(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
検出対象からの反射波を受信するアンテナ装置が出力する信号に基づいて生成されるデータであって、第1分解能で規定された位置に対応する信号強度を示す第1データに対し、平滑化処理を行って第2データを生成するフィルタ処理部と、
前記フィルタ処理部により生成された前記第2データに基づいて、前記第1分解能より分解能が低い第2分解能で規定された位置に対応する信号強度を示す第3データを生成する低分解能データ生成部と、
前記第2分解能で規定される範囲に前記検出対象が存在することを、前記第3データに基づいて検出する検出処理部と、
前記第3データに対するパルス圧縮処理をするパルス圧縮処理部と、
前記パルス圧縮処理部によりパルス圧縮処理された結果をパルス積分するパルス積分処理部と、を備え、
前記検出処理部は、前記パルス積分処理部によりパルス積分された結果に基づいて、前記第2分解能で規定される範囲に前記検出対象が存在することを検出し、
前記第1データと、前記検出処理部により前記検出対象が存在することが検出された前記範囲を示すデータとに基づいて、前記検出対象の移動を推定する推定処理部を更に備える、
信号処理装置。
検出対象からの反射波を受信するアンテナ装置が出力する信号に基づいて生成されるデータであって、第1分解能で規定された位置に対応する信号強度を示す第1データに対し、平滑化処理を行って第2データを生成するフィルタ処理部と、
前記第2データに基づいて、前記第1分解能より分解能が低い第2分解能で規定された位置に対応する信号強度を示す第3データを生成する低分解能データ生成部と、
前記第2分解能で規定される範囲に前記検出対象が存在することを、前記第3データに基づいて検出する検出処理部と、
前記第1データに基づいてパルス圧縮処理をするパルス圧縮処理部と、
前記パルス圧縮処理部によりパルス圧縮処理された結果をパルス積分するパルス積分処理部と、を備え、
前記フィルタ処理部は、前記第1データに対応付けられた前記パルス積分の結果から前記第2データを生成し、
前記低分解能データ生成部は、前記フィルタ処理部により生成された前記第2データに基づいて前記第3データを生成し、
前記検出処理部は、前記低分解能データ生成部により生成された前記第3データに基づいて、前記第2分解能で規定される範囲に前記検出対象が存在することを検出し、
前記第1データと、前記検出処理部により前記検出対象が存在することが検出された前記範囲を示すデータとに基づいて、前記検出対象の移動を推定する推定処理部を更に備える、
信号処理装置。
検出対象からの反射波を受信するアンテナ装置が出力する信号に基づいて生成されるデータであって、第1分解能で規定された位置に対応する信号強度を示す第1データに対し、平滑化処理を行って第2データを生成するフィルタ処理部と、
前記第2データに基づいて、前記第1分解能より分解能が低い第2分解能で規定された位置に対応する信号強度を示す第3データを生成する低分解能データ生成部と、
前記第2分解能で規定される範囲に前記検出対象が存在することを、前記第3データに基づいて検出する検出処理部と、
前記検出対象の位置を検出する方向に沿って、前記第3データの位置と、前記第3データの隣に配された他の第3データの位置との間の所定の位置に対応する補間データを生成する補間処理部と、を備え、
前記検出処理部は、前記第3データと前記補間データとに基づいて、前記第2分解能で規定される範囲に検出対象が存在することを検出する、
信号処理装置。
検出対象からの反射波を受信するアンテナ装置が出力する信号に基づいて生成されるデータであって、第1分解能で規定された位置に対応する信号強度を示す第1データを生成する受信部と、
前記受信部により生成された第1データに対し、前記第1分解能より分解能が低い第2分解能に対応する単位距離当たりの前記第1データの変化量を制限した第2データを生成するフィルタ処理部と、
前記フィルタ処理部により生成された前記第2データに基づいて、前記第2分解能で規定された位置に対応する信号強度を示す第3データを生成する低分解能データ生成部と、
前記第2分解能で規定される範囲に前記検出対象が存在することを、前記第3データに基づいて検出する検出処理部と、
前記第3データに対するパルス圧縮処理をするパルス圧縮処理部と、
前記パルス圧縮処理部によりパルス圧縮処理された結果をパルス積分するパルス積分処理部と、を備え、
前記検出処理部は、前記パルス積分処理部によりパルス積分された結果に基づいて、前記第2分解能で規定される範囲に前記検出対象が存在することを検出し、
前記第1データと、前記検出処理部により前記検出対象が存在することが検出された前記範囲を示すデータとに基づいて、前記検出対象の移動を推定する推定処理部を更に備える、
レーダ受信機。
検出対象からの反射波を受信するアンテナ装置が出力する信号に基づいて生成されるデータであって、第1分解能で規定された位置に対応する信号強度を示す第1データに対し、前記第1分解能より分解能が低い第2分解能に対応する単位距離当たりの前記第1データの変化量を制限した第2データを生成し、
前記生成した前記第2データに基づいて、前記第2分解能で規定された位置に対応する信号強度を示す第3データを生成し、
前記第2分解能で規定される範囲に前記検出対象が存在することを、前記第3データに基づいて検出し、
前記第3データに対するパルス圧縮処理をし、
前記パルス圧縮処理された結果をパルス積分する過程を含む信号処理方法であって、
前記検出する際に、前記パルス積分された結果に基づいて、前記第2分解能で規定される範囲に前記検出対象が存在することを検出し、
前記第1データと、前記検出対象が存在することが検出された前記範囲を示すデータとに基づいて、前記検出対象の移動を推定する過程を更に含む、
信号処理方法。
検出対象からの反射波を受信するアンテナ装置が出力する信号に基づいて生成されるデータであって、第1分解能で規定された位置に対応する信号強度を示す第1データに対し、前記第1分解能より分解能が低い第2分解能に対応する単位距離当たりの前記第1データの変化量を制限した第2データを生成するステップと、
前記生成した前記第2データに基づいて、前記第2分解能で規定された位置に対応する信号強度を示す第3データを生成するステップと、
前記第2分解能で規定される範囲に前記検出対象が存在することを、前記第3データに基づいて検出するステップと、
