特許第6672217号(P6672217)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6672217ビグアニド系抗糖尿病薬と免疫抑制因子解除剤又は共刺激受容体作動薬との併用による免疫能異常に伴う疾患の治療及び/又は予防
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6672217
(24)【登録日】2020年3月6日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】ビグアニド系抗糖尿病薬と免疫抑制因子解除剤又は共刺激受容体作動薬との併用による免疫能異常に伴う疾患の治療及び/又は予防
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/155 20060101AFI20200316BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20200316BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20200316BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
   A61K31/155ZMD
   A61K39/395 U
   A61P35/00
   A61P35/02
【請求項の数】6
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2017-83767(P2017-83767)
(22)【出願日】2017年4月20日
(62)【分割の表示】特願2016-544195(P2016-544195)の分割
【原出願日】2015年8月17日
(65)【公開番号】特開2017-165752(P2017-165752A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2018年8月6日
(31)【優先権主張番号】特願2014-166593(P2014-166593)
(32)【優先日】2014年8月19日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-85556(P2015-85556)
(32)【優先日】2015年4月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000185983
【氏名又は名称】小野薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鵜殿 平一郎
(72)【発明者】
【氏名】榮川 伸吾
(72)【発明者】
【氏名】豊岡 伸一
【審査官】 横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/023706(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/009535(WO,A1)
【文献】 特表2014−508133(JP,A)
【文献】 特許第0624207(JP,B2)
【文献】 榮川伸吾 他,腫瘍局所における免疫疲弊CD8T細胞の機能回復を介したメトホルミンの抗腫瘍効果,第17回日本がん免疫学会総会 プログラム・抄録集,2013年,p.114
【文献】 鵜殿 平一郎 他,腫瘍局所における免疫疲弊とその解除による抗腫瘍免疫応答,第17回日本がん免疫学会総会 プログラム・抄録集,2013年,p.36
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/155
A61K 39/395
A61P 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬を有効成分として含み、抗PD-1抗体と組み合わせて投与することを特徴とする、がんの進行抑制、治療及び/又は再発予防剤。
【請求項2】
抗PD-1抗体を有効成分として含み、メトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬と組み合わせて投与することを特徴とする、がんの進行抑制、治療及び/又は再発予防剤。
【請求項3】
抗PD-1抗体が、Nivolumab、Pembrolizumab、PDR-001、REGN-2810、BGB-A317又はAMP-514である、請求項1または2に記載のがんの進行抑制、治療及び/又は再発予防剤。
【請求項4】
当該ビグアニド系抗糖尿病薬がメトホルミンである請求項1または2記載のがんの進行抑制、治療及び/又は再発予防剤。
【請求項5】
がんが、頭頸部癌、食道癌、胃癌、大腸癌、結腸癌、直腸癌、肝臓癌、胆嚢・胆管癌、胆道癌、膵臓癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、子宮頚癌、子宮体癌、膣癌、外陰部癌、腎癌、尿路上皮癌、前立腺癌、精巣腫瘍、骨・軟部肉腫、白血病、骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫、成人T細胞白血病、多発性骨髄腫、皮膚癌、脳腫瘍、胸膜中皮腫及び原発不明がんから選択されるいずれか1種以上のがんである請求項1または2に記載のがんの進行抑制、治療及び/又は再発予防剤。
【請求項6】
肺癌が非小細胞肺癌または小細胞肺癌であり、腎癌が腎細胞癌であり、悪性リンパ腫がホジキンリンパ腫、濾胞性リンパ腫またはびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫であり、皮膚癌が悪性黒色腫であり、および脳腫瘍が膠芽腫である、請求項5記載のがんの進行抑制、治療及び/又は再発予防剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫細胞の機能増強方法、機能増強された免疫細胞に関し、当該機能が増強された免疫細胞を有効成分として含む、免疫能異常に伴う疾患の治療及び/又は予防剤に関する。さらには、免疫細胞の多機能性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
T細胞は末梢血リンパ球の70〜80%を占める免疫細胞であり、脾臓や全身のリンパ節にも広く分布して生体防御に寄与する。T細胞は、ウイルス感染細胞やがん細胞に直接作用する細胞障害性T細胞(CD8+T細胞)と、細胞障害性T細胞をはじめとした免疫担当細胞の機能を補助するヘルパーT細胞(CD4+T細胞)に分類される。T細胞はその表面にT細胞受容体 (T-Cell Receptor: TCR)を発現しており、このTCRにより抗原を認識する。1つのT細胞はある特定の1種類の抗原を認識するTCRを発現し、これをT細胞の抗原特異性という。T細胞は感染症、腫瘍、臓器移植、アレルギーなど免疫が関与するあらゆる病態において重要な役割を果たしている。
【0003】
近年、免疫疲弊のメカニズムが明らかにされ、疲弊分子とそのリガンドとの結合の阻害ががん治療において重要であることが報告されている。一部のがん患者では、がんに対する免疫応答が著しく低下(免疫疲弊)している。免疫疲弊の原因は、CD8+T細胞がPD-1、Tim-3、Lag3などの疲弊マーカーを発現し、これらの疲弊マーカー分子(疲弊分子)とそのリガンドが結合することによって、IL-2, TNFα,IFNγの同時産生能(多機能性)が失われ、さらにアポトーシスによって死滅することである(非特許文献1〜6)。このCD8+T細胞の免疫疲弊と細胞死を回避するためには、この疲弊分子の発現そのものを抑制することであるが、そのような技術は存在しておらず、CD8+T細胞の機能回復と細胞死阻止のためには、疲弊分子とそのリガンドとの結合阻害が唯一の方法である。しかしながら、疲弊分子の種類(数)は増える傾向にあり、一体幾つの疲弊分子とそのリガンドとの結合阻害を行うべきか模索の状況が続いている。またその副作用も歴然として存在しており、より副作用の少ない方法が望まれるところである。
【0004】
免疫細胞の多機能性評価のための抗原特異的T細胞の定量的及び定性的測定は、罹患時の免疫状態のモニタリングやワクチンの有効性の評価に重要である。従来、がんワクチン療法等免疫治療を受けた患者においては、治療効果を判定するために、採取した細胞についてin vitroでの1〜2週間の抗原刺激が必要であった。T細胞機能測定方法として、細胞障害性試験、サイトカイン産生検出のためのELISA法、蛍光ビーズイムノアッセイによる細胞群全体から分泌される分子を検出する方法、フローサイトメーター(FCM, FACS)技術による細胞内サイトカイン解析(Intracellular Cytokine Staining Assay: ICS法)及びELISPOT(Enzyme-Linked Immunospot)法による個々の細胞レベルで分泌される分子を検出する方法などが挙げられる。
【0005】
従来のT細胞機能を測定する技術では個々のT細胞機能を緻密に解析することができるが、その解析結果は必ずしも予後と相関しなかった。即ち、健常人の免疫動態、又は患者、例えば難治性感染症患者やがん患者の免疫動態を把握し、免疫活性化剤による治療予後を予測することは困難であった。従来のT細胞の機能を亢進させる手法・技術では、難治性感染症患者やがん患者などの患者又は健常人において、その獲得免疫能を非常に強く向上させ、治癒に導くことには限界があった。そもそも治療効果を正確に検証又は予測できる免疫動態評価法の整備そのものが十分ではなく、各種T細胞の機能を亢進させる手法・技術について、総合的に判定、評価する方法(治療予後に関わる免疫細胞の多機能性評価法)がなかった。
【0006】
例えば、ワクチンは抗原と一緒にアジュバントを投与することが概ね必須となるが、アジュバントは時に深刻な副作用をもたらす。すべてのワクチンに適用可能な、安全で効果の高いアジュバントは未だ見つかっていない。またワクチンを適用しても感染症、又はがんにおいても、末梢血中にはワクチン成分に対するCD8陽性のキラーT細胞が増加してくるが、残念ながら十分な防御免疫を得られない症例も多く存在する。これは多くの場合、免疫疲弊が原因であると考えられている。このような観点からいえば、各種免疫細胞の免疫疲弊解除による細胞の多機能性向上法とその効果を正確かつ簡便に予測ないし評価できる方法(手法)が一体となった包括的な免疫動態評価技術及びT細胞機能亢進剤や方法は知られていない。
