特許第6671978号(P6671978)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6671978
(24)【登録日】2020年3月6日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】電流センサ及び電流検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 15/20 20060101AFI20200316BHJP
【FI】
   G01R15/20 B
   G01R15/20 D
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-11305(P2016-11305)
(22)【出願日】2016年1月25日
(65)【公開番号】特開2017-133842(P2017-133842A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2018年10月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108006
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 昌弘
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【弁理士】
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(72)【発明者】
【氏名】末永 健
(72)【発明者】
【氏名】田村 学
(72)【発明者】
【氏名】石松 健夫
(72)【発明者】
【氏名】松山 英一郎
【審査官】 島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−108787(JP,A)
【文献】 特開2010−175474(JP,A)
【文献】 特開2015−148469(JP,A)
【文献】 特開2007−101253(JP,A)
【文献】 特開2013−142604(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0156394(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2の磁気センサを備え、被検出電流路に流れる電流を検出する電流センサであって、
前記被検出電流路に隣接する隣接電流路及び前記被検出電流路の各々は、V字形状部を形成する第1及び第2の傾斜部を有し、
前記V字形状部は、その劣角を二等分する仮想平面に対して対称であり、
前記第1及び第2の磁気センサは、前記V字形状部の前記劣角側に配置され、
前記第1の磁気センサは、前記仮想平面に直交する感度軸を有し、前記第2の磁気センサは、前記仮想平面に直交する感度軸を有し、前記第1及び第2の磁気センサは、前記隣接電流路の前記第1及び第2の傾斜部を含む各部において電流が流れる方向に直交する空間と重ならない場所に位置する、
電流センサ。
【請求項2】
前記仮想平面は、前記被検出電流路の前記V字形状部に加え、前記隣接電流路の前記V字形状部を二等分する請求項1の電流センサ。
【請求項3】
前記第1及び第2の磁気センサは、前記仮想平面に関して面対称に位置する請求項1又は2の電流センサ。
【請求項4】
前記第1及び第2の磁気センサは、前記被検出電流路の前記V字形状部の頂点近傍に位置する請求項1〜3いずれかの電流センサ。
【請求項5】
前記第1及び第2の磁気センサの各々が検出する磁界成分に基づいて、前記被検出電流路を流れる電流を示す信号を生成する信号生成部をさらに備える請求項1〜4いずれかの電流センサ。
【請求項6】
前記被検出電流路及び前記隣接電流路は、前記V字形状部の両側でそれぞれ直線状に延びる第1及び第2の直線部を有し、
前記第1及び第2の直線部は、前記仮想平面と直交する同一の直線上に位置する、
請求項1〜5いずれかの電流センサ。
【請求項7】
前記第1及び第2の磁気センサは、基板に実装されており、
前記被検出電流路は、前記第1及び第2の直線部が前記基板に接触している、
