【文献】
谷口竜王,コア粒子表面にグラフトされたシェル層を触媒に利用した複合粒子の調製,The Chemical Times,日本,関東化学株式会社,2013年 7月,No.229,pp.9-14
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第二微粒子と1級アミノ基を備えるチオールを混合し、前記金属コロイド粒子の表面にアミノ基を備える結合部を設けて、第三微粒子を得る工程をさらに含むことを特徴とする、請求項6に記載のイムノクロマト用複合粒子の製造方法
【背景技術】
【0002】
従来より、種々の疾患の診断を目的として、被検物質に免疫学的に結合する物質とクロマトグラフィーの原理を組み合わせて被検物質を目視判定で検出する診断用イムノクロマト試薬が広く用いられている。診断用イムノクロマト試薬は、被検物質である抗原(または抗体)に対する抗体(または抗原)をクロマトグラフ媒体に固定化して、免疫反応部位を作製したものを固定相とし、上記被検物質と結合可能な抗体(または抗原)によって感作された検出用担体と被検物質を含んだ検体とを接触させて抗原抗体複合体を形成させ、それらが含有された液体を移動相とした免疫クロマトグラフの測定方法に用いられる。
当該測定方法において、検出用担体と接触した被検物質を含んだ検体は、免疫反応を行い、検出用粒子−感作に用いられた抗体(または感作に用いられた抗原)−検体中の抗原(または抗体)とからなる複合体が生成する。この複合体がクロマトグラフ上の反応部位まで達すると、再度免疫反応を行い、前記複合体が前記固定化抗体(または固定化抗原)に結合されて、検出用担体が捕捉される為、その捕捉の有無を目視判定することにより検体中の被検物質の存在を判定することができる(当該測定方法をイムノクロマトグラフ法という)。
【0003】
上記イムノクロマトグラフ法では、目視判定を容易にするために、検出用担体に有色微粒子が広く利用されている。このような検出用担体としては、合成高分子よりなるラテックス粒子を着色することによって得られる着色ラテックス粒子、着色剤とともに単量体を重合して得られる着色ラテックス粒子、もしくは、その粒径や調製条件によって自然呈色するコロイド状金属粒子もしくはコロイド状金属酸化物粒子等のコロイド状粒子等が用いられている。しかしながら、着色ラテックス粒子は、色調を自由に選択できる点で有利であるが、着色量を高める、つまりは濃い色調を得ることが難しく、イムノクロマトに用いた際に目視判定がしにくい等の問題点があった。
【0004】
この問題を解決する為に、例えば特許文献1では、着色ラテックス粒子中の着色剤の含有率が10重量%以上とする方法が示されており、視認性を向上させている。しかし、この方法でも、まだ十分な感度が確保されているとは言えず、更に着色量を高めると、色素等がラテックス粒子の表面を覆うようになり、粒子本来の表面状態が損なわれる結果、非特異反応や過凝集による目詰まり等を引き起こすことが問題となっていた。
【0005】
一方、上記コロイド状粒子は、一般的には、金コロイド粒子または白金コロイド粒子としてよく知られており、濃い色調を得ることができる点で広く用いられている。しかし、その粒径及び調製条件によって色調が決定されてしまうため、所望の色に調製できない、また、発色条件が粒径によって決定される自然呈色である為、発色条件以外の粒径に調製することが困難であり、前記着色ラテックス粒子に比して、イムノクロマトの試薬化における最適条件の選択に制限が設けられる等の問題点もあった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
金属コロイド粒子は、自然呈色する為に、比較的視認性が高く、かつその粒径が小さい為に非特異反応や過凝集による目詰まり等を生じにくいということから、イムノクロマト試薬用担体として広く用いられている。
一方、着色ラテックス粒子は、色調や粒径を自由に変更することが可能である為、イムノクロマト試薬に適用できる条件の制約が少ないという特徴があり、近年イムノクロマト試薬に用いられるようになってきた。
