特許第6671799号(P6671799)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6671799
(24)【登録日】2020年3月6日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】自動変速機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/00 20060101AFI20200316BHJP
   F16H 59/72 20060101ALI20200316BHJP
   F16D 25/12 20060101ALI20200316BHJP
   F16D 48/02 20060101ALI20200316BHJP
   F16D 25/0638 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
   F16H61/00
   F16H59/72
   F16D25/12 C
   F16D48/02 640D
   F16D25/0638
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-121356(P2016-121356)
(22)【出願日】2016年6月20日
(65)【公開番号】特開2017-227219(P2017-227219A)
(43)【公開日】2017年12月28日
【審査請求日】2018年10月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148301
【弁理士】
【氏名又は名称】竹原 尚彦
(74)【代理人】
【識別番号】100077779
【弁理士】
【氏名又は名称】牧 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100110157
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 基司
(72)【発明者】
【氏名】俵 裕貴
【審査官】 藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−108079(JP,A)
【文献】 特開2007−327592(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00−61/12
F16H 61/16−61/24
F16H 61/66−61/70
F16H 63/40−63/50
F16D 25/00−39/00
F16D 48/00−48/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の摩擦締結装置の締結/開放の組み合わせの変更により、所望の変速段を実現する自動変速機の制御装置であって、
前記摩擦締結装置に供給されるオイルが通流するメイン油路、および少なくとも2つのサブ油路を有する中心軸と、
前記メイン油路に供給されるオイルの一部の供給先を、前記制御装置の指示に応じて、前記メイン油路と、前記少なくとも2つのサブ油路とのうちの1つの油路との間で切り替える切替手段と、を備え、
前記サブ油路の各々には、当該サブ油路を通流するオイルが供給されない摩擦締結装置が少なくとも1つ設定されており、
前記制御装置は、
前記実現する変速段に基づいて、当該実現する変速段で開放される摩擦締結装置を特定し、
前記切替手段を制御して、前記メイン油路に供給されるオイルの一部の供給先を、前記開放される摩擦締結装置への前記オイルの供給量が最も少なくなるサブ油路に切り替えることを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記開放される摩擦締結装置の温度が、第1の閾値温度以上である場合には、前記開放される摩擦締結装置への前記オイルの供給量が最も少なくなるサブ油路への切り替えを実施しないことを特徴とする請求項1に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項3】
オイルの冷却機構をさらに備え、
前記メイン油路には、前記冷却機構で冷却されたオイルが供給されることを特徴とする請求項2に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記メイン油路を通流するオイルの温度が、第2の閾値温度以上である場合には、前記開放される摩擦締結装置への前記オイルの供給量が最も少なくなるサブ油路への切り替えを実施しないことを特徴とする請求項3に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項5】