前記第3データに対するパルス圧縮処理をするステップと、
前記パルス圧縮処理された結果をパルス積分するステップとを、コンピュータに実行させるためのプログラムであって、
前記検出するステップにおいて、前記パルス積分された結果に基づいて、前記第2分解能で規定される範囲に前記検出対象が存在することを検出し、
前記第1データと、前記検出対象が存在することが検出された前記範囲を示すデータとに基づいて、前記検出対象の移動を推定するステップを更に前記コンピュータに実行させる、
プログラム。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態の信号処理装置、レーダ受信機、信号処理方法及びプログラムを、図面を参照して説明する。
【0009】
(第1の実施形態)
(レーダ装置の構成)
図1は、実施形態におけるレーダ装置1の構成図である。
レーダ装置1は、例えばパルスレーダである。レーダ装置1は、レーダ送信機(TX)10とレーダ受信機(RX)20とを含んでもよいが、これに限定されない。レーダ装置1は、移動する検出対象30を検出する。
【0010】
TX10は、例えば、変調方式を規定する所定の規則に従って変調した変調波をパルス波にして、送信アンテナTXAから送出する。変調波の変調方式は、周波数変調であってもよく、予め定められた符号則に従ったパルス変調であってもよい。なお、変調方式を規定する規則は、参照情報としてRX20と共有される。TX10は、上記のパルス波の送出を、所定の時間比率で断続させて、一定のPRI( Pulse Repetition Interval )で繰り返す。
【0011】
RX20は、TX10から送信された変調波(電波)が検出対象30等において反射された電波をアンテナRXAにより受信する。実施形態のRX20は、例えば、レンジ方向に移動する検出対象30、又は、レンジ方向の速度成分を有して移動する検出対象30を検出する。
【0012】
RX20は、受信部210と信号処理部220(信号処理装置)とを含んでもよいが、これに限定されない。
【0013】
受信部210は、無線信号処理部211と、受信処理部212とを含んでもよいが、これに限定されない。無線信号処理部211は、アンテナRXA(アンテナ装置)で受信した電波に対応するRF信号を受信IF信号に変換する。受信処理部212は、無線信号処理部211により生成された受信IF信号を入力信号とし、受信IF信号に対するアナログデジタル(A/D)変換と直交周波数変換とを実施して、IチャネルとQチャネルとで構成されるディジタルIQ信号に変換し、第1分解能で規定された位置に対応する信号強度を示すディジタルIQ信号として生成する。以下、このディジタルIQ信号を、本実施形態における「第1データ」という。第1データは、検出対象30からの反射波を受信するアンテナRXAが出力するRF信号に基づいて生成される。例えば、受信IF信号に対するA/D変換時のサンプリングレートfsに従ってサンプリングして生成された第1データから、レンジ方向の位置が特定される。この場合、検出対象の位置を特定する方向をレンジ方向に沿う方向に定めて、その方向の検出対象までの距離が第1分解能で検出される。上記の第1分解能とは、サンプリングレートfsに従ってサンプリングして生成された第1データから識別可能な位置の精度を示す。
【0014】
信号処理部220は、フィルタ処理部221と、低分解能データ生成部222と、パルス圧縮処理部223と、パルス積分処理部224と、CFAR(Constant False Alarm Rate)処理部225と、検出処理部226と、レンジウォーク遷移推定処理部230(推定処理部)と、出力部240とを含んでもよいが、これに限定されない。
【0015】
フィルタ処理部221は、レンジ方向に第1分解能を有する第1データに対し、平滑化処理を行って、帯域を制限した第2データを生成する。この平滑化処理により、レンジ方向の単位距離当たりの変化量が制限される。
【0016】
低分解能データ生成部222は、第2データを入力データとし、第2データを所定の比率で間引いて、レンジ方向に第1分解能より低い第2分解能で規定された位置に対応する信号強度を示す第3データを生成する。第1分解能より低い第2分解能とは、第1分解能に対応するサンプリング周期(1/fs)より、長い周期でサンプリングされたデータから識別可能な位置の精度を示す。上記のとおり、第1データと第2データは、第1分解能のデータであり、第3データは、第2分解能のデータである。なお、以下の説明で、第1分解能で規定される範囲を示すレンジビンを第1レンジビンと呼び、第2分解能で規定される範囲を示すレンジビンを第2レンジビンと呼ぶ。
【0017】
フィルタ処理部221と低分解能データ生成部222との組み合わせにより、デシメーション処理が実施される。デシメーション処理とは、サンプリングレートfsでサンプリングされたデータを、そのデータの数を(1/n)にするように間引いて、サンプリングレート(fs/n)のデータを生成する処理である。上記のnは、2以上の自然数である。例えば、低分解能データ生成部222は、デシメーション処理として、サンプリングレートfsの第2データについて、データ数を(1/n)に間引いた第3データを生成する。
【0018】
なお、上記のデシメーション処理に先立ち、フィルタ処理部221は、対象とする信号に対して平滑化処理(デシメーションフィルタ)を実施して、帯域を制限する。低分解能データ生成部222は、デシメーションフィルタが実施された後の信号(第2データ)から、データの数を間引いた信号(第3データ)を生成する。低分解能データ生成部222は、第3データを、第2データと同じ所定の距離範囲に対応づける。
【0019】
パルス圧縮処理部223は、低分解能データ生成部222によって生成された第3データに基づいてパルス圧縮処理を実施して、パルス圧縮処理の結果のパルス信号を示す第4データを生成する。
【0020】
パルス積分処理部224は、パルス圧縮処理部223によって生成された第4データを、所定の期間についてコヒーレントパルス積分し、その結果(積分後パルス信号)を第2レンジビンに対応させる。上記の所定の期間は、コヒーレントパルス積分を実施する範囲を規定する期間(CPI( Coherent Processing Interval ))である。
【0021】
