特許第6671760号(P6671760)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6671760内容物放出機構およびこの内容物放出機構を備えたエアゾール式製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6671760
(24)【登録日】2020年3月6日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】内容物放出機構およびこの内容物放出機構を備えたエアゾール式製品
(51)【国際特許分類】
   B65D 83/44 20060101AFI20200316BHJP
   B65D 83/00 20060101ALI20200316BHJP
   B05B 9/04 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
   B65D83/44
   B65D83/00 K
   B05B9/04
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-238593(P2015-238593)
(22)【出願日】2015年12月7日
(65)【公開番号】特開2017-105479(P2017-105479A)
(43)【公開日】2017年6月15日
【審査請求日】2018年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000144463
【氏名又は名称】株式会社三谷バルブ
(74)【代理人】
【識別番号】100097593
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 治幸
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正人
【審査官】 長谷川 一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−091527(JP,A)
【文献】 実開平03−070763(JP,U)
【文献】 実開平04−062676(JP,U)
【文献】 米国特許第05390830(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 83/44
B65D 83/00
B05B 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内容物およびその噴射剤を収容した容器本体に対するステムの移動にともない、ステム短移動のエアゾール動作と、前記噴射剤のガス圧力低下状態での上流弁および下流弁に基づくステム長移動のポンプ動作とを個々に実行可能な内容物放出機構において、
前記容器本体に、前記内容物の通過用および貯留用の空間域として作用する態様で取り付けられたハウジングと、
前記ハウジングの内側に、静止モード位置およびこれと同様のエアゾール作動モード位置と、ポンプ作動モード位置との間で移動可能、かつ、前記ステムを収容保持する態様で配設された移動体と、
前記ステムに対する下流弁と、
前記ハウジングに対する上流弁と、を備え、
前記ステムは、
強弾性力で前記静止モード位置の方へ付勢され、
前記移動体は、
弱弾性力で前記静止モード位置の方へ付勢され、
前記ハウジングの内圧が高い場合、前記短移動の内容物放出操作のときも前記内圧の作用により前記静止モード位置に保持され、
前記ハウジングの内圧が低下した場合、前記長移動の内容物放出操作に応じて前記弱弾性力に抗しながら前記ポンプ作動モード位置へと移動する、
ことを特徴とする内容物放出機構。
【請求項2】
前記ステムの下向き面部分と前記移動体の内面部分との間に配設されて前記強弾性力を呈する強弾性部材と、
前記移動体の下向き面部分と前記ハウジングの内面部分との間に配設されて前記弱弾性力を呈する弱弾性部材と、
前記ステム,前記下流弁および前記移動体により設定されて前記内圧を呈する下流側空間域と、
前記下流側空間域と連通し、前記移動体,前記ハウジングおよび前記上流弁により設定されて前記内圧を呈する上流側空間域と、を備えている、
ことを特徴とする請求項1記載の内容物放出機構。
【請求項3】
請求項1または2に記載の内容物放出機構を備え、かつ、前記容器本体に噴射用ガスおよび内容物を収容した、