これらの特徴を併せ持つような検出用担体、すなわち、視認性が高く、目詰まり等を起こしにくい、かつ色調や粒径を自由に変更することが可能な新しいイムノクロマト試薬用担体が従来より望まれていた。
前述の通り、ラテックス粒子は粒径が自由に調節可能である。その表面に自然呈色して視認性を高める事が可能な金属コロイドを結合させた複合粒子についての考え方自体は従来にも存在した。引用文献2には、金属コロイド粒子に関する技術が開示されており、ラテックス粒子をコア粒子とし、その表面を金で被覆した粒子についても金属コロイドに含める旨の記述がある。しかし、引用文献2に記載の粒子については、その具体的な性状、作製法についての開示は一切なく、実施可能性を評価できるような開示内容は一切なかった。
ましてや、引用文献2に記載の粒子をイムノクロマトに適用した場合に前記の課題を解消できるかという点に関しても、実施可能性が不明である以上、その効果を予想する事ができなかった。言い換えれば、引用文献2に記載の粒子については、具現化の方法が不明であるため、効果の予想ができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、鋭意検討した結果、ラテックス粒子の表面にスペーサー分子を結合し、該スペーサー分子を介して金属コロイドを結合させる事で、ラテックス粒子の表面に金属コロイドを結合させた複合粒子の作成に成功し、本発明を完成させた。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、粒径が自由に調整可能なラテックス粒子の表面に、自然呈色して視認性を高めることが可能な金属コロイドを結合させた複合粒子を提供するものである。
すなわち、本発明は、以下に関する。
〔1〕コア粒子としての有機高分子微粒子と、有機高分子微粒子の表面に結合したスペーサー分子と、スペーサー分子の表面に付着した金属コロイド粒子とを備える複合粒子。
〔2〕スペーサー分子が、グラフト重合によって形成されている有機グラフト鎖である、〔1〕に記載の複合粒子。
〔3〕有機グラフト鎖が、3級アミノ基を有する重合性単量体により構成されている、〔2〕に記載の複合粒子。
〔4〕金属コロイド粒子が、表面に被検対象物質との結合部を備える、〔1〕〜〔3〕のいずれか1つに記載の複合粒子。
〔5〕結合部が、1級アミノ基を有する材料で構成されている、〔4〕に記載の複合粒子。
〔6〕スペーサー分子の鎖長が、10nm〜240nmである、〔1〕〜〔5〕のいずれか1つに記載の複合粒子。
〔7〕複合粒子の平均粒子径が100nm〜700nmである、〔1〕〜〔4〕のいずれか1つに記載の複合粒子。
〔8〕有機高分子微粒子とスペーサー分子を混合し、有機高分子微粒子の表面にスペーサー分子を結合させて、第一微粒子を得る工程と、第一微粒子と、金属イオンを含有する溶液を混合し、前記第一微粒子の表面に金属コロイド粒子を付着させて、第二微粒子を得る工程とを含む、複合粒子の製造方法
〔9〕第二微粒子と1級アミノ基を備えるチオールを混合し、前記金属コロイド粒子の表面にアミノ基を備える結合部を設けて、第三微粒子を得る工程をさらに含む、〔8〕に記載の複合粒子の製造方法
〔10〕有機高分子微粒子が、フェニル基を有する重合性単量体、メタクリロイル基を有する重合性単量体、アクリロイル基を有する重合性単量体、からなる群から選ばれる一種類以上の重合性単量体と、グラフト重合開始基を含む重合性単量体と、を共重合させたものである、〔8〕または〔9〕に記載の複合粒子の製造方法。
〔11〕〔1〕〜〔7〕のいずれか1つに記載の複合粒子を用いる、イムノクロマト測定試薬。
