特許第6672008号(P6672008)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6672008
(24)【登録日】2020年3月6日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】発振器及び発振器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H03L 7/10 20060101AFI20200316BHJP
   H03L 7/18 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
   H03L7/10 120
   H03L7/18
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-32125(P2016-32125)
(22)【出願日】2016年2月23日
(65)【公開番号】特開2017-152843(P2017-152843A)
(43)【公開日】2017年8月31日
【審査請求日】2018年11月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(72)【発明者】
【氏名】出村 博之
【審査官】 石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−093125(JP,A)
【文献】 特開2008−118522(JP,A)
【文献】 特開2011−259331(JP,A)
【文献】 特開2002−290233(JP,A)
【文献】 特開2005−236431(JP,A)
【文献】 特開平08−251022(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03L 7/00− 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準信号に同期した、前記基準信号と周波数が異なる発振信号を出力する位相同期回路を有する発振器であって、
前記基準信号を第1の分周比で分周した第1分周信号と、前記発振信号を第2の分周比で分周した第2分周信号との間の位相差を示す位相差信号を出力する位相比較器と、
前記位相差信号に対応する周波数の前記発振信号を発生する電圧制御発振器と、
前記位相比較器と前記電圧制御発振器との間に設けられた低域通過フィルタと、
前記低域通過フィルタにチャージポンプ電流を供給するチャージポンプ回路と、
前記発振信号の周波数を切り替える制御部であって、切り替え後の周波数に基づいて、前記チャージポンプ回路が前記低域通過フィルタに供給する前記チャージポンプ電流の値を決定する制御部と、
を有し、
前記発振器における周波数切替時間の最大値は、前記発振器が発生するスプリアスが所定の許容値以下となる前記チャージポンプ電流の条件下において、最小周波数から最大周波数へ、又は前記最大周波数から前記最小周波数へ周波数を切り替える際に要する切替時間であり、
前記チャージポンプ電流の基準値は、前記最小周波数から前記最大周波数へ、又は前記最大周波数から前記最小周波数へ周波数を切り替える際に許容される前記周波数切替時間の最大値以下であるという条件、及び前記スプリアスが前記許容値以下であるという条件を満足する値であり、
前記制御部は、前記最小周波数又は前記最大周波数を起点として、前記最小周波数又は前記最大周波数以外の周波数に切り替える際に要する切替時間を前記周波数切替時間の最大値以下にする条件下において、前記最小周波数又は前記最大周波数を起点として他の周波数に切り替える際の前記チャージポンプ電流を、前記基準値より小さい値に設定する、発振器。
【請求項2】
前記制御部は、前記発振信号の周波数を切り替えるタイミングに同期して、前記チャージポンプ回路が前記低域通過フィルタに供給する前記チャージポンプ電流の値を変更する、
請求項に記載の発振器。
【請求項3】
前記制御部は、切り替え後の周波数に基づいて、前記低域通過フィルタの帯域幅を決定する、
請求項1又は2に記載の発振器。
【請求項4】
前記電圧制御発振器が出力する前記発振信号の周波数と、前記チャージポンプ回路が前記低域通過フィルタに供給する前記チャージポンプ電流とを関連付けて記憶する記憶部をさらに有し、
前記制御部は、切り替え後の周波数に関連付けて前記記憶部に記憶されている前記チャージポンプ電流の値に、前記チャージポンプ回路が前記低域通過フィルタに供給する前記チャージポンプ電流の値を設定する、
請求項1からのいずれか1項に記載の発振器。
【請求項5】
前記記憶部は、前記発振信号の周波数範囲と、前記チャージポンプ回路が前記低域通過フィルタに供給する前記チャージポンプ電流とを関連付けて記憶し、
