(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0017】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0018】
図1は、実施の形態に係る建設機械の一例であるショベル1の外観を示す斜視図である。ショベル1は、主としてクローラ(走行機構ともいう)2と、クローラ2の上部に旋回機構3を介して回動自在に搭載された上部旋回体(以下、単に旋回体ともいう)4とを備えている。
【0019】
旋回体4には、ブーム5と、ブーム5の先端にリンク接続されたアーム6と、アーム6の先端にリンク接続されたバケット10とが取り付けられている。バケット10は、土砂、鋼材などの吊荷を捕獲するための設備である。ブーム5、アーム6、及びバケット10は、アタッチメント12と総称され、それぞれブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9によって油圧駆動される。また、旋回体4には、バケット10の位置や励磁動作および釈放動作を操作する運転者を収容するための運転室4aや、油圧を発生するためのエンジン11といった動力源が設けられている。エンジン11は、例えばディーゼルエンジンで構成される。
【0020】
図2は、実施の形態に係るショベルの制振の原理を説明する図である。
ある任意の点40を中心としたショベル1の振動を考える。その点40を中心とした角度φを定義する。初期状態における車体の傾きφおよびアタッチメント12の状態が、(i)で示される。
【0021】
車体がアタッチメント12からの反力により、ピッチ軸周りのモーメント(角運動量)をもち、傾きφが、(i)から(ii)に変化する場合を考える。このときショベル1は、アタッチメント12の姿勢を、振動が小さくなる状態(ii)に変化させる。
【0022】
より具体的には、旋回体4を基準としたピッチ軸(y)周りの回転を検出する。そしてピッチ軸(y)周りの回転に応じた振動をキャンセルするように、アタッチメント12を制御する。なお、
図2に示されるアタッチメント12の姿勢は一例に過ぎない。
【0023】
このショベル1によれば、アタッチメント12の位置、姿勢を変化させることで、ショベル1の振動をキャンセルする方向に、ショベル1全体の重心位置42を変化させ、および/または慣性モーメントを変化させることにより、振動を抑制できる。
【0024】
なおショベル1は、バケット10が実質的に変位しないように、言い換えればその座標(x,y,z)が所定範囲に収まるという拘束条件のもと、アタッチメント12を制御することが望ましい。ここでのバケット10の位置x,y,zは、θ
3ではなく、旋回体4の所定箇所(たとえばブーム5の回転軸)を基準とした相対座標をいう。所定範囲は、除振制御を開始した時刻におけるバケット10の位置を基準として定めてもよい。このような拘束条件を課すことにより、バケット10の位置を大きく変化させることなく除振が可能となるため、バケット10が暴れるのを防止できる。
【0025】
上述の制振においてはさまざまな力学的な現象、メカニズムを利用することができる。たとえば、振動をキャンセルするように、アタッチメント12によって逆方向の振動を発生して振動を抑えてもよい。
【0026】
あるいは、ブランコとのアナロジーで説明される原理を用いてもよい。ブランコをこぐ場合、角速度が最大となる最下点のタイミングで立ち上がり、重心を高くする。また角速度がゼロとなる最上点(振動の両端)でしゃがみ、重心を低くする。この運動が繰り返されると、振幅が増幅される。実施の形態に係るショベル1においてはこれと逆の運動を行うことで、振動を減衰させることができる。
【0027】
続いて、ショベル1のブロック図を説明する。
図3は、実施の形態に係るショベル1の制御ブロック図である。ショベル1は、油圧アクチュエータ500、駆動手段502、ピッチング検出部504、振動補正部510を備える。各ブロックの機能は、電気的または機械的、もしくはそれらの組み合わせによって実現されるものであり、各ブロックの構成および機能の実現方法は限定されない。
【0028】
油圧アクチュエータ500は、
