(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記2つの複素インピーダンスの測定角速度は、前記2つの複素インピーダンスの実数成分に対する虚数成分の変化率の絶対値が0.5以上、かつ、2以下である範囲にある角速度である
請求項2又は3に記載の電池容量測定装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の電池容量測定装置によれば、現在の電池容量、すなわち容量維持率に相関を有する劣化度が算出されるようになる。
ところで、
図5に示すように、通常、ナイキスト線図におけるインピーダンス曲線L51は、測定周波数が高周波数側から低周波数側に向かって変化することに対応して複数の領域を有する。すなわち、インピーダンス曲線L51は、回路抵抗に対応する「領域a」、溶液抵抗に対応する「領域b」、反応抵抗に起因する交流インピーダンスに対応する「領域c」、及び略直線状の拡散抵抗に対応する「拡散領域d」を有する。例えば、特許文献1に記載の電容量測定装置は、略直線状の拡散抵抗に対応する「拡散領域d」において、「領域c」に続いて生じる「直線領域da」よりも低周波数側の領域に生じる「垂直領域dc」での虚数成分の値に基づいて二次電池の劣化度を測定する。なお、「直線領域da」は、実数成分の変化量に対する虚数成分の変化量の割合が「1」に近い所定の値の範囲にある領域であり、「垂直領域dc」は、実数成分に対して虚数成分の変化が大きく、ナイキスト線図において略垂直に変化する領域である。そして、特許文献1に記載の装置は、二次電池の温度を常温よりも高い温度である40℃以上70℃以下にした状態で劣化度を測定するものであるため、これを上記電気自動車等に搭載されていて使用中である二次電池について電池容量の測定に利用しようとすると、昇温を要するという点で現実的ではない。なお、こうした課題は、電気自動車等に搭載されている二次電池に限られるものではなく、各種機器で使用中の二次電池について概ね共通した課題となっている。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、使用中の温度下であれ、二次電池の電池容量を測定することのできる電池容量測定装置、及び電池容量測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する電池容量測定装置は、二次電池の電池容量を測定する電池容量測定装置であって、測定用の交流電力の付与に基づいて測定対象とする二次電池の複素インピーダンスを測定するインピーダンス測定部と、前記測定した複素インピーダンスのうち、拡散領域内にあり、かつ、測定角速度が相違する2つの複素インピーダンスの測定角速度の差と前記2つの複素インピーダンスの成分の差との比からなるパラメータを算出するパラメータ算出部と、予め設定された情報であって、前記二次電池の容量と前記パラメータとの関係を示す情報と、前記パラメータ算出部で算出したパラメータとに基づいて前記二次電池の容量を算出する容量算出部とを備えることを特徴とする。
【0009】
上記課題を解決する電池容量測定装置は、二次電池の電池容量を測定する電池容量測定装置であって、測定用の交流電力の付与に基づいて測定対象とする二次電池の複素インピーダンスを測定するインピーダンス測定部と、前記測定した複素インピーダンスのうち、拡散領域内にあり、かつ、測定角速度が相違する2つの複素インピーダンスの測定角速度の差と前記2つの複素インピーダンスの虚数成分の差との比からなるパラメータを算出するパラメータ算出部と、予め設定された情報であって、前記二次電池の容量と前記パラメータとの関係を示す情報と、前記パラメータ算出部で算出したパラメータとに基づいて前記二次電池の容量を算出する容量算出部とを備えることを特徴とする。
【0010】
上記課題を解決する電池容量測定方法は、二次電池の電池容量を測定する電池容量測定装置に用いられる電池容量を測定する方法であって、インピーダンス測定部で、測定用の交流電力の付与に基づいて測定対象とする二次電池の複素インピーダンスを測定するインピーダンス測定工程と、パラメータ算出部で、前記測定した複素インピーダンスのうち、拡散領域内にあり、かつ、測定角速度が相違する2つの複素インピーダンスの測定角速度の差と前記2つの複素インピーダンスの虚数成分の差との比からなるパラメータを算出するパラメータ算出工程と、容量算出部で、予め設定された情報であって、前記二次電池の容量と前記パラメータとの関係を示す情報と、前記パラメータ算出工程で算出したパラメータとに基づいて前記二次電池の容量を算出する容量算出工程とを備えることを特徴とする。