前記サブ油路を通流するオイルが供給されない摩擦締結装置は、連続する複数の変速段に亘って開放される摩擦締結装置であることを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項6】
前記摩擦締結装置は、
回転軸方向で交互に配置された内径側摩擦板および外径側摩擦板と、
前記回転軸方向における一方側の受圧面に付勢力が作用すると、前記内径側摩擦板と前記外径側摩擦板を前記回転軸方向に押圧する方向にストロークすると共に、他方側の受圧面に付勢力が作用すると、前記内径側摩擦板と前記外径側摩擦板とから離れる方向にストロークするピストンと、を有しており、
前記メイン油路を通流するオイル前記サブ油路を通流するオイルは、前記他方側の受圧面との間に形成された油室に供給されて、前記内径側摩擦板と前記外径側摩擦板とを潤滑することを特徴とする請求項1から請求項5の何れか一項に記載の自動変速機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用の自動変速機は、複数の摩擦締結装置を備えており、摩擦締結装置の締結/開放の組み合わせを変更して、動力伝達経路を切り替えることで、所望の変速段を実現するようになっている。
【0003】
図4に示すように、摩擦締結装置100は、内径側回転体110と一体に回転するドライブプレート111と、外径側回転体120と一体に回転するドリブンプレート121と、回転軸X方向にストロークするピストン130と、を有している。
ドライブプレート111とドリブンプレート121は、回転軸X方向で交互に配置されており、ピストン130の油室131に駆動用オイル(作動油圧)が供給されると、ピストン130が回転軸X方向にストロークして、ドライブプレート111とドリブンプレート121とが回転軸X方向に押圧されるようになっている。
【0004】
この摩擦締結装置100では、ドライブプレート111とドリブンプレート121とのピストン130による押圧量に応じて、摩擦締結装置100を挟んだ上流側と下流側との間で伝達されるトルクが変化するようになっており、この伝達されるトルクは、ドライブプレート111とドリブンプレート121とが相対回転不能に締結された時点で最大となる。
【0005】
ここで、自動変速機では、図示しない入力軸(中心軸)の内部に、摩擦締結要素の駆動用オイルが通流する油路と、摩擦締結要素の潤滑用オイルが通流する油路とが、複数設けられている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−238957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
摩擦締結要素の潤滑用オイルが通流する油路は、入力軸(図示せず)の内部を回転軸方向に延びる内部油路と、この油路と入力軸の外周とを連通させる油孔と、から構成されており、摩擦締結要素の潤滑用オイルは、入力軸の外周に開口する油孔から排出されて、入力軸の径方向外側に位置する摩擦締結装置に常時供給されるようになっている。
【0008】
ここで、トルクの伝達に関与していない摩擦締結装置では、ドライブプレート111とドリブンプレート121とが、共通の回転軸X回りで相対回転している。
しかし、トルクの伝達に関与していない摩擦締結装置にも潤滑用オイルが供給されるため、トルクの伝達に関与していない摩擦締結装置では、相対回転するドライブプレート111とドリブンプレート121との間で、供給された潤滑用オイルを介した僅かなトルク伝達、いわゆるドラグトルクが生じてしまうことがある。
【0009】
そこで、トルクの伝達に関与していない摩擦締結装置でのドラグトルクを低減することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
複数の摩擦締結装置の締結/開放の組み合わせの変更により、所望の変速段を実現する自動変速機の制御装置であって、
前記摩擦締結装置に供給されるオイルが通流するメイン油路、および少なくとも2つのサブ油路を有する中心軸と、
前記メイン油路を通流するオイルの一部の供給先を、前記制御装置の指示に応じて、前記メイン油路と、前記少なくとも2つのサブ油路とのうちの1つの油路との間で切り替える切替手段と、を備え、
前記サブ油路の各々には、当該サブ油路を通流するオイルが供給されない摩擦締結装置が少なくとも1つ設定されており、
前記制御装置は、
前記実現する変速段に基づいて、当該実現する変速段で開放される摩擦締結装置を特定し、