前記制御部は、前記発振信号の周波数が含まれる前記周波数範囲に関連付けて前記記憶部に記憶されている前記チャージポンプ電流の値に、前記チャージポンプ回路が前記低域通過フィルタに供給する前記チャージポンプ電流の値を設定する、
請求項に記載の発振器。
【請求項6】
位相同期回路における位相比較器と電圧制御発振器との間に設けられた低域通過フィルタにチャージポンプ電流を供給する回路を有する発振器の製造方法であって、
前記発振器における周波数切替時間の最大値は、前記発振器が発生するスプリアスが所定の許容値以下となる前記チャージポンプ電流の条件下において、最小周波数から最大周波数へ、又は前記最大周波数から前記最小周波数へ周波数を切り替える際に要する切替時間であり、
前記チャージポンプ電流の基準値は、前記最小周波数から前記最大周波数へ、又は前記最大周波数から前記最小周波数へ周波数を切り替える際に許容される前記周波数切替時間の最大値以下であるという条件、及び前記スプリアスが前記許容値以下であるという条件を満足する値であり、
前記最小周波数又は前記最大周波数を起点として、前記最小周波数又は前記最大周波数以外の周波数に切り替える際に要する切替時間を前記周波数切替時間の最大値以下にする条件下において、前記最小周波数又は前記最大周波数を起点として他の周波数に切り替える際の前記チャージポンプ電流を、前記基準値より小さい値に決定する工程と、
前記最小周波数と前記最大周波数との間の周波数と、決定した前記チャージポンプ電流の値とを関連付けて、前記発振器が有する記憶部に記憶させる工程と、
を有する、発振器の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出力する発振信号の周波数を切り替えることができる発振器及び発振器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、出力する発振信号の周波数を切り替えることができる周波数シンセサイザが知られている。特許文献1には、発振信号の周波数を切り替え後に周波数が安定するまでの間はループ帯域幅を広げ、周波数が安定した後にループ帯域幅を狭くする制御をすることにより、周波数切替時の位相同期回路のロック応答性を高速化する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−140688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術においては、周波数が安定するまではループ帯域幅を広げていたため、ループ帯域幅を広げている間に、大きなスプリアスが発生してしまうという問題があった。位相同期回路は、送受信機の局発信号として用いられるため、スプリアスが大きいと、送受信機の受信スプリアス感度の劣化や送信スプリアスの劣化が発生する。したがって、スプリアスを低減することが求められている。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、スプリアス特性を改善することができる位相同期回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様においては、基準信号に同期した、前記基準信号と周波数が異なる発振信号を出力する位相同期回路を有する発振器であって、前記基準信号を第1の分周比で分周した第1分周信号と、前記発振信号を第2の分周比で分周した第2分周信号との間の位相差を示す位相差信号を出力する位相比較器と、前記位相差信号に対応する周波数の前記発振信号を発生する電圧制御発振器と、前記電圧制御発振器に電流を供給するチャージポンプ回路と、前記発振信号の周波数を切り替える制御部であって、切り替え後の周波数に基づいて、前記チャージポンプ回路が前記電圧制御発振器に供給する前記電流の値を決定する制御部と、を有する発振器を提供する。
【0007】
前記制御部は、例えば、前記発振信号の周波数の切り替え可能範囲の最大周波数と最小周波数との間の所定の範囲の周波数における前記電流の値を、前記最大周波数及び前記最小周波数における前記電流の値よりも小さい値に設定する。
【0008】
前記制御部は、前記発振信号の周波数の切り替え可能範囲に含まれるいずれかの周波数に切り替える場合の切り替え時間の最大値よりも切り替え時間が短いことを条件として、前記電流の値を設定してもよい。
【0009】
前記制御部は、前記発振信号の周波数を切り替えるタイミングに同期して、前記チャージポンプ回路に供給する前記電流の値を変更してもよい。
【0010】
上記の発振器は、前記電圧制御発振器が出力する前記発振信号の周波数と、前記チャージポンプ回路に供給する前記電流とを関連付けて記憶する記憶部をさらに有し、前記制御部は、切り替え後の周波数に関連付けて前記記憶部に記憶されている前記電流の値に、前記チャージポンプ回路が前記電圧制御発振器に供給する前記電流の値を設定してもよい。
