合として構成される。
概略的な構造式は以下の通りである。
【0014】
【化1】
【0015】
(隣接するポリマー鎖への横架橋)
略語は以下の通りである。
AAはCH
2CH(COOH)
−の略
MAはCH
2CH(COOCH
3)
−の略
AANaはCH
2CH(COOCNA)
−の略
RはCOOCH
2CH(CH
3)
−の略
【0016】
特殊アクリレート/メタクリレートモノマー(「SAMM」)の場合、モノマーが以下のものからる群から選択されることが好ましい。
・ヘキサプロピレングリコールモノメタクリレート
・2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート
・ポリエチレングリコールモノメタクリレート
・グリシジルメタクリレート
・アリルグリシジルエーテル
・ヒドロキシプロピルメタクリレート
・ヒドロキシエチルメタクリレート
これらの物質の内、ヘキサプロピレングリコールモノメタクリレートが特に好ましい。
【0017】
W、X、Y、Zの値は、出発物質の分量を左右し、U、Vの値は製造工程における温度に左右される。
定量的組成は、好ましくは以下の通りである(単位:mol−%)
【0018】
【表1】
【0019】
上述のその他繊維と共に、前記繊維は、エアレイド製品にすることができる。「エアレイド」という用語は、可能であれば超吸収性ポリマーが組み込まれる、特殊な不織布を指す。ここでは、当業者にとっては基礎知識である以下の技術が使用される。
・MBAL=複数結合エアレイド
・BBAL/LBAL=結合剤結合エアレイド/ラテックス結合エアレイド
・HBAL/XBAL=水素結合エアレイド/X結合エアレイド
・紡糸結合法
・ウェットレイド法
【0020】
「超吸収性ポリマー」(SAP)という用語は、自重の数倍(1000倍まで)の液体を吸収可能な合成物質を指す。化学的には、これはアクリル酸(プロペン酸C
3H
4O
2)とアクリル酸ナトリウム(アクリル酸ナトリウム塩NaC
3H
3O
2)との共重合体であって、これら2つのモノマー間の比率は可変である。さらに、いわゆる核架橋剤(CXL)がモノマー溶液に添加され、化学架橋により、所定の部位で、形成された長鎖ポリマー分子同士を接続(「架橋」)する。このように架橋することで、ポリマーが非水溶性となる。水又は塩類水溶液がポリマー分子に浸透すると、ポリマーが膨らむことで分子レベルで上記網がより強固になり、水が自然には漏出不能となる。
【0021】
或いは、超吸収材は、メチルアクリル酸、ポリビニルアルコール/無水マレイン酸共重合体、多糖類/無水マレイン酸共重合体、マレイン酸誘導体、アクリルアミドプロパンスルホン酸共重合体、でんぷん/アクリロニトリル・グラフト重合体、ゼラチン化でんぷん誘導体、アルキル又はヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシメチルセルロース、でんぷん/アクリル酸グラフト重合体、ビニル酢酸/アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル又はアクリルアミド共重合体に基づいて選んでもよい。
超吸収性粒子は、100μmから約1000μmの間の粒径を有する粉末又は顆粒状で存在してもよい。
【0022】
同様に、前記超吸収性ポリマーは、例えばアルトラジール(Altrazeal)として販売されている、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)及び/又は2−ヒドロキシプロピルメタクリレート(HPMA)等の、ヒドロキシ末端を有するメタクリレートモノマーを有する、ハイドロゲル・ナノ粒子であってもよい。
【発明の効果】
【0023】
このようにして得られた創傷ケア用品は多数の利点を有する。
