特許第6672260号(P6672260)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6672260
(24)【登録日】2020年3月6日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】宇宙船推進システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   B64G 1/42 20060101AFI20200316BHJP
   B64G 1/26 20060101ALI20200316BHJP
   F03H 1/00 20060101ALI20200316BHJP
   F03H 99/00 20090101ALI20200316BHJP
【FI】
   B64G1/42
   B64G1/26 Z
   F03H1/00 Z
   F03H99/00 B
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-504808(P2017-504808)
(86)(22)【出願日】2015年7月27日
(65)【公表番号】特表2017-522226(P2017-522226A)
(43)【公表日】2017年8月10日
(86)【国際出願番号】FR2015052067
(87)【国際公開番号】WO2016016563
(87)【国際公開日】20160204
【審査請求日】2018年6月27日
(31)【優先権主張番号】1457371
(32)【優先日】2014年7月30日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】516227272
【氏名又は名称】サフラン・エアクラフト・エンジンズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マルシャンディーズ,フレデリク
【審査官】 志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−082286(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/035053(WO,A2)
【文献】 特開昭48−083597(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/034825(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0073714(US,A1)
【文献】 Andrea Garulli, Antonio Giannitrapani, Mirko Leomanni, and Fabrizio Scortecci,“Autonomous station keeping for LEO missions with a hybrid continuous/impulsive electric propulsion system”,IEPC-2011-287,2011年 9月,p. 1-12,URL,http://erps.spacegrant.org/uploads/images/images/iepc_articledownload_1988-2007/2011index/IEPC-2011-287.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64G 1/26
B64G 1/40 − 1/44
F03H 1/00
F03H 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
宇宙推進システム(100)であって、
少なくとも1つの第1の電気負荷を含む静電スラスタ(101)と、
レジストジェット(102)と、
推進剤流体供給回路(104)と、
少なくとも1つの第1の給電線(131)、および前記第1の給電線(131)をレジストジェット(102)に接続することと前記第1の給電線(131)を静電スラスタ(101)の前記第1の電気負荷に接続することとの間で選択するための第1のスイッチ(114−1、114’−1、114”−1)、を含む電源回路(103)と、
を少なくとも備え、
前記第1の電気負荷が、前記静電スラスタ(101)の放出カソード(152)の加熱素子(153)を備え、
前記第1のスイッチが、電流または電圧の変換または変圧をまったく伴わずに、レジストジェット(102)の加熱素子(161)を形成する抵抗器に、前記第1の給電線(131)を接続することと、電流または電圧の変換または変圧をまったく伴わずに、前記静電スラスタ(101)の放出カソード(152)の加熱素子(153)を形成する抵抗器に、前記第1の給電線(131)を接続することと、の間で選択するように機能する、宇宙推進システム(100)。
【請求項2】
前記推進剤流体供給回路(104)が、静電スラスタ(101)に供給するための少なくとも1つの弁(110、110’)と、レジストジェット(102)に供給するための少なくとも1つの弁(112)とを含む、請求項に記載の宇宙推進システム(100)。
【請求項3】
少なくとも1つの弁開口制御線(135)と、静電スラスタ(101)に供給するための弁(110、110’)に前記弁開口制御線(135)を接続することと、レジストジェット(102)の少なくとも1つの供給弁(112)に前記弁開口制御線(135)を接続することと、の間で選択するための第2のスイッチ(114−5、114’−5、114−5”)と、
