(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
人間の生活環境には、様々な臭気成分が存在している。例えば、アンモニアを始めとする窒素系化合物、硫化水素やメチルメルカプタンなどの硫黄系化合物、酢酸などの低級脂肪酸、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどのアルデヒド類などが代表的な臭気成分である。これらの臭気成分は当然にできるだけ生活環境から除去しておくことが望ましい。そのため、様々な消臭剤が検討されているが、出来るだけ多くの種類の臭気成分を除去できるものが望ましい。一方で、生活環境に導入するにあたっては、消臭剤自体の安全性も十分でなければならない。
【0003】
このような安全性の高い消臭成分として、酸化亜鉛や炭酸亜鉛、水酸化亜鉛などの亜鉛化合物が挙げられる。これらの亜鉛化合物は上記の臭気成分のうち、かなりの部分を除去することができる。ただし、これらの亜鉛化合物は水に不溶、又は難溶である。このため、生活環境の中でスプレー噴射したり、工場で様々な素材に消臭性能を持たせるために塗工したりするためには、様々な工夫が検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1のように水性懸濁液にしたり、特許文献2及び3のように樹脂を含む水分散体としたりすることが検討されている。これらの分散液を用いると、上記亜鉛化合物を基材に添加することができる。しかし、いずれも分散体であるため、分散性を安定させることが難しく、沈殿を生じたり、装置の閉塞を招いたりするという問題がある。
【0005】
これに対して、特許文献4では、酸化亜鉛と、グリシン、アラニン、フェニルアラニン及びサルコシンの群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸と、水性溶媒とから構成される、酸化亜鉛のアミノ酸錯体を消臭剤として用いることが提案されている。酸化亜鉛のアミノ酸錯体は水に対して溶解性があり、水、又は水とアルコールなどの親水性溶媒を用いた水系溶媒に溶解した溶液として用いることができる。これにより、この溶液を紙や木質系素材、繊維などに対して含浸、噴霧などの手段によって付着させ、消臭性能を発揮できることが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、消臭性能を発揮する成分は、臭いの元となる特徴的な官能基を有する臭気成分と反応して吸着、又は分解することで消臭効果を発揮する以上、必然的に極性が強いものが多く、消臭剤と疎水性素材とはそもそも相性が悪い。酸化亜鉛や炭酸亜鉛などの亜鉛化合物や、酸化銅などの銅化合物もこの例外ではなく、難溶又は不溶ではあっても親水性ではあるため、疎水性の素材に付着させて消臭性能を発揮させることが難しかった。
【0008】
そこでこの発明は、疎水性素材に銅化合物や亜鉛化合物などの親水性金属化合物による消臭性能を有する成分を強固に保持させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、亜鉛又は銅である金属原子と酸素との結合部を有する一種又は複数種の金属化合物にアミノ酸が配位したアミノ酸金属錯体が水系溶媒に溶解した錯体溶液を用いて、上記アミノ酸金属錯体を過剰の上記アミノ酸とともに疎水性素材上に保持させることで上記の課題を解決したのである。上記金属化合物としては酸化亜鉛や炭酸亜鉛、酸化銅が挙げられ、アミノ酸としては、グリシン、アラニン、フェニルアラニン、グルタミン酸塩、サルコシンなどが挙げられる。上記疎水性素材としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンが挙げられる。
【0010】
上記アミノ酸金属錯体は、単独では難溶性ながら、アミノ酸過剰の環境では周囲に存在するアミノ酸によって水溶性を示す。この水溶した上記アミノ酸金属錯体は、金属原子の周囲が親水性で水溶化させるアミノ酸に覆われているにも拘わらず、ポリオレフィンなどの疎水性素材の表面に対して強く固着するという奇妙な動作をすることがわかった。この発明はその特異な性質を利用し、疎水性素材に対して水系溶媒に溶解した錯体溶液を直接付着させるという親和性が低いはずの組み合わせながら、表面に金属化合物を含む錯体を実用上利用可能な耐久性で保持させ、消臭性能を発揮させることができるようにしたものである。また、アミノ酸自体にも一部の低級脂肪酸に対して消臭効果があるため、これらが相乗的に作用すると考えられる。
