(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
[ペルチェ冷却素子]
本発明のペルチェ冷却素子は、支持体上に、熱電半導体微粒子、耐熱性樹脂及びイオン液体を含む熱電半導体組成物からなる薄膜を有する熱電変換材料を用いたペルチェ冷却素子であって、該ペルチェ冷却素子が、該薄膜の片面又は両面に高熱伝導部と低熱伝導部とを備えた熱伝導性フィルムを含むことを特徴とする。
ペルチェ冷却素子では、通常、p型熱電素子とn型熱電素子とを電極を介し直列に接続し、pn接合部に電流を流すことにより、ペルチェ効果により、n→p接合部分(矢印の方向へ電流が流れる)では吸熱現象が、p→n接合部分(矢印の方向へ電流が流れる)では放熱現象が発生する。これにより、熱を低温側(吸熱側)から高温側(発熱側)へ輸送することができる。
また、ペルチェ冷却素子は、高温側と低温側の温度差が大きくなると、高温側から低温側に素子の内部を通って熱の逆流が増加(増加分=モジュールの熱伝導率×温度差の増加分)することから、発熱側と吸熱側との温度差が小さいほど、冷却効果が高くなる。
【0014】
図1(a)において、In−plane型熱電変換モジュール1は、支持体2上に、薄膜のp型熱電素子3及びn型熱電素子4が電極5b、5c、5dを介し、電気的に直列に接続されている。また、
図1(b)において、In−plane型ペルチェ冷却素子10は、高熱伝導部7及び低熱伝導部8からなる熱伝導性フィルム6A及び6Bが、In−plane型熱電変換モジュール1の薄膜の両面に接着剤層9を介し配置され、構成されている。
前記薄膜に備わる電極は、薄膜の長さ方向の両端部にそれぞれ少なくとも一つ以上備わることが好ましく、効率的に温度差を得る観点から、例えば、
図1(a)のように対向する端部同士に備わることがより好ましい。
ここで、熱伝導性フィルム(詳細は後述する)は、例えば、ペルチェ冷却素子を構成するIn−plane型熱電変換モジュール1の電極5a、5e間に電圧を印加した時に、p型熱電素子3及びn型熱電素子4の接合部を交互に高温部又は低温部にし、熱伝導性フィルムの外面間に効率良く温度差を発生させるために用いられる。熱伝導性フィルムとIn−plane型熱電変換モジュールとの配置は、具体的には、
図1(b)のように、薄膜の両面同士では高熱伝導部7と低熱伝導部8が向かい合うように対向させ、さらにそれらと電極の接合部との位置関係等を、適宜調整することが必要である。
本発明は、熱伝導率の低下に寄与する微粒子化した熱電半導体、耐熱性樹脂、及び微粒子間の空隙部での電気伝導率の低下を抑制するイオン液体を含む熱電半導体組成物からなる薄膜の片面又は両面に高熱伝導部と低熱伝導部とを備えた熱伝導性フィルムを貼付してなるIn−plane型ペルチェ冷却素子である。
【0015】
<熱電変換材料>
本発明のペルチェ冷却素子に用いた熱電変換材料は、支持体上に、熱電半導体微粒子、耐熱性樹脂及びイオン液体を含む熱電半導体組成物からなるものである。
本発明のペルチェ冷却素子に用いる熱電変換材料は、冷却能力及び冷却効率の観点から、p型及びn型熱電素子を交互に配列し、かつ電気的には直列に接続し、熱的には接合部の温度が、高温部と低温部とが交互になるようにして用いることが好ましく、冷却効果が損なわれない範囲で、それらを複数個使用してもよい。
【0016】
(支持体)
支持体としては、熱電変換材料の電気伝導率の低下、熱伝導率の増加に影響を及ぼさないものであれば、特に制限されず、例えば、ガラス、シリコン、プラスチックフィルム等が挙げられる。なかでも、屈曲性に優れるという点から、プラスチックフィルムが好ましい。
プラスチックフィルムとしては、具体的には、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリアラミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム、ポリエーテルケトンフィルム、ポリエーテル・エーテルケトンフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリ(4−メチルペンテン−1)フィルム等が挙げられる。また、これらフィルムの積層体であってもよい。