様々な超吸収性素材を組み合わせることで、幅方向への液体の水平方向の流れを伴わずに、液体の急速な吸収が可能となる。また、カルボキシメチルセルロースの場合と完全に共通したこととして、ゲル―湿潤創傷接触表面が形成される。これは特に冷却効果を発揮し、治癒にとってよい環境が作り出される。さらに、液体の水平方向の流れがないことから、水分の創傷縁との接触や、その結果生じる創傷縁での浸軟が防止される。
【0024】
さらに、追加の処理工程を経ずとも、本発明の創傷ケア用品は既に柔らかく、柔軟性がある。その結果、患者が主観的に心地よく感じる手触りや、絆創膏の交換の際に外傷に作用することや創傷の外形に沿うこと、さらに患者が痛みを感じにくくするという大きな客観的効果が得られる。特に圧迫又は真空治療の範囲内で特に顕著な緩衝効果というさらなる利点がある。さらに、このようにして創傷ケア用品は組織の隙間に挿入したり、物質の欠損を補うことができる(創傷挿入)。そのような場合、創傷ケア用品は創傷縁外に延在することはない。
【0025】
創傷の外形に沿うことは特に有利である。これにより、創傷ケア用品が当該部分に存在する創傷床や滲出液に直接接触することが保証され、滲出液が急速に吸収、除去されることが保証される。
【0026】
さらに、本発明に係る創傷ケア用品は強い抗菌性を有する。これは超吸収材のタンパク質やバクテリアを拘束する性質、及びバクテリアからその活動に必要な液体を引き離すための、水を拘束する性質によるものである。
さらに、滲出液を大量に吸収した後でも、製品の構造的完全性が保たれ、創傷から一体の構造として取り外すことができることが保証される。
【0027】
さらに、様々な超吸収性素材を組み合わせることで、マトリックスメタロプロテアーゼ(「MMP」)、IL−1β、IL−6、IL−8、TNFαのような酸素ラジカル(「ROS」)等の炎症促進性因子の調節が可能となる。この効果により、タンパク質に対する超吸収性ポリマーの結合特性が得られてもよい。
さらに、上記生成物は層分解効果を有する。これは特に生物膜や線維素性層に顕著である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明に係る不織布の電子顕微鏡走査画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
上述の性質により、本発明に係る創傷ケア用品は、数多くの新たな症状に適する。特に、本発明に係る創傷ケア用品は急性創傷及び治療後の創傷や、例えば糖尿病創傷、褥瘡、腫瘍創傷、火傷、低から高滲出性の創傷のような慢性的創傷、更には欠損を補う必要もありうる深い創傷の治療に適する。
平坦層がさらに以下のものを少なくとも1つ備えることが好ましい。
・セルロース繊維
・複合繊維
前記セルロース繊維は、緩衝効果のみでなく、液体結合及び構造維持効果も持つ、いわゆるフラッフパルプの状態で存在することが好ましい。
複合繊維は、平坦層の熱接着を促進するような繊維であることが好ましいため、融点の比較的低い熱可塑性ポリマーをわずかに含むことが好ましい。そのような熱可塑性ポリマーは、加熱されると溶融するため、熱溶融性(ホットメルト)接着剤として機能するポリエステル、ポリプロピレン又はポリエチレン等から形成される。
【0030】
上述のような繊維を持たないエアレイド製品で使用される、従来の水素結合で要求されるような高圧、高温、高湿度でのマットの圧縮(例えばカレンダー加工による)が可視化されるという意味で、このことは有利である。カレンダー加工により、マットは圧縮レベルが高くなり、柔らかさが損なわれる。その結果、これら繊維を使用すると、マットの空気含有量が増加し、それにより得られる毛細血管効果で創傷液がより迅速に吸収される。
【0031】
