【文献】
Clinical Updates on ALN-TTR Programs Patisiran(ALN-TTR02) and ALN-TTRsc for the Treatment of Transthyretin Amyloidosis,International Symposium on Familial Amyloidotic Polyneuropathy,2013年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
TTR関連障害を有するヒト対象のニューロパチー障害スコア(NIS)又は改定NIS(mNIS+7)を低下させる又はその増加を抑制するための医薬組成物であって、有効量のトランスサイレチン(TTR)阻害組成物を含み、前記有効量が治療6ヵ月後に9000〜18000の平均血清TTR AUCをもたらす、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に更に詳細に記載するとおり、本明細書には、有効量のトランスサイレチン(TTR)阻害組成物を投与することにより、この有効量によって血清中TTRタンパク質濃度が50μg/ml未満に低下するか、又は少なくとも80%低下するように、ヒト対象のニューロパチー障害スコア(NIS)又は改定NIS(mNIS+7)を低下させる又はその増加を抑制する方法が開示される。一実施形態において、TTR阻害組成物はパチシランである。パチシランは、静脈内(IV)投与用の肝指向性脂質ナノ粒子(LNP)として製剤化された、TTRに特異的な低分子干渉リボ核酸(siRNA)である。
【0013】
TTR阻害組成物
本明細書に記載される方法は、TTR阻害組成物の投与を含む。TTR阻害組成物は、ヒト対象の血清中のTTRタンパク質濃度を低下させる任意の化合物であってもよい。例としては、限定はされないが、RNAi、例えばsiRNAが挙げられる。siRNAの例としては、TTR遺伝子を標的化するsiRNA、例えば、以下のパチシリン(patisirin)(更に詳細に記載する)及びレブシラン(revusiran)が挙げられる。例としてはまた、アンチセンスRNAも挙げられる。TTR遺伝子を標的化するアンチセンスRNAの例については、米国特許第8,697,860号明細書を参照することができる。
【0014】
TTR阻害組成物はTTR遺伝子の発現を阻害する。本明細書で使用されるとき、「トランスサイレチン」(「TTR」)は細胞の遺伝子を指す。TTRは、ATTR、HsT2651、PALB、プレアルブミン、TBPA、及びトランスサイレチン(プレアルブミン、アミロイドーシスI型)としても知られる。ヒトTTR mRNA転写物の配列はNM_000371を参照することができる。マウスTTR mRNAの配列はNM_013697.2を参照することができ、及びラットTTR mRNAの配列はNM_012681.1を参照することができる。
【0015】
用語「サイレンス」「発現を阻害する」「の発現を下方調節する」「の発現を抑制する」などは、本明細書でそれらがTTR遺伝子を指す限り、TTR遺伝子の発現の少なくとも部分的な抑制を指し、この抑制は、第一の細胞又は細胞の群と実質的に同一であるが処理されていない第二の細胞又は細胞の群(対照細胞)と比較した、TTR遺伝子が転写され、TTR遺伝子の発現が阻害されるように処理された第一の細胞又は細胞の群から単離され得るmRNAの量の低下により明らかになる。阻害度は、通常、
【0017】
代替的に、阻害度は、TTR遺伝子発現に機能的に関連付けられるパラメータの低下、例えば、細胞により分泌される、TTR遺伝子によりコードされるタンパク質の量、又は所定の表現型、例えばアポトーシスを呈する細胞の数の低下で与えられ得る。原則として、TTR遺伝子サイレンシングは、構成的に又は遺伝子操作によって標的を発現している任意の細胞内で、任意の適切なアッセイによって決定され得る。しかしながら、所定のdsRNAが、TTR遺伝子の発現を所定の程度阻害し、従って本発明に包含されるか否かを決定するために参照が必要である場合、下記の実施例に提供するアッセイは、そのような参照の役割を果たすであろう。
【0018】
RNAi
一部の実施形態において、本明細書に記載される方法は、TTR遺伝子の発現を阻害するため、RNAi、例えばsiRNA、例えばdsRNAであるTTR阻害組成物を使用する。一実施形態において、siRNAは、TTR遺伝子を標的化するdsRNAである。dsRNAは、TTR遺伝子の発現で形成されるmRNAの少なくとも一部と相補的な相補性領域を有するアンチセンス鎖を含み、この相補性領域は30ヌクレオチド長未満、概して19〜24ヌクレオチド長である。本発明のdsRNAは、1つ以上の一本鎖ヌクレオチドオーバーハングを更に含み得る。TTR阻害siRNAは、国際特許出願第PCT/US2009/061381号明細書(国際公開第2010/048228号パンフレット)及び国際特許出願第PCT/US2010/055311号明細書(国際公開第2011/056883号パンフレット)(双方とも全体として参照により本明細書に援用される)に記載されている。
【0019】
一実施形態において、TTR阻害組成物は、以下に更に詳細に記載するパチシランである。別の実施形態において、TTR阻害組成物は、三価GalNAc糖質クラスター共役TTRに特異的なsiRNAであるレブシランである。レブシランについての包括的な説明は、国際出願第PCT/US2012/065691号明細書及び米国特許出願公開第20140315835号明細書(これらの内容は全体として参照により援用される)を参照することができる。
【0020】
dsRNAは、ハイブリダイズして二重鎖構造を形成するのに十分に相補的な2本のRNA鎖を含む。dsRNAの一方の鎖(アンチセンス鎖)は、TTR遺伝子の発現中に形成されたmRNAの配列に由来する、標的配列に実質的に相補的な、概して完全に相補的な相補性領域を含み、他方の鎖(センス鎖)は、アンチセンス鎖に相補的な領域を含むため、好適な条件下で組み合わせると、これらの2本の鎖はハイブリダイズして二重鎖構造を形成する。用語「アンチセンス鎖」は、標的配列に実質的に相補的な領域を含むdsRNAの鎖を指す。本明細書で使用されるとき、用語「相補性領域」は、ある配列、例えば本明細書に定義するとおりの標的配列に実質的に相補的なアンチセンス鎖上の領域を指す。相補性領域が標的配列に完全に相補的でない場合、ミスマッチは末端領域で最も許容され、存在する場合には概して1つ又は複数の末端領域、例えば5’及び/又は3’末端から6、5、4、3、又は2ヌクレオチドの範囲内にある。用語「センス鎖」は、本明細書で使用されるとき、アンチセンス鎖のある領域に実質的に相補的な領域を含むdsRNAの鎖を指す。概して、二重鎖構造は、15〜80、又は15〜60若しくは15〜30又は25〜30、又は18〜25、又は19〜24、又は19〜21、又は19、20、又は21塩基対長である。一実施形態において、二重鎖は19塩基対長である。別の実施形態において、二重鎖は21塩基対長である。
【0021】
dsRNAの各鎖は、一般に、15〜80、又は18〜60、又は15〜30、又は18〜25、又は18、19、20、21、22、23、24、又は25ヌクレオチド長である。別の実施形態では、鎖の各々は、25〜30ヌクレオチド長である。二本鎖の各鎖は、同一の長さ又は異なる長さを有してもよい。2つの異なるsiRNAが組み合わせで使用される場合、各siRNAの各鎖の長さは、同一でも又は異なっていてもよい。
【0022】
dsRNAは、1つ又は複数のヌクレオチドからなる1つ又は複数の一本鎖オーバーハングを含んでもよい。一実施形態において、dsRNAの少なくとも一方の末端は、1〜4、一般に、1又は2ヌクレオチドの一本鎖ヌクレオチドオーバーハングを含んでもよい。別の実施形態では、dsRNAのアンチセンス鎖は、センス鎖を超える3’末端及び5’末端において各々1〜10ヌクレオチドオーバーハングを有する。更なる実施形態において、dsRNAのセンス鎖は、アンチセンス鎖を超える3’末端及び5’末端において各々1〜10ヌクレオチドオーバーハングを有する。
【0023】
本明細書で使用されるとき、特に指示されない限り、用語「相補的」は、第一のヌクレオチド配列を第二のヌクレオチド配列と比べて記載するために使用するとき、当業者は理解するであろうとおり、第一のヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドが特定の条件下で第二のヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドとハイブリダイズして二重鎖構造を形成する能力を指す。かかる条件は、例えばストリンジェントな条件であってもよく、ここでストリンジェントな条件は、400mM NaCl、40mM PIPES pH6.4、1mM EDTA、50℃又は70℃で12〜16時間と、続く洗浄を含み得る。生物体内で直面し得るような生理学的に関連性のある条件など、他の条件を適用してもよい。当業者は、ハイブリダイズしたヌクレオチドの最終的な適用に従い2つの配列の相補性を調べるのに最適な一連の条件を決定することができるであろう。
【0024】
