【文献】
株式会社GSIクレオス化成品部,ECOCERT認証原料シリーズ,FRAGRANCE JOURNAL,2009年 8月
【文献】
Velio Bocci, et al.,Ozonation of Human Blood Induces a Remarkable Upregulation of Heme Oxygenase−1 and Heat Stress Protein−70,Mediators of Inflammation,2007年,pp.1−6
【文献】
Masaru Sagai, Velio Bocci,Mechanisms of Action Involved in Ozone Therapy: Is healing induced via a mild oxidative stress?,Medical Gas Research,2011年,pp.1−18
【文献】
塩田 剛太郎 他、オゾンジェルの化粧品への応用と安全性について、第15回日本オゾン協会年次研究講演会講演集、2005年9月12日、第117〜120頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
細胞、組織あるいは固体においては、一般的な生理的温度より3℃以上高い温度に晒されたときに、生体の防御システムの一つとして、特異的タンパク質の発現(産生)が誘導されることが知られている。このタンパク質は、SDS−PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法)によって測定した場合、分子量範囲10〜110KDaを有する一群のタンパク質として存在しており、ヒートショックタンパク質(heat shock proteins、以下、「HSP」という)と呼ばれている。
【0003】
HSPは、その分子量の相違により幾つかのファミリーが形成されており、例えば、HSP90ファミリー(分子量:90kDa以上110kDa以下)、HSP70ファミリー(分子量:70kDa以上80kDa未満)、HSP60ファミリー(分子量:60kDa以上70kDa未満)、及び低分子量HSPファミリー(分子量:60kDa未満)のように分類されている。
【0004】
HSPの機能は多岐に亘っており、多くの研究者が様々な視点から研究を進めている。
これまで本発明者らは、HSPの発現誘導によって、抗細胞死作用、抗炎症作用、細胞保護作用および胃粘膜保護作用などを得ることができること(特許文献1)、さらには、細胞を保護するHSPの損傷によって生じる脳梗塞やアルツハイマー病などの脳疾患や潰瘍性大腸炎に対して有効に作用すること(特許文献2)などを明らかにしてきた。
【0005】
さらに、HSP70に関し、HSP70の発現によって、紫外線照射による皮膚のダメージが予防されること(非特許文献1)、紫外線によるしわ形成が抑制されること(非特許文献2)、メラニン産生が抑制されること(特許文献1および2、非特許文献3)などを明らかにしてきた。さらに、HSP70の発現誘導剤について検討を行い(特許文献1〜4、非特許文献4および5)、かかる発現誘導剤によって、皮膚美白効果(特許文献1)、シミの予防・改善作用(特許文献3)が得られることを明らかにしてきた。
【0006】
一方、高濃度のグリセリンにオゾンを溶存させて製造したオゾン溶存グリセリンが、殺菌効果や創傷治癒効果(特許文献5および6)、保湿作用(皮膚の水分蒸散量の低減効果)、シミの低減、たるみの改善、抗酸化機能の亢進など(特許文献7および8)の作用を有することを明らかにしてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−190200号公報
【特許文献2】特開2013−71902号公報
【特許文献3】特開2013−71901号公報
【特許文献4】特開2008−127296号公報
【特許文献5】特開2005−232094号公報
【特許文献6】特開2011−42689号公報
【特許文献7】特開2007−332078号公報
【特許文献8】特開2009−1575号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Matsuda, M. et al., “Prevention of UVB radiation-induced epidermal damage by expression of heat shock protein 70”, J. Biol. Chem. 285, 5848-5858 (2010).
【非特許文献2】Matsuda, M. et al., “Suppression of UV-induced wrinkle formation by induction of HSP70 expression in mice”, J. Invest. Dermatol. 133, 919-928 (2013).
【非特許文献3】Hoshino, T. et al., “Suppression of melanin production by expression of HSP70”, J. Biol. Chem. 285, 13254-13263 (2010).