前記複合繊維は、異なる物理化学的性質を持つ2つのポリマーの同時押出により製造されることが好ましい。ここで、低溶融点物質が外側になり、高溶融点物質が内側になる、「芯鞘構造」を使用することが好ましい。さらに、2つの物質が、繊維の断面で互いに半円配置される、「並列構造」を使用することも好ましい。
【0033】
或いは、複合繊維は熱可塑性ポリマーだけでなく、少なくとも1つの熱可塑性ベースポリマーと少なくとも1つの超吸収性ポリマー(SAP)から成る化合物を含んでもよい。これに関連して、前者のポリマーは、化合物中の熱可塑性要素よりも少なくとも20°C溶融点が高いことが好ましい。
以下の表に、好ましい平坦層の組成を例示的に示す。これに関連して、数値の範囲について、その最小、最大値も範囲内であるものと理解するべきである。
【0035】
基本的に、セルロース繊維は非常に急速に液体を吸収するが、吸収能力は比較的低く、ウィッキング効果は持たないと言える。
一方、複合繊維は実質的に一切液体を吸収しないが、非常に高いウィッキング効果を発揮する。
【0036】
超吸収性繊維は液体吸収にある程度時間を要するが、吸収能力は非常に高い。初期段階では、ウィッキング効果が非常に高いが、吸収処理が始まると急速に失われる。
【0037】
その結果、定量的繊維組成を組織的に選択することで、本発明に係る創傷ケア用品の各層における吸収及び液体分散特性を非常に正確に制御できる。
したがって、例えば、外側層は、例えば創傷縁の浸軟を防止するため、ウィッキング効果が低くなるよう構成され、一方内側層は吸収された液体が大きな表面領域に分散できるよう高いウィッキング効果を発揮するように構成されてもよい。
【0038】
以下では、「弱ウィッキング効果」、「中ウィッキング効果」、「強ウィッキング効果」という用語は、いわゆる「垂直ウィッキング高さ(cm/h)」により定量される。
【0040】
以下の表は、好ましい平坦層の性質を例示的に示す。これに関連して、数値の範囲について、その最小、最大値も範囲内であるものと理解するべきである。
【0042】
平坦層は、縁領域が他の部位よりも薄いことが好ましい。すなわち、例えばその縁部の断面が先が尖るようテーパ状となる。これにより、創傷の縁に当たる素材がより少なくなることが保証される。
【0043】
さらに、平坦層が少なくとも片側で肉薄の不織布で覆われる又は裏打ちされることが好ましい。例えばこの不織布は、ポリプロピレン、ポリエチレン、又はポリエステルにより形成される、肉薄の透水性ウェブであってよい。同様に、不織布はセルロースウェブであってもよい。
【0044】
基本的に、上述の不織布は、特に疎水性となる傾向がある材料から成る場合、いわゆる活性化という処理がなされる。これにより濡れ性が向上し、液体を通過しやすくする。しかし、活性化は後続のカレンダー処理により悪影響を受ける可能性がある。
【0045】
エアレイド処理では、不織布に対して上方から繊維が吹込まれ、その初期段階ではいくつか繊維が不織布を垂直に貫通した状態となる。これら繊維はマットに液体を入りやすくし活性化の上述の悪影響を少なくとも部分的に相殺するため、この状態は望ましいもので有り得る。
【0046】
ただしここでも、層構造はできるだけ理想的な対称性を有することが好ましい。製造処理中にいくつかの繊維層が貼り付けられた後、上方封止部となる不織布が使用されると、垂直向きの繊維が最上層を貫通しない虞がある。これにより、前記最上封止不織布が、底部不織布よりも液体に対する抵抗が高くなってしまう状況が起こり得る。このため、貼り付けられる前の最上不織布に簡易的なエアレイド処理が施されてもよい。当該処理では、繊維が最上不織布に吹込まれる。それにより、当該不織布を貫通することで液体を通過しやすくする垂直方向に向く繊維が含まれる。
【0047】
単位面積当たりの重量パーセントは、2g/m
2〜50g/m
2の範囲内が好ましく、5g/m
2〜20g/m
2の範囲内が好ましく、15g/m
2〜18g/m
2の範囲内が特に好ましい。このような不織布は、特に液体吸収後の層の構造的結合を向上させる。