【0011】
このような構成または方法によれば、拡散領域内における複素インピーダンスの値に基づいて現時点における二次電池の容量を算出することができる。ところで複素インピーダンスの成分は、温度による変化が大きい傾向にあるが、拡散領域内における複素インピーダンスの成分の差は、温度による変化が小さい傾向にある。よって、拡散領域内における複素インピーダンスの成分の差を用いることで、二次電池の温度の影響を小さくすることができる。また、温度毎に二次電池の容量と前記パラメータとの関係を示す情報、いわゆる検量線を有することにより、二次電池の容量をより好適に算出し、測定することもできる。
【0012】
また、ナイキスト線図におけるニッケル水素二次電池の複素インピーダンスは、測定周波数が高周波数側から低周波数側に変化することに対応して、回路抵抗に対応する領域、溶液抵抗に対応する領域、反応抵抗に起因する交流インピーダンスに対応する領域、及び略直線状の拡散抵抗に対応する領域を有する。このうち、拡散抵抗に対応する領域である拡散領域内では、周波数の変化に対応する複素インピーダンスの変化が直線状であるので、複素インピーダンスの成分の差が取得しやすい。また、複素インピーダンスの変化が直線状であるので、差の取得における測定周波数に係る制約も少ない。また、拡散領域内の周波数域が0.1Hz以下である場合が多く、例えば、測定に0.1Hz〜0.01Hzを利用したとしても、10秒から100秒程度の実用的な時間範囲での測定が可能である。なお、角速度と周波数とは「角速度=2π×周波数」の関係にあることが明らかであるから、説明の便宜上、角速度と周波数との両方を用いて説明する。
【0013】
なお、拡散領域内にある2つの複素インピーダンスの成分のうち、虚数成分を二次電池の容量の算出に利用すればよいが、虚数成分と実数成分との間に相関がある場合、虚数成分を実数成分に置き換えて、実数成分を二次電池の容量の算出に利用してもよい。
【0014】
好ましい構成として、パラメータ算出部は、前記2つの複素インピーダンスの測定角速度の差と前記2つの複素インピーダンスの虚数成分の差との比について、前記2つの複素インピーダンスの測定角速度の差を「Δ(ω
−1)」とし、前記2つの複素インピーダンスの虚数成分の差を「ΔZi」とし、前記パラメータを「Q
D」とするとき下記式に基づいて算出する。
【0015】
【数1】
このような構成によれば、測定角速度についてその差の逆数に対する虚数成分の差の割合のさらに逆数をパラメータとすることで、このパラメータと、予め設定された情報であって、前記二次電池の容量と前記パラメータとの関係を示す情報とに基づいて二次電池の容量が算出できるようになる。また、2つの複素インピーダンスの測定角速度の差として、測定角速度についてその差の逆数を用いることで、パラメータを線形、もしくは線形に近いかたちで得ることができるようになる。
【0016】
好ましい構成として、前記2つの複素インピーダンスの測定角速度は、前記2つの複素インピーダンスの実数成分に対する虚数成分の変化率の絶対値が0.5以上、かつ、2以下である範囲にある角速度である。
【0017】
このような構成によれば、拡散領域内にある2つの複素インピーダンスのうち、実数成分に対する虚数成分の変化率が「1」に近い範囲にあるため、虚数成分を実数成分に変換して二次電池の容量の算出に適した複素インピーダンスが算出に利用できるようになる。
【0018】
好ましい構成として、前記測定対象とする二次電池はニッケル水素二次電池であり、前記二次電池の容量と前記パラメータとの関係を示す情報がニッケル水素二次電池の電池電気容量と前記パラメータとの関係を示す情報である。
【0019】
ニッケル水素二次電池は、初期状態の容量に対する現在の充放電可能な容量の割合である容量維持率が低下したとしても内部抵抗が上昇しないため、内部抵抗に基づいて容量を算出することが困難である。この点、このような構成によれば、拡散領域内における複素インピーダンスの成分の変化に基づいて容量を算出することから、ニッケル水素二次電池にあっても、その容量維持率を好適に算出できるようになる。
【発明の効果】
【0020】
この電池容量測定装置、及び電池容量測定方法によれば、使用中の温度下であれ、二次電池の電池容量を測定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1〜
