(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
地組織と、前記地組織を構成する地糸に絡みかつ前記地組織の表面に立毛するパイル繊維を含み、前記パイル繊維はアクリル繊維及びアクリル系繊維からなる群から選ばれる少なくとも一つの繊維を含み、前記パイル繊維は前記地組織を構成する繊維よりも軟化点が低いパイル布帛において、
前記地組織を構成する地糸に絡んだパイル繊維のうち、前記地組織の表面に立毛するパイル繊維は融着しておらず、前記地組織の裏面において前記地組織を構成する地糸より外側に配置されているパイル繊維の少なくとも一部は融着されており、
前記パイル布帛の裏面におけるパイル繊維には、パイル繊維100重量部に対して、アミノ変性シリコーン系柔軟剤、エポキシ変性シリコーン系柔軟剤及びカルボキシル変性シリコーン系柔軟剤からなる群から選ばれる一種以上の有機変性シリコーン系柔軟剤が0.4重量部以上付着されていることを特徴とするパイル布帛。
前記パイル布帛の裏面におけるパイル繊維100重量部に対して、前記有機変性シリコーン系柔軟剤が0.4〜2.5重量部付着されている請求項1〜4のいずれか1項に記載のパイル布帛。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の発明者らは、アクリル繊維及びアクリル系繊維からなる群から選ばれる少なくとも一つの繊維をパイル繊維とし、パイル布帛の裏面においてパイル繊維の地糸より外側に配置されているパイル繊維のうち少なくとも一部のパイル繊維を融着させたパイル布帛において、パイル繊維の毛抜けを抑制しつつ、パイル布帛の柔軟性を向上することについて検討を重ねた。その結果、パイル布帛の裏面におけるパイル繊維に、パイル繊維100重量部に対して、アミノ変性シリコーン系柔軟剤、エポキシ変性シリコーン系柔軟剤及びカルボキシル変性シリコーン系柔軟剤からなる群から選ばれる一種以上の有機変性シリコーン系柔軟剤を0.4重量部以上付着させることで、パイル繊維の毛抜けを抑制しつつ、パイル布帛の柔軟性を向上できることを見出し、本発明に至った。柔軟剤(柔軟仕上げ剤とも称される。)は、通常、繊維の表面に柔軟性や滑り性などを付与するが、本願では、驚くことに、特定の柔軟剤をパイル布帛の裏面におけるパイル繊維に所定量付着させることで、パイル繊維の毛抜けを抑制しつつ、パイル布帛の柔軟性を向上できることを見出した。
【0014】
本発明のパイル布帛は、地組織と、上記地組織を構成する地糸に絡みかつ上記地組織の表面に立毛するパイル繊維を含むパイル布帛である。上記パイル布帛としては、特に限定されないが、例えば、ハイパイル布帛、ボアパイル及びタフトカーペット等が挙げられる。毛抜けが生じやすいハイパイル布帛に特に好適である。ハイパイル布帛は、特に限定されないが、例えば、立毛部のパイル繊維の長さが15〜100mmであることが好ましい。
【0015】
上記ハイパイル布帛は、パイル編物であり、地組織はメリヤスの地組織となる。詳細には、上記ハイパイル布帛は、メリヤスの地組織と、該地組織を構成する地糸に絡みつつ上記地組織の表面に立毛するパイル繊維とを含む。ハイパイル布帛の場合、地組織がメリヤスであるので、伸縮性に優れる組織を構成することができる。メリヤスは、一般に、1本又は2本以上の糸がループをつくり、そのループに引っかけて、次の新しいループをつくることを継続し、順次ループを平面状に連続させて布地を形成したものである。そして、糸がループをつくりながら左右に往復して平面状の布地を形成するか、らせん状に進行して筒状の布地を形成するか等により、横方向に進行していくものを横編みメリヤス、整然と配列した多数の各経(たて)糸がループをつくりながら、隣接する左右の経糸とループで連結されて布地を形成するものを経編みメリヤスという。また、横編みメリヤスには、平編み、ゴム編み、パール編み等の編み方があり、経編みメリヤスには、デンビー編み、コード編み、アトラス編み、鎖編み等の編み方がある。ハイパイル布帛の地組織の編み方としては、商品性、生産性の観点から、横編みメリヤスが好ましい。
【0016】
本発明では、パイル繊維の地組織のメリヤスに対する配置としては、地組織のメリヤスを構成する地糸の各ループの全てにパイル繊維が絡むように配置しても良いし、メリヤスを構成する地糸の各ループのうち、ウェール方向及び/又はコース方向においてパイル繊維の絡んでいない部分を有するように配置しても良い。
【0017】
上記地組織を構成する繊維、すなわち地糸を構成する繊維としては、パイル繊維より軟化点が高い繊維であれば良く、特に限定はない。例えば、ポリエステル繊維やセルロース系繊維等が挙げられる。ポリエステル繊維としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂を含む樹脂組成物を紡糸して得られる合成繊維等が挙げられる。セルロース系繊維としては、例えば、コットン等が挙げられる。より効果的に、パイル繊維の毛抜けを抑制し、パイル布帛の柔軟性を高める観点から、地糸は、ポリエステル繊維糸であることが好ましい。
【0018】