【非特許文献4】Yamashita, Y. et al., “HSP70 inducers from Chinese herbs and their effect on melanin production”, Experimental Dermatology, 19, e340-e342 (2010)
【非特許文献5】Yamashita, Y. et al., “Purification and characterization of HSP-inducers from Eupatorium lindleyanum”, Biochemical Pharmacology 83, 909-922 (2012).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
HSP70の発現誘導剤に関する研究は、主として生薬由来の抽出物など、植物を中心に進められてきたが、本発明者らは、独自の研究、調査に基づき、HSP70の更に期待される有用性と見込まれる需要に着目すべきと発想する中で、より高性能な発現誘導剤を得ることが急務であるとの認識を抱くに至った。すなわち、本発明の課題は、従来のHSP70の発現誘導剤よりもさらに効果的でまた経済性にも優れた新しい発現誘導剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、かかる課題を解決するために鋭意研究を重ねる中で、オゾン溶存グリセリンが極めて効果的にHSP70を発現誘導することを見出し、さらに研究を進め、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、以下に関する。
【0011】
[1]オゾン溶存グリセリンを含む、ヒートショックタンパク質(HSP)の発現誘導剤。
[2]HSPが、HSP70ファミリーに属する、前記[1]に記載の発現誘導剤。
[3]オゾン溶存グリセリンのオゾン濃度が、10ppm〜10000ppmである、前記[1]または[2]に記載の発現誘導剤。
[4]前記[1]〜[3]のいずれか一項に記載の発現誘導剤を含有する、皮膚または粘膜に用いる外用剤。
[5]ローション剤、乳剤、ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤または貼付剤である、前記[4]に記載の外用剤。
[6]医薬用または化粧用である、前記[4]または[5]に記載の外用剤。
[7]抗シワ剤である、前記[4]〜[6]のいずれか一項に記載の外用剤。
[8]美白剤である、前記[4]〜[6]のいずれか一項に記載の外用剤。
[9]紫外線保護剤である、前記[4]〜[6]のいずれか一項に記載の外用剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明のHSPの発現誘導剤は、極めて効果的にHSPの発現を誘導することができる。とくにHSP70の発現能は高く、400種類の生薬からスクリーニングして得られた従来の発現誘導剤では対照に比べて約2倍程度の発現能であるのに対し、本発明の発現誘導剤では対照に比べて約3〜3.5倍もの発現能を示した。このように高い発現能を示すことから、HSPの発現誘導によって得られる、抗細胞死作用、抗炎症作用、細胞保護作用、胃粘膜保護作用を利用する医薬、さらに脳梗塞やアルツハイマー病などの脳疾患や潰瘍性大腸炎の治療薬などに利用することができる。
【0013】
また本発明のHSPの発現誘導剤は、HSP70の高い発現能によって、紫外線照射による皮膚のダメージの予防および治癒、紫外線によるしわ形成の抑制、メラニン産生の抑制、皮膚美白効果、シミの予防・改善効果などを奏する医薬または化粧料として利用することができる。
さらに本発明のHSPの発現誘導剤は、オゾン溶存グリセリンを有効成分とすることで、従来の生薬からの抽出物を有効成分とする発現誘導剤に比べて、簡便な製造方法によって製造することができ、量産性および経済性に優れ、需要者に安定的に提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のヒートショックタンパク質(HSP)の発現誘導剤は、オゾン溶存グリセリンを含む。
