特許第6671851号(P6671851)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6671851
(24)【登録日】2020年3月6日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】建設機械
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/20 20060101AFI20200316BHJP
   E02F 9/26 20060101ALI20200316BHJP
   E02F 9/24 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
   E02F9/20 C
   E02F9/26 B
   E02F9/24 B
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-53979(P2015-53979)
(22)【出願日】2015年3月17日
(65)【公開番号】特開2016-173001(P2016-173001A)
(43)【公開日】2016年9月29日
【審査請求日】2018年3月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】山本 泰三
(72)【発明者】
【氏名】中崎 修
【審査官】 荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/041395(WO,A1)
【文献】 特開2013−085426(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/030140(WO,A1)
【文献】 特開2005−247078(JP,A)
【文献】 特開2012−080667(JP,A)
【文献】 米国特許第8704466(US,B2)
【文献】 特開2010−150898(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/00−9/18
E02F 9/24−9/28
E02F 3/627−3/815
E02F 3/28−3/413
E02F 3/88−3/96
E02F 5/00−7/10
E02F 3/42〜3/43
E02F 3/84〜3/85
E02F 9/20〜9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部走行体と、
前記下部走行体に旋回可能に搭載される上部旋回体と、
三相交流を用いて前記上部旋回体を旋回駆動する旋回用電動機と、
前記旋回用電動機の回転を減速する旋回減速機と、
前記旋回用電動機を制御する制御装置と、を有し、
前記制御装置は、モータトルクに基づく旋回トルクの発生中に前記上部旋回体が旋回しないときに、前記旋回用電動機を前記旋回トルクの方向とは逆の方向に所定角度だけ回転させる、
建設機械。
【請求項2】
前記旋回トルクの発生中に前記上部旋回体が旋回しないときは、ジャッキアップ時に前記上部旋回体の位置を保持するときである、
請求項1に記載の建設機械。
【請求項3】
前記旋回トルクの発生中に前記上部旋回体が旋回しないときは、押し付け旋回状態が継続しているときであり、
前記旋回トルクの方向とは逆の方向は、押し付け方向とは逆の方向である、
請求項1に記載の建設機械。
【請求項4】
前記旋回用電動機の動作状態を検出する動作状態検出装置を有し、
前記制御装置は、前記動作状態検出装置の検出結果に基づき、前記旋回トルクの発生中に前記上部旋回体が旋回しない状態を検知する、
請求項1乃至3の何れかに記載の建設機械。
【請求項5】
前記制御装置は、前記旋回トルクの発生中に前記上部旋回体が旋回しないときに、旋回操作に基づく指令とは別の指令を生成して前記旋回用電動機を前記旋回トルクの方向とは逆の方向に所定角度だけ回転させる、
請求項1乃至3の何れかに記載の建設機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は旋回用電動機を備える建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
三相モータで旋回体を旋回させる建設機械が知られている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−152027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の建設機械は、旋回トルク発生中に旋回体が旋回しないときに三相電流のそれぞれが変化せずアンバランスな発熱を継続させてしまう。