請求項6の電流センサ。
【請求項8】
前記第1及び第2の磁気センサは、集積回路化されている請求項1〜7いずれかの電流センサ。
【請求項9】
複数の電流路に流れる電流をそれぞれ検出する複数の電流センサを備える電流検出装置であって、
前記複数の電流センサの各々は、第1及び第2の磁気センサを備え、
前記複数の電流路の各々は、V字形状部を形成する第1及び第2の傾斜部を有し、
前記V字形状部は、その劣角を二等分する仮想平面に対して対称であり、
前記第1及び第2の磁気センサは、前記V字形状部の前記劣角側に配置され、
前記第1の磁気センサは、前記仮想平面に直交する感度軸を有し、
前記第2の磁気センサは、前記仮想平面に直交する感度軸を有し、
前記第1及び第2の磁気センサは、被検出電流路に隣接する隣接電流路の前記第1及び第2の傾斜部を含む各部において電流が流れる方向に直交する空間と重ならない場所に位置する、
電流検出装置。
【請求項10】
前記複数の電流路は、所定の方向に並べて配置されており、
前記複数の電流センサは、1つの基板上に前記所定の方向に並べて実装されている、
請求項9の電流検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流センサ及び電流検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、相互に反対方向の磁界が作用する2つの磁気センサを用いることによって外来磁界の影響をキャンセルする差動式の電流センサが知られている。また、三相電流等の複数の電流路に流れる電流を検出する場合には、外来磁界に加えて、隣接する電流路の影響を考慮する必要が生じる。例えば、特許文献1は、2つの磁気センサ(2つのハーフブリッジ回路)を備える多相電流の検出装置を開示する。当該検出装置においては、電流路のU字型形状部の近傍において、相互に反対方向の磁界が作用するように2つの磁気センサが配置されている。また、U字型形状部の対称軸が、隣接する電流路のU字型形状部の対称軸と同一直線上とならないように電流路が配置されている。このように構成された当該装置は、隣接するU字型形状部が離間されており、また、他相の電流から付与される磁界の方向が磁気センサの感度方向に対して直角方向となる構成であるため、他相の電流により発生する磁界の影響を効果的に低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−20085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の装置では、他相の電流の影響を確実に低減するためには、他相の電流により発生する磁界の方向が磁気センサの感度方向に対して直角方向となるように、磁気センサの向き(感度方向)を厳密に設定する必要が生じる。すなわち、上述した従来の装置は、電流を検出する被検出電流路に対する位置決め精度に加えて、隣接する電流路に対する厳密な位置決め精度が要求される、という不利益が生じる。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、外来磁界及び隣接する電流路からの磁界の影響を低減する電流センサ及び電流検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1及び第2の磁気センサを備え、被検出電流路に流れる電流を検出する電流センサであって、前記被検出電流路に隣接する隣接電流路及び前記被検出電流路の各々は、V字形状部を形成する第1及び第2の傾斜部を有し、前記V字形状部は、その劣角を二等分する仮想平面に対して対称であり、前記第1及び第2の磁気センサは、前記V字形状部の前記劣角側に配置され、前記第1の磁気センサは、前記仮想平面に直交する感度軸を有し、前記第2の磁気センサは、前記仮想平面に直交する感度軸を有し、前記第1及び第2の磁気センサは、前記隣接電流路の前記第1及び第2の傾斜部を含む各部において電流が流れる方向に直交する空間と重ならない場所に位置する、電流センサである。
【0007】
この構成によれば、第1及び第2の磁気センサが、隣接電流路の電流が流れる方向に直交する空間と重ならない場所に位置するから、隣接電流路からの誘導磁界の影響を低減することができる。また、第1及び第2の磁気センサを備える構成であるから、外来磁界の影響を低減することができる。
