(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6672523
(24)【登録日】2020年3月6日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】計時器のレート調整方法
(51)【国際特許分類】
G04B 17/06 20060101AFI20200316BHJP
G04D 7/08 20060101ALI20200316BHJP
G04D 7/12 20060101ALI20200316BHJP
G04B 18/02 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
G04B17/06 Z
G04D7/08
G04D7/12 Z
G04B18/02 Z
【請求項の数】8
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2019-500547(P2019-500547)
(86)(22)【出願日】2017年6月13日
(65)【公表番号】特表2019-526047(P2019-526047A)
(43)【公表日】2019年9月12日
(86)【国際出願番号】EP2017064426
(87)【国際公開番号】WO2018015071
(87)【国際公開日】20180125
【審査請求日】2019年1月8日
(31)【優先権主張番号】16179847.5
(32)【優先日】2016年7月18日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591048416
【氏名又は名称】ウーテーアー・エス・アー・マニファクチュール・オロロジェール・スイス
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】コニュ,ティエリ
(72)【発明者】
【氏名】ウィンクレ,パスカル
【審査官】
岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】
特開2016−151443(JP,A)
【文献】
特表2013−542402(JP,A)
【文献】
スイス国特許発明第691992(CH,A5)
【文献】
国際公開第01/48564(WO,A1)
【文献】
スイス国特許発明第690874(CH,A5)
【文献】
米国特許第2454983(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B17/00−18/08
G04D 7/00− 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
計時器のレートを調整する方法(1)であって、
バランス/バランスばね共振器を備えるムーブメントを裏蓋がない又は裏蓋全体がない計時器用ケース内に配置するステップ(3)と、
計時器のレートを測定するステップ(5)と、
所望のレートを得るようにバランス(11、21)の慣性に適用する補正値を決めるステップ(7)と、及び
前記裏蓋がない又は裏蓋全体がないケース内に前記ムーブメントを取り付け、前記バランス(11、12)に材料(151、152、153、154、252、254)を加えることによって、前記補正値に応じて前記バランス(11、21)の慣性を変えるステップ(9)と
を有する方法(1)。
【請求項2】
前記レートの測定は、前記バランス/バランスばね共振器と接触せずに行われる
請求項1に記載の方法(1)。
【請求項3】
前記レートの測定は、光学的又は音響的に行われる測定である
請求項1に記載の方法(1)。
【請求項4】
前記補正値は、前記バランスの重心を変えずに前記バランス(11、21)の慣性を変えるような前記バランスに対する少なくとも2つの質量体(151、152、153、154、252、254)の対称的な構成に対応している
請求項1に記載の方法(1)。
【請求項5】
前記補正値は、前記バランス(11、21)の慣性及び重心を変えるような前記バランス(11、21)に対する少なくとも1つの質量体(151、152、153、154、252、254)の非対称な構成に対応している
請求項2に記載の方法(1)。
【請求項6】
前記材料(151、152、153、154、252、254)の追加は、前記バランス(11、21)に対して材料(151、152、153、154、252、254)を射出する段階によって行われる
請求項1に記載の方法(1)。
【請求項7】
前記材料(151、152、153、154、252、254)は、接着剤、塗料又は金属懸濁液を含有する
請求項1に記載の方法(1)。
【請求項8】
材料(151、152、153、154、252、254)を射出する段階があり、その後に、射出された材料(151、152、153、154、252、254)を固化させる段階がある
請求項1に記載の方法(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計時器のレート調整方法に関し、より詳細には、計時器のレートが良好であることを確実にするためにバランス/バランスばねタイプの共振器を備える計時器用ムーブメントの調整に関する。
【背景技術】
【0002】
ケース内に配置される前に異なる姿勢の計時器用ムーブメントのレートを調整して、製造される計時器の異方性曲線を可能な限り最適化することが知られている。このようなレート調整方法は、例えば、欧州特許EP1172714に開示されている。
【0003】
しかし、ケースの外部で正確にセットされたムーブメントのレートが着用時に変動する傾向があることがわかっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、計時器のレートを調整する新規な方法を提案することによって前記課題のすべて又は一部を克服することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このために、本発明は、計時器のレートを調整する方法に関し、
