(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6672052
(24)【登録日】2020年3月6日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】溶融製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C05F 11/00 20060101AFI20200316BHJP
B09B 3/00 20060101ALI20200316BHJP
C02F 11/10 20060101ALI20200316BHJP
C05F 7/00 20060101ALI20200316BHJP
C05F 3/00 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
C05F11/00
B09B3/00 303Z
B09B3/00 C
C02F11/10 AZAB
C05F7/00
C05F3/00
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-82651(P2016-82651)
(22)【出願日】2016年4月18日
(65)【公開番号】特開2017-193452(P2017-193452A)
(43)【公開日】2017年10月26日
【審査請求日】2018年12月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 薫
(72)【発明者】
【氏名】上林 史朗
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 洋仁
(72)【発明者】
【氏名】岡田 正治
(72)【発明者】
【氏名】永山 貴志
【審査官】
柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−239781(JP,A)
【文献】
特開2005−205385(JP,A)
【文献】
特開2010−149079(JP,A)
【文献】
特開2013−256400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C05F
B09B 3/00
C02F 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマス資源をメタン発酵させた残渣であるリン成分を含むメタン発酵残渣、及び/または前記メタン発酵残渣と添加物との混合物を、リン成分が揮散しないように炉内に供給する空気量を調節した酸化性雰囲気下で溶融する溶融ステップと、
前記溶融ステップで溶融された溶融処理物を冷却して固化する冷却ステップと、
を含み、
前記溶融ステップで添加する前記添加物として前記溶融処理物の粘性を下げる融点降下剤または塩基度調整剤を用いるとともに、前記冷却ステップで前記溶融処理物を急冷することによりスラグ内部にひび割れを生じさせ、保水性や通水性を備えたリン含有肥料、緑化ブロック、漁礁ブロック、植林ブロックまたは土壌改質材として使用する溶融製品の製造方法。
【請求項2】
前記冷却ステップで得られたスラグを破砕する整粒ステップと、前記整粒ステップで破砕されたスラグからアルミ、鉄系金属を除去する選別ステップをさらに含む請求項1記載の溶融製品の製造方法。
【請求項3】
前記溶融ステップで添加する前記添加物として下水汚泥、し尿汚泥、ヘドロまたは古紙の何れかまたは複数を溶融熱源として選択する請求項1かまたは2記載の溶融製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
溶融製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水汚泥、し尿、食品工場で生じる食品残渣等の様々な有機性廃棄物に対して、そのまま廃棄するのではなく、エネルギー資源に再生することを目的としてメタン発酵処理が行なわれている。そして、メタン発酵処理された後の窒素やリンが含まれている液分は、硝化脱窒処理を含む生物処理により浄化された後に河川等へ放流され、或いは液肥としての活用が試みられている。メタン発酵処理された後の残渣についても、資源として再生活用する手立てが考えられている。
【0003】