【0008】
好適には本発明の電流センサは、前記仮想平面は、前記被検出電流路の前記V字形状部に加え、前記隣接電流路の前記V字形状部を二等分する。
【0009】
この構成によれば、被検出電流路のV字形状部と隣接電流路のV字形状部とをそろえて配置することができる。この結果、被検出電流路と隣接電流路とを近づけて配置しやすくなる。
【0010】
好適には本発明の電流センサは、前記第1及び第2の磁気センサは、前記仮想平面に関して面対称に位置する。
【0011】
この構成によれば、第1の磁気センサの位置における第1の傾斜部から発生した誘導磁界のベクトルと、第2の磁気センサの位置における第1の傾斜部から発生した誘導磁界のベクトルとが面対称となるので、測定精度を高めやすい。
【0012】
好適には本発明の電流センサは、前記第1及び第2の磁気センサは、前記被検出電流路の前記V字形状部の頂点近傍に位置する。
【0013】
この構成によれば、V字形状部の頂点近傍は、第1の傾斜部と第2の傾斜部との間の距離が短いから、第1の磁気センサと第2の磁気センサとを近づけて配置することができる。この結果、第1及び第2の磁気センサに対して外来磁界が同様に作用するから、外来磁界の影響をより一層低減することができる。
【0014】
好適には本発明の電流センサは、前記第1及び第2の磁気センサの各々が検出する磁界成分に基づいて、前記被検出電流路を流れる電流を示す信号を生成する信号生成部をさらに備える。
【0015】
この構成によれば、第1及び第2の磁気センサの検出結果に基づいて、被検出電流路を流れる電流を示す信号を生成するので、一様な外来磁場を相殺することができる。
【0016】
好適には本発明の電流センサは、前記被検出電流路及び前記隣接電流路は、前記V字形状部の両側でそれぞれ直線状に延びる第1及び第2の直線部を有し、前記第1及び第2の直線部は、前記仮想平面と直交する同一の直線上に位置する。
【0017】
この構成によれば、V字形状部の両側の直線部が同一の直線上に位置することとなるから、電流路の配置が容易となる。
【0018】
好適には本発明の電流センサは、前記第1及び第2の磁気センサは、基板に実装されており、前記被検出電流路は、前記第1及び第2の直線部が前記基板に接触している、
【0019】
この構成によれば、第1及び第2の磁気センサが実装される基板を、被検出電流路に容易に取り付けることができる。
【0020】
好適には本発明の電流センサは、前記第1及び第2の磁気センサは、集積回路化されている。
【0021】
この構成によれば、第1及び第2の磁気センサを1つの集積回路にまとめることができる。この結果、第1及び第2の磁気センサの相対的な位置と感度軸の向きを高精度に合わせることが容易となる。
【0022】
本発明は、複数の電流路に流れる電流をそれぞれ検出する複数の電流センサを備える電流検出装置であって、前記複数の電流センサの各々は、第1及び第2の磁気センサを備え、前記複数の電流路の各々は、V字形状部を形成する第1及び第2の傾斜部を有し、前記V字形状部は、その劣角を二等分する仮想平面に対して対称であり、前記第1及び第2の磁気センサは、前記V字形状部の前記劣角側に配置され、前記第1の磁気センサは、前記仮想平面に直交する感度軸を有し、前記第2の磁気センサは、前記仮想平面に直交する感度軸を有し、前記第1及び第2の磁気センサは、被検出電流路に隣接する隣接電流路の前記第1及び第2の傾斜部を含む各部において電流が流れる方向に直交する空間と重ならない場所に位置する電流検出装置である。
【0023】
この構成によれば、第1及び第2の磁気センサが、隣接電流路の電流が流れる方向に略直交する空間と重ならない場所に位置するから、隣接電流路からの誘導磁界の影響を低減することができる。また、第1及び第2の磁気センサを備える構成であるから、外来磁界の影響を低減することができる。
【0024】
好適には本発明の電流検出装置は、前記複数の電流路は、所定の方向に並べて配置されており、前記複数の電流センサは、1つの基板上に前記所定の方向に並べて実装されている。
【0025】