をさらに備える、請求項に記載の宇宙推進システム(100)。
【請求項4】
前記電源回路(103)が、少なくとも前記第1のスイッチ(114−1、114’−1、114”−1)が一体化された、少なくとも1つのスラスタ選択装置(114、114’、114”)を含む、請求項1からのいずれか一項に記載の宇宙推進システム(100)。
【請求項5】
前記電源回路(103)が、第1の電気負荷よりかなり高い電圧で、静電スラスタ(101)の少なくとも1つの他の電気負荷に給電することに適した少なくとも1つの電力処理装置(113)をさらに含む、請求項1からのいずれか一項に記載の宇宙推進システム(100)。
【請求項6】
前記静電スラスタ(101)が、ホール効果スラスタである、請求項1からのいずれか一項に記載の宇宙推進システム(100)。
【請求項7】
複数の静電スラスタ(101)を含む、請求項1からのいずれか一項に記載の宇宙推進システム(100)。
【請求項8】
前記推進剤流体供給回路(104)が、複数の前記静電スラスタ(101)に共通の少なくとも1つの調圧器(107)を含む、請求項に記載の宇宙推進システム(100)。
【請求項9】
前記推進剤流体供給回路(104)が、少なくとも1つの前記静電スラスタ(101)のための個別の調圧器(107)を含む、請求項または請求項に記載の宇宙推進システム(100)。
【請求項10】
請求項1からのいずれか一項に記載の宇宙推進システム(100)を含む、姿勢および/または軌道制御システム。
【請求項11】
請求項1からのいずれか一項に記載の宇宙推進システムを含む、宇宙船(10)。
【請求項12】
宇宙推進方法であって、
静電スラスタ(101)とレジストジェット(102)との間でスイッチングするステップを含み、
レジストジェット(102)がアクティブ化される第1の推進モード、または、静電スラスタ(101)がアクティブ化される第2の推進モードを選択するために、第1の給電線(131)をレジストジェット(102)に、または静電スラスタ(101)の第1の電気負荷に接続するための第1のスイッチ(114−1、114’−1、114”−1)が使用され、
前記第1の電気負荷が、前記静電スラスタ(101)の放出カソード(152)の加熱素子(153)を備え、
前記第1のスイッチが、電流または電圧の変換または変圧をまったく伴わずに、レジストジェット(102)の加熱素子(161)を形成する抵抗器に、前記第1の給電線(131)を接続することと、電流または電圧の変換または変圧をまったく伴わずに、前記静電スラスタ(101)の放出カソード(152)の加熱素子(153)を形成する抵抗器に、前記第1の給電線(131)を接続することと、の間で選択するように機能する、宇宙推進方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宇宙推進分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この分野では、特に、宇宙船の姿勢と軌道とを制御するため、電気スラスタが、ますます一般的になってきている。具体的には、利用可能な様々な種類の電気スラスタが、従来の化学または低温ガススラスタの比推力より一般的に大きな比推力を提供し、その結果、同じ動作に対する推進剤流体の消費を低減し、それにより宇宙船の寿命および/または有効搭載量を増やすことを可能にする。
【0003】
様々な種類の電気スラスタの中で、推進ノズル内で膨張する前に推進剤流体が電気的に加熱されるいわゆる熱電スラスタと、推進剤流体が電離されて電界により直接加速されるいわゆる静電スラスタとの2つのカテゴリが特によく知られている。熱電スラスタの中で、特に、ジュール効果により加熱された少なくとも1つの抵抗器により熱が推進剤流体に伝達される「レジストジェット」と呼ばれるものがある。さらに、静電スラスタの中で、特に、いわゆる「ホール効果」スラスタがある。閉電子ドリフトプラズマエンジンまたは静電プラズマエンジンとも呼ばれるこれらのスラスタにおいて、放出カソードにより放出された電子は、放電チャンネルの環状部の周囲と中心とに配置されたコイルにより生成された磁場により捕捉されることにより、放電チャンネルの終端に疑似カソードグリッドを形成する。放電チャンネルの終端内に推進剤流体(典型的には、気体状態のキセノン)が注入され、放電チャンネルの終端に配置されたアノードに向けて疑似カソードグリッドから脱出した電子は、推進剤流体の分子に衝突することにより、推進剤流体を電離させ、その結果、推進剤流体が、放出カソードにより放出された他の電子により中和される前に、グリッドとカソードとの間に存在する電界により疑似カソードグリッドに向けて加速される。典型的には、電子がカソードから放出されることを確実なものとするため、カソードが、電気的に加熱される。
【0004】