図5に従って、電池容量測定装置及び電池容量測定方法を具体化して備えた電源装置の一実施形態について説明する。この電池容量測定装置及び電池容量測定方法は、例えば、車両に搭載される二次電池等の電池10の電池容量の測定に用いられる。本実施形態では、電池10はニッケル水素二次電池である。
【0023】
一般に、ニッケル水素二次電池は、負極に充電可能な電気量である電気容量を、正極に充電可能な電気量である電気容量よりも多くして、いわゆる正極規制になるように調整されており、容量ずれが生じていなければ、通常、電池に充電可能な電気量である電池電気容量は正極電気容量に等しくなる。また、電池10は、使用開始の時点の状態である初期状態における電池電気容量に対して、使用開始後の状態である使用後の状態における電池電気容量が、劣化によって減少する傾向にある。そして初期状態における電池電気容量に対して、使用後の状態の電池電気容量の割合が容量維持率である。容量維持率は、電池10の電池電気容量が測定されると、その測定された電池電気容量に基づいて算出される。例えば、容量維持率は、電池10の充電状態(SOC:State of Charge)の算出に用いたり、劣化の判定に用いたり、電池の充放電制御に用いたりすることができる。
【0024】
まず、
図1を参照して、電池10の電池電気容量及び容量維持率を測定する電池容量測定装置としての測定装置30の構成について説明する。
図1に示すように、電池電気容量の測定対象としての電池10は、図示しない開閉器などを介して負荷や充電器等に接続されている。電池10は、開閉器が閉じられて負荷等に接続されることで充放電が行われ、充電量が変更される。一方、電池10は、複素インピーダンスが測定される際、開閉器が開かれて負荷等から切り離される。
【0025】
電池10の電極間には、電池10に交流電力としての交流電流を供給する測定用電源20と、電池10の電極間の電圧を測定する電圧測定器21と、測定用電源20と電池10との間に流れる電流を測定する電流測定器22とが接続されている。
【0026】
測定用電源20は、所定の測定周波数の交流電流を生成し、この生成した交流電流を電池10の電極間に出力する。また、測定用電源20は、交流電流の測定周波数を変化させることが可能である。測定用電源20は、出力電流と測定周波数の周波数範囲とが設定されており、この設定された出力電流の交流電流を、同じく設定された周波数範囲で変化する測定周波数として出力させる。設定される周波数の範囲としては、例えば、高周波数側としての100kHzから低周波数側としての1mHzまでの範囲である。しかし、これに限られるものではなく、高周波数側が100kHzよりも高くなってもよいし、低周波数側が1mHzよりも低くなってもよい。また、
図5に示す「拡散領域d」のうちの「直線領域da」を目的とする周波数範囲、例えば、0.1Hzから0.01Hzまでの範囲を出力するものであってもよい。また、「拡散領域d」のうちの相違する2つ以上の周波数、例えば、0.1Hzと0.01Hzとの間にある周波数を出力するものであってもよい。なお、上でも述べたように、角速度と周波数とは「角速度=2π×周波数」の関係にあることが明らかであるから、説明の便宜上、角速度と周波数とを両方用いて説明する。
【0027】
測定用電源20は、出力している交流電流の設定値及び測定周波数の設定値に関する各信号を測定装置30に出力する。また、測定用電源20は、測定装置30から入力される出力開始の信号及び出力停止の信号に応じて交流電流の出力及び停止を切り替える。
【0028】
電圧測定器21は、電池10の電極間に対して測定した電圧に対応する電圧信号を測定装置30に出力する。
電流測定器22は、測定用電源20と電池10との間において測定した電流に対応する電流信号を測定装置30に出力する。
【0029】
測定装置30は、電池10の電池電気容量及び電池容量維持率を測定する。測定装置30は、測定した電池10の電池電気容量や電池容量維持率を表示したり、外部に出力したりしてもよい。例えば、外部の電池制御装置(図示略)は、測定装置30から出力された電池10の電池電気容量に応じた充放電制御を電池10に対して行うようにしてもよい。
【0030】
測定装置30は、電圧測定器21から電圧信号を入力し、入力した電圧信号から電池10の端子間の電圧を取得し、電流測定器22から電流信号を入力し、入力した電流信号から測定用電源と電池10との間に流れる電流を取得する。測定装置30は、測定用電源20から入力する信号から交流電流の出力設定及び出力している測定周波数を取得する。
【0031】