パイル繊維は地組織を構成する繊維よりも軟化点が低く、地糸に絡んだパイル繊維のうち、地組織の裏面において地糸より外側に配置されているパイル繊維は一部又は全部が融着され、上記地組織の表面に立毛するパイル繊維は融着していない。この手段としては、特に限定されないが、パイル布帛の裏面側からパイル繊維の軟化点以上、かつ上記地組織を構成する繊維の軟化点未満の温度で熱圧着することが好ましい。
【0019】
上記パイル繊維は、アクリル繊維及び/又はアクリル系繊維を含む。これにより、風合いに優れたパイル布帛が得られる。一般的には、熱可塑性繊維をパイル繊維として用い、該熱可塑性繊維の融点又は軟化点以上の温度でポリッシング加工を行うと、パイル布帛の表面のパイル繊維は焦げたり、溶融したりしてしまい、良好な外観と風合いを有するパイル布帛が得られない。また、熱可塑性繊維のガラス転移点以下の温度でポリッシング加工を行うと、パイル布帛の表面のパイル繊維の捲縮が伸びないため良好な外観と風合いを有するパイル布帛が得られない。これに対し、アクリル繊維及びアクリル系繊維の捲縮は融点未満の温度でも伸びる。そして、アクリル繊維及びアクリル系繊維のガラス転移点は約100℃、軟化点は約150〜230℃であることから、パイル繊維にアクリル繊維及び/又はアクリル系繊維を用いる場合、ガラス転移点以上、軟化点以下の温度、例えば100〜150℃でポリッシング加工を行うことができる。さらに、アクリル繊維及びアクリル系繊維の捲縮は、他素材の繊維と比較して伸びやすい傾向にあることから、良好な外観と風合いを有するパイル布帛が得られる。
【0020】
また、上記パイル繊維は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレタレート等のポリエステル樹脂を含む樹脂組成物を紡糸してなる合成繊維やその他の繊維を含んでもよい。
【0021】
上記パイル繊維は、地糸を構成する繊維よりも軟化点が低ければ良く特に限定されないが、地糸を構成する繊維と上記パイル繊維の軟化点の差は、好ましくは10℃以上であり、より好ましくは20℃以上、特に好ましくは30℃以上である。10℃以上の差があると、パイル布帛の裏面において地糸より外側に配置された一部又は全部のパイル繊維のみを熱圧着することで融着させ、上記地組織の表面に立毛するパイル繊維を熱圧着させない(融着させない)ことがより容易となる。
【0022】
上記パイル繊維は全量所定の温度で軟化する繊維であっても良く、異なる温度で軟化する繊維の混合繊維であっても良い。そして、パイル繊維が異なる温度で軟化する繊維の混合繊維である場合は、相対的に低い温度で軟化する繊維を20重量%以上混合し、相対的に低い温度で軟化する繊維を熱圧着させることが好ましく、より好ましくは相対的に低い温度で軟化する繊維が50重量%以上混合されている。
【0023】
本発明の実施形態において、軟化点とは、融解又は分解する前の軟化温度である。例えばアクリル繊維の軟化点は190〜232℃、アクリル系繊維の軟化点は150〜220℃である(「化学大辞典」、共立出版、727〜729頁、1993年6月1日発行。以下「文献値」という。)。
【0024】
本発明の実施形態において、アクリル繊維とは、アクリロニトリルを85重量%以上と、その他の共重合可能なモノマーを15重量%以下含む組成物を重合して得られる重合体で構成される繊維をいう。また、アクリル系繊維とは、アクリロニトリルを35重量%以上85重量%未満と、その他の共重合可能なモノマーを15重量%より多く65重量%以下含む組成物を重合して得られる重合体で構成される繊維をいう。
【0025】
本発明の実施形態において、その他の共重合可能なモノマーは、アクリロニトリルと共重合可能なモノマーであれば良く、特に限定されない。例えば、塩化ビニル、臭化ビニル等に代表されるハロゲン化ビニル;塩化ビニリデン、臭化ビニリデン等に代表されるハロゲン化ビニリデン;アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、イソプレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等に代表されるスルホン酸含有モノマー及びこれらのスルホン酸含有モノマーの金属塩類、アミン塩類;アクリル酸及びメタクリル酸の低級アルキルエステル、N−アルキル置換したアミノアルキルエステル、N,N−アルキル置換したアミノアルキルエステル及びグリシジルエステル;アクリルアミド、メタクリルアミド及びそれらのN−アルキル置換体、N,N−アルキル置換体;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等に代表されるカルボキシル基含有ビニル単量体及びそれらのナトリウム、カリウム又はアンモニウム塩等のアニオン性ビニル単量体;アクリル酸の4級化アミノアルキルエステル、メタクリル酸の4級化アミノアルキルエステル等に代表されるカチオン性ビニル単量体;ビニル基含有低級アルキルエーテル;酢酸ビニルに代表されるビニル基含有低級カルボン酸エステル;及びスチレン等を挙げることができる。これらのモノマーを一種でも用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