本発明に用いるオゾン溶存グリセリンは、高濃度のグリセリン溶液とオゾン濃度の高い気体とを気液接触させることで製造することができる。
高濃度のグリセリン溶液としては、グリセリン濃度75%以上のグリセリン溶液を用いることができるが、日本薬局方品の84〜87重量%のグリセリンが好ましく、日本薬局方品のグリセリン濃度98%以上の濃グリセリンを用いることがより好ましい。また、濃度98.5%以上の精製グリセリンを用いることがさらに好ましい。グリセリン濃度が高いと、オゾンをより高濃度に溶存させることができる。
【0016】
オゾン濃度の高い気体は、例えば酸素ガスに無声放電することでオゾンを生成するオゾン発生装置で製造することができる。酸素ガスを用いる場合には、医療用の酸素ボンベを用いてもよいし、また酸素発生装置で製造された酸素ガスを用いてもよい。
高濃度のグリセリン溶液とオゾン濃度の高い気体とを気液接触させる方法としては、例えばタンクに高濃度(例えば98%以上)のグリセリン溶液を入れ、散気管を用いてタンク内にオゾン濃度の高い気体を微細な気泡として放出する方法がある。例えば、オゾン濃度80g/kL(約37000ppm)の気体を濃グリセリン中に約7日間曝気することにより、オゾン濃度約3000ppmのオゾン溶存グリセリン溶液を製造することができる。曝気をより長時間行うことにより、オゾン濃度がより高濃度のオゾン溶存グリセリン溶液を製造することができる。
【0017】
本発明の発現誘導剤が発現誘導するHSPは、典型的には、HSP70ファミリーに属する。また本発明の発現誘導剤は、HSP32(HO−1;ヘムオキシゲナーゼ(heme oxygenase)−1)もまた発現誘導することができる。
【0018】
本発明に用いるオゾン溶存グリセリンのオゾン濃度は、HSP70を発現誘導する目的に応じて、適宜、調整することができ、とくに限定されない。オゾン溶存グリセリンのオゾン濃度は、典型的には、10ppm〜10000ppmであり、好ましくは、500ppm〜10000ppmである。
【0019】
本発明のHSP発現誘導剤は、グリセリンを投与することのできる種々の剤形とすることができる。例えば、内服薬、経口投与薬などとすることも可能であるが、典型的には、皮膚または粘膜に用いる外用剤とすることができる。本発明の外用剤の態様は、特に限定されないが、ローション剤、乳剤、ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、パック剤、テープ剤または貼付剤等とすることができる。
本発明の外用剤は、医薬、医薬部外品または化粧料として、好ましくは、医薬用または化粧用として用いることができる。医薬部外品用または化粧用として用いる場合は、皮膚外用剤が好ましい。
本発明の外用剤のうち医薬または医薬部外品として用いられるものは、オゾン溶存グリセリン溶液に加えて各種医薬成分または医薬部外品に用いられる成分を含んでもよい。
【0020】
また、本発明の外用剤のうち化粧料として用いられるものは、オゾン溶存グリセリン溶液に加えて、人の身体に清潔、美化、魅力を増し、容貌を変え、または皮膚、粘膜もしくは毛髪を健やかに保つための成分を含んでもよい。
本発明のHSP発現誘導剤を化粧料とする場合、具体的には、化粧水、乳液、クリーム、美容液、パック等の皮膚化粧料、クレンジング、洗顔料、紫外線防止剤、メイクアップベースローション、メイクアップベースクリーム等の下地化粧料、乳液剤、油性、固形状等の各剤型のファンデーション、アイカラー、チークカラー等のメイクアップ化粧料、ハンドクリーム、レッグクリーム、ネッククリーム、ボディローション等の身体用化粧料等とすることができる。
【0021】
本発明の発現誘導剤を含む医薬は、抗細胞死作用、抗炎症作用、細胞保護作用、胃粘膜保護作用を利用する医薬、さらに脳梗塞やアルツハイマー病などの脳疾患や潰瘍性大腸炎の治療薬などに利用することができる。