CFAR処理部225は、パルス積分処理部224によるコヒーレントパルス積分の結果に基づき、誤警報確率及び検出確率を条件に加えた評価指標を算出する。評価指標を算出する処理は、CFAR処理部225は、例えば、対象の第2レンジビンに対してレンジ方向に隣接する第2レンジビンのデータに基づいて、誤警報確率が高くなる範囲を除くような受信強度範囲を定める評価指標を定め、コヒーレントパルス積分の結果に評価指標を適用して補正する。また、CFAR処理部225は、後段の検出処理のための閾値レベルTHLを定める。
【0022】
検出処理部226は、CFAR処理部225により定められた閾値レベルTHLに基づいて、パルス積分処理部224によるパルス積分の結果を評価して、検出対象30が存在し得る第2レンジビンを特定する。例えば、検出処理部226は、パルス積分処理部224によりパルス積分された結果が、第4データが閾値レベルTHL(所定値)より大きい場合に、検出対象30が存在し第2レンジビンにパルスがあると判定する。以下の説明において、パルスがあると判定された第2レンジビンのことを、検出対象30が存在し得る第2レンジビンという。
【0023】
レンジウォーク遷移推定処理部230は、第1データと、検出処理部226によって検出対象30が存在し得ると特定された第2レンジビンとに基づいて、その第2レンジビンの範囲内における検出対象30の移動を推定する。検出対象30の移動の推定する方法については後述する。
【0024】
出力部240は、検出処理部226による検出結果と、レンジウォーク遷移推定処理部230による処理の結果とを出力する。
【0025】
(RX20における検出対象の位置を検出する処理について)
以下、RX20の検出対象の位置を検出する処理について説明する。
図2は、実施形態のRX20における検出対象の位置を検出する処理の手順を示すフローチャートである。
【0026】
アンテナRXA(アンテナ装置)で受信された電波に対応するRF信号が、無線信号処理部211により受信IF信号に変換される。受信処理部212は、無線信号処理部211により生成された受信IF信号についてA/D変換と直交周波数変換とを実施して、IチャネルとQチャネルとで構成される第1データを生成する(S10)。
【0027】
次に、フィルタ処理部221は、受信処理部212により生成された第1データに対してデシメーションフィルタによる平滑化処理を実施して第2データを生成し(S21)、低分解能データ生成部222が、フィルタ処理部221により生成された第2データを所定の比率で間引いて第2分解能で規定された位置に対応する信号強度を示す第3データを生成する(S22)。
【0028】
次に、パルス圧縮処理部223は、低分解能データ生成部222によって生成された第3データに基づいて、TX10から送信されたパルス波に対応させたパルス圧縮処理を実施する(S23)。
【0029】
次に、パルス積分処理部224は、パルス圧縮処理部223によって第3データのパルス圧縮処理が実施された後の第4データをコヒーレントパルス積分し、その結果を第2分解能の第2レンジビンに対応させる(S24)。
【0030】
次に、CFAR処理部225は、パルス積分処理部224によるコヒーレントパルス積分の結果に基づいて、誤警報確率が高くなる範囲を除くように評価指標を決定し、評価指標に基づいてコヒーレントパルス積分の結果を補正する。CFAR処理部225は、受信強度範囲を判定するための閾値レベルTHLを決定する(S25)。
【0031】
次に、検出処理部226は、閾値レベルTHLに基づいて、CFAR処理部225により補正されたコヒーレントパルス積分の結果を評価して、検出対象30が存在し得る第2レンジビンを検出する(S26)。検出処理部226は、検出対象30が存在し得る第2レンジビンが存在するか否かを判定し(S27)、検出対象30が存在し得る第2レンジビンが存在しない場合には、S40の処理に進む。
【0032】
一方、検出対象30が存在し得る第2レンジビンが存在する場合には、レンジウォーク遷移推定処理部230(推定処理部)は、第1データと、検出処理部226により特定された第2レンジビンとに基づいて、その第2レンジビンの範囲内における検出対象30の移動を推定する(S30)。検出対象30の移動を推定する処理の詳細は後述する。
【0033】
次に、出力部240は、検出処理部226による検出結果と、レンジウォーク遷移推定処理部230による処理の結果とを出力し(S40)、図示する一連の処理を終える。
【0034】
以上に示す手順で上記の処理を実施することにより、RX20は、下記のように動作する。
【0035】
図3は、実施形態のRX20において検出対象30を検出するまでの動作の一例を示す図である。
【0036】
上記の各図の横軸は、レンジ方向の距離を示し、目盛のある位置は、サンプリングにより取得されたデータが存在する位置を示す。また、縦軸は、Iチャネル(Qチャネル)の各信号の信号強度Pを示す。なお、図示するように、説明を簡略化するためIチャネルのデータのみを例示し、Qチャネルのデータの記載を省略する。RX20は、Qチャネルのデータについても図示するIチャネルのデータについての処理と同様の処理を実施する。
【0037】
なお、同図は、検出対象30が、k回目のパルスから(k+2)回目のパルスの間にレンジ方向に等速直線運動により移動してレンジウォークが発生し、それぞれの回において、RX20がその反射波を受信した結果、最大n個のレンジビンに滞留する場合の一例を示す。
【0038】
図3の上側3段の左側に、k回目、(k+1)回目、(k+2)回目のそれぞれの回の検出により取得された第1データと、第1データを平滑化処理して生成された第2データを示す。
図3の上側3段の右側に、k回目、(k+1)回目、(k+2)回目のそれぞれの回の第2データから間引かれた第3データと、第3データに対するパルス圧縮処理の結果を示す。
【0039】
図3の上側3段の左側に示すk回目のデータとして、レンジ方向について3(x−1)から3(x+2)までの範囲が示されており、X印が第1データの信号強度を示し、◇印及び◆印が第2データの信号強度を示し、◇印及び◆印を結ぶ曲線Gは、第2データの近似曲線を示す。
図3に示すように第1データの各値にはノイズなどが含まれており、ランダムにその値が変動する。RX20が検出対象30からの反射波を受信したことにより、(3x+2)の位置の第1データの値が、他の位置に対して突出して検出されている。但し、上記の突出量は、ノイズを含む第1データの変動幅に対して小さく、(3x+2)の位置の第1データだけから、検出対象30からの反射波を受信したことを特定することは困難である。