【0011】
このような消臭効果付疎水性素材を製造するにあたっては、上記錯体溶液を上記疎水性素材に噴霧、含浸、浸漬などの方法によって塗工した後、上記水系溶媒を蒸発などによって除去する。上記水系溶媒が除去された後、残された上記アミノ酸金属錯体が上記疎水性素材に対してどのような形で耐久性を発揮する定着状態になっているかは不明な点も多いが、おそらく上記金属原子に直接接合しているアミノ酸か、それに近い状態で配位しているアミノ酸の一部が、上記疎水性素材の表面に対して何らかの形で結合していると考えられる。さらに上記金属化合物に直接配位しているアミノ酸だけでなく、溶液として溶解するために錯体の周囲に存在する大量のアミノ酸も、まとめて高い耐久性を発揮するように保持されているものと推測される。
【発明の効果】
【0012】
この発明により、親水性である金属化合物による消臭性能を持たせにくい疎水性素材に対して、化合物を表面に保持するためのバインダー樹脂などを用いることなく、金属化合物を含むアミノ酸金属錯体とアミノ酸とを疎水性素材の表面に強固に保持させることができ、水濡れしても性能が劣化しにくい消臭効果付疎水性素材を利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明について詳細に説明する。この発明は、消臭効果付疎水性素材、及びその製造方法である。
【0014】
この発明にかかる消臭効果付疎水性素材は、亜鉛又は銅である金属原子と酸素との結合部を有する一種又は複数種の金属化合物とアミノ酸と、で構成されるアミノ酸金属錯体が、疎水性素材の表面に保持されたものである。
【0015】
上記金属化合物としては、具体的には、亜鉛化合物としては酸化亜鉛、炭酸亜鉛などが挙げられる。銅化合物としては酸化銅などが挙げられる。この発明にかかる消臭効果付疎水性素材では、これらの金属化合物が、上記疎水性素材の表面で、窒素化合物や硫黄化合物その他の臭気成分と反応することで消臭性能を発揮する。
【0016】
上記アミノ酸金属錯体は、上記金属化合物に配位して錯体を形成可能なアミノ酸を有する。例えば、このアミノ酸としては、グリシン、アラニン、フェニルアラニン、グルタミン酸、グルタミン酸塩、サルコシンなどが挙げられる。これらの中でも、錯体形成の容易性の点では、立体障害が少ないグリシン、アラニン、サルコシンが利用しやすく、特にグリシンが利用しやすい。特に、製造工程において上記アミノ酸金属錯体を水系溶媒に溶解させるため、上記アミノ酸は過剰量が存在することによって上記アミノ酸金属錯体を水系溶媒に溶解させうるものであることが必要である。さらに、この過剰量で溶解状態となることをサポートするアミノ酸は、上記金属化合物と直接配位した分子以外にも、上記疎水性素材の表面に大量に保持されることが可能となり、この発明にかかる消臭効果付疎水性素材を形成する。
【0017】
これらの金属化合物とアミノ酸とからなるアミノ酸金属錯体は、主にアミノ酸の窒素原子が有する孤立電子対が金属原子に配位されると共に、周囲には上記アミノ酸が過剰に存在することで、全体としては水溶可能な状態になる。上記消臭効果付疎水性素材を製造するにあたっては、上記アミノ酸金属錯体が水系溶媒に溶解した錯体溶液を用いる。
【0018】
上記錯体溶液における上記金属化合物と上記アミノ酸との質量混合比は、1:3〜1:50の範囲であると好ましく、1:3〜1:40の範囲であるとより好ましく、1:4〜1:10の範囲であるとさらに好ましい。アミノ酸が少なすぎると水に溶解せず水溶液にならないか、一部の上記金属化合物が溶解しきれずに分散状態になってしまうおそれがある。また、表面に保持される状態での安定性に問題を生じてしまう。非溶解状態の上記アミノ酸金属錯体は、上記疎水性素材の表面の隙間などに粒子が嵌ることはあっても、溶解状態を作り出す上記アミノ酸まで含めた強固な保持状態にならないと考えられる。一方、アミノ酸が多すぎると、消臭効果を発揮する成分のうち、アミノ酸による効果は確保できても、上記金属化合物による消臭効果がかえって低下しすぎてしまう。
【0019】