特許文献1には、植物、畜産物、魚貝類またはそれらの廃棄物、あるいは、畜産物等の糞などの汚物を含むバイオマス資源を、メタンを発酵させる温度に加熱保持してメタンガスと残渣を生成するメタン発酵装置と、メタン発酵装置で生成した残渣を、燃料や資源として供給しかつ1000度以上で高温溶融させて高温液状物とするとともに、炉内で発生する酸素含有ガスを還元ガス化させるコークスベッド炉でなる還元ガス化溶融炉と、を具え、かつ、高温液状物を冷却して得られたスラグおよび/またはメタルを路盤材などに活用するとともに、この還元ガス化溶融炉内で発生した還元ガスを比較的高温で回収して、高温ガスや燃料ガスのようなエネルギー資源として有効活用することにより、最終的な残渣発生率が0%であることを特徴とする廃棄物処理システムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−34679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された廃棄物処理システムは、有機性廃棄物を肥料としてそのままの状態で使用する場合に発生する異物の混入によるトラブル等を回避するための方策として提案されている。
【0006】
しかし、上述したコークスベッド炉等の還元ガス化溶融炉を用いて還元性雰囲気下でメタン発酵残渣を溶融処理すると、メタン発酵残渣に本来的に含まれているリン成分が揮散して還元ガスに混入し、煙道にリン酸ダストとして析出するため、煙道に配置された機器の閉塞等の問題を回避するために脱リン対策が必要になるという問題があった。その反面、溶融処理されたメタン発酵残渣はリン含有率が低下するため、肥料としての活用は望むべくもなかった。
【0007】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、有機性廃棄物に対するメタン発酵により生じた残渣を有効に活用可能
な溶融製品の製造方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するため、本発明による溶融製品の
製造方法の第一の特徴構成
は、バイオマス資源
をメタン発酵させた残渣であるリン成分を含むメタン発酵残渣
、及び/または前記メタン発酵残渣と添加物
との混合物を
、リン成分が揮散しないように炉内に供給する空気量を調節した酸化性雰囲気下で溶融する溶融ステップと、前記溶融ステップで溶融された溶融処理物を
冷却して固化する冷却ステップと、を含み、
前記溶融ステップで添加する前記添加物として前記溶融処理物の粘性を下げる融点降下剤または塩基度調整剤を用いるとともに、前記冷却ステップで前記溶融処理物を急冷することによりスラグ内部にひび割れを生じさせ、保水性や通水性を備えたリン含有肥料、緑化ブロック、漁礁ブロック、植林ブロックまたは土壌改質材として使用する点にある。
【0009】
酸化性雰囲気下での溶融処理物は、メタン発酵残渣に含まれるリン成分が溶融処理によって揮散することなく溶融処理物側に含まれるので、リン肥料として有効に活用できるようになる。また、メタン発酵残渣に添加物を混合することにより、得られる溶融処理物の特性を所望の特性に調整することができる。
添加物として、融点降下剤または塩基度調整剤を用いて溶融処理物の粘性を下げるとスラグ粒度が低下し、脆いスラグを得ることができ、リン含有肥料、緑化ブロック、漁礁ブロック、植林ブロックまたは土壌改質材として保水性や通水性を備えた好ましい特性に調整できる。
【0010】
同第二の特徴構成
は、上述の第一の特徴構成に加えて、
前記冷却ステップで得られたスラグを破砕する整粒ステップと、前記整粒ステップで破砕されたスラグからアルミ、鉄系金属を除去する選別ステップをさらに含む点にある。
【0011】
整粒ステップによりスラグが破砕されて粒度が調整され、また選別ステップでアルミ、鉄系金属が除去されることにより、リン含有肥料、緑化ブロック、漁礁ブロック、植林ブロックまたは土壌改質材として無用な成分が除去され使い勝手の良い溶融製品が得られる。
【0012】
同第三の特徴構成
は、上述の第一または第二の特徴構成に加えて、
前記溶融ステップで添加する前記添加物として下水汚泥、し尿汚泥、ヘドロまたは古紙の何れかまたは複数を溶融熱源として選択する点にある。
【0013】
添加物として