【0011】
前記記憶部は、前記発振信号の周波数範囲と、前記チャージポンプ回路に供給する前記電流とを関連付けて記憶し、前記制御部は、前記発振信号の周波数が含まれる前記周波数範囲に関連付けて前記記憶部に記憶されている前記電流の値に、前記チャージポンプ回路が前記電圧制御発振器に供給する前記電流の値を設定してもよい。
【0012】
本発明の第2の態様においては、電圧制御発振器に供給するチャージポンプ電流が所定の値である条件下で、前記電圧制御発振器が発振信号を出力可能な最小周波数又は最大周波数を起点として他の周波数に切り替える際に要する切替時間を、周波数ごとに測定する工程と、前記最小周波数と前記最大周波数との間の周波数に切り替える際に要する切替時間を、前記最小周波数又は前記最大周波数を起点として他の周波数に切り替える際に要する前記切替時間の最大値以下にすることができる、前記所定の値未満のチャージポンプ電流の値を決定する工程と、前記最小周波数と前記最大周波数との間の周波数と、決定した前記チャージポンプ電流の値とを関連付けて、電圧制御発振器を有する発振器が含む記憶部に記憶させる工程と、を有する発振器の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、発振器のスプリアス特性を改善することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態に係る発振器1の構成を示す図である。
図2】チャージポンプ回路14を有するICに設定可能な電流値の例を示す表である。
図3】周波数切替先の周波数と周波数切替時間との関係を示す図である。
図4】周波数切替先の周波数と周波数切替時間との関係を示す図である。
図5】切替先周波数と周波数切替時間との関係(実測値)を示す図である。
図6】離調周波数とスプリアスレベルとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本実施形態に係る発振器1の構成を示す図である。発振器1は、第1分周器11と、第2分周器12と、位相比較器13と、チャージポンプ回路14と、低域通過フィルタ15と、電圧制御発振器16と、記憶部17と、制御部18と、を有する。第1分周器11、第2分周器12、位相比較器13、チャージポンプ回路14、低域通過フィルタ15及び電圧制御発振器16は、位相同期回路(PLL回路)を構成する。発振器1は、第1分周器11に入力される基準信号に基づいて、基準信号に同期した発振信号を出力する。
【0016】
第1分周器11は、発振器1に入力される基準信号を分周する。第1分周器11は、第1の分周比で基準信号を分周して生成した第1分周信号を位相比較器13に入力する。
【0017】
第2分周器12は、電圧制御発振器16が出力する発振信号を分周する。第2分周器12は、第2の分周比で発振信号を分周して生成した第2分周信号を位相比較器13に入力する。
【0018】
位相比較器13は、第1分周器11から入力された第1分周信号と、第2分周器12から入力された第2分周信号との間の位相差に応じた位相差信号を出力する。
【0019】
チャージポンプ回路14は、位相比較器13が出力した位相差信号に基づいて、チャージポンプ電流を供給する。チャージポンプ電流は、位相同期回路のループフィルタを構成する低域通過フィルタ(LPF)15に入力されて平滑化される。チャージポンプ回路には、電圧出力型と電流出力型のいずれの種類を用いてもよいが、本実施形態におけるチャージポンプ回路14は、電流出力型であるとする。チャージポンプ回路14は、例えば、位相差信号が正の値である場合に電圧制御発振器16の入力電圧が増加し、位相差信号が負の値である場合に電圧制御発振器16の入力電圧が減少するように、チャージポンプ電流を供給する。
【0020】
低域通過フィルタ15は、チャージポンプ回路14から出力された、位相差信号に基づいた電流を平滑化して、電圧制御発振器16に制御電圧を供給する。低域通過フィルタ15は、チャージポンプ回路14及び電圧制御発振器16の接続点とグランドとの間に直列に接続された、抵抗値がRfの抵抗及び容量値がCfのコンデンサを有する。低域通過フィルタ15は、発振器1が用いられる送受信機が必要とするチャネルステップ、周波数切替時間、スプリアスレベル及び位相雑音等の性能に基づいて、特性が決定されている。低域通過フィルタ15により平滑化された位相差信号は、電圧制御発振器16に入力される。
【0021】
電圧制御発振器16は、基準信号と周波数が異なり、入力される電圧に応じた周波数の発振信号を発生する。電圧制御発振器16は、発振信号を外部に出力するとともに、第2分周器12に入力する。電圧制御発振器16の周波数切替時間は、周波数を切り替える前の周波数と、周波数を切り替えた後の周波数との周波数差によって変化する。
