特許第6672519号(P6672519)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6672519-化成処理鋼板 図000009
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6672519
(24)【登録日】2020年3月6日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】化成処理鋼板
(51)【国際特許分類】
   C23C 28/00 20060101AFI20200316BHJP
   C23C 22/60 20060101ALI20200316BHJP
   C23C 22/68 20060101ALI20200316BHJP
   C23C 22/82 20060101ALI20200316BHJP
   C23C 2/06 20060101ALI20200316BHJP
   C23C 2/12 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
   C23C28/00 C
   C23C22/60
   C23C22/68
   C23C22/82
   C23C2/06
   C23C2/12
【請求項の数】6
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2019-157282(P2019-157282)
(22)【出願日】2019年8月29日
【審査請求日】2019年11月26日
(31)【優先権主張番号】特願2019-113077(P2019-113077)
(32)【優先日】2019年6月18日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】714003416
【氏名又は名称】日鉄日新製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】西田 義勝
(72)【発明者】
【氏名】松野 雅典
(72)【発明者】
【氏名】上野 晋
(72)【発明者】
【氏名】山木 信彦
(72)【発明者】
【氏名】上田 耕一郎
【審査官】 ▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−133527(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/203703(WO,A1)
【文献】 特開2010−248600(JP,A)
【文献】 特開2004−292879(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00 − 22/86
C23C 28/00 − 28/04
C23C 2/06
C23C 2/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材鋼板の表面にZn系めっき層を有するZn系めっき鋼板と、
前記Zn系めっき層の表面上に形成された化成処理皮膜と、を有し、
前記化成処理皮膜は、4族金属のオキソ酸塩、アンモニウム化合物、4族金属のリン酸塩、および、4族金属を含まないリン酸塩を含み、
前記化成処理皮膜中の、窒素の原子比率をX、4族金属の原子比率をYとしたときに、X/(X+Y)が0.15〜0.35であり、
前記4族金属のオキソ酸塩は、TiまたはZrの水素酸塩、アンモニウム塩、アルカリ金属塩、またはアルカリ土類金属塩であり、
前記アンモニウム化合物は、炭酸ジルコニウムアンモニウムまたはリン酸水素二アンモニウムであることを特徴とする化成処理鋼板。
【請求項2】
前記4族金属のオキソ酸塩は、Zrオキソ酸塩であることを特徴とする請求項1に記載の化成処理鋼板。
【請求項3】
前記化成処理皮膜は、5族金属のオキソ酸塩、およびCrを除く6族金属のオキソ酸塩から選択される少なくとも1種の化合物をさらに含むことを特徴とする請求項1または2に記載の化成処理鋼板。
【請求項4】
前記化成処理皮膜は、1族金属を含有する化合物をさらに含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の化成処理鋼板。
【請求項5】
前記Zn系めっき層は、Znを40質量%以上含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の化成処理鋼板。
【請求項6】
前記4族金属を含まないリン酸塩は、リン酸水素二アンモニウムであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の化成処理鋼板
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、Zn系めっき鋼板の表面に化成処理皮膜が形成された化成処理鋼板、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Zn系めっき鋼板は、自動車、建材、家電製品などの幅広い用途で使用されている。通常、めっき鋼板の表面には、塗油せずに耐食性を付与するため、クロムフリーの化成処理が施されている。従来、化成処理液として、防錆剤の違いにより、チタン系、ジルコニウム系、モリブデン系、これらを複合化させた系などが開発されている。また、耐食性を高めるために、シランカップリング剤やシランなどをさらに添加した系も開発されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−55777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術のように、化成処理皮膜がZrなどの4族金属のオキソ酸塩を主体とする場合、化成処理皮膜が酸およびアルカリに対するバリア性が高いガラス質になる。そのため、化成処理鋼板に塗装を行う場合に、塗装の前処理であるリン酸塩処理においてめっき層の溶解が起こらないため、リン酸塩皮膜が形成されない。その結果、塗装後における塗装膜と化成処理鋼板との密着性が劣るという問題があった。
【0005】
本発明の一態様は、塗装密着性に優れる化成処理鋼板およびその製造方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る化成処理鋼板は、基材鋼板の表面に、Zn系めっき層を有するZn系めっき鋼板と、前記Zn系めっき層の表面上に形成された化成処理皮膜と、を有し、前記化成処理皮膜は、有機リン酸塩、無機リン酸塩、4族金属のオキソ酸塩、および、アンモニウム化合物を含み、前記化成処理皮膜中の、(窒素の原子比率)/{(4族金属の原子比率)+(窒素の原子比率)}が0.15〜0.35である。