【0005】
上述に鑑み、旋回トルク発生中に旋回体が旋回しないときの旋回用電動機におけるアンバランスな発熱を解消できる建設機械を提供することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施例に係る建設機械は、下部走行体と、前記下部走行体に旋回可能に搭載される上部旋回体と、三相交流を用いて前記上部旋回体を旋回駆動する旋回用電動機と、前記旋回用電動機の回転を減速する旋回減速機と、前記旋回用電動機を制御する制御装置と、を有し、前記制御装置は、モータトルクに基づく旋回トルクの発生中に前記上部旋回体が旋回しないときに、前記旋回用電動機を前記旋回トルクの方向とは逆の方向に所定角度だけ回転させる。

【発明の効果】
【0007】
上述の手段により、旋回トルク発生中に旋回体が旋回しないときの旋回用電動機におけるアンバランスな発熱を解消できる建設機械が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施例に係るショベルの側面図である。
図2図1に示すショベルの駆動系の構成例を示すブロック図である。
図3】旋回駆動装置の構成例を示すブロック図である。
図4】コントローラの構成例を示すブロック図である。
図5】アンバランス解消処理の一例の流れを示すフローチャートである。
図6】旋回用電動機を流れる三相電流のそれぞれの時間的推移の一例を示す図である。
図7】旋回用電動機を流れる三相電流のそれぞれの時間的推移の別の一例を示す図である。
図8】旋回用電動機を流れる三相電流のそれぞれの時間的推移のさらに別の一例を示す図である。
図9】旋回用電動機を流れる三相電流のそれぞれの時間的推移のさらに別の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は本発明の実施例に係る建設機械としてのショベルの側面図である。ショベルの下部走行体1には、旋回機構2を介して上部旋回体3が搭載されている。上部旋回体3には、ブーム4が取り付けられている。ブーム4の先端には、アーム5が取り付けられ、アーム5の先端にはバケット6が取り付けられている。ブーム4、アーム5、及びバケット6は、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9によりそれぞれ油圧駆動される。上部旋回体3には、キャビン10が設けられ、且つエンジン等の動力源が搭載される。
【0010】
傾斜センサM1は、ショベルの機体の傾斜を検出するセンサであり、例えば、2軸傾斜(加速度)センサである。
【0011】
図2図1に示すショベルの駆動系の構成を示すブロック図である。図2において、機械的動力系は二重線、高圧油圧ラインは太い実線、パイロットラインは破線、電気駆動・制御系は細い実線でそれぞれ示されている。
【0012】
機械式駆動部としてのエンジン11と、アシスト駆動部としての電動発電機12は、変速機13の2つの入力軸にそれぞれ接続されている。変速機13の出力軸には、油圧ポンプとしてメインポンプ14及びパイロットポンプ15が接続されている。メインポンプ14には、高圧油圧ライン16を介してコントロールバルブ17が接続されている。また、パイロットポンプ15には、パイロットライン25を介して操作装置26が接続されている。
【0013】
コントロールバルブ17は、ハイブリッド式ショベルにおける油圧系の制御を行う制御装置である。下部走行体1用の油圧モータ1A(右用)及び1B(左用)、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9は、高圧油圧ラインを介してコントロールバルブ17に接続される。
【0014】
電動発電機12には、インバータ18を介して、蓄電器としてのキャパシタを含む蓄電系(蓄電装置)120が接続される。蓄電系120には、インバータ20を介して電動作業要素としての旋回用電動機21が接続されている。旋回用電動機21の出力軸21bには、レゾルバ22、及び旋回減速機24が接続される。旋回減速機24の出力軸24Aにはメカニカルブレーキ23が接続される。旋回用電動機21と、レゾルバ22と、メカニカルブレーキ23と、旋回減速機24とにより、負荷駆動系として旋回駆動装置40が構成される。ここで、旋回用電動機21が上部旋回体3を旋回駆動するための旋回用電動モータに相当し、メカニカルブレーキ23が上部旋回体3に機械的にブレーキをかけておくブレーキ装置に相当する。なお、電流計21Aは、旋回用電動機21を流れる電流を検出する装置であり、制御弁23Aは、パイロットポンプ15の吐出圧を用いるメカニカルブレーキ23の作動・解除を切り替える電磁弁である。
