【実施例】
【0020】
[実施例1〜7、比較例1〜5]
(フェニルグリコールエーテル類の濃度依存)
フッ化水素アンモニウム濃度を5質量%、硫酸濃度を45質量%にしてフェニルグリコールエーテル類(ジエチレングリコールモノフェニルエーテル)濃度を[表1]のとおり変化させて実施例1〜7及び比較例1〜5における電解研磨液を調製した。調製した各電解研磨液約400mLをポリプロピレン製の容器に満たし、これに電解研磨対象面を約3cm×5cm(約15cm
2)になるようにマスキングしたニオブ板(5cm×5cm、厚さ2mm、純度99.9%)を浸漬して直流電源の陽極に接続し、前記電解研磨液中に浸漬させた陰極と対向させた状態で電流値7Aの定電流モード(電流密度:約0.5A/cm
2)にて10分間、電解研磨液の温度が約45〜55℃で電解研磨を行った。電解研磨時の電気量は7A×600s=4200Cであった。実施例1〜7及び比較例1〜5の結果を[表1]に示す。
【0021】
【表1】
【0022】
[実施例8〜11、比較例6]
(フェニルグリコールエーテル種依存)
フッ化水素アンモニウム濃度を5質量%、硫酸濃度を40質量%、フェニルグリコールエーテル濃度を10質量%になるよう配合して、[表2]のとおりフェニルグリコールエーテルの種類を変えて実施例8〜11における電解研磨液を調製した。調製した各電解研磨液を用いて、実施例1〜7と同様にして、約15cm
2のニオブ表面に対して直流電源を用いて電流値7Aの定電流モード(電流密度:約0.5A/cm
2)にて10分間、電解研磨を行った。また、比較例6としてフッ化水素アンモニウム濃度を5質量%、硫酸濃度を40質量%とし、フェニルグリコールエーテルを含有しない電解研磨液を調製して、実施例8〜11と同様に電解研磨を行った。電解研磨時の電気量は7A×600s=4200Cであった。実施例8〜11及び比較例6の結果を[表2]に示す。
【0023】
【表2】
【0024】
[実施例12〜23、比較例7〜9]
(フッ化物種及び濃度依存)
フェニルグリコールエーテル濃度を10質量%、硫酸濃度を40質量%にしてフッ化物の種類及び濃度を[表3]のとおり変化させて実施例12〜23及び比較例7〜9における電解研磨液を調製した。調製した各電解研磨液を用いて、実施例1〜7と同様にして、約15cm
2のニオブ表面に対して直流電源を用いて電流値7Aの定電流モード(電流密度:約0.5A/cm
2)にて10分間、電解研磨を行った。電解研磨時の電気量は7A×600s=4200Cであった。実施例12〜23及び比較例7〜9の結果を[表3]に示す。
【0025】
【表3】
【0026】
[実施例24〜31、比較例10〜13]
(硫酸濃度依存)
フェニルグリコールエーテル濃度を10質量%、フッ化物濃度を5質量%にして硫酸濃度を[表4]のとおり変化させて実施例24〜31及び比較例10〜13における電解研磨液を調製した。調製した各電解研磨液を用いて、実施例1〜7と同様にして、約15cm
2のニオブ表面に対して直流電源を用いて電流値7Aの定電流モード(電流密度:約0.5A/cm
2)にて10分間、電解研磨を行った。電解研磨時の電気量は7A×600s=4200Cであった。実施例24〜31及び比較例10〜13の結果を[表4]に示す。
【0027】
【表4】
【0028】
[実施例32〜35]
(研磨可能金属)
本発明の実施例1の配合の電解研磨液を用いて、実施例1と同様にタンタル及びニオブ合金の電解研磨を行った。結果を[表5]に示すが、電解研磨可能な金属種は実施例32〜35に限定されるものではない。実施例1〜35での研磨速度は、いずれも1μm/min程度であった。
【0029】
【表5】
【0030】
[実施例36〜58]
フッ化水素アンモニウム、硫酸及びジエチレングリコールモノフェニルエーテルの各濃度を[表6]のとおりとし、さらにアルコールの種類と濃度を[表6]のとおりとして実施例36〜58における電解研磨液を調製した。調製した各電解研磨液約400mLをポリプロピレン製の容器に満たし、これに電解研磨対象面を約4cm×5cm(約20cm
2)になるようにしたニオブ板(5cm×5cm、厚さ2mm、純度99.9%)を浸漬して直流電源の陽極に接続し、前記電解研磨液中に浸漬させた陰極と対向させた状態で、電解研磨時の電気量が約4200Cとなるように電流値を0.8〜3A、電解研磨時間を25〜90分で調整して定電流モードにて、電解研磨液の温度が約45〜55℃で電解研磨を行った。実施例36〜58の結果を[表6]に示す。[表6]中、フッ化物はフッ化水素アンモニウムであり、DGMEはジエチレングリコールモノフェニルエーテルの略である。
【0031】
【表6】
【0032】
[実施例59〜62]
フッ化水素アンモニウム濃度を10質量%、硫酸濃度を35質量%とし、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル濃度及びアルコール類の種類と濃度を[表7]のとおりとして実施例59〜62における電解研磨液を調製した。調製した電解研磨液を用いて、実施例36〜58と同様にタンタルの電解研磨を行った。試料として使用したタンタルは薄板であり、電解研磨対象面積は約5cm×0.6cm×2(表裏)=6cm
