(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6671801
(24)【登録日】2020年3月6日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】スリップ率計測装置及び方法
(51)【国際特許分類】
G01M 17/02 20060101AFI20200316BHJP
G01P 3/64 20060101ALI20200316BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
G01M17/02
G01P3/64 A
B60C19/00 H
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-164349(P2016-164349)
(22)【出願日】2016年8月25日
(65)【公開番号】特開2018-31690(P2018-31690A)
(43)【公開日】2018年3月1日
【審査請求日】2019年2月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000127570
【氏名又は名称】株式会社エー・アンド・デイ
(74)【代理人】
【識別番号】100087826
【弁理士】
【氏名又は名称】八木 秀人
(74)【代理人】
【識別番号】100207642
【弁理士】
【氏名又は名称】簾内 里子
(74)【代理人】
【識別番号】100168088
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 悠
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 幸久
(72)【発明者】
【氏名】森田 智之
(72)【発明者】
【氏名】木戸 一希
【審査官】
萩田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−104252(JP,A)
【文献】
特開平09−021729(JP,A)
【文献】
特許第4903109(JP,B2)
【文献】
特開2014−206464(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2016/0061681(US,A1)
【文献】
特開2012−112781(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/00 − 17/10
B60C 19/00
G01P 3/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤが接地する路面に埋設されるプレートと、
前記プレートに作用する荷重を計測する少なくとも3以上の荷重センサと、
前記タイヤの車輪速度を計測する車輪速度計測手段と、
を備えたことを特徴とするスリップ率計測装置。
【請求項2】
前記車輪速度計測手段は、前記タイヤ外周面に取付けられる2以上の衝撃付与部材と前記荷重センサとを備えた、
ことを特徴とする、請求項1に記載のスリップ率計測装置。
【請求項3】
前記車輪速度計測手段は、前記タイヤのホイールに取付けられ、前記タイヤの回転角度を計測するエンコーダを備えた、
ことを特徴とする、請求項1に記載のスリップ率計測装置。
【請求項4】
前記車輪速度計測手段は、前記タイヤのホイールに取付けられ、少なくともホイールに作用する上下力を計測する上下力計測センサを備え、
前記荷重センサと前記上下力計測センサの同期をとるため、前記タイヤが、その外周面に衝撃付与部材を備える、
ことを特徴とする、請求項3に記載のスリップ率計測装置。
【請求項5】
路面をタイヤが転動する際のタイヤ荷重重心の軌跡を計測し、対地速度を算出する対地速度計測ステップと、
前記タイヤ転動の際のタイヤ荷重重心の軌跡の計測と同時に行われ、前記タイヤの車輪速度を計測する車輪速度計測ステップと、
前記対地速度計測ステップと、前記車輪速度計測ステップで得られたデータから、スリップ率を算出する解析ステップと、
を備えることを特徴とするスリップ率計測方法。
【請求項6】
前記車輪速度計測ステップは、前記タイヤに衝撃付与部材が2以上取り付けられ、前記衝撃付与部材が前記路面に接した時間、及びタイヤ上での衝撃付与部材同士の周方向距離から車輪速度を算出する、
ことを特徴とする、請求項5に記載のスリップ率計測方法。
【請求項7】
前記車輪速度計測ステップは、前記タイヤの回転角度を計測することにより車輪速度を求める、
ことを特徴とする請求項5に記載のスリップ率計測方法。