〔12〕〔11〕に記載のイムノクロマト測定試薬を用いる、イムノクロマト測定方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、粒径の調整が容易な有機高分子微粒子上に金属コロイド粒子を設けることで、濃い色調でかつ粒径の制御が可能なイムノクロマト用複合粒子を提供できる。これにより、視認性が高く、かつ粒径等を自在に変更可能で試薬化の際の制限が少ないイムノクロマト試薬が調整可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、実施形態を挙げて本発明の説明を行うが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
[複合粒子]
本発明の実施形態に係る複合粒子は、コア粒子としての有機高分子微粒子と、有機高分子微粒子の表面に結合したスペーサー分子と、スペーサー分子の表面に付着した金属コロイド粒子と、を備える。複合粒子は、スペーサー分子を有するコア粒子上に金属コロイドが結合した複合着色粒子である。なかでも有機高分子微粒子上に金コロイド粒子が配置された複合着色粒子である。複合粒子の用途は特に限定されるわけではないが、濃い色調でかつ粒径の制御が可能であるという特性を有することより、イムノクロマト用の検出用担体として好適に用いられる。
【0012】
上記有機高分子微粒子としては、(1)フェニル基を有する重合性単量体、メタクリロイル基を有する重合性単量体、アクリロイル基を有する重合性単量体からなる群から選ばれる一種類以上の重合性単量体と、(2)グラフト重合開始基を含む重合性単量体と、を共重合させた重合体からなる粒子を用いることができる。有機高分子微粒子は特に限定されず、従来より免疫測定分野で用いられてきた粒子を用いることができる。
フェニル基を有する重合性単量体としては、例えば、スチレン、クロルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の重合性不飽和芳香族類が挙げられる。また、ジビニルベンゼン等の架橋性単量体も含まれ、適量を存在させても構わない。メタクリロイル基またはアクリロイル基を有する重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸エチルn-プロピル、(メタ)アクリル酸−2ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル等の重合性不飽和カルボン酸エステル類、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等の重合性不飽和カルボン酸類、またこれらの塩類、例えば、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウム、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリレート等の重合性不飽和カルボン酸アミド類が挙げられる。また、エチレングリコール(メタ)アクリレートやプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メチレンビス(メタ)アクリルアミド等の架橋性単量体も含まれ、適量を存在させても構わない。これらの単量体は、1種または2種以上を混合して使用することができる。
【0013】
グラフト重合開始基を含む重合性単量体としては、例えば、クロロメチルスチレン,α-ハロエステル基を有する2−クロロプロピオニルオキシエチルメタクリレート(以下「CPEM」と表記)、2−(2−クロロイソブチロイルオキシ)エチルメタクリレート等が挙げられる。
【0014】
これらのうち、特にスチレンとCPEMからなる共重合体、及びスチレンとメタクリル酸メチル及びCPEMからなる共重合体が好ましい。
また、(2)の単量体の量としては、後述するグラフト鎖の開始点となることから、その密度を決定する重要な因子である。少なすぎると開始点が少なく、グラフト鎖の密度が低下し、色調の低下につながること、多すぎると粒径の単分散性および分散安定性の低下等の問題が考えられるため、(1)の合計量に対して、0.1〜20モル%が好ましいが、イムノクロマト試薬の特徴に合わせて任意に選択できる。