これには、第一のヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドと第二のヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドとの第一及び第二のヌクレオチド配列の全長にわたる塩基対合が含まれる。かかる配列は、本明細書において互いに「完全に相補的」と称され得る。しかしながら、本明細書において第一の配列が第二の配列に対して「実質的に相補的」と称される場合、これらの2つの配列は完全に相補的であることができ、又はそれらは、その最終的な適用に最も関連性のある条件下でハイブリダイズする能力は保持しつつ、ハイブリダイズしたときに1つ以上の、但し概して4、3、又は2つ以下のミスマッチ塩基対を形成し得る。しかしながら、2つのオリゴヌクレオチドがハイブリダイズしたときに1つ以上の一本鎖オーバーハングを形成するように設計される場合、相補性の決定に関してかかるオーバーハングはミスマッチと見なさないものとする。例えば、あるオリゴヌクレオチド21ヌクレオチド長と別のオリゴヌクレオチド23ヌクレオチド長とを含むdsRNA(ここでは長い方のオリゴヌクレオチドが、短い方のオリゴヌクレオチドと完全に相補的な21ヌクレオチドの配列を含む)は、本明細書の記載の目的上、なおも「完全に相補的」と称され得る。
【0025】
本明細書で使用されるとおりの「相補的」配列はまた、ハイブリダイズ能力に関する上記の要件が満たされる限りにおいて、非ワトソン・クリック塩基対及び/又は非天然修飾ヌクレオチドで形成される塩基対も含み、又は全てがそれらによって形成され得る。かかる非ワトソン・クリック塩基対は、限定はされないが、G:Uゆらぎ又はフーグスティン塩基対合を含む。
【0026】
用語「相補的」、「完全に相補的」及び「実質的に相補的」は、本明細書において、それらが用いられる文脈から理解されるであろうとおり、dsRNAのセンス鎖とアンチセンス鎖との間、又はdsRNAのアンチセンス鎖と標的配列との間で一致する塩基に関して用いられ得る。
【0027】
本明細書で使用されるとき、メッセンジャーRNA(mRNA)「の少なくとも一部と実質的に相補的な」ポリヌクレオチドは、5’UTR、オープンリーディングフレーム(ORF)、又は3’UTRを含む目的のmRNA(例えば、TTRをコードするmRNA)の連続部分と実質的に相補的なポリヌクレオチドを指す。例えば、ポリヌクレオチドは、TTRをコードするmRNAの分断されていない部分に対してその配列が実質的に相補的である場合、TTR mRNAの少なくとも一部と相補的である。
【0028】
dsRNAは、例えばBiosearch、Applied Biosystems,Inc.から市販されているような自動DNA合成機を例えば使用することにより、以下で更に考察するとおりの当該技術分野において公知の標準方法によって合成することができる。
【0029】
修飾dsRNA
一部の実施形態において、本明細書に記載される方法に用いられるdsRNAは、安定性を増強するため化学修飾される。本発明を特徴付ける核酸は、参照により本明細書に組み込まれる「Current protocols in nucleic acid chemistry,」Beaucage,S.L.et al.(Eds.),John Wiley&Sons,Inc.,New York,NY,USAに記載されているような、当技術分野にてよく確立された方法により合成及び/又は修飾することができる。本発明に有用なdsRNA化合物の特定の例は、修飾バックボーンを含む又は天然ヌクレオシド間結合を有さないRNAを含む。本明細書に定義されるように、修飾バックボーンを有するdsRNAは、バックボーン内にリン原子を保持するものと、バックボーン内にリン原子を有さないものとを含む。本明細書の目的において、及び、当技術分野にて時折言及されるように、それらのヌクレオシド間バックボーン内にリン原子を有さない修飾dsRNAも、オリゴヌクレオシドであると見なされてもよい。
【0030】
修飾dsRNAバックボーンには、例えば、ホスホロチオエート、キラルホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホトリエステル、アミノアルキルホスホトリエステル、メチルホスホネート並びに3’−アルキレンホスホネート及びキラルホスホネートを含む他のアルキルホスホネート、ホスフィネート、3’−アミノホスホロアミデート及びアミノアルキルホスホロアミデートを含むホスホロアミデート、チオノホスホロアミデート、チオノアルキルホスホネート、チオノアルキルホスホトリエステル、及び通常の3’−5’結合を有するボラノホスフェート、これらの2’−5’結合類似体、及び、隣接するヌクレオシド単位の対が、3’−5’〜5’−3’又は2’−5’〜5’−2’に結合する、反転極性を有するもの)が挙げられる。様々な塩、混合塩、及び遊離酸形態も含まれる。
【0031】
上記のリン含有結合の調製を教示する代表的な米国特許には、非限定的に米国特許第3,687,808号明細書;米国特許第4,469,863号明細書;米国特許第4,476,301号明細書;米国特許第5,023,243号明細書;米国特許第5,177,195号明細書;米国特許第5,188,897号明細書;米国特許第5,264,423号明細書;米国特許第5,276,019号明細書;米国特許第5,278,302号明細書;米国特許第5,286,717号明細書;米国特許第5,321,131号明細書;米国特許第5,399,676号明細書;米国特許第5,405,939号明細書;米国特許第5,453,496号明細書;米国特許第5,455,233号明細書;米国特許第5,466,677号明細書;米国特許第5,476,925号明細書;米国特許第5,519,126号明細書;米国特許第5,536,821号明細書;米国特許第5,541,316号明細書;米国特許第5,550,111号明細書;米国特許第5,563,253号明細書;米国特許第5,571,799号明細書;米国特許第5,587,361号明細書;及び米国特許第5,625,050号明細書が挙げられ、これらの各々は参照により本明細書に組み込まれる。
【0032】
内部にリン原子を含まない修飾dsRNAバックボーンは、短鎖アルキル若しくはシクロアルキルヌクレオシド間結合、又は混合ヘテロ原子及びアルキル若しくはシクロアルキルヌクレオシド間結合、又は1つ又は複数の短鎖ヘテロ原子若しくはヘテロ環状ヌクレオシド間結合により形成されるバックボーンを有する。これらには、モルホリノ結合(一部がヌクレオシドの糖部分から形成された)を有するもの;シロキサンバックボーン;スルフィド、スルホキシド及びスルホンバックボーン;ホルムアセチル及びチオホルムアセチルバックボーン;メチレンホルムアセチル及びチオホルムアセチルバックボーン;アルケン含有バックボーン;スルファメートバックボーン;メチレンイミノ及びメチレンヒドラジノバックボーン;スルホネート及びスルホンアミドバックボーン;アミドバックボーン;並びに混合N、O、S及びCH
2構成要素部分を有するその他、が挙げられる。
【0033】
上記のオリゴヌクレオシドの調製を教示する代表的な米国特許第には、非限定的に米国特許第5,034,506号明細書;米国特許第5,166,315号明細書;米国特許第5,185,444号明細書;米国特許第5,214,134号明細書;米国特許第5,216,141号明細書;米国特許第5,235,033号明細書;米国特許第5,64,562号明細書;米国特許第5,264,564号明細書;米国特許第5,405,938号明細書;米国特許第5,434,257号明細書;米国特許第5,466,677号明細書;米国特許第5,470,967号明細書;米国特許第5,489,677号明細書;米国特許第5,541,307号明細書;米国特許第5,561,225号明細書;米国特許第5,596,086号明細書;米国特許第5,602,240号明細書;米国特許第5,608,046号明細書;米国特許第5,610,289号明細書;米国特許第5,618,704号明細書;米国特許第5,623,070号明細書;米国特許第5,663,312号明細書;米国特許第5,633,360号明細書;米国特許第5,677,437号明細書;及び米国特許第5,677,439号明細書が挙げられ、これらの各々は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0034】
他の好適なdsRNA模倣物において、ヌクレオチド単位の糖及びヌクレオシド間結合、即ちバックボーンの両方は、新規な基で置換される。塩基単位は、適切な核酸標的化合物とのハイブリダイゼーションのために維持される。卓越したハイブリダイゼーション特性を有することが示されている1つのそのようなオリゴマー化合物、dsRNA模倣物は、ペプチド核酸(PNA)と称される。PNA化合物において、dsRNAの糖バックボーンは、アミド含有バックボーン、特にアミノエチルグリシンバックボーンで置換されている。酸塩基は保持され、バックボーンのアミド部分のアザ窒素原子に直接又は間接的に結合している。PNA化合物の調製を教示する代表的な米国特許第には、非限定的に米国特許第5,539,082号明細書;米国特許第5,714,331号明細書;及び米国特許第5,719,262号明細書が挙げられ、これらの各々は、参照により本明細書に組み込まれる。PNA化合物の更なる教示は、Nielsen et al.,Science,1991,254,1497−1500に見出すことができる。
【0035】
本発明の別の実施形態は、ホスホロチオエートバックボーンを有するdsRNA、並びに上記に参照した米国特許第5,489,677号明細書のヘテロ原子バックボーン、特に−CH