【請求項8】
前記タイヤに衝撃付与部材を取り付け、前記衝撃付与部材が前記路面に与える衝撃により、前記対地速度計測ステップ及び、前記車輪速度計測ステップのデータの同期をとる、
ことを特徴とする請求項5に記載のスリップ率計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤのスリップ率を計測する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スリップ率は、車体速度(すなわちタイヤの対地速度Vt)とタイヤ外周の速度である車輪速度Vwから求められ、
s=(Vw−Vt)/max(Vw,Vt)
で定義される。
【0003】
スリップ率は、路面を走行する車両の、例えば加速しているときの車体速度が、実際の車輪速度に対してどのようなすべりの関係にあるかを示す。アンチロック・ブレーキ・システム(以下ABS)制御では、このスリップ率に基づいて車体を制動しており、スリップ率は重要なファクターである。
【0004】
スリップ率を計測するには、例えばシャシーダイナモ試験では、車両をローラ上で走らせ、ローラの回転角度とタイヤの回転角度を計測し、スリップ率を求める(文献1)。
【0005】
また、文献2では、車両試験として、タイヤの回転速度を検出するとともに、路面に磁気ネイルを布設して、そこを通過した車両の磁気ネイル検出回数に基づいて対地速度を求め、スリップ率を計測している(文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−7594号公報
【特許文献2】特開平10−104252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、定義に対地速度が含まれるため、スリップ率計測の際は、実際にタイヤを路面等で転動させる必要があり、スリップ率計測の装置は大型となってしまう。これは車両試験だけでなく、タイヤ単体試験でも同様である。
【0008】
また、文献1では、ローラの上でタイヤを走行させているが、ローラは外周面が円弧であるため、平坦な路面を走行させる状態とはタイヤの傾きなどが異なり、計測に誤差が生じる懸念がある。
【0009】
文献2においては、接地速度の測定精度は磁気ネイルの密度に依存するため、精度を高くするためには、大量に磁気ネイルを布設せねばならず試験が大掛かりとなる。
【0010】
このため、実際に平面を転動するタイヤの対地速度を基にした、精度が高く容易な方法でのスリップ率の計測が求められている。
【0011】
本発明は、比較的容易に、実際に転動しているタイヤの対地速度を精度良く計測し、精度の高いスリップ率を計測する装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記問題を解決するため、請求項1として、タイヤが接地する路面に埋設されるプレートと、前記プレートに作用する荷重を計測する少なくとも3以上の荷重センサと、前記タイヤの車輪速度を計測する車輪速度計測手段とを備えたことを特徴とする
スリップ率計測装置を提供する。
【0013】
本発明によれば、少なくとも3以上の荷重センサによりプレートにかかる荷重を計測できるため、プレートに接しているタイヤの荷重重心を求めることができる。プレート上をタイヤが転動する際は、タイヤの荷重重心の軌跡を求めることができ、これとプレートにタイヤが接地する接地時間と合わせ、タイヤの対地速度を得ることができる。このタイヤの対地速度と、車輪速度計測手段で計測したタイヤの車輪速度と合わせ、スリップ率を求めることができる。
【0014】
また、請求項2として、前記車輪速度計測手段は、前記タイヤ外周面に取付けられる2以上の衝撃付与部材と前記荷重センサとを備えたことを特徴とする、請求項1に記載の
スリップ率計測装置を提供する。
【0015】
衝撃付与部材とは、タイヤ外周面に取付けられ、タイヤがプレートに接した際に、荷重センサが衝撃付与部材を介して作用する荷重(衝撃荷重)を計測できるものであり、例えば、タイヤ外周面から突き出して装着する硬い金属製のピンの突起物などである。衝撃付与部材が、タイヤに取付けられ、タイヤがプレート上を転動した際、衝撃付与部材が、周辺部よりも高い荷重をプレートに与えるため、衝撃付与部材が接した時を荷重センサで計測できる。
【0016】
プレートに接した衝撃付与部材のうちから2つ抜き出し、一つ目の衝撃付与部材がプレートに接した時から2つ目の衝撃付与部材がプレートに接した時までの時間と、タイヤ上のこの2つの衝撃付与部材の周方向距離から、車輪速度が求められる。
【0017】