【0015】
上記共重合体の重合方法としては、従来より公知の重合方法を用いることができ、分散重合法、懸濁重合法、乳化重合法、ソープフリー乳化重合法が挙げられるが、ソープフリー乳化重合法が好ましい。
ソープフリー重合の際には、本発明の1つである有機高分子微粒子を構成する単量体の他に、重合開始剤が必須となる。また、水溶性単量体、その他添加剤等を適宜添加することも可能である。
重合開始剤としては、従来より公知の重合開始剤を用いることができ、例えば、水溶性アニオン開始剤であれば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶液が使用可能である。水溶性カチオン開始剤であれば、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩(以下「V−50」と表記)、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−2−メチルプロパン)二塩酸塩等の水溶液が使用可能である。中でも水溶性カチオン開始剤が好ましく、V−50が更に好ましい。
微量の水溶性単量体としては、カチオン性、アニオン性、ノニオン性単量体いずれも用いることができる。カチオン性としてはN−n−ブチル−N−(2−メタクリロイルオキシ)エチル−N,N−ジメチルアンモニウムブロミド(以下「C4−DMAEMA」と表記)、N−(2−メタクリロイルオキシ)エチル−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド等、アニオン性としては、アクリル酸、メタクリル酸、スチレンスルホン酸等,ノニオン性としては、アクリルアミド,ポリエチレングリコールモノメトキシメタクリレート等が挙げられるが、カチオン性が好ましく、C4−DMAEMAが更に好ましい。
その他添加剤としては、メタノール、エタノール等のアルコール類等が挙げられ、
適宜、適量を用いればよい。
上記高分子粒子の好ましい粒径の範囲は50〜300nmであり、さらに好ましい粒径の範囲は200〜300nmである。
【0016】
本発明は、表面に有機グラフト鎖を有するコア粒子と、金属コロイド粒子との複合粒子である。コア粒子と有機グラフト鎖は特に限定するわけではないが、共有結合で結合されていることが好ましい。
【0017】
有機グラフト鎖としては、アミノ基を有する重合性単量体からなる重合体であれば特に限定されず、例えば、2−(N,N−ジメチルアミノ)エチルメタクリレート(以下、「DMAEMA」と表記)、2−(N,N−ジエチルアミノ)エチルメタクリレート,2-アミノエチルメタクリレートの重合体等が挙げられる。
これらのうち、DMAEMAを重合した重合体からなるグラフト鎖が好ましい。
【0018】
有機高分子粒子にグラフト鎖を付与する方法としては、制御リビングラジカル重合として知られている従来より公知の重合方法を用いることができ、例えば、原子移動ラジカル重合法(ATRP)、ニトロキシドを媒介とする重合法(NMP)、可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合法等が挙げられるが、ATRPが好ましい。これは、例えば、K. Matyjaszweski, J. Xia, Chem. Rev., 101 (2001), pp. 2921-2990,M. Kamigaito, T. Ando, M. Sawamoto, Chem. Rev., 101 (2001), pp. 3689-3745に記載の方法を用いて行うことができる。
ATRPで使用する遷移金属錯体は,一電子酸化還元反応により可逆的に炭素ラジカルを生成することができる。中心金属は,ルテニウム,銅,鉄,ニッケル,パラジウム,ロジウム,コバルト,レニウム,マンガン,モリブデン等が挙げられる。配位子は,多座アミン,ピリジン系,ホスフィン,シクロペンタジエン等が挙げられ,中心金属との組み合わせにより,遷移金属触媒の活性が適切に制御される。また,高原子価の遷移金属を用いる場合には,アスコルビン酸,糖,2価のスズ等を用いて,低原子価の遷移金属を生成することもできる。