【0007】
また、本発明の一態様における化成処理鋼板の製造方法は、Zn系めっき層を基材鋼板の表面に有するZn系めっき鋼板に対して、4族金属のオキソ酸塩、アンモニウム化合物、有機リン、および、無機リンを含む化成処理液を塗布する塗布ステップと、前記化成処理液を加熱乾燥させて前記Zn系めっき鋼板の表面上に化成処理皮膜を形成する加熱乾燥ステップと、を含み、前記加熱乾燥ステップでは、前記塗布ステップにおける前記化成処理液の塗布完了直後から静置時間35秒以内にて、前記化成処理液の加熱乾燥を開始し、前記Zn系めっき鋼板の温度が80℃に到達するまでの昇温時間を1秒以上10秒以下とし、前記Zn系めっき鋼板の最高到達温度を170℃以下として前記化成処理液を加熱乾燥する。
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る化成処理鋼板は、基材鋼板の表面に、Zn系めっき層を有するZn系めっき鋼板と、前記Zn系めっき層の表面上に形成された化成処理皮膜と、を有し、前記化成処理皮膜は、4族金属のオキソ酸塩、アンモニウム化合物、4族金属のリン酸塩、および、4族金属を含まないリン酸塩を含み、前記化成処理皮膜中の、窒素の原子比率をX、4族金属の原子比率をYとしたときに、X/(X+Y)が0.15〜0.35である。
【0009】
また、本発明の一態様における化成処理鋼板の製造方法は、Zn系めっき層を基材鋼板の表面に有するZn系めっき鋼板に対して、4族金属のオキソ酸塩、アンモニウム化合物、4族金属のリン酸、および、4族金属を含まないリン酸を含む化成処理液を塗布する塗布ステップと、前記化成処理液を加熱乾燥させて前記Zn系めっき鋼板の表面上に化成処理皮膜を形成する加熱乾燥ステップと、を含み、前記加熱乾燥ステップでは、前記塗布ステップにおける前記化成処理液の塗布完了直後から静置時間35秒以下にて、前記化成処理液の加熱乾燥を開始し、前記Zn系めっき鋼板の温度が80℃に到達するまでの昇温時間を1秒以上10秒以内とし、前記Zn系めっき鋼板の最高到達温度を70℃以上170℃以下として前記化成処理液を加熱乾燥する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、塗装密着性に優れる化成処理鋼板およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態1に係る化成処理鋼板を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態における化成処理鋼板の製造方法の一例を概略的に示すフローチャートである。
図3】本発明の実施形態2に係る化成処理鋼板を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。なお、以下の記載は発明の趣旨をよりよく理解させるためのものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、本明細書において、「A〜B」とは、A以上B以下であることを示している。
【0013】
<発明の知見の概略的な説明>
始めに、本発明者らの見出した知見の概要について説明すれば以下のとおりである。
【0014】
4族金属のオキソ酸塩は無機高分子化し易いため、4族金属のオキソ酸塩を含む化成処理液を用いることにより、4族金属の化合物による緻密な3次元構造の化成処理皮膜を形成することができる。このため、一般に、化成処理の原料として、4族金属のオキソ酸塩が多用されている。
【0015】
しかし、4族金属のオキソ酸塩から形成した皮膜はガラス質であるため、酸およびアルカリに対するバリア性が高い。そのため、化成処理鋼板に塗装を行う場合に、塗装の前処理であるリン酸塩処理においてめっき層の溶解が起こらないため、リン酸塩皮膜が形成されない。その結果、塗装後における塗装膜と鋼板との密着性が劣ってしまう。本発明者らは、塗装膜と鋼板との密着性に優れる化成処理鋼板を実現すべく鋭意検討し、以下のような新たな知見を得た。
【0016】
すなわち、本発明者らは、化成処理皮膜中に、4族金属のオキソ酸塩、および、アンモニウム化合物を含ませ、かつ、化成処理皮膜中の、(窒素の原子比率)/{(4族金属の原子比率)+(窒素の原子比率)}を所定の範囲にすることにより、化成処理皮膜中における4族金属のオキソ酸塩が高分子化することを抑制することができることを見出した。これにより、アルカリ溶液中に化成処理皮膜が溶解することで、塗装の前処理であるリン酸塩処理においてめっき層の溶解が起こりやすくなるため、リン酸塩皮膜を形成しやくすることができる。その結果、塗装膜と鋼板との密着性が高い化成処理鋼板を実現することができる。
【0017】
また、本発明者らは、化成処理皮膜中に、有機リン酸塩と無機リン酸塩とをさらに含ませることにより、化成処理皮膜の耐食性を確保しつつ、アルカリ溶液中に化成処理皮膜が溶解しやすくなることを見出した。化成処理皮膜として存在しているリン酸塩がアルカリ溶液中に溶解しやすくなることにより、リン酸塩処理時に処理液とめっき層との反応を阻害する被膜が消失するため、リン酸塩被膜が析出しやすくなる。その結果、塗装膜と鋼板との密着性がさらに高い化成処理鋼板を実現することができる。
【0018】
以下に、本発明の一態様における化成処理鋼板およびその製造方法について詳述する。
【0019】
<化成処理鋼板>
図1は、本発明の一態様における化成処理鋼板1を模式的に示す断面図である。図1に示すように、本実施形態における化成処理鋼板1は、基材鋼板11の表面にZn系めっき層12を有するZn系めっき鋼板10と、前記Zn系めっき層の表面(前記Zn系めっき鋼板の表面)上に形成された化成処理皮膜20と、を有する。
【0020】
(Zn系めっき鋼板)
化成処理の対象となる原板(化成処理原板)は、耐食性および意匠性に優れるZn系めっき鋼板10が使用される。本実施形態における「Zn系めっき鋼板」とは、基材鋼板11の表面に、Zn系めっき層12を有するめっき鋼板を意味する。Zn系めっき層10は、Al、Mg、Si、Ti、Bからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有してもよい。
【0021】
本発明のZn系めっき層12は、Zn系めっき層12と化成処理皮膜20との密着性を向上させるために、Znを40質量%以上含有することが好ましい。これは、Zn系めっき層12がZnを40質量%以上含有することにより、化成処理皮膜20が形成されるZn系めっき層12の表面においてZnを含有する相の割合が大きくなり、Zn系めっき層12と化成処理皮膜20との間において充分な密着性が得られるためである。
【0022】