さらに、ホール効果スラスタは、同様の放出カソードを含む唯一のスラスタというわけではない。類似のカソードを含む他の例示的な静電スラスタは、例えば、H.−P.Harmann、N.Koch、およびG.Kornfeld、「Low complexity and low cost electric propulsion system for telecom satellites based on HEMP thruster assembly」、IEPC−2007−114、30th International Electric Propulsion Conference、Florence、Italy、2007年9月17日から20日により説明される高効率多段プラズマスラスタ(HEMP:high efficiency multistage plasma)である。このHEMPスラスタにおいて、電離された推進剤流体は、アノードと複数の永久磁石の磁場に捕獲された電子により形成された複数の疑似カソードグリッドとの間に形成された電界により加速される。全体的に、すべての静電スラスタが、スラスタより下流の推進剤流体を少なくとも中和するための放出カソードを含む。
【0005】
静電スラスタは、熱電スラスタを含む他の種類のスラスタと比べて特に大きな比推力を得ることを可能にする。対照的に、それらの推力は、非常に小さい。したがって、宇宙推進システムは、例えば、軌道を維持すること、またはリアクションホイールを不飽和化することなどの遅い動作のための静電スラスタと、より大きな推力を必要とする動作のための他の種類のスラスタとを組み合わせることが提案されてきた。したがって、M.De Tata、P.−E.Frigot、S.Beekmans、H.Lubberstedt、D.Birreck、A.Demaire、およびP.Rathsman、「SGEO development status and opportunities for the EP−based small European telecommunications platform」、IEPC−2011−203、32nd International Electric Propulsion Conference、Wiesbaden、Germany、2011年9月11日から15日と、S.Naclerio、J.Soto Salvador、E.Such、R.Avenzuela、およびR.Perez Vara、「Small GEO xenon propellant supply assembly pressure regulator panel:test results and comparison with ECOSIMPRO predictions」、SP2012−2355255、3rd International Conference on Space Propulsion、Bordeaux、2012年5月7日から10日とは、静電スラスタと、共通の推進剤流体供給回路により供給される低温ガススラスタとの両方を含む小さな静止衛星用の宇宙推進システムを説明する。しかし、低温ガススラスタの比推力は非常に限定されるので、低温ガススラスタは、高推力動作に多量の推進剤流体を消費し、加えて、このシステムでは、様々な種類のスラスタの間で資源の共有がほとんどないので、システムがいくぶん複雑である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】H.−P.Harmann、N.Koch、およびG.Kornfeld、「Low complexity and low cost electric propulsion system for telecom satellites based on HEMP thruster assembly」、IEPC−2007−114、30th International Electric Propulsion Conference、Florence、Italy、2007年9月17日から20日
【非特許文献2】M.De Tata、P.−E.Frigot、S.Beekmans、H.Lubberstedt、D.Birreck、A.Demaire、およびP.Rathsman、「SGEO development status and opportunities for the EP−based small European telecommunications platform」、IEPC−2011−203、32nd International Electric Propulsion Conference、Wiesbaden、Germany、2011年9月11日から15日
【非特許文献3】S.Naclerio、J.Soto Salvador、E.Such、R.Avenzuela、およびR.Perez Vara、「Small GEO xenon propellant supply assembly pressure regulator panel:test results and comparison with ECOSIMPRO predictions」、SP2012−2355255、3rd International Conference on Space Propulsion、Bordeaux、2012年5月7日から10日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の欠点を改善することを目的とする。特に、本開示は、少なくとも大きな比推力と小さな推力とを伴う第1の推進モードと、第1の推進モードより大きな推力を伴うがより小さな比推力を伴い、それにもかかわらず、低温ガススラスタにより供給され得る比推力より大きな比推力を伴う第2の推進モードとを提供することを可能にし、そうするために、比較的単純な電源回路を含む宇宙推進システムを提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