2−NH−CH
2−、−CH
2−N(CH
3)−O−CH
2−[メチレン(メチルイミノ)又はMMIバックボーンとして既知]、−CH
2−O−N(CH
3)−CH
2−、−CH
2−N(CH
3)−N(CH
3)−CH
2−及び−N(CH
3)−CH
2−CH
2−[ここで天然のホスホジエステルバックボーンは、−O−P−O−CH
2−と表される]及び上記に参照した米国特許第5,602,240号明細書のアミドバックボーンを有するオリゴヌクレオシドである。上記に参照した米国特許第5,034,506号明細書のモルホリノバックボーン構造を有するdsRNAも好ましい。
【0036】
修飾dsRNAは、1つ又は複数の置換された糖部分も含み得る。好ましいdsRNAは、以下のうちの1つを2’位に含む:OH;F;O−、S−若しくはN−アルキル;O−、S−若しくはN−アルケニル;O−、S−若しくはN−アルキニル;又はO−アルキル−O−アルキル、ここでアルキル、アルケニル及びアルキニルは、置換又は非置換のC1〜C10アルキル又はC2〜C10アルケニル及びアルキニルであってもよい。O[(CH
2)
nO]
mCH
3、O(CH
2)
nOCH
3、O(CH
2)
nNH
2、O(CH
2)
nCH
3、O(CH
2)
nONH
2、及びO(CH
2)
nON[(CH
2)
nCH
3)]
2、(n及びmは、1〜約10である)が特に好ましい。他の好ましいdsRNAは、以下のうちの1つを2’位に含む:C1〜C10低級アルキル、置換された低級アルキル、アルカリール、アラルキル、O−アルカリール又はO−アラルキル、SH、SCH
3、OCN、Cl、Br、CN、CF
3、OCF
3、SOCH
3、SO
2CH
3、ONO
2、NO
2、N
3、NH
2、ヘテロシクロアルキル、ヘテロシクロアルカリール、アミノアルキルアミノ、ポリアルキルアミノ、置換されたシリル、RNA切断基、レポーター基、介入物(intercalator)、dsRNAの薬物動態特性を改善する基、又はdsRNAの薬力学的特性を改善する基、及び同様の特性を有する他の置換基。好ましい修飾には、2’−メトキシエトキシ(2’−O−CH
2CH
2OCH
3、2’−O−(2−メトキシエチル)又は2’−MOEとしても既知)(Martin et al.,Helv.Chim.Acta,1995,78,486−504)、即ち、アルコキシ−アルコキシ基が挙げられる。更なる好ましい修飾には、本明細書の下記の実施例に記載するような2’−ジメチルアミノオキシエトキシ、即ち、2’−DMAOEとしても既知のO(CH
2)
2ON(CH
3)
2基、及び、本明細書の下記の実施例に記載するような2’−ジメチルアミノエトキシエトキシ(2’−O−ジメチルアミノエトキシエチル又は2’−DMAEOEとしても既知)、即ち、2’−O−CH
2−O−CH
2−N(CH
2)
2が挙げられる。
【0037】
他の好ましい修飾には、2’−メトキシ(2’−OCH
3)、2’−アミノプロポキシ(2’−OCH
2CH
2CH
2NH
2)及び2’−フルオロ(2’−F)が挙げられる。またdsRNA上の他の位置、特に3’末端ヌクレオチド上の糖の3’位、又は2’−5’結合dsRNA内及び5’末端ヌクレオチドの5’位に、同様の変更を行うことができる。またDsRNAは、ペントフラノシル糖の代わりに、シクロブチル部分などの糖模倣物を有し得る。そのような修飾糖構造の調製を教示する代表的な米国特許には、非限定的に米国特許第4,981,957号明細書;米国特許第5,118,800号明細書;米国特許第5,319,080号明細書;米国特許第5,359,044号明細書;米国特許第5,393,878号明細書;米国特許第5,446,137号明細書;米国特許第5,466,786号明細書;米国特許第5,514,785号明細書;米国特許第5,519,134号明細書;米国特許第5,567,811号明細書;米国特許第5,576,427号明細書;米国特許第5,591,722号明細書;米国特許第5,597,909号明細書;米国特許第5,610,300号明細書;米国特許第5,627,053号明細書;米国特許第5,639,873号明細書;米国特許第5,646,265号明細書;米国特許第5,658,873号明細書;米国特許第5,670,633号明細書;及び米国特許第5,700,920号明細書が挙げられ、これらの所定のものは、所有者が本願と共通であり、またこれらの各々は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0038】
dsRNAは、核酸塩基(当技術分野にて多くの場合、単に「塩基」と称される)修飾又は置換も含み得る。本明細書で使用される「非修飾」又は「天然」核酸塩基は、プリン塩基アデニン(A)及びグアニン(G)、並びにピリミジン塩基チミン(T)、シトシン(C)及びウラシル(U)を含む。修飾核酸塩基は、5−メチルシトシン(5−me−C)、5−ヒドロキシメチルシトシン、キサンチン、ヒポキサンチン、2−アミノアデニン、アデニン及びグアニンの6−メチル及び他のアルキル誘導体、アデニン及びグアニンの2−プロピル及び他のアルキル誘導体、2−チオウラシル、2−チオチミン及び2−チオシトシン、5−ハロウラシル及びシトシン、5−プロピニルウラシル及びシトシン、6−アゾウラシル、シトシン及びチミン、5−ウラシル(シュードウラシル)、4−チオウラシル、8−ハロ、8−アミノ、8−チオール、8−チオアルキル、8−ヒドロキシ及び他の8−置換アデニン及びグアニン、5−ハロ、特に5−ブロモ、5−トリフルオロメチル及び他の5−置換ウラシル及びシトシン、7−メチルグアニン及び7−メチルアデニン、8−アザグアニン及び8−アザアデニン、7−デアザグアニン及び7−ダアザアデニン(daazaguanin)、並びに3−デアザグアニン及び3−デアザアデニンなどの他の合成及び天然核酸塩基を含む。更なる核酸塩基は、米国特許第3,687,808号明細書に開示されているもの、The Concise Encyclopedia Of Polymer Science And Engineering,pp.858−859,Kroschwitz,J.L,ed.John Wiley&Sons,1990に開示されているもの、Englisch et al.,Angewandte Chemie,International Edition,1991,30,613に開示されているもの、及びSanghvi,YS.,Chapter 15,DsRNA Research and Applications,pp.289−302,Crooke,S.T.and Lebleu,B.,Ed.,CRC Press,1993に開示されているものを含む。これらの核酸塩基の所定のものは、本発明を特徴付けるオリゴマー化合物の結合親和性の増大に特に有用である。それらは、2−アミノプロピルアデニン、5−プロピニルウラシル及び5−プロピニルシトシンを含む、5−置換ピリミジン、6−アザピリミジン並びにN−2、N−6及びO−6プリンを含む。5−メチルシトシン置換は、核酸二本鎖安定性を0.6〜1.2℃、増大させることが示されており(Sanghvi,Y.S.,Crooke,S.T.and Lebleu,B.,Eds.,DsRNA Research and Applications,CRC Press,Boca Raton,1993,pp.276−278)、更に特に2’−O−メトキシエチル糖修飾と組み合わされた際に、例示的な塩基置換である。
【0039】
上記した修飾核酸塩基及び他の修飾核酸塩基の所定の調製を教示する代表的な米国特許には、非限定的に米国特許第3,687,808号明細書、並びに米国特許第4,845,205号明細書;米国特許第5,130,30号明細書;5,134,066号明細書;米国特許第5,175,273号明細書;米国特許第5,367,066号明細書;米国特許第5,432,272号明細書;米国特許第5,457,187号明細書;米国特許第5,459,255号明細書;米国特許第5,484,908号明細書;米国特許第5,502,177号明細書;米国特許第5,525,711号明細書;米国特許第5,552,540号明細書;米国特許第5,587,469号明細書;米国特許第5,594,121号明細書,米国特許第5,596,091号明細書;米国特許第5,614,617号明細書;及び米国特許第5,681,941号明細書が挙げられ、これらの各々は、参照により本明細書に組み込まれ、また同様に参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,750,692号明細書が挙げられる。
【0040】
パチシラン
一実施形態において、TTR阻害組成物はパチシランである。パチシランは、静脈内(IV)投与用の肝指向性脂質ナノ粒子(LNP)として製剤化された、TTRに特異的な低分子干渉リボ核酸(siRNA)である(Akinc A,Zumbuehl A,et al.「RNAi療法薬の送達用の脂質様物質コンビナトリアルライブラリ(A combinatorial library of lipid−like materials for delivery of RNAi therapeutics)」.Nat Biotechnol.2008;26(5):561−569)。このTTR siRNAは、WT TTR並びに既報告のあらゆるTTR突然変異との相同性を確保して裏付けるため、TTR遺伝子の3’UTR領域内に標的領域を有する。LNPの媒介によって肝臓に送達された後、パチシランはTTR mRNAを分解の標的とし、それによりRNAi機構を介して突然変異体及びWT TTRタンパク質の強力且つ持続的な減少が生じる。