ことを特徴とするエアゾール式製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内容物およびその噴射用ガスを収容した容器本体に対するステムの移動長に応じて、ステム短移動のエアゾール動作と、ガス圧力低下状態での上流弁および下流弁に基づくステム長移動のポンプ動作とを個々に実行可能な内容物放出機構に関する。
【0002】
特に、容器本体の内部で内容物の通過用・貯留用空間域を構成するハウジングに、静止モード位置(エアゾール作動モード位置)とポンプ作動モードの各位置との間を移動する移動体を設け、この移動体にステムを相対移動可能な形で収容保持したものである。
【0003】
ステムは強弾性力により、また移動体は弱弾性力によりそれぞれ静止モード位置の方に付勢されている。
【0004】
移動体は、ハウジング内圧が大きい通常のエアゾール作動モードではこの内圧により静止モード位置に付勢され、ハウジング内圧が低下すると弱弾性力で保持される。なお、エアゾール作動モードにおけるハウジング内圧は容器本体内圧ともいえる。
【0005】
すなわち、ステムの下流弁とハウジングの上流弁との間の空間域が、移動体の、弱弾性力に抗する形での移動にともなうポンプ作動対象域となり、そこでの内圧が大きくなって上流弁を閉じ、開状態の下流弁からこの空間域の内容物が外部空間域に放出される。
【0006】
ミスユースなどに起因するこのようなハウジング内圧の低下時に、それまでのエアゾール動作からポンプ動作へとシフトすることより、容器本体の収容内容物は外部空間域に略全量放出される。
【0007】
なお、ミスユースとは例えば、容器本体を上下逆さの状態でエアゾール動作をした場合のように、後述のディップチューブ9の吸い込み側端部が吸い込み対象の収容内容物から外れた状態でエアゾール作動をすることにより、気相成分の噴射剤のみが外部空間に放出され容器本体の内圧の低下を招き、残りの収容内容物の放出を困難にしてしまう使用方法である。
【0008】
特に、噴射剤として圧縮ガスを使用した製品では、気化して放出圧力となる噴射剤が液相の収容内容物に混和していないため、気相成分の噴射剤が減少した場合に、噴射する圧力を補うものがなくその低下が著しい。そのため残りの収容内容物が放出不可能となったり、また放出可能であっても噴射勢いの低下による液垂れや噴霧粒子が粗くなるなどの問題が発生しやすい。
【背景技術】
【0009】
従来、放出操作部,ステムの移動態様にともない、噴射用ガスに基づく短移動のエアゾール動作と、噴射用ガスの圧力低下後の上流弁および下流弁に基づく長移動のポンプ動作とが個々に実行可能な内容物放出機構は、すでに提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平2014−91527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この内容物放出機構のポンプ作動対象となるハウジング内空間域は、ステム側の下流弁とハウジング内の上流弁との間であり、その容積なども下流弁形状,サイズなどに制約されてしまうという問題点があった。
【0012】
本発明では、このポンプ作動対象のハウジング内空間域を設定する構成要素として、静止モード位置とポンプ作動モード位置との間を移動可能でステムおよびステム側の下流弁が収容保持される移動体を、ハウジング内側に設けている。
【0013】
この移動体の配設により、ポンプ作動対象となるハウジング内空間域をステム側の下流弁とはいわば独立した形の任意態様で設定し、噴射用ガスの圧力低下後の上流弁および下流弁に基づくステム長移動のポンプ動作の多様化,確実化を図ることを目的とする。
【0014】
また、噴射用ガスに基づくステム短移動のエアゾール動作、および噴射用ガスの圧力低下後の上流弁,下流弁に基づくステム長移動のポンプ動作が個々に実行可能な内容物放出機構としての、一層の利便化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、以上の課題を次のようにして解決する。
(1)内容物およびその噴射剤を収容した容器本体(例えば後述の容器本体1)に対するステム(例えば後述のステム2)の移動にともない、ステム短移動のエアゾール動作と、前記噴射剤のガス圧力低下状態での上流弁および下流弁に基づくステム長移動のポンプ動作とを個々に実行可能な内容物放出機構において、
前記容器本体に、前記内容物の通過用および貯留用の空間域として作用する態様で取り付けられたハウジング(例えば後述のハウジング6)と、