また、測定装置30は、電池10の現在の電池電気容量の測定に関する算出処理を行う処理部40と、電池10の電池電気容量の算出処理に用いられる情報を保持する記憶部50とを備える。
【0032】
記憶部50は、ハードディスクやフラッシュメモリなどの不揮発性の記憶装置であり、各種データを保持する。本実施形態では、記憶部50は、電池電気容量を算出するために必要とされるパラメータと容量との相関データ51と、算出用データ52とが保持されている。算出用データ52としては、電池10の初期状態の電池電気容量等が設定されている。
【0033】
処理部40は、CPUやROM、RAM等で構成されたマイクロコンピュータを含んで構成される。処理部40は、例えばROMやRAMに保持された各種プログラムをCPUで実行することにより処理部40における各種処理を実行する。本実施形態では、処理部40は、電池電気容量を算出する処理や電池容量維持率を算出する処理を行う。また、処理部40は、測定装置30が取得した電圧、電流、測定周波数等を利用できる。また、処理部40は、記憶部50との間でデータの授受が可能である。
【0034】
処理部40は、複素インピーダンスZを測定するインピーダンス測定部41と、ナイキスト線図を作成するナイキスト線図作成部43と、パラメータを算出するパラメータ算出部44と、電池電気容量や電池容量維持率を算出する容量算出部45とを備える。
【0035】
インピーダンス測定部41では、電池10の複素インピーダンスZを測定する処理(インピーダンス測定工程)が行われる。インピーダンス測定部41は、測定用電源20に測定の開始や終了を指示する。インピーダンス測定部41は、測定の開始から終了までの間に取得した電圧及び電流に基づいて電池10の複素インピーダンスZを測定する。複素インピーダンスZの単位は[Ω](オーム)である。複素インピーダンスZは、そのベクトル成分である実数成分Zr[Ω]及び虚数成分Zi[Ω]によって式(1)のように示される。なお、「j」は虚数単位である。以下、単位[Ω]は省略する。
【0036】
【数2】
ナイキスト線図作成部43は、複数の測定周波数における複素インピーダンスZに基づいて、それらのベクトル成分である実数成分Zrと虚数成分Ziとから、ナイキスト線図を作成する。
【0037】
例えば、
図2に示すように、ナイキスト線図作成部43は、ナイキスト線図として、横軸が実数軸、縦軸が虚数軸である複素平面にインピーダンス曲線L21やインピーダンス曲線L22を作成する。なお、インピーダンス曲線L21は、初期状態の電池10に対応するナイキスト線図の一例であり、インピーダンス曲線L22は、使用後の状態の電池10に対応するナイキスト線図の一例である。各インピーダンス曲線L21,L22は、複素インピーダンスZの実数成分Zr及び虚数成分Ziの大きさが複素平面にプロットされたものである。このインピーダンス曲線L21,L22は、測定用電源20から電池10に供給される交流電流の測定周波数を変化させて測定された複素インピーダンスZによるものである。
【0038】
図2において、インピーダンス曲線L21,L22中のドットや円の表示は1つの測定周波数を示している。測定周波数は、
図2において下側が高周波数側であり、上側が低周波数側である。インピーダンス曲線L21,L22は、電池10のSOCや電池温度によって変化する。また、ニッケル水素二次電池、リチウムイオン二次電池といった電池種別によって変化する。さらに同じ電池種別でもセル数や容量等が異なる場合には変化する。
【0039】
ここで、
図2及び
図5を参照して、電池10の各インピーダンス曲線L21,L22について詳述する。
図2に示すように、電池10の各インピーダンス曲線L21,L22は、電池10の特性に対応する複数の領域に区分される。複数の領域は、測定周波数の高周波数側から低周波数側に向けて、「領域a」「領域b」「領域c」及び「拡散領域d」に分けられる。「領域a」は、回路抵抗に対応する回路抵抗領域であり、「領域b」は、溶液抵抗に対応する溶液抵抗領域であり、「領域c」は、反応抵抗に起因する複素インピーダンスに対応する反応抵抗領域であり、「拡散領域d」は、略直線状の拡散抵抗に対応する領域である。回路抵抗は、活物質や集電体内の接触抵抗などからなる配線等のインピーダンス等である。溶液抵抗は、セパレータ内の電解液内のイオンが移動する際の抵抗等の電子の移動抵抗である。反応抵抗は、電極反応における電荷移動の抵抗等である。拡散抵抗は、物質拡散が関与したインピーダンスである。なお、各抵抗は相互に影響を及ぼし合うため、各領域a,b,c,dを各抵抗のみの影響を受ける部分のみに区分することは困難であるが、少なくともインピーダンス曲線L21,L22の各領域a,b,c,dは、それぞれが最も大きな影響を受ける抵抗成分によってその曲線の大まかな挙動が定まる。例えば、「領域c」は負極の態様の影響を大きく受け、「拡散領域d」は正極の態様の影響を大きく受ける。