前記切替手段を制御して、前記メイン油路を通流するオイルの一部の供給先を、前記開放される摩擦締結装置への前記オイルの供給量が最も少なくなるサブ油路に切り替える構成とした。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、メイン油路を通流するオイルの一部の供給先が、開放される摩擦締結装置へのオイルの供給量が最も少なくなるサブ油路に切り替えられるので、開放されてトルクの伝達に関与しない摩擦締結装置へのオイルの供給量を少なくすることができる。
これにより、ドラグトルクの低減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態にかかる自動変速機の要部の概略構成を示す図である。
図2】実施の形態にかかる自動変速機の締結表を説明する図である。
図3】実施の形態にかかる自動変速機の制御例を示すフローチャートである。
図4】一般的な構成の摩擦締結装置を説明する図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
図1は、実施の形態にかかる自動変速機1を説明する図であり、(a)は、自動変速機1の要部の概略構成図であり、(b)は、(a)におけるA−A断面図である。
る。
【0014】
図1に示すように、車両用の自動変速機1のコントロールバルブ4には、オイルポンプOPの吐出圧を調圧する圧力調整弁11と、圧力調整弁11からドレンされたオイルOLの流量を調整する油量調整弁12と、が設けられている。
油量調整弁12から油路40に排出されたオイルOLは、トルクコンバータ(T/C)15と冷却機構16を経て、中心軸2のメイン油路21に供給されたのち、摩擦締結装置6A〜6Fの潤滑や冷却に用いられるようになっている。
自動変速機1の中心軸2には、油量調整弁12から排出されたオイルOLが通流する1つのメイン油路21に加えて、油量調整弁12から排出されたオイルOLの一部が通流する2つのサブ油路(第1サブ油路22、第2サブ油路23)が設けられており、メイン油路21と、サブ油路(第1サブ油路22、第2サブ油路23)は、中心軸2の長手方向(回転軸X方向)に沿って設けられている。
【0015】
油量調整弁12から排出されたオイルOLが通流する油路40には、油量調整弁12から排出されたオイルOLの一部の供給先を、メイン油路21に連絡する油路41と、第1サブ油路22に連絡する油路42、および第2サブ油路23に連絡する油路43と、の間で切り替える切替弁45が設けられている。
【0016】
そのため、この切替弁45によるオイルOLの供給先が油路41である場合には、油量調整弁12から排出されたオイルOLの総てが、油路41を通ってメイン油路21に供給されるようになっている。
また、切替弁45によるオイルOLの供給先が油路42または油路43である場合には、油量調整弁12から排出されたオイルOLの多くが、油路41を通ってメイン油路21に供給される一方で、油量調整弁12から排出されたオイルOLの一部が、油路42または油路43を通って第1サブ油路22または第2サブ油路23に供給されるようになっている。
【0017】
メイン油路21に連絡する油路41に供給されたオイルOLは、トルクコンバータ15と、冷却機構16と、を順番に通過したのち、中心軸2内のメイン油路21に供給されるようになっており、メイン油路21内には、冷却されて温度が低くなったオイルOLが供給されるようになっている。
【0018】
中心軸2には、自動変速機1の各摩擦締結装置6A〜6FにオイルOLを供給するための油孔210a〜210fが設けられている。
これら油孔210a〜210fは、中心軸2の外周とメイン油路21とを連通しており、これら油孔210a〜210fから排出されたオイルOLは、それぞれ対応する摩擦締結装置6A〜6Fの潤滑や冷却に用いられたのち、オイルパン13に戻されるようになっている。
【0019】
さらに中心軸2には、自動変速機1の各摩擦締結装置6C〜6Fにオイルを供給するための油孔220c〜220fが設けられている。
これら油孔220c〜220fは、中心軸2の外周と第1サブ油路22とを連通しており、これら油孔220c〜220fから排出されたオイルOLは、それぞれ対応する摩擦締結装置6C〜6Fの潤滑や冷却に用いられたのち、オイルパン13に戻されるようになっている。
【0020】
さらに中心軸2には、自動変速機1の各摩擦締結装置6B、6C、6E、6Fにオイルを供給するための油孔230b、230c、230e、230fが設けられている。
これら油孔230b、230c、230e、230fは、中心軸2の外周と第2サブ油路23とを連通しており、これら油孔230b、230c、230e、230fから排出されたオイルOLは、それぞれ対応する摩擦締結装置6B、6C、6E、6Fの潤滑や冷却に用いられたのち、オイルパン13に戻されるようになっている。