【0019】
グラフト鎖の鎖長としては、全体の粒径が100〜700nmであれば、特に限定されず、イムノクロマト試薬の特徴に合わせて、最適な鎖長を選択することができるが、粒径が小さすぎると、金属コロイド粒子担体とさほど変わらず、感度の面で優位さが失われかねず、大きすぎると目詰まりしやすい等の問題が生じてくるため、好ましくは、200〜600nm、更に好ましくは、300〜500nmである。
また、グラフト鎖の鎖長は、複合粒子の色調を決定する重要な因子の1つである。鎖長が長ければ、後述する金コロイド粒子の粒径が小さくなりやすく、紫色の複合粒子を作成でき、鎖長が短くなれば、金コロイドの粒径が大きくなりやすく、赤茶色の複合粒子を作製することができる。イムノクロマト試薬の特徴に合わせて、最適な鎖長を選択することができるが、240nmよりも長いと目詰まりを起こしやすくなる為、好ましくは10〜240nmの範囲である。
また、前記高分子粒子におけるグラフト鎖の表面密度は、0.05〜0.20chaims/nm
2である事が好ましい。0.20chains/nm
2より表面密度が大きいと、イムノクロマト試薬として利用する場合にメンブレン上を良好に流れなくなる恐れがある。0.05chains/nm
2より表面密度が小さいと、十分な量の金属コロイドを生成させる事ができない恐れがある。
【0020】
金属コロイド粒子としては、抗体又は抗原を感作させてコンジュゲートを構成することができ、試料と接触させて試料中の被検対象物質(抗原又は抗体)を検出する方法において標識体としての役割を担うことができるものであればいずれでもよい。例えば、金コロイドや白金コロイド、銀コロイド、パラジウムコロイド、銅コロイド、ニッケルコロイド、インジウムコロイド等または、これらの複合コロイドが考えられる。好適には、その作製の容易さ、色調の鮮明さ等から金コロイドが用いられる為、以下金コロイドを例にとって説明する。
金コロイドの粒径としては、10〜80nmが好ましく、より好ましくは10〜50nmである。上記の金コロイドは一般に知られている方法、例えば、加熱したテトラクロロ金(III)酸水溶液にクエン酸三ナトリウム水溶液やクエン酸三アンモニウム水溶液を滴下撹拌することによって製造したものを前記コア粒子と混合して、結合させてもよいが、本発明のコア粒子は、本発明の1つであるアミノ基を有するグラフト鎖を有しているため、テトラクロロ金(III)酸水溶液を添加して、混合するだけで自動的に金コロイドをコア粒子表面に付着させることが可能である。本発明では、本方法が好適に用いられる。
【0021】
ところで、谷口等は、コアシェル粒子ポリマーの表面に金ナノ粒子を結合させる方法を提案した(Colloids and Surfaces A: Physicochem. Eng. Aspects 377(2011) 63-69)。しかし、上記文献には上記方法で得られた粒子がイムノクロマト法に用いられる旨は示唆されておらず、また実際に得られた粒子は粒径や粒度分布等の観点からイムノクロマト法に用いられるものではなかった。そこで、本発明者等は更なる改良を加えることで、イムノクロマト法に用いられる感度等が良好な本発明の複合粒子を完成するに至った。
ここで、金属コロイド粒子そのものに被検対象物質(抗原又は抗体)を接触させる場合は、被検対象物質が金属コロイド粒子の表面に物理吸着する。しかし、複合粒子の表面に付着した金コロイドに被検対象物質を接触させる場合、被検対象物質は金属コロイド粒子の表面に物理吸着しづらい。これはスペーサー分子の立体障害による結合阻害が主要因と考えられた。そこで、本発明者等は更なる研究の結果、スペーサー分子表面に付着した金コロイドの表面に、被検対象物質との結合部を設けておくことを知見した。
金属コロイドの表面に、被検対象物質との結合部を設ける方法としては、金属コロイド表面に1級アミノ基を有する材料で被覆する方法が挙げられる。かかる方法により、後述する