【0015】
操作装置26は、レバー26A、レバー26B、ペダル26Cを含む。レバー26A、レバー26B、及びペダル26Cは、油圧ライン27及び28を介して、コントロールバルブ17及び圧力センサ29にそれぞれ接続される。圧力センサ29は、電気系の駆動制御を行うコントローラ30に接続されている。
【0016】
コントローラ30は、ハイブリッド式ショベルの駆動制御を行う主制御部としての制御装置である。コントローラ30は、例えば、CPU及び内部メモリを含む演算処理装置で構成され、CPUが内部メモリに格納された駆動制御用のプログラムを実行する。
【0017】
コントローラ30は、圧力センサ29から供給される旋回レバー信号を速度指令に変換し、旋回用電動機21の駆動制御を行う。圧力センサ29から供給される旋回レバー信号は、上部旋回体3を旋回させるために操作装置26の1つである旋回レバーを操作した場合の操作量を表す信号に相当する。
【0018】
また、コントローラ30は、電動発電機12の運転制御(電動(アシスト)運転又は発電運転の切り替え)を行うとともに、蓄電系120の昇降圧コンバータを駆動制御することによりキャパシタの充放電制御を行う。コントローラ30は、キャパシタの充電状態、電動発電機12の運転状態(電動(アシスト)運転又は発電運転)、及び旋回用電動機21の運転状態(力行運転又は回生運転)に基づいて、蓄電系120の昇降圧コンバータの昇圧動作と降圧動作の切り替え制御を行い、これによりキャパシタの充放電制御を行う。
【0019】
上述のような構成のショベルによる作業では、上部旋回体3を旋回駆動するために、インバータ20を介して供給される電力により旋回用電動機21が駆動される。旋回用電動機21の出力軸21bの回転力は、旋回減速機24を介して出力軸40Aに伝達される。
【0020】
図3は旋回駆動装置40の構成を示すブロック図である。上述のように、旋回駆動装置40は、駆動源としての三相交流モータである旋回用電動機21を含む。旋回用電動機21の出力軸側には旋回減速機24として遊星減速機が接続される。
【0021】
旋回減速機24は、1段目の旋回減速機24−1と2段目の旋回減速機24−2とを含む。2段目の旋回減速機24−2はメカニカルブレーキ23(ディスクブレーキ)を間に挟んで1段目の旋回減速機24−1に組み付けられる。
【0022】
1段目の旋回減速機24−1の出力軸にはメカニカルブレーキ23としてのディスクブレーキが設けられ且つ2段目の旋回減速機24−2の入力軸に結合される。2段目の旋回減速機24−2の出力軸は、旋回駆動装置40の出力軸40Aとなる。出力軸40Aに結合される出力ギアは旋回機構2のリングギアに接続され、出力軸40Aの回転力により旋回機構2が駆動される。なお、旋回減速機24は1段構成であってもよい。
【0023】
次に、コントローラ30による旋回用電動機21の制御について説明する。図4は、コントローラ30の構成例を示すブロック図である。
【0024】
コントローラ30は、操作内容検出装置50、動作状態検出装置51、及び傾斜検出装置52の出力を受けて各種演算を実行し、その演算結果に基づく各種指令を旋回制御装置55、警告装置56、ブレーキ制御装置57等に対して出力する。
【0025】
操作内容検出装置50は操作者によるショベルに対する操作内容を検出する装置である。操作内容検出装置50は、例えば、圧力センサ29であり、旋回レバーの操作内容を検出する。
【0026】
動作状態検出装置51は旋回用電動機21の動作状態を検出する装置である。動作状態検出装置51は、例えば、レゾルバ22であり、旋回用電動機21の回転状態を検出する。また、動作状態検出装置51は電流計21Aであってもよい。また、旋回制御装置55に対して出力した指令値に基づいて旋回用電動機21の動作状態を検出してもよい。
【0027】
傾斜検出装置52はショベルの機体の傾斜を検出する装置である。傾斜検出装置52は、例えば、傾斜センサM1である。なお、傾斜検出装置52は、機体の傾斜を検出できるのであればどのような手段であってもよい。
【0028】
旋回制御装置55は旋回用電動機21の動きを制御する装置である。旋回制御装置55は、例えば、インバータ20であり、コントローラ30からの旋回指令(例えば、速度指令、トルク指令、電流指令等)に応じて旋回用電動機21を回転させる。