この上記アミノ酸金属錯体を水系溶媒に溶解させた上記錯体溶液を、疎水性素材に対して高い洗浄耐久性を有する消臭効果付与剤として用いることができる。上記水系溶媒としては、水を用いることができる他、水と水酸基含有有機溶媒との混合溶媒を用いることができる。上記水酸基含有有機溶媒としては、例えば、炭素数1〜4のアルコール、グリコール、又はそれらの混合物を用いることができる。具体的には、上記アルコールとしてはメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールが挙げられる。また、上記グリコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオールなどが挙げられる。この他、これらグリコールの低級アルキルエーテルであるグリコールモノエーテルを用いることもできる。上記混合溶媒のうち、水以外の成分の割合は、50質量%以下であると好ましく、20質量%以下であるとより好ましい。
【0020】
上記錯体溶液における、上記金属化合物と上記アミノ酸との和の濃度は、0.01質量%以上であると好ましく、0.1質量%以上であるとより好ましい。0.01質量%未満では薄すぎて、上記疎水性素材の表面に保持させようとしても少なすぎて消臭効果がほとんど見込めなくなってしまう。一方で、20質量%以下であると好ましく、10質量%以下であるとより好ましい。濃すぎるとアミノ酸の種類によっては上記金属化合物や上記アミノ酸金属錯体が溶解しきれずに沈殿を起こしてしまい、上記疎水性素材の表面に均一に保持される安定性、均一性が発揮できなくなるおそれがあるからである。
【0021】
上記錯体溶液は、pH調整剤を含んでいても良い。溶液が酸性であるとアンモニアなどの窒素系化合物の除去効率が向上し、塩基性であると硫化水素などの硫黄系化合物や酢酸等の低級脂肪酸の除去効率が向上する傾向にあるため、用途に応じて適切にpHを調整することで、付与する消臭性能を向上させることができる。ただし、安全性の点から、pHは4〜9の範囲で調整することが好ましく、全体的な除去効率の点からは、6.0〜8.5の範囲であるとより好ましい。
【0022】
上記pH調整剤としては、上記錯体溶液の消臭効果付与性能と、上記疎水性素材への保持を阻害しないものであれば特に制限されない。具体的には、炭酸ナトリウム,水酸化ナトリウム,第一リン酸ナトリウム,第二リン酸ナトリウム,亜硫酸ナトリウム,亜硫酸水素ナトリウム等の無機酸塩、クエン酸ナトリウム,酒石酸ナトリウム等の有機酸塩、モノエタノールアミン,ジエタノールアミン,トリエタノールアミン等のアミン類などが挙げられる。
【0023】
上記錯体溶液を調製する手順としては、上記アミノ酸金属錯体が溶解した溶液を調製できるのであれば特に限定されない。例えば、一つの手順としては、上記金属化合物の分散液と、上記アミノ酸の水系溶媒溶液とを、それぞれ所定の濃度で予め調製し、これらを所定の割合となるように混合して錯体を形成させた溶液とする手順が挙げられる。また他の手順としては、微粒子状の上記金属化合物と、上記アミノ酸とを粉末状体で所定の割合にて混合した粉末混合物を調製した後、この粉末混合物を上記水系溶媒に投下して錯体を形成させつつ溶解させて所定の濃度にする手順が挙げられる。またさらに他の手順としては、所定の濃度の上記アミノ酸の上記水系溶媒溶液に、上記金属化合物の微粒子を所定の割合で混合して、錯体を形成させるとともに溶解させる手順が挙げられる。いずれの手順でも、上記アミノ酸金属錯体が上記アミノ酸の分散とともに上記水系溶媒に溶解した溶液となれば、利用可能な上記錯体溶液が得られる。その他、必要に応じて上記のpH調整剤やその他の添加物を、消臭性能や後述する保持を阻害しない範囲で含有させてよい。
【0024】
上記錯体溶液は、有効成分が極性を有するにも拘わらず、疎水性素材に対して高い保持性を発揮する。ここで疎水性素材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ4−メチル−ペンテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体などのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステルなどの樹脂が挙げられる。この中でもポリオレフィンが上記アミノ酸金属錯体を表面に保持させやすく好ましい。また、上記ポリエチレンとしては、高密度ポリエチレンでも低密度ポリエチレンでもよい。さらに、これらの疎水性素材からなるフィルムやシートとして、コロナ放電処理、紫外線照射処理、溶剤処理などの処理を施した加工後の素材を用いてもよい。