添加物として下水汚泥、し尿汚泥、ヘドロまたは古紙の何れかまたは複数を用いることにおり、それらに含まれる有機成分が溶融熱源となり溶融に必要な燃料を節減することができ、しかも、それら添加物にリン成分が含まれているため、溶融処理物のリン含有率を高めることができより有効なリン肥料として活用できるようになる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明した通り、本発明によれば、有機性廃棄物に対するメタン発酵により生じた残渣を有効に活用可能
な溶融製品の製造方法を提供することができるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明による溶融製品及び溶融製品の製造方法を説明する。
図1には、溶融製品の製造装置10が示されている。
【0017】
溶融製品の製造装置10は、メタン発酵設備11と、脱水装置12と、乾燥装置13と、溶融設備14と、整粒装置17と、選別装置18等を備えている。
【0018】
メタン発酵設備11は、外部から搬入された有機性廃棄物を嫌気性微生物によって分解してメタンガスを発生させる処理槽である。有機性廃棄物としてし尿、家畜の糞尿、下水汚泥、古紙、生ごみ、剪定枝、間伐材チップ、木材チップ、食品工場で生じた畜産物や魚貝類の廃棄物等のヘドロ等のバイオマス資源が用いられる。処理槽には好適な発酵温度に維持するための加温装置や、槽内の処理物を撹拌する撹拌羽根等が設けられている。
【0019】
メタン発酵設備11でメタン発酵処理されて生成されたメタンガスは燃料ガスとして利用され、メタン発酵処理の結果生じた液分はリン成分や窒素成分が含まれているため液肥として有効利用される。尚、液分は脱リン処理や硝化脱窒素処理を伴う生物処理によって浄化された後に河川に放流される場合もある。当該生物処理で発生する余剰汚泥も有機性廃棄物としてメタン発酵処理や溶融設備14を用いた溶融処理の対象となる。
【0020】
メタン発酵処理で生じた液分を除いた固形分であるメタン発酵残渣は、処理槽からポンプPで引き抜かれ、脱水装置12で脱水処理され、必要に応じて乾燥装置13で乾燥処理された後に溶融設備14に投入される。脱水装置12としてスクリュープレス式脱水装置やフィルタプレス式脱水装置等が用いられる。乾燥装置13としてバーナが組み込まれた熱風炉等が用いられる。脱水処理によって含水率が80%程度の脱水ケーキが得られ、さらに乾燥処理によって含水率が20〜40%程度に乾燥され、溶融設備14で溶融処理される。
【0021】
溶融設備14は、内筒14aと外筒14bの間に形成された貯留部14cと、貯留部14cに投入されたメタン発酵残渣を含む被溶融物を内筒14aと外筒14bとの相対回転に伴って内筒14a内の炉室14eに供給する切出し装置14dと、炉室14eにすり鉢状に搬送されたメタン発酵残渣を含む被溶融物を表面から溶融する燃焼バーナ14fと、溶融スラグを炉室から排出する出滓口14gとを備えた回転式表面溶融炉で構成されている。
【0022】
出滓口14gの下方にはスラグ冷却機構の一例である水槽15が配置され、水槽15に滴下したスラグが急冷されて水砕スラグとなり、ベルト式等の搬送機構16により整粒装置17に搬出される。
【0023】
リンの揮散を回避してリンをスラグ側に移行させるべく、燃焼バーナ14fに供給する燃焼用空気の供給量を調整して、炉室14eを酸化性雰囲気下で溶融するように制御されることが好ましい。
【0024】
また、溶融時にスラグの融点に影響を与える塩基度(CaO/SiO
2)を調整するための塩基度調整剤や、酸化第二鉄等の鉄系の融点降下剤がメタン発酵残渣に添加されることにより、溶融製品となるスラグの性状が調整可能になる。特に鉄系の助剤を添加すると、リンの揮散が抑制されるばかりでなく、一部が鉄との固溶体となり金属リン化合物ではない形態でリンがスラグ中に捕捉されるようになる。
【0025】
塩基度調整剤として石灰系助剤を添加して、溶融スラグの粘性を下げることにより、スラグ粒度を下げ、脆いスラグを得ることができる。酸化第二鉄等の融点降下剤を添加することによっても同様の効果が得られる。このようなスラグはリンを含む肥料として好適に活用できる。
【0026】
塩基度調整剤として珪砂等を添加して、溶融スラグの粘性を上げることにより、スラグ粒度を上げ、強度のあるスラグを得ることができる。このようなスラグはアスファルトコンクリートやプレキャストコンクリートの骨材として好適に使用できる。また、強度があり大きな塊状のスラグであれば、道床に用いるバラスト等に活用できる。
【0027】
塩基度や融点を調整するための添加物以外の添加物として、下水汚泥、し尿汚泥、ヘドロまたは古紙の何れかまたは複数を用いると、これら添加物に含まれるリン成分がスラグに移行することによって、より濃度の高いリン含有溶融製品を得ることができる。