この構成によれば、複数の電流センサを1つの基板上に実装することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、外来磁界及び隣接する電流路からの磁界の影響を低減する電流センサ及び電流検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施形態に係る電流検出装置の斜視図である。
図2図1の電流検出装置の正面図である。
図3図1の電流検出装置の側面図である。
図4図1の基板の正面図である。
図5図1の電流路の正面図である。
図6】電流路のV字形状部の頂点近傍の拡大図である。
図7】第1及び第2の磁気センサに作用する誘導磁界を示す図である。
図8】電流センサの回路構成の一例を示す図である。
図9】電流センサ(磁気センサ)が位置する領域を示す図である。
図10】変形例の電流検出装置の一部の正面図である。
図11図10の電流検出装置の一部の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態に係る電流検出装置について説明する。図1は、本実施形態の電流検出装置1の斜視図であり、図2は、図1の電流検出装置1を正面(Y方向)から見た正面図であり、図3は、図1の電流検出装置1を右側(X方向の反対方向)から見た側面図である。なお、図1以降の各図における「X」、「Y」、「Z」は、互いに直交する3つの方向を示す。
【0029】
電流検出装置1は、図1−3に示すように、基板30上に実装された3つの電流センサ10(10−1、10−2、10−3)を備え、これらの電流センサ10の各々が、3つの電流路20(20−1、20−2、20−3)のうち対応する電流路20に流れる電流を検出するように構成されている。電流路20及び基板30は、図示しない筐体に固定されている。
【0030】
図4は、3つの電流センサ10が実装されている図1の基板30を前方から見た正面図である。図4においては、電流路20の図示を省略している。図4に示すように、電流センサ10は、第1の磁気センサ12及び第2の磁気センサ14を備えるIC(集積回路)として構成されている。3つの電流センサ10は、基板30の実装面上に実装されており、基板30の長手方向に特定の間隔を空けて並べて配置されている。電流センサ10は、2つの磁気センサ12、14が基板30の短手方向に並ぶ向きとなるように、基板30に実装されている。
【0031】
電流路20は、図1−3に示すように、電流が流れる方向に直交する断面が長方形の板状の導体である。3つの電流路20は、Z方向に特定の間隔を空けて並べて配置されている。電流路20は、3つの電流路20が並ぶ方向(Z方向)の厚みが、当該並ぶ方向及び電流が流れる方向に直交する方向(Y方向)の幅と比べて狭い。
【0032】
図5は、3つの電流路20を前方(Y方向)から見た正面図である。図5においては、電流センサ10及び基板30の図示を省略している。図5に示すように、電流路20は、Y方向から見てV字の形状を有するV字形状部21を有する。図5においては、V字形状部21の頂点が上を向いている。
V字形状部21は、相互に反対方向に傾斜する第1の傾斜部22及び第2の傾斜部24によって形成されている。V字形状部21は、その劣角を二等分する仮想平面Pに対して略対称の形状を有する。V字形状部21の頂点Tにおける劣角の角度は、略60度である。すなわち、V字形状部21は、正三角形の二辺に対応する形状を有する。
【0033】
図5に示すように、V字形状部21の両側は、それぞれ第1の直線部26及び第2の直線部28が直線状に延びている。第1の直線部26及び第2の直線部28は、同一の直線上に位置している。当該直線は、V字形状部21の劣角を二等分する仮想平面Pと略直交する。
【0034】
図5に示すように、3つの電流路20のV字形状部21は、電流が流れる方向(X方向)の位置が同じである。したがって、電流路20のV字形状部21の劣角を二等分する仮想平面Pは、3つの電流路20間で共通である。すなわち、1つの電流路20(例えば、電流路20−1)のV字形状部21の劣角を二等分する仮想平面Pは、他の電流路20(例えば、電流路20−2、20−3)のV字型形状部21の劣角も二等分する。
【0035】