【0029】
警告装置56はショベルの操作者に警告を与える装置である。警告装置56は、例えば、車載スピーカ、車載警告灯、車載ディスプレイ等であり、コントローラ30からの警告指令に応じて警告を出力する。
【0030】
ブレーキ制御装置57は旋回ブレーキを制御する装置である。ブレーキ制御装置57は、例えば、制御弁23Aであり、コントローラ30からのブレーキ指令に応じてメカニカルブレーキ23を作動させる。
【0031】
また、コントローラ30は、旋回制御部31、過熱保護部32、アンバランス判定部33、及びアンバランス解消部34を機能要素として含む。
【0032】
旋回制御部31は旋回用電動機21の動きを制御する機能要素である。旋回制御部31は、例えば、旋回操作に基づく旋回指令を旋回制御装置55に対して出力する。具体的には、圧力センサ29が検出する旋回レバーの操作量に応じてインバータ20に対する電流指令の大きさを決定する。
【0033】
過熱保護部32は旋回用電動機21の過熱を防止する機能要素である。過熱保護部32は、例えば、電流計21Aの出力に基づいて三相電流のそれぞれを継続的に積算し、それらの積算値の何れかが所定値を上回った場合に旋回用電動機21を強制的に停止させる。また、三相電流のそれぞれの積算値の間に所定値以上の差が生じた場合に旋回用電動機21を強制停止させてもよい。この構成により、過熱保護部32は、旋回用電動機21がロックした場合には、ロックしていない場合に比べ、旋回用電動機21をより早期に強制停止させる。旋回用電動機21がロックした場合、三相電流のうちの一相の積算値が他の二相の積算値よりも早く増加し、その一相に関する発熱が他の二相に関する発熱よりも大きくなるためである。なお、過熱保護部32は、旋回用電動機21を強制的に停止させるときにブレーキ制御装置57に対してブレーキ指令を出力し、メカニカルブレーキ23を作動させてもよい。
【0034】
アンバランス判定部33は旋回用電動機21のアンバランス状態を解消する必要があるかを判定し、必要に応じてアンバランス状態を解消する機能要素である。アンバランス状態は、三相電流のそれぞれの変動が小さいまま維持されてアンバランスな発熱を引き起こしている状態であり、例えば、三相電流のそれぞれが直流電流となっている状態を含む。
【0035】
アンバランス判定部33は、ショベルの動作状態を監視し、所定の条件が満たされたと判定した場合に旋回用電動機21のアンバランス状態を解消する必要があると判定する。例えば、旋回用電動機21の動作状態を監視し、旋回トルク発生中に上部旋回体3が旋回しない状態を検知した場合にアンバランス状態が発生したと判定する。そして、そのアンバランス状態が所定時間に亘って継続していると判定した場合にアンバランス状態を解消する必要があると判定する。
【0036】
具体的には、アンバランス判定部33は、零速サーボ状態が所定時間に亘って継続していると判定した場合にアンバランス状態を解消する必要があると判定する。零速サーボ状態は、旋回レバーが中立位置にあるときに、外力が回転させようとしている旋回用電動機21のモータ回転速度がゼロになるように逆向きのモータトルクを発生させている状態をいう。この状態は、旋回指令が出ているにもかかわらずモータ位置が変化しない状態に含まれる。
【0037】
この場合、アンバランス判定部33は、例えば、圧力センサ29及び電流計21Aの出力に基づいて零速サーボ状態が所定時間に亘って継続したか否かを判定してもよい。具体的には、アンバランス判定部33は、圧力センサ29の出力に基づいて旋回レバーが中立位置にあるか否かを判定する。また、電流計21Aの出力に基づいて旋回用電動機21に電流が供給されている(モータトルクを発生させている)時間をカウントする。そして、旋回レバーが中立位置にあるときにモータトルクを発生させている状態が所定時間に亘って継続した場合に零速サーボ状態が所定時間に亘って継続したと判定する。なお、アンバランス判定部33は、旋回レバーが中立位置にあるときに三相電流のそれぞれの積算値の間に所定値以上の差が生じた場合に零速サーボ状態が所定時間に亘って継続したと判定してもよい。
【0038】
また、アンバランス判定部33は、ショベルが傾斜地に位置するときに零速サーボ状態が所定時間に亘って継続したと判定した場合に限り、アンバランス状態を解消する必要があると判定してもよい。旋回用電動機21のモータ回転速度をゼロに維持するために比較的大きなモータトルクを発生させていると推定されるためである。この場合、アンバランス判定部33は、傾斜センサM1の出力に基づいてショベルが傾斜地に位置するか否かを判定してもよい。また、「ジャッキアップが行われたとき」が「ショベルが傾斜地に位置するとき」に含まれてもよい。