【0041】
TTR siRNA(ALN−18328としても知られる)は、以下の配列を含むセンス鎖とアンチセンス鎖とからなる;小文字は2’−O−メチル型のヌクレオチドを示す。
【表1】
【0042】
製造工程は、二重鎖の2つの一本鎖オリゴヌクレオチドを従来の固相オリゴヌクレオチド合成によって合成することからなる。精製後、2つのオリゴヌクレオチドをアニールして二重鎖にする。
【0043】
パチシラン薬物製剤は、等張性リン酸緩衝生理食塩水中のTTR siRNA ALN−18328と脂質賦形剤(DLin−MC3−DMA、DSPC、コレステロール、及びPEG
2000−C−DMG)との無菌配合物である。
【0044】
パチシランの配合を以下の表1に示す。
【表2】
【0045】
一部の実施形態において、パチシラン薬物製剤は、容器、例えばガラスバイアルに、1バイアルにつき以下の量で提供される。
【表3】
【0046】
注射用のパチシラン溶液は、2mg/mLのTTR siRNA薬物物質を含有する。パチシラン薬物製剤は、10mLガラスバイアルに5.5mLの充填容積で包装される。この容器密閉システムは、米国薬局方/欧州薬局方(USP/EP)タイプIホウケイ酸ガラスバイアルと、Teflon被覆ブチルゴム栓と、アルミニウムフリップオフキャップとからなる。
【0047】
四量体安定化剤
一部の実施形態において、本明細書に記載される方法は、四量体安定化剤を別のTTR阻害組成物と共投与することを含む。
【0048】
四量体安定化剤は、TTRタンパク質に結合してTTR四量体を安定化させる働きをする化合物である。TTR四量体を不安定化させる突然変異は、TTRのミスファイル及び凝集を引き起こす。
【0049】
四量体安定化剤の例としては、タファミジス及びジフルニサルが挙げられる。タファミジス及びジフルニサルは両方ともに、疾患の進行を減速させることができる(Berk et al.,「家族性アミロイドポリニューロパチーに対するジフルニサルの再目的化:無作為化臨床試験(Repurposing diflunisal for familial amyloid polyneuropathy:a randomized clinical trial)」.JAMA 2013,310:2658−2667;Coelho et al.,2012;Coelho et al.,「トランスサイレチン家族性アミロイドポリニューロパチーの治療に対するタファミジスの長期効果(Long−term effects of tafamidis for the treatment of transthyretin familial amyloid polyneuropathy)」.J Neurol 2013,260:2802−2814;Lozeron et al.,「Met30トランスサイレチン家族性アミロイドポリニューロパチーの遅発におけるタファミジスの能力低下及び安全性に対する効果(Effect on disability and safety of Tafamidis in late onset of Met30 transthyretin familial amyloid polyneuropathy)」.Eur J Neurol 2013,20:1539−1545)。
【0050】
対象及び診断
本明細書には、ヒト対象のニューロパチー障害スコア(NIS)又は改定NIS(mNIS+7)を低下させる又はその増加を抑制する方法が開示され、ここでヒト対象はTTR関連障害を有する。一部の実施形態において、TTR関連障害は、トランスサイレチン(TTR)遺伝子の突然変異によって引き起こされる疾患の一つである。ある実施形態では、この疾患はTTRアミロイドーシスであり、これは、家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)、トランスサイレチン媒介アミロイドーシス(ATTR)、及び症候性ポリニューロパチーなど、種々の形で現れる。末梢神経系がより顕著に冒される場合、この疾患はFAPと称される。病変が主に心臓にあり、神経系にない場合、この疾患は家族性アミロイド心筋症(FAC)と呼ばれる。主要なTTRアミロイドーシスの第3のタイプは、軟膜/CNS(中枢神経系)アミロイドーシスと呼ばれる。ATTRは自律神経系に発症する。
【0051】
一部の実施形態において、TTR関連障害を有するヒト対象は、突然変異体TTR遺伝子を有する。既報告のTTR突然変異は100を超え、様々な疾患症状を呈する。FAP及びATTR関連心筋症に関連する最も一般的な突然変異は、それぞれVal30Met及びVal122Ileである。TTR突然変異はタンパク質のミスフォールディングを引き起こしてTTRアミロイド形成の過程を加速させ、臨床的に有意なTTRアミロイドーシス(ATTR(アミロイドーシス−トランスサイレチン型)とも称される)の発生の最も重要なリスク要因である。85を超えるアミロイド形成性TTR変異体が、全身性家族性アミロイドーシスを引き起こすことが知られている。
【0052】
一部の実施形態において、ヒト対象は、生検によるATTRアミロイドーシスの確定診断が得られ且つ軽度から中等度のニューロパチーを有する成人(18歳以上)である場合、任意の形態のTTRアミロイドーシスに対する治療を受けるように選択される。更なる実施形態において、ヒト対象はまた、以下の1つ以上も有する:カルノフスキー・パフォーマンス・ステータス(KPS)≧60%;ボディ・マス・インデックス(BMI)17〜33kg/m
2;十分な肝腎機能(アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)及びアラニントランスアミナーゼ(ALT)≦2.5×正常範囲上限(ULN)、正常範囲内の総ビリルビン、アルブミン>3g/dL、及び国際標準化比(INR)≦1.2;血清クレアチニン≦1.5ULN);及びB型肝炎ウイルス及びC型肝炎ウイルス血清反応陰性。
【0053】
別の実施形態において、ヒト対象は、肝移植を受けた;治療中に計画された手術を受けた;HIV陽性である;30日以内にタファミジス又はジフルニサル以外の治験薬の投与を受けていた;ニューヨーク心臓協会(New York Heart Association)の心不全分類>2を有した;妊娠中又は授乳中である;全身性細菌、ウイルス、寄生虫、又は真菌感染が判明していたか又はそれが疑われた;不安定狭心症、制御されない臨床的に有意な心不整脈を有した;又は過去にリポソーム製剤に対して重度の反応を起こしたことがあったか、又はオリゴヌクレオチドに対する過敏症が判明していた場合、治療から除外される。
【0054】
ニューロパチー障害スコア(NIS)
本明細書に開示される方法は、トランスサイレチン(TTR)阻害組成物の投与によってヒト対象のニューロパチー障害スコア(NIS)を低下させ又はその増加を抑制する。NISは、特に末梢性ニューロパチーに関して、筋力低下、感覚、及び反射を計測するスコア化法を指す。NISスコアは、筋力低下について標準筋肉群(1は25%の低下、2は50%の低下、3は75%の低下、3.25は重力に抗して動かすことができる、3.5は重力を除くと動かすことができる、3.75は筋攣縮はあるが動かない、及び4は麻痺状態である)、標準筋伸展反射群(0は正常、1は低い、2は無しである)、及び触圧、振動、関節位置及び運動、及びピン痛覚(全て示指及び母趾について採点する:0は正常、1は低い、2は無しである)を評価する。評価は、年齢、性別、及び体力で補正する。
【0055】
一実施形態において、NISスコアを低下させる本方法は、少なくとも10%のNISの低下をもたらす。他の実施形態において、本方法スコアは、少なくとも5、10、15、20、25、30、40%、又は少なくとも50%のNISの低下をもたらす。他の実施形態において、本方法はNISスコアの増加を抑制し、例えば、本方法はNISスコアの0%の増加をもたらす。
【0056】
ヒト対象のNISを決定する方法は当業者に周知であり、以下を参照することができる。
【0057】
Dyck,PJ et al.,「ロチェスター糖尿病性ニューロパチー研究コホートにおける複合スコアを用いた糖尿病性ポリニューロパチーの経時的評価(Longitudinal assessment of diabetic polyneuropathy using a composite score in the Rochester Diabetic Neuropathy Study cohort)」,Neurology 1997. 49(1):pgs.229−239)。
【0058】
Dyck PJ.「ポリニューロパチーの検出、特徴付け、及びステージ判定:糖尿病患者における評価(Detection,characterization,and staging of polyneuropathy:assessed in diabetics)」.Muscle Nerve.1988 Jan;11(1):21−32。
【0059】
改定ニューロパチー障害スコア(mNIS+7)
一部の実施形態において、本明細書に開示される方法は、トランスサイレチン(TTR)阻害組成物の投与によってヒト対象の改定ニューロパチー障害スコア(mNIS+7)を低下させ又はその増加を抑制する。当業者に周知のとおり、mNIS+7は、大小神経線維機能の電気生理学的計測(NCS及びQST)及び自律神経機能の計測(体位血圧)と組み合わせた臨床検査に基づく神経学的障害(NIS)の評価を指す。