バランス/バランスばね共振器を備えるムーブメントを裏蓋がない又は裏蓋全体がない計時器用ケース内にてマウントするステップと、
計時器のレートを測定するステップと、
所望のレートを得るようにバランスの慣性に適用する補正値を決めるステップと、及び
前記裏蓋がない又は裏蓋全体がないケース内に前記ムーブメントを取り付け、前記バランスに材料を加えることによって、前記補正値に応じて前記バランスの慣性を変えるステップと
を有する。
【0006】
このような状況で、調整は、単に素のムーブメント、すなわち、ケース内にまだ配置されていないムーブメント、に対して行うのではなく、好ましいことに、本発明によると、計時器の製造プロセスの最終段階において付加的な調整を行って、計時器を正確に調整する。この正確な調整は、ムーブメントがケース内に配置されたときに発生するレートの変化を考慮に入れている。これには、例えば、ケースに入れる操作によってムーブメントに応力が発生したとき、及び/又はケースの閉じた環境によって空気力学的な変化が発生したときのものがある。
【0007】
本発明の他の有利な形態は、以下の特徴がある。
− 前記レートの測定は、前記バランス/バランスばね共振器と接触せずに行われる。
− 前記レートの測定は、光学的又は音響的に行われる測定である。
− 前記補正値は、測定されたレートと所望の共振器の周波数を比較することによって決められる。
− 前記補正値は、前記バランスの重心を変えずに前記バランスの慣性を変えるような前記バランスに対する少なくとも2つの質量体の対称的な構成に対応している。
− 前記補正値は、測定されたレートを、一方では非平衡と、他方では所望の共振器の周波数と比較することによって決められる。
− 前記補正値は、前記バランスの慣性及び重心を変えるような前記バランスに対する少なくとも1つの質量体の非対称な構成に対応している。
− 前記材料の追加は、前記バランスに対して材料を射出する段階によって行われる。
− 前記材料は、接着剤、塗料又は金属懸濁液を含有する。
− 材料を射出する段階があり、その後に、射出された材料を固化させる段階がある。
【0008】
図面を参照しながら例として与えられる以下の説明を読むことで、他の特徴及び利点が明白になるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、計時器のレート調整方法に関する。本発明は、より詳細には、バランス/バランスばねタイプの共振器を備える計時器用ムーブメントの調整に関する。
【0011】
この種のバランス/バランスばね共振器は、一般的に、慣性を与えるバランス及び弾性を与えるバランスばねを有しており、これらは、同じ軸上にマウントされる。この共振器において、既知の形態で、バランス慣性モーメントIが以下の式のようになる。
【0013】
ここで、mは、バランスの質量を表しており、rは、バランスの曲率半径を表している。この曲率半径は、バランスの膨脹係数α
bを通して温度にも依存している。
【0014】
また、既知の形態で、一定の断面のバランスばねの弾性連結Cは、以下の式のようになる。
【0016】
ここで、Eは、用いられる材料のヤング率であり、hは高さであり、eは厚みであり、Lは、展開された長さである。
【0017】
最後に、バランス/バランスばね共振器の周波数fは、以下の式のようになる。
【0019】
これらの3つの一般式及びムーブメントの構造から、ケース内に配置される前に、異なる姿勢における計時器用ムーブメントのレートを調整して、製造する計時器の異方性曲線をできるだけ最適化することが知られている。この調整には、特に、バランスの非平衡、バランスばねの偏心的な展開、又はエスケープによって発生する損失を適応させることを伴う。
【0020】
しかし、正確に調整されたムーブメントのレートが着用時に変動する傾向があることがわかった。分析すると、ケースに入れられる操作によってムーブメント上にて発生する応力及びケースの閉じた環境によって発生する空気力学的な変化に起因して、ムーブメントがケース内に配置されたときにレートが相当に変化することがわかった。
【0021】
このように、本発明に係る方法1が、調整されるムーブメントを、製造される計時器用ケース内にマウントする第1のステップ3を有することが必要であるように考えられる。すなわち、本方法は、バランス/バランスばね共振器を備えるムーブメントをケース内に配置することによって開始する。
【0022】
第2のステップ5は、計時器、すなわち、ケースに入れられたムーブメント、のレートを測定するように意図されている。好ましくは、レートの測定は、バランス/バランスばね共振器と接触せずに行われる。実際に、ムーブメントが既にケース内にあるので、共振器へのアクセスは特に制限される。このように、既知の形態で、計時器のレートの測定を、例えば、光学的又は音響的に、行うことができる。
【0023】
この第2のステップ5は、以下の2つの理由によって重要である。すなわち、一方では、測定されたレートを所望のレートと比較することを可能にする。他方では、バランスのビートを知って、材料の射出プロセスと同期させて、バランス上に正確に材料を堆積させることが可能になる。
【0024】
方法1は、バランス慣性に適用される補正値を決めて所望のレートを得るように意図されている第3のステップ7によって続く。
【0025】
第1の実施形態によるとステップ7において、特に上記式(1)〜(3)によって、測定されたレートを共振器に対する所望の周波数と比較することによって補正値を決める。
【0026】