これらの中でも、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、支持体が熱変形することなく、熱電変換材料の性能を維持することができ、耐熱性及び寸法安定性が高いという点から、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリアラミドフィルム、ポリアミドイミドフィルムが好ましく、さらに、汎用性が高いという点から、ポリイミドフィルムが特に好ましい。
【0017】
前記支持体の厚さは、屈曲性、耐熱性及び寸法安定性の観点から、1〜1000μmが好ましく、10〜500μmがより好ましく、20〜100μmがさらに好ましい。
また、上記プラスチックフィルムは、分解温度が300℃以上であることが好ましい。
【0018】
(熱電半導体微粒子)
熱電変換材料に用いる熱電半導体微粒子は、熱電半導体材料を、微粉砕装置等により、所定のサイズまで粉砕することにより得られる。
【0019】
前記熱電半導体材料としては、特に制限されず、例えば、p型ビスマステルライド、n型ビスマステルライド、Bi
2Te
3等のビスマス−テルル系熱電半導体材料;GeTe、PbTe等のテルライド系熱電半導体材料;アンチモン−テルル系熱電半導体材料;ZnSb、Zn
3Sb
2、Zn
4Sb
3等の亜鉛−アンチモン系熱電半導体材料;SiGe等のシリコン−ゲルマニウム系熱電半導体材料;Bi
2Se
3等のビスマスセレナイド系熱電半導体材料;β―FeSi
2、CrSi
2、MnSi
1.73、Mg
2Si等のシリサイド系熱電半導体材料;酸化物系熱電半導体材料;FeVAl、FeVAlSi、FeVTiAl等のホイスラー材料、TiS
2等の硫化物系熱電半導体材料等が用いられる。
【0020】
これらの中でも、本発明に用いる前記熱電半導体材料は、p型ビスマステルライド又はn型ビスマステルライド、Bi
2Te
3等のビスマス−テルル系熱電半導体材料であることが好ましい。
前記p型ビスマステルライドは、キャリアが正孔で、ゼーベック係数が正値であり、例えば、Bi
XTe
3Sb
2−Xで表わされるものが好ましく用いられる。この場合、Xは、好ましくは0<X≦0.8であり、より好ましくは0.4≦X≦0.6である。Xが0より大きく0.8以下であるとゼーベック係数と電気伝導率が大きくなり、p型熱電変換材料としての特性が維持されるので好ましい。
また、前記n型ビスマステルライドは、キャリアが電子で、ゼーベック係数が負値であり、例えば、Bi
2Te
3−YSe
Yで表わされるものが好ましく用いられる。この場合、Yは、好ましくは0≦Y≦3であり、より好ましくは0≦Y≦2.7である。Yが0以上3以下であるとゼーベック係数と電気伝導率が大きくなり、n型熱電変換材料としての特性が維持されるので好ましい。
【0021】
熱電半導体微粒子の前記熱電半導体組成物中の配合量は、好ましくは、30〜99質量%である。より好ましくは、50〜96質量%であり、さらに好ましくは、70〜95質量%である。熱電半導体微粒子の配合量が、上記範囲内であれば、ゼーベック係数すなわちペルチェ係数の絶対値が大きく、また電気伝導率の低下が抑制され、熱伝導率のみが低下するため高い熱電性能を示すとともに、十分な皮膜強度、屈曲性を有する膜が得られ好ましい。
【0022】
熱電半導体微粒子の平均粒径は、好ましくは、10nm〜200μm、より好ましくは、10nm〜30μm、さらに好ましくは、50nm〜10μm、特に好ましくは、1〜6μmである。上記範囲内であれば、均一分散が容易になり、電気伝導率を高くすることができる。
前記熱電半導体材料を粉砕して熱電半導体微粒子を得る方法は特に限定されず、ジェットミル、ボールミル、ビーズミル、コロイドミル、コニカルミル、ディスクミル、エッジミル、製粉ミル、ハンマーミル、ペレットミル、ウィリーミル、ローラーミル等の公知の微粉砕装置等により、所定のサイズまで粉砕すればよい。
なお、熱電半導体微粒子の平均粒径は、レーザー回折式粒度分析装置(CILAS社製、1064型)にて測定することにより得られ、粒径分布の中央値とした。
【0023】