その他の共重合可能なモノマーとしては、ハロゲン化ビニル、ハロゲン化ビニリデン及びスルホン酸含有モノマーの金属塩類からなる群から選ばれる一種以上のモノマーを用いることが好ましく、塩化ビニル、塩化ビニリデン及びスチレンスルホン酸ナトリウムからなる群から選ばれる一種以上のモノマーを用いることがより好ましい。
【0027】
上記パイル繊維は、アクリル系繊維であることが好ましく、アクリロニトリルを35重量%以上85重量%未満含み、塩化ビニル及び/又は塩化ビニリデンと、その他の共重合可能なモノマーを合計で15重量%より多く65重量%以下含む組成物を重合して得られるアクリル系繊維であることがより好ましい。
【0028】
本発明の実施形態において、地糸を構成する繊維とパイル繊維との種類の組み合わせは、上記の条件を満足すれば、特に限定はないが、以下にその具体例を示す。
【0029】
地糸を構成する繊維として、例えばポリエチレンテレフタレート(PET、軟化点約258℃)繊維を用いる場合、パイル繊維としては、アクリル系繊維、又は、アクリル系繊維とアクリル繊維の混合繊維を用いることが好ましい。また、アクリル系繊維としては、好ましくは以下の繊維を用いることができる。
【0030】
(1)塩化ビニル−アクリロニトリル系繊維(例えば、株式会社カネカ製、商品名「カネカロン」、軟化点150〜220℃、文献値)
(2)塩化ビニリデン−アクリロニトリル系繊維(軟化点150〜220℃、文献値)
【0031】
地糸を構成する繊維として、例えばコットン(木綿、軟化点なし)繊維を用いる場合、パイル繊維としては、アクリル繊維を用いることが好ましい。また、アクリル繊維としては、例えば、株式会社エクスラン製、商品名「エクスランK691」(軟化点190〜232℃、文献値)等が挙げられる。
【0032】
上記パイル布帛の少なくとも裏面におけるパイル繊維には、アミノ変性シリコーン系柔軟剤、エポキシ変性シリコーン系柔軟剤及びカルボキシル変性シリコーン系柔軟剤からなる群から選ばれる一種以上の有機変性シリコーン系柔軟剤が付着されている。パイル布帛の表面におけるパイル繊維にはアミノ変性シリコーン系柔軟剤等の有機変性シリコーン系柔軟剤が付着してもよく、付着しなくても良い。パイル布帛の柔軟性を向上しつつ、毛抜けをより効果的に抑制する観点から、パイル布帛の裏面のパイル繊維におけるアミノ変性シリコーン系柔軟剤等の有機変性シリコーン系柔軟剤の付着量が、パイル布帛の表面のパイル繊維におけるアミノ変性シリコーン系柔軟剤等の有機変性シリコーン系柔軟剤の付着量より高いことが好ましい。以下において、特に指摘がないかぎり、「有機変性シリコーン系柔軟剤」は、アミノ変性シリコーン系柔軟剤、エポキシ変性シリコーン系柔軟剤及びカルボキシル変性シリコーン系柔軟剤からなる群から選ばれる一種以上を意味する。アミノ変性シリコーン系柔軟剤は、アミノ官能基を含有するポリシロキサンを主成分とする柔軟剤であればよく、特に限定されない。エポキシ変性シリコーン系柔軟剤は、エポキシ官能基を含有するポリシロキサンを主成分とする柔軟剤であればよく、特に限定されない。カルボキシル変性シリコーン系柔軟剤は、エポキシ官能基を含有するポリシロキサンを主成分とする柔軟剤であればよく、特に限定されない。ここで、「主成分」とは、柔軟剤における固形分の全体重量に対して、40重量%以上含まれることが好ましく、50重量%以上含まれることがより好ましく、60重量%以上含まれることがさらに好ましく、70重量%以上含まれることがさらにより好ましい。なお、本発明の効果を阻害しない範囲内において、パイル布帛の裏面及び/又は表面において、パイル繊維には有機変性シリコーン系柔軟剤以外の柔軟剤が付着されてもよい。
【0033】
有機変性シリコーン系柔軟剤は、パイル布帛の柔軟性を高めつつ、パイル繊維の毛抜けをより効果的に抑制する観点から、アミノ変性シリコーン系柔軟剤であることが好ましい。アミノ変性シリコーン系柔軟剤としては、特に限定されず、一般的な繊維の柔軟仕上げ剤として用いる、アミノ変性ポリシロキサンを乳化等の方法で分散させた溶液を用いることができる。ここで用いられるアミノ変性ポリシロキサンは、アミノ官能基が主鎖であるポリシロキサンの片末端もしくは両末端に付いていてもよく、側鎖についていてもよく、末端と側鎖の両方についていても良い。アミノ官能基の構造としては、特に限定されないが、例えば、モノアミンタイプ、ジアミンタイプ、トリアミンタイプ、ポリアミンタイプなどが挙げられる。アミノ変性シリコーン柔軟剤としては、特に限定されないが、例えば、松本油脂製薬株式会社製の「松本シリコンソフナーN−20」)、信越化学工業株式会社製「POLON−MF−14」、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製「TSF4702」などの市販のものを用いることができる。
【0034】
パイル布帛の裏面のパイル繊維の地糸より外側に配置されている少なくとも一部のパイル繊維が融着しているパイル布帛において、一般的に、パイル布帛のバックコーティングに用いるアクリル酸エステル系樹脂等のバッキング樹脂をパイル布帛の裏面に付着させることで、パイル布帛の裏面の柔軟性を高めているが、本発明では、パイル布帛の裏面のパイル繊維にアミノ変性シリコーン系柔軟剤等の有機変性シリコーン系柔軟剤を付着させることで、パイル布帛の裏面にバッキング樹脂を付着することなく、パイル布帛の柔軟性を高めることができる。また、パイル布帛の裏面にバッキング樹脂を付着させず、パイル布帛の裏面のパイル繊維に有機変性シリコーン系柔軟剤を付着させることで、パイル布帛裏面の触感(柔軟性、低摩擦性)が良好になる。