このように構成された3つの電流路20の後方(Y方向)には、図3に示すように、特定の間隔を空けて基板30が配置されている。基板30は、3つの電流センサ10が実装されている実装面が電流路20側を向くように起立した状態で配置されている。
【0036】
基板30は、その長手方向が3つの電流路20が並ぶ方向と略一致するように配置されており、図2に示すように、基板30に実装されている3つの電流センサ10の各々は、対応する電流路20のV字形状部21の頂点近傍に位置する。電流センサ10と電流路20との間には、特定の間隔が設けられている。
【0037】
図6は、電流路20のV字形状部21の頂点Tの近傍部分を拡大して示す図である。図6に示すように、電流センサ10の第1の磁気センサ12は、V字形状部21の劣角を二等分する仮想平面Pよりも第1の傾斜部22側に位置し、第2の磁気センサ14は、仮想平面Pよりも第2の傾斜部24側に位置する。
さらに、前方(Y方向)から見たときに、第1の磁気センサ12は、仮想平面Pと第1の傾斜部22との間に位置し、第2の磁気センサ14は、仮想平面Pと第2の傾斜部24との間に位置する。そして、磁気センサ12、14の位置は、仮想平面Pに関して面対称の関係にある。したがって、磁気センサ12、14は、電流路20の第1の直線部26及び第2の直線部28が延びる方向と平行な同一の直線上に位置する。
【0038】
図6に示すように、第1の磁気センサ12の感度軸S1、及び、第2の磁気センサ14の感度軸S2は、V字形状部21の劣角を二等分する仮想平面Pに略直交する。図6において、感度軸S1及びS2は、その感度方向を矢印で示している。第1の磁気センサ12の感度軸S1は第1の傾斜部22側を向く方向の感度方向を有し、第2の磁気センサ14の感度軸S2は、感度軸S1とは反対に、第2の傾斜部24側を向く方向の感度方向を有する。
【0039】
図7は、磁気センサ12、14が検出する磁界成分を説明するための図である。ここでは、第1の傾斜部22側から第2の傾斜部24側へと向かう方向の電流Iが、電流路20を流れる場合を例として説明する。
【0040】
電流路20に電流Iが流れると、電流路20の各部において電流が流れる方向(電流路20が延びる方向)に略直交する誘導磁界が生じる。第1の磁気センサ12には、主に第1の傾斜部22に流れる電流に基づいて、前方(Y方向)から見て第1の傾斜部22に略直交する方向(左上方向)の誘導磁界B1が作用する。
上述したように、第1の磁気センサ12の感度軸S1は、仮想平面Pに略直交する感度方向を有する。したがって、第1の磁気センサ12は、誘導磁界B1のうち、感度軸S1の感度方向に対応する方向(第1の方向)の水平方向成分B1hを検出する。尚、誘導磁界B1の垂直方向成分B1vは、第1の磁気センサ12で検出されない。
【0041】
また、電流路20に電流Iが流れると、第2の磁気センサ14には、主に第2の傾斜部24に流れる電流に基づいて、前方(Y方向)から見て第2の傾斜部24に略直交する方向(右上方向)の誘導磁界B2が作用する。上述したように、第2の磁気センサ14の感度軸S2は、仮想平面Pに略直交する感度方向を有する。したがって、第2の磁気センサ14は、誘導磁界B2のうち、感度軸S2の感度方向に対応する方向(第2の方向)の水平方向成分B2hを検出する。尚、誘導磁界B2の垂直方向成分B2vは、第2の磁気センサ14で検出されない。
【0042】
図8は、電流センサ10の回路構成の一例を示す図である。図8の例において、第1の磁気センサ12は磁気抵抗素子MR1及びMR2を含み、第2の磁気センサ14は磁気抵抗素子MR3及びMR4を含む。
【0043】
第1の磁気センサ12が有する磁気抵抗素子MR1及びMR2は、電源電圧VDDとグランドGNDとの間において直列に接続される。磁気抵抗素子MR1は電源電圧VDDに接続され、磁気抵抗素子MR2はグランドGNDに接続される。磁気抵抗素子MR1は、第1の磁気センサ12に作用する磁界成分B1hが大きくなると抵抗値が減少し、磁界成分B1hが小さくなると抵抗値が増大する。
磁気抵抗素子MR2は、磁界成分B1hが大きくなると抵抗値が増大し、磁界成分B1hが小さくなると抵抗値が減少する。そのため、磁気抵抗素子MR1と磁気抵抗素子MR2との接続点に生じる電圧V1は、磁界成分B1hが大きくなると上昇し、磁界成分B1hが小さくなると低下する。