【0060】
mNIS+7スコアは、NIS+7スコア(NIS+7つの検査に相当する)の改定版である。NIS+7は筋力低下及び筋伸展反射を分析する。7つの検査のうち5つは神経伝導の属性を含む。これらの属性は、腓骨神経複合筋活動電位振幅、運動神経伝導速度及び運動神経遠位潜時(MNDL)、脛骨MNDL、及び腓腹感覚神経活動電位振幅である。これらの値は、年齢、性別、身長、及び体重の変数について補正される。7つの検査のうち残りの2つは、振動検出閾値及び深呼吸に伴う心拍数低下を含む。
【0061】
mNIS+7スコアは、スマート定量的体性感覚検査(Smart Somatotopic Quantitative Sensation Testing)の使用、新規の自律神経評価、並びに尺骨、腓骨、及び脛骨神経の振幅の複合筋活動電位、及び尺骨及び腓腹神経の感覚神経活動電位の使用を考慮に入れるようにNIS+7を改定するものである(Suanprasert,N.et al.,「治験に向けてNIS+7を改定するためのTTR FAPコホートの後ろ向き研究(Retrospective study of a TTR FAP cohort to modify NIS+7 for therapeutic trials)」,J.Neurol.Sci.,2014.344(1−2):pgs.121−128)。
【0062】
ある実施形態では、mNIS+7スコアを低下させる本方法は、少なくとも10%のmNIS+7の低下をもたらす。他の実施形態において、本方法スコアは、少なくとも5、10、15、20、25、30、40%、又は少なくとも50%のmNIS+7スコアの低下をもたらす。他の実施形態において、本方法はmNIS+7の増加を抑制し、例えば、本方法はmNIS+7の0%の増加をもたらす。
【0063】
血清TTRタンパク質濃度
本明細書に記載される方法は、ヒト対象に有効量のトランスサイレチン(TTR)阻害組成物を投与するステップを含み、ここで有効量は、ヒト対象の血清中TTRタンパク質濃度を50μg/ml未満に低下させるか、又は少なくとも80%低下させる。血清TTRタンパク質濃度は、当業者に公知の任意の方法、例えば、抗体ベースのアッセイ、例えばELISAを用いて直接決定することができる。或いは、血清TTRタンパク質濃度は、TTR mRNAの量を計測することにより決定してもよい。更なる実施形態において、血清TTRタンパク質濃度は、代用物質、例えばビタミンA又はレチノール結合タンパク質(RBP)の濃度を計測することによって決定される。一実施形態において、血清TTRタンパク質濃度は、以下の実施例に記載するとおりELISAアッセイを用いて決定される。
【0064】
一部の実施形態において、血清TTRタンパク質の濃度は50μg/ml未満、又は40μg/ml、25μg/ml、又は10μg/ml未満に低下する。一部の実施形態において、血清TTRタンパク質の濃度は80%、又は81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、又は95%低下する。
【0065】
AUC
AUCは、ある用量の薬物、例えばTTR阻害組成物を患者に投与した後の時間の経過に伴う血流の血漿中における組成物、例えばTTRの濃度の曲線下面積を指す。AUCは、患者の血漿への組成物の吸収速度及び血漿からのその除去速度の影響を受ける。当業者に公知のとおり、AUCは、薬物投与後の血漿組成物濃度の積分を計算することによって決定し得る。別の態様において、AUCは、以下の式を用いて予測することができる:
【0067】
(式中、Dは投薬濃度であり、Fはバイオアベイラビリティの計測値であり、及びCLは予測クリアランス速度である)。当業者は、予測AUCの値が±3倍〜4倍の範囲の誤差を含むことを理解する。
【0068】
一部の実施形態において、AUCを決定するためのデータは、薬物の投与後に様々な時間間隔で患者から血液試料を採取することによって得られる。一態様において、TTR阻害組成物を投与した後の患者の血漿中の平均AUCは、約9000〜約18000の範囲である。
【0069】
代謝及び/又は可能性のある他の治療剤との相互作用に関してばらつきがあるため、血漿TTR濃度は対象毎に大きく異なり得ることが理解される。本発明の一態様において、血漿TTR濃度は対象によって異なり得る。同様に、最高血漿濃度(C
max)又は最高血漿濃度到達時間(T
max)又は時点0から最終計測可能濃度時点までの曲線下面積(AUC
last)又は血漿濃度時間曲線下総面積(AUC)などの値も、対象によって異なり得る。このばらつきにより、TTR阻害組成物などの化合物の「治療有効量」を成すために必要な量は、対象によって異なり得る。
【0070】
医薬組成物
本明細書に記載される方法は、TTR阻害組成物、例えば、TTR遺伝子を標的化するsiRNA、例えばパチシランの投与を含む。一部の実施形態において、TTR阻害組成物は医薬組成物である。
【0071】
本明細書で使用されるとき、「医薬組成物」は、TTR阻害組成物と薬学的に許容可能な担体とを含む。用語「薬学的に許容可能な担体」は、治療剤の投与用の担体を指す。かかる担体としては、限定はされないが、生理食塩水、緩衝生理食塩水、デキストロース、水、グリセロール、エタノール、及びこれらの組み合わせが挙げられる。この用語は細胞培養培地を具体的に除外する。経口投与される薬物について、薬学的に許容可能な担体としては、限定はされないが、不活性希釈剤、崩壊剤、結合剤、潤滑剤、甘味剤、香味剤、着色剤及び保存剤などの薬学的に許容可能な賦形剤が挙げられる。好適な不活性希釈剤としては、炭酸ナトリウム及びカルシウム、リン酸ナトリウム及びカルシウム、及びラクトースが挙げられ、一方、コーンスターチ及びアルギン酸が好適な崩壊剤である。結合剤としては、デンプン及びゼラチンを挙げることができ、一方、潤滑剤は、存在する場合、概してステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸又はタルクである。必要であれば、錠剤は、胃腸管での吸収を遅延させるため、モノステアリン酸グリセリル又はジステアリン酸グリセリルなどの材料でコーティングされてもよい。
【0072】
本発明の医薬組成物は、局部又は全身処置のどちらが所望されるか、及び、処置されるべき範囲に応じて、多数の方法で投与され得る。投与は、局所、経肺、例えば噴霧器を含む、粉末又はエアロゾルの吸入又は吹送により;気管内、鼻腔内、上皮及び経皮、経口又は非経口であってもよい。非経口投与には、静脈内、動脈内、皮下、腹腔内若しくは筋内注射若しくは注入;又は頭蓋内、例えば実質内、くも膜下腔内若しくは脳室内投与が挙げられる。
【0073】
本組成物は、肝臓(例えば肝臓の肝細胞)などの特定の組織を標的化する方法で送達され得る。医薬組成物は、注射によって脳に直接送達することができる。注射は、脳の特定の領域(例えば、黒質、皮質、海馬、線条体、又は淡蒼球)への定位的注射によることができ、又はdsRNAを中枢神経系の複数の領域に(例えば、脳の複数の領域に、及び/又は脊髄に)送達することができる。dsRNAはまた、脳の拡散領域に送達することもできる(例えば、脳の皮質への拡散送達)。
【0074】
一実施形態において、TTRを標的化するdsRNAは、一端が組織、例えば脳、例えば脳の黒質、皮質、海馬、線条体、脳梁又は淡蒼球に植え込まれたカニューレ又は他の送達装置を用いて送達することができる。カニューレはdsRNA組成物のリザーバに接続され得る。流れ又は送達は、ポンプ、例えばAlzetポンプ(Durect、Cupertino、CA)などの浸透圧ポンプ又はミニポンプによって媒介され得る。一実施形態において、ポンプ及びリザーバは組織から離れた範囲、例えば腹部に植え込まれ、送達は、ポンプ又はリザーバから放出部位に通じる導管によって達成される。脳へのdsRNA組成物の注入は、数時間又は数日間、例えば、1、2、3、5、又は7日間又はそれ以上にわたり得る。脳への送達装置については、例えば、米国特許第6,093,180号明細書、及び同第5,814,014号明細書に記載されている。
【0075】
投薬量及びタイミング
当業者は、対象の有効な治療に必要な投薬量及びタイミングに、限定はされないが、疾患又は障害の重症度、前治療、対象の全般的な健康及び/又は年齢、及び他の既存疾患を含めた特定の要因が影響を及ぼし得ることを理解するであろう。更に、治療有効量の組成物による対象の治療には、単回治療又は連続治療が含まれ得る。本発明に包含されるTTR阻害組成物の有効な投薬量及び生体内半減期の推定は、本明細書の他の部分に記載されるとおり、従来の方法を用いるか、又は適切な動物モデルを使用したインビボ試験に基づき行うことができる。
【0076】
一般に、TTR阻害組成物の医薬組成物の好適な用量は、レシピエントの体重1キログラム当たり1日0.01〜200.0ミリグラムの範囲、概して体重1キログラム当たり1日1〜50mgの範囲となり得る。
【0077】