また、熱電半導体微粒子は、アニール処理(以下、「アニール処理A」ということがある。)されたものであることが好ましい。アニール処理Aを行うことにより、熱電半導体微粒子は、結晶性が向上し、さらに、熱電半導体微粒子の表面酸化膜が除去されるため、熱電変換材料のゼーベック係数すなわちペルチェ係数が増大し、熱電性能指数をさらに向上させることができる。アニール処理Aは、特に限定されないが、熱電半導体組成物を調製する前に、熱電半導体微粒子に悪影響を及ぼすことがないように、ガス流量が制御された、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、同じく水素等の還元ガス雰囲気下、または真空条件下で行うことが好ましく、不活性ガス及び還元ガスの混合ガス雰囲気下で行うことがより好ましい。具体的な温度条件は、用いる熱電半導体微粒子に依存するが、通常、微粒子の融点以下の温度で、かつ100〜1500℃で、数分〜数十時間行うことが好ましい。
【0024】
(イオン液体)
本発明で用いるイオン液体は、カチオンとアニオンとを組み合わせてなる溶融塩であり、−50〜500℃の幅広い温度領域において液体で存在し得る塩をいう。イオン液体は、蒸気圧が極めて低く不揮発性であること、優れた熱安定性及び電気化学安定性を有していること、粘度が低いこと、かつイオン伝導度が高いこと等の特徴を有しているため、導電補助剤として、熱電半導体微粒子間の電気伝導率の低減を効果的に抑制することができる。また、イオン液体は、非プロトン性のイオン構造に基づく高い極性を示し、耐熱性樹脂との相溶性に優れるため、熱電変換材料の電気伝導率を均一にすることができる。
【0025】
イオン液体は、公知または市販のものが使用できる。例えば、ピリジニウム、ピリミジニウム、ピラゾリウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、イミダゾリウム等の窒素含有環状カチオン化合物及びそれらの誘導体;テトラアルキルアンモニウムのアミン系カチオン及びそれらの誘導体;ホスホニウム、トリアルキルスルホニウム、テトラアルキルホスホニウム等のホスフィン系カチオン及びそれらの誘導体;リチウムカチオン及びその誘導体等のカチオン成分と、Cl
−、AlCl
4−、Al
2Cl
7−、ClO
4−等の塩化物イオン、Br
−等の臭化物イオン、I
−等のヨウ化物イオン、BF
4−、PF
6−等のフッ化物イオン、F(HF)
n−等のハロゲン化物アニオン、NO
3−、CH
3COO
−、CF
3COO
−、CH
3SO
3−、CF
3SO
3−、(FSO
2)
2N
−、(CF
3SO
2)
2N
−、(CF
3SO
2)
3C
−、AsF
6−、SbF
6−、NbF
6−、TaF
6−、F(HF)n
−、(CN)
2N
−、C
4F
9SO
3−、(C
2F
5SO
2)
2N
−、C
3F
7COO
−、(CF
3SO
2)(CF
3CO)N
−等のアニオン成分とから構成されるものが挙げられる。
【0026】
上記のイオン液体の中で、高温安定性、熱電半導体微粒子及び樹脂との相溶性、熱電半導体微粒子間隙の電気伝導率の低下抑制等の観点から、イオン液体のカチオン成分が、ピリジニウムカチオン及びその誘導体、イミダゾリウムカチオン及びその誘導体から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。イオン液体のアニオン成分が、ハロゲン化物アニオンを含むことが好ましく、Cl
−、Br
−及びI
−から選ばれる少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。
【0027】
カチオン成分が、ピリジニウムカチオン及びその誘導体を含むイオン液体の具体的な例として、4−メチル−ブチルピリジニウムクロライド、3−メチル−ブチルピリジニウムクロライド、4−メチル−ヘキシルピリジニウムクロライド、3−メチル−ヘキシルピリジニウムクロライド、4−メチル−オクチルピリジニウムクロライド、3−メチル−オクチルピリジニウムクロライド、3、4−ジメチル−ブチルピリジニウムクロライド、3、5−ジメチル−ブチルピリジニウムクロライド、4−メチル−ブチルピリジニウムテトラフルオロボレート、4−メチル−ブチルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1-ブチル-4-メチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-4-メチルピリジニウムヘキサフルオロホスファート、1-ブチル-4-メチルピリジニウムヨージド等が挙げられる。この中で、1−ブチル−4−メチルピリジニウムブロミド、1−ブチル−4−メチルピリジニウムヘキサフルオロホスファート、1-ブチル-4-メチルピリジニウムヨージドが好ましい。