【0044】
第2の磁気センサ14が有する磁気抵抗素子MR3及びMR4は、電源電圧VDDとグランドGNDとの間において直列に接続される。磁気抵抗素子MR3は電源電圧VDDに接続され、磁気抵抗素子MR4はグランドGNDに接続される。磁気抵抗素子MR3は、第2の磁気センサ14に作用する磁界成分B2hが大きくなると抵抗値が増大し、磁界成分B2hが小さくなると抵抗値が減少する。
磁気抵抗素子MR4は、磁界成分B2hが大きくなると抵抗値が減少し、磁界成分B2hが小さくなると抵抗値が増大する。そのため、磁気抵抗素子MR3と磁気抵抗素子MR4との接続点に生じる電圧V2は、磁界成分B2hが大きくなると低下し、磁界成分B2hが小さくなると上昇する。
【0045】
電流路20に流れる電流Iが大きくなると、第1の磁気センサ12に作用する磁界成分B1hが大きくなるとともに、第2の磁気センサ14に作用する磁界成分B2hが大きくなり、第1の磁気センサ12の電圧V1が上昇するとともに、第2の磁気センサ14の電圧V2が低下する。これにより、電圧差(V1−V2)が大きくなる。逆に、電流Iが小さくなると、電圧差(V1−V2)が小さくなる。
【0046】
電流センサ10は、第1の磁気センサ12において検出される磁界成分と第2の磁気センサ14において検出される磁界成分との差に応じた信号DATを生成する信号生成部16を有する。図8の例において、信号生成部16は、第1の磁気センサ12の出力電圧V1と第2の磁気センサ14の出力電圧V2との差(V1−V2)を増幅するアンプ回路17と、アンプ回路17の出力信号に基づいて、電流Iによる誘導磁界に比例した信号DATを生成する処理部18を有する。
処理部18は、例えば、アンプ回路17の出力信号を所定データ長のデジタル信号に変換するAD変換器と、このデジタル信号に所定の信号処理を施して信号DATを生成するコンピュータ等の信号処理回路を含んで構成される。信号DATは、電流Iの測定結果を示す。
【0047】
図9は、電流センサ10が位置する領域を示す図であり、図2の電流検出装置1の正面図に、電流路20−1及び20−3の各部において電流が流れる方向(電流路20が延びる方向)に略直交する直線状の破線を付加している。当該破線は、被検出電流路としての電流路20−2に隣接する電流路20−1、20−3の各部において電流が流れる方向に略直交する空間に対応する。図9は、Y方向から見た図の為、破線部が平面状に図示されているが、電流路20−1及び20−3は、幅(奥行き)があるため、破線部も電流路20−1及び20−3の幅と等しい奥行きのある空間である。
図9に示すように、被検出電流路20−2に流れる電流を検出する電流センサ10−2は、隣接する電流路20−1、20−3の各部において電流が流れる方向に略直交する破線で示される空間と重ならない場所に位置している。図示は省略するが、電流路20−1に流れる電流を検出する電流センサ10−1、及び、電流路20−3に流れる電流を検出する電流センサ10−3もまた、隣接する電流路20の各部において電流が流れる方向に略直交する空間と重ならない場所に位置している。
【0048】
電流路20のV字形状部21の劣角を二等分する仮想平面Pを、3つの電流路20間で共通となるように各電流路20を配置している。この結果、電流センサ10−2を、隣接する電流路20−1、20−3の各部において電流が流れる方向に略直交する空間と重ならない場所に配置することが容易となる。
【0049】
次に、このように構成された電流検出装置1の作用について説明する。3つの電流路20の各々に電流が流れると、上述したように、V字形状部21の頂点Tの近傍に位置する第1の磁気センサ12及び第2の磁気センサ14に相互に誘導磁界の反対方向の成分が作用する。電流センサ10は、第1の磁気センサ12及び第2の磁気センサ14によって検出された磁界成分に基づいて電流の測定結果を示す信号を生成する。このように、電流センサ10は、相互に反対方向の磁界成分を検出する2つの磁気センサ12、14を備える差動式の電流センサの構成を有するから、外来磁界の影響が低減される。
【0050】