図1のアタッチメント12を駆動するアクチュエータであり、具体的には、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、バケットシリンダ9を含む。実際には、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、バケットシリンダ9の制御は独立に行われるが、ここでは簡略化してひとつの制御系として示す。
【0029】
ここでショベル1の座標系を説明する。
図4は、ショベル1の座標系を示す外観図である。旋回体4は、クローラ2に対して旋回軸周りに旋回する。旋回体4を基準として、ロール軸x、ピッチ軸y、ヨー軸z(座標系x、y、z)が定義される。旋回体4を基準としたピッチ軸(y軸)周りの回転角度をθ
y、角速度をω
y、角加速度をω
y’と定義する。
【0030】
また、ブーム5、アーム6、バケット10それぞれの位置を示す角度座標θ
1〜θ
3が定義される。θは、θ
1〜θ
3の組み合わせでありアタッチメント12全体の位置(姿勢)を示すものとする。
【0031】
図3に戻る。ピッチング検出部504は、旋回体4を基準とするピッチ軸Y周りの回転を検出し、回転情報S1を出力する。回転情報S1は、角度θ
y,角速度ω
y、角加速度ω
y’のいずれか、あるいはそれら任意の組み合わせであってもよい。ピッチング検出部504としてはジャイロセンサを利用してもよい。
【0032】
振動補正部510は、回転情報S1を受け、ピッチング検出部504が検出した回転と、運転者の操作入力に応じたアタッチメント12の制御値θ
CNTとにもとづいて、アタッチメント12を制御する。制御値θ
CNTは、運転者によるブーム、アーム、バケットそれぞれの操作指令θ
CNT1〜θ
CNT3を含む。
【0033】
振動補正部510は、制御値θ
CNTを受け、振動をキャンセルするように生成されるようにその値を補正し、補正後の制御値(指令値)θ
REFを出力する。指令値θ
REFも、ブーム軸(θ
1)、アーム軸(θ
2)、バケット軸(θ
3)それぞれに対応する値(θ
REF1,θ
REF2,θ
REF3)を含んでもよい。振動補正部510は、バケット10の座標が所定範囲に含まれるように、指令値θ
REFを生成することが好ましい。
【0034】
駆動手段502は、振動補正部510が生成した指令値θ
REFにもとづいて油圧アクチュエータ500を制御する。
【0035】
図5は、振動補正部510のブロック図である。振動補正部510の一部あるいは全部は、主としてCPUなどの演算手段で構成することができる。
この構成例では、振動補正部510は、ショベル1の振動がキャンセルされるようにショベル1の重心のX座標、Z座標を制御する。またこの例では、回転情報S1として角速度ω
yが利用される。
【0036】
振動補正部510には、角速度ω
yを示す回転情報S1が入力される。重心演算部511は、回転情報S1にもとづき、振動がキャンセルされるようなショベル1の重心のX座標、Z座標を演算する。
【0037】
たとえば振動補正部510は、角速度ω
yに係数(ゲイン)K
x,K
yを乗算する乗算器512,514と、乗算器512,514の出力を積分し、重心の目標値X
REF,Z
REFを生成する積分器516,518を含んでもよい。
【0038】
変換部520は、ショベル1の重心位置が、座標X
REF,Z
REFとなるように、アタッチメント12の位置を指示する指令値θ
REFを生成する。制御値θ
CNTの生成は、3自由度(θ
1〜θ
3)を有するアタッチメント12の機構の逆運動学にもとづいて行われる。変換部520には、運転者の操作入力θ
CNT1〜θ
CNT3が入力されており、変換部520は、θ
CNT1〜θ
CNT3からの変位が小さくなるように、指令値θ
REF1〜θ
REF3を生成してもよい。また変換部520は、バケット10の位置が実質的に変化しないという拘束条件のもと、指令値θ
REF1〜θ
REF3を生成することが望ましい。
【0039】
変換部520は、制振を行わないときには、操作指令θ
CNT1〜θ
CNT3を、そのまま指令値θ
REF1〜θ
REF3として出力すればよい。
【0040】
駆動手段502は、アタッチメント12の現在の状態を示すフィードバック値θ
FBを生成するセンサ530を含む。駆動手段502は、フィードバック値θ