【0040】
大まかに説明すると、電池10のインピーダンス曲線L21,L22は、正極のインピーダンスと負極のインピーダンスとの合成により得られる曲線である。例えば、「拡散領域d」に対応する周波数範囲においては、正極のインピーダンスは大きく変化する一方、負極のインピーダンスの変化は小さい。つまり、インピーダンス曲線L21,L22の「拡散領域d」は、正極のインピーダンスの影響が大きい領域であって、正極の状態が反映されていると言える。これに対し、「領域c」に対応する周波数範囲においては、負極のインピーダンスは大きく変化する一方、正極のインピーダンスの変化は小さい。つまり、インピーダンス曲線L21,L22の「領域c」は、負極のインピーダンスの影響が大きい領域であって、負極の状態が反映されていると言える。
【0041】
インピーダンス曲線L21,L22によれば、「拡散領域d」に対応する周波数範囲は「0.1Hz」以下であり、
図2では「0.01Hz」までが示されている。また、「領域c」に対応する周波数範囲は「0.1Hz」より大きく「100Hz」以下である。ちなみに、「領域b」に対応する周波数範囲は「100Hz」及びその近傍、「領域a」に対応する周波数範囲は「100Hz」よりも高い。なお、「拡散領域d」は、「領域c」よりも低い周波数域であれば「0.1Hz」以下より大きくても小さくてもよい。
【0042】
また、
図5に示すように、「拡散領域d」は、「直線領域da」、「垂直領域dc」及び「領域db」を含む。「直線領域da」は、実数成分の変化量に対する虚数成分の変化量の割合が「1」に近い所定の値の範囲にある領域である。つまり、図において、45°の角度に近い範囲であって、換言すると、複素インピーダンスの実数成分に対する虚数成分の変化率の絶対値が0.5以上、かつ、2以下である範囲である。よって、「直線領域da」は虚数成分と実数成分との間に相関がある。「垂直領域dc」は、実数成分に対して虚数成分のみが大きく変化するため図においてグラフが略垂直に変化する領域である。つまり、図において、90°の角度に近い範囲である。「領域db」は、「直線領域da」から「垂直領域dc」へ変化する境目とその周辺の領域である。
【0043】
ところで、電池10は、ニッケル水素二次電池の特性と測定値の実用性とから、複素インピーダンスの測定が「直線領域da」で終了することが一般的である。また、ニッケル水素二次電池は、「垂直領域dc」が生じる測定周波数が、リチウムイオン二次電池で「垂直領域dc」が生じる周波数よりも低い傾向にある。また、電池10の「垂直領域dc」をより確実に測定しようとすると、電池の温度を上げるなど、測定環境を整え、かつ、測定周波数を「0.01Hz」よりももっと低周波数であって測定に時間を要する周波数にする必要がある。また、「垂直領域dc」が生じる測定周波数を予め知ることができないことから、測定に要する無駄時間が長時間にもなりかねない。そして、「垂直領域dc」の値を測定しようとするとき、測定に要する時間の想定が困難であることは、車両等で使用中の電池10に対して「垂直領域dc」の値を測定しようとを現実的ではないものとしている。
【0044】
図1に示す、パラメータ算出部44は、「拡散領域d」内にあり、かつ、測定周波数が相違する2つの複素インピーダンスの
測定角速度の差と、2つの複素インピーダンスの虚数成分の差との比を算出する(パラメータ算出工程)。ここで、2つの複素インピーダンスを「Z1」,「Z2」、複素インピーダンス「Z1」の虚数成分を「Zi1」、測定周波数を「f1」とし、複素インピーダンス「Z2」の虚数成分を「Zi2」、測定周波数を「f2」とする。
【0045】
詳述すると、パラメータ算出部44は、電池10の2つの複素インピーダンス「Z1」,「Z2」を測定したときの2つの複素インピーダンスの測定角速度の差(変化量)「Δω=2π×(f1−f2)」と、2つの複素インピーダンスの虚数成分の差(変化量)「ΔZi=Zi1−Zi2」とを算出する。
【0046】
そして、
図3に示すように、2つの複素インピーダンスの測定角速度の逆数の差「Δ(ω
−1)」と、2つの複素インピーダンスの虚数成分の差を「ΔZi」とに基づいてパラメータ「Q
D」を算出する。論理的には、パラメータ「Q
D」は、式(2)に示すよう求められる。つまり、式(2)は、「Δ(ω