【0025】
上記疎水性素材の形態は、不織布や布帛、糸などの繊維状物でもよいし、樹脂のフィルムやシートでもよいし、その他の射出成形品でもよく、特に形状は限定されない。ただし、繊維状物は繊維間に空隙が存在するため、上記錯体溶液と接したときに上記アミノ酸金属錯体が保持されやすく、フィルムやシートよりも消臭効果付与の加工が容易である。
【0026】
上記錯体溶液によって上記疎水性素材の表面に上記アミノ酸金属錯体を保持させて消臭効果付疎水性素材を製造するにあたっては、上記錯体溶液を上記疎水性素材に塗工した後、上記水系溶媒を除去して、上記アミノ酸金属錯体を上記アミノ酸とともに上記疎水性素材の表面に保持させる。上記の塗工する方法としては、上記錯体溶液の溶液中に上記疎水性素材を浸漬させる手法や、上記錯体溶液が付着したローラーや刷毛などを上記疎水性素材に接触させて塗工する手法や、上記錯体溶液を霧状にして上記疎水性素材に噴霧する手法などが挙げられる。これらの手法により塗工した後、上記水系溶媒を除去する方法としては、蒸発によることが望ましい。高熱により短時間で蒸発させる手法と、時間を掛けて常温または低温加熱により徐々に蒸発させる手法とのどちらも利用可能であるが、上記アミノ酸が変性しないようにする場合には、時間を掛けて蒸発させる方が好ましい。短時間で処理する場合には、加熱によって表面の消臭効果が失われないように温度や送風量を調整する。
【0027】
上記消臭効果付疎水性素材の表面がどのような状態であるかは不確かであるが、上記アミノ酸金属錯体が完全に分離しているのではなく、元の錯体が形態を維持している形で、上記疎水性素材を構成する原子と金属原子との間に上記アミノ酸が介在していると考えられる。上記アミノ酸が介在することで、上記疎水性素材に対しては親和性が低い金属原子が表面にそれなりの耐久性を保って定着していると考えられる。これはおそらく、活性化した金属原子又はその配位子が表面に単分子層に近い層を形成しており、上記疎水性素材の表面が活性化されていると考えられる。これに加えて金属原子に直接配位している以外の上記錯体溶液として溶解に寄与していた周囲の上記アミノ酸分子も、上記疎水性素材の表面に強固に保持されていると考えられる。
【0028】
上記消臭効果付疎水性素材がどのようにして臭気成分を大気中から除去するかは定かではないが、少なくとも実効性は確認される。おそらく上記アミノ酸を介して上記疎水性素材の表面に保持された金属化合物と、周囲に存在するアミノ酸とによって、空気中の臭気成分が吸着され、場合によっては分解、又は変性されるものと推測される。
【実施例】
【0029】
以下、この発明について実施例を挙げてさらに具体的に効果を示す。
まず、用いた材料について説明する。
・アミノ酸……グリシン(協和発酵キリン(株)製:日本薬局方)
・アミノ酸……DL-アラニン(協和発酵キリン(株)製:医薬品添加物規格)
・金属化合物……酸化亜鉛(本荘ケミカル(株)製 第1種)
・金属化合物……塩基性炭酸亜鉛(和光純薬工業(株)製)
・金属化合物……酸化銅(和光純薬工業(株)製 粉末)
・疎水性素材……ポリエチレン樹脂製フィルム(厚さ50μm)
・水系溶媒……イオン交換水95容量%と99.5%無水エタノール 5容量%を混合して水溶媒を調製したもの
【0030】
(実施例1)
まず、酸化亜鉛1.0gとグリシン3.1g(質量比1:3.1)を200cc三角フラスコに入れ、イオン交換水96gを添加した。添加後、40℃で30分間撹拌して、無色透明の水溶液である錯体溶液を得た。次に、5cm×7cmにカットしたポリエチレン(PE)フィルム1枚を秤量した後、刷毛で錯体溶液を塗布した。塗布した試験片を、70℃にセットされた乾燥器にて1時間乾燥させた後、質量測定して錯体が付着していることを確認した。これらの測定結果を表1に示す。ついで、塗布・乾燥した試験片を水道水の流水に5秒間さらした後、70℃の乾燥器に入れて1時間乾燥させた後、質量測定した。測定から水洗後も付着物が保持されていることが確認された。この付着物の保持を確認した試験片を消臭試験に供した。
【0031】
【表1】
【0032】
(実施例2)