上で説明したように、最後のステップ9がバランスに材料を加えることを意図しているので、本発明に係る調整によって、バランス慣性モーメントIが増加することのみが可能になる。したがって、ケースに入れられたムーブメントが、好ましくは、進みを有するように構成していることは明らかであり、この進みが最後のステップ9において補正される。
【0027】
このように、第1の実施形態において、補正値は、バランス上の少なくとも2つの質量体の対称的な構成に対応しており、これによって、バランスの重心を変えずにバランス慣性を変える。補正値が所望の堆積の数に応じて均等に分布することは明らかである。例として(これに限定されない)、材料がバランスリム上に堆積される場合、補正値が所望の堆積の数によって割られ、各堆積が、360°を所望の堆積の数によって割った角度δごとに、リム上にわたって分布する。
【0028】
第2の実施形態において、ステップ7において、補正値は、特に、上記の式(1)〜(3)によって、所望の共振器の非平衡に対して、一方では、測定されたレートを比較することによって、他方では、周波数を比較することによって、決められる。したがって、第2の実施形態が第1の実施形態よりも多くのパラメーターを考慮することは明らかである。また、第2のステップ5が、少なくとも4つの通常の鉛直方向のテスト姿勢におけるバランス振幅を考慮して、バランスを釣り合わせることができることも非常に明白である。実際に、重力によって、非平衡は、バランスばねの戻しトルクに加えられるトルクを発生させて、結果的に、レートの誤りを発生させる。
【0029】
上で説明したように、最後のステップ9がバランスに材料を加えることを意図しているので、本発明に係る調整によって、バランス慣性モーメントIが増加されることのみが可能になる。したがって、ケースに入れられたムーブメントが、好ましくは、進みを有するように構成していることは明らかであり、この進みは、最後のステップ9において補正される。
【0030】
第2の実施形態において、補正値は、バランス上の材料の少なくとも1つの質量体の非対称的な分布に対応しており、これによって、バランス慣性とその重心を変える。所望の堆積の数に応じてバランスを釣り合わせたりバランスにて非平衡を形成したりするように補正値が均等に分布することは明らかである。例として(これに限定されない)、材料がバランスリム上に堆積される場合、補正値は、所望の堆積の数によって割られる。次に、所望の非平衡の補正に応じて、重み付け操作が行われる。したがって、平衡化操作が、非対称的な材料の堆積によって構成していることができることは明らかである。この非対称的な材料の堆積は、すなわち、バランスの特定の区画において他よりも大きい数の堆積がある場合、及び/又はバランスの特定の区画における少なくとも1つの堆積にて質量が他よりも大きい場合である。
【0031】
いずれの実施形態においても、方法1は、前記補正値に応じてバランスに材料を加えることによってバランス慣性を変えるように意図された第4のステップ9によって終了する。
【0032】
このステップ9は、好ましくは、バランスに材料を射出する段階にて材料を加えることによって行う。このステップ9は、例えば、裏蓋がない又は裏蓋全体がないケースにムーブメントを取り付けることによって行うことができる。
【0033】
この射出段階は、好ましくは、非常に小さな堆積の材料で非常に正確に射出することができるOptomec Aerosol Jetプリンターを用いて行うことができる。しかし、マスクを用いない他のいずれの射出又はプリント技術も可能である。1つの形態において(これに限定されない)、バランス上に堆積される材料は、接着剤、塗料又は金属懸濁液を含有することができる。
【0034】
好ましくは、材料を射出する段階の後に、射出された材料を固化させる固化段階がある。用いられる材料に応じて、この第2の段階は、溶媒を蒸発させること、材料を熱硬化させること、材料を交差結合させることを伴うことができる。好ましくは、本発明によると、第1の段階にてバランス上に高分子を堆積し、そして、第2の段階にて紫外線照射によって交差結合させる。このことは、何らかの汚染物質がムーブメント内に意図せずに入ってしまうことを可能な限り防ぐ。
【0035】
ステップ9は、静的に(バランスが動かない)又は動的に(ムーブメントが稼働している)行うことができる。動的に行う場合、上で説明したように、実施形態に応じて、バランスのビートを判断して、そして、可能性としては、テスト姿勢に応じて、材料の射出を同期させてバランス上に材料を正確に堆積させるために、第2のステップ5は重要である。
【0036】
図2〜3は、方法1に係る調整の後に変更されたバランス11の例を示している。
図2及び3の例に示しているように、第1の実施形態に係るステップ9は、補正値を、バランス11のリム13上に90°ごとに配置された4つの同一の質量体15
1、15
2、15
3、15
4に分けて、計時器を正確に調整することを伴う。
【0037】
意図せずにムーブメントに入る汚染物質をさらに抑えるように意図された代替形態において、バランス21には、ステップ9において射出される材料を受ける凹部があり、これによって、いずれの飛び散らかしをも防ぐ。
図4の例に示しているように、ステップ9は、バランス21のリム23の凹部24
2、24
4において受けた少なくとも2つの同一の質量体25
2、25
4に補正値を分けて、計時器を正確に調整することを伴う。
【0038】
もちろん、本発明は、図示した例には限定されず、当業者によって考えられる様々な変種や変更が可能である。具体的には、ケースに入れられたムーブメントが自動巻き機構を有する場合、このようなムーブメントを傾斜させて、振動する質量体がバランスを隠さないようにすることができる。
【0039】
また、リム13、23ではない場所、例えば、アーム17、27やハブ19、29、に材料を堆積させることを考えることができる。