少なくとも1つの実施形態において、この目的は、推進システムが、少なくとも1つの第1の電気負荷を含む静電スラスタと、レジストジェットと、推進剤流体供給回路と、少なくとも1つの第1の給電線、および前記第1の給電線をレジストジェットに接続することと前記第1の給電線を静電スラスタの前記第1の電気負荷に接続することとの間で選択するための第1のスイッチ、を含む電源回路と、を備えることにより達成される。レジストジェットの使用は、低温ガススラスタの比推力より大きな比推力を得ることを可能にしながら、静電スラスタとレジストジェットとの両方に推進剤流体を供給するための少なくともいくつかの推進剤流体供給回路を共有することを継続する。同時に、第1のスイッチは、静電スラスタの第1の電気負荷に給電するために代替的に使用され得る同じ給電線から電気的にレジストジェットに給電することを可能にし、それにより電源回路を簡略化する。
【0009】
特に、静電スラスタの前記第1の電気負荷は、前記静電スラスタの放出カソードを加熱するための加熱素子を備え得る。この放出カソードの加熱素子とレジストジェットの加熱素子とは、抵抗器により構成され得、前記第1のスイッチは、電流または電圧の変換または変圧をまったく伴わずに、レジストジェットの加熱素子を形成する抵抗器に、前記第1の給電線を接続することと、電流または電圧の変換または変圧をまったく伴わずに、静電スラスタの放出カソードの加熱素子を形成する抵抗器に、前記第1の給電線を接続することと、の間で選択するように機能し得る。
【0010】
静電スラスタとレジストジェットとに供給される推進剤流体を制御するため、前記推進剤流体供給回路は、静電スラスタに供給するための少なくとも1つの弁と、レジストジェットに供給するための少なくとも1つの弁とを含む。特に、推進システムは、少なくとも1つの弁開口制御線と、静電スラスタに供給するための弁に前記弁開口制御線を接続すること、レジストジェットの少なくとも1つの供給弁に前記弁開口制御線を接続することと、の間で選択するための第2のスイッチとをさらに備え得る。したがって、選択された推進モードに応じて、静電スラスタとレジストジェットとのいずれかに対する推進剤流体の供給を制御するため、単一の弁開口制御線が交互に使用され得、それにより弁制御を簡略化する。
【0011】
典型的には、静電スラスタにおいて、電離された推進剤流体を加速するための電界を生成するため、カソードとアノードとの間に特に高い電圧が印加されることが必要である。この電圧は、通常、放出カソードを加熱するための電源電圧より、あるいは、太陽電池パネル、電池、燃料セル、または熱電発電機などの、宇宙船に搭載された電源により供給される電圧より著しく大きい。同様にこの高電圧を提供するため、前記電源回路は、第1の電気負荷よりかなり高い電圧で、静電スラスタの少なくとも1つの他の電気負荷に給電することに適した少なくとも1つの電力処理装置をさらに含み得る。第1の給電線は、少なくとも部分的に電力処理装置に一体化され得るが、代替的に、電力処理装置をバイパスし得、宇宙船の配電網の配電母線に、または内蔵(on−board)電源に直接接続され得る。
【0012】
電源回路は、少なくとも前記第1のスイッチが一体化された、少なくとも1つのスラスタ選択装置を備え得る。したがって、1つのスラスタまたは他のスラスタを選択するために複数の接続が同時にスイッチングされることが必要な場合、対応するすべてのスイッチが、このスラスタ選択装置に任意選択的に組み込まれ得、同じ制御信号により制御され得る。
【0013】
前記静電スラスタは、特に、ホール効果スラスタであり得る。特に、ホール効果スラスタは、宇宙推進におけるそれらの信頼性について既に十分に実証されている。とはいえ、他の種類の静電スラスタと、特にHEMPスラスタとがさらに想定され得る。
【0014】
特に、複数の異なる軸に沿った推力を提供するため、宇宙推進システムは、複数の静電スラスタを含み得る。この状況において、推進剤ガスを組立体に供給することを簡略化するため、推進剤流体供給回路は、複数の前記静電スラスタに共通の少なくとも1つの調圧器装置を含み得る。とはいえ、前記複数の静電スラスタに共通の少なくとも1つの調圧器装置に加えて、または代替的に、前記推進剤流体供給回路は、少なくとも1つの前記静電スラスタのための個別の調圧器装置を含み得る。
【0015】
本開示は、さらに、この宇宙推進システムを含む姿勢および/または軌道制御システムと、この宇宙推進システムを含む、例えば、衛星または探査機などの宇宙船と、さらに、静電スラスタとレジストジェットとの間でスイッチングするステップを含む宇宙推進方法とに関し、レジストジェットがアクティブ化される第1の推進モード、または、静電スラスタがアクティブ化される第2の推進モードを選択するために、第1のスイッチが、レジストジェットに、または静電スラスタの低電圧の第1の電気負荷に、第1の給電線を接続するために使用される。
【0016】
非限定的な例として提示される実施形態に関する以下の詳細な説明を読むことで、本発明がよく理解され得、その利点がより明確にわかる。説明は、次の添付図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】いずれかの実施形態による宇宙推進システムを含む姿勢および軌道制御システムを取り付けられた宇宙船の概略図である。