【0035】
上記パイル布帛の裏面におけるパイル繊維には、パイル繊維100重量部に対して、上記有機変性シリコーン系柔軟剤が0.4重量部以上付着されていればよいが、パイル布帛の裏面におけるパイル繊維100重量部に対して、上記有機変性シリコーン系柔軟剤の付着量は0.4〜2.5重量部であることが好ましく、0.4〜2.0重量部であることがより好ましく、0.4〜1.5重量部であることがさらに好ましい。有機変性シリコーン系柔軟剤の付着量が上記範囲内であると、より効果的に、パイル布帛の柔軟性を高めつつ、パイル繊維の毛抜けを抑制することができる。パイル繊維におけるアミノ変性シリコーン系柔軟剤などの有機変性シリコーン系柔軟剤の付着量は、例えば、蛍光X線分析法で求めることができる。例えば、アミノ変性シリコーン系柔軟剤の付着量は、波長分散型の蛍光X線分析装置を用いた蛍光X線分析法により、Si元素の定量を行い、検量線により算出することができる。具体的には、蛍光X線分析機RIX3100型(株式会社リガク社製)を用い、Rh管球(管電流50mA−管電圧50kV)、測定径30mmφ、分光結晶ペンタエリトリトール(PET)、2θ角106〜112°の条件でSi元素の分析を行い、まず、アミノ変性シリコーン系柔軟剤の含有量既知の試料を用いて検量線を作成する。次にパイル布帛裏面の地糸以外の部分(パイル繊維)等の測定対象繊維をプレス(錠剤成型機)で加圧成形することにより得た測定用サンプル(厚み3mm、直径30mm)にてSi元素の分析を行う。得られたSi検出カウントを検量線式に代入することで、アミノ変性シリコーン系柔軟剤の付着量を算出することができる。
【0036】
なお、本発明の効果を損なわない範囲で、バッキング樹脂を使用することができる。上記バッキング樹脂としては、一般的にパイル布帛のバックコーティングに用いるものを用いればよく、特に限定されない。例えば、アクリル酸エステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂等を使用することができる。また、上記バッキング樹脂を使用する場合は、後述のパイル布帛の製造方法において、熱圧着工程の前にパイル布帛の裏面に含浸させることが好ましい。バッキング樹脂の含浸は、アクリル酸エステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂等の樹脂のラテックス、エマルジョン、ディスパージョン等を用いて行うことができる。上記バッキング樹脂は、一種で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
以下、図面を用いて本発明のパイル布帛を説明する。
図1は本発明のパイル布帛の一実施形態のハイパイル布帛における地糸と地糸に絡むパイル繊維の位置関係を説明する模式図である。
図1に示すように、ハイパイル布帛5は、メリヤスのループ6を構成する地糸1と、地糸1のループ6に絡み地組織(ハイパイル布帛5)の表面7に開繊され立毛パイル3を形成しているパイル繊維2で構成される。また、地組織(ハイパイル布帛5)の裏面8において、地糸1の外側に配置されているパイル繊維2の少なくとも一部は熱圧着されて熱圧着部4を構成し、地糸1に熱圧着されている。パイル布帛の裏面に付着している有機変性シリコーン系柔軟剤は省略している。なお、
図1は、概ね、地糸1の下側にパイル繊維2を重ねるような位置関係を模式的に示しているが、本図において地糸1の外側とは、概ね地糸1の下側の部分を意味する。
【0038】
以下、本発明のパイル布帛の製造方法を説明する。
【0039】
まず、アクリル繊維及びアクリル系繊維からなる群から選ばれる少なくとも一つの繊維を含むパイル繊維と、上記パイル繊維より軟化点が高い地糸を用い、常法により、地組織と、上記地組織を構成する地糸に絡みかつ上記地組織の表面に立毛するパイル繊維を含むパイル布帛を作製する。パイル繊維は、好ましくはアクリル繊維及び/又はアクリル系繊維で構成される。この工程において、上記パイル繊維として、有機変性シリコーン系柔軟剤を付着したパイル繊維を用いた場合は、後述するパイル布帛の裏面に上記アミノ変性シリコーン系柔軟剤などの有機変性シリコーン系柔軟剤を付着させる工程を省略することもできるし、更に有機変性シリコーン系柔軟剤を塗布しても良い。パイル繊維へのアミノ変性シリコーン系柔軟剤などの有機変性シリコーン系柔軟剤の付着方法は、特に限定されず、公知の方法を適宜採用すればよい。例えば、パイル繊維を有機変性シリコーン系柔軟剤に浸漬してもよく、パイル繊維に有機変性シリコーン系柔軟剤を噴霧塗布してもよい。工程の簡便性から、パイル繊維への有機変性シリコーン系柔軟剤の付着は、染色と同時に行うことができる。もちろん、染色とは別工程で行ってもよいが、染色と別工程で行う場合は、パイル布帛の柔軟性を向上させる観点から、染色工程後に有機変性シリコーン系柔軟剤を付着させることが好ましい。上記有機変性シリコーン系柔軟剤は、一種で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、パイル布帛の原料として市販の有機変性シリコーン系柔軟剤(アミノ変性シリコーン系柔軟剤など)が付着している繊維を用いてもよい。市販の有機変性シリコーン系柔軟剤が付着している繊維をパイル繊維として用いる場合、パイル布帛を製造する前に、さらに繊維に有機変性シリコーン系柔軟剤を付着させてもよい。