【0007】
特許文献1は、メトホルミンが化学療法剤の効果増強作用を有することを開示しているが、メトホルミン自体は腫瘍の治療効果を有しないことが実施例で示されている。非特許文献7は、2型糖尿病治療薬であるメトホルミンの作用メカニズムを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2013-503171公表公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Proc Natl Acad Sci USA. 2002; 99: 12293-7
【非特許文献2】Cancer Res. 2004; 64: 1140-5
【非特許文献3】J Exp Med. 2010; 207: 2187-94
【非特許文献4】Trends Immunol. 2011; 32: 345-9
【非特許文献5】Cancer Res. 2011; 71: 3540-51
【非特許文献6】Nat Rev Cancer. 2012; 12: 252-64
【非特許文献7】Nature 2006; 439: 682-687
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、免疫細胞をex vivoで活性化し、免疫細胞の機能増強方法を提供することを課題とし、さらに機能増強された免疫細胞を提供することを課題とする。さらには、免疫に関する細胞の多機能性評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するためにCD8+T細胞が産生するサイトカインと免疫細胞の機能に着目し、鋭意研究を重ねた結果、メトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬によれば、IL-2、TNFα及びIFNγの産生能が高いCD8+T細胞を増加させ、機能を増強できることを見出し、本発明を完成した。免疫細胞の多機能性は、メトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬で処理した免疫細胞の多機能性を、ビグアニド系抗糖尿病薬で処理していない対照の免疫細胞の多機能性と比較することによる。メトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬で処理した免疫細胞が、対照に比べて有意に多機能性が向上している場合に、免疫細胞の薬剤に対する感受性が向上していると評価することができる。当該評価方法により、薬剤に対する感受性が向上していると評価された免疫細胞に対しては、メトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬による高い治療効果が期待できる。
【0012】
本発明は、以下よりなる。
1.採取した免疫細胞を、メトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬を有効成分として含む薬剤で、in vitroで処理することを特徴とする免疫細胞の機能増強方法。
2.免疫細胞が、CD8+T細胞、CD4+T細胞、NK細胞、γδT細胞、NKT細胞、B細胞及び骨髄細胞から選択されるいずれかの細胞である、前項1に記載の免疫細胞の機能増強方法。
3.前項1又は2記載の方法により機能が増強された免疫細胞。
4.前項1〜3のいずれかに記載の方法により機能が増強された免疫細胞を有効成分として含む、免疫能異常に伴う疾患の治療及び/又は予防剤。
5.免疫能異常に伴う疾患が、がん、感染症及び自己免疫性疾患から選択されるいずれかの疾患である前項4に記載の免疫能異常に伴う疾患の治療及び/又は予防剤。
6.採取した免疫細胞をメトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬を有効成分として含む薬剤で、in vitroで処理し、当該処理した細胞についてIL-2、TNFα及びIFNγの3種類のサイトカインの産生能を測定し、当該3種類のサイトカイン産生能がいずれも陽性である細胞の陽性率を測定することを特徴とする、採取した免疫細胞の多機能性の評価方法。
7.採取した免疫細胞について、さらにTim-3及び/又はPD-1の発現を測定する工程を含む、前項6に記載の多機能性の評価方法。
8.免疫細胞が、CD8+T細胞、CD4+T細胞、NK細胞、γδT細胞、NKT細胞、B細胞及び骨髄細胞から選択されるいずれかの細胞である、前項6又は7に記載の多機能性の評価方法。
9.前項6〜8のいずれかに記載の多機能性の評価方法を利用することを特徴とする、免疫能異常に伴う疾患の検査方法。
10.免疫能異常に伴う疾患の検査が、当該疾患に対する薬剤の有効性の予測、疾患の重症度予測、疾患の予後予測、又は疾患の発症予測判断の補助のための検査である、前項9に記載の検査方法。
11.当該疾患に対する薬剤が、メトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬を有効成分として含む薬剤である、前項10に記載の検査方法。
12.前項9〜11のいずれかに記載の検査方法を用いて検査した後に使用する、メトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬を有効成分として含む、免疫異常に伴う疾患の治療及び/又は予防剤。
13.免疫能異常に伴う疾患が、がん、感染症及び自己免疫性疾患から選択されるいずれかの疾患である、前項12に記載の免疫能異常に伴う疾患の治療及び/又は予防剤。
14.メトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬を有効成分として含み、免疫抑制因子解除剤及び共刺激受容体作動薬から選択されるいずれか1種以上の薬剤と組み合わせて投与することを特徴とする免疫能異常に伴う疾患の治療及び/又は予防剤。
15.免疫抑制因子解除剤及び共刺激受容体作動薬から選択されるいずれか1種以上の薬剤を有効成分として含み、メトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬と組み合わせて投与することを特徴とする免疫能異常に伴う疾患の治療及び/又は予防剤。
16.免疫抑制因子解除剤が、抗CTLA-4抗体、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗PD-L2抗体、PD-L1融合タンパク質、PD-L2融合タンパク質、抗Tim-3抗体、抗LAG-3抗体、抗BTLA抗体及び抗VISTA抗体から選択されるいずれか1種又は任意の複数種の抗体あるいは融合タンパク質である、前項14又は15に記載の免疫能異常に伴う疾患の治療及び/又は予防剤。
17.抗CTLA-4抗体がIpilimumab又はTremelimumabであり、抗PD-1抗体がNivolumab、Pembrolizumab、PDR-001、REGN-2810、BGB-A317又はAMP-514であり、抗PD-L1抗体がAtezolizumab、Avelumab、Durvalumab又はBMS-936559であり、PD-L2融合タンパク質がAMP-224である前項16に記載の免疫能異常に伴う疾患の治療及び/又は予防剤。
18.共刺激受容体作動薬が、抗CD137抗体、抗OX40抗体、抗HVEM抗体、抗CD27抗体、抗GITR抗体及び抗CD28抗体から選択されるいずれか1種又は任意の複数種の抗体である前項14又は15に記載の免疫能異常に伴う疾患の治療及び/又は予防剤。
19.メトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬を有効成分として含み、がんワクチンと組み合わせて投与することを特徴とする免疫能異常に伴う疾患の治療及び/又は予防剤。
20.がんワクチンが、がんペプチドワクチン(MAGE-3、MUC-1、WT1ペプチド、P53、 NY-ESO1など)、がんタンパク質ワクチン、樹状細胞ワクチン、ウイルス感染によって発癌することが証明されているがんに対するワクチンである、前項19に記載の免疫能異常に伴う疾患の治療及び/又は予防剤。
21.免疫能異常に伴う疾患が、がん、感染症及び自己免疫性疾患から選択されるいずれかの疾患である、前項13〜20のいずれかに記載の免疫能異常に伴う疾患の治療及び/又は予防剤。
22.がんが、頭頸部癌、食道癌、胃癌、大腸癌、結腸癌、直腸癌、肝臓癌、胆嚢・胆管癌、胆道癌、膵臓癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、子宮頚癌、子宮体癌、膣癌、外陰部癌、腎癌、尿路上皮癌、前立腺癌、精巣腫瘍、骨・軟部肉腫、白血病、骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫、成人T細胞白血病、多発性骨髄腫、皮膚癌、脳腫瘍、胸膜中皮腫及び原発不明がんから選択されるいずれか1種以上のがんである前項21に記載の免疫能異常に伴う疾患の治療及び/又は予防剤。
23.がんの治療が、がんの進行抑制であり、がんの予防が、がんの再発予防である前項21又は22に記載の免疫能異常に伴う疾患の治療及び/又は予防剤。
24.抗PD-1抗体を有効成分として含み、メトホルミンと組み合わせて投与されることを特徴とする、頭頸部癌、食道癌、胃癌、大腸癌、肝細胞癌、膵臓癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、乳癌、卵巣癌、子宮頚癌、子宮体癌、膣癌、外陰部癌、腎細胞癌、尿路上皮癌、ホジキンリンパ腫、濾胞性リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫、多発性骨髄腫、悪性黒色腫及び膠芽腫及び胸膜中皮腫から選択されるいずれか1種以上のがんの進行抑制、治療、予防及び/又は再発予防剤。
25.前項9〜11のいずれかに記載の検査方法を用いて検査した後に使用する、前項14〜24のいずれかに記載の免疫能異常に伴う疾患の治療及び/又は予防剤。