図2A】静電スラスタを選択する位置にスイッチがある、第1の実施形態における宇宙推進システムを示す詳細図である。
図2B】同じスイッチがレジストジェットを選択する位置にある、図2Bシステムを示す詳細図である。
図3】第2の実施形態における宇宙推進システムを示す詳細図である。
図4】第3の実施形態における宇宙推進システムを示す詳細図である。
図5】第4の実施形態における宇宙推進システムを示す詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、宇宙船10、より具体的には、その宇宙船が軌道に乗っている天体に対する宇宙船の軌道と姿勢とを維持するための姿勢および軌道制御システムが取り付けられた衛星を示す。この目的において、姿勢および軌道制御システムは、宇宙船の実際の姿勢と軌道とを検出するための少なくとも1つのセンサ11と、センサ11に接続されて、所望の姿勢と軌道とに加えて、少なくとも1つのセンサ11により検出された実際の姿勢と軌道とから所望の姿勢と軌道とに達するため実行される必要がある動作を決定するように機能する制御装置12だけでなく、さらに前記制御装置12に接続されて、動作を実行するため宇宙船10に力とトルクとを加えることができる動作手段を含む。示される例において、動作手段は、特に、宇宙推進システム100を含むが、この宇宙推進システム100に加えて、慣性装置などの他の動作手段、例えば、リアクションホイール、または太陽放射の圧力を使用した装置が想定され得る。
【0019】
さらに、宇宙船10は、示される例における太陽電池パネルの形態の電源13をさらに含むが、これらの太陽電池パネルに加えて、またはこれらの太陽電池パネルの代わりに、電池、燃料セル、または熱電発電機などの他の電源が、同様に十分想定され得る。この電源13は、主電源バス14により宇宙船内の様々な電気負荷に接続される。
【0020】
加えて、宇宙船10は、例えば、キセノンなどの推進剤流体の少なくとも1つのタンク15をさらに含む。
【0021】
図2A図2Bとは、第1の実施形態における宇宙推進システム100を示す。宇宙推進システム100は、静電スラスタ101とレジストジェット102とを含む。加えて、宇宙推進システム100は、電力と推進剤流体とをそれぞれ、両方のスラスタに供給するため、共に両方のスラスタに接続された電源回路103と推進剤流体供給回路104とをさらに含む。電源回路103は、バス14を介して宇宙船10の電源13に接続される。推進剤流体供給回路104は、タンク15に接続される。
【0022】
静電スラスタ101、より具体的にはホール効果スラスタは、環状部のチャンネル150であって、チャンネル150の上流端部において閉じており、チャンネル150の下流端部において開いているチャンネル150と、チャンネル150の上流端部に配置されたアノード151と、チャンネル150の下流端部より下流に配置されて、少なくとも1つの加熱素子153が取り付けられた放出カソード152と、チャンネル150の半径方向内側と外側とに配置された電磁石154とチャンネル150の上流端部に配置された推進剤流体噴射装置155とを含む。
【0023】
レジストジェット102は、より単純であり、主に、少なくとも1つの推進剤流体噴射装置160と加熱素子161とノズル162とを含む。
【0024】
図2A図2Bとからさらにわかるように、推進剤流体供給回路104は、推進剤流体を静電スラスタ101に供給するためのライン105であって、静電スラスタ101の噴射装置155に接続された、ライン105と、推進剤流体をレジストジェット102に供給するためのライン106であって、レジストジェット102の噴射装置162に接続された、ライン106とを備える。ライン105は、圧力を調節するためライン105に設置された調節器107であって、調節器107において静電スラスタ101が推進剤ガスを供給される、調節器107を含み、ライン106は、レジストジェット102への供給圧を調節するためライン106に設置された調節器108を含む。したがって、これらの調圧器107と108とは、タンク15内の圧力が大幅に変化する場合でも、両方のスラスタに対して実質的に一定の供給圧を確実にするように機能する。示される実施形態は、異なる供給圧を得るため2つの異なる調圧器を含むが、両方のスラスタに同じ圧力を供給するため1つの共通した調圧器を使用することを想定することも可能であり得る。
【0025】
調圧器107より下流だが、静電スラスタ101内に推進剤流体を注入するための噴射装置155より上流において、推進剤ガスを静電スラスタ101に供給するため、ライン105に流量調節器109も設置される。流量調節器109は、それぞれ、静電スラスタ101への推進剤ガスの供給を制御するため、および、推進剤ガスの流量を調節するため、直列接続された開閉弁110と熱スロットル111とを含む。さらに、推進剤流体供給回路104は、さらに、カソード152から電子を放出することを促進することと、さらには、カソード152を冷却することとを目的として、非常に小流量のガスを中空カソードであるカソード152に搬送するため、流量調節器109より下流でライン105をカソード152に接続する分岐接続171を含む。この分岐接続171における狭さく部172は、噴射装置155を通して注入される流量と比べて、カソードに供給される推進剤ガスの流量を制限する。