【0039】
或いは、アンバランス判定部33は、押し付け旋回状態が所定時間に亘って継続した場合にアンバランス状態を解消する必要があると判定してもよい。押し付け旋回状態は、旋回レバーが操作されてモータトルクが発生しているにもかかわらず、旋回用電動機21のモータ回転速度がゼロ(略ゼロの場合を含む。)のままとなっている状態をいう。この状態は、零速サーボ状態のときと同様、旋回指令が出ているにもかかわらずモータ位置が変化しない状態に含まれる。
【0040】
この場合、アンバランス判定部33は、例えば、圧力センサ29及びレゾルバ22の出力に基づいて押し付け旋回状態が所定時間に亘って継続したか否かを判定する。具体的には、アンバランス判定部33は、圧力センサ29の出力に基づいて旋回レバーが操作されているか否かを判定する。また、レゾルバ22の出力に基づいてモータ回転速度がゼロのままとなっている時間をカウントする。そして、旋回レバーが操作されているにもかかわらずモータ回転速度がゼロのままとなっている状態が所定時間に亘って継続した場合に押し付け旋回状態が所定時間に亘って継続したと判定する。
【0041】
また、アンバランス判定部33は、他の任意の方法を用いてアンバランス状態を解消する必要があるか否かを判定してもよい。例えば、旋回用電動機21の三相コイルのそれぞれの温度を測定する温度センサの出力に基づいて判定してもよい。
【0042】
アンバランス解消部34は、旋回用電動機21のアンバランス状態を解消する機能要素である。例えば、アンバランス解消部34は、アンバランス判定部33がアンバランス状態を解消する必要があると判定した場合に旋回操作に基づく指令とは別の指令を旋回制御装置55に出力して旋回用電動機21にアンバランス解消動作を実行させる。具体的には、旋回指令とは別の解消指令を旋回制御装置55に対して出力して旋回用電動機21にアンバランス解消動作を実行させる。アンバランス解消動作は、アンバランス状態を解消するための旋回用電動機21の動作であり、例えば、モータ回転角度を変化させるための1回又は複数回の微小回転、断続的且つ継続的な微小回転(以下、「ステップ回転」とする。)、所定の回転角度範囲で行われる往復回転等を含む。アンバランス解消動作を行うことで三相コイルの何れかに発熱が集中するのを緩和できる。
【0043】
ここで、図5を参照し、コントローラ30が必要に応じて旋回用電動機21のアンバランス状態を解消する処理(以下、「アンバランス解消処理」とする。)について説明する。図5はアンバランス解消処理の一例の流れを示すフローチャートである。コントローラ30は、ショベル稼働中にこのアンバランス解消処理を所定の制御周期で繰り返し実行する。
【0044】
最初に、コントローラ30のアンバランス判定部33は、旋回用電動機21のアンバランス状態を解消する必要があるかを判定する(ステップS1)。アンバランス判定部33は、例えば、零速サーボ状態又は押し付け旋回状態が所定時間に亘って継続したかを判定する。或いは、旋回用電動機21の三相コイルの何れかの温度が所定温度を上回ったかを判定してもよい。
【0045】
アンバランス状態を解消する必要があると判定した場合(ステップS1のYES)、コントローラ30のアンバランス解消部34はアンバランス解消動作を開始させる(ステップS2)。
【0046】
アンバランス状態を解消する必要がないと判定した場合(ステップS1のNO)、コントローラ30は、アンバランス解消動作を開始させることなく、ステップS1の判定を繰り返す。
【0047】
また、アンバランス解消部34は、アンバランス解消動作を開始させた後で所定条件が満たされた場合にアンバランス解消動作を停止させる。例えば、アンバランス解消部34は、旋回レバーが操作されることで零速サーボ状態が解消された場合にアンバランス解消動作を停止させて旋回用電動機21の通常動作(旋回指令に応じた動作)を開始させる。或いは、アンバランス解消部34は、押し付け対象の障害物が押し退けられて押し付け旋回状態が解消された場合にアンバランス解消動作を停止させて旋回用電動機21の通常動作(旋回指令に応じた動作)を開始させる。押し付け旋回時に押し付け方向とは逆の方向に旋回レバーが操作された場合、及び、押し付け旋回時に旋回操作を中止した場合についても同様である。
【0048】