A.メトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬を有効成分として含む薬剤を、前項9〜11のいずれかに記載の検査方法を用いて検査した後に使用する、免疫異常に伴う疾患の治療方法及び/又は予防方法。
B.免疫能異常に伴う疾患が、がん、感染症及び自己免疫性疾患から選択されるいずれかの疾患である、前項Aに記載の免疫異常に伴う疾患の治療方法及び/又は予防方法。
C.メトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬を有効成分として含む薬剤と、免疫抑制因子解除剤及び共刺激受容体作動薬から選択されるいずれか1種以上の薬剤と組み合わせて投与することを特徴とする免疫異常に伴う疾患の治療方法及び/又は予防方法。
D.免疫抑制因子解除剤及び共刺激受容体作動薬から選択されるいずれか1種以上の薬剤を有効成分として含む薬剤と、メトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬と組み合わせて投与することを特徴とする免疫異常に伴う疾患の治療方法及び/又は予防方法。
E.免疫抑制因子解除剤が、抗CTLA-4抗体、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗PD-L2抗体、PD-L1融合タンパク質、PD-L2融合タンパク質、抗Tim-3抗体、抗LAG-3抗体、抗BTLA抗体及び抗VISTA抗体から選択されるいずれか1種又は任意の複数種の抗体あるいは融合タンパク質である、前項C又はDに記載の免疫異常に伴う疾患の治療方法及び/又は予防方法。
F.抗CTLA-4抗体がIpilimumab又はTremelimumabであり、抗PD-1抗体がNivolumab、Pembrolizumab、PDR-001、REGN-2810、BGB-A317又はAMP-514であり、抗PD-L1抗体がAtezolizumab、Avelumab、Durvalumab又はBMS-936559であり、PD-L2融合タンパク質がAMP-224である前項Eに記載の免疫異常に伴う疾患の治療方法及び/又は予防方法。
G.共刺激受容体作動薬が、抗CD137抗体、抗OX40抗体、抗HVEM抗体、抗CD27抗体、抗GITR抗体及び抗CD28抗体から選択されるいずれか1種又は任意の複数種の抗体である前項C又はDに記載の免疫異常に伴う疾患の治療方法及び/又は予防方法。
H.メトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬を有効成分として含む薬剤と、がんワクチンと組み合わせて投与することを特徴とする免疫異常に伴う疾患の治療方法及び/又は予防方法。
I.がんワクチンが、がんペプチドワクチン(MAGE-3、MUC-1、WT1ペプチド、P53、 NY-ESO1など)、がんタンパク質ワクチン、樹状細胞ワクチン、ウイルス感染によって発癌することが証明されているがんに対するワクチンである、前項Hに記載の免疫異常に伴う疾患の治療方法及び/又は予防方法。
J.前項1〜3のいずれかに記載の方法により機能が増強された免疫細胞を投与することを特徴とする、免疫能異常に伴う疾患の治療方法及び/又は予防方法。
K.免疫能異常に伴う疾患が、がん、感染症及び自己免疫性疾患から選択されるいずれかの疾患である、前項B〜Jのいずれかに記載の免疫異常に伴う疾患の治療方法及び/又は予防方法。
L.がんが、頭頸部癌、食道癌、胃癌、大腸癌、結腸癌、直腸癌、肝臓癌(例えば、肝細胞癌)、胆嚢・胆管癌、胆道癌、膵臓癌、肺癌(例えば、非小細胞肺癌(扁平上皮非小細胞肺癌、非扁平上皮非小細胞肺癌)、小細胞肺癌)、乳癌、卵巣癌、子宮頚癌、子宮体癌、膣癌、外陰部癌、腎癌(例えば、腎細胞癌)、尿路上皮癌(例えば、膀胱癌、上部尿路癌)、前立腺癌、精巣腫瘍(胚細胞腫瘍)、骨・軟部肉腫、白血病、骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫(例えば、ホジキンリンパ腫、濾胞性リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫)、成人T細胞白血病、多発性骨髄腫、皮膚癌(例えば、悪性黒色腫、メルケル細胞がん)、脳腫瘍(例えば、膠芽腫)、胸膜中皮腫及び原発不明がんから選択されるいずれか1種以上のがんである前項Kに記載の免疫能異常に伴う疾患の治療方法及び/又は予防方法。
M.がんの治療が、がんの進行抑制であり、がんの予防が、がんの再発予防である前項K又はLに記載の免疫異常に伴う疾患の治療方法及び/又は予防方法。
N.抗PD-1抗体(例えば、Nivolumab、Pembrolizumab)を有効成分として含む薬剤と、メトホルミンと組み合わせて投与されることを特徴とする、頭頸部癌、食道癌、胃癌、大腸癌、肝細胞癌、膵臓癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、乳癌、卵巣癌、子宮頚癌、子宮体癌、膣癌、外陰部癌、腎細胞癌、尿路上皮癌、ホジキンリンパ腫、濾胞性リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫、多発性骨髄腫、悪性黒色腫及び膠芽腫及び胸膜中皮腫から選択されるいずれか1種以上のがんの進行抑制、治療、予防及び/又は再発予防方法。
O.前項9〜11のいずれかに記載の検査方法を用いて検査した後に使用する、前項C〜Nのいずれかに記載の免疫異常に伴う疾患の治療方法及び/又は予防方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の免疫能異常に伴う疾患の治療剤は、免疫能を向上させることができる。例えばがんに対しては外科手術、放射線療法、化学療法と併用することにより、より効果的な治療を行うことができ、予後を改善することが期待される。また術前化学療法としての使用は効果が大きいと考えられる。さらに治療後の再発を抑える効果も期待される。
【0014】
また、本発明の免疫細胞の機能増強方法を用いた細胞治療に関しては、以下の効果が考えられる。本発明の方法によりex vivoで自己の細胞をメトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬で処理し、これを自己の生体に戻すことにより、がんや病原微生物に対して高い生体防御能を付与することができる。本発明の免疫細胞の機能増強方法を用いて細胞を処理し、自己の生体に戻すことで、発がんや感染症の予防効果が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】フローサイトメーターによる、CD8+T細胞の多機能性解析結果を示す図である。PMA (Phorbol-12-Myristate-13-Acetate) /イオノマイシン(ionomycin)処理した末梢血単核球(PBMC)について、まずCD8+T細胞にゲートを掛け、次にFSC-A, FSC-Hでダブレット細胞を除去した。次にFSC-A, SSC-Aのパラメーターを用いて、生細胞中のリンパ球領域にゲートを掛け、PD-1及びTim-3の発現を解析した。また、細胞内サイトカインIFNγ, TNFα, IL-2を染色し、多機能性の検出を行った。(実施例1)
図2】健常人のPBMCをメトホルミン存在下又は非存在下で1時間培養し、メトホルミンを除去したものを、PMA/イオノマイシンで処理した細胞のCD8+T細胞のうち、IFNγ, TNFα, IL-2を同時に産生できる細胞を検出した結果を示す図である。(実施例1)
図3図2と同様の解析を、がん患者の末梢血単核球を用いて解析した結果を示す図である。(実施例1)
図4】健常人(N=5)及びがん患者(N=5)のCD8+T細胞について、疲弊分子PD-1及びTim-3の発現頻度を確認した結果を示す図である。(実施例2)
図5】マウス(C57BL/6)を用いてex vivoで細胞をメトホルミン処理した場合の効果を確認するための手順を示す図である。(実施例5)
図6】レシピエントC57BL/6への腫瘍細胞移植後7日目に、ドナーOT-Iマウス(TCRトランスジェニックマウス:TCRはH-2Kb+OVA257-264を認識、Cell vol.76,17-27,1994)の脾臓細胞由来CD8+T細胞をex vivoでメトホルミン処理したものを移入したときの、腫瘍細胞に浸潤したT細胞におけるサイトカイン産生能をフローサイトメーターで確認した結果を示す図である。(実施例5)
図7】レシピエントC57BL/6への腫瘍細胞移植後7日目に、ドナーOT-IマウスCD8+T細胞をex vivoでメトホルミン処理したものを移入したときの、腫瘍細胞に浸潤したT細胞におけるAnnexin V陽性率(アポトーシスの比率)をフローサイトメーターで確認した結果を示す図である。(実施例5)
図8】レシピエントC57BL/6への腫瘍細胞移植後7日目に、ドナーOT-IマウスのCD8+T細胞をex vivoでメトホルミン処理したものを移入したときの、腫瘍の大きさを測定した結果を示す図である。(実施例5)
図9】レシピエントC57BL/6への腫瘍細胞移植後7日目に、ドナーOT-IマウスのCD8+T細胞をex vivoでメトホルミン処理(0, 10, 100 M)したものを移入したときの、腫瘍の増殖曲線をモニターした結果を示す図である。(実施例6)
図10】レシピエントC57BL/6への腫瘍細胞移植後7日目からメトホルミン自由飲水投与及び/又はOVAワクチン(マウスhsc70のC末端にOVA257-264を融合した融合タンパク質:Int. Immunol. 13, 1233-1242, 2001)を移入したときの、腫瘍の増殖曲線をモニターした結果を示す図である。(実施例7)
図11】レシピエントC57BL/6 又はBALB/cマウスへの腫瘍細胞移植(MO5→C57BL/6, Meth A→BALB/c)後5日目からメトホルミン自由飲水投与及び/又は抗PD-1抗体(クローン4H2,ラット由来抗マウスPD-1抗体の可変領域及びマウスIgGκ1の定常領域からなるマウス化キメラ抗体,小野薬品株式会社より供与)を投与したときの、腫瘍の増殖曲線をモニターした結果を示す図である。(実施例8)