本発明の外用剤はさらに、紫外線照射による皮膚のダメージの予防および治癒、紫外線によるしわ形成の抑制、メラニン産生の抑制、皮膚美白効果、シミの予防・改善効果などを奏する医薬または化粧料として利用することができる。
したがって、本発明の外用剤は、抗シワ剤、美白剤(抗シミ剤)、皮膚を紫外線から保護する紫外線保護剤などとして用いることができる。
【0022】
本発明の外用剤におけるグリセリンの濃度は通常20%以下とすることが好ましい。グリセリンの濃度は20%以下とすることによって、グリセリンの皮膚または粘膜に対する刺激性を抑制することができる。したがって、オゾン溶存グリセリン溶液に適当な希釈剤を混合して希釈することができる。希釈剤としては、オゾンにより酸敗しにくいものが適しており、水、ポリエチレングリコール等が好適である。
【0023】
一方、グリセリン濃度を高濃度の50%以上にすることによって、温感効果を発揮させることができ、また、一定時間後に洗い流すことでグリセリンが高濃度であることの刺激性を回避することができる。さらに、洗い流すことによって、オゾンによる酸化反応を停止させることもできる。この際、抗酸化物質やアルカリ水を用いると、オゾンによる酸化反応の停止がより迅速に行われるため好ましい。とくに、抗酸化物質を用いれば、皮膚において消費された抗酸化物質の補給を行うことができる。事前にビタミンCやビタミンEを塗布した場合、本発明の外用剤を塗布した場合には、オゾンが分解されてしまうが、逆に、本発明の外用剤を使用した後に抗酸化物質を投与すれば、本発明の外用剤の所定の効果と合わせて、オゾンの反応を停止させ、失われた抗酸化物質を補給できるといった効果が奏される。
【0024】
水を希釈剤とする場合は、純水または超純水を使用することが好ましい。純水または超純水を用いることによって、オゾンに酸化されて不純物による皮膚または粘膜に対する刺激や効果発現の低下の原因となり得る酸化物(過酸化物)の生成を抑制することができる。水としては、pHが酸性側である水、すなわちpH7未満の酸性水を用いるとさらに好ましい。
【0025】
希釈剤としては、ポリエチレングリコールを用いてもよい。ポリエチレングリコールは、分子量により液体、固体のものがあるところ、本発明においては、いずれも用いることができる。2種類以上のポリエチレングリコールを、使用時のテクスチャーに合わせて、それらの混合比率を変えることによって、より使いやすいテクスチャーとすることができる。したがって、ポリエチレングリコールの種類はとくに限定されないが、ポリエチレングリコール450およびポリエチレングリコール65Mが好ましく、これらを組み合わせたものはより好ましい。
【0026】
本発明の外用剤に好適に用いられる追加の成分として、水、少なくとも1種の、保湿剤、増粘剤、防腐剤が挙げられる。これらの追加の成分を全て含む本発明の外用剤は好ましい。
【0027】
(水)
本発明の外用剤において、水は、例えば保湿やグリセリンの希釈のために用いられ、その種類はとくに限定されない。水として酸性水を用いると、オゾンの保存がより好適に行われるため好ましい。H型陽イオン交換樹脂を用いて調製した酸性の軟水を用いると、アストリンゼント効果および収斂による毛穴の開き改善効果も奏することができ、とくに好ましい。
水として、純水または超純水も上記のとおり好ましい。したがって、酸性純水は、とくに好ましい。また、水を電気分解して処理した中性もしくは酸性の水を用いることによって、肌への浸透をさらに向上せしめることが可能である。さらに、酸性の水においては、オゾンの分解が抑制される点においても好ましい。
【0028】
水の外用剤における配合量は限定されず、グリセリンに起因する本発明の外用剤の粘度を緩和や保湿を目的として、外用剤全体の0〜99%の範囲で適宜改変することができる。
【0029】
(保湿剤)