2とした。実施例59〜62の結果を[表7]に示す。実施例59〜62においても、電解研磨により表面の粗度が大きく改善した。
【0033】
【表7】
【0034】
[実施例63〜65]
フッ化水素アンモニウム濃度を10質量%、硫酸濃度を35質量%とし、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル濃度及びアルコール類の種類と濃度を[表8]のとおりとして実施例63〜65における電解研磨液を調製した。調製した電解研磨液を用いて、実施例36〜58と同様にタンタル、コバルト、及びニッケル合金であるインコネル(登録商標)718の電解研磨を行った。実施例63では、直径0.2cmのタンタルの棒を試料として使用し、電解研磨対象面積は、0.2cm×π×10cm(長さ)=6.3cm
2とした。実施例64では、直径0.8cmのコバルトの棒を使用し、電解研磨対象面積は、0.8cm×π×3cm(長さ)=7.5cm
2とした。実施例65では、直径1cmのインコネル(登録商標)718の棒を使用し、電解研磨対象面積は、1cm×π×8cm(長さ)=25cm
2とした。また、実施例32では、タンタルの試料として5cm×3cmの薄板を使用し、研磨対象面積は、表裏で30cm
2であった。実施例63〜65の結果を[表8]に示す。実施例63〜65においても、電解研磨により表面の粗度が大きく改善した。
図8及び9は、実施例64及び65の処理前と処理後の金属試料表面の電子顕微鏡による観察結果であり、表面の粗度が大きく改善したことを示している。
【0035】
【表8】
【0036】
[実施例66〜72]
フッ化物の種類と濃度、硫酸の濃度、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル(DGME)の濃度及びアルコール類の種類と濃度を[表9]のとおりとして実施例66〜72における電解研磨液を調製した。調製した電解研磨液を用いて、実施例36〜58と同様にチタン合金であるゴムメタル(登録商標)の電解研磨を行った。ゴムメタル(登録商標)の試料としては、薄板を使用し、電解研磨対象面積は、0.5cm×15cm×2(表裏)=15cm
2とした。実施例66〜72の結果を[表9]に示す。実施例66〜72においても、電解研磨により表面の粗度が大きく改善した。
図10は、実施例69の処理前と処理後の金属試料表面の電子顕微鏡による観察結果であり、表面の粗度が大きく改善したことを示している。
【0037】
【表9】
【0038】
[評価方法]
実施例1〜62及び比較例1〜13では、電解研磨前に機械研磨にて表面を磨き、表面粗度Raを約1μmにしたものを試料とした。電解研磨前及び電解研磨後の表面の評価は、表面粗度に関しては表面粗さ計SURFCOM NEX001SD−12(東京精密社製)にて任意の5箇所を測定し平均値を算出した。電解研磨の効果は、[式1]で定義した表面粗度改善率が50%以上の場合を良好とした。また、表面の評価は走査型電子顕微鏡SU3500(日立ハイテクノロジーズ社製)で観察し、光沢に関しては目視にて金属光沢を有するか否かで評価した。実施例63〜72は形状的に表面粗度の測定が不可能であったため、電解研磨前後の走査型電子顕微鏡による観察及び目視による金属光沢の有無で評価した。
[式1]
表面粗度改善率評価式=|Ra(電解研磨後)/Ra(電解研磨前)−1|×100[%]
【0039】
実施例1でのニオブの電解研磨面を観察した走査型電子顕微鏡像を
図1に示す。機械研磨による擦過痕が確認できない程平滑化され、結晶粒の面方位の違いを反映したチャネリングコントラストが明瞭に反映されており、加工変質層(ベイルビー層)が除去されていることが確認できる。
【0040】
実施例32でのタンタルの電解研磨面を観察した走査型電子顕微鏡像を
図2に示す。ニオブ同様に、結晶粒の面方位の違いを反映したチャネリングコントラストが明瞭に反映されており、加工変質層(ベイルビー層)が除去されていることが確認できる。
【0041】
比較例1でのニオブの電解研磨面を観察した走査型電子顕微鏡像を
図3に示す。機械研磨による擦過痕がまだ明瞭に確認できるだけでなく、酸化膜が溶解しきらずに残留していることが黒点として確認できる。
【0042】
電解研磨前のニオブの機械研磨面を観察した走査電子顕微鏡像を
図4に示す。擦過痕と研磨時の摩擦熱により生成した酸化膜が黒く観察されている。
【0043】
実施例1、比較例1及び電解研磨前の機械研磨面の表面粗度曲線を
図5〜
図7に示す。
図5に示される実施例1の電解研磨後の表面粗度はRaが0.4222μm、Rzが2.1367μmであった。
図6に示される比較例1の電解研磨後の表面粗度はRaが0.7946μm、Rzが4.3310μmであった。また、
図7に示される電解研磨前の機械研磨面の表面粗度はRaが0.9296μm、Rzが5.0405μmであった。
【0044】
[表6]〜[表9]に示すとおり、電解研磨液にアルコール類を含有させることにより、0.04〜0.15A/cm
2という極めて低い電流密度で優れた電解研磨効果が得られた。また、タンタル、コバルト、ニッケル合金及びチタン合金に対しても低い電流密度で優れた電解研磨効果が得られた。