本実施形態におけるZn系めっき鋼板10のZn系めっき層12は、Al含有量が0.1質量%以上55.0質量%以下であってよく、Mg含有量が1.5質量%以上10.0質量%以下であってもよい。また、Zn系めっき層12は、基材鋼板11とZn系めっき層12との密着性を向上させるために、Siを0.005質量%以上2.0質量%の範囲で含有してもよい。さらに、Zn系めっき鋼板10の外観および耐食性に悪影響を与えるZn11Mg2相の生成および成長を抑制するために、Tiを0.001質量%以上0.1質量%以下の範囲内、および、Bを0.0005質量%以上0.045質量%以下の範囲内で含有することが好ましい。
【0023】
Zn系めっき鋼板10は、溶融めっき法、電気メッキ法などの従来のめっき法によって製造される。Zn系めっき鋼板10の基材鋼板11の種類は、特に限定されず、例えば、普通鋼、低合金鋼、ステンレス鋼、等を用いることができる。
【0024】
(化成処理皮膜)
化成処理皮膜20は、Zn系めっき鋼板10の耐食性を向上させるための膜である。本明細書における「耐食性」とは、平坦部耐食性または加工部耐食性のいずれかである。「加工部耐食性」とは、化成処理鋼板1における、化成処理鋼板1を変形させる加工(例えば、曲げ加工)を施した部分(加工部)の耐食性であって、特に180°曲げ加工のような厳しい曲げ加工を施した場合における加工部の耐食性である。「平坦部耐食性」とは、化成処理鋼板1における、上記加工部以外の部分の耐食性である。
【0025】
本実施形態の化成処理皮膜20は、化成処理液とZn系めっき鋼板10の表面との反応により形成された、Zn系めっき鋼板10の表面に位置する反応層21(第1化成処理層)と、反応層21の上層に形成された、4族金属のオキソ酸塩の重合体を主体とする第2化成処理層22と、を有する。
【0026】
本実施形態の化成処理皮膜20について、化成処理皮膜20を形成するために用いられる化成処理液と併せて以下に説明する。なお、以下では、説明の平明化のために、反応層21と第2化成処理層22とを区別することなく化成処理皮膜20について説明するが、以下に説明することは主に第2化成処理層22に関連する。
【0027】
本実施形態における化成処理皮膜20は、4族金属のオキソ酸塩、アンモニウム化合物、有機リン(有機リン酸塩)、および、無機リン(無機リン酸塩)、を含む化成処理液をZn系めっき鋼板10に塗布し、該化成処理液を乾燥させることによりZn系めっき鋼板10の表面に形成される。これにより形成された化成処理皮膜20は、4族金属のオキソ酸塩、アンモニウム化合物、有機リン酸塩、および、無機リン酸塩を少なくとも含む。なお、化成処理液のpHを7〜9にすることで、4族金属のオキソ酸塩の重合が好適に進行する。
【0028】
(4族金属のオキソ酸塩)
4族金属のオキソ酸塩は、緻密な化成処理皮膜20を形成するための成分であり、化成処理鋼板1の耐食性を向上させる。4族金属は、特に限定されるものではなく、Ti、Zr、またはHfを用いることができる。本願明細書において、オキソ酸塩とはIUPAC
NIC1990にて定義された意味で用いる。また、4族金属のオキソ酸塩は、4族金属元素である核の周囲に複数(典型的には4、5、または6個)の酸素原子が配位した構造を有する4族金属オキソ酸イオンと、何らかのカチオン種とからなる塩である。
【0029】
なお、4族金属としては、Zrであることが好ましい。これは、4族金属としてTiを用いる場合、Tiの水溶性の化合物はフッ化物塩であり、貯蔵安定性が低下する傾向があるからである。また、Hfは、高価であるために化成処理皮膜の製造コストが高くなる。
【0030】
4族金属のオキソ酸塩は、例えば、水素酸塩、アンモニウム塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などであり、特に、耐食性の観点から4族金属オキソ酸のアンモニウム塩であることが好ましく、炭酸ジルコニウムアンモニウムが特に好ましい。化成処理皮膜20に4族金属のオキソ酸塩の皮膜を形成するためには、化成処理液に、4族金属化合物として、4族金属の炭酸塩、ペルオキソ酸塩などを含有させておけばよい。
【0031】
本実施形態の化成処理液では、4族金属の濃度が35g/L以下であることが好ましい。化成処理液中の4族金属の濃度が35g/Lよりも高い場合、化成処理液を保存している間に、4族金属同士が結合し化成処理液がゲル状化してしまう。そのため、化成処理皮膜20を良好に形成することができなくなる。すなわち、本実施形態の化成処理液は、4族金属の濃度が35g/L以下であることにより、長期保管性が高いものとなっている。なお、化成処理液の組成と、その化成処理液を塗布して乾燥させて形成した化成処理皮膜20の組成はほぼ同等である。
【0032】
(アンモニウム化合物)
アンモニウムは、化成処理皮膜20の成膜過程において、4族金属のオキソ酸塩を錯化し、4族金属のオキソ酸塩が高分子化することを抑制する。そのため、本実施形態では、化成処理液にアンモニアまたはアンモニウム塩を含有させる。その結果、本実施形態における化成処理皮膜20は、アンモニウム化合物を含む。なお、4族金属のオキソ酸塩が高分子化することを抑制するためには、化成処理液に4族金属化合物のアンモニウム塩を含有させることが好ましい。
【0033】
本実施形態における化成処理鋼板1では、化成処理皮膜20中の、窒素の原子比率をX、4族金属原子比率をYとしたときに、X/(X+Y)が0.15〜0.35である。X/(X+Y)が0.15〜0.35であることにより、化成処理皮膜20中における4族金属のオキソ酸塩が高分子化することを抑制することができる。このため、塗装の前処理であるリン酸塩処理においてめっき層の溶解が起こりやすくなり、リン酸塩皮膜を形成しやくなる。その結果、塗装膜と化成処理鋼板1との密着性を高くすることができる。
【0034】
X/(X+Y)が0.15よりも小さい場合、アンモニウムによる高分子化の抑制の効果が小さくなる。そのため、4族金属のオキソ酸塩が高分子化してしまい、アルカリ溶液への化成処理皮膜20の溶解性が低下してしまう。その結果、リン酸塩処理工程において、リン酸塩の結晶が析出しなくなってしまう。一方、X/(X+Y)が0.35よりも大きい場合、化成処理皮膜20のバリア性が低下してしまい、平坦部の耐食性が低下してしまう。
【0035】
なお、化成処理液における4族金属に対するアンモニウムのモル比は、1以上3以下であることが好ましい。4族金属に対するアンモニウムのモル比が1未満である場合、化成処理皮膜20におけるX/(X+Y)を0.15〜0.35に調整するための乾燥条件の詳細な制御が必要となってしまい、生産性が低下してしまう。また、4族金属に対するアンモニウムのモル比が3よりも大きい場合、化成処理皮膜20の成膜過程における窒素の排気量が多くなってしまい、環境上好ましくない。
【0036】
(無機リン酸塩)