【0028】
また、カチオン成分が、イミダゾリウムカチオン及びその誘導体を含むイオン液体の具体的な例として、[1−ブチル−3−(2−ヒドロキシエチル)イミダゾリウムブロミド]、[1−ブチル−3−(2−ヒドロキシエチル)イミダゾリウムテトラフルオロボレイト]、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−デシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−デシル−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−テトラデシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフロオロボレート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフロオロボレート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムテトラフロオロボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−メチル−3−ブチルイミダゾリウムメチルスルフェート、1、3−ジブチルイミダゾリウムメチルスルフェート等が挙げられる。この中で、[1−ブチル−3−(2−ヒドロキシエチル)イミダゾリウムブロミド]、[1−ブチル−3−(2−ヒドロキシエチル)イミダゾリウムテトラフルオロボレイト]が好ましい。
【0029】
上記のイオン液体は、電気伝導率が10
−7S/cm以上であることが好ましく、10
−6S/cm以上であることがより好ましい。イオン伝導度が上記範囲であれば、導電補助剤として、熱電半導体微粒子間の電気伝導率の低減を効果的に抑制することができる。
【0030】
また、上記のイオン液体は、分解温度が300℃以上であることが好ましい。分解温度が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0031】
また、上記のイオン液体は、熱重量測定(TG)による300℃における質量減少率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。質量減少率が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0032】
前記イオン液体の前記熱電半導体組成物中の配合量は、好ましくは0.01〜50質量%、より好ましくは0.5〜30質量%、さらに好ましくは1.0〜20質量%である。前記イオン液体の配合量が、上記範囲内であれば、電気伝導率の低下が効果的に抑制され、高い熱電性能を有する膜が得られる。
【0033】
(耐熱性樹脂)
本発明に用いる耐熱性樹脂は、熱電半導体微粒子間のバインダーとして働き、熱電変換材料の屈曲性を高めるためのものである。該耐熱性樹脂は、特に制限されるものではないが、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理等により熱電半導体微粒子を結晶成長させる際に、樹脂としての機械的強度及び熱伝導率等の諸物性が損なわれず維持される耐熱性樹脂を用いる。