【0026】
推進剤流体供給回路104は、推進剤ガスをレジストジェット102に供給するための弁112をさらに含み、示される実施形態では、この弁112は、噴射装置160より上流においてレジストジェット102内に直接組み込まれるが、調圧器108とレジストジェット102との間においてライン106に設置されることも同様に十分に得る。
【0027】
電源回路103は、スラスタ選択装置(TSU:thruster selection unit)114を含む電力処理装置(PPU:power processing unit)113を備える。示される実施形態における選択装置114は、処理装置113内に一体化されるが、処理装置113の外に配置することを想定することもできる。この状況において、これは、外部スラスタ選択装置(ETSU:external thruster selection unit)と呼ばれ得る。
【0028】
電力処理装置113は、リミッタ115と、インバーター116と、制御インターフェース117と、シーケンサー118と、直流電圧変換器119とをさらに含む。
【0029】
さらに、電力処理装置113は、加熱素子に供給される電流Iを調節するための調節器120と、電圧VとVと、アノード151とカソード152とに供給される電流Iとを調節するための調節器121と、電磁石に供給される電流Iを調節するための調節器122と、電気的な点火パルスを調節するための調節器123と、弁制御のための調節器124と、熱スロットルの制御電流ITTを制御するための調節器125とをさらに含む。それらの電源に関して、これらの調節器120から125は、すべて、インバーター116を介して処理装置113の第1の電源入力126に接続される。制御インターフェース117とシーケンサー118とは、それら自身の電源のため変換器119を介して処理装置113の第2の電源入力127に接続され、制御入力128を介して姿勢および軌道制御システムの制御装置12に接続される。それらは、それらの動作を制御するため調節器120から125にも接続される。
【0030】
選択装置114は、各々が対応する電源または制御線を介して調節器120から125からの出力の1つに接続された、一組のスイッチを含む。したがって、調節器120は、第1の給電線131によりスイッチ114−1に接続され、調節器121は、第2の給電線132+と第3の給電線132−とにより二極スイッチ114−2に接続され、調節器122は、第4の給電線133によりスイッチ114−3に接続され、調節器123は、第5の給電線134によりスイッチ114−4に接続され、調節器124は、弁の開口を制御するため配線135によりスイッチ114−5に接続され、調節器125は、熱スロットル制御線136によりスイッチ114−6に接続される。各スイッチは、少なくとも1つの第1の接点Aと少なくとも1つの第2の接点Bとの間でスイッチングし得、選択装置114は、すべてのスイッチを同時にスイッチングさせることができるように制御装置12に接続される。
【0031】
示される実施形態では、第1のグループにおけるスイッチ114−1から114−4の各接点Aは、静電スラスタ101の電気負荷に接続される。したがって、スイッチ114−1の接点Aは、放出電極152の加熱素子153に接続され、スイッチ114−3から114−4の接点Aは、それぞれ、静電スラスタ101の電磁石154と点火手段(図示せず)とに接続される。示される実施形態では、これらの電気負荷の各々がグランドに接続されるので、1つのスイッチと1つの行き給電線とが、それらの各々に給電するように機能する。とはいえ、これらの電気スイッチの各々を絶縁することを想定することと、戻り線と、それらをオンまたはオフにスイッチングするため行き線だけでなく戻り線にも接続された二極スイッチを使用することにより接地することを避けることとができる。したがって、示される実施形態では、二極スイッチ114−2の接点Aの1つは、フィルタ装置170を介してカソード152に接続され、スイッチ114−2により負極性の給電線132−に接続され得、二極スイッチ114−2の他方の接点Aは、同じフィルタ装置170を介してアノード151に接続され、スイッチ114−2により正極性の給電線132+に接続され得る。加えて、第2のグループのスイッチ114−5と114−6との各接点Aは、推進剤流体を静電スラスタ101に供給するためのライン105の流量調節器109に接続される。特に、スイッチ114−5の接点Aは、弁110に接続され、スイッチ114−6の接点Aは、熱スロットル111に接続される。
【0032】
さらに、示される実施形態では、スイッチ114−1の接点Bとスイッチ114−5の接点Bとは、それぞれ、レジストジェット102の加熱素子161と弁112とに接続される。
【0033】
したがって、動作時、電力処理装置113は、給電し得、スラスタ選択装置114を介して実行された選択に応じて、静電スラスタ101とレジストジェット102とのいずれかに推進剤流体が供給されるようにし得る。この方法で、図2Aに示すように、スイッチ114−1から114−6が、給電線131と132+と132−と133と134とを静電スラスタ101に接続し、制御線135と136とを流量調節器109に接続すると、静電スラスタ101がアクティブ化されて、電力処理装置113を介して宇宙船10の制御装置12により制御され得る。特に、制御装置12から来る信号は、制御インターフェース117とシーケンサー118とを介して調節器120から125に伝達され、この状況において、まず、調節器120から123を介して静電スラスタ101の様々な電気負荷に給電するように機能し、次に、調節器124と125とを介して、流量調節器109を介して推進剤流体を静電スラスタ101に供給するように機能する。