無機リン酸塩は反応性が高いため、化成処理皮膜20が無機リン酸塩を含むことにより化成処理皮膜20が強固になり、化成処理皮膜20の耐食性が向上する。無機リン酸塩は、例えば、リン酸アルカリ金属塩(例えば、二リン酸ナトリウム、二リン酸カリウム、トリポリリン酸ナトリウム)、リン酸アルカリ土類金属塩(例えば、二リン酸カルシウムなど)、リン酸アンモニウム(例えば、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸三アンモニウムなど)などを用いることができる。化成処理皮膜20に無機リン酸塩を含ませるためには、化成処理液に無機リンを添加すればよい。化成処理液に添加する無機リンとしては、リンを含む水溶性の化合物であれば、制限されるものではない。
【0037】
(有機リン酸塩)
有機リン酸塩は、アルカリ溶液中に化成処理皮膜20として存在しているリン酸塩の溶解を促進する。これにより、リン酸塩処理液とZn系めっき層12との反応を阻害する皮膜が消失するため、リン酸塩被膜が析出しやすくなる。有機のリン酸塩として、例えば、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、ニトリロトリス(メチレン−ホスホン酸)などを用いることができる。化成処理皮膜20に有機リン酸塩を含ませるためには、化成処理液に有機リンを添加すればよい。化成処理液に添加する有機リンとしては、リンを含む水溶性の化合物であれば、制限されるものではない。
【0038】
本実施形態における化成処理鋼板1は、化成処理皮膜中に有機リン酸塩と無機リン酸塩とを含むことにより、化成処理皮膜20の耐食性を確保しつつ、アルカリ溶液中に化成処理皮膜20として存在しているリン酸塩が溶解しやすくなっている(換言すれば、塗装密着性が高くなっている)。
【0039】
なお、本実施形態における化成処理鋼板1では、化成処理皮膜20中の、有機リン酸塩のモル比率をA、無機リン酸塩のモル比率をBとしたときに、A/(A+B)が0.5〜0.9とすることが好ましい。
【0040】
A/(A+B)が0.5よりも小さい場合(すなわち、化成処理皮膜20における、リン酸塩全体に対する有機リン酸塩の割合が小さい場合)、有機リン酸塩によるリン酸塩の溶解の促進効果が小さくなってしまう。一方、A/(A+B)が0.9よりも大きい場合(すなわち、化成処理皮膜20における、リン酸塩全体に対する無機リン酸塩の割合が小さい場合)、化成処理皮膜20の耐食性が低下してしまう。
【0041】
(化成処理皮膜におけるその他の成分)
本発明の一態様の化成処理鋼板1では、化成処理皮膜20中に、4族金属のオキソ酸塩以外に、5族金属および/または6族金属(但し、Crは除く)のオキソ酸塩を含んでいてもよい。化成処理皮膜20中に5族金属および/または6族金属のオキソ酸塩を含むことにより、加工時の化成処理皮膜20のクラック発生を抑制することができる(換言すれば、化成処理皮膜20の耐食性を向上させることができる)。ただし、5族金属および/または6族金属のオキソ酸塩の量が多くなると、化成処理皮膜20が強固になりすぎてしまい、アルカリ脱脂処理やリン酸塩処理において化成処理皮膜20が溶解しにくくなってしまう。そのため、化成処理皮膜20中に含まれる5族金属および/または6族金属のオキソ酸塩は、50質量%以下であることが好ましい。
【0042】
本発明の一態様の化成処理鋼板1では、化成処理皮膜20中に、1族金属を含有する化合物をさらに含むことが好ましい。化成処理皮膜20中に1族金属を含有することにより、化成処理皮膜20中の水酸基が増加する。これにより、化成処理皮膜20とZn系めっき鋼板10との間に結合が生じやすくなる。その結果、化成処理皮膜20とZn系めっき鋼板10との密着性を向上させることができる。また、化成処理皮膜20中の水酸基が増加すると、化成処理液を乾燥させる際に、化成処理皮膜20中から水分が除去されることを抑制される。これにより、化成処理皮膜20を形成するときに、化成処理皮膜20にクラックが発生することを抑制することができる。その結果、製造される化成処理鋼板1の耐食性を向上させることができる。
【0043】
また、1族金属は、化成処理液の長期保存性(処理液安定性)を向上させる機能を有する。これは、1族金属が化成処理液中に含まれることによって化成処理液中の水酸基の量が多くなることにより、4族金属およびリンが結合することを抑制できるためである。すなわち、1族金属を化成処理液に含めることにより、化成処理液がゲル状になることを抑制する、すなわち、化成処理液の長期保管性を向上させることができる。
【0044】
化成処理皮膜20に1族金属の化合物を含ませるためには、化成処理液に、例えば、1族金属のリン酸化合物、またはその他の1族金属の化合物(例えば、水酸化物)を含ませればよい。
【0045】
また、本発明の一態様の化成処理鋼板1では、塗装膜と鋼板との密着性を低下させない程度の量であれば、有機樹脂を含んでいてもよい。
【0046】
本実施形態で用いる化成処理液は、特定のオキソ酸を含む塩としてリン酸塩を含むとともに1族金属を含む場合、4族金属に対するリンのモル比が0.5〜4であり、4族金属に対する1族金属のモル比が0.02〜0.8であり、かつ、リンに対する1族金属のモル比が0.01以上であることが好ましい。
【0047】
化成処理液中の、4族金属に対するリンのモル比が0.5よりも小さい場合、および、4族金属に対するリンのモル比が4よりも大きい場合、化成処理皮膜20が塩化物イオンなどの腐食因子を透過させやすい膜となるため、化成処理鋼板1の耐食性が低下してしまう。
【0048】
化成処理液中の、4族金属またはリンに対する1族金属のモル比が上記の値よりも小さい場合、形成した化成処理皮膜20において、1族金属に由来する水酸基の数が十分ではなくなる。そのため、4族金属およびリンを主成分とする化成処理皮膜20と、Zn系めっき鋼板10との間に結合が少なくなる。その結果、化成処理皮膜20とZn系めっき鋼板10との密着性が十分ではなくなる。
【0049】
化成処理液中の、4族金属に対する1族金属のモル比が0.8よりも大きい場合、化成処理皮膜20が腐食因子により分解されやすくなるため、化成処理鋼板1の耐食性が低下してしまう。
【0050】
また、化成処理液の長期保管性の観点からは、4族金属に対する1族金属のモル比が0.5以上であり、かつ、リンに対する1族金属のモル比が0.18以上であることが好ましい。
【0051】
本実施形態の化成処理液は、例えば、4族金属の濃度が5〜35g/L、リンの濃度が0.8〜60g/L、1族金属の濃度が0.2g/L以上である。また、本実施形態の化成処理液は、上述の物質以外に、アミン、シランカップリング剤などを含んでいてもよい。アミンは、Vの価数を5価に維持した状態で、バナジウムを含む塩を化成処理液中に溶解させるとともに、モリブデン酸塩から5価または6価のMoの複合オキソ酸塩を形成させる。アミンは、分子量が80以下の低沸点アミンであることが好ましい。アミンとして、例えば、エタノールアミン、1−アミノ−2−プロパノール、エチレンジアミンなどを用いることができる。