前記耐熱性樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、エポキシ樹脂、及びこれらの樹脂の化学構造を有する共重合体等が挙げられる。前記耐熱性樹脂は、単独でも又は2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、耐熱性がより高く、且つ薄膜中の熱電半導体微粒子の結晶成長に悪影響を及ぼさないという点から、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂が好ましく、屈曲性に優れるという点からポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂がより好ましい。前述の支持体として、ポリイミドフィルムを用いた場合、該ポリイミドフィルムとの密着性などの点から、耐熱性樹脂としては、ポリイミド樹脂がより好ましい。なお、本発明においてポリイミド樹脂とは、ポリイミド及びその前駆体を総称する。
【0034】
前記耐熱性樹脂は、分解温度が300℃以上であることが好ましい。分解温度が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、バインダーとして機能が失われることなく、熱電変換材料の屈曲性を維持することができる。
【0035】
また、前記耐熱性樹脂は、熱重量測定(TG)による300℃における質量減少率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。質量減少率が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、バインダーとして機能が失われることなく、熱電変換材料の屈曲性を維持することができる。
【0036】
前記耐熱性樹脂の前記熱電半導体組成物中の配合量は、0.1〜40質量%、好ましくは0.5〜20質量%、より好ましくは、1〜20質量%、さらに好ましくは2〜15質量%である。前記耐熱性樹脂の配合量が、上記範囲内であれば、高い熱電性能と皮膜強度が両立した膜が得られる。
【0037】
本発明で用いる熱電半導体組成物には、前記熱半導体微粒子、前記耐熱性樹脂及び前記イオン液体以外に、必要に応じて、さらに分散剤、造膜助剤、光安定剤、酸化防止剤、粘着付与剤、可塑剤、着色剤、樹脂安定剤、充てん剤、顔料、導電性フィラー、導電性高分子、硬化剤等の他の添加剤を含んでいてもよい。これらの添加剤は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
本発明で用いる熱電半導体組成物の調製方法は、特に制限はなく、超音波ホモジナイザー、スパイラルミキサー、プラネタリーミキサー、ディスパーサー、ハイブリッドミキサー等の公知の方法により、前記熱電半導体微粒子と前記イオン液体及び前記耐熱性樹脂、必要に応じて前記その他の添加剤、さらに溶媒を加えて、混合分散させ、当該熱電半導体組成物を調製すればよい。
前記溶媒としては、例えば、トルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、アルコール、テトラヒドロフラン、メチルピロリドン、エチルセロソルブ等の溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。熱電半導体組成物の固形分濃度としては、該組成物が塗工に適した粘度であればよく、特に制限はない。
【0039】
前記熱電半導体組成物からなる薄膜は、後述するペルチェ冷却素子の製造方法で説明するように、支持体上に、前記熱電半導体組成物を塗布し、乾燥することで形成することができる。このように形成することで、簡便に低コストで大面積の熱電変換材料を得ることができる。
【0040】
前記熱電半導体組成物からなる薄膜の厚みは、特に制限はないが、熱電性能と皮膜強度の点から、好ましくは100nm〜200μm、より好ましくは300nm〜150μm、さらに好ましくは5μm〜150μmである。本発明のペルチェ冷却素子は熱伝導性フィルムの貼付により200μm以下の薄膜であっても、従来の数mmオーダーのモジュールと同等の温度差を付与することが可能である。
【0041】
<熱伝導性フィルム>
In−plane型熱電変換モジュールにおいては、電気的に直列に接続された、薄膜からなるp型及びn型熱電素子の接合部の温度が、接続方向に、例えば、交互に高温部及び低温部となる。本発明に用いる熱伝導性フィルムは、生じた高温部と低温部間の面内方向の温度勾配を、特定の方向に選択的に変換する、すなわち、熱伝導性フィルムの厚み方向の温度勾配に変換するために用いられる。具体的には、熱伝導性フィルムの構成、配置等を適宜調整し、熱伝導性フィルム外面間の温度差を効率良く得られるように制御することにより、In−plane型ペルチェ冷却素子とした時に、冷却性能をより向上させることができる。また、前記熱電変換材料と組み合わせることで、さらに優れた冷却効果が得られる。