【0040】
次に、パイル布帛の裏面に上記アミノ変性シリコーン系柔軟剤などの有機変性シリコーン系柔軟剤を付着させる。これにより、パイル布帛の裏面において、パイル繊維に有機変性シリコーン系柔軟剤が付着されることになる。パイル布帛の裏面へのアミノ変性シリコーン系柔軟剤などの有機変性シリコーン系柔軟剤の付着方法は、特に限定されず、公知の方法を適宜採用すればよい。例えば、パイル布帛の裏面に有機変性シリコーン系柔軟剤を含浸させてもよく、パイル布帛の裏面に有機変性シリコーン系柔軟剤を噴霧塗布してもよい。上記有機変性シリコーン系柔軟剤は、一種で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
柔軟剤は、通常、繊維の表面に柔軟性や滑り性などを付与するが、本願では、驚くことに、アクリル繊維及びアクリル系繊維からなる群から選ばれる少なくとも一つの繊維をパイル繊維とし、パイル布帛の裏面においてパイル繊維の地糸より外側に配置されているパイル繊維のうち少なくとも一部のパイル繊維を融着させるパイル布帛において、上述した有機変性シリコーン系柔軟剤をパイル布帛の裏面におけるパイル繊維に、パイル繊維100重量部に対して0.4重量部以上付着させることで、パイル布帛の柔軟性を向上しつつ、パイル繊維の毛抜けも抑制することができる。その理由は明確ではないが、パイル布帛の裏面におけるパイル繊維に有機変性シリコーン系柔軟剤を付着させ、後述するように、パイル布帛の裏面側を上記パイル繊維の軟化点以上かつ上記地組織を構成する繊維の軟化点未満の温度で熱圧着することで、パイル布帛の裏面においてパイル繊維に付着している有機変性シリコーン系柔軟剤における末端アミノ基等の官能基が架橋されるためであると推測される。パイル布帛の柔軟性を向上しつつ、パイル繊維の毛抜けをより効果的に抑制する観点から、有機変性シリコーン系柔軟剤が付着していないパイル繊維又は有機変性シリコーン系柔軟剤が付着されているパイル繊維を用いてパイル布帛を作製した後、パイル布帛の裏面側に有機変性シリコーン系柔軟剤を付着させることが好ましい。
【0042】
次に、上記パイル布帛の裏面側を上記パイル繊維の軟化点以上かつ上記地組織を構成する繊維の軟化点未満の温度で熱圧着する。これにより、上記地組織の表面に立毛するパイル繊維は融着させず、上記地組織の裏面において上記地組織を構成する地糸より外側に配置されているパイル繊維の一部又は全部を融着させる。熱圧着処理は、例えば、パイル布帛を裏面が加熱ロール又はホットプレートに接触するように配置し、ゴムロールなどにより加圧することにより行うことができる。加熱ロール又はホットプレートを用いる場合、短時間の熱圧着処理を行うことができ、地組織の裏面において、地糸より外側に配置されているパイル繊維の少なくとも一部を熱圧着することができる。そして、パイル布帛の表面のパイル繊維が溶融するほどの加熱はしないため、地組織の表面に立毛するパイル繊維は溶融しない。
【0043】
上記パイル布帛の裏面側から熱圧着処理する際及び/又は熱圧着処理した後、パイル布帛の表面に立毛するパイル繊維側は冷却することが好ましい。また、上記パイル布帛の裏面側から熱圧着処理した後、上記パイル布帛の裏面側を冷却することが好ましい。上記冷却手段として、パイル布帛の表面及び/又は裏面を水温50℃以下の水を通水させた冷却ロールで冷却することが好ましい。上記冷却ロールに通水させる水の水温は、冷却効率及び生産性の観点から、好ましくは10〜40℃であり、より好ましくは10〜35℃であり、さらに好ましくは15〜30℃である。このような冷却を行うと、パイル布帛の寸法安定性が保持でき、かつパイル繊維への熱ダメージも軽減させることができる。
【0044】
本発明のパイル布帛の製造方法の一例における熱圧着処理を、図を用いてさらに詳細に説明する。
【0045】
図2は、パイル布帛を裏面側から所定温度で熱圧着処理する工程を模式的に示した製造工程図である。熱圧着処理、具体的には熱圧着処理に使用する加工装置10は、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂をコーティングした加熱ロール11と、加熱ロール11に加圧し、内部に30℃の冷却水が通水する冷却ゴムロール12と、冷却ゴムロール12に加圧し、内部に30℃の冷却水が通水する金属冷却ロール13、内部に30℃の冷却水が通水する金属冷却ロール14と、ガイドロール15を含む。パイル布帛原反(有機変性シリコーン系柔軟剤を付着させたハイパイル布帛)18は容器16から導き出され、裏面18bが加熱ロール11に接触し、表面(立毛パイル側)18aが冷却ゴムロール12に接触するように供給する。また、熱圧着処理された後、裏面18bは、金属冷却ロール14で冷却される。加工の終了したパイル布帛19は、容器17に収納される。なお、熱圧着処理は、
図2に示した加工装置に限定されず、