【0052】
(製造方法)
以下、本発明の一態様における化成処理鋼板1の製造方法(以下、単に「本製造方法」と称することがある)について、図2を用いて説明する。
【0053】
図2に示すように、本製造方法では、概略的には、先ず、化成処理原板としてのZn系めっき鋼板10を準備する(S1:原板準備ステップ)。次いで、Zn系めっき鋼板10に化成処理を適切に施すための前処理を行う(S2:前処理ステップ)。前処理ステップS2では、化成処理において一般的に行われる前処理を行えばよく、概略的には、Zn系めっき鋼板10の表面を清浄にする処理が行われる。
【0054】
次いで、化成処理液を塗布する直前の段階(S3:処理液塗布直前ステップ)において、前処理後のZn系めっき鋼板10の板温を60℃以下、好ましくは50℃以下、さらに好ましくは、常温にする。これは、化成処理液を塗布する直前のZn系めっき鋼板10の表面温度が高すぎると、化成処理液の乾燥(すなわち化成処理液中での反応)が促進され、4族金属のオキソ酸塩が高分子化してしまうためである。
【0055】
次いで、前処理後のZn系めっき鋼板10の表面に、少なくとも4族金属のオキソ酸塩、アンモニウム化合物、有機リン、および、無機リンを含む化成処理液を塗布する(S4:塗布ステップ)。塗布ステップS4では、化成処理液の液温を55℃以下とする。なお、化成処理液の液温は、50℃以下とすることが好ましく、常温とすることがさらに好ましい。これは、化成処理液の温度が高すぎると、化成処理液の乾燥(すなわち化成処理液中での反応)が促進され、4族金属のオキソ酸塩が高分子化してしまうためである。
【0056】
塗布ステップS4では、ロールコート法、スピンコート法、スプレー法などの手法を用いることができる。Zn系めっき鋼板10の表面への化成処理液の付着量は、50〜1000mg/m2の範囲であることが好ましい。付着量が50mg/m2未満の場合、化成処理皮膜20の厚みが薄くなるため、十分な耐食性を得ることができない。また、付着量が1000mg/m2よりも多い場合、化成処理皮膜20の厚みが厚くなり過ぎてしまい、耐食性が過剰となってしまう。スポット溶接性を考慮した場合、Zn系めっき鋼板10の表面への化成処理液の付着量は、50〜500mg/m2の範囲であることがより好ましい。
【0057】
次いで、化成処理液が表面に塗布されたZn系めっき鋼板10は、塗布ステップにおける化成処理液の塗布完了直後から乾燥開始までの時間(本明細書において、セットリングタイムまたは静置時間と称する)、短時間静置されることになる(S5:短時間静置ステップ)。このセットリングタイムが長いほど、化成処理液中での反応が進行し、4族金属のオキソ酸塩が高分子化してしまう。そのため、セットリングタイムは35秒以内とすることが好ましく、30秒以内とすることがより好ましい。なお、化成処理液とZn系めっき鋼板10との反応時間を確保するため、セットリングタイムは2秒以上とすることが好ましい。
【0058】
次いで、化成処理液が表面に塗布されたZn系めっき鋼板10を加熱して、化成処理液を乾燥させる(S6:加熱乾燥ステップ)。加熱乾燥ステップS6では、所望の化成処理皮膜20が得られるよう化成処理液中での反応を適正な速度で進行させるために、Zn系めっき鋼板の表面温度が80℃に到達するまでの昇温時間を1秒以上10秒以下とし、好ましくは2秒以上7秒以下とする。
【0059】
Zn系めっき鋼板の表面温度が80℃に到達するまでの昇温時間が1秒未満の場合、化成処理液とZn系めっき鋼板との反応時間が短く、化成処理鋼板1の耐食性が低下するため好ましくない。また、Zn系めっき鋼板の表面温度が80℃に到達するまでの昇温時間が10秒よりも長い場合、化成処理鋼板1の生産性が低下するため好ましくない。
【0060】
また、加熱乾燥ステップS6において、Zn系めっき鋼板10の最高到達温度が高い場合は、化成処理皮膜20の脱水が進行して化成処理皮膜20が硬くなり、加工部耐食性が劣化し得る。そのため、Zn系めっき鋼板10の最高到達温度を170℃以下とし、好ましくは、160℃以下とする。加熱乾燥ステップS6では、例えば電気炉を用いて、大気雰囲気下にて加熱乾燥を行う。また、Zn系めっき鋼板10の最高到達温度が低い場合は、化成処理皮膜20の窒素が残存することに起因して平坦部の耐食性が低下してしまう。そのため、Zn系めっき鋼板10の最高到達温度を70℃以上とする。
【0061】
次いで、Zn系めっき鋼板10の表面に化成処理皮膜20が形成された化成処理鋼板1を冷却する(S7:冷却ステップ)。これにより、本実施形態の化成処理鋼板1が得られる。
【0062】
〔実施形態2〕
本発明の化成処理鋼板の他の実施形態について、以下に説明する。なお、本実施形態で説明する事項以外の事項については、実施形態1で説明した事項と同様であるため、説明を省略する。
【0063】
本発明者らは、化成処理皮膜中に、4族金属のリン酸塩と4族金属を含まないリン酸塩とを含ませることにより、化成処理皮膜の耐食性を確保しつつ、アルカリ溶液中に化成処理皮膜が溶解しやすくなることを見出した。化成処理皮膜として存在しているリン酸塩がアルカリ溶液中に溶解しやすくなることにより、リン酸塩処理時に処理液とめっき層との反応を阻害する皮膜が消失するため、リン酸塩皮膜が析出しやすくなる。その結果、塗装膜と鋼板との密着性がさらに高い化成処理鋼板を実現することができる。
【0064】
図3は、本発明の実施形態における化成処理鋼板1Aを模式的に示す断面図である。図1に示すように、化成処理鋼板1Aは、実施形態1における化成処理皮膜20に代えて、化成処理皮膜20Aを有する。
【0065】
本実施形態における化成処理皮膜20Aは、4族金属のオキソ酸塩、アンモニウム化合物、4族金属のリン酸(4族金属のリン酸塩)、および、4族金属を含まないリン酸(4族金属を含まないリン酸塩)を含む化成処理液をZn系めっき鋼板10に塗布し、該化成処理液を乾燥させることによりZn系めっき鋼板10の表面に形成される。これにより形成された化成処理皮膜20Aは、4族金属のオキソ酸塩、アンモニウム化合物、4族金属のリン酸塩、および、4族金属を含まないリン酸塩を少なくとも含む。
【0066】