さらに、請求項3として、前記
車輪速度計測手段は、前記タイヤのホイールに取付けられ、前記タイヤの回転角度を計測するエンコーダを備えたことを特徴とする、請求項1に記載のスリップ率計測装置を提供する。
【0018】
エンコーダがホイールに取付けられ、タイヤの回転角度を計測するため、精度の高いタイヤ回転速度を計測できる。
【0019】
さらに、請求項4として、前記車輪速度計測手段は、前記タイヤのホイールに取付けられ、少なくともホイールに作用する上下力を計測する上下力計測センサを備え、前記荷重センサと前記上下力
計測センサの同期をとるため、前記タイヤが、その外周面に衝撃付与部材を備えることを特徴とする、請求項3に記載のスリップ率計測装置を提供する。
【0020】
プレートに衝撃付与部材が接する際の衝撃(衝撃荷重)を、荷重センサ及び上下力計測センサで検出できる。衝撃付与部材の衝撃のあった時間を2つ抜き出し、それぞれ計測開始時間、計測終了時間とし、車輪速度及びタイヤの接地速度を求めることができる。
【0021】
さらに、請求項5として、路面をタイヤが転動する際のタイヤ荷重重心の軌跡を計測し、対地速度を算出する対地速度計測ステップと、前記タイヤ転動の際のタイヤ荷重重心の軌跡の計測と同時に行われ、前記タイヤの車輪速度を計測する車輪速度計測ステップと、前記対地速度計測ステップと、前記車輪速度計測ステップで得られたデータから、スリップ率を算出する解析ステップとを備えることを特徴とするスリップ率計測方法を提供する。
【0022】
実際にタイヤを転動させた際のタイヤの対地速度を、タイヤ荷重重心の軌跡から算出することができる。
【0023】
さらに、請求項6として、前記車輪速度計測ステップは、前記タイヤに衝撃付与部材が2以上取り付けられ、前記衝撃付与部材が前記路面に接した時間、及びタイヤ上での衝撃付与部材同士の周方向距離から車輪速度を算出することを特徴とする、請求項5に記載の
スリップ率計測方法を提供する。
【0024】
衝撃付与部材を利用することで、車輪速度を算出できる。
【0025】
さらに、請求項7として、前記車輪速度計測ステップは、前記タイヤの回転角度を計測することにより車輪速度を求めることを特徴とする請求項5に記載の
スリップ率計測方法を提供する。
【0026】
この方法によって、精度の高いタイヤ回転速度が計測できる。
【0027】
さらに、請求項8として、前記タイヤに衝撃付与部材を取り付け、前記衝撃付与部材が前記路面に与える衝撃により、前記対地速度計測ステップ及び、前記車輪速度計測ステップのデータの同期をとることを特徴とする請求項5に記載のスリップ率計測方法を提供する。
【0028】
衝撃付与部材を利用して、データの同期をとることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、タイヤの荷重重心の軌跡から、実際に転動しているタイヤの対地速度を求めることができる。タイヤ荷重重心の軌跡がわかるため、前方へブレなく直進している場合だけでなく、横方向へ移動している場合や曲がった場合においても、時間軸でタイヤ荷重重心の軌跡を追うことで対地速度を精度良く求めることができ、精度の高いスリップ率を得ることができる。プレートの上をタイヤが転動するだけでよいので、比較的容易に、スリップ率を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の実施形態に係るタイヤのスリップ率計測装置の概略を示す概略図
【
図2】プレートセンサユニットセンサの概略構成を示す斜視図
【
図3】プレートセンサユニットを路面に埋め込んだ状態を示す縦断面図
【
図5】スリップ率計測装置の構成を模式的に示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係るスリップ率計測装置及び方法の好ましい実施形態を図面に従って説明する。
【0032】
図1は、本発明の実施形態に係るスリップ率計測装置の概略を示す概略図である。
【0033】
図1に示すように、符号2はスリップ率計測装置を示し、符号22は、被計測体のタイヤ12を転動させる路面である。スリップ率計測装置2は、タイヤの荷重等の計測が行われるプレートセンサユニット10、タイヤ12に取付けられるピン6、タイヤのホイールに取付けられ、タイヤの車輪速度等を計測するホイールセンサユニット30、各計測センサの制御や演算等を行う制御装置24から構成される。制御装置24は、表示部26を備える。プレートセンサユニット10は、路面22に埋設され、タイヤ12が転動する位置に配置されている。
【0034】