図2(d)の一部拡大図に示すように、金属コロイド粒子の表面に、硫黄原子を介して1級アミノ基を結合させることで、結合部が形成される。
1級アミノ基を有する材料としては、例えば2-アミノエタンチオール、3−アミノプロパンチオール、4−アミノブタンチオール等の1級アミノ基を備えるチオールが挙げられる。これらのうち2-アミノエタンチオールが好ましい。
【0022】
テトラクロロ金(III)酸水溶液の添加量並びに濃度は、最終的な色調やイムノクロマト試薬の特徴に合わせて選択することができる。少なすぎると生成する金コロイドの量が少なく着色度合いが低下し、多すぎると生成する金コロイドの粒径が大きくなり、自然呈色しなくなって着色度合いが低下するので、有機グラフト鎖単量体に対して40〜500モル%が好ましい。本発明の複合粒子を製造した後に、金コロイド表面に抗体(または抗原)を結合させる為の官能基を付与してもよい。例えば、2-アミノエタンチオールを金コロイドと反応させて、アミノ基を導入することができる。尚、本発明の複合粒子と抗体(または抗原)を結合させる方法としては、特に限定されず、物理吸着、上記で述べた官能基を介した化学結合、またはその両者いずれも選択可能である。
【0023】
本発明のイムノクロマト用複合粒子は、平均粒径が100〜2000nm、好ましくは、200〜1000nm、更に好ましくは、300〜800nmの粒子が用いられる。CV値(粒径の変動係数)は10%以下であることが好ましい。尚、CV値は、「粒径分布の標準偏差÷平均粒径×100」により算出される。複合粒子の平均粒径が100nm未満であると、視認性が劣り、2000nmを超えると、メンブレン中で目詰まりを起こす可能性が高まる。尚、本明細書における平均粒径とは、走査型電子顕微鏡により得られた任意の1視野における100個以上の粒子画像を解析して求めた値の平均値を示す。
【0024】
本発明のイムノクロマト用複合粒子の平均粒径は、例えば、有機高分子微粒子を形成させる際における制御、グラフト鎖を形成させる際における制御、金コロイドを生成させる際における制御等のいずれでも可能であるが、イムノクロマトの性能と製造の容易さを考慮すると有機高分子微粒子を形成させる際及びグラフト鎖を形成させる際の組み合わせで最適な粒径に制御することが好ましい。例えば、200nmの有機高分子微粒子にグラフト鎖長を250nmとして、トータル粒径を700nmにしたり、500nmの有機高分子微粒子にグラフト鎖長を100nmとしてトータル粒径を700nm等にしたりすることが可能である。
【0025】
本発明のイムノクロマト用複合粒子を検出用担体として用いた診断用イムノクロマト試薬も本発明の1つである。診断用イムノクロマト試薬として用いられる項目は、例えば、インフルエンザウイルス、RSウイルス、アデノウイルス、ロタウイルス、ノロウイルス等が挙げられる。これらの項目に対応する抗体を本発明のイムノクロマト用複合粒子に結合させることで抗体感作粒子を作製し、イムノクロマト試薬とすることができる。
【0026】
また、本発明の診断用イムノクロマト試薬を用いれば、例えばイムノクロマトグラフ法の原理を用いた診断用テストストリップにおいて、移動層の液体中に抗体感作粒子を含浸させることによってコンジュゲートパッドに含有させ、メンブレン上に免疫反応部位として固定化した被検物質である抗原(または抗体)に対する抗体(または抗原)と結合、凝集させることによって、検体中の被検物質の存在を判定することができる。このようなイムノクロマト測定方法もまた、本発明の1つである。なお、本発明の粒子は、フロースルー型免疫アッセイにも当然に使用できる。
【0027】
[複合粒子の製造方法]
複合粒子は、上述の各項目で挙げた材料や製法を適宜組み合わすことで製造することができるが、
図2(a)〜
図2(d)の工程図を参照しながら、複合粒子の製造方法の一態様として第三微粒子の例を挙げて説明する。
まず