ここで、図6を参照し、アンバランス解消動作の一例である旋回用電動機21の微小回転について説明する。なお、図6は旋回用電動機21を流れる三相電流のそれぞれの時間的推移を示す図であり、U相電流、V相電流、W相電流の時間的推移をそれぞれ実線、点線、一点鎖線で表す。また、図6の例では、傾斜地に位置するショベルの操作者が時刻t1において旋回レバーを中立位置に戻して上部旋回体3の旋回を停止させた結果、零速サーボ状態が発生した場合を想定する。図7図9についても同様である。
【0049】
アンバランス判定部33は、時刻t1において零速サーボ状態となり旋回用電動機21のアンバランス状態が発生すると、その状態の継続時間のカウントを開始する。そして、時刻t2において零速サーボ状態の継続時間が所定時間D0に達すると、アンバランス状態を解消する必要があると判定する。この判定結果を受けて、アンバランス解消部34はアンバランス解消動作としての微小回転を開始させる。その結果、時刻t1〜時刻t2の期間において最も大きい電流値となっていたW相電流が低減され、その積算値の増加率が低減される。
【0050】
その後、アンバランス解消部34は、時刻t3において微小回転開始後のモータ回転角度が所定角度θ1に達すると旋回用電動機21の回転を停止させる。そして、時刻t4において回転停止状態の継続時間が所定時間D1に達すると2回目の微小回転を開始させる。その結果、時刻t3〜時刻t4の期間において最も大きい電流値となっていたV相電流が低減され、その積算値の増加率が低減される。以後同様に、アンバランス解消部34は、アンバランス解消動作を停止させるための所定条件が満たされるまで微小回転の停止と開始を繰り返す。具体的には、アンバランス解消部34は、時刻t5において2回目の微小回転開始後のモータ回転角度が所定角度θ2に達すると旋回用電動機21の回転を停止させる。そして、時刻t6において回転停止状態の継続時間が所定時間D2に達すると3回目の微小回転を開始させる。その結果、時刻t5〜時刻t6の期間において最も大きい電流値となっていたU相電流が低減され、その積算値の増加率が低減される。なお、所定角度θ1、θ2は同じ値であってもよく異なる値であってもよい。所定時間D1、D2についても同様である。また、アンバランス解消部34は、微小回転を1回だけ行うようにしてもよい。
【0051】
この微小回転により、コントローラ30は、零速サーボ状態又は押し付け旋回状態での三相電流のそれぞれの積算値のバラツキを低減できる。そのため、旋回用電動機21の三相コイルの何れかに発熱が集中するのを緩和でき、過熱保護部32によって旋回用電動機21が強制的に停止させられてしまうのを抑制或いは防止できる。その結果、作業の中断を回避でき、アラームの解除、メカニカルブレーキ23の解除等、中断した作業を再開させる際の煩雑な操作を操作者に強いるのを回避できる。
【0052】
次に、図7を参照し、アンバランス解消動作の別の一例である旋回用電動機21のステップ回転について説明する。ステップ回転は、所定角度θtの微小回転とその後の所定時間Dtに亘る回転停止状態とを繰り返す動作を意味する。
【0053】
アンバランス判定部33は、図6の場合と同様、時刻t2において零速サーボ状態の継続時間が所定時間D0に達すると、アンバランス状態を解消する必要があると判定する。この判定結果を受けて、アンバランス解消部34はアンバランス解消動作としてのステップ回転を開始させる。
【0054】
その後、アンバランス解消部34は、時刻t10において微小回転開始後のモータ回転角度が所定角度θtに達すると旋回用電動機21の回転を停止させる。そして、時刻t11において回転停止状態の継続時間が所定時間Dtに達すると2回目の微小回転を開始させる。さらに、アンバランス解消部34は、時刻t12において2回目の微小回転開始後のモータ回転角度が所定角度θtに達すると旋回用電動機21の回転を停止させる。そして、時刻t13において回転停止状態の継続時間が所定時間Dtに達すると3回目の微小回転を開始させる。以後同様に、アンバランス解消部34は、アンバランス解消動作を停止させるための所定条件が満たされるまで微小回転の停止と開始を繰り返す。
【0055】
このステップ回転により、コントローラ30は、微小回転を実行する場合と同様の効果を得ることができる。
【0056】
次に、図8を参照し、アンバランス解消動作のさらに別の一例である旋回用電動機21の往復回転について説明する。
【0057】