4族金属のリン酸塩は反応性が高い。そのため、化成処理皮膜20Aが4族金属のリン酸塩を含むことにより、化成処理皮膜20Aが強固になり、化成処理皮膜20Aの耐食性が向上する。また、4族金属を含まないリン酸塩は、アルカリ溶液中に化成処理皮膜20Aとして存在しているリン酸塩の溶解を促進する。そのため、化成処理皮膜20Aが4族金属を含まないリン酸塩を含むことにより、リン酸塩処理液とZn系めっき層12との反応を阻害する皮膜が消失し、リン酸塩皮膜が析出しやすくなる。以上のことから、化成処理皮膜20Aに4族金属のリン酸塩、および、4族金属を含まないリン酸塩を含ませることにより、耐食性および塗装密着性に優れる化成処理鋼板を実現することができる。
【0067】
なお、本実施形態における化成処理鋼板1Aでは、化成処理皮膜20A中の、4族金属を含まないリン酸塩のモル比率をD、4族金属のリン酸塩のモル比率をEとしたときに、D/(D+E)が0.2〜0.7とすることが好ましい。
【0068】
D/(D+E)が0.2よりも小さい場合(すなわち、化成処理皮膜20Aにおける、リン酸塩全体に対する4族金属を含まないリン酸塩の割合が小さい場合)、4族金属を含まないリン酸塩によるリン酸塩の溶解の促進効果が小さくなってしまう。一方、D/(D+E)が0.7よりも大きい場合(すなわち、化成処理皮膜20Aにおける、リン酸塩全体に対する4族金属のリン酸塩の割合が小さい場合)、化成処理皮膜20Aの耐食性が低下してしまう。
【0069】
本実施形態における化成処理鋼板1Aにおいても、化成処理皮膜20A中の、窒素の原子比率をX、4族金属原子比率をYとしたときに、X/(X+Y)が0.15〜0.35である。X/(X+Y)が0.15〜0.35であることにより、化成処理皮膜20A中における4族金属のオキソ酸塩が高分子化することを抑制することができる。このため、塗装の前処理であるリン酸塩処理においてめっき層の溶解が起こりやすくなり、リン酸塩皮膜を形成しやくなる。その結果、塗装膜と化成処理鋼板1Aとの密着性を高くすることができる。
【0070】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例1】
【0071】
以下、本発明の一態様における化成処理鋼板の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0072】
本実施例においては、板厚0.5mmの極低炭素Ti添加鋼の鋼帯を基材として、表1に示した条件により、連続溶融亜鉛めっき製造ラインを用いてZnを40質量%以上含有するZn系めっき鋼板を作製し、これを原板No.1〜14とした。また、同じ鋼帯を基材として、電気亜鉛めっき法により純亜鉛めっき鋼帯を作製し、これを原板No.15とした。このNo.15のZn系めっき鋼板のZn系めっき層は、不可避的不純物を除けば純亜鉛である。
【0073】
【表1】
【0074】
本実施例および比較例では、4族金属のオキソ酸塩としての水溶性の炭酸ジルコニウムアンモニウムと、アンモニウム化合物としての炭酸ジルコニウムアンモニウムおよびリン酸水素二アンモニウムと、無機リン酸としてのリン酸水素二アンモニウムと、有機リン酸としての1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸とを適宜添加量を調整して水に溶解させて、Zr濃度10g/L、リン濃度1.7g/Lの化成処理液を調製し、No.1〜15の原板に該化成処理液を塗布し、乾燥させることにより化成処理鋼板を作製した。なお、No.19の化成処理鋼板は、4族金属のオキソ酸塩としてチタンフッ化アンモニウムを使用した。
【0075】
表2は、本発明の実施例および比較例の化成処理鋼板の製造に用いた各種の製造条件を示す表である。なお、No.12およびNo.21の製造条件では、到達板温が80℃になるまでそれぞれ5秒および3秒要する乾燥条件で加熱し、それぞれ板温が70℃および50℃になった時点で加熱を中止した。
【0076】
【表2】
【0077】
表3は、本発明の実施例および比較例の化成処理鋼板における化成処理皮膜の組成および物性、並びに化成処理鋼板の耐食性の試験結果を示す表である。
【0078】
【表3】
【0079】
表3に示す実施例および比較例では、化成処理鋼板の原板として、表1のめっきNo.1に示すZn系めっき鋼板を用いて化成処理鋼板No.1〜28を作製した。まず、上記の化成処理鋼板の原板の表面を脱脂し、乾燥させた。次に、当該原板の表面に上記の化成処理液を塗布し、直後に自動排出型電気式熱風オーブンを用いて原板の温度を所定の温度まで上昇させ加熱乾燥させた。これにより、原板の表面に化成処理皮膜を形成させ、化成処理鋼板No.1〜28を作製した。上記の一連の工程においては、前述の実施形態にて説明した本発明の一態様における化成処理鋼板の製造方法に基づいて、各種の条件を設定した。具体的な化成処理液の温度、塗布時の鋼板の温度、セットリングタイム(塗布から乾燥開始までの時間)、乾燥条件は、表2に示した製造条件のとおりである。
【0080】
(化成処理皮膜中の金属の特定)
作製した化成処理鋼板に対して、グロー放電発光分光分析装置(GDS)(SPECTRUMA ANALYTIK GmbH社製;GDA750)により、化成処理皮膜中に存在する金属元素を特定した。
【0081】
(化成処理皮膜の組成)
作製した化成処理鋼板に対して、光電子分光分析装置(株式会社 島津製作所/KRATOS社製;ESCA−3400)を用いてX線源MgKαにて分析した。具体的には、4族金属(例えば、Zr)、リン、および窒素の結合エネルギーに起因するXPSスペクトルを測定した。そして、測定したXPSスペクトルから、化成処理皮膜に含まれるリン化合物および4族金属の塩を特定した。また、測定したXPSの各元素の結合エネルギーに起因するピーク面積から、有機リン酸塩のモル比率、無機リン酸塩のモル比率、4族金属の原子比率、および、窒素の原子比率を算出した。そして、算出したモル比率および原子比率から、上記のA/(A+B)、および、X/(X+Y)を算出した。
【0082】
(耐食性評価)
作製した化成処理鋼板に対して、次のように耐食性試験を行った。まず、化成処理鋼板を70mm×150mmの大きさに切りだし試験片とした。次に、試験片の端面をシールし、JIS Z2371に準拠して塩水噴霧試験を120時間行い、試験片の表面に発生した白錆を観察した。表3に耐食性試験の結果を示す。本耐食性試験では、白錆の発生面積率が5%以下の場合を「◎」、5%より大きく10%以下の場合を「○」、10%よりも大きく30%以下の場合を「△」、30%よりも大きい場合を「×」として、耐食性を評価し、「△」以上を合格とした。
【0083】
(リン酸塩処理性評価)
作製した化成処理鋼板に対して、次のようにリン酸塩処理性試験を行った。まず、アルカリ脱脂剤(サーフクリーナー53NF、日本ペイント製)を水に20g/L溶解させて脱脂液を作製し、当該脱脂液に作製した化成処理鋼板を4分浸漬させた。次に、脱脂液に浸漬させた試験片に対して、日本パーカライジング(株)製のリン酸塩処理用化成薬剤パルボンドL15C(A剤250g/L+B剤250g/L、25℃)を刷毛塗りし、その後5分間放置した。