本発明の外用剤において、保湿剤は、皮膚や粘膜の保湿に用いられ、その種類はとくに限定されない。保湿剤としては、保湿作用を有するものであれば何れも使用し得る。これらの成分としては、多価アルコール類、PCA−Na(ピロリドンカルボン酸ナトリウム)をはじめとしたNMF(天然保湿因子)、ヒアルロン酸やアセチルヒアルロン酸Naやその誘導体またはその塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)、多糖類、高分子剤(増粘剤)等を挙げることができる。保湿剤の外用剤における配合量は、好ましくは外用剤全体の0.1〜1%である。
【0030】
保湿剤としては多価アルコール類、PCA−NaをはじめとしたNMF(天然保湿因子)およびヒアルロン酸ナトリウム等のヒアルロン酸誘導体やその塩が好ましい。多価アルコール類としてはポリエチレングリコールが好ましく、その1種もしくは2種以上を組み合わせて用いることもできる。ポリエチレングリコールとしては、ポリエチレングリコール450およびポリエチレングリコール65Mが好ましく、これらを組み合わせたものはより好ましい。
【0031】
(増粘剤)
本発明の外用剤において、増粘剤は、剤の粘度の調整に用いられ、その種類はとくに限定されない。増粘剤としては、水溶性または水膨潤性高分子化合物が好ましく、キサンタンガム、ゼラチン、ペクチン、アガロース、アルギン酸塩、デキストリン、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、無水マレイン酸共重合体、ポリアクリル酸及びその塩またはそれらの架橋体等の天然高分子若しくはその変性物または合成高分子若しくはその架橋体等が挙げられる。これらの高分子は単独で用いても、複数の高分子を組み合わせて用いてもよい。キサンタンガムが最も好ましい。
これらの増粘剤の外用剤全体に対する含量は、外用剤に適度な粘度を付与し得る限りとくに制限はないが、外用剤全体の0.1〜1%が好ましい。
【0032】
(防腐剤)
本発明の外用剤において、防腐剤は外用剤を清潔に保つために用いられ、その種類はとくに限定されない。防腐剤としては、フェノキシエタノール、パラオキシ安息香酸エステル(パラベン類)、安息香酸、サリチル酸及びその塩類、ソルビン酸及びその塩類、デヒドロ酢酸及びその塩類、クロルクレゾール、ヘキサクロロフェン、レゾルシン、パラオキシエノキサシン、塩酸シプロフロキサシン、ナリジクス、ノルフロキサシン、フレロキサシン、オフロキサシンが挙げられる。イソプロピルメチルフェノール、オルトフェニルフェノール、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、臭化アルキルイソキノリウム、トリクロロカルバニド、ハロカルバン、感光素201号、トリクロサン、グレープシードエキス、塩酸ベンザルコニウム、フェノール、チモールが挙げられる。フェノキシエタノールが最も好ましい。
これらの防腐剤の外用剤全体に対する含量は、外用剤を清潔に保てる限りとくに制限はないが、外用剤全体の0.01〜1%が好ましい。
【0033】
本発明の外用剤には、少なくとも1種の、界面活性剤、抗炎症剤およびセラミドまたはその前駆体も用いることができる。少なくとも1種の、界面活性剤、抗炎症剤およびセラミドまたはその前駆体を全て含む本発明の外用剤は好ましい。
【0034】
(界面活性剤)
界面活性剤は、各種成分の剤中における相互に混じり合わない物質を溶け込んだ状態にするために用いられ、その種類はとくに限定されない。
界面活性剤としては、ラウロイル硫酸ナトリウム、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン等の非イオン界面活性剤、アルキルサルフェート塩、ノルマルドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の陰イオン界面活性剤、ポリオキシエチレンドデシルモノメチルアンモニウムクロライド等の陽イオン界面活性剤が挙げられる。ラウロイル硫酸ナトリウムが最も好ましい。
これらの界面活性剤の外用剤全体に対する含量は、各成分に十分な溶解性を付与し得る限りとくに制限はない。
【0035】
(抗炎症剤)