FBが指令値θ
REFに近づくように、アタッチメント12のシリンダを制御する。
【0041】
減算器532は、θ
REFとθ
FBの誤差Δθを生成する。乗算器534は、誤差Δθに係数Kを乗算することにより、速度指令ω
REFを生成する。つまり
図5の駆動手段502は、P制御を行っているものと理解される。当然ながら変換部520は、PI制御やPID制御により、シリンダを制御してもよい。このフィードバック制御は、ブーム軸、アーム軸、バケット軸それぞれについて行われる。
【0042】
以上が振動補正部510の構成例である。続いてその動作を説明する。
図6は、
図5の振動補正部510を備えるショベル1の動作を示す図である。
図6には、回転角θ
y、角速度ω
y、重心目標位置X
REF,Z
REF、アタッチメント12の状態θ
CNTが示される。回転角θ
yは、実線が除振制御を行わない場合、一点鎖線が除振制御を行ったときの波形である。
【0043】
あるθ
yに振動が発生すると、ピッチング検出部504により角速度ω
yが検出される。重心演算部511は、重心の目標位置X
REF、Z
REFを演算する。変換部520は、重心が目標位置X
REF、Z
REFとなるように、指令値θ
REFを生成する。
図6では1次元で簡略化して示されるが、実際には制御値θ
REFは3次元である。この制御により、振動θyが一点鎖線で示すように抑制される。
【0044】
続いて、ショベル1全体の構成を説明する。
図7は、実施の形態に係るショベル1の電気系統や油圧系統などのブロック図である。なお、
図7では、機械的に動力を伝達する系統を二重線で、油圧系統を太い実線で、操縦系統を破線で、電気系統を細い実線でそれぞれ示している。
【0045】
機械式駆動部としてのエンジン11は、油圧ポンプとしてメインポンプ14及びパイロットポンプ15に接続されている。メインポンプ14には、高圧油圧ライン16を介してコントロールバルブ17が接続されている。なお、油圧アクチュエータに油圧を供給する油圧回路は2系統設けられることがあり、その場合にはメインポンプ14は2つの油圧ポンプを含む。本明細書では理解の容易化のため、メインポンプが1系統の場合を説明する。
【0046】
メインポンプ14には高圧油圧ライン16を介してコントロールバルブ17が接続されている。コントロールバルブ17は、ショベル1における油圧系の制御を行う装置である。コントロールバルブ17には、
図1に示したクローラ2を駆動するための走行油圧モータ2A及び2Bの他、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9が高圧油圧ラインを介して接続されており、コントロールバルブ17は、これらに供給する油圧を運転者の操作入力に応じて制御する。
【0047】
コントロールバルブ17は、ショベル1における油圧系の制御を行う装置である。コントロールバルブ17には、
図1に示したクローラ2を駆動するための油圧モータ(走行油圧モータ)2A及び2Bの他、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9が高圧油圧ラインを介して接続されており、コントロールバルブ17は、これらに供給する油圧を運転者の操作入力に応じて制御する。
【0048】
また、旋回機構3を駆動するための旋回油圧モータ21がコントロールバルブ17に接続される。旋回油圧モータ21は、旋回制御装置の油圧回路を介してコントロールバルブ17に接続されるが、
図7には旋回制御装置の油圧回路は示されず、簡略化されている。
【0049】
パイロットポンプ15には、パイロットライン25を介して操作装置26(操作手段)が接続されている。操作装置26は、クローラ2、旋回機構3、ブーム5、アーム6、及びバケット10を操作するための操作装置であり、運転者によって操作される。操作装置26には、油圧ライン27を介してコントロールバルブ17が接続され、また、油圧ライン28を介して圧力センサ29が接続される。
【0050】
操作装置26は、パイロットライン25を通じて供給される油圧(1次側の油圧)を運転者の操作量に応じた油圧(2次側の油圧)に変換して出力する。操作装置26から出力される2次側の油圧は、油圧ライン27を通じてコントロールバルブ17に供給されるとともに、圧力センサ29によって検出される。なお