【0084】
次に、刷毛塗りした部分の表面状態を観察し、刷毛塗りした部分のグレー変色面積率を求め、以下の基準に従って評価した。グレー変色面積率が95%以上を「◎」、90%以上95%未満を「○」、85%以上90%未満を「△」、70%以上85%未満を「黒塗り△」、70%未満を「×」としてリン酸塩処理性を評価し、「黒塗り△」以上を合格とした。なお、グレー変色面積率が高いほど、リン酸塩皮膜が形成されてグレー色の色調を呈する。
【0085】
(塗装密着性評価)
作製した化成処理鋼板に対して、次のようにリン塗装密着性試験を行った。まず、上記のリン酸塩処理を行った試験片の皮膜上に、バーコーターを用いてメラミンアルキッド系樹脂塗料を乾燥膜厚が25μmとなるように塗布し、炉温130℃で20分間焼き付けて、塗膜を製造した。次に、塗膜が形成された試験片を、95℃の水中に2時間放置した。その後、塗膜に対してカッターを用いて幅1mmの100マスの碁盤目の切れ込みを作成し、テープ剥離試験を実施し、以下の基準に従って塗装密着性を評価した。塗膜の剥離なしを「◎」、剥離個数1個以上6個未満を「○」、剥離個数6個以上10個未満を「△」、剥離個数11個以上20個未満を「黒塗り△」、剥離個数20個以上を「×」とし、「黒塗り△」以上を合格とした。
【0086】
表3に示すように、化成処理皮膜が4族金属のオキソ酸塩、アンモニウム化合物、有機リン酸塩、および、無機リン酸塩を含み、かつ、X/(X+Y)が0.15〜0.35である化成処理鋼板は、耐食性、リン酸塩処理性、および、塗装密着性に優れていた。
【0087】
一方、No.20の化成処理鋼板では、リン酸水素二アンモニウムを使用しなかったため、化成処理皮膜に無機リン酸塩が形成されなかった。そのため、リン酸塩処理性および塗装密着性が低かった。
【0088】
また、No.21の化成処理鋼板では、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸を使用しなかったため、化成処理皮膜に有機リン酸塩が形成されなかった。そのため、リン酸塩処理性および塗装密着性が低かった。
【0089】
また、No.22およびNo.23の化成処理鋼板では、化成処理液に4族金属を添加しなかったため、化成処理皮膜が緻密にならず、耐食性が低かった。
【0090】
また、乾燥における化成処理鋼板の到達温度が180℃であったNo.24の化成処理鋼板では、化成処理皮膜に含まれる窒素の原子比率が小さかった。そのため、リン酸塩処理性および塗装密着性が低かった。
【0091】
また、No.25の化成処理鋼板では、乾燥工程における鋼板の到達温度が低かったため、化成処理皮膜に含まれる窒素の原子比率が大きかった。そのため、耐食性、リン酸塩処理性および塗装密着性が低かった。また、No.26〜No.28の化成処理鋼板では、リン酸塩処理性および塗装密着性が低かった。
【0092】
また、表1のめっきNo.1〜14を用いて作製したZn系めっき鋼板を用い、化成処理液に用いる4族金属化合物として硫酸ジルコニウムまたは硝酸ジルコニウムを、5族金属のオキソ酸塩としてモリブデン酸アンモニウムを、6族金属のオキソ酸塩として五酸化バナジウムを、1族金属含有化合物として硫酸ナトリウム、硝酸カリウム、またはピロリン酸ナトリウムを用いた以外は、上記と同様にして化成処理鋼板No.31〜51を作製した。表4は、No.31〜51の化成処理鋼板の皮膜組成、物性および化成処理鋼板の耐食性に関する表である。
【0093】
【表4】
【0094】
表4に示すように、化成処理鋼板の原板の種類の変化、並びに、5族金属のオキソ酸塩、6族金属のオキソ酸塩、および、1族金属化合物の有無に関わらず、化成処理皮膜が4族金属のオキソ酸塩、アンモニウム化合物、有機リン酸塩、および、無機リン酸塩を含み、かつ、X/(X+Y)が0.15〜0.35である化成処理鋼板は、耐食性、リン酸塩処理性、および、塗装密着性に優れていた。
【実施例2】
【0095】
本実施例では、実施例1にて用いたNo.1〜15の原板を用いた。また、本実施例では、4族金属のオキソ酸塩としての水溶性の炭酸ジルコニウムアンモニウムと、アンモニウム化合物としての炭酸ジルコニウムアンモニウムおよびリン酸水素二アンモニウムと、4族金属のリン酸としてのリン酸ジルコニウムと、4族金属を含まないリン酸としてのリン酸水素二アンモニウムとを適宜添加量を調整して水に溶解させて、Zr濃度10g/L、リン濃度1.7g/Lの化成処理液を調製した。このように調整した化成処理液をNo.1〜15の原板に塗布し、乾燥させることにより化成処理鋼板を作製した。なお、No.79の化成処理鋼板は、4族金属のオキソ酸塩としてチタンフッ化アンモニウムを使用した。
【0096】
表5は、本発明の実施例および比較例の化成処理鋼板の製造に用いた各種の製造条件を示す表である。なお、No.42およびNo.50の製造条件では、到達板温が80℃になるまでそれぞれ5秒および3秒要する乾燥条件で加熱し、それぞれ板温が70℃および50℃になった時点で加熱を中止した。
【0097】
【表5】
【0098】
表6は、本発明の実施例および比較例の化成処理鋼板における化成処理皮膜の組成および物性、並びに化成処理鋼板の耐食性の試験結果を示す表である。
【0099】
【表6】
【0100】
表3に示す実施例および比較例では、化成処理鋼板の原板として、表1のめっきNo.1に示すZn系めっき鋼板を用いて化成処理鋼板No.61〜91を作製した。まず、上記の化成処理鋼板の原板の表面を脱脂し、乾燥させた。次に、当該原板の表面に上記の化成処理液を塗布し、直後に自動排出型電気式熱風オーブンを用いて原板の温度を所定の温度まで上昇させ加熱乾燥させた。これにより、原板の表面に化成処理皮膜を形成させ、化成処理鋼板No.61〜91を作製した。上記の一連の工程においては、前述の実施形態にて説明した本発明の一態様における化成処理鋼板の製造方法に基づいて、各種の条件を設定した。具体的な化成処理液の温度、塗布時の鋼板の温度、セットリングタイム(塗布から乾燥開始までの時間)、乾燥条件は、表5に示した製造条件のとおりである。
【0101】
(化成処理皮膜中の金属の特定)
作製した化成処理鋼板に対して、グロー放電発光分光分析装置(GDS)(SPECTRUMA ANALYTIK GmbH社製;GDA750)により、化成処理皮膜中に存在する金属元素を特定した。
【0102】
(化成処理皮膜の組成)