前記ハウジングの内側に、静止モード位置およびこれと同様のエアゾール作動モード位置と、ポンプ作動モード位置との間で移動可能、かつ、前記ステムを収容保持する態様で配設された移動体(例えば後述の移動体5)と、
前記ステムに対する下流弁(例えば後述のステムラバー5a)と、
前記ハウジングに対する上流弁(例えば後述のボール弁8)と、を備え、
前記ステムは、
強弾性力(例えば後述の下流側コイルスプリング5dの弾性力)で前記静止モード位置の方へ付勢され、
前記移動体は、
弱弾性力(例えば後述の上流側コイルスプリング6eの弾性力)で前記静止モード位置の方へ付勢され、
前記ハウジングの内圧が高い場合、前記ステム短移動の内容物放出操作のときも前記内圧の作用により前記静止モード位置に保持され、
前記ハウジングの内圧が低下した場合、前記ステム長移動の内容物放出操作に応じて前記弱弾性力に抗しながら前記ポンプ作動モード位置へと移動する、
構成態様のものを用いる。
(2)上記(1)において、
前記ステムの下向き面部分と前記移動体の内面部分との間に配設されて前記強弾性力を呈する強弾性部材(例えば後述の下流側コイルスプリング5d)と、
前記移動体の下向き面部分と前記ハウジングの内面部分との間に配設されて前記弱弾性力を呈する弱弾性部材(例えば後述の上流側コイルスプリング6e)と、
前記ステム,前記下流弁および前記移動体により設定されて前記内圧を呈する下流側空間域(例えば後述の下流側空間域S2)と、
前記下流側空間域と連通し、前記移動体,前記ハウジングおよび前記上流弁により設定されて前記内圧を呈する上流側空間域(例えば後述の上流側空間域S1)と、を備えた、
構成態様のものを用いる。
【0016】
このような構成からなる内容物放出機構およびこの内容物放出機構を備えたエアゾール式製品を発明の対象としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、以上の構成をとることにより、ハウジング内圧低下後のエアゾール動作に代替するポンプ動作の多様化,確実化を図り、エアゾール作動モードからポンプ作動モードへの移行機能を備えた内容物放出機構としての一層の利便化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】内容物放出機構の静止モードを示す説明図である。
図2図1の内容物放出機構のエアゾール作動モードを示す説明図である。
図3図1の内容物放出機構のポンプ作動モードを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1図3を用いて本発明の実施するための最良の形態を説明する。
【0020】
本発明の内容物放出機構は、本来のエアゾール作動に加え、噴射用ガス圧力が低下した場合のポンプ作動も実行できる、といったいわばハイブリッド作動を前提とする。
【0021】
本発明では、ミスユースなどのためエアゾール作動の容器本体の噴射用ガス圧力が下がった場合にも、このハイブリッド作動により収容内容物の略全量が外部空間域に放出されるようにしている。
【0022】
各図で用いるアルファベット付き参照番号の構成要素(例えば環凹状部1a)は原則として、この参照番号の数字部分の構成要素(例えば容器本体1)の一部であることを示している。
【0023】
図1図3において、
1は後述する各種の内容物および噴射剤を収容した上開口の容器本体,
1aはその上端側外周面に形成されたアンダーカット態様の環凹状部,
2は周知の押下げボタンやトリガレバーなどの内容物放出操作部(図示省略)に取り付けられて上下方向に連動し、放出内容物の通過作用やバルブ作用を呈するステム,
2aは外部空間域へ放出される内容物などが通過する内部通路域,
2bはエアゾール作動モードおよびポンプ作動モードの内部通路域2aへの内容物流入部として作用し、後述のステムラバー5aとともに弁作用を呈する下流側孔部,
2cはその下端側周回縁部に形成されて後述の下流側コイルスプリング5dの上端部分を受ける下向き環状段部,
をそれぞれ示している。
【0024】
3は後述のステムラバー5aおよびステム2を収容保持した状態で後述のシール作用部4に取り付けられて、後述の下流側空間域S2を形成する上下動可能な上開口鞘状のステム収容可動部,
3aはその上端側に形成されて後述のシール作用部4を嵌合状態で固定する大径筒状部,
3bは大径筒状部3aの内側段部の内端側に形成されて後述のステムラバー5aを挟持する上向き環凸状部分,
3cはその周面部分に形成された内容物通過用の上流側孔部,
3dはその内周面縦方向部分および底面外側環状部分に周方向飛び飛びの態様で形成された計6個のL字リブ状部,