【0022】
記憶部17は、例えばROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等の記憶媒体を含んでいる。記憶部17は、制御部18が実行するプログラム、及び制御部18がチャージポンプ電流の制御に用いるための情報を記憶している。
【0023】
制御部18は、例えばCPU(Central Processing Unit)であり、記憶部17に記憶されたプログラムを実行することにより、チャージポンプ回路14から出力されるチャージポンプ電流を制御する。制御部18は、例えば、チャージポンプ回路14を有するIC(Integrated Circuit)内のチャージポンプ電流を設定するためのレジスタの値を変化させることにより、チャージポンプ電流を制御する。制御部18は、発振信号の周波数を切り替えるタイミングに同期して、チャージポンプ回路14に供給するチャージポンプ電流の値を変更する。
【0024】
図2は、制御部18がチャージポンプ回路14を有するICに設定可能な電流値の例を示す表である。制御部18は、図2に示す設定番号をレジスタに設定することにより、チャージポンプ電流を制御することができる。
【0025】
[チャージポンプ電流の制御の詳細]
図3は、周波数切替先の周波数と周波数切替時間との関係を示す図である。図3(a)は、チャージポンプ電流を1.16mAとした場合に、5075MHzを起点として、5075.0MHzよりも高い周波数に切り替えた時の切替後の周波数切替時間との関係を示す図である。図3(a)においては、5075.0MHz→5075.5MHz、5075.0MHz→5076.0MHz、・・・、5075.0MHz→6074.5MHz、5075.0MHz→6075.0MHzのように周波数を遷移させて切替時間をプロットした結果が示されている。
【0026】
図3(b)は、チャージポンプ電流を1.16mAとした場合に、6075MHzを起点として、6075MHzよりも低い周波数に切り替えた時の切替後の周波数と切替時間との関係を示す図である。図3(b)においては、6075.0MHz→6074.5MHz、6075.0MHz→6074.0MHz、・・・、6075.0MHz→5075.5MHz、6075.0MHz→5075.0MHzのように周波数を遷移させて切替時間をプロットした結果が示されている。
【0027】
図3(a)及び図3(b)のいずれの場合においても、切替前の周波数と切替後の周波数との間の周波数差が大きくなればなるほど、周波数切替時間が大きくなっている。このことから、電圧制御発振器16が出力する発振信号の周波数を最も大きく変化させる場合に、周波数切替時間が最も大きくなることがわかる。すなわち、図3(a)及び図3(b)に示した例の場合、5075.0MHz→6075.0MHzへの遷移及び6075.0MHz→5075.0MHzへの遷移において、周波数切替時間が最大の約350μ秒となっている。
【0028】
発振器1を搭載する電子機器は、発振器1における周波数切替時間の最大値を想定して設計される。したがって、周波数切替時間が最大値よりも小さくなる場合、発振器1は、過剰に早く周波数を切り替えていることになる。
【0029】
ここで、詳細については後述するが、チャージポンプ電流と周波数切替時間との間には相関関係があり、チャージポンプ電流を大きくすると周波数切替時間が小さくなり、チャージポンプ電流を小さくすると周波数切替時間が大きくなる。また、チャージポンプ電流を小さくすると、位相同期回路の固有周波数が下がることにより、ループ帯域幅を狭くすることができる。ループ帯域幅を狭くすることでスプリアスの減衰量が大きくなり、結果として局発信号のスプリアスを低減することが可能になる。そこで、制御部18は、周波数切替時間の最大値を越えない範囲で周波数切替時間が大きくなるようにチャージポンプ電流を制御することにより、消費電流及びスプリアスを低減させる。
【0030】
以下、チャージポンプ電流を制御することにより、スプリアスを低減することができる原理について説明する。
位相同期回路の固有周波数fnは、以下の式(1)により表される。
【数1】
ここで、Kpは、位相比較器13のゲインであり、Kvは、電圧制御発振器16のVF感度(制御電圧の変化量に対する周波数の変化量の比)であり、Nは、第2分周器12の分周比であり、Cfは、低域通過フィルタ15のコンデンサ値である。
【0031】
チャージポンプ電流が2倍になると、位相比較器13のゲインKpも2倍になり、チャージポンプ電流が1/2倍になると、位相比較器13のゲインKpも1/2倍になる。したがって、チャージポンプ電流を1/2倍にすると、式(1)に基づいて、固有周波数fnは1/√2になる。