【0028】
さらに添加物として、都市ごみ焼却灰、下水汚泥焼却灰、不法廃棄物、埋立廃棄物、掘り起し土壌、建築廃材、石綿、震災ごみ等の何れかまたは複数を用いると、メタン発酵残渣に含まれる有機分からなるカロリーを溶融のための熱源に用いることができ、都市ごみ焼却灰等の無機物を単独で溶融する場合に比べて燃比の向上が見込まれる。
【0029】
下水汚泥、し尿汚泥、ヘドロまたは古紙等の有機物、或いは都市ごみ焼却灰等の無機物を添加材とする場合に、同時に塩基度調整剤や融点降下剤を添加することにより、用途に応じた好ましい性状のスラグを得ることができる。
【0030】
スラグが出滓口14gから水槽15に落下して急冷されると、細かく破砕された水砕スラグが得られ、水砕スラグが整粒装置17によって数mmの粒径に整粒され、選別機構18によって金属類とスラグに選別される。尚、水砕スラグは、急冷によりスラグ内部にもひび割れを生じており、これにより保水性と通水性が発揮されるようになる。
【0031】
スラグ冷却機構を構成する水槽15に代えて、冷却ファンを備えた空冷機構を用いると、スラグが徐冷されて強度のある結晶性の塊状のスラグが得られ、骨材等に好適に用いることができるようになる。
【0032】
整粒装置17としてロールクラッシャ、ハンマークラッシャ等の乾式破砕装置やボールミル等の湿式破砕装置が好適に用いられる。
【0033】
選別機構18としてスラグに混入したアルミを除去するアルミ選別装置、鉄系金属を除去する磁力選別装置、比重選別装置、篩選別装置等を用いることにより、スラグと金属を分離し、またはスラグを粒径によって分離することができる。
【0034】
図2には、上述した製造装置10を用いた溶融製品の製造方法が示されている。外部から搬入されたバイオマス資源は、メタン発酵設備11に投入されて、有機性廃棄物を嫌気性微生物によって分解してメタンガスを発生させるメタン発酵処理ステップが実行され、メタン発酵処理の後にメタン発酵残渣を得る固液分離処理工程が実行され、得られたメタン発酵残渣は脱水及び/または乾燥処理が実行されて所要の含水率に調整される。
【0035】
メタン発酵残渣及び/またはメタン発酵残渣と添加物の混合物が、溶融設備14に投入されて酸化性雰囲気下で溶融される溶融ステップ、溶融ステップで溶融された溶融処理物が冷却固化される冷却ステップ、必要に応じて整粒装置17で粒度を調整する整流ステップ、スラグと金属類を分離し、或いは粒度分離する選別ステップが実行される。
【0036】
図3には、上述した製造方法により得られたスラグの溶融製品への用途が示されている。
得られたスラグをそのまま用いることができる一次製品として、埋戻し材、覆土材、土壌改良剤、肥料原料、ショットブラスト等の研磨材、バラスト等に活用できる。
【0037】
得られたスラグに何らかの処理を施して用いる二次製品として、アスファルトコンクリート用骨材、道路用ブロック、法面ブロックまたは消波ブロック等のプレキャストコンクリートの骨材、軽量ブロック、化粧ブロック、タイル、緑化ブロック、法面ブロック、漁礁ブロック、植林ブロック、土壌改質材等に活用できる。
【0038】
何れも選別工程で金属類が除去されているため、コンクリート用骨材に用いられる場合であっても鉄分の酸化等による色の発現等の不都合な事態が発生することはない。緑化ブロック、土壌改質材等に用いることによりリン肥料として有効活用できる。
【0039】
またスラグのみから溶融製品を製造するのではなく、スラグに他の材料をさらに添加して溶融製品を製造してもよい。
【0040】
尚、これらの溶融製品の有する機能には、肥効性、保水性、通水性、放射遮蔽性、低比重がある。
【0041】
上述の実施形態では溶融装置として回転式表面溶融炉を用いた例を説明したが、溶融装置としてはシャフト式溶融炉、電気式溶融炉、プラズマ式溶融炉、燃料式溶融炉等どのような溶融炉を用いてもよい。
【0042】
上以上説明した実施形態は本発明の一例を示したものであり、該記載により本発明の技術的範囲が限定されるものではないことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0043】
10:溶融製品の製造装置
11:メタン発酵装置
12:脱水装置
13:乾燥装置
14:溶融設備
15:スラグ冷却機構(水槽)
16:搬送機構
17:整粒装置
18:選別機構