往復回転は、三相のモータ励磁電流のそれぞれの往復励磁を所定の回転角度範囲で行うことを意味する。なお、所定の回転角度範囲は、例えば、360度を磁極数で除した値(電気角で180度)以上の範囲である。例えば磁極数が8極の場合、アンバランス解消部34は、往復回転開始時のモータ回転角度から45度だけ旋回用電動機21の回転子を一方向に回転させた後、逆方向に45度回転させる。そして、旋回レバーが操作されて零速サーボ状態が解消されるまでその往復回転を継続させる。
【0058】
アンバランス判定部33は、図6の場合と同様、時刻t2において零速サーボ状態の継続時間が所定時間D0に達すると、アンバランス状態を解消する必要があると判定する。この判定結果を受けて、アンバランス解消部34はアンバランス解消動作としての往復回転を開始させる。具体的には、アンバランス解消部34は、旋回用電動機21の所定方向への回転を開始させる。
【0059】
その後、アンバランス解消部34は、時刻t20において往復回転開始後のモータ回転角度が45度に達すると三相のモータ励磁電流のそれぞれの推移パターンを反転させる。具体的には、三相のモータ励磁電流のそれぞれが時刻t2から時刻t3までの間で辿った推移パターンを逆行するように三相のモータ励磁電流のそれぞれを推移させる。その結果、旋回用電動機21は逆方向への回転を開始する。そして、時刻t21において逆回転開始後のモータ回転角度が45度に達してモータ回転角度が往復回転開始時のモータ回転角度に戻ると、三相のモータ励磁電流のそれぞれの推移パターンを再び反転させる。具体的には、三相のモータ励磁電流のそれぞれが時刻t3から時刻t4までの間で辿った推移パターンを逆行するように、すなわち、時刻t2から時刻t3までの間で辿った推移パターンと同じように三相のモータ励磁電流のそれぞれを推移させる。そして、時刻t22において再反転後のモータ回転角度が45度に達すると三相のモータ励磁電流のそれぞれの推移パターンをさらに反転させる。このように、アンバランス解消部34は、所定の回転角度毎に三相のモータ励磁電流のそれぞれの推移パターンを反転させる。
【0060】
この往復回転により、コントローラ30は、零速サーボ状態又は押し付け旋回状態での三相電流のそれぞれの積算値を平準化できる。そのため、過熱保護部32によって旋回用電動機21が強制的に停止させられてしまうのを抑制或いは防止できる。その結果、作業の中断を回避でき、アラームの解除、メカニカルブレーキ23の解除等、中断した作業を再開させる際の煩雑な操作を操作者に強いるのを回避できる。また、アンバランス解消動作を実行する際の旋回用電動機21のモータ回転角度を制限できる。これは上部旋回体3の旋回角度を変化させずにアンバランス解消動作を実行できることを意味する。
【0061】
次に、図9を参照し、往復回転の別の例について説明する。なお、図9は、旋回用電動機21を流れる三相電流のそれぞれの時間的推移を示す図であり、図9(A)は往復回転開始後に三相電流のそれぞれの周波数を小さくした場合の推移を示し、図9(B)は往復回転開始後に三相電流のそれぞれの振幅を変化させた場合の推移を示す。
【0062】
具体的には、図9(A)は、時刻t2において零速サーボ状態の継続時間が所定時間D0に達したために往復回転が開始され、時刻t30において往復回転開始後のモータ回転角度が45度に達したために三相のモータ励磁電流のそれぞれの推移パターンが反転される様子を示す。このように三相のモータ励磁電流のそれぞれの周波数を小さくする(周期を大きくする)と、旋回用電動機21における振動の発生を抑制できる。
【0063】
また、図9(B)は、時刻t2において零速サーボ状態の継続時間が所定時間D0に達したために往復回転が開始され、時刻t40において往復回転開始後のモータ回転角度が45度に達するまでは三相のモータ励磁電流のそれぞれの振幅を徐々に小さくする様子を示す。また、時刻t40において三相のモータ励磁電流のそれぞれの推移パターンが反転された後、時刻t41において反転後のモータ回転角度が45度に達するまでは三相のモータ励磁電流のそれぞれの振幅を徐々に大きくする様子を示す。このように三相のモータ励磁電流のそれぞれの振幅を一時的に小さくすると、各相の積算値の増加を遅らせることができる。
【0064】
以上の構成により、コントローラ30は、アンバランス状態が所定時間に亘って継続したときにそのアンバランス状態を解消できる。そのため、熱の局所集中を緩和でき、過熱保護部32による旋回用電動機21の強制停止に至るまでの時間を延長できる。その結果、零速サーボ状態の旋回用電動機21の連続駆動時間を延長できる。また、傾斜地で上部旋回体3の位置を保持する際、ジャッキアップ時に上部旋回体3の位置を保持する際等、軽旋回負荷時のモータ負荷バランスの調整の自由度を高めることができる。また、押し付け旋回等の高旋回負荷時の旋回用電動機21の連続駆動時間を延長できる。