図2に示した加工装置の一部の構成を変更した装置、ホットプレート、及びその他の装置を用いて行っても良い。例えば、冷却ゴムロール12の代わりに冷却しないゴムロールを用いることが可能であり、金属冷却ロール13は省略しても良い。熱圧着処理において、加熱温度はパイル繊維の軟化点以上かつ地糸を構成する繊維の軟化点未満であれば良く、加圧力は線圧で0.01〜100Kgf/cm
2(0.98KPa〜9.8MPa)、原反の供給速度は0.1〜20m/分、ヒーター(加熱ロールなど)接触時間は1〜60秒間であることが好ましい。また、パイル布帛の表面のダメージを軽減するという観点から、加圧力は線圧で2.0〜50Kgf/cm
2(0.20〜4.9MPa)、ヒーター接触時間は1〜10秒間であることがより好ましい。
【0046】
ハイパイル布帛の場合、熱圧着処理の際、ハイパイル布帛がウェール方向に収縮することから、熱圧着処理後、ウェール方向に延伸処理しても良い。
【0047】
延伸処理としては、ハイパイル布帛のウェール方向の両側端部(布耳部)を把持して、ウェール方向長さの延伸率が5〜20%程度になるようにウェール方向に引張ることが好ましく、より好ましくは7〜15%程度、さらに好ましくは8〜12%程度である。ウェール方向長さの延伸率は、下記式で示されるものである。
ウェール方向長さの延伸率(%)={(延伸後のウェール方向長さ−延伸前のウェール方向長さ)/延伸前のウェール方向長さ}×100
【0048】
また、延伸処理の際に加熱する場合は、90〜150℃で延伸処理することが好ましく、100〜130℃がより好ましく、105〜120℃がさらに好ましい。
【0049】
このような延伸処理は、例えばテンター等の公知の装置を用いて行うことができる。テンターは、一般的には、所定の温度で加熱しながら、布帛の両布耳部を保持して布帛を所定の幅に拡幅して熱セットするのに用いられるが、本発明では、上記のように、加熱しても加熱しなくても良い。また、テンターでは、布帛の布耳部を保持する方式としてクリップテンター方式とピンテンター方式があり、いずれを採用しても良いが、工程の安定性及び/又は生産性の観点から、ピンテンター方式を採用するのが好ましい。
【0050】
上記延伸処理を、ハイパイル布帛を加熱しながら行う場合は、ハイパイル布帛の表面にダメージを与えないよう、必要最小限の温度、必要最小限の風量で行うことが好ましい。
【0051】
本発明のパイル布帛は、毛抜けが抑制されており、後述する方法で測定した平均毛抜け量が4.0g/m
2以下であることが好ましく、3.0g/m
2以下であることがより好ましく、2.0g/m
2以下であることがさらに好ましい。また、後述する方法で測定した最大毛抜け量が5.0g/m
2以下であることが好ましく、4.0g/m
2以下であることがより好ましく、3.0g/m
2以下であることがさらに好ましい。
【0052】
本発明のパイル布帛は、柔軟性に優れる観点から、後述する方法で測定した90°距離が50mm以下であることが好ましく、45mm以下であることがより好ましい。
【実施例】
【0053】
以下実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0054】
<測定方法>
1.毛抜け量
図3に示すように、パイル布帛21(長さ280mm、幅210mm)を斜面の角度aが30°になるように斜めに配置されている金属板22の斜面上に毛並み方向が斜面上方へ向かうように配置し、100mmの長さにカットした粘着テープ23(スリーエム社製、Scotch No.850、25mm幅)をパイル布帛21の表面に張り付け、粘着テープ23の上から1.5g/cm
2の荷重を1分間かけた(図示なし)後、パイル布帛21から粘着テープ23を斜面上部に配置されている端部から連続的に剥離した。粘着テープに付着した毛の重量(g)を計測し、粘着テープ面積当たりの毛の重量(g/m
2)を算出し、毛抜け量とした。パイル布帛の任意の3箇所の毛抜け量を上記のように計測・算出し、平均毛抜け量と最大毛抜け量を求めた。
【0055】
2.毛抜け評価
毛抜け量に基いて、以下のように4段階のランクで毛抜け評価を行った。S、A評価及びB評価を合格とし、C評価を不合格とした。
S:平均毛抜け量が2.0g/m
2以下であり、かつ、最大毛抜け量が3.0g/m
2以下である。
A:平均毛抜け量が2.0g/m
2超3.0g/m
2以下であり、かつ、最大毛抜け量が3.0g/m
2超4.0g/m
2以下である。
B:平均毛抜け量が3.0g/m
2超4.0g/m
2以下であり、かつ、最大毛抜け量が4.0g/m
2超5.0g/m
2以下である。
C:平均毛抜け量が4.0g/m
2を超えており、かつ、最大毛抜け量が5.0g/m
2を超えている。(不合格レベル)
【0056】
(パイル布帛の柔軟性)
(1)パイル布帛を縦方向へ20mm幅に切り、長さ200 mm、幅20mmの生地片を得た。
(2)
図4Aに示しているように、パイル布帛の生地片31をメラミン樹脂製の水平な台32(幅600mm、長さ600mm)の上に配置した。次に、パイル布帛の毛並み方向に沿って、パイル布帛の生地片31を水平な台32から少しずつ水平な台32の外へスライドさせた。
(3)