図2(a)に示すように、コア粒子としてポリスチレン粒子と、スペーサー分子としてDMAEMAを用意する。用意したポリスチレン粒子とDMAEMAを混合し、原子移動ラジカル重合法(ATRP)を用いて、ポリスチレン粒子の表面にDMAEMAを結合させる。そして、
図2(b)に示す第一微粒子を得る。
次に、第一微粒子とHAuCl
4溶液を混合し、第一微粒子の表面に金コロイド粒子を付着させる。そして、
図2(c)の第二微粒子を得る。
第二微粒子と2アミノエタンチオールを混合する。そして、
図2(d)の一部拡大図に示すように、金コロイド粒子の表面に、硫黄原子を介して一級アミノ基を結合させることで、金コロイド粒子の表面に結合部が形成される。以上により、
図2(d)に示す第三微粒子が製造される。
【実施例】
【0028】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明する。
【0029】
[有機高分子微粒子(コア粒子)の作製]
撹拌翼、還流用冷却管、窒素導入管を取り付けた200mL容の3つ口フラスコに、脱イオン水100g、スチレン(関東化学社製)3.6g(34mmol)、C4-DMAEMA5.0mg(17μmol)、重合開始剤V−50(和光純薬工業社製)0.136g(0.5mmol)を添加し、100rpmで攪拌しながら、容器内を窒素置換した後、60℃で重合を開始した。重合開始4時間後にCPEM0.375g(1.7mmol)を添加し、合計で10時間重合を行った。
得られた白色溶液をメッシュフィルターでろ過、遠心分離により精製(14500rpm、15分、精製回数4回以上)し、目的の有機高分子微粒子を得た(コア粒子1aとする)。
以下、表1に示すように原料の量を変更して、表1の粒子を同様に作製した。
【表1】
【0030】
[グラフト鎖の付与(作製)]
100mL容の2つ口フラスコに、水中に分散したコア粒子1a(1.0wt%,30mL)、DMAEMA0.94g(6.0mmol)、金属錯体として塩化銅(I)/トリス[2−(ジメチルアミノ)エチル]アミン(150μmol)、還元剤としてアスコルビン酸21.1mg(120 μmol)を添加し、スターラーで撹拌しながら、容器内を窒素置換した後、30℃で2時間重合を行った。
得られた白色溶液を遠心分離により精製(14,500rpm、15min、精製回数3回以上)し、微粒子表面に有機グラフト鎖を付与した(第一微粒子1bとする)。
【0031】
[複合粒子の作製]
20mL容のサンプル瓶に、第一微粒子1bの水分散体(0.5wt%、10mL)と、金コロイド前駆体であるテトラクロロ金(III)酸塩をコア-シェル粒子に導入されたDMAEMAモノマーユニットに対して170mol%となる仕込み濃度で加え、室温で24時間撹拌し、反応させた。
得られた着色溶液を遠心分離により精製(14,500rpm、20min、精製回数4回以上)し、複合粒子を得た(第二微粒子1cとする)。
【0032】
[複合粒子へのアミノ基の付与(作製)]
20mL容のサンプル瓶に、第二微粒子1cの水分散体(0.5wt%、10mL)と、2-アミノエタンチオール(1μmol)を加え、室温で24h撹拌し、反応させた。
得られた着色溶液を、遠心分離により精製(14,500rpm,20min,精製回数4回以上)し、金コロイド表面にアミノ基を有する複合粒子を得た(第三微粒子1dとする)。
最終的に得られた粒子の粒子径は表1に示した通りである。
【0033】
[適用例]
<インフルエンザウィルス測定用イムノクロマト試薬の作製>
1.複合粒子標識抗A型インフルエンザウィルスモノクローナル抗体(抗A型インフルエンザ抗体コンジュゲート)の調製