図2は、プレートセンサユニット10の概略構成を示す斜視図である。プレートセンサユニット10は、プレート14に係る荷重を計測する。
図2に示すように、プレートセンサユニット10は、主として、プレート14、荷重センサ16、ベース20で構成されている。プレート14及びベース20は、略同じ大きさの矩形状に成形されている。プレート14とベース20は上下に間隔をあけて配置されており、その間の四隅には、それぞれ荷重センサ16が配置されている。荷重センサ16は、プレート14に作用する荷重を計測するセンサであり、その構成は特に限定するものではないが、例えばロードセルが用いられる。ロードセルの場合、起歪体の固定部がベース20に固定され、起歪体の可動部がプレート14に固定されるとともに、起歪体の変形部位に張り付けられた歪ゲージによってプレート14に作用する荷重が検出される。各荷重センサ16は制御装置24に接続されている。
【0035】
本形態では荷重センサ16を四個設けたが、これに限定されるものではなく、少なくとも三個以上であって、五個以上であってもよい。
【0036】
プレート14に作用する荷重を少なくとも三か所以上で計測するため、タイヤ12がプレート14を転動する際の、プレート14にかかるタイヤ荷重の荷重重心位置、即ち、タイヤ荷重重心Gを求めることができる。
【0037】
これによって、時間軸でのタイヤ荷重重心の軌跡GTが算出でき、タイヤ12がプレート14を転動した際の対地速度を求めることができる。
【0038】
図3は、プレートセンサユニット10を路面に埋め込んだ状態を示す縦断面図である。タイヤ12がプレートセンサユニット10上を転動している状態を示す。
【0039】
図3に示すように、プレートセンサユニット10は、路面22の凹部22Aに配置される。路面22の凹部22Aは、プレート14よりも僅かに大きく形成されており、プレート14が凹部22Aに接触しないようになっている。また、凹部22Aの深さは、プレートセンサユニット10の高さに一致するようになっており、プレート14の上面と路面22が面一となっている。このためタイヤ12は、路面22からプレート14上にスムーズに乗り移ることができる。タイヤ12がプレート14に乗り移ることによって、その荷重が荷重センサ16によって計測される。
【0040】
また、荷重センサ16は、タイヤ12に取付けられたピン6がプレート14に接した時に、その衝撃荷重を計測する。これによりピン6がプレート14に接した時を知ることができる。タイヤの荷重とピン6の衝撃荷重は同時に計測可能である。
【0041】
タイヤ12には、衝撃付与部材として、ピン6が二個取り付けられる。衝撃付与部材とは、タイヤ12の外周面に取付けられ、タイヤ12がプレート14に接した際に、荷重センサ16が荷重伝達媒体を介して作用する荷重(衝撃荷重)を計測できるものであり、例えば、タイヤ12の外周面から突き出して装着する硬い金属製のピンの突起物などである。 具体的には、トレッドにスパイクピンを打ち込む、溝にスパイクピンを植え付ける、金属やプラスチックやシリコンなどの突起をトレッドに打ち込む又は接着剤で貼り付ける、金属やプラスチックやシリコンなどの形成物を溝に植え付ける、画鋲・釘・ネジ・杭を打ち込む、ウレタンスプレーを吹き付けて突起を作る、チェーンを巻く、などが考えられる。
【0042】
荷重伝達媒体は、通常時にタイヤの外周面から突出している突起物に限られるものではない。例えば、硬い金属製のピン等が、タイヤ12のトレッドに埋め込まれ、上面がタイヤ12外周面と面一であっても、タイヤより硬いため、タイヤ12がプレート14に接した際に、タイヤ12がプレート14に押され変形しても、ピン自体は変形せず、プレート14に対して強い荷重を与えるなど、タイヤ12がプレート14に接した際に、タイヤ12の荷重とは異なる荷重を与え、それを荷重センサ16が計測できるものであればよい。
【0043】
本実施形態では、衝撃付与部材として、金属製のピン6をタイヤ外周面から突出するように取り付けた。ピン6が、タイヤ12に取付けられ、タイヤ12がプレート14上を転動した際、ピン6が、周辺部よりも高い荷重をプレート14に与えるため、ピン6が接した時を荷重センサ16で計測できる。
【0044】
ピン6は、タイヤ12がプレートを転動する際、プレート14に荷重伝達媒体が接する周方向に離して取り付ける。本実施形態では荷重伝達媒体は二個取り付けたが、一個でもよく、三個以上であってもよい。
【0045】
図4は、ホイールセンサユニット30の分解斜視図であり、一部を切り欠いて示している。