さらに、超吸収性繊維、セルロース繊維及び/又は複合繊維がマトリックスを形成することが好ましい。さらに、当該マトリックスに超吸収性粒子が組み込まれることも好ましい。
【0048】
本発明に係る創傷ケア用品は対称的層構造を有することが特に好ましい。対称的層構造により、創傷ケア用品の断面が対称形になる。これにより、介護者は正しい向きを気にすることなく創傷ケア用品を創傷に貼り付けられるため、日々の臨床業務において非常に有利となる。この点において、必ず外向きの側と内向きの側が存在する、明確な裏表のある生理用ナプキン、尿漏れ防止パッド、おむつのような衛生用品と根本的に異なる。
【0049】
対称的層構造を得るには製造処理に対して要求が高くなる。この種の創傷ケア用品は、多くの場合いわゆるエアレイド処理により製造される。当該処理では、使用される繊維(この場合、超吸収性繊維と、可能であれば複合繊維やセルロース繊維)が上方からの気流によりシートに吹込まれる。通常、直列に接続された送風装置がこのために使用される。吹込み処理では、第2、第3、その他の送風装置により送られた繊維が下方に移動する傾向を避けられない。その結果、繊維は再分布されてしまい、所望の対称性に悪影響を及ぼし得る。したがって、後続の繊維移動処理を考慮して、当該処理では、実際に対称とするために必要な量と異なるように、各送風装置の所望の繊維量を変更させることが望ましい。
【0050】
本発明の創傷ケア用品は、セルロース繊維、発泡材、変性セルロース、及び/又はアルギン酸塩を含む少なくとも1つの平坦層を有してもよい。
「発泡材」という用語は、好ましくはポリウレタンから形成される、連続又は不連続発泡材を指す。
変性セルロースは、好ましくはセルロース誘導体であり、特にナノセルロース、スルホン化及び/又はスルホアルキルセルロース及びその誘導体、特にセルロースエチルスルホネート;カルボキシアルキル化セルロース、特にカルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、及び/又はカルボキシプロピルセルロース;スルホエチルカルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のより複雑なセルロース誘導体;及びカルボキシメチルセルロースアミド又はカルボキシプロピルセルロースアミド等のアミド化セルロース誘導体である。カルボキシメチルセルロースは、特にカルボキシメチルヒドロキシエチルセルロースナトリウムの形態で存在し、「ハイドロファイバー(Hydrofiber)」という商品名で市販されている。衛生用品及び創傷ケア製品において、繊維は平らな母材中に組み込まれる。創傷滲出液から液体を吸収することにより、繊維は徐々にゲルクッションに変わり、これは液体を保持し、放出しない。これに関連して、繊維は、創傷滲出液が垂直方向にのみ吸収されるような構造を有する。このことは、容量が残っている限り、滲出液は創傷の縁を超えて流れないことを意味する。このようにして、創傷縁での浸軟を効果的に予防し得る。これに関連して、キチン、キトサン、及びそれらの誘導体もセルロース誘導体として理解されるべきである。
【0051】
アルギン酸塩は、褐藻から得られ、繊維質ウェブが形成されるように織られ、化学的にはアルギン酸のカルシウム及び/又はナトリウム塩のような多糖類である。アルギン酸塩は、創傷の滲出液を穴に貯蔵するようにして、自重の20倍までの流体を吸収可能である。アルギン酸塩メッシュに含有されるCa
2+イオンは、アルギン酸塩内のNaイオンの飽和度に達するまで滲出液からのNa
+イオンと交換される。この際、創傷包帯は膨らみ、アルギン酸塩繊維は、繊維膨張によりゲル体となる。
【0052】