をそれぞれ示している。
【0025】
また、
4は大径筒状部3aの外周面などと嵌合して後述のハウジング6の内周面とのシール作用を呈する筒状で上下動可能な下側大開口のシール作用部,
4aはその上端部分に形成されて大径筒状部3aの上端面と対向当接する環天井部分,
4bはその内周面上側部分に周方向飛び飛びの態様で形成されたステム収容可動部嵌合用の計8個の縦リブ状部,
4cはその内周面下側部分に形成されて後述の上流側コイルスプリング6eを受ける下向き環状段部,
4dはその外周面に形成されて図1の静止モードおよび図2のエアゾール作動モードのときに後述の環状底面7bに当接して保持される上向き環状段部,
4eはその外周面に形成されて後述の上Oリング5bが配設される上環凹状部,
4fはその外周面に形成されて後述の下Oリング5cが配設される下環凹状部,
をそれぞれ示している。
【0026】
また、
5はステム収容可動部3とシール作用部4との一体物であって、静止モード,エアゾール作動モードではハウジング内圧と上流側コイルスプリング6eの弾性力を受けて初期位置にとどまり、内圧低下のポンプ作動モードではこの弾性力に抗しながら下動する移動体,
5aは静止モードのときにステム2の下流側孔部2bを閉塞する態様で、ステム収容可動部3の上向き環凸状部分3bとシール作用部4の環天井部分4aとに挟持されたシール作動用で環状のステムラバー,
5bはシール作用部4の上環凹状部4eに配設されて、静止モードおよびエアゾール作動モードにおける後述の外気流入用孔部6fと外部空間域との間のシール作用を呈する上Oリング,
5cはシール作用部4の下環凹状部4fに配設されて後述の上流側空間域S1対応のシール作用を呈する下Oリング,
5dはステム2の下向き環状段部2cと、ステム収容可動部3のL字リブ状部3dの底面側部分との間に配設されてステム2を上方向に付勢する下流側コイルスプリング,
をそれぞれ示している。
【0027】
また、
6は移動体5を上下動可能な形で収容保持して後述の上流側空間域S1を形成する筒状で上側大開口のハウジング,
6aはその上端部分に形成された外向きの環鍔状部,
6bはその底面中央部分に形成されて下端側内周面に後述のディップチューブ9が取り付けられる垂下筒状部,
6cはそれぞれが垂下筒状部6bの上端側内面からハウジング内底面に連続してハウジング周方向飛び飛びの態様で複数形成され、後述のボール弁8の上限移動位置を特定するための環凸状部分を内ガイド面上端に持つL字リブ状部,
6dはL字リブ状部6cの下側内周面(垂下筒状部6bの内周面)に形成されて、後述のボール弁8との間で、ポンプ作動モードにおける上流弁作用を呈する内側下がりの内向き環状テーパ部,
6eはシール作用部4の下向き環状段部4cとハウジング6の内底面との間に配設されてこのシール作用部(移動体5)を上方向に付勢する上流側コイルスプリング,
6fはポンプ作動モードにおいて外部空間域と連通する容器本体内部空間域の減圧防止用の外気流入用孔部,
をそれぞれ示している。
【0028】
また、
7は容器本体1の環凹状部1aに嵌合保持されてハウジング6の環鍔状部6aを容器本体上端側に挟持する形の環状カップ,
7aはその下端部分であって環凹状部1aと嵌合状態の内向き環凸状部,
7bはその内端部分に形成されて静止モードおよびエアゾール作動モードの移動体5(シール作用部4)の上向き環状段部4dを当接保持する環状底面,
7cは環状底面7bの内端部分から上方に連続してシール作用部4の上下動を案内する起立筒状部,
7dは容器本体1の上端部分とハウジング6の環鍔状部6aとの間に配設されてシール作用を呈する環状パッキン,
8は静止モードおよびステム下動のポンプ作動モードのときハウジング6の内向き環状テーパ部6dに当接して上流弁作用を呈するボール弁,
9はハウジング6の垂下筒状部6bの内周面に嵌合して容器本体1の内容物が流入するディップチューブ,
をそれぞれ示している。
【0029】
また、
S1はディップチューブ9と連通する形で、移動体5およびハウジング6の間に設定される内容物通過・貯留用の上流側空間域,
S2は上流側空間域S1と連通する形で、ステム収容可動部3およびステム2の間に設定される内容物通過・貯留用の下流側空間域,
f1はエアゾール作動モードにおける内容物の放出経路,
f2はポンプ作動モードにおける内容物の放出経路,
をそれぞれ示している。
【0030】
以上の各構成要素の中、ステム2,ステム収容可動部3,シール作用部4,ハウジング6およびディップチューブ9はプラスチック製のもので、例えばポリプロピレン,ポリエチレン,ポリアセタール,ナイロン,ポリブチレンテレフタレートなどからなる