【0040】
RX20は、上記の第1データに対し、フィルタ処理部221がフィルタ処理による平滑化処理を実施して第2データを得る。第2データでは、ノイズ成分が抑圧され、信号強度の上昇が(3x+2)の位置を中心に確認できる。
【0041】
例えば、低分解能データ生成部222は、デシメーション処理として、3個の連続する第2データから1つを選択する。低分解能データ生成部222は、すなわち対象範囲の第2データの全個数を3とし、同じ対象範囲から選択するデータの個数を1とする比率で間引いた第3データを生成する。
図3の場合では、第3データとして選択された第2データを白抜きの◇印で示し、選択されなかった第2データを◆印で示す。
【0042】
図3の上側3段の右側の各図には、白抜きの◇印の第3データと、第3データをパルス圧縮した結果である第4データ(丸印)とが示されている。第3データの分布に比べ、第4データの分布の方が、尖頭率が高く、レンジ方向のエネルギー分布が集中していることが分かる。
【0043】
k回目のパルスに対応する信号について示したが、(k+1)回目、(k+2)回目の回に検出された結果についても、k回目と同様の処理が行われ、各図がそれぞれの場合の結果を示す。k回目と、(k+1)回目と、(k+2)回目のそれぞれの回の相違点は、検出対象30がレンジ方向に移動したことにより、各波形の存在する位置が異なる点である。
【0044】
図3の下段側に、k回目から(k+2)回目の各回の第4データに基づいたコヒーレントパルス積分の結果を示す。この結果では、(3(x+1))の位置にピークが位置する。
【0045】
次に、
図4と
図5を参照し、第1データと第4データとの関係について説明する。
図4と
図5は、実施形態のRX20における第1データと第4データの関係を示す図である。
図4に、移動する検出対象を検出した場合を示し、
図5に、移動しない検出対象を検出した場合を示す。また、
図4と
図5の上側3段に、k回目、(k+1)回目、(k+2)回目にそれぞれ送信されたパルスに対応する第1データを示し、
図4と
図5の最下段に、第4データ、すなわちコヒーレントパルス積分の結果を、モデル化して示す。
【0046】
図4は、k回目の検出で(3(x+1))の位置に、(k+1)回目の検出で(3(x+1)+1)の位置に、(k+2)回目の検出で(3(x+1)+2)の位置に、検出対象30が存在していた場合を例示する。この場合の第1データは、その反射波のエネルギーが異なる位置に検出されて、
図4の上側に示すように、各回で互いに異なる位置にパルスが存在するデータになる。また、パルス圧縮の結果から、第2分解能で規定される範囲に比較的信号強度が高い回数が3回になり、その結果をコヒーレントパルス積分することにより3回分の信号強度が積算される。RX20は、
図4の最下段に示すように積算された信号強度を、コヒーレントパルス積分の結果の第4データとして得ることができる。RX20は、その第4データに対するCFAR処理を実施して、CFAR処理の結果を判定することで、検出対象が存在する位置を第2分解能の検出精度で特定する。
【0047】
また、
図5に、k回目から(k+2)回目の3回の検出で、何れの回も(3(x+1)+1)の位置に検出対象30が存在していた場合を例示する。この場合の第1データは、その反射波のエネルギーが同じ位置に検出されて、
図5の上段に示すように、各回ともに同じ位置にパルスが存在するデータになる。
図5の場合も
図4と同様に、パルス圧縮とコヒーレントパルス積分がなされて、3回分の信号強度が積算される。RX20は、
図5の下段に示すように積算された信号強度を、コヒーレントパルス積分の結果の第4データとして得ることができ、
図4の場合と同様のCFAR処理と、その結果の判定とを実施することで、検出対象が存在する位置を第2分解能の検出精度で特定する。
【0048】
(検出された検出対象30の詳細位置の検出について)
RX20は、以下に示す処理をさらに実施することで、デシメーション処理を実施して得た検出対象30の第2分解能で示された位置を利用して、第1分解能でその位置を検出する。
【0049】
図6は、実施形態のRX20が検出対象30を第1分解能で検出する処理を説明するための図である。
図6に示す範囲は、CPIに対応する第2分解能で規定される範囲を示す。レーダ装置1では、TX10によりPRIの周期で複数回のパルスが送信され、パルスの送信に対応してRX20が検出した結果をパターン化したものである。なお、検出対象30は、少なくともCPIの範囲内では等速直線運動で移動するものと仮定する。
【0050】
図6に示す例では、第2分解能で規定される範囲内に、第1分解能で規定される3x、(3x+1)、及び(3x+2)の3つの範囲を含み、PRIの周期で、k、(k+1)、及び、(k+2)の3回検出したものである。例えば、
図6(a)に、移動する検出対象30が、k回目に3xの第1レンジビンに検出され、(k+1)回目に(3x+1)の第1レンジビンに検出され、(k+2)回目に(3x+2)の第1レンジビンに検出された場合のパターンを示す。このパターンは、検出可能な範囲でレンジ方向の移動速度が最も速い場合のパターンである。このパターンでは、3個の第1レンジビンに渡って移動が検出されることを示す。
図6(b1)、(b2)、(c1)、(c2)に、上記と同様に、2個の第1レンジビンに渡って移動が検出されることを示すパターンを示す。
図6(d1)、(d2)、(d3)に、上記と同様に、検出対象30が存在し、第1レンジビンを跨ぐ移動が検出されずに、特定の第1レンジビンに検出されたことを示すパターンを示す。
【0051】
レンジウォーク遷移推定処理部230は、第1データと上記の各パターンとの相関性を評価して、第1データと相関性が高い上記のパターンを抽出する。例えば、レンジウォーク遷移推定処理部230は、第1データに対しパルス圧縮を実施して、その結果に基づいてコヒーレントパルス積分を実施する。レンジウォーク遷移推定処理部230は、上記のコヒーレントパルス積分を、上記の各パターンに基づいてそれぞれ実施する。例えば、レンジウォーク遷移推定処理部230は、