【0042】
本発明に用いる熱伝導性フィルムは、高熱伝導部と低熱伝導部とから構成される。熱伝導性フィルムは、用途に応じて、例えば、薄膜との絶縁性、密着強度を向上させる等のために、接着剤層を積層することが好ましい。
例えば、
図1(b)における熱伝導性フィルム6A又は6Bは、高熱伝導部7と低熱伝導部8とからなり、高熱伝導部7と低熱伝導部8とが交互に配置され、さらに接着剤層9が積層されたフィルム構成となっている。熱伝導性フィルムを構成する高熱伝導部と低熱伝導部の配置は、特に制限されず、適宜調整して用いられる。
【0043】
〈高熱伝導部〉
高熱伝導部は、樹脂組成物、金属等から形成されるが、柔軟性の優れるフィルムが得られることから、樹脂組成物から形成されることが好ましい。前記高熱伝導部の形状は、特に制限はなく、用いるペルチェ冷却素子の仕様に応じて、適宜変更することができる。ここで、本発明における高熱伝導部は、後述する低熱伝導部よりも熱伝導率が高いほうをいう。
【0044】
(樹脂)
高熱伝導部に用いる樹脂は、特に限定されないが、電子部品分野等で使用されているものの中から任意の樹脂を適宜選択することができる。
樹脂としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、光硬化性樹脂等が挙げられる。耐熱性に優れ、放熱性が低下しにくいという点からポリイミド、ポリアミドイミドが好ましい。
【0045】
高熱伝導部は、所望の熱伝導率に調整するために、上記樹脂と熱伝導性フィラー及び/又は導電性炭素化合物とを含む樹脂組成物から形成されることが好ましい。
以下、熱伝導性フィラー及び導電性炭素化合物を「熱伝導率調整用物質」ということがある。
熱伝導性フィラーとしては、特に制限はないが、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム等の金属酸化物、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化マグネシウム、窒化ホウ素等の金属窒化物、銅、アルミニウム等の金属から選ばれる少なくとも1種類、また、導電性炭素化合物としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ(CNT)、グラフェン、カーボンナノファイバー等から選ばれる少なくとも1種類が好ましい。
【0046】
〈低熱伝導部〉
低熱伝導部は、前記高熱伝導部よりも熱伝導率が低い材料であれば特に限定されず、樹脂組成物、金属等から形成される。なかでも、柔軟性の優れる基材が得られることから、樹脂組成物から形成されることが好ましい。樹脂としては、特に制限されないが、前述した高熱伝導部に用いた樹脂と同一種類の樹脂が挙げられる。通常、機械的特性、接着性等の観点から高熱伝導部に用いる樹脂と同一樹脂を用いる。
なお、前記高熱伝導部の熱伝導率より十分低ければ、該樹脂組成物中に熱伝導率調整用物質を含んでいてもよく、例えば、硬化収縮率の低減効果を有する中空フィラー等が挙げられる。
中空フィラーとしては、特に制限されず、公知のものを用いることができ、例えば、ガラスバルーン、シリカバルーン、シラスバルーン、フライアッシュバルーン、金属ケイ酸塩等のバルーン(中空体)である無機物系中空フィラー、また、アクリロニトリル、塩化ビニリデン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂等のバルーン(中空体)である有機樹脂物系中空フィラーが挙げられる。中空フィラーは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。このなかで、物質自身の熱伝導率が金属酸化物の中で比較的低く、さらに体積抵抗率、コストの観点から、無機物系中空フィラーであるガラス中空フィラー、又はシリカ中空フィラーが好ましい。具体的には、ガラス中空フィラーとしては、例えば、住友スリーエム社製のグラスバブルズ(ソーダ石灰硼珪酸ガラス)等が、シリカ中空フィラーとしては、例えば、日鉄鉱業株式会社製のシリナックス(登録商標)等が挙げられる。