例えば、TTR阻害組成物はsiRNAであってもよく、一用量当たり0.01mg/kg、0.05mg/kg、0.2mg/kg、0.3mg/kg、0.4mg/kg、0.5mg/kg、0.6mg/kg、0.7mg/kg、0.8mg/kg、0.9mg/kg、1mg/kg、1.1mg/kg、1.2mg/kg、1.3mg/kg、1.4mg/kg、1.5mg/kg、1.628mg/kg、2mg/kg、3mg/kg、5.0mg/kg、10mg/kg、20mg/kg、30mg/kg、40mg/kg、又は50mg/kgで投与することができる。別の実施形態において、投薬量は0.15mg/kg〜0.3mg/kgである。例えば、TTR阻害組成物は、0.15mg/kg、0.2mg/kg、0.25mg/kg、又は0.3mg/kgの用量で投与することができる。ある実施形態では、TTR阻害組成物は0.3mg/kgの用量で投与される。
【0078】
医薬組成物(例えばパチシラン)は、1日1回、又は5、10、15、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、若しくは30日に1回若しくは2回投与され得る。単位投薬量は、例えば数日間にわたるTTR阻害組成物の徐放を提供する従来の徐放製剤を用いて、数日間にわたる送達用に化合物化することができる。徐放製剤は当該技術分野において周知であり、本発明の薬剤で用い得るような、特定の部位における薬剤の送達に特に有用である。
【0079】
ある実施形態では、TTR阻害組成物はパチシランであり、投薬量は0.3mg/kgであり、ここで用量は21日に1回投与される。別の実施形態において、有効量は0.3mg/kgであり、この有効量は21日に1回、1mL/分で15分間、続いて3mL/分で55分間の70分間の注入によって投与される。別の実施形態において、有効量は0.3mg/kgであり、この有効量は21〜28日おきに2用量で、3.3mL/分の60分間の注入によるか、又は1.1mL/分で15分間、続いて3.3mL/分で55分間の70分間の注入によって投与される。
【0080】
TTR阻害組成物の投薬量は、TTR阻害組成物を投与して対象のTTRタンパク質レベル決定することにより、NISの増加又はFAPの治療に応じて調整することができる。TTRタンパク質レベルが50μg/mlより高い場合、次に対象に投与するTTR阻害組成物を増量し、TTRタンパク質レベルが50μg/ml未満である場合、次に対象に投与するTTR阻害組成物を減量する。
【0081】
TTR阻害組成物は、標的遺伝子の発現によって媒介される病的過程の治療において有効な他の公知の薬剤と併用して投与することができる。ある実施形態では、パチシランがタファミジス又はジフルニサルなどの四量体安定化剤と共に投与される。いずれにしても、投与担当医師は、当該技術分野において公知の又は本明細書に記載される標準的な有効性測定を用いて観察された結果に基づき、パチシラン及び/又は四量体安定化剤投与の量及びタイミングを調整することができる。
【実施例】
【0082】
以下は、本発明を実施するための具体的な実施形態の例である。これらの例は、あくまでも例示を目的として提供され、いかなる形であれ本発明の範囲を限定することは意図されない。使用する数(例えば、量、温度等)に関しては正確性を確保するように努めているが、当然ながら、幾らかの実験誤差及び偏差は許容されるべきである。
【0083】
本発明の実施は、特に指示されない限り、当該分野の技術の範囲内にあるタンパク質化学、生化学、組換えDNA技術及び薬理学の従来方法を用いることになる。かかる技術は文献に詳しく説明されている。例えば、T.E.Creighton,Proteins:Structures and Molecular Properties(W.H.Freeman and Company,1993);A.L.Lehninger,Biochemistry(Worth Publishers,Inc.,current addition);Sambrook,et al.,Molecular Cloning: A Laboratory Manual(2nd Edition,1989);Methods In Enzymology(S.Colowick and N.Kaplan eds.,Academic Press,Inc.);Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Edition(Easton,Pennsylvania:Mack Publishing Company,1990);Carey and Sundberg Advanced Organic Chemistry 3
rd Ed.(Plenum Press)Vols A and B(1992)を参照のこと。
【0084】
実施例1:TTRアミロイドーシスに対するパチシランの安全性及び有効性
臨床第I相試験では、パチシランが28日間にわたって患者のTTRレベルを低下させることが分かった。この試験の結果は、New England Journal of Medicine(Coelho et al.,N Engl J Med 2013;369:819−29)に発表した。この発表はあらゆる目的から参照によって援用される。研究デザイン及び結果の概要について、以下のとおり再掲する。
【0085】
この試験は、TTRアミロイドーシス患者又は健常成人におけるパチシランの単回投与の安全性及び有効性を判定するための多施設、無作為化、単純盲検、プラセボ対照、及び用量範囲探索試験であった。18〜45歳の男性及び女性について、健康であり(病歴、理学的検査、及び12誘導心電図検査に基づき決定したとき)、BMIが18.0〜31.5であり、十分な肝機能及び血球数を有し、且つ妊娠の可能性がない場合に本試験に適格とした。
【0086】
参加者系列(各系列4人)を、3:1の比で0.01〜0.5mg/kgの用量のパチシラン又はプラセボ(通常生理食塩水)の投与を受けるように無作為に割り付けた。パチシランはそれぞれ15分間及び60分間で静脈内投与した。本試験では、注入関連反応のリスクを低減するため、患者は注入前夜及び注入当日に同様の前投薬を受けた。これらの投薬には、デキサメタゾン、アセトアミノフェン、ジフェンヒドラミン又はセチリジン、及びラニチジンが含まれた。
【0087】
全TTRについてバリデートされた酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)を用いて、血清TTRレベルに反映されるとおりのパチシランの薬力学的活性を計測した(Charles River Laboratories、Wilmington MA)。各患者のTTR、レチノール結合タンパク質、及びビタミンAのベースラインレベルは、パチシラン投与前の4回の計測の平均値と定義した。薬物投与開始時から28日目まで有害事象をモニタした。安全性のモニタリングには、血液学的評価、血液化学分析、及び甲状腺機能検査も含まれた。
【0088】
パチシランに含まれるTTR siRNAの血漿薬物動態を、バリデートされたELISAベースのハイブリダイゼーションアッセイを用いて判定した。siRNAの検出及び定量化には、ATTO−Probe−HPLCアッセイ(定量下限、1ミリリットル当たり1.0ng)(Tandem Laboratories、Salt Lake City UT)を使用した。WinNonlin(Pharsight、Princeton NJ)を使用して薬物動態推定値を決定した。
【0089】
ベースラインレベルと比較したときのTTR、ビタミンA、及びレチノール結合タンパク質のノックダウンを計測した(データは示さず)。
【0090】
結果
最も低い2つのパチシラン用量では、TTRレベルの有意な変化は(プラセボと比較したとき)観察されなかった。しかしながら、0.15〜0.5mg/kgの用量を投与された全ての参加者で実質的なTTRのノックダウンが観察された(データは示さず)。TTRノックダウンは、3つの用量レベル全てにおいて急速、強力且つ持続的であり、28日目までプラセボと比較したとき極めて有意に変化した(P<0.001)。0.15及び0.3mg/kgで見られたロバストな反応及び0.5mg/kgでの中程度の漸進的な反応改善を踏まえ、1人の参加者のみが0.5mg/kgの用量を受けた。
【0091】
反応動態は、特に少なくとも0.3mg/kgの用量であれば、参加者間にばらつきがほとんどなく(データは示さず)、3日目までに50%超低下し、ほぼ10日目までに最下点レベルとなり、28日目にも50%を超える抑制が続き、70日目までに完全な回復が起こった。0.15mg/kg、0.3mg/kg、及び0.5mg/kgの投与を受けた参加者のTTRノックダウンの最高値は、それぞれ85.7%、87.6%、及び93.8%であった。0.15mg/kg及び0.3mg/kgの用量での平均最下点は、それぞれ82.3%(95%信頼区間(CI)、67.7〜90.3)及び86.8%(95%CI、83.8〜89.3)であった;これらの最下点は、絶対TTRレベル又はパーセントTTRノックダウンのいずれで分析したときも、参加者間でほとんどばらつきを示さず、プラセボと比較したとき極めて有意であった(P<0.001)(データは示さず)。
【0092】
ノックダウンの程度によって抑制期間が決まるように見え、28日目の低下の平均は、0.15mg/kg及び0.3mg/kgの投与を受けた参加者についてそれぞれ56.6%(95%CI、11.6〜78.7)及び67.1%(95%CI、45.5〜80.1)であり、0.5mg/kgの投与を受けた1人の患者について28日目に76.8%の低下であった。0.3mg/kgの用量でヒトにおいて観察されたTTRノックダウンは、同じ用量レベルで非ヒト霊長類において見られるものと事実上同じであった(データは示さず)。パチシランによるこれらのTTRの低下はレチノール結合タンパク質及びビタミンAレベルの変化と相関した(データは示さず)。