図12】C57BL/6の各マウス個体の腫瘍径をプロットした結果を示す図である。(実施例8)
図13】BALB/cの各マウス個体の腫瘍径をプロットした結果を示す図である。(実施例8)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一態様は、採取した免疫細胞を、メトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬を有効成分として含む薬剤で、in vitroで処理することを特徴とする免疫細胞の機能増強方法に関し、さらに免疫能が増強された免疫細胞に関する。そして、当該免疫能が増強された免疫細胞を有効成分として含有する免疫能異常に伴う疾患の治療及び/又は予防剤に関する。
【0017】
本発明の別の一態様は、採取した免疫細胞の多機能性に関し、メトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬に対するIL-2、TNFα及びIFNγの3種類のサイトカイン産生能が陽性の免疫細胞の多機能性の評価方法に関する。当該免疫細胞の多機能性の評価方法を利用することを特徴とする、免疫細胞の薬剤に対する感受性の評価方法に関する。メトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬で処理した免疫細胞が、対照に比べて有意に多機能性が向上している場合に、免疫細胞の薬剤に対する感受性が向上していると評価することができる。
【0018】
本明細書において、「免疫細胞」とは、標的細胞を障害しうるエフェクター細胞全般を意味する。特に好ましくはCD8+T細胞であるが、例えばCD4+T細胞、NK細胞、γδT細胞、NKT細胞、B細胞及び骨髄細胞からも選択される。前記例示した細胞には遺伝子改変細胞が包含され、例えばウイルスや癌細胞特異的CD8+T細胞をiPS細胞にしたもの、あるいはナイーヴCD8+T細胞に抗原受容体(T cell antigen receptor: TCR)遺伝子又は癌細胞表面発現分子を認識するキメラ抗体(キメラ型抗原受容体chimeric antigen receptor: CAR)遺伝子を組み込んだものも含まれる。
【0019】
1.免疫細胞の機能増強方法について
本明細書において、免疫機能の高い免疫細胞とはIL-2、TNFα及びIFNγの3種類のサイトカイン産生能が陽性の細胞率が高い免疫細胞をいう。
【0020】
本発明は、免疫細胞の機能増強方法に関する。具体的にはメトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬を有効成分として含む薬剤を用いて、免疫細胞を処理することによる。また、本発明は免疫細胞の機能増強方法により処理して得られた細胞にも及ぶ。
【0021】
本明細書において、メトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬を有効成分として含む薬剤を用いて免疫能が強化された免疫細胞をMetformin-induced immune cell(MTi細胞)ともいう。処理する免疫細胞は、上記説明したごとく、標的細胞を障害しうるエフェクター細胞全般を意味し、例えば、CD8+T細胞、CD4+T細胞、NK細胞、γδT細胞、NKT細胞、B細胞及び骨髄細胞から選択される。前記例示した細胞には遺伝子改変細胞が包含され、例えばウイルスや癌細胞特異的CD8+T細胞をiPS細胞にしたもの、あるいはナイーヴCD8+T細胞に抗原受容体(T cell antigen receptor: TCR)遺伝子又は癌細胞表面発現分子を認識するキメラ抗体(キメラ型抗原受容体chimeric antigen receptor: CAR)遺伝子を組み込んだものも含まれる。特に好ましくは、CD8+T細胞である。処理する免疫細胞は、自体公知の方法又は今後開発されるあらゆる方法により、収集することができる。また、免疫細胞、例えばCD8+T細胞そのもののみを処理する必要はなく、免疫細胞、例えばCD8+T細胞が含まれているのであれば、通常の方法により採取した末梢血由来の末梢血単核球(PBMC)を処理してもよい。
【0022】
PBMCは自体公知の方法により得ることができる。例えば、ドナーから採取した全血検体をフィコール液に加えて遠心分離し、比重分離により得ることができる。
【0023】
MTi細胞作製のために、例えばPBMCにメトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬を加えた培地を用いて培養処理することにより、免疫細胞の機能を増強させることができる。
【0024】
具体的にはメトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬を、CD8+T細胞10×106個/2 mL当たり1〜500μM、好ましくは1〜100μM、より好ましくは5〜100μM程度、特に10〜100μM程度加えた培地を用いて、37±0.5℃、5% CO2で3〜12時間、好ましくは4〜10時間、最も好ましくは6時間、CD8+T細胞を含むPBMC等の細胞を培養処理することにより、CD8+T細胞の機能を増強させることができる。培地は、CD8+T細胞を培養可能であればよく、特に限定されないが、特にAIM-V(R)培地(Invitrogen)が好ましい。
【0025】
本発明は、上記処理により機能増強された免疫細胞にも及ぶ。機能増強された免疫細胞とは、IL-2、TNFα及びIFNγの3種類のサイトカイン産生能が陽性の細胞がより高い率で含まれるようになった免疫細胞集団をいう。得られた機能増強された免疫細胞は、生体移入後3種類のサイトカイン産生能が陽性になるCD8+T細胞が多く含まれている。機能増強された免疫細胞は、免疫能異常に伴う疾患の治療剤として使用することができる。
【0026】
また、本発明の免疫細胞の機能増強方法を用いた細胞治療に関しては、以下の効果が考えられる。本発明の方法によりex vivoで自己の細胞をメトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬で処理し、これを自己の生体に戻すことにより、がんや病原微生物に対して高い生体防御能を付与することができる。肝機能や腎臓機能に障害のある患者、高齢者、乳酸アシドーシスを過去に起こしたことのある患者などは、メトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬を有効成分として含む薬剤を服用することは禁忌である。しかしながら、本発明のex vivoでの免疫細胞の機能増強方法により自己の細胞を処理することで、ビグアニド系抗糖尿病薬の服用に伴う副作用、安全性への懸念を排除することができる。がん免疫治療においても、本発明の方法で免疫能を増強した免疫細胞を再び患者へ移入させる免疫細胞治療を施せば、ビグアニド系抗糖尿病薬を有効成分として含む薬剤を服用する場合に比べて移入した細胞の腫瘍局所到達能が向上し、治療効果の向上・改善が期待できる。健常人を対象に、例えばがんの発症予防に本発明の方法を適用することもできる。健常人末梢血から採取したリンパ球を自体公知の既存の技術を用いて増殖させた後、凍結保存し一部を定期的に解凍後、本発明の免疫細胞の機能増強方法を用いて処理し、自己の生体に戻すことで、免疫能の異常に伴う疾患、例えばがんや感染症等の発症予防にも寄与しうる。
【0027】
係る優れた免疫能を有する細胞群は、免疫療法に使用する既知の細胞と同様の方法により保存することができる。本発明は、前記方法により作製された、免疫能が増強された免疫細胞(MTi細胞)を有効成分として含む、免疫能異常に伴う疾患の治療及び/又は予防剤にも及ぶ。前記免疫能異常に伴う疾患の治療及び/又は予防剤の投与量、投与回数及び投与間隔は、患者の年齢、性別、体重、症状等に応じて、適宜決定される。
【0028】
免疫能異常に伴う疾患ではT細胞機能が疲弊し、免疫能が低下したり異常亢進していることが考えられる。このような疾患としては、例えば、がん、免疫不全症、自己免疫性疾患、アレルギー疾患や、各種難治性感染症が挙げられる。
【0029】
疾患ががんの場合は、特に限定されないが、例えば頭頸部癌、食道癌、胃癌、結腸癌、直腸癌、肝臓癌、胆嚢・胆管癌、胆道癌、膵臓癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、子宮頚癌、子宮体癌、腎癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣腫瘍、骨・軟部肉腫、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、皮膚癌、脳腫瘍、中皮腫などが挙げられる。また免疫不全症に関しては、先天性の免疫不全症と後天的な免疫不全症等が挙げられる。先天性の免疫不全症としては、特に限定されないが、例えば重症複合免疫不全症、Wiscott Aldrich 症候群、アデノシン・デアミネース欠損症、プリンヌクレオチド・ホスホリラーゼ欠損症等が挙げられる。さらに後天的な免疫不全症としては、特に限定されないが、例えば抗がん剤、免疫抑制剤、ステロイド剤等の使用による続発性免疫不全や、ヒト免疫不全ウイルスの感染によるエイズ等が挙げられる。自己免疫性疾患としては、特に限定されないが、例えば全身性エリテマトーデス、慢性関節リウマチ、シューグレン症候群、重症筋無力症、悪性貧血、橋本病等が挙げられる。アレルギー性疾患としては、特に限定されないが、例えば気管支喘息、スギ花粉症、じんま疹等が挙げられる。感染症としては、ウイルス感染症、及び細菌感染症が挙げられる。ウイルス感染症としては、特に限定されないが、例えば消化管感染性ウイルス感染症(例えば、エンテロウイルス、サイトメガロウイルス)、呼吸器感染性ウイルス感染症(例えば、インフルエンザウイルス、ライノウイルス、コロナウイルス、パラインフルエンザウイルス、RSウイルス、アデノウイルス、 レオウイルス等の呼吸器感染性ウイルスによる感染症)、ヘルペスウイルスを原因とする帯状疱疹、ロタウイルスを原因とする下痢、ウイルス性肝炎、AIDS等が挙げられる。細菌感染症は特に限定されないが、例えばセレウス菌、腸炎ビブリオ、腸管出血性大腸菌、黄色ブドウ球菌、MRSA、サルモネラ、ボツリヌス、カンジダ等による感染症が挙げられる。