さらに、創傷ケア用品には、少なくとも部分的に透水性素材から成る覆いを有することが好ましい。このような覆いは多角的な機能を有する。特に、覆いは創傷ケア用品が創傷に貼り付くことを防ぐことができ、滲出液が創傷に逆流することを防ぐことができ、低刺激効果を持ち、創傷縁での浸軟を防ぐことができる。好ましくは、覆いは少なくとも部分的に例えば接着性シームや超音波シームのようなシームで閉じられ、フォイルやフィルム(例えばポリエチレンにより形成される)を含んでも良く、或いは不織布(例えばポリプロピレンにより形成される)又はフリースを含んでもよい。
【0053】
特に、覆いは平均的に超吸収性粒子よりも小さい孔を有することが好ましい。これにより、覆いから粒子が流出することが防止される。粒子の流出は特に殺菌処理を妨げる可能性があり、具体的には、粒子が密閉バリア領域内に入ると、漏洩が生じ得る。
【0054】
覆いは、例えば銀、亜鉛、又は銅等の元素形態又はイオン形態の重金属によりコーティングされるか、当該重金属が混ざっていてもよい。覆いは、例えばジアルキルカルバモイルクロリド(DACC)のような疎水的相互作用によりバクテリアに結合する素材によりコーティングされてもよい。
【0055】
孔径は、吸収される滲出液の流量にも影響を及ぼす。このことは略疎水性ポリマー材に対して顕著である。適正な活性処理により、通常覆いの濡れ性を向上させることができ、孔径が小さくても適切な流量が保証される。
覆いの孔又はメッシュの径は、好ましくは0.05mm〜1.0mmであり、0.20mm〜0.50mmが有利である。さらに、孔又はメッシュは、好ましくは、フィラメント又は繊維部分によって画定されてもよく、覆いを横切る横断面でやや湾曲し、湾曲部分両端が外側に向いている。
【0056】
ここで、以下の条件の少なくとも一方が満たされることが好ましい。
(1)平面視で、平坦層は非湿潤状態にて、覆いにより画定された内部の表面積(F2)よりも3〜75%小さい表面積(F1)を有する。
(2)覆いは少なくとも特定の部位で柔軟性を持つ素材を有する。
【0057】
(1)の場合、平坦層の覆いにより、いわゆる延伸空間が形成されたと言える。いずれの場合でも、液体吸収による平坦層の体積拡大を、覆いが一切阻害しないことが保証される。そのため、層は吸収能力を完全に発揮できる。例えば、柔軟性素材は、ライクラ(Lycra)、エラスタン(Elasthane)、ポリプロピレン、ゴム、ラテックス、ナイロン等を含有する。
さらに、覆いは少なくとも部分的に三次元創傷スペーサメッシュから成るか、当該メッシュにより覆われる又は裏打ちされることが好ましい。当該創傷スペーサメッシュは、例えば、欧州特許出願EP2004116A1号に記載のように、ブロー成型処理で、ポリエチレンフィルムから形成されることが好ましい。同様に、例えばシリコーンメッシュであってもよい。
【0058】
このようなメッシュはまた、多様な機能を持つ。孔の構成によっては、滲出液の逆流を防止するための弁機能を有する(特に孔がじょうご状又は環状である場合)。メッシュは、創傷ケア用品が(好ましくはシリコーン材を使用して)創傷に貼り付くことを防止できる。適切に配置されれば、当該メッシュは摩耗効果を有することができ、それにより生物膜を創傷に向けて動かすか、生物膜の形成を防止できる(特に孔がじょうご状又は環状である場合)。さらに抗出血効果を有することがき、特定の状況では、静的相互作用によりバクテリアを固定又は拘束することが可能となる(特にポリエチレン材又は正味の正電荷を有する材料を利用する)。さらに、表面は例えば銀又はシリコーンコーティングにより官能化可能である。
【0059】
さらに、覆いは少なくとも部分的に含浸又は防水材料で形成されるか、当該材料で覆われるか裏打ちされてもよい。これは色を付けた、又は目立つデザインとした液体不透過性防護(バックシート)とすることもできる。