【0093】
パチシランの使用は、血液学、肝臓、若しくは腎臓計測値又は甲状腺機能にいかなる有意な変化ももたらさず、薬物関連重篤有害事象又は有害事象に起因する治験薬中止はなかった(データは示さず)。
【0094】
パチシランの血漿薬物動態プロファイルから、TTR siRNAのピーク血漿濃度及び最終日までの曲線下面積の値が、試験した用量範囲でほぼ用量比例的に増加したことが示された(データは示さず)。
【0095】
パチシランの特異性
パチシランの効果の特異性を更に実証するため、ALN−PCS(これは、パチシランに使用されるのと同種の脂質ナノ粒子に製剤化された、PCSK9(コレステロール降下の標的)を標的化するsiRNAを含む)の第1相試験における健常ボランティア群のTTRも計測した。0.4mg/kg ALN−PCS(いわゆる対照siRNA)の単回投与はTTRに何ら効果を及ぼさなかったことから(データは示さず)、TTRに対するパチシランの効果はsiRNAによる特異的な標的化に起因したもので、脂質ナノ粒子の製剤の非特異的な効果ではなかったことが示された。
【0096】
0.3mg/kgの用量を投与された参加者から得た血液試料に対する5’RACE(相補DNA末端迅速増幅)アッセイを用いて循環細胞外RNAにおける予測TTR mRNA切断産物を検出することにより、パチシランの薬力学的効果の特異性及び作用機序を裏付ける更なるエビデンスが得られた。血液試料を採取するため、凝固血液試料(対象からの投与前及び投与後24時間)を1200×gで20分間遠心した後に血清を採取した。血清を更にもう一回1200×gで10分間遠心して浮遊細胞材料を除去し、次に凍結した。解凍した血清を塩化リチウム(終濃度1M)と混合し、4℃で1時間インキュベートした。試料を4℃、120,000×gで2時間スピンしてRNAをペレット化し、ペレットからTrizol抽出(Life Technologies、Grand Island、New York、USA)及びイソプロパノール沈殿によって全RNAを単離した。
【0097】
TTR siRNAの媒介による切断産物を検出するため、単離したRNAを、GeneRacerキット(Life Technologies)を使用したライゲーション媒介RACE PCRに使用した。RNAをGeneRacerアダプターにライゲートし、TTR特異的リバースプライマー(5’−aatcaagttaaagtggaatgaaaagtgcctttcacag−3’)(配列番号3)を使用して逆転写し、続いてアダプターに相補的なGene Racer GR5’フォワードプライマー及びTTR特異的リバースプライマー(5’−gcctttcacaggaatgttttattgtctctg−3’))(配列番号4)を使用して2ラウンドのPCRを行った。GR5’ネステッドプライマー及びTTR特異的リバースネステッドプライマー(5’−ctctgcctggacttctaacatagcatatgaggtg−3’))(配列番号5)でネステッドPCRを実施した。TOPO−Bluntベクター(Life Technologies)を使用してPCR産物をクローニングした。クローニングしたインサートを、M13フォワード及びリバースプライマーを使用したコロニーPCRによって増幅した。Macrogenシーケンシング施設においてこれらのアンプリコンをT7プロモータープライマーでシーケンシングした。CLC WorkBenchを使用して96クローンからの配列をヒトTTRとアラインメントした。
【0098】
投与前試料及び薬物投与24時間後に得た試料の両方でTTR mRNAが検出された。RNAi機構と一致して、3人の参加者全てにおいて投与前試料に予測mRNA切断産物はなく、投与後試料には存在した(データは示さず)。
【0099】
ヒト血清中の野生型及び突然変異体TTRを定量化するためのLC/MS/MSアッセイの適格性評価及び実施がTandem Labsによって行われた。キモトリプシンを使用して血清試料を消化し、次にタンパク質沈殿抽出によって処理した後、LC/MS/MSによって分析した。そのユニークな特異的質量電荷比遷移に従い、野生型TTRに相当するキモトリプシンペプチドTTRW−1及び突然変異体V30Mに相当するV30M−1をモニタした。安定同位体標識ペプチド(TTRW−1−D8及びV30M−1−D8)を使用して得られた標準検量線データを用いてヒト血清試料中の内因性ペプチド断片(TTRW−1及びV30M−1)を計算した。標準のピーク面積比(即ち内部標準TTRW−L1−D16に対するTTRW−1−D8及びV30M−L1−D16に対するV30M−1−D8)を使用して、1/x2加重最小二乗回帰分析を用いて線形検量線を作成した。適格性が確認されたLC/MS/MS法により、5〜2500ng/mlの範囲の標準曲線で5ng/mlの定量下限(LLOQ)が達成された。
【0100】
実施例2:家族性アミロイドポリニューロパチーに対するパチシラン療法の安全性及び有効性に関する複数用量試験
この臨床第II相試験では、TTR媒介性FAP患者に複数用量のパチシランを投与して、これらの患者における複数漸増静脈内用量のパチシランの安全性、忍容性、薬物動態、及び薬力学を判定した。このデータは、2013年11月に行われた家族性アミロイドポリニューロパチー国際シンポジウム(International Symposium on Familial Amyloidotic Polyneuropathy:ISFAP)において発表した。
【0101】
適格患者は、生検によるATTRアミロイドーシスの確定診断が得られ且つ軽度から中等度のニューロパチーを有する成人(≧18歳)であって;カルノフスキー・パフォーマンス・ステータス(KPS)≧60%;ボディ・マス・インデックス(BMI)17〜33kg/m
2;十分な肝腎機能(アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)及びアラニントランスアミナーゼ(ALT)≦2.5×正常範囲上限(ULN)、正常範囲内の総ビリルビン、アルブミン>3g/dL、及び国際標準化比(INR)≦1.2;血清クレアチニン≦1.5ULN);及びB型肝炎ウイルス及びC型肝炎ウイルス血清反応陰性の者とした。患者は、肝移植を受けた;本試験中に計画された手術を受けた;HIV陽性であった;30日以内にタファミジス又はジフルニサル以外の治験薬の投与を受けていた;ニューヨーク心臓協会(New York Heart Association)の心不全分類>2を有した;妊娠中又は授乳中であった;全身性細菌、ウイルス、寄生虫、又は真菌感染が判明していたか又はそれが疑われた;不安定狭心症、制御されない臨床的に有意な心不整脈を有した;又は過去にリポソーム製剤に対して重度の反応を起こしたことがあったか、又はオリゴヌクレオチドに対する過敏症が判明していた場合、除外した。
【0102】
これは、FAP患者におけるパチシランの多施設、国際的、非盲検、複数用量漸増第II相研究であった。3人の患者のコホートが2用量のパチシランの投与を受け、各用量は静脈内(IV)注入として投与した。コホート1〜3には、それぞれパチシラン0.01、0.05及び0.15mg/kgの2用量を4週に1回(Q4W)投与し;コホート4及び5には、両方ともに、パチシラン0.3mg/kgの2用量をQ4Wで投与した。コホート6〜9の患者は全て、パチシラン0.3mg/kgの2用量の投与を3週に1回(Q3W)受けた。全ての患者がパチシラン注入前に毎回、注入関連反応のリスクを低減するため、デキサメタゾン、パラセタモール(アセトアミノフェン)、H2ブロッカー(例えば、ラニチジン又はファモチジン)、及びH1ブロッカー(例えば、セチリジン、ヒドロキシジン又はフェキソフェナジン)からなる前投薬を受けた。パチシランは、3.3mL/分で60分間、又はマイクロドージングレジメン(1.1mL/分で15分間、続いて残りの用量について3.3mL/分)を用いて70分間かけてIV投与した。
【0103】
全ての患者について、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)を用いて血清中の全TTRタンパク質レベルを評価した。加えて、専売の質量分析法(Charles River Laboratories、Quebec、Canada)を使用して、Val30Met突然変異を有する患者の血清中の野生型及び突然変異体TTRタンパク質を個別且つ特別に計測した。血清試料は、スクリーニング時、及び0、1、2、7、10、14、21、22、23日目(Q3Wのみ);28、29日目(Q4Wのみ);30日目(Q4Wのみ);31日目(Q3Wのみ);35、38日目(Q4Wのみ)並びにフォローアップの42、49、56、112及び208日目に採取した。
【0104】
0日目及び以下の時点、即ち、投与前(計画された投与開始の1時間以内)、注入終了時(EOI)、注入後5、10及び30分並びに1、2、4、6、24、48、168、336、504時間(21日目、Q3Wレジメンのみ)及び672時間(28日目、Q4Wレジメンのみ)で採取した血液試料に基づき、TTR siRNAの血漿濃度−時間プロファイルを作成した。Q4Wレジメンについては84及び180日目、及びQ3Wレジメンについては35、91及び187日目に更なる試料を採取した。コホート3〜9は、0日目、EOI、及び注入後2時間の血液試料について、遊離及び封入TTR siRNAの両方も分析した。血清TTR siRNAは、バリデートされたATTO−Probe高速液体クロマトグラフィー(HPLC)アッセイ(Tandem Laboratories、Salt Lake City、Utah、USA)を使用して分析した。PK分析は、TTR siRNA血漿濃度−時間データのノンコンパートメント及び/又はコンパートメント評価を用いて実施して、バリデートされたソフトウェアプログラムWinNonlin(登録商標)を使用してPKパラメータ推定値を決定した。投与後に排泄TTR siRNAレベルについて尿試料を分析し、腎クリアランス(CL