また、電流センサ10は、集積回路で構成され、対応する電流路20のV字形状部21の頂点Tの近傍に位置する。この結果、2つの磁気センサ12、14は近い距離で、相対的な位置と感度軸の方向を正確に合わせることができる。したがって、外来磁界が磁気センサ12、14に対して同様に作用するから、外来磁界の影響はより一層低減される。
【0051】
また、3つの電流路20の各々に電流が流れると、被検出電流路20を流れる電流によって生じる誘導磁界に加えて、被検出電流路20に隣接する隣接電流路20を流れる電流によっても誘導磁界が生じる。隣接電流路20からの誘導磁界は、隣接電流路20の各部において電流が流れる方向に直交する仮想平面に対応している。
上述したように、電流検出装置1の電流センサ10(磁気センサ12、14)は、隣接する電流路20の各部において電流が流れる方向に略直交する空間と重ならない場所に位置している。したがって、電流センサ10は、隣接する電流路20を流れる電流によって生じる誘導磁界の影響を受けにくい場所に位置していると言うことができる。すなわち、電流検出装置1が備える3つの電流センサ10の各々は、隣接する電流路20からの磁界の影響を受けにくい。
【0052】
このように本実施形態の電流検出装置1においては、隣接する電流路20からの磁界の影響が低減される。また、電流センサ10は、隣接する電流路20の各部において電流が流れる方向に略直交する空間と重ならないに位置すれば良いから、隣接する電流路20に対する厳密な位置決め精度は要求されない。
【0053】
本発明は上述した実施形態には限定されない。すなわち、当業者は、本発明の技術的範囲又はその均等の範囲内において、上述した実施形態の構成要素に関し、様々な変更、コンビネーション、サブコンビネーション、並びに代替を行ってもよい。
【0054】
例えば、電流センサ10を実装する基板30の配置は、上述した実施形態に限定されず、様々な変更が可能である。
【0055】
図10は、変形例の電流検出装置の一部を正面(Y方向)から見た正面図であり、図11は、図10の電流検出装置の一部を右側(X方向の反対方向)から見た側面図である。変形例の電流検出装置は、図10及び図11に示すように、1つの基板130に上述した実施形態と同様の1つの電流センサ10が実装されており、当該基板130の実装面上に上述した実施形態と同様の電流路20が配置されている。より詳細には、電流路20の第1の直線部26及び第2の直線部28の下面(Z方向の反対方向の面)と基板130の実装面とが接触している。電流センサ10は、起立した状態となるように、ピン140を介して基板130に実装されている。
【0056】
また、電流センサ10が備える磁気センサ12、14の感度軸S1、S2の感度方向は、上述した実施形態に限定されない。例えば、感度軸S1及びS2が、同じ方向の感度方向を有するように構成することもできる。
【0057】
また、電流路20のV字形状部21の形状は、上述した実施形態に限定されず、様々な変更が可能である。例えば、V字形状部21の劣角の角度を、60度よりも大きい又は小さい角度とすることもできる。V字形状部21の高さ(第1及び第2の直線部26、28が位置する直線と頂点Tとの距離)を同一とする場合には、V字形状部21の劣角の角度を小さくするほど、隣接する電流路20の各部において電流が流れる方向に略直交する空間と重ならない場所を確保しやすくなる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、例えば、電気自動車のモータ駆動用の電流の大きさを検出する装置に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0059】
1…電流検出装置
10(10−1、10−2、10−3)…電流センサ
12…第1の磁気センサ
14…第2の磁気センサ
S1、S2…感度軸
20(20−1、20−2、20−3)…電流路
21…V字形状部
P…V字形状部の劣角を二等分する仮想平面
T…V字形状部の頂点
22…第1の傾斜部
24…第2の傾斜部
26…第1の直線部
28…第2の直線部
30、130…基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11