特許第6671844号(P6671844)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6671844赤ワイン抽出物及び赤ワイン抽出物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6671844
(24)【登録日】2020年3月6日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】赤ワイン抽出物及び赤ワイン抽出物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/87 20060101AFI20200316BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20200316BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20200316BHJP
   A61K 8/97 20170101ALI20200316BHJP
   A61K 31/05 20060101ALI20200316BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20200316BHJP
   A61P 5/50 20060101ALI20200316BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20200316BHJP
   A61Q 1/00 20060101ALI20200316BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20200316BHJP
   C12F 3/06 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
   A61K36/87
   A23L33/105
   A61K8/34
   A61K8/97
   A61K31/05
   A61P3/04
   A61P5/50
   A61P35/00
   A61Q1/00
   A61Q19/00
   C12F3/06
【請求項の数】4
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-11914(P2015-11914)
(22)【出願日】2015年1月26日
(65)【公開番号】特開2016-138042(P2016-138042A)
(43)【公開日】2016年8月4日
【審査請求日】2017年10月20日
【審判番号】不服2019-2639(P2019-2639/J1)
【審判請求日】2019年2月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】512233880
【氏名又は名称】株式会社アンチエイジング・プロ
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100157772
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 武孝
(72)【発明者】
【氏名】天野 弘毅
(72)【発明者】
【氏名】栗山 雄司
【合議体】
【審判長】 井上 典之
【審判官】 渡邊 吉喜
【審判官】 渕野 留香
(56)【参考文献】
【文献】 特表2001−503391(JP,A)
【文献】 特表2001−506579(JP,A)
【文献】 特開2008−239576(JP,A)
【文献】 特開昭56−144742(JP,A)
【文献】 特開2010−200651(JP,A)
【文献】 特開2007−76952(JP,A)
【文献】 特開2004−113189(JP,A)
【文献】 再公表特許第2012/121140(JP,A1)
【文献】 特開2012−136477(JP,A)
【文献】 赤ワインエキスR5試験成績書例 lot#1780040,Anti−aging pro corporation,2012年12月30日
【文献】 赤ワインエキスR5 技術資料,2012年12月 3日
【文献】 レスベラトロール含有「赤ワインエキスR5」,2017年12月27日,URL,http://a2−pro.com.80/suppliers/reseratrol
【文献】 葡萄豆知識 ワインの葡萄,2007年10月25日,URL,http://blog.livedoorjp/kenko_wine/archives/50856698.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K36/87,A61K31/05
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)CA/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤ワインの製造工程で使用された該使用後の渋み抜きカラムにエタノール濃度40〜80質量%の含水エタノール通液して、その溶出物を回収し、トランス体レスベラトロールを乾燥物換算で4質量%以上10質量%以下含有し、ε−ビニフェリンを乾燥物換算で前記トランス体レスベラトロールの10に対して0.8以上3以下含有する組成物を得ることを特徴とする赤ワイン抽出物の製造方法。
【請求項2】
前記赤ワインが南フランス産である請求項1記載の赤ワイン抽出物の製造方法。
【請求項3】
前記赤ワインのブドウの品種がカベルネ・ソーヴィニヨン、シラー、メルロー、グルナッシュ、又はサンソーである請求項1又は2記載の赤ワイン抽出物の製造方法。
【請求項4】
前記渋み抜きカラムの吸着剤が活性炭である請求項1〜3のいずれか1つに記載の赤ワイン抽出物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤ワイン抽出物及び赤ワイン抽出物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブドウや赤ワインなどに含まれるトランス体レスベラトロールは、例えば下記非特許文献1にガン化抑制効果、下記非特許文献2に老化抑制に寄与するサーチュイン蛋白質の活性化効果、下記非特許文献3に肝脂肪蓄積抑制効果、下記非特許文献4にインスリン感受性低下抑制効果などが報告されているように、生体への様々な有益な効果が期待されている。また、天然素材であることから、サプリメントや機能性食品、化粧品などに配合する素材として利用することが期待されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Jang M, et al.「Cancer chemopreventive activity of resveratrol, a natural product derived from grapes」Science. 1997 Jan 10;275(5297):218-20.