【0032】
また、位相同期回路の制動係数Ksは、以下の式(2)により表される。
【数2】
すなわち、チャージポンプ電流が1/2倍になると、制動係数Ksも1/√2になる。
【0033】
ここで、電圧制御発振器16の周波数切替時間の時定数は、1/(2πTfn)で表すことができるので、チャージポンプ電流を1/2倍にすると、時定数が2倍になり、周波数切替時間も2倍になることがわかる。よって、周波数切替時間を何倍まで遅くできるかがわかれば、チャージポンプ電流をどこまで小さくできるかを特定することができる。例えば、周波数切替時間をt倍まで遅くできる場合、チャージポンプ電流を1/t倍まで小さくすることができる。
【0034】
そこで、制御部18は、所定のチャージポンプ電流I1を流した場合に要する周波数切替時間の最大値Tmaxに対する、同じチャージポンプ電流I1を流した状態で周波数をF1に切り替えた際の周波数切替時間の最大値T1の割合T1/Tmaxを特定することにより、周波数F1における最適なチャージポンプ電流値を決定する。具体的には、制御部18は、周波数F1におけるチャージポンプ電流値を、I1×T1/Tmaxとする。このようにすることで、制御部18は、理想的には、切り替え後の周波数によらず周波数切替時間を同一の長さとして、チャージポンプ電流及びスプリアスを低減させることができる。
【0035】
記憶部17は、上記の原理に基づいて決定された、電圧制御発振器16が出力する発振信号の周波数とチャージポンプ電流との関係を示す情報を記憶しておいてもよい。また、記憶部17は、電圧制御発振器16が出力する発振信号の周波数範囲とチャージポンプ電流との関係を示す情報を記憶しておいてもよい。制御部18は、記憶部17に記憶された切替後の周波数又は周波数範囲とチャージポンプ電流との関係を示す情報に基づいて周波数を切り替える前に、切替後の周波数に対応するチャージポンプ電流の値に、チャージポンプ回路14の設定値を切り替える。
【0036】
[発振器の製造方法]
以下、発振器1が出力する発振信号の周波数とチャージポンプ電流との関係を示す情報を記憶し、記憶した情報に基づいて動作する発振器1を含む発振器を製造する方法について説明する。
【0037】
まず、電圧制御発振器16に供給するチャージポンプ電流が所定の値である条件下で、電圧制御発振器16が発振信号を出力可能な最小周波数又は最大周波数を起点として他の周波数に切り替える際に要する周波数切替時間を、周波数ごとに測定する測定工程を実行する。続いて、上記の最小周波数と最大周波数との間の周波数に切り替える際に要する周波数切替時間を、最小周波数又は最大周波数を起点として他の周波数に切り替える際に要する周波数切替時間の最大値以下にすることができる、所定の値未満のチャージポンプ電流の値を決定する工程を実行する。チャージポンプ電流の値を決定する工程においては、上述のチャージポンプ電流と周波数切替時間との関係を用いることができる。
【0038】
続いて、最小周波数と最大周波数との間の周波数と、決定したチャージポンプ電流の値とを関連付けて、発振器が含む記憶部17に記憶させる工程を実行する。このようにすることで、制御部18は、上記の製造工程において記憶部17に記憶された情報を用いて、チャージポンプ電流を制御することができる。
【0039】
[実施例]
図4は、周波数切替先の周波数と周波数切替時間との関係を示す図である。図4においては、図3(a)及び図3(b)に示した図を重ねて示しており、チャージポンプ電流が1.16mAの状態(図2における設定番号4の状態)で、5075MHzを起点として周波数を切り替えた場合と、6075MHzを起点として周波数を切り替えた場合の周波数切替時間を示している。
【0040】
図4によれば、周波数切替時間の最大値が約350μ秒であり、2つの線が交わる5600MHz付近の周波数においては、周波数切替時間が約200μ秒であることがわかる。この場合、制御部18は、チャージポンプ電流を200/350=0.57倍まで小さく設定することができる。すなわち、制御部18は、発振信号の周波数の切り替え可能範囲の最大周波数と最小周波数との間の所定の範囲の周波数におけるチャージポンプ電流の値を、最大周波数及び最小周波数におけるチャージポンプ電流の値よりも小さい値に設定する。このようにすることで、制御部18は、切替後の周波数に基づいて、所定の範囲の周波数におけるループフィルタの通過帯域幅を小さくすることができるので、スプリアスを抑制する性能が向上する。
【0041】
図4に示す例の場合、図2の表における設定番号2ではチャージポンプ電流が0.5倍となってしまい、チャージポンプ電流が小さくなり過ぎる。そこで、制御部18は、図2の表における設定番号3を選択して、チャージポンプ電流を0.87mAとすることで、チャージポンプ電流を0.87/1.16=0.75倍とする。この場合の周波数切替時間は、350×0.75=262.5μ秒である。