作製した化成処理鋼板に対して、光電子分光分析装置(株式会社 島津製作所/KRATOS社製;ESCA−3400)を用いてX線源MgKαにて分析した。具体的には、4族金属(例えば、Zr)、リン、および窒素の結合エネルギーに起因するXPSスペクトルを測定した。そして、測定したXPSスペクトルから、化成処理皮膜に含まれるリン化合物および4族金属の塩を特定した。また、測定したXPSの各元素の結合エネルギーに起因するピーク面積から、4族金属のリン酸塩のモル比率、4族金属を含まないリン酸塩のモル比率、4族金属の原子比率、および、窒素の原子比率を算出した。そして、算出したモル比率および原子比率から、上記のD/(D+E)、および、X/(X+Y)を算出した。
【0103】
(耐食性評価)
作製した化成処理鋼板に対して、次のように耐食性試験を行った。まず、化成処理鋼板を70mm×150mmの大きさに切りだし試験片とした。次に、試験片の端面をシールし、JIS Z2371に準拠して塩水噴霧試験を120時間行い、試験片の表面に発生した白錆を観察した。表3に耐食性試験の結果を示す。本耐食性試験では、白錆の発生面積率が5%以下の場合を「◎」、5%より大きく10%以下の場合を「○」、10%よりも大きく30%以下の場合を「△」、30%よりも大きい場合を「×」として、耐食性を評価し、「△」以上を合格とした。
【0104】
(リン酸塩処理性評価)
作製した化成処理鋼板に対して、次のようにリン酸塩処理性試験を行った。まず、アルカリ脱脂剤(サーフクリーナー53NF、日本ペイント製)を水に20g/L溶解させて脱脂液を作製し、当該脱脂液に作製した化成処理鋼板を50℃で4分浸漬させた。次に、脱脂液に浸漬させた試験片に対して、日本パーカライジング(株)製のリン酸塩処理用化成薬剤パルボンドL15C(A剤250g/L+B剤250g/L、25℃)を刷毛塗りし、その後5分間放置した。
【0105】
次に、刷毛塗りした部分の表面状態を観察し、刷毛塗りした部分のグレー変色面積率を求め、以下の基準に従って評価した。グレー変色面積率が95%以上を「◎」、90%以上95%未満を「○」、85%以上90%未満を「△」、70%以上85%未満を「黒塗り△」、70%未満を「×」としてリン酸塩処理性を評価し、「黒塗り△」以上を合格とした。なお、グレー変色面積率が高いほど、リン酸塩皮膜が形成されてグレー色の色調を呈する。
【0106】
(塗装密着性評価)
作製した化成処理鋼板に対して、次のようにリン塗装密着性試験を行った。まず、上記のリン酸塩処理を行った試験片の皮膜上に、バーコーターを用いてメラミンアルキッド系樹脂塗料を乾燥膜厚が25μmとなるように塗布し、炉温130℃で20分間焼き付けて、塗膜を製造した。次に、塗膜が形成された試験片を、95℃の水中に2時間放置した。その後、塗膜に対してカッターを用いて幅1mmの100マスの碁盤目の切れ込みを作成し、テープ剥離試験を実施し、以下の基準に従って塗装密着性を評価した。塗膜の剥離なしを「◎」、剥離個数1個以上6個未満を「○」、剥離個数6個以上10個未満を「△」、剥離個数11個以上20個未満を「黒塗り△」、剥離個数20個以上を「×」とし、「黒塗り△」以上を合格とした。
【0107】
表6に示すように、化成処理皮膜が4族金属のオキソ酸塩、アンモニウム化合物、4族金属のリン酸塩、および、4族金属を含まないリン酸塩を含み、かつ、X/(X+Y)が0.15〜0.35であるNo.61〜79の化成処理鋼板は、耐食性、リン酸塩処理性、および、塗装密着性に優れていた。
【0108】
一方、No.80、86および87の化成処理鋼板では、化成処理液にいずれのリン酸も含有させなかったため、化成処理皮膜にリン酸塩が形成されなかった。そのため、リン酸塩処理性および塗装密着性が低かった。
【0109】
No.81および83の化成処理鋼板では、化成処理液に4族金属を含まないリン酸を含有させなかったため、リン酸塩処理性および塗装密着性が低かった。No.82の化成処理鋼板では、化成処理液に4族金属のリン酸を含有させなかったため、化成処理皮膜が緻密にならず、耐食性が低かった。
【0110】
No.84および91の化成処理鋼板では、乾燥工程における鋼板の到達温度が高かったため、化成処理皮膜に含まれる窒素の原子比率が小さくなった。そのため、リン酸塩処理性および塗装密着性が低かった。
【0111】
No.85の化成処理鋼板では、乾燥工程における鋼板の到達温度が低かったため、化成処理皮膜に含まれる窒素の原子比率が大きくなった。そのため、化成処理皮膜のバリア性が低下し、耐食性が低かった。
【0112】
No.88の化成処理鋼板では、化成処理液に4族金属を含ませなかったため、耐食性、リン酸塩処理性および塗装密着性が低かった。No.89の化成処理鋼板では、セットリングタイムが40秒と長かったため、4族金属のオキソ酸塩が高分子化してしまい、リン酸塩処理性および塗装密着性が低かった。
【0113】
No.90の化成処理鋼板では、乾燥工程において板温が80℃に達するまでの時間が13秒と長かったため、4族金属のオキソ酸塩が高分子化してしまい、リン酸塩処理性および塗装密着性が低かった。
【0114】
また、表1のめっきNo.1〜14を用いて作製したZn系めっき鋼板を用い、化成処理液に用いる4族金属化合物として硫酸ジルコニウムまたは硝酸ジルコニウムを、5族金属のオキソ酸塩としてモリブデン酸アンモニウムを、6族金属のオキソ酸塩として五酸化バナジウムを、1族金属含有化合物として硫酸ナトリウム、硝酸カリウム、またはピロリン酸ナトリウムを用いた以外は、上記と同様にしてNo.101〜118の化成処理鋼板を作製した。また、No.15の原板を用いて、No.119の化成処理鋼板を作成した。表7は、No.71〜89の化成処理鋼板の皮膜組成、物性および化成処理鋼板の耐食性に関する表である。
【0115】
【表7】
【0116】
表7に示すように、化成処理鋼板の原板の種類の変化、並びに、5族金属のオキソ酸塩、6族金属のオキソ酸塩、および、1族金属化合物の有無に関わらず、化成処理皮膜が4族金属のオキソ酸塩、アンモニウム化合物、4族金属のリン酸塩、および、4族金属を含まないリン酸塩を含み、かつ、X/(X+Y)が0.15〜0.35である化成処理鋼板は、耐食性、リン酸塩処理性、および、塗装密着性に優れていた。
【符号の説明】
【0117】
1A 化成処理鋼板
10 Zn系めっき鋼板
11 基材鋼板
12 Zn系めっき層
20A 化成処理皮膜
【要約】
【課題】塗装密着性に優れる化成処理鋼板を実現する。
【解決手段】化成処理鋼板(1A)は、基材鋼板(11)の表面にZn系めっき層(12)を有するZn系めっき鋼板(10)と、Zn系めっき層(12)の表面上に形成された化成処理皮膜(20A)とを有する。化成処理皮膜(20A)は、4族金属のオキソ酸塩、アンモニウム化合物、4族金属のリン酸塩、および、4族金属を含まないリン酸塩を含み、化成処理皮膜(20A)中の、窒素の原子比率をX、4族金属の原子比率をYとしたときに、X/(X+Y)が0.15〜0.35である。
【選択図】図3
図1
図2
図3