【0031】
容器本体1,下流側コイルスプリング5d,上流側コイルスプリング6e,環状カップ7およびボール弁8はプラスチック製または金属製のものである。
【0032】
また、ステムラバー5aはゴム製のもの、環状パッキン7dはゴム製またはプラスチック製のものである。ここでゴム製のステムラバー5aに代えてプラスチック製のステムシール部材を用いてもよい。
【0033】
なお、下流側コイルスプリング5dおよび上流側コイルスプリング6eそれぞれの上方向への弾性力は、上流側コイルスプリング6eの方が小さく設定されている。
【0034】
図1の内容物放出機構で噴射剤「なし」のいわば仮想設定の下、ステム2を下動させると、少なくともその初期段階では小弾性力の上流側コイルスプリング6eのみが縮み、ステム2および移動体5は全体として静止モードの位置関係のまま下動する。
【0035】
そして、この下動にともない、移動体5とハウジング6との間の上流側空間域S1の容積が減少してそこでの内圧が増加する。
【0036】
この内圧増加にともない移動体5が上流側コイルスプリング6eからとは別の上方向への力を受け、これにより移動体5は下動せずにステム2のみが下動して、その下流側孔部2bがステムラバー5aとの閉状態から開状態へと解放される。
【0037】
この下流側孔部2bの開状態への移行にともなって図3のポンプ作動モードの放出経路f2が設定される。
【0038】
ここでのステム2,移動体5,下流側コイルスプリング5d,上流側コイルスプリング6eおよび上流側空間域S1などの関連動作説明が、図示内容物放出機構のポンプ作動モードの原理的な基本構成といえる。
【0039】
なお、噴射用ガス圧力が十分に大きなエアゾール作動モードの場合は概略、移動体5は、上流側空間域S1の大きな内圧(噴射用ガス圧力)による図示上方向の力を受けて静止モード位置に保持される。
【0040】
すなわち、移動体5は図1の静止モード位置に保持されたままであり、その構成要素であるステム収容可動部3に対してステム2が下動するといった周知のエアゾール作動状態に設定される。
【0041】
図1の静止モードでは、
(11)上流側コイルスプリング6eの弾性作用および上流側空間域S1の内圧作用により、移動体5が、最上動位置にてその上向き環状段部4dと環状カップ7の環状底面7bとの当接保持状態に設定され、
(12)下流側コイルスプリング5dの弾性作用および下流側空間域S2の内圧作用により、ステム2が、最上動位置にてその下流側孔部2bとステムラバー5aとの当接閉状態に設定され、
(13)ボール弁8が、その自重などによりハウジング6の内向き環状テーパ部6dに密接している。
【0042】
図2の、ステム2が、内容物放出操作に応じて下流側コイルスプリング5dの弾性力に抗しながら下動したエアゾール作動モードでは、上述のように、
(21)上方への、上流側コイルスプリング6eの弾性作用および上流側空間域S1の内圧作用を受ける移動体5は、静止モード位置のままに保持され、
(22)外部空間域にいたるステム2の内部通路域2aと、ステム収容可動部3の下流側空間域S2とが開状態の下流側孔部2bを介して連通し、
(23)この外部空間域と下流側空間域S2の連通作用にともない、ボール弁8はディップチューブ9の通路域側からトータル上方向への内圧を受けて上動し、
(24)このボール弁8の上動によりエアゾール作動モードの放出経路f1が確立する。
【0043】
放出経路f1は、「ディップチューブ9−内向き環状テーパ部6dで設定される中央開口域−隣同士のL字リブ状部6cの間に設定される溝状部−上流側空間域S1−上流側孔部3c−下流側空間域S2−下流側孔部2b−ステム2の内部通路域2a」となる。
【0044】
エアゾール作動モードで移動体5が下方にシフトしないのは、上流側空間域S1の十分に大きい内圧作用によってこの移動体を押し上げているからである。
【0045】
図示の内容物放出機構の検証によれば、移動体5を静止モード位置に保持したままの図2のエアゾール作動モードが設定されえるのは、上流側空間域S1での内圧が1kgf/cm2〜8kgf/cm2のときであった。
【0046】
検証状態では、上流側空間域S1の直径を15mmとして、1kgf/cm2の内圧で1.76kgf相当の上方への力が移動体5にかかることになる。ここで、下流側コイルスプリング5dには弾性力が0.7kgfのものを用い、上流側コイルスプリング6eには弾性力が0.4kgfのものを用いた。上流側空間域S1の内圧が1kgf/cm2の場合の移動体5が受ける上方への付勢力は2.18kgf(=1.76kgf+0.4kgf)となり、エアゾール作動モードでのステム2の最大押し下げ力である約2kgfを若干上回る。