抗炎症剤は、皮膚または粘膜の炎症をより効果的に抑えるために用いられ、その種類はとくに限定されない。
抗炎症剤としては、各種ステロイド系抗炎症剤およびグリチルリチン酸またはその塩、アラントイン、オウゴンエキス等の非ステロイド系が挙げられる。これらのうち、グリチルリチン酸およびグリチルリチン酸2Kが好ましく、グリチルリチン酸2Kがとくに好ましい。
これらの抗炎症剤の外用剤全体に対する含量は、炎症を効果的に抑え得る限りとくに制限はない。
【0036】
(セラミドまたはその前駆体)
セラミドおよびその前駆体は、角質層の細胞と細胞の隙間を埋めてつなぎ合わせている脂質の約半分を占める主要な成分であり、豊富な水分を包接し、その水分が蒸発しないように働く一方で、外部からの刺激や細菌の進入を防ぐ作用を有する。
セラミドまたはその前駆体としては、セラミド1、セラミド2、セラミド3、セラミド6IIおよびフィトスフィンゴシン、コレステロール等が挙げられ、セラミド1、セラミド3、セラミド6IIおよびフィトスフィンゴシン、コレステロールを全て含むものが好ましい。
これらのセラミドまたはその前駆体の外用剤全体に対する含量は、保湿効果および/または抗菌効果を奏し得る限りとくに制限はない。
【0037】
本発明の外用剤には、オゾンを含まない処方の医薬、医薬部外品、化粧料によって、皮膚へのオゾンの酸化作用を低減もしくは停止を目的として、抗酸化物質・中和剤を併用することができる。この場合、オゾン溶存グリセリンから製造した本法記載の外用剤を使用した後で、抗酸化物質を投与することによって、所定の効果と合わせて、オゾンの反応を停止させ、失われた抗酸化物質を補給できるといった効果が奏されるため好ましい。
【0038】
抗酸化物質・中和剤は限定されないが、例えば以下のものが挙げられる:
・ビタミンC類、ビタミンE類、セレニウム等のビタミン類、
・フラボノイド等の植物由来物質、
・カロテノイド(αカロチン、βカロチン、γカロチン)、リコピン、キサントフィル等の植物由来の抗酸化物質(SOD様物質)、アスタキサンチン等
・フラボノイド、ユビキノン、サポニンなどのテルペン類やイノシトール、カテキン、タンニン、アントシアニン、イソフラボン、
・ぶどう種子、イチョウ葉、海岸松樹皮(ピクノジェノール)等の植物由来のポリフェノール類、
・グルタチオン、ジイソプロパノールアミン、ジエタノールアミン(DEA)、トリイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン(TEA)、フラーレン(C60)。
【0039】
上記抗酸化物質・中和剤のうち、ビタミンC類、ビタミンE類、ポリフェノール類、グルタチオンおよびフラーレンが好ましく、ビタミンC類、ビタミンE類、グルタチオンおよびフラーレンがとくに好ましい。
抗酸化物質・中和剤の外用剤全体に対する含量は、外用剤のpHを好適に保ち得る限りとくに制限はない。
【0040】
本発明の外用剤には、清涼化剤としてエタノールやアロマオイルも好適に用いることができる。アロマオイルとしては、ラベンダー、オレンジ、グレープフルーツ、サンダルウッド、イランイラン、ペパーミント、レモングラス、カモミール・ローマン、ローズ、ローズマリー等が挙げられ、ラベンダーオイルおよびローズオイルが好ましい。
これらの成分の本発明の外用剤中における安定性は、空気中や水中に比較して顕著により良好となる。したがって、エタノールやアロマオイルを含む本発明の外用剤は、これらの成分によるより長期の清涼効果を付与し得るため好ましい。
【0041】
エタノールまたはアロマオイルの外用剤全体に対する含量は、その所期の効果が奏される限りとくに制限はない。
本発明の外用剤には、皮膚または粘膜に受容可能な補助成分を含むことができる。かかる補助成分は、例えばEDTA等の安定剤、パラオキシ安息香酸エステル等であり、その量は本発明の外用剤の効果を損なわない量であれば限定されない。
【0042】
以下、本発明について、さらに詳細に実施例を用いて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0043】