【0021】
このように、第1サブ油路22、第2サブ油路23は、中心軸2に設けた油孔を介して、複数の摩擦締結装置6A〜6Fのうちの特定の摩擦締結装置にオイルOLを供給する一方で、特定の摩擦締結装置にオイルOLを供給しないように設定されている。
【0022】
図4の一例に示したように、摩擦締結装置は、回転軸X方向で交互に配置されたドライブプレート111(内径側摩擦板)およびドリブンプレート121(外径側摩擦板)と、回転軸X方向にストロークするピストン130と、を有する一般的な構成を備えている。
【0023】
このピストン130では、回転軸X方向における一方側の受圧面130aに、油室131に供給された駆動用の油圧(作動油圧)が作用すると、ドライブプレート111とドリブンプレート121とが、回転軸X方向にストロークするピストン130で回転軸方向に押圧されて、最終的に相対回転不能に締結されるようになっている。
【0024】
また、油室131への駆動用の油圧(作動油圧)の供給が終了すると、ピストン130は、回転軸X方向における他方側の受圧面130bに作用するスプリング135の付勢力で、ドライブプレート111とドリブンプレート121とから離れる方向にストロークするようになっている。
スプリング135を収容する空間Rには、前記したメイン油路21やサブ油路(第1サブ油路22、第2サブ油路23)からのオイルOLが供給されるようになっており、この空間R内の供給されたオイルは、空間Rの外径側に位置するドライブプレート111とドリブンプレート121とを潤滑および冷却したのち、空間Rから排出されるようになっている。
【0025】
前記したように、サブ油路(第1サブ油路22、第2サブ油路23)は、中心軸2に設けた油孔を介して、複数の摩擦締結装置6A〜6Fのうちの特定の摩擦締結装置にオイルOLを供給する一方で、特定の摩擦締結装置にオイルOLを供給しないように設定されている。
そこで、オイルOLが供給される摩擦締結装置と、オイルOLが供給されない摩擦締結装置の設定を以下に説明する。
図2は、実施の形態にかかる自動変速機1における締結表であり、この締結表は、締結される摩擦締結装置と、締結されない摩擦締結装置と、変速段との組み合わせを示している。
【0026】
実施の形態にかかる自動変速機1は、前進9段、後進1段の自動変速機であり、各摩擦締結装置6A〜6Fの締結/開放の組み合わせを変更することで、所望の変速段が実現されるようになっている。
例えば、1速の変速段を実現する場合には、図2における変速段「1速」の行に示すように、摩擦締結装置6B、6C、6Fを締結状態にすることで、1速の変速段が実現される。
また、5速の変速段を実現する場合には、図2における変速段「5速」の行に示すように、摩擦締結装置6C、6D、6Eを締結状態にすることで、5速の変速段が実現される。
【0027】
この締結表において、「〇」が付されていないところは、摩擦締結装置が開放状態であることを示しており、例えば、摩擦締結装置6Aは、「1速」から「7速」の変速段の間は、開放状態とされ、「8速」、「9速」、「R(後退)」の変速段の時に締結状態にされることが示されている。
【0028】
ここで、開放状態の摩擦締結装置では、ドライブプレート111やドリブンプレート121が収容された空間R(図4参照)へのオイル(潤滑、冷却用のオイル)の供給量が多くなると、ドライブプレート111(内径側回転体110)とドリブンプレート121(外径側回転体120)との間で、オイルを介した僅かなトルクの伝達、いわゆるドラグトルクが生じてしまう。
そのため、開放状態の摩擦締結装置に供給されるオイルOLの総量を少なくすることが好ましい。
【0029】
ここで、メイン油路21を通流するオイルOLは、総ての摩擦締結装置6A〜6Fの潤滑や冷却に用いられており、このメイン油路21は、オイルOLが常時通流する油路である。
そのため、実施の形態では、メイン油路21とは別に2つのサブ油路(第1サブ油路22、第2サブ油路23)を設けて、メイン油路21に供給されるオイルOLの一部を、サブ油路(第1サブ油路22、第2サブ油路23)に分配している。
そして、サブ油路(第1サブ油路22、第2サブ油路23)毎に、オイルOLが供給されない摩擦締結装置を設定しておくことで、特定の摩擦締結装置に供給されるオイルOLの総量が、サブ油路に分配した分だけ少なくなるようにしている。
【0030】
具体的には、図2に示すように、「1速」から「3速」の変速段では、摩擦締結装置6Aと摩擦締結装置6Dの両方が開放状態になるので、第2サブ油路23では、これら摩擦締結装置6A、6Dを除いた他の摩擦締結装置6B、6C、6E、6Fにのみ、第2サブ油路23を通流するオイルOLが供給されるようにしている。