【0047】
ここで、放出機構のミスユースや内容物放出動作の累積などにより容器本体1(上流側空間域S1)の内圧が1kgf/cm2以下になると、この内圧の移動体押上げ力も十分に減少し、エアゾール作動モードのステム2についてのさらなる下動操作が可能となる。
【0048】
すなわち、周知の内容物放出操作部材(図示省略)の、図2のエアゾール作動モードの設定位置から図3のポンプ作動モードの設定位置までのストロークが可能となる。
【0049】
図3の、このストロークに基づくポンプ作動モードの内容物放出機構は、下流側孔部2bおよびステムラバー5aの下流弁(吐出弁)、ならびに内向き環状テーパ部6dおよびボール弁8の上流弁(吸込弁)を備えたポンプ機構と同様に作動する。
【0050】
すなわち、
(31)弱弾性力の上流側コイルスプリング6eに保持された移動体5は、その押上げ力のいわば源泉である容器本体1(上流側空間域S1)の内圧が減少した状態において、ステム2とリンクする形で下動し、
(32)この下動により上流側空間域S1の容積が減少してそこでの内圧が増加し、
(33)この内圧増加にともない、ボール弁8が押し下げられて上流弁「閉」に設定され、かつ移動体5の下動にいわばブレーキがかかってステム2のみが下動し、
(34)このステム2のみの下動により確実に下流弁「開」となり、
(35)内圧増加の上流側空間域S1および下流側空間域S2の内容物が下流弁を経てステム2の内部通路域2aから外部空間域に放出される。
【0051】
このときの放出経路f2は、「上流側空間域S1−上流側孔部3c−下流側空間域S2−下流側孔部2b−ステム2の内部通路域2a」となる。
【0052】
押下げボタン(図示省略)の押圧操作などの内容物放出操作を終えると、図2のエアゾール作動モードおよび図3のポンプ作動モードの内容物放出機構は、下流側コイルスプリング5dや上流側コイルスプリング6eの弾性力により、図1の静止モードに復帰する。
【0053】
図2のエアゾール作動モードの設定操作を終えると、ステム2が下流側コイルスプリング5dの弾性作用でその初期位置に復帰する。
【0054】
図3のポンプ作動モードの設定操作を終えると、ステム2が下流側コイルスプリング5dの弾性作用でその初期位置に復帰し、かつ、移動体5が上流側コイルスプリング6eの弾性作用でその初期位置に復帰する。
【0055】
このポンプ作動設定操作の解除にともないステム2および移動体5が上動してその初期位置(静止モード)に復帰するとき、
(41)上流側空間域S1および下流側空間域S2それぞれの容積が増加して、そこでの内圧が容器本体1の内部空間域のそれよりも減少し、
(42)この内圧減少にともない、ボール弁8が内向き環状テーパ部6dから離間して上流弁(吸込弁)開状態に設定され、
(43)容器本体1の内容物がディップチューブ9を介して上流側空間域S1および下流側空間域S2の方へ流入し、
(44)この内容物流入にともない上流側空間域S1および下流側空間域S2の内圧が増加して、概略、ボール弁8に作用する下方向のハウジング内圧および自重の合計が、同じくボール弁8に作用する上方向の容器本体内圧よりも大きくなった段階で上流弁が閉じ、
(45)この上流弁の閉作用で内容物放出機構は図1の静止モードに移行する。
【0056】
なお、上記(43)で上流側空間域S1および下流側空間域S2に流入した内容物が次回のポンプ作動における放出対象物となる。
【0057】
図3のポンプ作動モードにおいて、容器本体1の収容内容物が外部空間域に放出されることにともなう容器本体内部空間域の減圧状態は、外気流入用孔部6fから容器本体1への外気供給により回復する。
【0058】
図示の内容物放出機構は、内容物放出操作にともなうステム移動長さの違いにより、噴射用ガスに基づく短移動のエアゾール動作と、噴射用ガス圧力の低下後の上流弁(ボール弁)および下流弁に基づく長移動のポンプ動作と、を個々に実行しえるものである。
【0059】
本発明が以上の実施形態に限定されないこと勿論であり、例えば、
(51)ステム2を駆動する操作部として、押下げボタンやトリガレバーなどの各種タイプの操作部を用いる、
(52)ステムラバー5aに代えてその全体が移動する弁部材、例えば上記特許文献で開示の弁部材を用いる、
(53)上Oリング5bや下Oリング5cに代えて、樹脂成形によるシール部材を用いる、