図4に示すように、ホイールセンサユニット30は、タイヤ12のホイール15に加わる六分力を計測する装置であり、本体32、リム取付枠34、ハブ取付枠36、ロータリートレランス38、アンプユニット39で構成される。六分力とは、上下、前後、左右の直交三軸で、それぞれの軸方向にかかるトルク及びそれぞれの軸の回転方向にかかるトルクをいう。
【0046】
リム取付枠34は、リング状に形成されており、ホイール15のリム15Aに固定される。ハブ取付枠36はリム取付枠34よりも小さい径のリング状に形成されており、ホイール15のハブ15Bに固定される。本体32は円盤状形成されており、円板状に形成されており、リム取付枠34に固定される。即ち、本体32は、リム取付枠34を介してホイール15のリム15Aに固定され、ハブ取付枠36を介してホイールのハブ15Bに固定される。
【0047】
本体32には、複数ヶ所に歪みセンサ(不図示)が多数貼り付けられている。この多数の歪みセンサは、直交三軸方向のトルク値及びその回転方向のトルク値を計測できるように形成されている。
【0048】
ロータリートレランス38には、本体32に回転自在に取り付けられており、本体32がタイヤ12とともに回転した場合であっても、ロータリートレランス38は回転しないように構成されている。また、ロータリートレランス38は、エンコーダを内蔵しており、これによりタイヤの回転角度を計測する。ロータリートレランス38は、不図示の無線通信装置に接続されている。歪みセンサの計測データやエンコーダの回転角度のデータは、アンプユニット39で増幅され、無線通信装置を通して(例えばCAN通信など)によりリアルタイムで制御装置24へ送信される。
【0049】
図5は、プレートセンサユニット10、ホイールセンサユニット30、及び制御装置24の構成を模式的に示すブロック図である。各荷重センサ16、及びホイールセンサユニット30は制御装置24に接続されている。
【0050】
制御装置24は、アンプ、AD変換器、演算回路、メモリ等を内部に備えており、荷重センサの信号やホイールセンサユニット30の歪みセンサの信号を増幅してAD変換し、各種の演算処理を行い、それらのデータを記録できるようになっている。演算処理としては、例えば、ホイールセンサユニット30の歪みセンサの信号に基づいて、タイヤ12の車輪速度を算出したり、荷重センサ16の信号に基づいてタイヤ荷重重心G及びタイヤ荷重重心の軌跡GTから対地速度を算出したりするようになっている。最終的にはこれらのデータから、スリップ率が算出される。
【0051】
制御装置24は表示部26を備え、表示部26に各種の情報が表示される。横軸に時間を設定したときのタイヤ12の車輪速度を表示したり、プレート14の平面図を表示し、タイヤ荷重重心の軌跡GTを表示したりすることもできる。また、記憶している過去の試験結果を呼び出して、新しい試験結果を同時に表示することもできる。
【0052】
次に、上記の如くに構成されたスリップ率計測装置2を用いたタイヤのスリップ率計測方法の好適な実施形態について、説明する。
【0053】
ピン6をタイヤ12に取り付ける。ピン6は二つ取り付け、タイヤが転動した際、二つともプレート14に接するよう、周方向に離して取り付ける。タイヤ12のホイール15には、ホイールセンサユニット30を取り付ける。
【0054】
次に、ピン6及びホイールセンサユニット30が取り付けられたタイヤ12を、プレートセンサユニット10が埋設された路面22上で転動させる。荷重センサ16が、タイヤ12がプレート14上に接した際はタイヤの荷重を計測し、ピン6がプレート14に接した際はその衝撃を検知する。また、ホイールセンサユニット30は、タイヤ転動の際のタイヤ回転角度を計測し、ピン6がプレート14に接した際はその衝撃を上下力として検知する。これらは全て同時に計測が可能である。全ての計測データは、制御装置24へ送られ、記憶される。
【0055】
次に、スリップ率を算出する。スリップ率算出にはタイヤの対地速度と車輪速度が必要となる。
【0056】
まず、対地速度を算出する。上記荷重センサの計測データから、対地速度を算出する。3以上の荷重センサ16でタイヤ荷重が計測されたため、タイヤ荷重重心Gが演算できる。ピン6が接した時のタイヤ荷重重心GP、及びピン6がタイヤ荷重重心の軌跡GTも算出し、計測した時間と合わせて、対地速度を算出する。
【0057】
図6はタイヤ荷重重心の軌跡GTの一例を表示した図である。符号L1は、一つ目のピン6Aがプレート14に接した時のタイヤ荷重重心GPAから、二つ目のピン6Bがプレート14に接した時のタイヤ荷重重心GPBまでの距離である。ピン6A、ピン6Bが接した時間を、それぞれ計測開始時間、計測終了時間として、二つの時間と距離L1から、対地速度を算出する。
【0058】