−1)」に対する「ΔZi」の割合について、その逆数がパラメータ「Q
D」であることを示している。なお、パラメータ「Q
D」を正の値として算出することが好ましいことから、必要に応じて、「Δ(ω
−1)」や「ΔZi」を絶対値としてもよい。
【0047】
【数3】
上述したように、パラメータ「Q
D」は、理論的には式(2)から算出できるが、式(2)が変形された式(3)に基づいて算出することもできる。例えば、パラメータ算出部44は、パラメータを式(3)の右辺に示される式を用いて演算するように設定されている。つまり、式(3)は、測定周波数が相違する2つの複素インピーダンスの測定角速度の逆数の差「Δ(ω
−1)」の2つの複素インピーダンスの虚数成分の差「ΔZi」に対する割合がパラメータ「Q
D」であることを示している。
【0048】
【数4】
容量算出部45は、記憶部50に予め設定されている情報であるパラメータと容量との相関データ51と、パラメータ算出部44で算出したパラメータ「Q
D」とに基づいて、電池10の電池電気容量を算出する(容量算出工程)。
【0049】
ここで、
図4を参照して、パラメータと容量との相関データ51について説明する。パラメータと容量との相関データ51は、電池10の複素インピーダンスZについて「拡散領域d」内におけるパラメータ「Q
D」と電池10の電池電気容量との関係を示す情報である。
【0050】
図4には、パラメータと容量との相関データ51の一例である検量線としてのグラフL41が示されている。具体的には、グラフL41は、パラメータ「Q
D」(=(ΔZi/Δ(ω
−1))
−1)と電池10の電池電気容量[Ah]との関係を示す。グラフL41は、測定対象としての電池10と同じ仕様で製造された電池10について、予め測定して得られた複素インピーダンスとそのときの電池電気容量に基づいて作成されたものである。なお、グラフL41は、測定値から作成されてもよいし、測定値に理論や経験を併せて作成されたものであってもよいし、理論や経験に基づいて作成された情報であってもよい。また、グラフL41は、温度毎に変化するものであることから、所定の温度毎に設定されてもよい。所定の温度毎に異なるグラフL41を有するようにすれば、二次電池の容量をより好適に算出し、測定することができる。
【0051】
つまり、
図1の記憶部50に保持されているパラメータと容量との相関データ51は、記憶部50に予め設定されている情報であって、電池10の複素インピーダンスの「拡散領域d」内における複素インピーダンスZに関連するパラメータ「Q
D」と電池10の電池電気容量との関係を示す情報である。
【0052】
図2〜
図4を参照して、本実施形態で電池10の複素インピーダンスの「拡散領域d」内における複素インピーダンスに関するパラメータ「Q
D」から電池電気容量が算出できる理由について説明する。
【0053】
電池10を車両の電源として利用するとき、そのSOCを正確に算出する必要があるが、電池10の劣化の影響を考慮して算出するとよりよい。そこで、前述の特許文献1に記載の技術は、「拡散領域d」において、より低周波数側の「垂直領域dc」での虚数成分の値に基づいて二次電池の劣化度を測定する。このとき、電池の温度が40℃以上70℃以下になるように温度管理することで「垂直領域dc」を生じさせているが、このような温度管理を使用中の電池に行うことは困難である。また、特許文献1では、測定周波数を10mHz未満、好ましくは3mHz未満にする必要があるが、このような測定周波数では測定に、10mHzで「約1.7分」、3mHzで「約5.6分」を要するため、SOCが変化する使用中の電池10の測定には適していなかった。
【0054】
そこで、発明者らは、電池の温度による影響の少ない電池電気容量の算出方法について鋭意研究を行い、本実施形態に示す技術を見出した。この技術によれば、2つの複素インピーダンスの差を用いることで電池の温度による影響を抑えることができた。また、この技術は、容量維持率を算出するための領域を、リチウムイオン二次電池でも生じづらく、ニッケル水素二次電池ではなおさら生じづらい、「垂直領域dc」にする必要がないものにできた。これにより、測定に要する時間を車両に適用するにおいて実用的な長さ、例えば、「約1.7分」よりも短くすることができた。
【0055】
図2には、上述したように、初期状態の電池10に対応するインピーダンス曲線L21のナイキスト線図の一例と、使用後の状態の電池10に対応するインピーダンス曲線L22のナイキスト線図の一例が示されている。ここで例えば、使用後の状態とは、初期状態の電池10を45℃の環境下にて、SOC40%〜80%の範囲内での充放電を1000サイクル繰り返し行った後の状態である。