【0042】
また、制御部18は、周波数切替時間が262.5μ秒よりも大きい周波数に切り替える際にチャージポンプ電流を小さくすると、周波数切替時間が350μ秒を越える可能性がある。そこで、制御部18は、発振信号の周波数の切り替え可能範囲に含まれるいずれかの周波数に切り替える場合の切り替え時間の最大値よりも切り替え時間が短いことを条件として、電流の値を設定する。
【0043】
図4に示す例の場合、記憶部17は、切り替え後の周波数が5410MHz〜5830MHzの範囲である場合のチャージポンプ電流を0.87mA、他の周波数である場合のチャージポンプ電流を1.16mAとする情報を記憶しておく。そして、制御部18は、記憶部17に記憶された上記の情報を参照することにより、周波数切替時間が262.5μ秒以下となる周波数(図4の例においては、5410MHz〜5830MHz)に切り替える際に、チャージポンプ電流を0.87mAに設定する。このようにすることで、周波数切替時間が、最大値の350μ秒を越えない範囲で、できるだけチャージポンプ電流を小さくすることができるので、スプリアスを低減させることができる。
【0044】
図5は、周波数切替時間が262.5μ秒以下となる周波数に切り替える際のチャージポンプ電流を0.87mAに設定した場合の、切替先周波数と周波数切替時間との関係(実測値)を示す図である。図5(a)に示すように、周波数切替時間を350μ秒以下と規定すれば、実際には、5360MHz〜5860MHzの間は、チャージポンプ電流を0.87mAに設定することができることが確認できた。図5(b)の太い実線は、5360MHz〜5860MHzの間の周波数に切り替える時のチャージポンプ電流を0.87mAに設定し、5360MHz〜5860MHz以外の周波数に切り替える時のチャージポンプ電流を1.16mAに設定した場合の周波数切替時間の変化の様子を示している。
【0045】
上記の結果は、図4に基づいて算出した5410MHz〜5830MHzとの間にずれがあるが、出力周波数の帯域幅1000MHzに対して30MHz〜50MHz、すなわち3%〜5%の誤差である。したがって、制御部18は、図4を参照しながら説明した上記のチャージポンプ電流の決定方法を用いることにより、十分に実用的なチャージポンプ電流値に制御することができることが確認できた。
なお、上記の誤差は、式(1)及び式(2)に電圧制御発振器16のVF感度Kvが含まれており、全周波数範囲でKvが同じ値にならないことから発生する誤差である。周波数によるKvの変化が大きい電圧制御発振器16を用いる場合、制御部18がKvを考慮してチャージポンプ電流を変更する周波数範囲を決定することにより、誤差を低減させることができる。
【0046】
図6は、離調周波数とスプリアスレベルとの関係の実測値を示す図である。図6における黒色の実線は、5360MHz〜5860MHzにおいてチャージポンプ電流を小さく設定し、周波数切替時間の最小値を約260μ秒、最大値を約350μ秒とした場合のスプリアスレベルを示す。図6における灰色の実線は、チャージポンプ電流を一定値とし、周波数切替時間の最小値を約200μ秒、最大値を約350μ秒とした場合のスプリアスレベルを示す。図6からは、スプリアスが−75dBcから−80dBcに改善していることがわかる。以上の結果から、周波数切替時間の最大値は維持しつつ、出力周波数帯域幅1000MHzのうちの約半分に相当する400MHz〜500MHzの周波数幅でスプリアスを低減させることができることを確認できた。
【0047】
[本実施形態における効果]
以上説明したように、本実施形態に係る発振器1は、切り替え後の周波数に基づいて、チャージポンプ回路14が電圧制御発振器16に供給するチャージポンプ電流の値を決定する。このようにすることで、切り替え後の周波数に切り替えるまでの時間が必要以上に短い場合に、チャージポンプ電流の値を小さくすることによりスプリアス特性を改善することができる。
【0048】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
例えば、上記の説明においては、制御部18が、チャージポンプ電流を2段階で切り替える例について説明したが、制御部18は、チャージポンプ電流をさらに多くの段階で切り替えてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 発振器
11 第1分周器
12 第2分周器
13 位相比較器
14 チャージポンプ回路
15 低域通過フィルタ
16 電圧制御発振器
17 記憶部
18 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6