【非特許文献2】Konrad T. Howitz, et al.「Small molecule activators of sirtuins extend Saccharomyces cerevisiae lifespan」Nature 425,191-196 (11 September 2003)
【非特許文献3】Joseph A. Baur, et al. 「Resveratrol improves health and survival of mice on a high-calorie diet」Nature 444, 337-342 (16 November 2006)
【非特許文献4】Lagouge M, et al.「Resveratrol improves mitochondrial function and protects against metabolic disease by activating SIRT1 and PGC-1alpha」Cell 2006 Dec 15;127(6):1109-22.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ブドウなどの天然素材からトランス体レスベラトロールを高含量で含む抽出物を得ることは難しかった。また、レスベラトロールの二量体であり、有効性の劣るビニフェリンを副成分として多く含むことも問題であった。
【0005】
よって、本発明の目的は、トランス体レスベラトロールを高含量で含み、なお且つ、ビニフェリンの含有量の低減された抽出物を、ブドウからコスト安く得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明者らが鋭意研究した結果、赤ワインの渋み抜きカラムには、その使用後のカラムに意外にも豊富にレスベラトロールが吸着しており、それを溶出してトランス体レスベラトロールを得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の第1は、赤ワインの渋み抜きカラムより溶出して得られ、トランス体レスベラトロールを乾燥物換算で4質量%以上10質量%以下含有し、ビニフェリンを乾燥物換算で前記トランス体レスベラトロールの10に対して0.8以上3以下含有することを特徴とする赤ワイン抽出物を提供するものである。
【0008】
本発明の赤ワイン抽出物においては、前記赤ワインが南フランス産であることが好ましい。
【0009】
また、前記赤ワインのブドウの品種がカベルネ・ソーヴィニヨン、シラー、メルロー、グルナッシュ、又はサンソーであることが好ましい。
【0010】
また、前記渋み抜きカラムの吸着剤がポリビニルピロリドン、活性炭、及びシリカから選ばれた少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0011】
一方、本発明の第2は、赤ワインを渋み抜きカラムに通液し、該カラムに含水有機溶媒を通液して、その溶出物を回収することを特徴とする赤ワイン抽出物の製造方法を提供するものである。
【0012】
本発明の赤ワイン抽出物の製造方法においては、前記赤ワインが南フランス産であることが好ましい。
【0013】
また、前記赤ワインのブドウの品種がカベルネ・ソーヴィニヨン、シラー、メルロー、グルナッシュ、又はサンソーであることが好ましい。
【0014】
また、前記渋み抜きカラムの吸着剤がポリビニルピロリドン、活性炭、及びシリカから選ばれた少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0015】
また、前記含水有機溶媒が、含水量5〜80w/w%の含水エタノールであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、トランス体レスベラトロールを高含量で含み、なお且つ、ビニフェリンの含有量の低減された抽出物を、ブドウからコスト安く得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、赤ワインの渋み抜きカラムを活用して有用物質を得るという発想に基づくものである。すなわち、赤ワインには、タンニンなどによる渋みが含まれることから、その成分を吸着する吸着剤で構成したカラムに通して渋み抜きを行うことがあるが、従来、使用後のカラムは特に活用されることはなかった。これを活用してトランス体レスベラトロールを豊富に含有する赤ワイン抽出物を得るものである。
【0018】
赤ワインとしては、黒ブドウや赤ブドウを原料にしてアルコール発酵させるなど、通常の醸造方法で得られたものであればよく、特に制限はない。ブドウの品種としては、例えばカベルネ・ソーヴィニヨン、シラー、メルロー、グルナッシュ、サンソーなどを好ましく例示することができる。赤ワインは果実をその果皮や種子ごと原料にしているので、白ワインに比べ、レスベラトロールを含むポリフェノール類の含有量が高い。特に好ましくは、南フランス産の赤ワインであり、更に好ましくはローヌ地方からカルカソンヌ地方にわたる地域で生産された赤ワインである。これら地域で生産された赤ワインは、他の地域に比べ、トランス体レスベラトロールの含有量が高く、ビニフェリンの含有量が低い成分構成となっているからである。初夏の日照時間が平均的に15時間を超えることが一つの要因として考えられる。
【0019】
渋み抜きカラムとしては、食品衛生上許容される構成であればよく、特に制限はない。例えばポリビニルピロリドン、活性炭、シリカなどの吸着剤で構成されているものなどを好ましく例示することができる。なかでも、溶出液(含水有機溶媒)に対する脱着性の理由から、活性炭が特に好ましい。渋み抜きは、ワイン製造工程の発酵の初期の段階や途中の段階で行うこともある。また、ブドウ粕やオリ残渣などを取り除くろ過工程を兼ねることもある。典型例を挙げれば、渋み抜きの工程は、筒型のカラム容器に体積200〜300リットル程度の吸着剤を充填し、そのカラムに、別途製造した、体積20000〜35000リットル程度の赤ワインを通液することなどにより行う。これによりタンニンなどによる渋みを除くことができる。通液後の赤ワインは、更に熟成、ろ過などの工程を経てワイン製品として市場に流通させることができる。