なお、本発明における、「中空フィラー」とは、フィラーを構成材料とする外殻を有し、内部が中空構造(内部は空気以外に、不活性気体等の気体で満たされていてもよく、真空であってもよい)となっているフィラーをいい、該中空構造としては、特に制限されず、例えば、中空構造が球体であっても楕円体等であってもよく、中空構造が複数あってもよい。
中空フィラーの形状は、特に制限されるものではないが、本発明のペルチェ冷却素子に貼付した際に、それらの接触又は機械的損傷により、冷却特性又は電気特性等が損なわれない形状であればよく、例えば、板状(鱗片状を含む)、球状、針状、棒状、繊維状のいずれでもよい。均一分散、熱伝導率性を低下させる観点からは、球状であることが好ましい。
【0047】
高熱伝導部及び低熱伝導部のそれぞれの層の厚さは、1〜200μmが好ましく、3〜100μmがさらに好ましい。この範囲であれば、熱を特定の方向に選択的に放熱することができる。また、高熱伝導部及び低熱伝導部のそれぞれの層の厚さは、同じであっても異なっていてもよい。
高熱伝導部及び低熱伝導部のそれぞれの層の幅は、適用するペルチェ冷却素子の仕様により適宜調整して用いるが、通常、0.01〜3mm、好ましくは0.1〜2mm、さらに好ましくは0.5〜1.5mmである。この範囲であれば、熱を特定の方向に選択的に放熱することができる。また、高熱伝導部及び低熱伝導部のそれぞれの層の幅は、同じであっても異なっていてもよい。
【0048】
高熱伝導部の熱伝導率は、低熱伝導部の熱伝導率に比べて十分に高ければよく、熱伝導率が0.5(W/m・K)以上が好ましく、1.0(W/m・K)以上がより好ましく、1.3(W/m・K)以上がさらに好ましい。高熱伝導部の熱伝導率の上限は、特に制限はないが、通常2000(W/m・K)以下が好ましく、500(W/m・K)以下がより好ましい。
【0049】
低熱伝導部の熱伝導率は、0.5(W/m・K)未満が好ましく、0.3(W/m・K)以下がより好ましく、0.25(W/m・K)以下がさらに好ましい。高熱伝導部及び低熱伝導部のそれぞれの熱伝導率が上記のような範囲にあれば、熱を特定の方向に選択的に放熱することができる。
【0050】
[ペルチェ冷却素子の製造方法]
本発明のペルチェ冷却素子の製造方法は、支持体上に、熱電半導体微粒子、耐熱性樹脂及びイオン液体を含む熱電半導体組成物からなる薄膜を有する熱電変換材料を用いたペルチェ冷却素子の製造方法であって、支持体上に、熱電半導体微粒子、耐熱性樹脂及びイオン液体を含む熱電半導体組成物を塗布し、乾燥し、薄膜を形成する工程、該薄膜をアニール処理する工程、さらに高熱伝導部と低熱伝導部とを備えた熱伝導性フィルムを片面又は両面に貼付する工程を含む、ペルチェ冷却素子の製造方法である。
以下、本発明に含まれる工程について、順次説明する。
【0051】
(薄膜形成工程)
本発明に用いた熱電半導体組成物を、支持体上に塗布する方法としては、スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、スピンコート、ディップコート、ダイコート、スプレーコート、バーコート、ドクターブレード等の公知の方法が挙げられ、特に制限されない。塗膜をパターン状に形成する場合は、所望のパターンを有するスクリーン版を用いて簡便にパターン形成が可能なスクリーン印刷、スロットダイコート等が好ましく用いられる。
次いで、得られた塗膜を乾燥することにより、薄膜が形成されるが、乾燥方法としては、熱風乾燥、熱ロール乾燥、赤外線照射等、従来公知の乾燥方法が採用できる。加熱温度は、通常、80〜150℃であり、加熱時間は、加熱方法により異なるが、通常、数秒〜数十分である。
また、熱電半導体組成物の調製において溶媒を使用した場合、加熱温度は、使用した溶媒を乾燥できる温度範囲であれば、特に制限はない。
【0052】
(アニール処理工程)