図6(a)に示すパターンについては、k回目の3xのレンジビンで検出されたデータと、(k+1)回目の(3x+1)のレンジビンで検出されたデータと、(k+2)回目に(3x+2)のレンジビンで検出されたデータとに対するパルス積分を実施する。他のパターンについても同様である。レンジウォーク遷移推定処理部230は、パターンごとに実施したコヒーレントパルス積分の結果から、その結果が最も大きな値を示したパターンを真の遷移として検出し、当該パターンに対応するレンジ方向の位置と移動速度とを、その検出結果として出力する。この結果から、RX20は、第1分解能の検出精度で、検出対象30のレンジ方向の位置と移動速度とを検出する。
【0052】
(信号対雑音比の定量的な評価について)
RX20における信号対雑音比の定量的な評価について説明する。レンジウォークにより、信号エネルギーがn個のレンジビンに均等に分散していると仮定する。この場合の基本動作における定式化は以下のようになる。RX20がデシメーション処理を実施する前の段階で、パルスが含まれるレンジビンにおける信号電力をS、レンジ全体における平均雑音電力をNとすると、信号対雑音比SNRは、(S/N)となる。
【0053】
例えば、フィルタ処理部221によるデシメーションフィルタを、レンジ方向に連続するm個(以下、点数mという。)のサンプル点に対応する幅で平均化する移動平均処理を実施するフィルタとして構成する。移動平均処理は高域遮断フィルタの特性を持ち、その点数mの逆数(1/m)が遮断周波数fcに対応するため、デシメーションフィルタとしての一般性を失わない。フィルタ処理部221が、点数mを、上記のnにして移動平均処理を実施すると、平均雑音電力はN/m、信号電力はS/mとなる。移動平均処理が実施された後の信号の信号対雑音比SNRは、(S/N)となり、デシメーション前後で信号対雑音比SNRは変化しない。その一方で、上記の移動平均処理が実施された後の信号のレンジビン幅(第2レンジビンの幅)は、第1レンジビンの幅のn倍に拡大される。n倍に拡大された第2レンジビンの幅は、前述の第2分解能に対応するものになる。
【0054】
さらに、パルス積分処理部224によるコヒーレントパルス積分処理が実施され、そのCPI期間中にP個のパルスがあると、積分後のパルス信号の信号対雑音比SNRは、(PS/N)になる。
【0055】
RX20は、上記のようなデシメーション処理を実施することにより、雑音電力をNに維持しつつ、CPI期間中のすべてのパルスを単一の第2レンジビン上で加算させ、信号対雑音比SNRを(PS/N)に改善することができる。なお、デシメーションフィルタとして、レンジ方向の移動平均処理を実施する場合を例示したが、これに限定されない。例えば、RX20は、レンジ方向の移動平均処理に代えて、同様の高域遮断特性を有するフィルタ処理による帯域制限を実施してもよく、或いは、加重付き移動加算による帯域制限を実施してもよい。それらの場合も同様の効果を得ることができる。
【0056】
(RX20による信号処理の結果)
図7と
図8を参照して、実施形態のRX20による信号処理の結果について説明する。
【0057】
図7は、実施形態のRX20におけるパルス積分後のパワースペクトルの一例を示す図である。
図7の横軸がレンジ方向の位置を示し、縦軸が信号強度を示す。
図7において、Index=1706の位置にパルスを設定した場合に、本実施形態によるデシメーション処理を実施して得られた結果を×印で示し、比較例としてデシメーション処理を実施せずに得られた結果を○印で示して対比する。比較例の場合には、Index=1706〜1710の間にパルスが分散している。一方、本実施形態のデシメーション処理を実施した場合の結果では、パルスがIndex=1708の位置に集中しており、比較例と対比して利得が4dB程度向上している。なお、設定したパルスの位置に対し、デシメーション処理を実施した結果のパルスの位置に差が生じているが、この差は、デシメーションフィルタの群遅延特性によるものである。
【0058】
図8は、実施形態のRX20における探知確率と所要SNRの関係を示す図である。
図8に、誤警報確率が10
-6になる探知確率と所要SNRとの関係を、RX20と比較例のレーダ装置とを対比して示す。上述のとおり、RX20は、比較例のレーダ装置に対して+4dBの信号対雑音比SNRが向上したことにより、探知確率についても改善が見られる。例えば、ある信号対雑音比SNRにおける探知確率について比較すると、比較例のレーダ装置の探知確率が0.2であった場合でも、RX20では、その値が0.5に向上する。
【0059】
ここで、
図9を参照して、RX20と比較例のレーダ装置とを対比する。
図9は、比較例のレーダ装置のコヒーレントパルス積分の結果を示す図である。比較例を示す
図9は、本実施形態のRX20について示す
図4に対応する。
図9の上段に、
図4の上段に示す信号と同様の信号を比較例のレーダ装置が検出した場合を示す。この場合、比較例のレーダ装置は、
図9の下段に示す結果を得る。要するに、比較例のレーダ装置は、デシメーション処理を実施しないため、レンジウォークが生じている場合のコヒーレントパルス積分の結果は、
図9の下段に示すように各レンジビンに信号のエネルギーが分散し、各レンジビンのエネルギーが積みあがることはない。そのため、比較例のレーダ装置は、実施形態のRX20と異なり、レンジウォークが生じている場合には、各レンジビンに信号のエネルギーが分散し、コヒーレントパルス積分を実施しても、複数回に分けて検出された信号のエネルギーを積算することができず、そのコヒーレントパルス積分の効果が得られない。
【0060】
以上に説明した、第1の実施形態によれば、RX20は、フィルタ処理部221と、低分解能データ生成部222と、検出処理部226を持つ。フィルタ処理部221は、第1分解能で規定された位置に対応する信号強度を示す第1データに対し、平滑化処理を行って第2データを生成する。低分解能データ生成部222は、第2データに基づいて、第1分解能より分解能が低い第2分解能で規定された位置に対応する信号強度を示す第3データを生成する。検出処理部226は、第2分解能で規定される範囲に検出対象30が存在することを、より簡易な処理によって検出することができる。
【0061】
また、低分解能データ生成部222は、フィルタ処理部221により生成された第2データに基づいて第3データを生成する。パルス圧縮処理部223は、第3データに対するパルス圧縮処理をする。パルス積分処理部224は、パルス圧縮処理部223によりパルス圧縮処理された結果をパルス積分する。検出処理部226は、パルス積分処理部224によりパルス積分された結果に基づいて、第2分解能で規定される範囲に検出対象30が存在することを検出することにより、第1データに基づいてパルス圧縮処理やパルス積分処理を実施することが困難な信号に対しても、安定してパルス圧縮処理やパルス積分処理を実施することが可能になる。