図4Bに示しているように、水平な台32から外に出たパイル布帛の生地片31の先端に引いた接線41と、水平な台32との角度aが90°になるまでパイル布帛の生地片31をスライドさせた。
(4)パイル布帛の生地片31が水平な台32からスライドした距離L(90°距離)を計測し、下記の基準で柔軟性を評価した。
A:90°距離が50mm未満である(パイル布帛がかなり柔らかい)
B:90°距離が50mm以上55mm以下である(パイル布帛が柔らかい)
C:90°距離が55mmを超えている(パイル布帛が硬い)
【0057】
<繊維>
1.パイル繊維
(1)商品名「カネカロン(登録商標)ELP」(株式会社カネカ製):アクリル系繊維(塩化ビニル−アクリロニトリル系繊維)、軟化点180〜190℃、繊度27dtex、カット長102mm(以下において、単にELPと記す。)、アミノ変性シリコーン系柔軟剤の付着無し。
(2)商品名「カネカロン(登録商標)AH」(株式会社カネカ製):アクリル系繊維(塩化ビニル−アクリロニトリル系繊維)、軟化点180〜190℃、繊度7.8dtex、カット長76mm(以下において、単にAH7.8と記す。)、繊維100重量部に対してアミノ変性シリコーン系柔軟剤が0.3重量部付着している(蛍光X線分析法から求められた分析値)。
(3)商品名「カネカロン(登録商標)AH」(株式会社カネカ製):アクリル系繊維(塩化ビニル−アクリロニトリル系繊維)、軟化点180〜190℃、繊度5.6dtex、カット長51mm(以下において、単にAH5.6と記す。)、繊維100重量部に対してアミノ変性シリコーン系柔軟剤が0.3重量部付着している(蛍光X線分析法から求められた分析値)。
(4)商品名「カネカロン(登録商標)MCS」株式会社カネカ製):アクリル系繊維(塩化ビニル−アクリロニトリル系繊維)、軟化点180〜190℃、繊度4.4dtex、カット長32mm(以下において、単にMCSと記す。)、アミノ変性シリコーン系柔軟剤の付着無し。
なお、上記において、アクリル系繊維におけるアミノ変性シリコーン系柔軟剤の付着量は、波長分散型の蛍光X線分析装置を用いた蛍光X線分析法により、Si元素の定量を行い、検量線により算出した。具体的には、蛍光X線分析機RIX3100型(株式会社リガク社製)を用い、Rh管球(管電流50mA−管電圧50kV)、測定径30mmφ、分光結晶ペンタエリトリトール(PET)、2θ角106〜112°の条件でSi元素の分析を行い、まず、アミノ変性シリコーン系柔軟剤の含有量既知の試料を用いて検量線を作成した。次に測定対象繊維をプレス(錠剤成型機)で加圧成形することにより得た測定用サンプル(厚み3mm、直径30mm)にてSi元素の分析を行った。得られたSi検出カウントを検量線式に代入することで、アミノ変性シリコーン系柔軟剤の付着量を算出した。
2.地組織構成繊維(地糸)
トータル繊度334dtexのマルチフィラメント(50本のポリエステル単繊維からなる繊度167dtexのフィラメントを2本引き揃えた繊維糸)を使用した。軟化点は258℃である。
なお、上述した繊維の軟化点は、繊維1gを開繊し、任意の温度に加熱したホットプレート上に置き、加圧ロールで0.07Kgf/cm
2の圧力(ニップ圧)で3秒間加圧した時に、ホットプレートと接触した面の単繊維がそれぞれ軟化して結合し板状になる時の温度である。
【0058】
(実施例1)
フェイクファーを作製するためのスライバーニット機(丸編機)を使用して、地糸として上記のポリエステル繊維糸を使い、ELP、AH7.8及びAH5.6を、ELP/AH7.8/AH5.6=15/35/50(重量%)の混率にて均一に混合したパイル繊維スライバー(10〜14g)を供給し、ハイパイル布帛を編み立てた。地組織のウェールのループ数は16〜17個/インチ、コースのループ数は22〜33個/インチとした。次に、ハイパイル布帛の立毛面のパイル繊維をポリッシング及びシャーリングにより整えた。具体的には、先ずは120℃でポリッシングを2回行い、次いでシャーリングを2回行った。
【0059】
上記で得られたハイパイル布帛の裏面に、アミノ変性シリコーン系柔軟剤(固形分)が裏面側のパイル繊維100重量部に対して0.2重量部付着するように、アミノ変性シリコーン系柔軟剤(松本油脂製薬株式会社製、商品名「松本シリコンソフナーN−20」、固形分20重量%)の水溶液を噴霧塗布した。その後、ピンテンター乾燥機を用いて、乾燥機内温度125℃で、幅を160cmに延伸しながら、ハイパイル布帛を3分間乾燥させ、幅を160cmに保持したまま80℃以下に冷却した。
【0060】
上記で得られたハイパイル布帛(幅160cm)の裏面に対して
図2に示した熱圧着装置を用いて加熱ロールの温度が215℃、加熱ロールとハイパイル布帛の接触時間が3秒、加熱ロールと冷却ゴムロールのニップ圧が50Kgf/cm
2(4.9MPa)の条件で熱圧着処理を行なった。その際、ハイパイル布帛の生地幅は135cmに収縮した。その後、ピンテンター乾燥機を用いて、乾燥機内温度125℃で、幅を160cmに延伸しながら、ハイパイル布帛を3分間乾燥させ、幅を160cmに保持したまま80℃以下に冷却した。
【0061】