さらに、創傷ケア用品は、少なくとも1種類の元素形態又はイオン形態の重金属を少量ながら含む。重金属は、最も細かく分散した状態で殺菌効果を持ち、これは反応表面積が大きいことから、可溶性重金属イオンが十分に生成可能であることによる。
【0060】
元素形態又はイオン形態の重金属が少なくとも1種類ドープされることで、元の絆創膏が殺菌効果を持つことができ、感染しやすい創傷(褥瘡、下腿潰瘍、火傷等)の場合に合併症を低減できる。さらに、創傷包帯を装着可能な期間を長くできる。
【0061】
少なくとも1種類の元素形態又はイオン形態の重金属は、銅、亜鉛、及び/又は銀を含む群から選択されることが好ましい。上記殺菌効果は、特にこれら3種の金属で顕著である。
【0062】
さらに、少なくとも片側のカバーフィルムで、平坦層又は覆いが覆われる又は置き換えられることが好ましい。当該カバーフィルムは、以下の特性のうち少なくとも1つを有することが好ましい。
・接着剤の塗布
・液密性
・水蒸気透過性
・柔軟性
【0063】
これに関連して、カバーフィルムが創傷ケア用品の周囲よりも広がっており、創傷の周囲の肌に貼り付けられることが好ましい。これにより、いわゆるボーダー型(border)またはアイランド型(island)絆創膏となる。
【0064】
或いは、覆い自体が少なくとも片側に接着剤が塗布されたものであってもよい。この場合、塗布された接着剤はアクリレート接着剤、シリコーン接着剤、でんぷん接着剤、親水コロイド接着剤、及び/又はその他の生理学的に安全な接着剤が好ましい。
【0065】
創傷ケア用品は、
・ヒアルロン酸(好ましくは超吸収性ポリマーの鞘として好ましい)、
・オクテニジン、
・ジメチコン、
・活性炭、
から成る群から選択された少なくとも1つの成分を有してもよい。
【0066】
さらに、本発明は以下のものを提供する。
a)負圧創傷ケアシステムに使用される、前出の請求項のいずれか一項に記載の創傷ケア用品。
b)急性創傷、治療後の創傷、慢性的創傷、糖尿病創傷、褥瘡、腫瘍創傷、火傷、低から高滲出性の創傷、更には欠損を補う必要もありうる深い創傷の治療に使用される、前出の請求項のいずれか一項に記載の創傷ケア用品。
仙骨領域での使用は特に好ましい。
【0067】
本発明の不織布は、以下のように製造可能である。
1.乾式紡糸
厚さが10dtexで、上記組成の共重合体で形成された超吸収性繊維が以下の通り得られた。水溶液から乾式紡糸を行い、得られたものを毛脚6mmに切断したものを、カルボン酸基とヒドロキシル基との間にエステル架橋が形成されるまで、200°Cで架橋される。このようにして得られた超吸収性繊維は、50g/gの吸収性能(自由膨張吸収性試験(Free Swell Absorbency Test)で測定)、35g/gの荷重下保持性を示した。
【0068】
2.ウェットレイド処理
ロンドン、イングランドに所在を置くMavis Manufacturing Company社製、パルプ評価装置(Pulp Evaluation Apparatus)により、ウェットレイド不織布を作成した。作成した不織布は全て、乾燥重量が1.2gのシートとした。必要量の乾燥セルロース(Rayon XFグレード)を、高剪断ミキサーにより、5000rpmで水2リットル内に分散させた。このようにして得られたセルロース繊維は、0.9重量パーセントの食塩水で遠心分離に対する保持性により測定して、10g/g未満の吸収性能を示した。超吸収性繊維は、膨らむまで数秒100mlの水に分散させ、その後分散したセルロース繊維に加えられた。この混合物をヘラで撹拌した。そして混合物を製紙ロールに送り、25メッシュスクリーン上に不織布を成形した。繊維は室温で加圧、乾燥された。これにより、以下の性質を持つシートが得られた。
【0070】
図1は、本発明に係る不織布の電子顕微鏡走査画像を示す。Aは超吸収性繊維を示し、Bは超吸収性粒子を示し、Cは空気を間に含むセルロース繊維の緩衝層(「フラッフパルプ」)(D)を示す。