そのため、実施の形態にかかる中心軸2では、合計4つの油孔230b、230c、230e、230fが、第2サブ油路23に連通して設けられており、第2サブ油路23に連通する油孔230の総数は、メイン油路21に連通する油孔210の総数よりも2つ少なくなっている。
【0031】
また、図2に示すように、「5速」から「7速」の変速段では、摩擦締結装置6Aと、摩擦締結装置6Bの両方が、開放状態になるので、第1サブ油路22では、これら摩擦締結装置6A、6Bを除いた他の摩擦締結装置6C〜6Fにのみ、第1サブ油路22を通流するオイルOLが供給されるようにしている。
そのため、実施の形態にかかる中心軸2では、合計4つの油孔220c〜220fが、第1サブ油路22に連通して設けられており、第1サブ油路22に連通する油孔220の総数は、メイン油路21に連通する油孔210の総数よりも2つ少なくなっている。
【0032】
以下、制御装置3が、ドラグトルクの低減のために実施する油路の切替処理を説明する。
なお、以下の説明は、図2に示した締結表に基づいて変速段の切り替えが行われる自動変速機1の場合を例に挙げて説明する。
図3は、切替弁45による油路の切替処理のフローチャートである。
【0033】
始めに、ステップS101において、制御装置3は、現時点の変速段が、第2サブ油路23を利用可能な変速段であるか否かを確認する。
具体的には、変速段が、1速、2速、3速のいずれかの変速段である場合に、第2サブ油路23を利用可能な変速段であると判定される。この変速段の特定は、図示しないインヒビタスイッチの出力信号などに基づいて特定される。
【0034】
第2サブ油路23を利用可能な変速段である場合には(ステップS101、Yes)、ステップS102において制御装置3は、現時点の変速段で開放状態とされる摩擦締結装置(摩擦締結装置6A、6D)の温度Tcが、閾値温度Th1未満であるか否かを確認する。
【0035】
メイン油路21に供給されるオイルOLの一部を第2サブ油路23に分配すると、摩擦締結装置6A、6Dに供給されるオイルOLが、分配量に応じて減少する。
そうすると、摩擦締結装置6A、6Dが、オイルOLが少なくなった分だけ、冷却され難くなるので、第2サブ油路23へのオイルOLの分配に先立って、潤滑および冷却用のオイルOLの供給量が少なくなることになる摩擦締結装置6A、6Dが、多少の温度上昇が生じても問題ない温度であるか否かを確認している。
【0036】
ここで、閾値温度Th1は、オイルOLの供給量の減少に伴う温度上昇後の摩擦締結装置の温度を、予め設定された上限温度Tmax以下で保持することができる温度に設定されており、閾値温度Th1の値は、シミュレーションや実験などに基づいて設定されている。
【0037】
図3のフローチャートに戻って、現時点の変速段で開放状態とされる摩擦締結装置の温度が、閾値温度Th1未満である場合(ステップS102、Yes)、ステップS103において制御装置3は、メイン油路21を通流するオイルの温度Toが、閾値温度Th2未満であるか否かを確認する。
【0038】
メイン油路21に供給するオイルOLの一部を第2サブ油路23に分配すると、油路41を通ってメイン油路21に供給されるオイルOLの量が少なくなる。
ここで、オイルOLの供給量を減らす対象の摩擦締結装置6A、6D以外の摩擦締結装置6B、6C、6E、6Fには、メイン油路21を通過したオイルOLと、第2サブ油路23を通過したオイルOLとが供給されるので、これら摩擦締結装置6C〜6Fに供給されるオイルOLの量は、第2サブ油路23にオイルの一部を分配する前とほぼ同じ量になる。
【0039】
しかし、切替弁45の下流側では、メイン油路21にオイルOLを供給する油路41にのみ冷却機構16が設けられているので、これら摩擦締結装置6C〜6Fに供給されるオイルOLは、潤滑のための総量に大きな変化はないものの、第2サブ油路23に分配された冷却されていないオイルOLが合流すると、温度が高くなってしまう。
【0040】
そうすると、高くなった後のオイルOLの温度によっては、オイルOLによる摩擦締結装置6B、6C、6E、6Fの冷却が不十分になる可能性がある。
そこで、実施の形態では、第2サブ油路23へのオイルOLの分配に先立って、現時点においてメイン油路21を通流するオイルOLの温度が、分配後のオイルOLと合流して高くなっても、摩擦締結装置6C〜6Fの冷却に問題ない温度であるか否かを確認している。
【0041】
そのため、ステップS103では、メイン油路21を通流するオイルOLの温度Toが、閾値温度Th2未満であるか否かを確認している。