【0062】
また、レンジウォーク遷移推定処理部230は、第1データと、検出処理部226により検出対象30が存在することが検出された範囲を示すデータに基づいて、検出対象30の移動を推定することにより、第2分解能で検出対象30が存在する範囲が特定され、特定された範囲に、移動する検出対象30が存在すると仮定して、その検出対象30の移動を、第1分解能の第1データを用いて推定することが可能になる。
【0063】
また、レンジウォーク遷移推定処理部230は、予め定めたCPIと、第2レンジビンとにより定まる時空間領域内に、CPIを規定するパルス数と第1分解能に基づいて規定される複数の領域に分割し、検出対象30が移動する際に存在していると推定される領域を組み合わせた推定移動パターンを決定する。レンジウォーク遷移推定処理部230は、第1データが示す信号強度のパターンと、推定移動パターンとの類似度を算定することにより、検出対象30が存在していると推定される領域内の検出対象30の移動を推定可能になる。
また、RX20であれば、検出対象30の移動先を予測して、その移動先を予測した結果に基づいて検出対象30を検出するという手順を必要とせず、検出対象30の移動先を予測する煩雑な演算処理を実施する必要が無い。
【0064】
また、信号対雑音比SNRが低い場合には、検出対象30を検出すること自体が困難なこともある。実施形態のRX20は、デシメーション処理を実施することで信号対雑音比SNRの高低に関わらず、より簡易な処理によって、検出対象30を検出できる可能性がある。
【0065】
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態について説明する。第2の実施形態において、コヒーレントパルス積分の結果をデシメーション処理する態様について説明する。以下、この点を中心に説明する。
【0066】
(RX20の構成)
図10は、実施形態に係るRX20の構成図である。
本実施形態のRX20は、受信部210と信号処理部220A(信号処理装置)とを含んでもよいが、これに限定されない。
図1に示す構成と同一の構成は同じ符号を附す。
【0067】
信号処理部220Aは、フィルタ処理部221Aと、低分解能データ生成部222Aと、パルス圧縮処理部223Aと、パルス積分処理部224Aと、CFAR処理部225Aと、検出処理部226と、レンジウォーク遷移推定処理部230(推定処理部)と、出力部240とを含んでもよいが、これに限定されない。
【0068】
(RX20における検出対象の位置を検出する処理について)
以下、RX20の検出対象の位置を検出する処理について説明する。
図11は、RX20の検出対象の位置を検出する処理の手順を示すフローチャートである。
【0069】
アンテナRXA(アンテナ装置)で受信された電波に対応するRF信号が、無線信号処理部211により受信IF信号に変換される。受信処理部212は、無線信号処理部211により生成された受信IF信号についてA/D変換と直交周波数変換とを実施して、IチャネルとQチャネルとで構成される第1データを生成する(S110)。
【0070】
次に、パルス圧縮処理部223Aは、受信処理部212により生成された第1データに対するパルス圧縮処理を実施する(S121)。
【0071】
次に、パルス積分処理部224Aは、パルス圧縮処理部223Aにより第1データのパルス圧縮処理の結果をコヒーレントパルス積分して第1レンジビンのデータにする(S122)。
【0072】
次に、フィルタ処理部221Aは、パルス積分処理部224Aによるコヒーレントパルス積分の結果に対して、デシメーションフィルタによる平滑化処理を実施して、第2データを生成する(S123)。低分解能データ生成部222Aは、第2データを所定の比率で間引いて、第1分解能より低い第2分解能で規定された位置に対応する信号強度を示す第3データを生成する(S124)。上記のように、フィルタ処理部221Aと低分解能データ生成部222Aとにより、デシメーション処理が実施される。例えば、低分解能データ生成部222Aは、第3データの位置を、対応する第2データの位置に対応させる。
【0073】
CFAR処理部225Aは、低分解能データ生成部222Aによって生成された第3データに基づき、誤警報確率が高くなる範囲を除くように評価指標を決定し、評価指標に基づいてコヒーレントパルス積分の結果を補正する。CFAR処理部225は、受信強度範囲を判定するための閾値レベルTHLを決定する(S125)。
【0074】
次に、検出処理部226は、閾値レベルTHLに基づいて、CFAR処理部225により補正されたコヒーレントパルス積分の結果を評価して、検出対象30が存在し得る第2レンジビンを検出する(S126)。検出処理部226は、検出対象30が存在し得る第2レンジビンが存在するか否かを判定し(S127)、検出対象30が存在し得る第2レンジビンが存在しない場合には、S140の処理に進む。
【0075】
一方、検出対象30が存在し得る第2レンジビンが存在する場合には、レンジウォーク遷移推定処理部230(推定処理部)は、第1データと、検出処理部226により特定された第2レンジビンとに基づいて、その第2レンジビンの範囲内における検出対象30の移動を推定する(S130)。
【0076】
次に、出力部240は、検出処理部226による検出結果と、レンジウォーク遷移推定処理部230による処理の結果とを出力し(S140)、図示する一連の処理を終える。
【0077】
以上に示す手順で上記の処理を実施することにより、RX20は、検出対象30の位置を、第1の実施形態に示す方法と同様の方法で検出する。
【0078】
前述の
図9を参照して、本実施形態のRX20における第2データと第3データの関係について説明する。本実施形態のRX20の場合、
図9の上側3段に示す信号は、各々パルス圧縮処理の結果の信号強度を示す。
図9の下段に示す信号は、上側3段の信号をコヒーレントパルス積分した結果の信号強度を示す。本実施形態のデシメーション処理は、次に説明するように