R)を計測した。
【0105】
血清中ビタミンA及びレチノール結合タンパク質(RBP)レベルを、全TTRに関して指定したのと同じ時点で、それぞれHPLC及び比濁法によって計測した(Biomins Specialized Medical Pathology、Lyon、France)。
【0106】
PP集団のベースラインからのTTRノックダウンの平均値及び分散を計算した(ベースラインは全投与前値の平均として定義した)。分散分析(ANOVA)及び共分散分析(ANCOVA)を用いて、個別のペアワイズ比較(用量レベル間)のチューキーの事後検定によりPDデータ(自然対数変換した対ベースラインTTR)を分析した。最下点TTRレベルは、各用量投与後の28日期間(Q3W群については21日期間)(初回用量期間、2回目用量期間:Q4W群及びQ3W群についてそれぞれ1〜28、29〜56日目及び1〜21、22〜42日目)における患者毎の最低レベルとして定義した。ベースラインと比べたTTRとRBP又はビタミンAとの関係、及び野生型レベルとV30MTTRレベルとの関係を線形回帰によって調べた。パワーモデル解析を用いてPKパラメータにおけるパチシラン成分の用量比例性を判定した。AEは、国際医薬用語集(Medical Dictionary for Regulatory Activities:MedDRA)のコード体系、第15.0版、並びにAE、検査データ、バイタルサインデータ、及びECG間隔データに関して提供される記述統計学を使用してコード化した。全ての統計分析は、SASソフトウェア、バージョン9.3又はそれ以上を使用して実施した。有効性及び薬力学:平均値(SD)ベースライン血清TTRタンパク質レベルは用量コホート間で同程度であった:0.01、0.05、0.15、0.3 Q4W及び0.3mg/kg Q3W投薬群について、それぞれ、272.9(98.86)、226.5(12.67)、276.1(7.65)、242.6(38.30)及び235.5(44.45)μg/mL。
【0107】
0.01mg/kg用量コホートと比較して、0.3mg/kg Q4W及びQ3Wコホートにおいて1回目及び2回目のパチシラン投与後にTTRの有意な低下(p<0.001 ANCOVA後の事後検定による)が観察された(データは示さず)。Val30Met突然変異を有する患者では、野生型及び突然変異体TTRについてほぼ同程度のノックダウンが観察された(データは示さず)。血清TTRノックダウンレベルはRBP(r
2=0.89、p<10
−15)及びビタミンA(r
2=0.90、p<10
−15)の循環レベルの低下と高度に相関した(データは示さず)。
【0108】
タファミジス又はジフルニサルを服用した患者は、安定化剤療法薬を服用しなかった患者と比較して血清TTRのベースラインレベルが有意に増加したが(p<0.001 ANOVAによる)(データは示さず)、パチシラン投与はこれらの2つの患者群に同程度のTTRノックダウンをもたらした(データは示さず)。
【0109】
薬物動態:パチシランTTR siRNA成分の平均濃度はEOI後に低下し(データは示さず)、21/28日目の2回目の投与後にsiRNAの蓄積はなかった。各投与後の封入対非封入TTR siRNA濃度の計測から、循環LNP製剤の安定性が示された。1回目及び2回目の両方の投与について、最高血漿濃度(Cmax)及び0から最終計測可能時点までの血漿濃度−時間曲線下面積(AUC0−last)の平均値は、試験した用量範囲で用量比例的に増加した。投与1及び投与2後のCmax及びAUC0−lastは同等であり、蓄積はなかった。0日目及び21/28日目のパチシランの終末半減期中央値は用量>0.01mg/kgで39〜59時間であり、各用量コホートについて投与1及び投与2を比べたとき比較的変化が少なかった。
【0110】
これらの第II相データは、パチシランによるFAP患者の治療が血清TTRタンパク質レベルのロバストな用量依存的且つ統計的に有意なノックダウンをもたらしたことを実証している。3〜4週間おきに投与したパチシラン0.3mg/kgの2連続用量で80%超の持続的な平均TTR低下が実現し、Q3W群では96%の最大ノックダウンが実現した。これらのノックダウン率は、パチシランの単回漸増投与プラセボ対照第1相試験(Coelho et al.2013a)で観察された率と一致している。他の全身性アミロイド疾患からのエビデンスは、疾患原因のタンパク質が僅か50%程減少することにより、臨床上の疾患改善又は安定化が得られ得ることを示している(Lachmann et al.2003;Lachmann et al.2007)。パチシランによるTTRノックダウンの程度は、患者がタファミジス又はジフルニサルを服用することによる影響を受けなかったことから、これらのTTR安定化剤薬物がパチシランの薬理活性を妨げないことが示唆される。Val30Met突然変異を有する患者では、パチシランは突然変異型及び野生型の両方のTTRの産生を抑制した;後者は肝移植後の遅発性FAP患者においてアミロイド形成性のままである(Yazaki et al,2003;Liepnieks et al,2010)。
【0111】
実施例3:パチシランの投与によるNIS及びmNIS+7によって計測するときの神経学的障害の低減
実施例2に記載するプロトコルを用いてFAP患者で非盲検拡大研究を実施した、及び実施する。パチシランの投与により、NIS及びmNIS+7の両方が低下した。
【0112】
先に第2相試験で投与されたFAP患者を適格として、第2相OLE研究に繰り越し登録した。6ヵ月毎に臨床エンドポイントを評価して、0.30mg/kgで3週に1回、最長2年の投与を実施した、及び実施する。この研究目的には、神経学的障害に対する効果(mNIS+7及びNIS)、クオリティ・オブ・ライフ、mBMI、能力低下、運動能力、握力、自律神経症状、皮膚生検の神経線維密度、心臓病変(心臓サブ群において)、及び血清TTRレベルが含まれた。
【0113】
患者の人口統計学的特性を以下に示す。
【表4】
【0114】
ベースライン特性には、以下が含まれた。
【表5】
【0115】
以下の表に示すとおり、パチシランの投与は血清TTRレベルの降下をもたらした。パチシランは約80%の持続的な血清TTR降下を実現し、投与間に最大88%の更なる最下点があった。
【表6】
【0116】
以下の表に示すとおり、パチシランの投与は、6及び12ヵ月時に計測したときmNIS+7の変化をもたらした。
【表7】
【0117】
以下の表に示すとおり、パチシランの投与は6及び12ヵ月時にNISの変化をもたらした。
【表8】
【0118】
図1及び
図2に示すとおり、ΔNIS又はΔmNIS+7の進行とTTR濃度との間の関係を線形回帰によって調べた。TTR及び平均投与前トラフ値[TTR]は6ヵ月時のmNIS+7の変化と相関した。
【0119】
NIS及びmNIS+7は0、6、及び12ヵ月時に計測した。0〜6ヵ月及び0〜12ヵ月のΔNIS又はΔmNIS+7を応答変数として使用した。予測変数には、2つの異なるTTR濃度計測値:TTRタンパク質濃度曲線下面積(「AUC」)、及び84及び168日目(0〜6ヵ月の比較について)及び84、168、273、及び357日目(0〜12ヵ月の比較について)におけるベースラインと比べた平均パーセントノックダウンを含めた。
【0120】
いずれのTTR計測値も、「ベースライン」は全投与前値の平均として定義した。TTR AUCは、未加工のTTR濃度(μg/mL)及びベースライン値を始端として(0日目に挿入)182日目(0〜6ヵ月の比較について)又は357日目(0〜12ヵ月の比較について)までにわたり台形法を使用して計算した。ベースラインに対するパーセントノックダウンは、予定した各時点で計算した。線形回帰を実施して、予測変数と応答変数との間に関連性はないとする帰無仮説の検定に関連するP値を報告した。
【0121】
12ヵ月時にmNIS+7及びNIS変化の平均はそれぞれ−2.5及び0.4ポイントであったが、これは同様のベースラインNISを有した患者集団における先行のFAP研究からの12ヵ月時推定mNIS+7及びNISの急激な増加(例えば、10〜18ポイントの増加)と比べても遜色がない。ニューロパチー障害スコアの進行に対するパチシランの好ましい影響は、TTR低下の程度と相関した。これは、パチシランによる血清TTR負荷量の低下がFAP患者の臨床的有益性につながることを実証している。
【0122】
本発明は好ましい実施形態及び様々な代替的実施形態を参照して具体的に例示及び説明されているが、当業者は、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなくそれらに形態及び詳細の様々な変更を加え得ることを理解するであろう。
【0123】
本明細書の本文中で引用される全ての参考文献、付与済みの特許及び特許出願は、あらゆる目的から本明細書によって全体として参照により援用される。