【0056】
ここで、インピーダンス曲線L21とインピーダンス曲線L22とを比較してみると、インピーダンス曲線L21に対してインピーダンス曲線L22は、「拡散領域d」で実数成分Zrに対する虚数成分Ziの変化量が小さくグラフの傾きが小さい。
【0057】
図3には、「拡散領域d」における測定角速度の逆数「ω
−1」と複素インピーダンスの虚数成分「Zi」との関係を示すグラフL31,L32が示されている。グラフL31は、初期状態の電池10に対応するグラフであり、グラフL32は、使用後の状態の電池10に対応するグラフである。このとき、グラフL31に対してグラフL32は、測定角速度の逆数「ω
−1」に対する虚数成分Ziの変化量「ΔZr/Δ(ω
−1)」が大きく、グラフにおいて傾きが大きい。よって、変化量「ΔZr/Δ(ω
−1)」の逆数として得られるパラメータ「Q
D」は、グラフL31に対してグラフL32は小さくなる。つまり、パラメータ「Q
D」は、電池10の初期状態に対して使用後の状態が小さくなる。
【0058】
そして、
図4に示すように、複素インピーダンスと電池電気容量の関係として、グラフL41が、パラメータ「Q
D」(=(ΔZi/Δ(ω
−1))
−1)と電池10の電池電気容量との関係で示されるようになる。
【0059】
本実施形態の測定装置30の容量維持率の演算処理についてその動作とともに説明する。
まず、記憶部50にはパラメータと容量との相関データ51として、
図4に示されるグラフL41に対応する情報が予め保持される。
【0060】
それから、測定装置30は、インピーダンス測定部41で電池10の複素インピーダンスを測定する。このとき、ナイキスト線図に「拡散領域d」が生じるように測定周波数の範囲が設定される。例えば、2つの測定周波数f1、f2を0.1Hzから0.01Hzの間の2点とする。例えば、測定周波数f1>測定周波数f2であるものとする。
【0061】
ナイキスト線図作成部43は、インピーダンス測定部41が測定した複素インピーダンスとそのときの測定周波数とに基づいてナイキスト線図を作成する。また、ナイキスト線図作成部43は、作成したナイキスト線図から「拡散領域d」を特定し、特定した「拡散領域d」に含まれる2つの測定周波数「f1」,「f2」にそれぞれ対応する複素インピーダンスの虚数成分「Zi1」,「Zi2」を取得する。
【0062】
パラメータ算出部44は、ナイキスト線図作成部43から2つの測定周波数「f1」,「f2」及びそれぞれに対応する複素インピーダンスの虚数成分「Zi1」,「Zi2」を取得し、測定角速度の差「Δω=2π×(f1−f2)」と虚数成分の差「ΔZi=Zi1−Zi2」とを算出する。そして、算出した測定角速度の差の逆数「Δ(ω
−1)」及び虚数成分の差「ΔZi」を、式(2)又は式(3)に適用してパラメータ「Q
D」を算出する。
【0063】
容量算出部45は、パラメータ算出部44が算出したパラメータ「Q
D」を取得するとともに、取得したパラメータ「Q
D」を記憶部50に保持されたグラフL41(パラメータと容量との相関データ51に関する情報)に適用して、電池電気容量を取得する。パラメータ「Q
D」が大きければ電池電気容量は大きく、パラメータ「Q
D」が小さければ電池電気容量は小さい。このようにして、測定装置30では電池10の電池容量が測定される。
【0064】
また、容量算出部45は、取得した電池電気容量を、算出用データ52に設定されている電池10の初期状態の電池電気容量と比較して、初期状態の電池電気容量に対する容量維持率を算出する。例えば、容量算出部45は、「(取得した電池電気容量/初期状態の電池電気容量)×100」[%]を容量維持率として算出する。このようにして、測定装置30では電池10の電池容量が測定される。
【0065】
以上説明したように、本実施形態の電池容量測定装置及び電池容量測定方法によれば、以下に記載するような効果が得られるようになる。
(1)「拡散領域d」内における複素インピーダンスの値に基づいて現時点における二次電池の容量を算出することができる。複素インピーダンスの虚数成分は、温度による変化が大きい傾向にあるが、拡散領域内における複素インピーダンスの虚数成分の差は、温度による変化が小さい傾向にある。よって、「拡散領域d」内における複素インピーダンスの虚数成分の差を用いることで、電池10の温度の影響を小さくすることができる。また、温度毎に電池10の容量とパラメータ「Q