【0030】
2.免疫細胞の多機能性の評価方法について
本明細書において、採取した免疫細胞の多機能性の評価方法は、採取した免疫細胞のIL-2、TNFα及びIFNγのサイトカインの産生能を有する細胞機能を評価することによる。多機能性の評価は、免疫細胞をメトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬を有効成分として含む薬剤で、in vitroで処理し、当該処理した細胞について適用される。細胞機能を評価することで、メトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬に対する細胞の感受性や治療効果を予測することができる。メトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬で処理した免疫細胞が、対照に比べて有意に多機能性が向上している場合に、免疫細胞の薬剤に対する感受性が向上していると評価することができる。これにより、採取した免疫細胞のメトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬に対する感受性を評価することができる。疲弊していた、或は疲弊傾向にあるCD8+T細胞の機能がメトホルミンにより回復し、元々正常なCD8+T細胞(従って健常人のPBMC)は、正常であるが故にメトホルミンに対する感受性に乏しく、多くはメトホルミン処理により逆に多機能性の低下という結果の頻度が高くなる傾向にある。一方、疲弊CD8+T細胞の多いがん患者の場合は、メトホルミンに対する感受性が高く、メトホルミン処理により多機能性の上昇ないし不変という結果の頻度が高くなると考えられる。
【0031】
本発明の免疫細胞の多機能性の評価方法のために、採取した免疫細胞、例えばPBMCを刺激するのが好適である。細胞内を活性化し、サイトカインの産生を促す必要があるからである。刺激は、自体公知の方法、例えばプロテインキナーゼ活性化剤(highly potent protein kinase C (PKC) activator:PMA)及びイオノマイシンにより刺激することができる。PMA及びイオノマイシンによる刺激は、例えば20〜100 ng/mL、好ましくは30〜80 ng/mL、より好ましくは50 ng/mLのPMA、及び1〜10μM、好ましくは1〜5μM、より好ましくは2μMイオノマイシンで刺激することができる。PMA及びイオノマイシンによるPBMCの刺激は、前記より選択される濃度のPMA及びイオノマイシンを含む培地を用いて、PBMCを37±0.5℃で3〜12時間、好ましくは4〜10時間、最も好ましくは6時間培養することにより行うことができる。この場合において、産生したサイトカインが細胞外へ放出するのをブロックするために、細胞質内においてゴルジ体からのタンパク質輸送をブロックする薬剤であるモネンシン(monensin)若しくはブレフェルジンA(brefeldinA)等を用いるのが好適である。
【0032】
本発明の免疫細胞の多機能性の評価は、免疫細胞に含まれるCD8+T細胞における、IL-2、TNFα及びIFNγのサイトカインの産生能を有する細胞を確認し、母集団であるCD8+T細胞群(A)に対し、当該3種類のサイトカイン産生能がいずれも陽性である細胞(B)の割合(細胞陽性率)を測定することを特徴とする。本明細書において、細胞陽性率は、以下のようにして算出することができる。細胞陽性率の算出は、フローサイトメーター等の測定機器の解析結果に従ってもよい。
細胞陽性率(%)=(Bの細胞数)/(Aの細胞数)×100
【0033】
本明細書において、(B)の「3種類のサイトカイン産生能が陽性である細胞」とは、上記サイトカインであるIL-2、TNFα及びIFNγの各々について測定した場合に、当該3種類のサイトカイン産生が同時に陽性となるCD8+T細胞をいう。具体的には、3種類のサイトカインのうちの1種のサイトカインについてゲートをかけ、陽性となった細胞に関し、他の2種類のサイトカインについても陽性となった細胞をいう。
【0034】
本発明の免疫細胞の多機能性の評価は、より具体的には、以下の1)〜4)の工程を含むCD8+T細胞の機能評価方法に関する。
1)採取した免疫細胞をメトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬を有効成分として含む薬剤で、in vitroにおいて処理する工程:
2)処理した免疫細胞を遠心・洗浄後、PMA及びイオノマイシンを用いて刺激する工程;
3)前記2)で刺激された免疫細胞を、フローサイトメーター解析においてCD8+T細胞にゲートをかける工程;
4)前記ゲートをかけたCD8+T細胞について、IL-2、TNFα及びIFNγの3種類のサイトカインの産生能を測定する工程。
【0035】
本発明のCD8+T細胞機能の評価方法に関し、さらにTim-3及び/又はPD-1の発現を測定してもよい。
【0036】
さらに具体的には、以下の方法によることができる。
【0037】
被験者から末梢血を採取し、リンパ球分離用試薬を用いてPBMCを分離し、試験管に保存する。採取したPBMCは、検査直前まで凍結保存していてもよい。検査前に融解した被験細胞(例えば、PBMC)をメトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬、特に好ましくはメトホルミンを1〜500μM、好ましくは1〜100μM、より好ましくは5〜100μM程度、特に10〜100μM程度加えた培地を用いて、37±0.5℃、5% CO2で1〜12時間、好ましくは4〜10時間、最も好ましくは6時間培養処理することができる。培地は、被験細胞を培養可能であればよく、特に限定されないが、特にAIM-V(R)培地(Invitrogen)が好ましい。細胞は培地等で洗浄し、細胞活性化試薬(potent nanomolar activator of protein kinase C (PMA, 50ng/mL)、イオノマイシン (1μM))の存在下で培養し、T細胞に非特異的な刺激を与えるのが好適である。その後、細胞内タンパク輸送阻害剤で処理し、産生したサイトカインを細胞内に留めておくのが好適である。上記処理したPBMCを回収し、細胞染色用バッファーで1〜4回で洗浄して染色用バッファーを加え、2〜10℃、好ましくは3〜5℃最も好ましくは4±1℃で培養することができる。細胞洗浄用バッファーで洗浄し、サイトカインであるIL-2、TNFα、IFNγの染色を行う。細胞を回収洗浄し、FACSにて解析し、IL-2、TNFα及びIFNγの3種類のサイトカインの産生量について、ビグアニド系抗糖尿病薬で処理していない対照とビグアニド系抗糖尿病薬で処理した細胞についての値を比較する。
【0038】
本発明のフローサイトメーター解析においてCD8+T細胞にゲートをかけた後、FSC(Forward Scatter)のFSC-A, FSC-Hでダブレット細胞を除去し、改めてFSC-A, SSC-Aのパラメーターを用いてリンパ球集団にゲートを掛け、Tim-3及び/又はPD-1の発現を解析することができる。また、細胞内サイトカインIL-2、TNFα及びIFNγを染色し、多機能性の検出を行うことができる。本明細書において、細胞内サイトカインであるIL-2、TNFα及びIFNγが同時に産生される免疫細胞の性質を「多機能性」という場合もある。多機能性の中には3種類のサイトカインを同時に産生するものが最も強力なエフェクター細胞であり、続いて2種類同時に産生する細胞が2番目に効果的なエフェクター細胞である。1種類のサイトカインしか産生しない細胞は、多機能性があるとは言わず、この種の細胞のエフェクター機能は限定的である。
【0039】
本発明は、本発明の免疫細胞の多機能性の評価方法を利用することを特徴とする、免疫能異常に伴う疾患の検査方法にも及ぶ。本明細書において、免疫能異常に伴う疾患の検査とは、当該疾患に対する薬剤の有効性の予測、疾患の重症度予測、疾患の治療予後予測、又は疾患の発症予測判断の補助のための検査をいう。がん患者であっても、メトホルミンに全く反応しない場合は免疫疲弊がより重篤といえる。本発明の免疫細胞の多機能性の評価は、免疫能異常に伴う疾患について、当該疾患に対する薬剤の有効性の予測、重症度予測、予後予測、又は発症を予測し、判断を補助するための検査に利用することができる。
【0040】
近年、免疫疲弊のメカニズムが明らかにされ、疲弊分子の阻害ががん治療において重要であることが報告されている。本発明の検査方法は、3種類のサイトカインの同時産生細胞群の検出と疲弊分子の検出を組み合わせることができ、患者の免疫細胞、具体的にはCD8+T細胞の免疫状態を容易に検出することができる。PD-1やTim-3などの疲弊分子を発現していれば即ち疲弊した細胞であるが、メトホルミン処理によりその細胞集団の多機能性が回復すれば、間違いなく疲弊が解除された(免疫能が回復した)と判断される。
【0041】
がんワクチン治療では、これまでがん組織におけるワクチン抗原発現の有無等で治療対象者を選択していたが、本発明の評価方法により免疫治療前の免疫状態の情報が得られるため、抗原発現に付け加えて治療対象選択に大きく貢献できるものと考えられる。
【0042】
本明細書において、「薬剤の有効性の予測」に示す薬剤は、メトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬を有効成分として含む薬剤をいう。採取した免疫細胞を、予めメトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬を有効成分として含む薬剤で、in vitroにおいて処理した細胞について、フローサイトメーター解析により細胞内サイトカインIL-2、TNFα及びIFNγの多機能性が認められた細胞のドナーに対しては、免疫異常に伴う疾患に対して、より効果が優れている。
【0043】
メトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬を有効成分として含む、免疫能異常に伴う疾患の治療及び/又は予防剤に関し、健常人に適用することによっても、CD8+T細胞に潜在的多機能性を付与することができる。これにより、免疫能低下症状(慢性難治性感染症、がん患者、糖尿病患者、他)又はその状態、例えば次のような状態の改善効果を期待することができる。例えば、体力の消耗、高齢・老化による低下、複合免疫不全症、抗体産生不全症、補体不全症などの免疫不全、甲状腺機能低下症、放射線による免疫低下、先天性免疫不全症候群、後天性免疫不全症(AIDSを含む)。これらの上記免疫能異常に伴う疾患の治療及び/又は予防剤を投与することで、その免疫能を回復し、全般的な免疫力の回復を得て、状態・症状の改善、寛解につながるものと考えられる。
【0044】
本発明は、メトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬を有効成分として含む、免疫能異常に伴う疾患の治療及び/又は予防剤にも及ぶ。本発明の免疫能異常に伴う疾患に使用される治療及び/又は予防剤に含まれる有効成分は、免疫細胞の機能を回復させ、アポトーシスを抑制し、免疫力を回復させることができる。免疫細胞の機能回復とは、CD8+T細胞であれば、IL-2、TNFα及びIFNγの3種類のサイトカインを同時に産生する能力が回復する、という意味である。また、他の免疫担当細胞の場合は、アポトーシスの抑制に伴うその細胞固有の機能の回復である。例えば、CD4T細胞、NK細胞、NKT細胞、γδT細胞ではIFNγ産生能の亢進であり、B細胞であれば抗体産生能の亢進であり、骨髄細胞であれば分化誘導能の上昇と考えられる。
【0045】
本発明の免疫能異常に伴う疾患の治療及び/又は予防剤に係る、有効成分としてのメトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬は成人1日当たり1〜5000 mg、好ましくは10〜4000 mg、より好ましくは50〜3000 mg程度、特に100〜2500 mg程度を投与すればよい。有効成分は1日1回でもよく、2〜4回に分けて投与してもよい。さらに、必要に応じて数日間にわたり投与することができ、投与間隔、投与回数は適宜決定することができる。
3.他の薬剤との併用について
本発明の免疫能異常に伴う疾患の治療及び/又は予防において、メトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬を同疾患を有する患者に投与する場合、他の薬剤とともに組み合わせて使用してもよい。本発明にかかるビグアニド系抗糖尿病薬と他の薬剤を別々に投与する場合には、本発明にかかるビグアニド系抗糖尿病薬を先に投与し、その投与後に他の薬剤を投与してもよいし、他の薬剤を先に投与し、本発明にかかるビグアニド系抗糖尿病薬を後に投与してもよく、また、上記投与において、一定期間、両薬剤が同時に投与される期間があってもよい。また、各々の薬剤の投与方法は同じでも異なっていてもよい。薬剤の性質により、本発明にかかるビグアニド系抗糖尿病薬を含む製剤と他の薬剤を含む製剤のキットとして提供することもできる。ここで、本発明にかかるビグアニド系抗糖尿病薬は、前記記載の用量を基準として適宜選択することができる。また、他の薬剤の投与量についても、臨床上用いられている用量を基準として適宜選択することができる。前記他の薬剤には、現在までに見出されているものだけでなく今後見出されるものも含まれる。ここで、他の薬剤の主な一例として、免疫抑制因子解除剤が挙げられる。がん細胞やがんの微小環境には、がんに対する免疫応答を妨げる種々の免疫抑制因子が存在している。免疫応答の進行過程には数々の免疫チェックポイント(immune checkpoints)があり、特にCTLA-4やPD-1などの負の共刺激分子機能は自己応答の制御のための重要なチェックポイントとなっている。このような免疫チェックポイントを阻害する分子、すなわち、免疫抑制因子解除剤としては、例えば、抗CTLA-4抗体(例えば、Ipilimumab、Tremelimumab)、抗PD-1抗体(例えば、ヒト抗ヒトPD-1モノクローナル(中和)抗体(例えば、Nivolumab、REGN-2810)、ヒト化抗ヒトPD-1モノクローナル(中和)抗体(例えば、Pembrolizumab、PDR-001、BGB-A317、AMP-514(MEDI0680)))、抗PD-L1抗体(例えば、Atezolizumab(RG7446、MPDL3280A)、Avelumab(PF-06834635、MSB0010718C)、Durvalumab(MEDI4736)、BMS-936559)、抗PD-L2抗体、PD-L1融合タンパク質、PD-L2融合タンパク質(例えば、AMP-224)、抗Tim-3抗体(例えば、MBG453)、抗LAG-3抗体(例えば、BMS-986016、LAG525)、抗KIR抗体(例えば、Lirilumab)、抗BTLA抗体、抗VISTA抗体 など が挙げられる。また、他の薬剤として、例えば、抗CD137抗体(例えば、Urelumab)、抗OX40抗体(例えば、MEDI6469)、抗HVEM抗体、抗CD27抗体(例えば、Varlilumab)、抗GITR抗体(例えば、MK-4166)および抗CD28抗体などの共刺激受容体作動薬も挙げられる。 これら免疫抑制因子解除剤及び共刺激受容体作動薬のうちのいずれか1種又は任意の複数種の抗体あるいは融合タンパク質を本発明にかかるビグアニド系抗糖尿病薬と組み合わせて用いることができる。本発明にかかるメトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬を免疫抑制因子解除剤及び/または共刺激受容体作動薬と組み合わせることによって治療及び/又は予防が期待できる疾患として、例えば、癌(特に限定されないが、例えば、頭頸部癌、食道癌、胃癌、大腸癌、結腸癌、直腸癌、肝臓癌(例えば、肝細胞癌)、胆嚢・胆管癌、胆道癌、膵臓癌、肺癌(例えば、非小細胞肺癌(扁平上皮非小細胞肺癌、非扁平上皮非小細胞肺癌)、小細胞肺癌)、乳癌、卵巣癌、子宮頚癌、子宮体癌、膣癌、外陰部癌、腎癌(例えば、腎細胞癌)、尿路上皮癌(例えば、膀胱癌、上部尿路癌)、前立腺癌、精巣腫瘍(胚細胞腫瘍)、骨・軟部肉腫、白血病、骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫(例えば、ホジキンリンパ腫、濾胞性リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫)、成人T細胞白血病、多発性骨髄腫、皮膚癌(例えば、悪性黒色腫、メルケル細胞がん)、脳腫瘍(例えば、膠芽腫)、胸膜中皮腫及び原発不明がん)が挙げられる。このうち、例えば、免疫抑制因子解除剤又は共刺激受容体作動薬単独での治療効果が十分ではないがん患者やがん種に対して、特に、その抗腫瘍効果を最大限に発揮することが期待できる。
【0046】
本発明の免疫能異常に伴う疾患の治療及び/又は予防剤は、例えば静脈内投与する際に好ましい剤型は液剤であり、液剤を調製するには、例えば精製水、生理食塩水、エタノール・プロピレングリコール・グリセリン・ポリエチレングリコール等のアルコール類、トリアセチン等の溶媒を用いて行うことができる。このような製剤にはさらに防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定剤のような補助剤を加えてもよい。また懸濁剤として投与することも可能である。
【0047】
また錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、細粒剤等の固形製剤を調製するには、例えば重炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、デンプン、ショ糖、マンニトール、カルボキシメチルセルロース等の担体、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、グリセリン等の添加剤を加えて常法により行うことができる。またセルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ポリビニルアルコールフタレート、スチレン−無水マレイン酸共重合体、メタクリル酸−メタクリル酸メチル共重合体等の腸溶性物質の有機溶媒あるいは水中溶液を吹き付けて、腸溶性被膜を施して、腸溶性製剤として製剤化することもできる。薬学上許容しうる担体には、その他通常、必要により用いられる補助剤、芳香剤、安定剤又は防腐剤を含むことができる。
【0048】
さらに本発明は、メトホルミン、フェンホルミン及びブホルミンから選択されるいずれかのビグアニド系抗糖尿病薬を有効成分として含む薬剤と、がんワクチンと組み合わせて投与することを特徴とする免疫異常に伴う疾患の治療剤及び/又は予防剤、並びに治療方法及び/又は予防方法にも及ぶ。ここで、がんワクチンとは、がんペプチドワクチン(MAGE-3、MUC-1、WT1ペプチド、P53、 NY-ESO1など)、がんタンパク質ワクチン、樹状細胞ワクチン、遺伝子治療ワクチンなどをいう。樹状細胞ワクチンは、がんペプチド又はがん抗原タンパク質を取り込ませた樹状細胞ワクチン、がん細胞由来mRNAを遺伝子導入した樹状細胞ワクチン(遺伝子治療ワクチンでもある)、がん抗原タンパク質、例えば前立腺産生ホスファターゼとGM-CSFの融合蛋白質と培養を行なった樹状細胞ワクチン(プロベンジなど)などを含む。さらにウイルス感染によって発癌することが証明されているがんに対するワクチン、例えば、B型肝炎ウイルスに由来するB型肝炎ワクチン、ヒトパピローマウイルスに由来する子宮頸癌予防ワクチンなどもがんワクチンに含まれる。上記本発明の免疫能異常に伴う疾患の治療及び/又は予防剤に様々なワクチンを組み合わせることで、ワクチン効果の大幅な増強効果を達成することができる。これにより、がんワクチンなどのワクチン投与量を軽減することが期待でき、これらワクチン及びアジュバントに起因する副作用を減ずることができる。
【0049】
本発明は、上記免疫能異常に伴う疾患の治療及び/又は予防剤を使用することを特徴とする免疫能異常に伴う疾患の治療方法及び/又は予防方法にも及ぶ。
【実施例】
【0050】