【0020】
一方、カラム側にはレスベラトロールを含むポリフェノール類が吸着しているので、そのカラムに含水有機溶媒を通液することにより溶出物中にレスベラトロールを含むポリフェノール類を溶出させることができる。含水有機溶媒を構成する有機溶媒としては、エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、1,3−ブチレングリコール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチルなどの溶媒を挙げることができ、所望によりこれらの1種または2種以上を混合してなる含水混合有機溶媒を用いてもよい。なお、含水エタノールによれば、特別な規制を受けることなく、健康食品等の経口摂取用の素材として利用することが可能である。含水エタノールの場合、そのエタノール濃度は、20〜95質量%であることが好ましく、40〜80質量%であることがより好ましく、50〜70質量%であることが最も好ましい。典型例を挙げれば、上記に説明した渋み抜きの工程後の、体積200〜300リットル程度の吸着剤からなるカラムに対して、体積500〜1000リットル程度のエタノール濃度60質量%の含水エタノール(水:エタノール=40:60)を通液することなどにより行う。このような溶出物(液体)中には、典型的には2〜10w/v%程度、より典型的には2.5〜5w/v%程度の濃度でカラムからの溶出成分が含まれている。また、ワイン発酵後の一次的な搾汁液の乾燥物100質量部からの収率に換算すると、25〜50質量部程度の固形分を有している。そして、溶出成分のうちレスベラトロールに関しては、トランス体レスベラトロールの含有量が高く、レスベラトロールの2量体であるビニフェリンの含有量が少ない構成となっている。また、総ポリフェノール量については、通常乾燥物換算で35質量%以上65質量%以下、より典型的には42質量%以上58質量%以下含有する構成となっている。なお、トランス体レスベラトロール及びビニフェリンの含有量は、それぞれ公知のHPLC分析により、別途標準品により求めた検量線にあてはめて定量する方法などにより求めることができる。また、総ポリフェノール量は、タンニンを標準指標として、フォーリンチオカルト法の方法によって求めることができる。
【0021】
カラムからの溶出物(液体)は、必要に応じてろ過したり、溶媒を減圧留去したり、濃縮したり、乾燥したり、また、乾燥後に粉砕したり、微粒子化したり、造粒したり、粉末化したりしてもよく、溶出後の処理に特に制限はない。例えばスプレードライにより乾燥・粉末化することができる。より具体的には、スプレードライ後に、篩にかけ、水分含量10質量%以下、より好ましくは水分含量8%質量以下の粉体を調製することができる。粉体は、例えば、全体の80質量%以上がJIS規格による標準篩を用いて60メッシュ(目開き250μm)をパスする粉末の形態に調製することが好ましく、全体の90質量%以上がJIS規格による標準篩を用いて60メッシュ(目開き250μm)をパスする粉末の形態に調製することがより好ましい。この粉末形態によれば、保存安定性が良く、他の素材と配合する場合にも調合しやすい。また、トランス体レスベラトロールを更に分画・精製してもよい。分画・精製の手段としては、ポリスチレン樹脂、ODS、ゲル濾過・サイズ排除カラム等を用いた、カラムクロマトグラフィーを好ましく例示することができる。
【0022】
このようにして、トランス体レスベラトロールを乾燥物換算で4質量%以上10質量%以下含有し、ビニフェリンを乾燥物換算で前記トランス体レスベラトロールの10に対して0.8以上3以下含有する赤ワイン抽出物を得ることができる。より好ましくは、本発明の赤ワイン抽出物は、トランス体レスベラトロールを乾燥物換算で5質量%以上6.5質量%以下含有し、ビニフェリンを乾燥物換算で前記トランス体レスベラトロールの10に対して0.8以上3以下含有する。
【0023】
本発明による赤ワイン抽出物は、トランス体レスベラトロールを豊富に含有するので、生体への様々な有益な効果が期待できる。よって例えば、健康食品、サプリメント、栄養補助食品、機能性食品、化粧品、医薬品、医薬部外品、動物用健康食品、動物用サプリメント、動物用栄養補助食品、動物用機能性食品、動物用医薬品、動物用医薬部外品など各種の製品形態で、あるいはそれら製品と組み合わせて使用されることが可能である。また、各種の飲食品や動物・魚類用飼料と組み合わせて使用されることが可能である。
【実施例】
【0024】
以下に実施例を挙げて本発明について更に具体的に説明する。なお、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0025】
<製造例1>
フランスローヌ地方産の黒ブドウ(品種:シラー)を原料にして、常法に従い赤ワインを醸造し、28000リットル容のタンクで発酵した後の一次的な搾汁液を、ポリビニルピロリドンからなる吸着剤を充填してなる渋み抜きカラム(カラム容量:約250L)に通液した。次に、カラムに、エタノール濃度60質量%の含水エタノール(水:エタノール=40:60)を600リットル通液し、その溶出物およそ625リットルを得た。これを減圧濃縮し、スプレードライ後、粉砕、篩にかけて、水分含量4.2質量%で、全体の90質量%以上がJIS規格による標準篩を用いて60メッシュ(目開き250μm)をパスする、粉体状の赤ワイン抽出物を得た。この粉体状の赤ワイン抽出物は、トランス体レスベラトロールを乾燥物換算で6.06質量%含み、ビニフェリンを乾燥物換算で前記トランス体レスベラトロールの10に対して1程度含有する抽出物であった。また、ワイン発酵後の一次的な搾汁液の乾燥物100質量部からの収率で換算して、30質量部の固形分を有していた。表1にはその成分表を示す。
【0026】
【表1】