実施例1の錯体溶液調製と同様の手順において、酸化亜鉛を0.5g、グリシンを25g(質量比1:50)、フラスコを300cc三角フラスコに、イオン交換水を75gとし、50度で30分間攪拌して、無色透明の溶液である錯体溶液を得た。塗布方法は実施例1と同様である。得られた錯体溶液を直径15cmのシャーレに20ml入れ、次いで幅5cm×長さ7cmにカットしたPEフィルム2枚を5分間錯体溶液に浸漬させた。うち一枚を70℃の乾燥機で30分間乾燥させた。この乾燥させた試験片の質量を測定し、錯体とアミノ酸が付着していることを確認した。これらの測定結果を表1に示す。ついで、塗布乾燥させた試験片をイオン交換水20mlに5分間浸漬した後、取り出して70℃の乾燥機で1時間かけて乾燥させた後、質量測定した。測定から、水洗後も付着した錯体等が保持されていることが確認された。この付着物の保持を確認した試験片を固着したPEフィルムを消臭試験に供した。
【0033】
(実施例3)
実施例1において、酸化亜鉛を炭酸亜鉛5.0gに変更し、グリシンを20gに変更し(質量比1:4)、300cc三角フラスコにてイオン交換水200mlを添加し、70℃で1時間攪拌して、無色透明の溶液である錯体溶液を調製した。それ以外は実施例1と同様に付着量を測定し、水洗し、水洗後の付着量を測定した。その結果を表1に示す。
【0034】
(実施例4)
実施例1において、酸化亜鉛を0.5g、グリシンを3.0gに変更し(質量比1:6)、イオン交換水の代わりに、水系溶媒97gを添加し、室温で30分間攪拌して、無色透明の溶液である錯体溶液を調製した。それ以外は実施例1と同様に付着量を測定し、水洗し、水洗後の付着量を測定した。その結果を表1に示す。
【0035】
(実施例5)
実施例1において、グリシン3.1gをアラニン4gに変更し(質量比1:4)、水を95gに変更した以外は実施例1と同様の手順により試験片を調製し、実施例1と同様に付着量を測定した。その結果を表1に示す。
【0036】
(実施例6)
実施例1において、酸化亜鉛1.0gを酸化銅1.0gに変更し、グリシン3.1gを3.0gに変更(質量比1:3)した以外は実施例1と同様の手順により試験片を調整し、実施例1と同様に付着量を測定した。その結果を表1に示す。
【0037】
(比較例1)
錯体溶液を使用せず、5cm×7cmポリエチレンフィルムをそのまま使用した。
【0038】
(比較例2)
実施例1において、酸化亜鉛を1g、グリシンを2gとし(質量比1:2)、イオン交換水97gを添加して40℃で30分間攪拌したが、無色透明の溶液が得られず、懸濁状態のままであった。この懸濁溶液を実施例1と同様に塗布したが、塗布面の状態は不均一となり、水洗後の固着量は検出限界未満となってしまい、付着物が保持されていないことが確認された
【0039】
<消臭試験>
実施例1〜6、比較例1〜2の水洗処理後の試験片について、消臭試験を実施した。悪臭ガスとしては硫化水素とアンモニアを用いた。除去対象ガス注入口と、圧力調整口と、検知管による測定口と、予備口とを備えた3Lのガラス製セパラブルフラスコを2個用意した。準備段階として、それぞれの3Lフラスコに所定量の硫化水素及びアンモニアを注入した。初期濃度をガステック検知管により測定したところ、硫化水素10ppm、アンモニア15ppmであった。
【0040】
上記の3Lフラスコに、それぞれの実施例及び比較例の試験片を予備口から投入し、経過時間後の残存硫化水素濃度及び残存アンモニア濃度を検知管により測定し、所定時間経過後の消臭率を算出した。その結果を表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
<評価>
実施例ではいずれも水洗後も付着物が保持されていることで、硫化水素とアンモニアの両方の消臭効果が発揮されていると考えられる。また、実施例4において溶媒を変更しても、疎水性素材の表面への保持効果と消臭能力が観測された。さらに、実施例5においてグリシンをアラニンに変更しても、実施例6において酸化亜鉛の代わりに酸化銅を用いても、同様に疎水性素材の表面への保持効果と消臭能力が観測された。
【0043】
一方、比較例1はPEフィルムに錯体溶液を塗布していないため、硫化水素の消臭能が発揮されなかった。なお、アンモニアについてはフィルム表面への吸着による残存アンモニア濃度の減少と考えられる。比較例2は水処理後に観測された付着量が0mg(実際には0.1mg程度)であり、表面に辛うじて酸化亜鉛とグリシン錯体との単分子層が残るだけであると考えられる。硫化水素消臭性能が発現してはいるが、これは疎水性素材の隙間などにわずかに残った分散粉末などによるものと考えられ、表面に均一に錯体とアミノ酸とが保持されたものではない。