本発明の理解を深めるために、参考例、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではないことは、いうまでもない。以下の臨床検体を用いた本研究は、岡山大学内の倫理委員会により承認されている。以下の実施例において、がんの病期に応じて、ステージI(stageI)の原発性肺がん患者、及び、転移性肺がん(従って、ステージIV(stageIV)である)患者の末梢血を用いた解析事例を示す。がん病期のステージはUICC TNM分類(第7版)病期のマトリクス(肺)の診断基準に従った。
【0051】
(実施例1)免疫細胞の多機能性の評価方法
本実施例では、免疫細胞の免疫評価方法について説明する。まず初めに、フローサイトメーターによる、免疫細胞の多機能性を解析し、次に健常人とがん患者の免疫細胞についてメトホルミン処理の有無による多機能性の変化を確認した。免疫細胞の処理は、以下の(1)材料と(2)方法に従い行なった。
(1)材料
・リンパ球分離用試薬:Ficoll-Paque(R) (GE Healthcare)
・細胞凍結保存液:Bambang Car(NIPPON Genetics)
・ヒト細胞培地:AIM V(R) Medium(Gibco)
・細胞活性化試薬:
potent nanomolar activator of protein kinase C(Sigma-Aldrich)
イオノマイシン(Sigma-Aldrich)
・細胞内タンパク輸送阻害剤
BD Gorgi StopTM (containing monensin)(BD Biosciences)
・染色用緩衝液
EDTA(Nacalai Tasque)0.58gを2% FCS(Thermo)を含むPBS(Gibco)1 L に溶解
・細胞固定液/透過用緩衝液
BD Cytofix/CytopermTM(BD Biosciences)
BD Perm/WashTM (dilute 1:10 in disilled H2O prior to use)(BD Biosciences)
【0052】
(2)方法
1. 被験者から末梢血を採取し、リンパ球分離用試薬のFicoll-Paque(R)(GE Healthcare)による密度勾配遠心処理によってPBMCを分離した。15 mLチューブにFicoll-Paque(R)を3 mL分注。その上に、末梢血を8 mL静かに重層した。この際にFicoll-Paque(R)と末梢血が混ざらないように注意する。400 gで30分間遠心を行い、PBMCを分離した。
2. 分離したPBMCは、細胞保存液であるバンバンカーを用いて、-150℃フリーザーあるいは液体窒素に2.0×106 cell/tubeの細胞数となるように保存した。
3. 検査時、解凍したPBMCを、10μMのメトホルミン存在、非存在下で1〜10時間培養した。この際、24 well plateを使用し、5.0×105 cell/well程度になるように細胞数を調整した。
4. 1〜10時間後に細胞を回収し、回収した細胞を培地で洗浄し、細胞活性化試薬(potent nanomolar activator of protein kinase C (PMA, 50ng/mL)、イオノマイシン (1μM))の存在下で6時間培養し、T細胞に非特異的な刺激を与えた。この際にBD Gorgi StopTMを加えておき、産生したサイトカインを細胞内に留めておいた。
5. 細胞を回収し、細胞染色用緩衝液で2回洗浄した。まず、T細胞表面に発現する分子であるCD8、PD-1、Tim-3の染色を行なった。 染色の際は各サンプル50μLとなるように染色用緩衝液を加えた。4℃で30分間培養した。
6. 細胞を回収し、細胞染色用緩衝液で2回洗浄した。BD Cytofix/CytopermTMを500μL加え、4℃で30分間培養する。
7. 細胞を回収し、BD Perm/WashTMで2回洗浄した。サイトカインであるIL-2、TNFα及びIFNγの染色を行なった。
・染色の際は各サンプル50μLとなるようにBD Perm/WashTMを加えた。
・4℃で30分間培養する。
8. 細胞を回収し、BD Perm/WashTMで2回洗浄し、BD Perm/WashTM 200μLを加える。
9. FACSCantoTM II フローサイトメーター(Becton, Dickinson and Company)による解析を行った。
【0053】
(3)フローサイトメーターによる、免疫細胞の多機能性の解析
上記(2)に示す方法でPMA/イオノマイシン処理したPBMCを、FACSCantoTMII フローサイトメーター(Becton, Dickinson and Company)により、まずCD8+T細胞にゲートを掛け、次にFSC-A, FSC-Hでダブレット細胞を除去した。改めてFSC-A, SSC-Aのパラメーターを用いてリンパ球集団にゲートを掛け、このPD-1及びTim-3の発現を解析した。また、細胞内サイトカインであるIFNγ, TNFα及びIL-2を染色し、PBMCに含まれるCD8+T細胞の多機能性を解析した(図1)。
【0054】
(4)健常人のCD8+T細胞の多機能性の解析
健常人(N=10)から得たPBMCについて、上記(2)に示す方法でメトホルミン存在下又は非存在下で1時間培養し、メトホルミンを除去したPBMCについて、(3)に示す方法でPMA/イオノマイシンでさらに6時間刺激培養したPBMCのうち3種類のサイトカイン、即ちIFNγ, TNFα及びIL-2を同時に産生できるCD8+T細胞を検出した。その結果、メトホルミン処理をしなかったCD8+T細胞は0.11%と算出され、メトホルミン処理をしたCD8+T細胞は0.09%と算出された(図2)。従って、健常人のCD8+T細胞については、メトホルミン処理によってもCD8+T細胞の多機能性は上昇しなかった、と判定された。
【0055】
上記処理した健常人のPBMCについて、3種類のサイトカイン(IFNγ/TNFα/IL-2)、2種類のサイトカイン(IFNγ/TNFα又はIFNγ/IL-2)、1種類のサイトカイン(IFNγ)を産生するCD8+T細胞の全CD8+T細胞に対する割合を算出し、表1に示した。メトホルミン非処理(control)及びメトホルミン処理(metformin)の場合の算出結果を比較し、メトホルミン処理により、各サイトカインを産生するCD8+T細胞の割合が、10%以上が上昇した場合は↑、逆に10%以上低下した場合は↓、それ以外は優位な変化なし→、とした。
【0056】
【表1】
【0057】
(5)がん患者のCD8+T細胞の多機能性の解析
31名の原発性肺がん患者(stageI)から得たPBMCについて、上記(4)に示す方法と同手法でメトホルミン存在下又は非存在下で1時間培養し、メトホルミンを除去したPBMCについて解析した。その結果の代表例であるが、メトホルミン処理をしなかったCD8+T細胞は0.92%と算出され、メトホルミン処理をしたCD8+T細胞は1.44%と算出された(図3)。従って、がん患者のCD8+T細胞については、健常人と比較して、メトホルミン処理によってCD8+T細胞の多機能性が上昇した場合が多いと判定された。
【0058】
上記処理したがん患者について、(4)と同様に解析し、3種類のサイトカイン(IFNγ/TNFα/IL-2)、2種類のサイトカイン(IFNγ/TNFα又はIFNγ/IL-2)、1種類のサイトカイン(IFNγ)を産生するCD8+T細胞の全CD8+T細胞に対する割合を算出し、表2に示した。メトホルミン非処理(control)及びメトホルミン処理(metformin)の場合の算出結果を比較し、メトホルミン処理により、各サイトカインを産生するCD8+T細胞の割合が、10%以上が上昇した場合は↑、逆に10%以上低下した場合は↓、それ以外は優位な変化なし→、とした。
【0059】
【表2】
【0060】
(実施例2)免疫細胞の多機能性の評価方法
本実施例では5名の健常人及び5名の原発性肺がん患者(stageI)のCD8+T細胞の疲弊分子PD-1及びTim-3の発現頻度を検討した。がん患者ではPD-1の発現が優位に低いことが判明した。また、Tim-3の発現が、がん患者で高い傾向にあったが、このN数では優位差は認められなかった(図4)。しかし、健常人とがん患者では、CD8+T細胞で明らかに発現パターンが異なるため、総CD8+T細胞に加え、PD-1, Tim-3の発現パターンと多機能性解析を組み合わせることでより詳細な多機能性解析が可能であることが考えられた。
(実施例3)メトホルミンによる多機能性回復検査結果
本実施例では、実施例1の方法で確認した結果に基づいて、10名の健常人及び31名のがん患者(stageI)についての、CD8+T細胞のメトホルミンによる多機能性回復検査結果を解析し、以下の表3に示した。表3では、総CD8+T細胞(total CD8T)の他、PD-1陽性、Tim-3陰性のCD8+T細胞(PD-1+, Tim-3-)、PD-1陽性、Tim-3陽性のCD8+T細胞(PD-1+, Tim-3+)、PD-1陰性、Tim-3陽性のCD8+T細胞(PD-1-, Tim-3+)、 PD-1陰性、Tim-3陰性のCD8+T細胞(PD-1-, Tim-3-)の4種類に分類した、各々サイトカイン産生能を確認した。サイトカイン産生能は、(A)IFNγ/TNFα/IL-2の3種類、(B)IFNγ/TNFαの2種類、(C)FNγ/IL-2の2種類、(D)IFNγの1種類の各サイトカインを産生する割合を示した。
【0061】
表3の結果、3種類のサイトカイン産生能では、総CD8+T細胞、PD-1陰性、Tim-3陽性のCD8+T細胞、並びにPD-1陰性、Tim-3陰性のCD8+T細胞で、健常人とがん患者で明らかな差があった。特に、総CD8+T細胞の場合、健常人で上昇0/10(0%)、がん患者では上昇14/31(45.2%)であり、メトホルミン処理による多機能性上昇はがん患者で起こりやすいことが明らかであった。また、メトホルミン処理により多機能性が低下する割合は健常人で7/10(70%)、がん患者では12/31(38.7%)であり、健常人の場合の多機能性の低下は明らかである。2種類のサイトカイン産生能では総CD8+T細胞又はPD-1陰性、Tim-3陽性のCD8+T細胞で健常人とがん患者で明らかな差が存在した。1種類のサイトカイン産生能(この場合はIFNγ)では健常人とがん患者で明らかな差は存在しなかった。
【0062】
【表3】
【0063】
(実施例4)免疫細胞の多機能性の評価方法