図7において油圧ライン27は1本で描かれているが、実際には左走行油圧モータ、右走行油圧モータ、旋回それぞれの制御指令値の油圧ラインが存在する。
【0051】
操作装置26は、3つの入力装置26A〜26Cを含む。入力装置26A〜26Cはペダルもしくはレバーであり、入力装置26A〜26Cは、油圧ライン27及び28を介して、コントロールバルブ17及び圧力センサ29にそれぞれ接続される。圧力センサ29は、電気系の駆動制御を行うコントローラ30に接続されている。本実施形態では、入力装置26Aが旋回操作レバーとして機能し、入力装置26Bがアタッチメントの操作レバーとして機能する。入力装置26Cは、走行用のレバーもしくはペダルである。
【0052】
コントローラ30は、ショベルの駆動制御を行う主制御部である。コントローラ30は、CPU(Central Processing Unit)及び内部メモリを含む演算処理装置で構成され、CPUが内部メモリに格納された駆動制御用のプログラムを実行することにより実現される。
【0053】
コントローラ30は、ピッチング検出部504からの回転情報ω
y、センサ530からのアタッチメント23の位置情報θ
FB、圧力センサ29からの操作指令θ
CNTが入力される。
【0054】
このコントローラ30には、
図2の振動補正部510が実装され、アタッチメント12の状態を指示する指令値θ
REFをデジタル演算により生成する。さらにコントローラ30には、
図5に示す駆動手段502の一部が実装され、ブーム軸、アーム軸、バケット軸の速度指令値ω
REFとして出力する。
【0055】
パイロットライン25は、切換弁32を経て電磁比例弁31に分岐する。電磁比例弁31は、電気系統と油圧系統のインタフェースに相当する。電磁比例弁31は、その斜板角度が電気的に制御可能であり、パイロットライン25からの油圧を、コントローラ30からの制御信号ω
REFに応じた油圧に変換して出力する。電磁比例弁31は、減圧比例弁であってもよい。実際には電磁比例弁31は、アタッチメント12の3軸ごとに設けられる。コントロールバルブ17は電磁比例弁31からの油圧ラインの圧力にもとづいて、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、バケットシリンダ9を制御する。
【0056】
以上がショベル1全体のブロック図である。
【0057】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施の形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例を説明する。
【0058】
(第1変形例)
図8は、第1の変形例に係る振動補正部510aのブロック図である。
この変形例においては、回転情報S1として角度θ
yが利用される。重心演算部511aは、角度θ
yに係数K
x,K
yを乗算し、重心の目標座標X
REF,Z
REFを生成する乗算器512a、514aを含む。この構成例によっても、振動を抑制可能である。
【0059】
(第2変形例)
重心演算部511は、角速度ω
y、角度θ
yに代えて、角加速度ω
y’にもとづいて重心のX座標、Z座標を制御してもよい。
【0060】
(第3変形例)
重心演算部511は、角速度ω
y、角度θ
y、角加速度ω
y’の任意の組み合わせにもとづいて、重心座標を演算してもよい。この場合、角速度ω
y、角度θ
y、角加速度ω
y’にもとづき計算される重心座標を合成すればよい。
【0061】
(第4変形例)
振動補正部510は、重心演算部511に代えて、慣性モーメント演算部を備えてもよい。慣性モーメント演算部は、振動が抑制されるようにショベル1の慣性モーメントを制御する。この場合、変換部520は、慣性モーメント演算部が演算した慣性モーメントが得られるように、指令値θ
REFを生成すればよい。
【0062】
(第5変形例)
実施の形態では、油圧ショベルに即して説明をしたが、旋回に電動機を用いるハイブリッドショベルにも本発明は適用可能である。
【0063】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。