ここで、閾値温度Th2は、摩擦締結装置の温度を、予め設定された上限温度Tmax以下で保持することができるオイルOLの温度Txから、サブ油路に分配されたオイルOLとの合流による温度上昇Δt分を減算した温度未満の値(Th2<(Tx−Δt))に設定されており、この閾値温度Th2の値もまた、シミュレーションや実験などに基づいて設定されている。
【0042】
図3のフローチャートに戻って、メイン油路21を通流するオイルOLの温度Toが、閾値温度Th2未満である場合(ステップS103、Yes)には、ステップS104において、制御装置3は、切替弁45を駆動して、メイン油路21を通流するオイルOLの一部の供給先を、第2サブ油路23に切り替えたのち、ステップS101の処理にリターンする。
【0043】
これにより、メイン油路21に供給されるオイルOLの一部の供給先が、開放される摩擦締結装置6A、6DへのオイルOLの供給量が最も少なくなる第2サブ油路23に切り替えられる結果、開放状態となる摩擦締結装置6A、6DへのオイルOLの供給量が少なくなるので、ドラグトルクの低減が可能になる。
【0044】
なお、前記したステップS102において、現時点の変速段で開放状態とされる摩擦締結装置の温度Tcが、閾値温度Th1未満でない場合(ステップS102、No)や、前記したステップS103において、メイン油路21を通流するオイルの温度Toが、閾値温度Th2未満でない場合(ステップS103、No)には、ステップS105において制御装置3は、メイン油路21を通流するオイルの一部の供給先を、サブ油路ではなくメイン油路21に設定する。
これにより、メイン油路21を通流するオイルの一部の供給先が、既にメイン油路21である場合にはそのままでの状態を維持し、メイン油路21を通流するオイルの一部の供給先が、第1サブ油路22または第2サブ油路23の場合には、切替弁45を駆動して、メイン油路21を通流するオイルの一部の供給先を、メイン油路210に切り替えたのち、ステップS101の処理にリターンする。
【0045】
これにより、開放状態とされる摩擦締結装置6A、6Dの温度を含む総ての摩擦締結装置6A〜6Fの温度が高くなりすぎることを防止しつつ、オイルOLの供給先の切り替えが可能なときに、開放状態となる摩擦締結装置6A、6DへのオイルOLの供給量を少なくして、ドラグトルクを低減させることが可能になる。
【0046】
一方、前記したステップS101において、現時点の変速段が、第2サブ油路23を利用可能な変速段(1速、2速、3速)でなかった場合には、ステップS106において制御装置3は、現時点の変速段が、第1サブ油路22を利用可能な変速段であるか否かを確認する。
具体的には、変速段が、5速、6速、7速のいずれかの変速段である場合に、第1サブ油路22を利用可能な変速段であると判定される(図2参照)。
【0047】
第1サブ油路22を利用可能な変速段である場合には(ステップS106、Yes)、ステップS107において制御装置3は、現時点の変速段で開放状態とされる摩擦締結装置(摩擦締結装置6A、6B)の温度Tcが、閾値温度Th1未満であるか否かを確認する。
【0048】
現時点の変速段で開放状態とされる摩擦締結装置6A、6Bの温度Tcが、閾値温度Th1未満である場合(ステップS107、Yes)、ステップS108において制御装置3は、メイン油路21を通流するオイルOLの温度Toが、閾値温度Th2未満であるか否かを確認する。
【0049】
そして、メイン油路21を通流するオイルOLの温度Toが、閾値温度Th2未満である場合(ステップS108、Yes)、ステップS109において、制御装置3は、切替弁45を駆動して、メイン油路21に供給されるオイルOLの一部の供給先を、第1サブ油路22に切り替えたのち、ステップS101の処理にリターンする。
【0050】
これにより、開放状態となる摩擦締結装置6A、6BへのオイルOLの供給量が少なくなるので、ドラグトルクの低減が可能になる。
【0051】
なお、前記したステップS107において、現時点の変速段で開放状態とされる摩擦締結装置6A、6Bの温度Tcが、閾値温度Th1未満でない場合(ステップS107、No)や、前記したステップS108において、メイン油路21を通流するオイルOLの温度Toが、閾値温度Th2未満でない場合(ステップS107、No)、そして、前記したステップS106において、現時点の変速段が、第1サブ油路22を利用可能な変速段(5速、6速、7速)でない場合(ステップS106、No)、には、前記したステップS105の処理に移行して、制御装置3が、メイン油路21に供給されるオイルOLの一部の供給先を、メイン油路21にすることで、第1サブ油路22および第2サブ油路23にオイルOLが分配されないようにする。