本実施例では、10名の健常人及び5名の転移性肺がん患者(stageIV)について、実施例1と同手法により、CD8+T細胞のメトホルミンによる多機能性回復検査結果を解析し、以下の表4に示した。表3と同様に、表3では、総CD8+T細胞の他、PD-1陽性、Tim-3陰性のCD8+T細胞、PD-1陽性、Tim-3陽性のCD8+T細胞、PD-1陰性、Tim-3陽性のCD8+T細胞、 PD-1陰性、Tim-3陰性のCD8+T細胞の4種類に分類した、各々サイトカイン産生能を確認した(表4)。サイトカイン産生能は、(A)IFNγ/TNFα/IL-2の3種類、(B)IFNγ/TNFαの2種類、(C)FNγ/IL-2の2種類、(D)IFNγの1種類の各サイトカインを産生する割合を示した。
【0064】
表4の結果、3種類のサイトカイン産生能では、総CD8+T細胞、PD-1陽性、Tim-3陰性のCD8+T細胞、並びにPD-1陰性、Tim-3陰性のCD8+T細胞で、健常人とがん患者で明らかな差があった。即ち、メトホルミン処理により、がん患者では多機能性低下が極めて少なかった(ゼロであった)。2種類のサイトカイン産生能では健常人とがん患者で明らかな差は存在しなかった。また、1種類のサイトカイン産生能でも、健常人とがん患者で明らかな差は存在しなかった。
【0065】
【表4】
【0066】
実施例3及び実施例4の結果より、健常人、がん患者(stageI)及びがん患者(stageIV)でのメトホルミンによる多機能性回復検査の結果より、総CD8+T細胞における3種類のサイトカイン(IFNγ/TNFα/IL-2)産生の上昇、不変の群に絞って分析した。健常人では30%、がん患者(stageI)で61.3%、がん患者(stageIV)で100%で、3種類のサイトカイン(IFNγ/TNFα/IL-2)産生が上昇、不変であり、健常人とがん患者の間で有意差が認められた(表5)。がん患者の場合、病期(ステージ)の進行に伴い、疲弊CD8+T細胞の潜在的増加が起こり、この疲弊集団がメトホルミン処理により多機能性の上昇又は不変という形で検出されると考えられる。
【0067】
【表5】
【0068】
(実施例5)ex vivoで細胞をメトホルミン処理した場合の効果
T細胞を体外でメトホルミン処理し、これを体内に戻して抗腫瘍効果があるかを、マウス(C57BL/6)を用いて確認した。まず、レシピエントとして8〜9週齢のC57BL/6(CD45.2)を用い、悪性黒色腫(メラノーマ)細胞株(B16-OVA)2×105個をレシピエントの背部皮内に移植した。ドナーとして、8〜9週齢のC57BL/6(CD45.1)×OT-1マウス(OVA抗原を認識するCD8+T細胞のT細胞受容体α鎖β鎖のトランスジェニックマウス)を用い、採取した脾臓からCD45.1 OT-1 CD8+T細胞群を磁気ビーズで精製し、これをメトホルミン処理(+/-)後、腫瘍細胞移植後7日目のレシピエントに移入した(図5参照)。具体的には、CD8+T細胞を3×106個/2 mL 10μMメトホルミン濃度、37℃、5% CO2で6時間培養し、細胞(MTi細胞)を回収後PBSで2回遠心洗浄し、3×106個の細胞をマウスの尾静脈から注射した。培地はRPMI-1640 Medium(SIGMA R0883)に Penicillin(50 U/mL)、Streptomycin(50 g/mL, SIGMA P0781)、Sodium Pyruvate(1mM, SIGMA S8636)、L-glutamine(2mM, SIGMA G7513)、MEM Non-Essential Amino Acids(溶液100倍希釈、life technologies)、2-mercaptoethanol(5×10-5 M, SIGMA M6250)となるように添加したものを使用した。牛胎児血清は用いなかった。
【0069】
上記の結果、腫瘍に浸潤したCD45.1 OT-1 CD8+T細胞をFACSCantoTM II フローサイトメーター(Becton, Dickinson and Company)によりゲートをかけ、IFNαとIL-2の産生能を確認した。PMA及びイオノマイシンで刺激し、メトホルミン処理を行ったCD45.1 OT-1 CD8+T細胞(MTi細胞)群は、何れのサイトカインについても高い細胞陽性率が確認された(図6参照)。メトホルミン処理したCD45.1 OT-1 CD8+T細胞(MTi細胞)を移入後、レシピエントの腫瘍に浸潤した細胞のアポトーシスは、メトホルミン処理していないCD45.1 OT-1 CD8+T細胞を移入後、レシピエントの腫瘍に浸潤した細胞のアポトーシスと比較して極めて頻度が小さいことが確認された(図7参照)。メトホルミン処理したCD45.1 OT-1 CD8+T細胞(MTi細胞)を移入後のレシピエントの腫瘍の大きさは、メトホルミン処理していないCD45.1 OT-1 CD8+T細胞を移入の場合と比較して、移入2日目において腫瘍の大きさに差が認められた(図8参照)。メトホルミン処理により、移入したCD45.1 OT-1 CD8+T細胞の腫瘍への移行効率は高く、腫瘍内での多機能性が高いことも確認された。このことから、T細胞を体外でメトホルミン処理し、これを体内に戻しても抗腫瘍効果を有することが認められ、細胞免疫療法が可能であることが確認された。
【0070】
(実施例6)ex vivoで細胞をメトホルミン処理した場合の効果
T細胞を体外でメトホルミン処理し、これを体内に戻して抗腫瘍効果があるかを、マウス(C57BL/6)を用いて確認した。まず、レシピエントとして8〜9週齢のC57BL/6(CD45.2)を用い、悪性黒色腫(メラノーマ)細胞株(B16-OVA)2×105個をレシピエントの背部皮内に移植した。ドナーOT-1マウスのCD8+T細胞(Cell, Vol. 76, p.17-27, 1994)をメトホルミン処理(0μM, 10μM, 100μM)後、腫瘍細胞移植後5日目、7日目、9日目、11日目に実施例1と同様により複数回にレシピエントに移入し、腫瘍の増殖曲線をモニターした(図9参照)。
【0071】
上記の結果、レシピエントの腫瘍は、100μMのメトホルミンで処理したドナーOT-1マウスのCD8+T細胞(MTi細胞)を移入した場合に優れた腫瘍抑制効果が確認された(図9参照)。
【0072】
(実施例7)メトホルミン投与とがんワクチン投与を併用した場合の効果
メトホルミンの自由飲水による経口投与と共にOVAワクチン(マウスhsc70のC末端にOVA257-264を融合した融合タンパク質:Int. Immunol. 13, 1233-1242, 2001)処理を行ったときの抗腫瘍効果を確認した。メトホルミン自由飲水投与、及び/又はOVAワクチンを腫瘍細胞移植後7日目、12日目、17日目及び22日目にレシピエントに尾静脈より投与した(図10参照)。本実施例のがんワクチンは、がんタンパク質ワクチンの部類に属する。
【0073】
上記の結果、レシピエントの腫瘍は、メトホルミンとがんワクチンを併用投与した場合に優れた腫瘍抑制効果が確認された(図10参照)。
【0074】
(実施例8)メトホルミン投与と抗PD-1抗体投与を併用した場合の効果
レシピエントとしてマウスに腫瘍を移植し、メトホルミン投与と抗PD-1抗体投与を併用した場合の効果について確認した。マウスとして8〜9週齢の、C57BL/6(N=10)又はBALB/c(N=10)を用い、C57BL/6には腫瘍細胞としてMO5を、BALB/cにはMeth Aを各々2×105個をレシピエントの背部皮内に移植した。腫瘍細胞移植後5日目からメトホルミン自由飲水投与及び/又は抗PD-1抗体(クローン4H2,ラット由来抗マウスPD-1抗体の可変領域及びマウスIgGκ1の定常領域からなるマウス化キメラ抗体(国際公開公報WO2006/121168の実施例12に記載の方法で作製された抗体):αPD-1, 小野薬品株式会社より供与)を投与したときの、腫瘍の増殖曲線をモニターした。なお、抗PD-1抗体は、腫瘍細胞移植後5日目、11日目、17日目及び23日目にそれぞれ200μgを腹腔内に投与した。コントロールにはPBSを投与した。図11は1群10匹あたりの平均腫瘍径を示した。その結果、メトホルミンと抗PD-1抗体を併用投与した系で明らかに腫瘍の縮小が認められた。
【0075】
図12では、C57BL/6についてコントロール、メトホルミン単独、αPD-1単独、及びメトホルミンとαPD-1を併用投与した系について、個々の腫瘍径を測定した結果を示した。同様に、図13では、BALB/cについて個々の腫瘍径を測定した結果を示した。個々の結果からも、メトホルミンと抗PD-1抗体を併用投与した系で明らかに腫瘍の縮小が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上詳述したように、3種類のサイトカインに関する細胞陽性率の測定により患者の免疫状態を容易に検査することができる。さらに、本発明の評価方法によれば、免疫細胞の疲弊分子の検出と3種類のサイトカインに関する細胞陽性率の測定を組み合わせることができ、より正確に患者の免疫状態を容易に検査することができる。
【0077】
がんワクチン治療ではこれまで、がん組織におけるワクチン抗原発現の有無で治療対象者を選択していたが、本発明の評価方法によれば免疫治療前の免疫状態の情報が得られるため、抗原発現に付け加えてワクチン被施行者の選別を容易にするととともに、治療対象者に大きく貢献できるものと考えられる、
本発明の免疫能異常に伴う疾患の治療剤は免疫能を向上させることができ、例えばがんに対しては外科手術、放射線療法、化学療法と併用することにより予後を改善することが期待される。また術前化学療法としての使用は効果が大きいと考えられる。さらに治療後の再発を抑える効果が期待される。
【0078】
さらに本発明は、免疫細胞の機能増強方法にも及び、機能が増強された免疫細胞(MTi細胞)にも及び、当該MTi細胞を有効成分として含む、免疫能異常に伴う疾患の治療及び/又は予防剤にも及ぶ。得られた細胞は、優れた免疫機能を有しており、免疫能異常に伴う疾患の治療剤として使用することができる。例えば、抗腫瘍剤として優れた効果を発揮しうる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9
図10
図11
図12
図13