【0034】
対照的に、図2Bに示すように、スイッチ114−1から114−6がそれらの接点Bにスイッチングすると、第1の給電線131が、レジストジェット102の加熱素子161に接続され、弁の開口を制御するための配線135が、レジストジェット102の弁112に接続される。この方法で、制御装置12から来て、制御インターフェース117とシーケンサー118とを介して調節器120と124とに伝達される信号は、その後、まず、調節器120を介してレジストジェット102の加熱素子161に対する電源を制御するように機能し、次に、調節器124を介して、弁112を介してレジストジェット102に対する推進剤流体の供給を制御するように機能する。
【0035】
したがって、この第1の実施形態における宇宙推進システム100は、選択装置114を介して静電スラスタ101を選択することにより、大きな比推力を伴うが小さな推力を伴う第1の推進モードで動作し得るか、そうでなければ、選択装置114を介してレジストジェット102を選択することにより、より小さな比推力を伴う第2の推進モードで動作し得る。
【0036】
この第1の実施形態における静電スラスタ101への流体供給は、調圧器と、弁と熱スロットルとを含む流量調節器とを介して行われるが、他の実施形態において、流体は、直列に配置された2つの開閉弁を含む、一体化された圧力と流量との調節のための装置を介して静電スラスタに供給され得る。推進剤流体供給回路、特に、2つの開閉弁の間のインピーダンスが理由となり、2つの開閉弁へのパルスの印加を制御することにより静電スラスタに供給される推進剤流体の圧力と流量との両方を調節することが可能である。レジストジェットに供給される推進剤流体の圧力は、同じ方法で、同様に制御される。
【0037】
したがって、図3に示すように、第2の実施形態において、第1の実施形態における推進システムの第1のガス状流体供給ラインにおける圧力および流量調節器は、推進剤ガスを静電スラスタ101に供給するためのライン105上で直列接続された2つの開閉弁110’と111’とを含む単一の圧力および流量調節器109’により置換され得る。この第2の実施形態において、レジストジェットの弁と対応する調圧器とは、推進剤流体をレジストジェット102に供給するためのライン106上で直列接続された2つの開閉弁112’aと112’bとをやはり含む単一の圧力および流量調節器112’により同様に置換される。電力処理装置113において、第1の実施形態の熱スロットルの制御電流ITTを調節する調節器は、弁の開口を制御するための第2の調節器125’により置換される。この第2の実施形態におけるシステムの他の素子は、第1の実施形態の素子に類似するので、図3において図2A図2Bと同じ参照符号が振られる。
【0038】
したがって、この第2の実施形態における宇宙推進システム100の動作中、スラスタ選択装置114とそのスイッチ114−1から114−6とにより静電スラスタ101が選択されたとき、制御装置12から来て、制御インターフェース117とシーケンサー118とを介して調節器124と125とに伝達される信号は、静電スラスタ101への推進剤流体の供給を調節するため、調節器109’の弁110’と111’とを制御する。さらに、スラスタ選択装置114とそのスイッチ114−1から114−6とによりレジストジェット102が選択されたとき、同じ信号が、レジストジェット102への推進剤流体の供給を調節するため、調節器112’の弁112’aと112’bとを制御し得る。または、この第2の実施形態における宇宙推進システム100の動作は、特に、静電スラスタ101とレジストジェット102とに対する電源の調節と、2つの異なる推進モードの選択とに関して、第1の実施形態の動作に類似する。
【0039】
2つの上記実施形態において、レジストジェットの加熱素子の電源と静電スラスタの放出カソードの電源とは、それぞれ、電力処理装置を通り、特に、インバーターの1つを通るが、これらの素子に給電するときに電力処理装置をバイパスすることを想定することも考えられ得る。これらの2つのスラスタの加熱素子における動作電圧は、主電源バスの動作電圧に近いか、または等しい値であり得るので、加熱素子がバスから直接給電されることを可能にする。したがって、図4に示される第3の実施形態において、第1の給電線131は、主電源バス14と宇宙船10の制御装置12とに直接接続されたスイッチ120”から来る。示される実施形態におけるスイッチ120”は、電力処理装置113とは離れて独立しているが、スイッチ120”を電力処理装置113内に一体化することを想定することもできる。さらに、示される実施形態では、スラスタ選択装置114も電力処理装置113の外部にあるが、それらを一体化することを想定することも可能である。それにもかかわらず、この第3の実施形態におけるシステムの他の素子は、第1の実施形態の素子に類似するので、図4において図2A図2Bと同じ参照符号が振られる。