【0052】
これにより、メイン油路21に供給されるオイルOLの一部の供給先が、既にメイン油路21である場合にはそのままでの状態を維持し、メイン油路21に供給されるオイルOLの一部の供給先が、第1サブ油路22または第2サブ油路23の場合には、切替弁45を駆動して、メイン油路21に供給されるオイルOLの一部の供給先を、メイン油路210に切り替えたのち、ステップS101の処理にリターンする。
【0053】
このように、メイン油路21に供給されるオイルOLの一部の供給先が、開放される摩擦締結装置へのオイルOLの供給量が最も少なくなるサブ油路(第1サブ油路22または第2サブ油路23)に切り替えられるので、開放されてトルクの伝達に関与しない摩擦締結装置へのオイルの供給量を少なくすることができる。
これにより、開放されてトルクの伝達に関与しない摩擦締結装置では、ドライブプレート111やドリブンプレート121が収容された空間R(図4参照)へのオイル(潤滑、冷却用のオイル)の供給量が少なくなる結果、ドライブプレート111(内径側回転体110)とドリブンプレート121(外径側回転体120)との間のオイルOLの量が減少する。
【0054】
そして、メイン油路21に供給されるオイルOLの一部の供給先の切り替えは、開放状態とされる摩擦締結装置の温度を含む総ての摩擦締結装置の温度が高くなりすぎることを防止しつつ実施されるので、摩擦締結装置6A〜6Fを適温に保ちつつ、ドライブプレート111とドリブンプレート121との間のオイルOLを介した僅かなトルクの伝達、いわゆるドラグトルクの発生を好適に抑制できる。
【0055】
以上の通り、実施の形態では、
(1)複数の摩擦締結装置6A〜6Fの締結/開放の組み合わせの変更により、所望の変速段を実現する自動変速機1の制御装置3であって、
摩擦締結装置6A〜6Fに供給されるオイルOLが通流するメイン油路21、および少なくとも2つのサブ油路(第1サブ油路22、第2サブ油路23)を有する中心軸2と、
メイン油路21に供給されるオイルOLの一部の供給先を、制御装置3の指示に応じて、メイン油路21と、2つの第1サブ油路22、第2サブ油路23のうちの一方の油路との間で切り替える切替弁45(切替手段)と、を備え、
第1サブ油路22、第2サブ油路23の各々には、当該第1サブ油路22、第2サブ油路23を通流するオイルOLが供給されない摩擦締結装置が少なくとも1つ設定されており、
制御装置3は、
実現する変速段に基づいて、当該実現する変速段で開放される摩擦締結装置を特定し、
切替弁45を制御して、メイン油路21に供給されるオイルOLの一部の供給先を、開放される摩擦締結装置へのオイルOLの供給量が最も少なくなるサブ油路(第1サブ油路22または第2サブ油路23)に切り替える構成とした。
【0056】
このように構成すると、開放されてトルクの伝達に関与しない摩擦締結装置へのオイルOLの供給量を少なくできるので、ドラグトルクの低減が可能となる。
【0057】
(2)制御装置3は、開放される摩擦締結装置の温度Tcが、閾値温度Th1(第1の閾値温度)以上である場合には、開放される摩擦締結装置へのオイルOLの供給量が最も少なくなるサブ油路(第1サブ油路22または第2サブ油路23)への切り替えを実施しない構成とした。
【0058】
このように構成すると、開放される摩擦締結装置の温度Tcが高いときには、当該開放される摩擦締結装置へのオイルOLの供給量が減らされないので、温度Tcが高い摩擦締結装置の冷却を、ドラグトルクの低減よりも優先して行うことができる。
【0059】
(3)オイルOLの冷却機構16をさらに備えており、
メイン油路21に連絡する油路41では、当該メイン油路21に連絡する油路41でのオイルOLの通流方向における切替弁45の下流側に、オイルOLの冷却機構16が設けられており、メイン油路21には、冷却機構16で冷却されたオイルOLが供給される構成とした。
【0060】
このように構成すると、開放される摩擦締結装置の温度Tcが高いときに、開放される摩擦締結装置へのオイルOLの供給量が最も少なくなるサブ油路(第1サブ油路22または第2サブ油路23)への切り替えを実施しないことで、開放される摩擦締結装置を速やかに冷却することができる。
よって、開放される摩擦締結装置を冷却したのちに、メイン油路21に供給されるオイルOLの一部の供給先を、サブ油路(第1サブ油路22または第2サブ油路23)に切り替えて、開放される摩擦締結装置へのオイルOLの供給量を減らすことで、ドラグトルクを低減することができる。
【0061】