【0065】
また、旋回用電動機21の回転は旋回減速機24によって大きく減速されるため、上部旋回体3の旋回角度にほとんど影響しないが、アンバランス解消動作の際の旋回用電動機21の回転角度は、望ましくは、上部旋回体3の旋回角度を変動させない範囲に制限される。アンバランス解消動作が行われたときに操作者に違和感を抱かせないようにするためである。但し、本発明は、アンバランス解消動作の際の旋回用電動機21の回転角度が上部旋回体3の旋回角度を変動させるレベルになることを排除しない。
【0066】
また、アンバランス解消部34は、往復回転開始時のモータ回転角度が大きくなる側又は小さくなる側の何れか一方の側で往復回転させてもよく、往復回転開始時のモータ回転角度を跨ぐように往復回転させてもよい。往復回転開始時のモータ回転角度を跨ぐように往復回転させる場合、往復回転開始時のモータ回転角度を中心角度として両側に同じ回転角度だけ往復回転させてもよい。また、何れの側の回転が先であってもよい。
【0067】
また、1回の往復回転における往路方向への回転角度と復路方向への回転角度とを異ならせてもよい。すなわち、往復回転の中心を変化させてもよい。例えば、往路方向への回転角度を46度とし、復路方向への回転角度を45度とすることで、往復回転の中心を1度ずつ往路方向へ移動させてもよい。さらに、往復回転の中心を往路方向へ段階的に所定角度(例えば10度)だけ移動させた後で往復回転の中心を復路方向へ段階的に所定角度(例えば20度)だけ移動させる動きを繰り返してもよい。
【0068】
また、往復回転における往路方向の回転角度と復路方向の回転角度を異ならせることは熱の局所集中をさらに緩和させる効果を有する。比較的大きなモータ励磁電流が要求される旋回用電動機21の加減速開始時の各相の位相角を徐々にずらしていくことができるためである。
【0069】
また、ショベルが傾斜地に位置するときにアンバランス解消動作を実行する場合、アンバランス解消部34は、上部旋回体3の旋回角度が重力に逆らう方向に変動するように旋回用電動機21を微小回転、ステップ回転、或いは往復回転させてもよい。また、上部旋回体3の旋回角度が重力に逆らう方向に変動するように往復回転の中心を移動させてもよい。
【0070】
また、アンバランス解消部34は、上部旋回体3の旋回角度が短期的には変動しても長期的に見て変動しないように旋回用電動機21を微小回転、ステップ回転、或いは往復回転させてもよい。また、上部旋回体3の旋回角度が長期的に見て変動しないように往復回転の中心を移動させてもよい。
【0071】
また、上部旋回体3の旋回角度を重力方向に変動させるように旋回用電動機21を微小回転、ステップ回転、或いは往復回転させてもよく、或いは、往復回転の中心を移動させてもよい。
【0072】
また、押し付け旋回時にアンバランス解消動作を実行する場合、アンバランス解消部34は、押し付け方向とは逆の方向に旋回用電動機21を微小回転、ステップ回転、或いは往復回転させる。
【0073】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0074】
1・・・下部走行体 1A、1B・・・油圧モータ 2・・・旋回機構 3・・・上部旋回体 4・・・ブーム 5・・・アーム 6・・・バケット 7・・・ブームシリンダ 8・・・アームシリンダ 9・・・バケットシリンダ 10・・・キャビン 11・・・エンジン 12・・・電動発電機 13・・・変速機 14・・・メインポンプ 15・・・パイロットポンプ 16・・・高圧油圧ライン 17・・・コントロールバルブ 18、20・・・インバータ 21・・・旋回用電動機 21A・・・電流計 21b・・・出力軸 22・・・レゾルバ 23・・・メカニカルブレーキ 23A・・・制御弁 24、24−1、24−2・・・旋回減速機 25・・・パイロットライン 26・・・操作装置 26A、26B・・・レバー 26C・・・ペダル 27・・・油圧ライン 28・・・油圧ライン 29・・・圧力センサ 30・・・コントローラ 40・・・旋回駆動装置 120・・・蓄電系
図1
図2
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図4
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図6
図7
図8
図9