図9のTHLを下げる効果がある。まず、コヒーレントパルス積分した結果をフィルタ処理部221Aにて処理することで、信号電力Sを維持したまま雑音電力Nが1/mに低下する。なぜならば、信号電力Sは図示する3区間において一定の値であり、デシメーションフィルタの適用に対しほとんど影響を受けないが、雑音電力は前述の「(信号対雑音比の定量的な評価について)」に例示した条件と同様の条件だからである。ここで、CFAR処理部225Aにおいて、信号検出の閾値THLは信号電力と雑音電力から決定されるが、このとき雑音電力の低下によりTHLも低下する。したがって、誤警報確率を維持したままパルス信号がTHLを超える確率が高くなり、目標を検出することが可能になる。なお、上記のフィルタ処理部221Aの処理は、加算演算に代えて、上記の加算演算の結果に基づいて算出した平均値を算出してもよい。
【0079】
以上に説明した、第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を奏するものに加え、以下の効果を奏する。
【0080】
パルス圧縮処理部223Aは、TX10から送信されたパルス信号の反射波である受信パルスが受信信号に含まれ、第1データに基づいて受信パルスに対するパルス圧縮処理をする。パルス積分処理部224Aは、パルス圧縮処理部223Aによりパルス圧縮処理された結果をパルス積分する。フィルタ処理部221Aは、第1データに対応付けられたパルス積分の結果から第2データを生成する。低分解能データ生成部222Aは、フィルタ処理部221Aにより生成された第2データに基づいて第3データを生成する。検出処理部226は、低分解能データ生成部222Aにより生成された第3データに基づいて、第2分解能で規定される範囲に検出対象30が存在することを検出することにより、レンジウォークが生じる場合であっても、より簡易な処理によって、検出対象30の位置を検出することができる。
例えば、コヒーレントパルス積分処理が実施された結果、CPI期間中に検出されるパルスの位置は、レンジウォークが生じていると最大n個のレンジビンに分散する。低分解能データ生成部222Aによるデシメーション処理により、第3データのサンプリングレートが、第1データの1/nに変換される。これにより、パルス積分処理部224Aの結果において、第1分解能で規定された複数のレンジビンに信号エネルギーが分散している場合において、第2分解能で規定される単一のレンジビンに、その信号エネルギーが集中する。このように、フィルタ処理部221Aと低分解能データ生成部222Aがデシメーション処理を実施することにより、CFAR処理部225AがCFAR処理をする信号の信号対雑音比を向上させることができる。
【0081】
(第3の実施形態)
以下、第3の実施形態について説明する。第3の実施形態において、デシメーション処理の結果を補間する態様について説明する。以下、この点を中心に説明する。
【0082】
(RX20の構成)
図12は、実施形態に係るRX20の構成図である。
本実施形態のRX20は、受信部210と信号処理部220B(信号処理装置)とを含んでもよいが、これに限定されない。
図10に示す構成と同一の構成は同じ符号を附す。
【0083】
信号処理部220Bは、フィルタ処理部221Aと、低分解能データ生成部222Aと、パルス圧縮処理部223Aと、パルス積分処理部224Aと、補間処理部227と、CFAR処理部225Bと、検出処理部226と、レンジウォーク遷移推定処理部230(推定処理部)と、出力部240とを含んでもよいが、これに限定されない。CFAR処理部225Bは、前述のCFAR処理部225Aに対応する。
【0084】
(パルス積分後のデータを補間する処理)
図13は、実施形態のRX20がパルス積分後のデータを補間する処理を示す図である。
図13は、前述の
図4に対応し、
図4に対してパルスを検出した位置が異なる場合を示す。
図13は、k回目の検出で(3x+2)の位置に、(k+1)回目の検出で(3(x+1))の位置に、(k+2)回目の検出で(3(x+1)+1)の位置に、検出対象30が存在していた場合を例示する。この場合の第1データは、
図13の上側3段に示すように、各回で互いに異なる位置にパルスが存在するデータになる。
【0085】
図13の中段部に、パルス積分の結果と、パルス積分の結果に対してデシメーションフィルタを実施した結果を順に示す。同図に示すように、パルス積分の結果では、パルス信号が複数の第1レンジビンに分散する。これに対し、フィルタ処理部221Aは、デシメーションフィルタを実施して平滑化処理をすることにより、階段状の分布を得る。
【0086】
図13の下段部に、デシメーション処理の結果と、補間処理の結果を順に示す。低分解能データ生成部222Aが、上記の階段状の分布を示すデータを不適切なデシメーション位相(間引きの開始点)により間引くと、間引かれたデータが示す分布は、1つの第2レンジビンに集まらずに、レンジ方向に分散する。その結果、パルスがTHLを上回らず、検出処理部で検出されなくなる問題が生じる。
【0087】
実施形態のRX20は、この問題を緩和するため、
図12に示したように低分解能データ生成部222Aの次段に補間処理部227を設け、補間処理を行う。補間処理は零詰め処理と補間フィルタ処理の2つのステップで構成される。
例えば、
図13の最下段から2番目に示すように、補間処理部227は、間引き間隔nに対してサンプリング点をn倍にレンジ方向に補間する。同図において、白抜きの◇印が、間引き間隔nで残ったサンプリング点であり、●印が、零詰めしたサンプリング点である。
図13の最下段には、補間フィルタ処理の結果を示す。補間フィルタはデシメーションフィルタと同様に、帯域を低周波域に制限することを目的としたフィルタである。本処理により零詰めされた信号が平滑化され、補間処理が完了する。この補間処理により、デシメーション処理の結果ではTHLを上回らず検出されなかったパルス信号でも、雑音電力を維持したまま、検出することが可能になる。
【0088】
(RX20における検出対象の位置を検出する処理について)
以下、RX20の検出対象の位置を検出する処理について説明する。
図14は、実施形態のRX20の検出対象の位置を検出する処理の手順を示すフローチャートである。
【0089】
アンテナRXA(アンテナ装置)で受信された電波に対応するRF信号が、無線信号処理部211により受信IF信号に変換される。受信処理部212は、無線信号処理部211により生成された受信IF信号についてA/D変換と直交周波数変換とを実施して、IチャネルとQチャネルとで構成される第1データを生成する(S210)。