(4)制御装置3は、メイン油路21を通流するオイルOLの温度Toが、閾値温度Th2(第2の閾値温度)以上である場合には、開放される摩擦締結装置へのオイルOLの供給量が最も少なくなるサブ油路(第1サブ油路22または第2サブ油路23)への切り替えを実施しない構成とした。
【0062】
サブ油路(第1サブ油路22または第2サブ油路23)に分配されたオイルOLは、最終的に、冷却機構16で冷却されたオイルOLが通流するメイン油路21のオイルOLと合流して摩擦締結装置に供給される。
そして、サブ油路(第1サブ油路22または第2サブ油路23)に連通する油路42、43にはオイルOLの冷却機構が設けられていないので、サブ油路(第1サブ油路22または第2サブ油路23)に分配したオイルOLの量が多くなると、摩擦締結装置に供給されるオイルOLの温度が高くなって、摩擦締結装置を適切に冷却できなくなる可能性がある。
そのため、上記のように構成して、サブ油路(第1サブ油路22または第2サブ油路23)に分配したオイルOLと合流した後のオイルOLの温度が、摩擦締結装置の冷却に必要な温度を基準に設定した第2の閾値温度以上である場合には、サブ油路へのオイルOLの分配を行わないようにすることで、オイルの冷却機構で冷却されたオイルOLのみが各摩擦締結装置に供給されることになるので、摩擦締結装置の冷却を適切に行うことができる。
【0063】
(5)サブ油路(第1サブ油路22または第2サブ油路23)を通流するオイルOLが供給されない摩擦締結装置は、連続する複数の変速段(例えば、1速〜3速、または5速〜7速)に亘って開放される摩擦締結装置(例えば、摩擦締結装置6A、6D、または摩擦締結装置6A、6B)である構成とした。
【0064】
このように構成すると、変速段が変更されるたびにサブ油路を切り替える必要が無いので、サブ油路の切り替えに起因する振動などの発生を好適に防止できる。
【0065】
(6)摩擦締結装置は、
回転軸X方向で交互に配置されたドライブプレート111(内径側摩擦板)およびドリブンプレート121(外径側摩擦板)と、回転軸X方向にストロークするピストン130と、を有する一般的な構成を備えており、
ピストン130は、
回転軸X方向におけるピストン130の一方側の受圧面130aに、油室131に供給された駆動用の油圧(作動油圧)の付勢力が作用すると、ドライブプレート111とドリブンプレート121とを回転軸X方向に押圧する方向にストロークし、
油室131への駆動用の油圧(作動油圧)の供給が終了すると、回転軸X方向における他方側の受圧面130bに作用するスプリング135の付勢力で、ドライブプレート111とドリブンプレート121とから離れる方向にストロークするように構成されており、
摩擦締結装置のドライブプレート111とドリブンプレート121は、メイン油路21、およびサブ油路(第1サブ油路22、第2サブ油路23)に供給されたオイルOLにより、潤滑、および冷却されるように構成されているものとした。
【0066】
このように構成すると、オイルOLの供給先の切り替えが可能なときに、開放状態となる摩擦締結装置6A、6B、6DへのオイルOLの供給量を少なくして、空間R内のオイルOLの総量を減らすことができるので、ドライブプレート111とドリブンプレート121との間で、オイルOLを介した僅かなトルクの伝達、いわゆるドラグトルクが生じる可能性を低減できる。
【0067】
前記した実施の形態では、中心軸2に設けたサブ油路が2つ(第1サブ油路22、第2サブ油路23)の場合を例示したが、サブ油路の数は、自動変速機に設定された変速段の総数や、摩擦締結装置の総数に応じて適宜変更可能である。
また、開放される摩擦締結装置が複数同時に存在する場合には、開放される摩擦締結装置の総てに、潤滑用のオイルが供給されないようにする必要もない。
【符号の説明】
【0068】
1 自動変速機
2 中心軸
3 制御装置
4 コントロールバルブ
6(6A〜6F) 摩擦締結装置
11 圧力調整弁
12 油量調整弁
13 オイルパン
15 トルクコンバータ
16 冷却機構
21 メイン油路
22 第1サブ油路
23 第2サブ油路
40〜43 油路
45 切替弁(切替手段)
100 摩擦締結装置
110 内径側回転体
111 ドライブプレート
120 外径側回転体
121 ドリブンプレート
130 ピストン
130a、130b 受圧面
131 油室
135 スプリング

210(210a〜210f) 油孔
220(220c〜220f) 油孔
230(230b、230c、230e、230f) 油孔
OP オイルポンプ
OL オイル
R 空間
Th1 閾値温度
Th2 閾値温度
To 温度
Tx 温度
X 回転軸
図1
図2
図3
図4