(54)上Oリング5bと下Oリング5cとを一体化したシール部材にする、
(55)シール作用部4,上Oリング5bおよび下Oリング5cを一体化する、
ようにしてもよい。
【0060】
本発明が適用される製品としては、洗浄剤,清掃剤,制汗剤,冷却剤,筋肉消炎剤,ヘアスタイリング剤,ヘアトリートメント剤,染毛剤,育毛剤,化粧品,シェービングフォーム,食品,栄養補助食品(ビタミンなど)医薬品,医薬部外品,塗料,園芸用剤,忌避剤(殺虫剤),クリーナー,消臭剤,洗濯のり,ウレタンフォーム,消火器,接着剤,潤滑剤などの各種用途のものがある。
【0061】
容器本体に収納する内容物は、液状,クリーム状,ゲル状など種々の形態のものを用いることができ、内容物に配合される成分としては例えば、粉状物,油成分,アルコール類,界面活性剤,高分子化合物,各用途に応じた有効成分,水などが挙げられる。
【0062】
粉状物としては、金属塩類粉末,無機物粉末や樹脂粉末などを用いる。例えば、タルク,カオリン,アルミニウムヒドロキシクロライド(アルミ塩),アルギン酸カルシウム,金粉,銀粉,雲母,炭酸塩,硫酸バリウム,セルロースおよびこれらの混合物などを用いる。
【0063】
油成分としては、シリコーン油,パーム油,ユーカリ油,ツバキ油,オリーブ油,ホホバ油,パラフィン油,ミリスチン酸,パルミチン酸,ステアリン酸,リノール酸,リノレン酸などを用いる。
【0064】
アルコール類としては、エタノールなどの1価の低級アルコール,ラウリルアルコールなどの1価の高級アルコール,エチレングリコール,グリセリン,1,3−ブチレングリコールなどの多価アルコールなどを用いる。
【0065】
界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウムなどのアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンオレイルエーテルなどの非イオン性界面活性剤、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインなどの両性界面活性剤、塩化アルキルトリメチルアンモニウムなどのカチオン性界面活性剤などを用いる。
【0066】
高分子化合物としては、メチルセルロース,ゼラチン,デンプン,カゼイン,ヒドロキシエチルセルロース,キサンタンガム,カルボキシビニルポリマーなどを用いる。
【0067】
各用途に応じた有効成分としては、サリチル酸メチル,インドメタシンなどの消炎鎮痛剤、安息香酸ナトリウム,クレゾールなどの除菌剤、ヒレスロイド,ジエチルトルアミドなどの害虫忌避剤、酸化亜鉛などの制汗剤、カンフル,メントールなどの清涼剤、エフェドリン,アドレナリンなどの抗喘息薬、スクラロース,アスパルテームなどの甘味料、エポキシ樹脂,ウレタンなどの接着剤や塗料、パラフェニレンジアミン,アミノフェノールなどの染料,リン酸二水素アンモニウム,炭酸水素ナトリウム・カリウムなどの消火剤などを用いる。
【0068】
さらに、上記内容物以外の、懸濁剤,紫外線吸収剤,乳化剤,保湿剤,酸化防止剤、金属イオン封鎖剤なども用いることができる。
【0069】
エアゾール式製品における噴射剤としては、炭酸ガス,窒素ガス,圧縮空気,酸素ガス,希ガス,これらの混合ガスなどの圧縮ガスや、液化石油ガス,ジメチルエーテル,フロロカーボンなどの液化ガスを用いる。
【符号の説明】
【0070】
1:容器本体
1a:環凹状部
2:ステム
2a:内部通路域
2b:下流側孔部
2c:下向き環状段部
【0071】
3:ステム収容可動部
3a:大径筒状部
3b:上向き環凸状部分
3c:上流側孔部
3d:L字リブ状部
【0072】
4:シール作用部
4a:環天井部分
4b:縦リブ状部
4c:下向き環状段部
4d:上向き環状段部
4e:上環凹状部
4f:下環凹状部
【0073】
5:移動体(ステム収容可動部3+シール作用部4)
5a:ステムラバー
5b:上Oリング
5c:下Oリング
5d:下流側コイルスプリング
【0074】
6:ハウジング
6a:環鍔状部
6b:垂下筒状部
6c:L字リブ状部
6d:内向き環状テーパ部
6e:上流側コイルスプリング
6f:外気流入用孔部
【0075】
7:環状カップ
7a:内向き環凸状部
7b:環状底面
7c:起立筒状部
7d:環状パッキン
8:ボール弁
9:ディップチューブ
【0076】
S1:上流側空間域
S2:下流側空間域
f1:エアゾール作動モードの放出経路
f2:ポンプ作動モードの放出経路
図1
図2
図3