前述した本発明の粒子(第三微粒子1d)を含む溶液2mLを12,000rpmで5分間遠心し沈降させた後、上清を除去し、重量%濃度が2%となるよう20mM MES緩衝液(pH6.5)で懸濁した。当該粒子懸濁液500μLへ、5mg/mL A型インフルエンザモノクローナル抗体(Clone#622212)200μL、15mg/mL 1‐エチル‐3‐[3‐(ジメチルアミノ)プロピル]カルボジイミド(EDC)160μL、20mM MES緩衝液(pH6.5)140μLを添加し、室温で2時間転倒混和した。その後、12,000rpmで5分間遠心し粒子を沈降させた後、上清を除去し、ブロッキング緩衝液1mLで再懸濁し、室温で2時間転倒混和した。再び12,000rpmで5分間遠心し粒子を沈降させ、上清を除去した後、ブロッキング緩衝液1mLで再懸濁し、コンジュゲートを得た。
なお、前述のブロッキング緩衝液は、2% ウシ血清アルブミン(BSA)、10%スクロース含有50mMトリス緩衝液(pH8.5)の組成よりなる。
【0034】
2.コンジュゲート塗布パッドの作製
上記で調製した抗A型インフルエンザ抗体コンジュゲート150μL、カゼイン緩衝液300μLを混合し、22mm幅のグラスファイバー製パッド(Lydall社製、No.2771)にディスペンサー(Bio Dot社製、XYZ3050)にて12.5μL/cmを塗布した後、湿度30%RH以下の環境において3時間乾燥させ、コンジュゲートパッドとした。また、必要に応じて増感剤や界面活性剤等を添加する場合には、前記コンジュゲート溶液に必要量を添加後、同様の操作を行えばよい。
なお、前述のカゼイン緩衝液は、1.3%カゼイン、4%スクロース含有20mMTris(pH7.5)緩衝液の組成よりなる。
【0035】
3.抗インフルエンザウィルス抗体固定化膜の作製
抗A型インフルエンザウイルスモノクローナル抗体(Clone#62241A)を1.0mg/mLとなるよう、2.5%スクロース含有10mMリン酸緩衝液(pH7.2)にて希釈しテストライン用抗体液とした。また、ヤギ抗マウスIgG抗体を0.75mg/mLとなるよう、2.5%スクロース含有10mMリン酸緩衝液(pH7.2)にて希釈しコントロールライン用抗体液とした。25mm幅のニトロセルロース膜(Sartorius社製、CN140)に、ディスペンサー(Bio Dot社製、XYZ3050)を用い、約1cmの間隔をあけて各抗体液を1μL/cmずつ塗布した後、ドライオーブン内で70℃にて45分間乾燥させ、抗インフルエンザウイルス抗体固定化膜とした。
【0036】
4.テストストリップの作製
プラスチック製粘着シート(a)中央部に上述の抗インフルエンザウイルス抗体固定化膜(b)を貼り、展開上流部にテストライン(c)、下流側にコントロールライン(d)となるように配置した。抗インフルエンザウイルス抗体固定膜の両端に重ねながら、展開上流側には上記2.で作製したコンジュゲート塗布パッド(e)、下流側には吸収パッド(f)を配置装着した。このように各構成要素を重ね合わせた構造物を4mm幅に切断し、
図1に示すイムノクロマトグラフィー用テストストリップを作製した。
【0037】
5.検体抽出液及び感度確認用サンプルの調製
200mM 塩化カリウム、150mM L−アルギニン、0.25% BSA、5% Starting Block(Thermo Fisher Scientific社製、No.37542)、0.5% Brij35(登録商標:シグマ社製、No.P1254−500G)を含む20mM トリス緩衝液(pH8.5)を検体抽出液とした。また、不活化A型インフルエンザウイルス液を1.7×10
6TCID
50/mLとなるよう上記検体抽出液で希釈し、感度確認用サンプルとした。
【0038】
6.試験結果
上記感度確認用サンプル135μLに上記4.で作製したテストストリップを浸漬し、10分後にA型テストライン、コントロールラインの発色強度を測定し、試薬性能評価とした。その結果を表2に示す。尚、発色強度測定には、金コロイドの発色見本から0.25を単位として0.25〜4.0の数値をつけたカラーチャートを用い、n=3で測定し、平均値を感度とした。カラーチャートは、0.25以上が目視の検出限界であり、2.5以上であれば、目視判定や検出感度に優れたものと言える。
また、表2のサンプル番号1〜8は、それぞれ微粒子1〜8に対応する。
【表2】