車輪速度を算出する。タイヤ12に取り付けられたホイールセンサユニット30によって、タイヤの軸回りの回転角度が計測される。これから回転速度が算出され、実質転動半径と合わせて車輪速度が算出される。
【0059】
ホイールセンサユニット30は、ホイールにかかる上下力を計測できるため、ピン6がプレート14に接した際の衝撃を、上下方向の荷重(衝撃荷重)として検出できる。対地速度と同様、一つ目のピン6Aがプレート14に接した時を計測開始時間、二つ目のピン6Bがプレート14に接した時を計測終了時間として、この間の車輪速度を算出する。
【0060】
上記実施形態のスリップ率計測装置及び方法の効果について説明する。
【0061】
対地速度と車輪速度から、タイヤ12が実際に転動した状態でのスリップ率を求めることができる。タイヤ荷重重心の軌跡GTから、実際に転動しているタイヤの対地速度を求めることができる。また、タイヤ荷重重心の軌跡GTがわかるため、前方へブレなく直進している場合だけでなく、横方向へ移動している場合や曲がった場合においても、時間軸でタイヤ荷重重心の軌跡GTを追うことで対地速度を精度良く求めることができ、精度の高いスリップ率を得ることができる。プレート14の上をタイヤ12が転動するだけでよいので、比較的容易に、スリップ率を求めることができる。
【0062】
ホイールセンサユニット30を用いて速度を計測しているため、精度良く車輪速度を求めることができる。ピン6を用いることで、ホイールセンサユニット30及び荷重センサ16で、同じ衝撃荷重を同時に計測でき、二つの計測データの同期を取ることで、計測の信頼性が向上する。
【0063】
スリップ率計測装置の構成は、上述した実施形態に限定されるものではなく、様々な態様が可能である。例えば、本実施形態では、車輪速度計測のため、このホイールセンサユニット30を用いてタイヤ12の回転角度を計測したが、タイヤ12の車輪速度又は回転速度(回転数)を計測するセンサであればよく、たとえばスピードメータや加速度計を用いてもよい。
【0064】
あるいは、車輪速度計測に、ピン6を用いてもよい。
図7は、タイヤ12上のピン6の位置を示す斜視図であり、
図6と対となる。符号L3は、一つ目のピン6Aから二つ目のピン6Bまでの周方向距離である。プレートセンサユニット10にて、ピン6A及びピン6Bがプレート14に接した時を計測しているので、ピン6A及びピン6Bが接した時間と、距離L3により、車輪速度を求めることができる。この場合、車輪速度を計測するセンサとホイールセンサユニット30のデータを同期させる必要がなくなる。
【0065】
また、プレートセンサユニット10にさらに3方向の分力を高精度で計測する接地力センサを組み込み、タイヤ12がこのセンサ上を通過の際のタイヤ12の接地面の3分力の分布を計測することで、タイヤ12の接地力、あるいは接地力に影響を与えるトレッドパターンと、スリップ率との関係を確認することが可能である。
【0066】
本実施形態では、ピン6を二個取り付け、ピン6がプレート14に接した時を、それぞれ、計測開始時刻、計測終了時刻としたが、ピン6を使用せず、タイムスタンプ等を利用してセンサ同士の同期を取り、タイヤ12がプレート14に接した任意の時間を開始時刻、終了時刻として、対地速度及び車輪速度を求めることもできる。
【0067】
本実施形態ではタイヤ単体試験であったが、車両を用いても同様の試験を行うことができる。その際、車両のタイヤ位置に合わせ、複数のプレートセンサユニット10を設置することもできる。この場合、スリップ率を計測するタイヤ12ごとにホイールセンサユニット30を取り付け、各計測データを制御装置24に送り、制御装置24でタイヤ12ごとのスリップ率を同期処理して表示部26で表示すると好ましい。
【符号の説明】
【0068】
2 スリップ率計測装置
6 ピン
6A (一つ目の)ピン
6B (二つ目の)ピン
10 プレートセンサユニット
12 タイヤ
14 プレート
15 ホイール
15A (ホイールの)リム
15B (ホールの)ハブ
16 荷重センサ
20 ベース
22 路面
22A (路面の)凹部
24 制御装置
26 表示装置
30 ホイールセンサユニット
32 本体
34 リム取付枠
36 ハブ取付枠
38 ロータリートレランス
39 アンプユニット
G タイヤ荷重重心
GP (ピンがプレートに接した時の)タイヤ荷重重心
GPA (ピン6Aがプレートに接した時の)タイヤ荷重重心
GPB (ピン6Bがプレートに接した時の)タイヤ荷重重心
GT タイヤ荷重重心の軌跡
L1 (GPAからGPBまでの)距離
L3 (6Aから6Bまでのタイヤ周方向の)距離