D」との関係を示す情報、いわゆる検量線を有することにより、電池10の容量をより好適に算出し、測定することもできる。
【0066】
また、ナイキスト線図におけるニッケル水素二次電池の複素インピーダンスは、拡散抵抗に対応する領域である「拡散領域d」内では、周波数の変化に対応する複素インピーダンスの変化が直線状であるので、複素インピーダンスの虚数成分の差が取得しやすい。また、複素インピーダンスの変化が直線状であるので、差の取得における測定周波数に係る制約も少ない。また、拡散領域内の周波数域が0.1Hz以下である場合が多く、例えば、測定に0.1Hz〜0.01Hzを利用したとしても、10秒から100秒程度の実用的な時間範囲での測定が可能である。
【0067】
(2)測定角速度についてその差の逆数に対する虚数成分の差の割合のさらに逆数をパラメータ「Q
D」とすることで、このパラメータ「Q
D」と、予め設定された情報であって、二次電池の容量とパラメータとの関係を示す情報とに基づいて電池10の容量が算出できるようになる。また、測定角速度の差として、測定角速度についてその差の逆数を用いることで、パラメータ「Q
D」を線形、もしくは線形に近いかたちで得ることができる。
【0068】
(3)「拡散領域d」内にある2つの複素インピーダンスのうち、「直線領域da」にあって電池10の容量の算出に適した複素インピーダンスが算出に利用できる。
(4)ニッケル水素二次電池は、初期状態の容量に対する現在の充放電可能な容量の割合である容量維持率が低下したとしても内部抵抗が上昇しないため、内部抵抗に基づいて容量を算出することが困難である。この点、本実施形態によれば、「拡散領域d」内における複素インピーダンスの虚数成分の変化に基づいて容量を算出することから、ニッケル水素二次電池にあっても、その容量維持率を好適に算出できるようになる。
【0069】
(その他の実施形態)
なお、上記実施形態は以下の形態にて実施することもできる。
・上記実施形態では、電池10はニッケル水素二次電池である場合について例示したが、これに限らず、ニッケルカドミウム電池等その他のアルカリ二次電池や、リチウムイオン二次電池等の二次電池であってもよい。
【0070】
・上記実施形態では、複素平面において実軸の単位量と虚軸の単位量とが同じ長さである場合について例示した。しかしこれに限らず、実軸の単位量と虚軸の単位量との長さが相違していてもよい。
【0071】
・上記実施形態では、パラメータ「Q
D」が式(2)や式(3)から算出される場合について例示した。しかしこれに限らず、式(2)に表現される理論を示す算出式であればその表現形式は式(2)や式(3)に限られない。
【0072】
・上記実施形態では、2つの複素インピーダンスが「拡散領域d」のうちの「直線領域da」である場合について例示した。しかしこれに限らず、2つの複素インピーダンスの測定角速度の差と2つの複素インピーダンスの虚数成分の差とが得られるのであれば、2つの複素インピーダンスのうちの少なくとも一方が「拡散領域d」のうちの「領域db」や「垂直領域dc」などの領域にあってもよい。
【0073】
・上記実施形態では、パラメータを測定周波数が相違する2つの複素インピーダンスの測定角速度の差と2つの複素インピーダンスの虚数成分の差との比から算出する場合について例示した。しかしこれに限らず、虚数成分と実数成分との間に相関がある場合、虚数成分を実数成分に置き換えて、パラメータを測定周波数が相違する2つの複素インピーダンスの測定角速度の差と2つの複素インピーダンスの実数成分の差との比から算出してもよい。このとき、このパラメータに併せて二次電池の容量とパラメータとの関係を示す情報(検量線)を予め準備すれば二次電池の電池電気容量を算出することもできる。
【0074】
・上記実施形態では、2つの複素インピーダンスの測定角速度の差として、測定角速度についてその差の逆数を用いることで、パラメータを線形、もしくは線形に近いかたちで得る場合について例示した。しかしこれに限らず、2つの複素インピーダンスの測定角速度の差として、測定角速度についてその差をそのまま用いてもよい。パラメータが線形ではないにかたちで得られるが、このパラメータと容量との間に相関関係を得ることができる。
【0075】
・上記実施形態では、電池10が電気自動車もしくはハイブリッド自動車に搭載される場合について例示したが、これに限らず、二次電池は、ガソリン自動車やディーゼル自動車等の車両に搭載されてもよい。また二次電池は、鉄道、船舶、航空機やロボット等の移動体や、情報処理装置等の電気製品等の固定設置の電源として用いられてもよい。