[実施例1]オゾン溶存グリセリン(オゾンジェル)の調製
濃グリセリンとオゾンとを気液接触させ、オゾン溶存グリセリン溶液(オゾンジェル)を製造した。ここで、濃グリセリンとは、日本薬局方品の98%以上の濃度のグリセリンを意味する。
接触槽として、容量50Lのテフロン(登録商標)製タンクを用いた。タンクの底面に散気管を設置し、オゾンを微細な気泡としてタンク内に供給することができるようにした。オゾン発生装置には、90%以上の濃度の酸素を原料として毎時100gのオゾン発生能力を有する無声放電式オゾン発生装置を使用した。
タンクに22kgの濃グリセリンを入れ、オゾン発生装置に毎分20Lの酸素を送り込み、発生したオゾンを含む気体を散気管からタンク内に7日間放出し、終濃度3000ppmのオゾン濃度のオゾン溶存グリセリン溶液を得た。
使用目的に合わせ、適宜、水や希釈剤(例えば、ポリエチレングリコールなど)で希釈し、オゾン濃度を調整したオゾンジェルを得た。
【0044】
[実施例2]オゾンクリームの調製
予め、PEG450とPEG65Mとを混合し、該混合物にオゾン溶存グリセリン(オゾン濃度2000ppm)を投入し、ホモジナイザーによってゆっくりと攪拌し、オゾンクリームを得た。
【0045】
[実施例3]オゾンクリームによるHSP70誘導能の評価
8週齢雌のヘアレスマウスHOS:HR-1(株式会社星の試験動物飼育所より入手)の背部皮膚に、1mgのオゾンクリーム(オゾン濃度2000ppm)を塗布し、塗布から3時間後または6時間後に背部皮膚を採取した。
HSP70の発現をウェスタンブロット法により確認した。ローディングコントロールとして、アクチンの発現を確認した。ウェスタンブロット法は、下記の手順に準じて行った。
【0046】
<ウェスタンブロット法>
採取した背部皮膚を破砕し、Protease inhibitor Mix(以下、PI Mixという)を添加したRIPA緩衝液[50mM Tris-HCl (pH 7.2), 150mM NaCl, 1% NP-40, 1% Sodium, deoxycolate, 0.05% SDS]に懸濁し、遠心分離(15000rpm、4℃、10分間)し、上清をサンプルとして実験に用いた。
各サンプルのタンパク質量を、Bio-Rad protein assay kit(Bradford法:Bio Rad社)により求め、同量のタンパク質量に揃えた後、実験に使用した。
サンプルはポリアクリルアミドを用いてSDS−PAGEを行い、PVDF膜にトランスファーした。その後、1次抗体 (against HSP70(R&D system社、カタログ番号MAB1663)、Actin Antibody (I-19)(Santa Cruz Biotechnology, Inc.)、1:1000 dilution)、及び2次抗体で免疫ブロットし、SuperSignal WestDura(化学発光法:Pierce社)により目的のバンドをLAS-3000 mini を用いて検出した。
【0047】
本発明のオゾンクリームは、HSP70の発現を誘導することが明らかとなった(
図1)。具体的には、コントロール(無処理)と比較して、3時間後に約2倍以上、6時間後に約3.5倍以上にHSP70を発現誘導できた。かかる結果は、実験系が異なることから直接的な対比はできないものの、従来の生薬由来のHSP発現誘導剤の中でも優れているアルテミアエキスが、塗布後24時間でコントロールに対して約25%増、すなわち約1.25倍に止まることを勘案すると、極めて短時間で強い発現誘導ができたことを示しているといえる。
【0048】
したがって、本発明のHSP発現誘導剤は、医薬、医薬部外品または化粧料において、少量の配合量で効果的にHSP70の発現を誘導することができる。
さらに、本発明のオゾンクリームは、HO−1(HSP32)の発現も誘導することが明らかとなった(データ示さず)。したがって、本発明のHSP発現誘導剤は、HSP70とHSP32との発現を誘導することができる。