【0040】
この方法で、この第3の実施形態における宇宙推進システム100の動作中、スラスタ選択装置114とそのスイッチ114−1から114−6とにより静電スラスタ101が選択されるとき、制御装置12によりスイッチ120”に送信された信号は、静電スラスタ101の放出カソード152の加熱素子153の動作を調節するため第1の給電線131における電流パルスを制御し得る。さらに、スラスタ選択装置114とそのスイッチ114−1から114−6とによりレジストジェット102が選択されるとき、同じパルスが、レジストジェット102の加熱素子161の動作を調節し得る。そうでない場合、この第3の実施形態における宇宙推進システム100の動作は、特に、静電スラスタ101とレジストジェット102とに対する宇宙推進システム流体の供給を調節することと、2つの異なる推進モードを選択することとに関して、第1の実施形態の動作に類似する。
【0041】
しかし3つの上記の実施形態における宇宙推進システムは、1つのみの静電スラスタと1つのみのレジストジェットとを含むが、同じ原理が、複数の静電スラスタとレジストジェットとを含むシステムに同様に適用可能である。したがって、図5に示す第4の実施形態において、宇宙推進システム100は、例えば、スラスタペアとして構成された、2つの静電スラスタ101と2つのレジストジェット102とを含み、各ペアは、1つの静電スラスタ101と1つのレジストジェット102により形成され、ペアの1つにおけるスラスタが、他のペアにおけるスラスタとは逆方向を向く。2つの静電スラスタ101が、圧力を調節するための1つの調節器107に接続され、調節器107において、対応する推進剤流体供給ライン105により静電スラスタ101に推進剤ガスが供給される一方で、2つのレジストジェット102が、同様に、圧力を調節するための1つの調節器108に接続され、調節器108において、他の推進剤流体供給ライン106によりレジストジェット102に推進剤ガスが供給される。対照的に、独立した流量調節器109が、静電スラスタ101の各々への推進剤流体の低流量での供給を別々に調節するため、静電スラスタ101の推進剤流体供給ライン105の各々に設置される。推進剤流体供給回路104は、各レジストジェット102用の推進剤ガス供給弁112をさらに含む。
【0042】
さらに、この宇宙推進システム100は、電力処理装置113に一体化されたスラスタ選択装置114に加えて2つの外部スラスタ選択装置114’と114”とをさらに含む。3つのスラスタ選択装置114と114’と114”とは、それらのそれぞれのスイッチ114−1から114−6と、114’−1から114’−6と、114”−1から114”−6とを制御するため、宇宙船10の制御装置12に接続される。スラスタ選択装置114の接点Aは、第1の外部選択装置114’を介して、スラスタのペアのうちの第1のペアの静電スラスタ101またはレジストジェット102に接続される一方で、スラスタ選択装置114の接点Bは、第2の外部選択装置114’を介して、スラスタのペアのうちの第2のペアの静電スラスタ101またはレジストジェット102に接続される。この第4の実施形態におけるシステムの他の素子は、第1の実施形態の素子に類似するので、それらは、図5において図2A図2Bと同じ参照符号が振られる。
【0043】
したがって、動作時、電力処理装置113は、給電し得、推進選択装置114により実行された選択に応じて、第1のペアのスラスタと第2のペアのスラスタとのいずれかに対する推進剤流体の供給を制御し得る。選択装置114により第1のペアのスラスタが選択される場合、この第1のペアの静電スラスタ101とレジストジェット102との間の選択は、上記の実施形態においてスラスタを選択することと類似した方法で、第1の外部選択装置114’により実行され得る。同様に、選択装置114により第2のペアのスラスタが選択された場合、この第2のペアの静電スラスタ101とレジストジェット102との間で選択することは、上記の実施形態においてスラスタを選択することと類似した方法で、第2の外部選択装置114”により実行され得る。したがって、3つの選択装置114と114’と114”におけるスイッチにより、2つの推進方向の間と、各方向における2つの推進モードの間で選択することが可能である。または、この第4の実施形態における宇宙推進システム100の動作は、特に、スラスタへの推進剤流体と電力との供給を調節することについて第1の実施形態のものに類似する。
【0044】
特定の実施形態を参照しながら本発明が説明されているが、請求項により定義される本発明の全体的な範囲を越えずに、これらの実施形態に様々な変形と変更とが行われ得ることが明らかである。加えて、言及された様々な実施形態の個々の特徴は、別の実施形態に組み合わされ得る。特に、第2および/または第3の実施形態に特有な特徴は、第4の実施形態の場合と同様に、複数のスラスタ選択装置と各種類のスラスタとを含むシステムにも同様に十分に構成され得る。さらに、第4の実施形態のシステムは、2ペアのみの、異なる種類のスラスタを含むが、その中に、より多数のペアを組み込むことを想定することもできる。したがって、説明と図面とは、限定するものではなく例示として考慮されなければならない。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5