得られたハイパイル布帛において、パイル布帛の表面のパイル繊維をポリッシング、ブラッシング及びシャーリングにより整えた。具体的には、先ずはブラッシングを2回行ない、続いて155℃、150℃、145℃、130℃及び120℃でそれぞれ1回ずつポリッシングを行い、その後シャーリングを2回行い、最後に100℃でポリッシングを2回行った。最終的に、目付700g/m
2、立毛部のパイル繊維の長さ20mmのハイパイル布帛を得た。
【0062】
(実施例2)
パイル布帛の裏面におけるパイル繊維100重量部に対してアミノ変性シリコーン系柔軟剤(固形分)が1重量部付着するように、パイル布帛の裏面にアミノ変性シリコーン系柔軟剤の水溶液を噴霧塗布した以外は、実施例1と同様にして、ハイパイル布帛を作製した。
【0063】
(比較例1)
アミノ変性シリコーン系柔軟剤に代えて、未変性シリコーン系柔軟剤(松本油脂製薬株式会社製、商品名「ジメチルシリコーンK」、固形分20重量%)を用いた以外は、実施例1と同様にして、ハイパイル布帛を作製した。
【0064】
(比較例2)
アミノ変性シリコーン系柔軟剤に代えて、未変性シリコーン系柔軟剤(松本油脂製薬株式会社製、商品名「ジメチルシリコーンK」、固形分20重量%)を用いた以外は、実施例2と同様にして、ハイパイル布帛を作製した。
【0065】
(比較例3)
アミノ変性シリコーン系柔軟剤に代えて、脂肪酸系柔軟剤(塩城市嘉業紡織材料有限公司(Yancheng jiaye textile materials co,.LTD)製「PK−608」、固形分20重量%)を用いた以外は、実施例1と同様にして、ハイパイル布帛を作製した。
【0066】
(比較例4)
アミノ変性シリコーン系柔軟剤に代えて、脂肪酸系柔軟剤(塩城市嘉業紡織材料有限公司(Yancheng jiaye textile materials co,.LTD)製「PK−608」、固形分20重量%)を用いた以外は、実施例2と同様にして、ハイパイル布帛を作製した。
【0067】
(比較例5)
パイル布帛の裏面におけるパイル繊維に柔軟剤を付着させずに熱圧着処理を行った以外は、実施例1と同様にして、ハイパイル布帛を作製した。
【0068】
(比較例6)
パイル繊維スライバーとして、100重量%のAH7.8からなるスライバー(10〜14g)を用いた以外は、実施例1と同様にして、ハイパイル布帛を作製した。
【0069】
(比較例7)
パイル繊維スライバーとして、ELPとMCSを、ELP/MCS=20/80(重量%)の混率にて均一に混合したスライバー(10〜14g)を用いた以外は、実施例1と同様にして、ハイパイル布帛を作製した。
【0070】
実施例1〜2、比較例1〜7で得られたハイパイル布帛の毛抜け及び柔軟性を上述した方法で測定評価した。その結果を下記表1に示す。下記表1において、柔軟剤の付着量は、パイル布帛の裏面におけるパイル繊維100重量部に対する柔軟剤の重量割合である。具体的には、実施例1において、柔軟剤の付着量は、パイル繊維の原料として用いた繊維に付着されている柔軟剤と、パイル布帛の製造工程において追加でパイル布帛の裏面におけるパイル繊維に付着させた同じ種類の柔軟剤の付着量の合計であり、下記のように算出した。実施例2及び比較例1〜7でも、実施例1の場合と同様の方法で各種柔軟剤の付着量を算出した。
実施例1:パイル繊維の原料として用いた繊維100重量部に付着されているアミノ変性シリコーン系柔軟剤=AH7.8及びAH5.6由来=3(重量部)×85(重量%)=0.255重量部
パイル布帛の製造工程において追加でパイル布帛の裏面におけるパイル繊維100重量部に付着させたアミノ変性シリコーン系柔軟剤の付着量=0.2重量部
パイル布帛の裏面におけるパイル繊維100重量部に対するアミノ変性シリコーン系柔軟剤の付着量=0.255+0.2(重量部)=0.455重量部
【0071】
【表1】
【0072】
上記表1の結果から分かるように、パイル布帛の裏面におけるパイル繊維にアミノ変性シリコーン系柔軟剤が、パイル繊維100重量部に対して0.4重量部以上付着している実施例1及び2のパイル布帛は、パイル布帛の柔軟性が高く、パイル繊維の毛抜けも抑制されていた。
【0073】
一方、パイル布帛の裏面におけるパイル繊維に付着されているアミノ変性シリコーン系柔軟剤及び未変性シリコーン系柔軟剤の合計付着量がパイル繊維100重量部に対して0.4重量部以上であるが、パイル繊維100重量部に対するアミノ変性シリコーン系柔軟剤の付着量が0.4重量部未満である比較例1及び2のパイル布帛は、パイル布帛の柔軟性は良好であるものの、パイル繊維の毛抜け量が多かった。また、パイル布帛の裏面におけるパイル繊維に付着されているアミノ変性シリコーン系柔軟剤及び脂肪酸系柔軟剤の合計付着量がパイル繊維100重量部に対して0.4重量部以上であるが、パイル繊維100重量部に対するアミノ変性シリコーン系柔軟剤の付着量が0.4重量部未満である比較例3及び4のパイル布帛も、パイル布帛の柔軟性は良好であるものの、パイル繊維の毛抜け量が多かった。また、パイル布帛の裏面におけるパイル繊維に付着しているアミノ変性シリコーン系柔軟剤の付着量がパイル繊維100重量部に対して0.4重量部未満である比較例5及び6、パイル布帛の裏面におけるパイル繊維にアミノ変性シリコーン系柔軟剤が付着されていない比較例7のパイル布帛は、パイル繊維の毛抜けは抑制されているものの、パイル布帛が硬かった。