【0090】
次に、パルス圧縮処理部223Aは、受信処理部212により生成された第1データに対するパルス圧縮処理を実施する(S221)。
【0091】
次に、パルス積分処理部224Aは、パルス圧縮処理部223Aにより第1データのパルス圧縮処理の結果をコヒーレントパルス積分して第1レンジビンに対応させる(S222)。
【0092】
次に、フィルタ処理部221Aは、パルス積分処理部224Aによるコヒーレントパルス積分の結果に対して、デシメーションフィルタによる平滑化処理を実施して、第2データを生成する(S223)。低分解能データ生成部222Aは、第2データを所定の比率で間引いて、第1分解能より低い第2分解能で規定された位置に対応する信号強度を示す第3データを生成する(S224)。上記のように、フィルタ処理部221Aと低分解能データ生成部222Aとにより、デシメーション処理が実施される。例えば、低分解能データ生成部222Aは、第3データの位置を、対応する第2データの位置に対応させる。
【0093】
次に、補間処理部227は、パルス積分処理部224によるコヒーレントパルス積分の結果に基づいて、レンジ方向にコヒーレントパルス積分の結果を補間する(S224A)。
【0094】
次に、CFAR処理部225Bは、補間処理部227により補間されたコヒーレントパルス積分の結果に基づいて、誤警報確率が高くなる範囲を除くように評価指標を決定し、評価指標に基づいてコヒーレントパルス積分の結果を補正する。CFAR処理部225Bは、受信強度範囲を判定するための閾値レベルTHLを決定する(S225)。
【0095】
次に、検出処理部226は、閾値レベルTHLに基づいて、パルス積分処理部224Aによるパルス積分の結果を評価して、検出対象30が存在し得る第2レンジビンを検出する(S226)。検出処理部226は、検出対象30が存在し得る第2レンジビンが存在するか否かを判定し(S227)、検出対象30が存在し得る第2レンジビンが存在しない場合には、S240の処理に進む。
【0096】
一方、検出対象30が存在し得る第2レンジビンが存在する場合には、レンジウォーク遷移推定処理部230(推定処理部)は、第1データと、検出処理部226により特定された第2レンジビンとに基づいて、その第2レンジビンの範囲内における検出対象30の移動を推定する(S230)。検出対象30の移動を推定する処理の詳細は前述している。
【0097】
次に、出力部240は、検出処理部226による検出結果と、レンジウォーク遷移推定処理部230による処理の結果とを出力し(S240)、図示する一連の処理を終える。
【0098】
以上に示す手順で上記の処理を実施することにより、RX20は、検出対象30の位置を、第2の実施形態に示す方法と同様の方法で検出する。
【0099】
以上に説明した、第3の実施形態によれば、第1、第2の実施形態と同様の効果を奏するものに加え、以下の効果を奏する。
RX20の補間処理部227は、検出対象30の位置を検出する方向に沿って、第3データの位置と、第3データの隣に配された他の第3データの位置との間の所定の位置に、その所定の位置に対応する補間データを生成する。検出処理部226は、第3データと補間データとに基づいて、第2分解能で規定される範囲に検出対象が存在することを検出するというより簡易な処理によって、デシメーション位相によらずに、移動する検出対象の位置を検出することができる。
【0100】
(第4の実施形態)
以下、第4の実施形態について説明する。第4の実施形態において、補間処理部227を追加する他の態様について説明する。
【0101】
上記の第3の実施形態では、第2の実施形態の構成に、補間処理部227を追加したものを例示したが、第4の実施形態では、これに代えて、同様の補間処理部227を第1の実施形態の構成に追加したものを例示する。この場合、追加する補間処理部227は、パルス積分処理部224の後段で、CFAR処理部225の前段に設ける。補間処理部227に関する詳細な説明は、第3の実施形態を参照する。
【0102】
以上に説明した、第4の実施形態によれば、第1から第3の実施形態と同様の効果を奏する。
【0103】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、信号処理装置は、フィルタ処理部と、低分解能データ生成部と、検出処理部とを持つ。フィルタ処理部は、検出対象からの反射波を受信するアンテナ装置が出力する信号に基づいて生成されるデータであって、レンジ方向に第1分解能で規定された位置に対応する信号強度を示す第1データに対し、前記レンジ方向の単位距離当たりの前記第1データの変化量を制限した第2データを生成する。低分解能データ生成部は、前記第2データに基づいて、前記レンジ方向に前記第1分解能より分解能が低い第2分解能で規定された位置に対応する信号強度を示す第3データを生成する。検出処理部は、前記第2分解能で規定される範囲に前記検出対象が存在することを、前記第3データに基づいて検出するというより簡易な処理によって、移動する検出対象の位置を検出することができる。
【0104】
また、他の実施形態によれば、レーダ受信機は、受信部と、フィルタ処理部と、低分解能データ生成部と、検出処理部とを持つ。受信部は、検出対象からの反射波を受信するアンテナ装置が出力する信号に基づいて生成されるデータであって、第1分解能で規定された位置に対応する信号強度を示す第1データを生成する。フィルタ処理部は、前記受信部により生成された第1データに対し、前記第1分解能より分解能が低い第2分解能に対応する単位距離当たりの前記第1データの変化量を制限した第2データを生成する。低分解能データ生成部は、前記第2データに基づいて、前記第2分解能で規定された位置に対応する信号強度を示す第3データを生成する。検出処理部は、前記第2分解能で規定される範囲に前記検出対象が存在することを、前記第3データに基づいて検出するというより簡易な処理によって、移動する検出対象の位置を検出することができる。
【0105】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
例えば、上記の実施形態において受信部210を含むRX20について説明したが、これに代えて、受信部210と分離して構成した信号処理装置(信号処理部220)が上記の処理を実施してもよい。