得られた熱電変換材料は、薄膜形成後、さらにアニール処理(以下、「アニール処理B」ということがある。)を行う。該アニール処理Bを行うことで、熱電性能を安定化させるとともに、薄膜中の熱電半導体微粒子を結晶成長させることができ、熱電性能をさらに向上させることができる。アニール処理Bは、特に限定されないが、通常、ガス流量が制御された、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、同じく水素等の還元ガス雰囲気下、または真空条件下で行われ、用いる樹脂及びイオン性流体の耐熱温度等に依存するが、100〜500℃で、数分〜数十時間行われ、不活性ガス及び還元ガスの混合ガス雰囲気下で行うことがより好ましい。
【0053】
(熱伝導性フィルム貼付工程)
熱伝導性フィルム貼付工程は、前記アニール処理工程で得られた薄膜の片面又は両面に、高熱伝導部及び低熱伝導部を有する熱伝導性フィルムを貼付し、In−plane型のペルチェ冷却素子を作製する工程である。通常、冷却性能の観点から、両面に貼付する。
熱伝導性フィルムの貼付は、p型熱電素子とn型熱電素子とが交互に電気的に直列に接続された薄膜上になされ、熱伝導性フィルムを貼付後、pn接合部の温度が、接続方向に交互に高温部及び低温部となるように、薄膜と熱伝導性フィルム間(両面に貼付する場合は、熱伝導性フィルム/薄膜/熱伝導性フィルムの3者間)のアライメントを精度よくとり、貼付する。
例えば、熱伝導性フィルムの貼付は、
図1においては、以下のように行われる。
(1)作製した前記アニール処理工程で得られた薄膜の一方の面側に対し、電極5b、5dに共通の電極間中心線5bd上に、接着剤層9を介し熱伝導性フィルム6Aの高熱伝導部と低熱伝導部の界面が重なるように配置し、ロールラミネーター(日本オフィスラミネーター株式会社製、RSL−382S)等を用いて熱伝導性フィルム6Aを貼付する。
(2)前記薄膜の他方の面側に、支持体2及び接着剤層9を介し、熱伝導性フィルム6Bを、高熱伝導部と低熱伝導部とが、前記熱伝導性フィルム6Aの高熱伝導部と低熱伝導部に対し互いに異種の熱伝導部同士が対向するように、ロールラミネーター等を用いて貼付する。
なお、(1)と(2)の貼付順序は、特に制限されない。
【0054】
本発明の製造方法によれば、簡便な方法で熱電性能が高く、低コストの熱電変換材料を用いたペルチェ冷却素子を得ることができる。
【実施例】
【0055】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0056】
実施例及び比較例で作製した熱電変換材料の熱電性能評価、屈曲性評価及びペルチェ冷却素子の冷却特性評価は、以下の方法で行った。
【0057】
<熱電性能評価>
(a)電気伝導率
実施例及び比較例で作製した熱電変換材料を、表面抵抗測定装置(三菱化学社製、商品名:ロレスタGP MCP−T600)により、四端子法で試料の表面抵抗値を測定し、電気伝導率(σ)を算出した。
(b)ゼーベック係数
JIS C 2527:1994に準拠して実施例及び比較例で作製した熱電変換材料の熱起電力を測定し、ゼーベック係数(S)を算出した。作製した熱変換材料の一端を加熱して、熱変換材料の両端に生じる温度差をクロメル−アルメル熱電対を使用し測定し、熱電対設置位置に隣接した電極から熱起電力を測定した。
具体的には、温度差と起電力を測定する試料の両端間距離を25mmとし、一端を20℃に保ち、他端を25℃から50℃まで1℃刻みで加熱し、その際の熱起電力を測定して、傾きからゼーベック係数(S)を算出した。なお、熱電対及び電極の設置位置は、薄膜の中心線に対し、互いに対称の位置にあり、熱電対と電極の距離は1mmである。
(c)熱伝導率
作製した熱電変換材料の熱伝導率測定は3ω法を用いて熱伝導率(λ)を算出した。
得られた、電気伝導率、ゼーベック係数及び熱伝導率から、熱電性能指数Z(Z=σS
2/λ)を求め、無次元熱電性能指数ZT(T=300K)を算出した。
また、熱伝導性放熱フィルムの高熱伝導部、低熱伝導部の熱伝導率は、熱伝導率測定装置(EKO社製、HC−110)を用いて、測定した。
【0058】
<冷却特性評価>
実施例及び比較例で作製したp型及びn型熱電素子、及び熱伝導性フィルムを用いて構成したIn−plane型ペルチェ冷却素子を、
図2に示す冷却特性評価ユニット11の所定の位置に配置し、冷却特性評価を行った。
具体的には、被着体である加熱ユニット13に、In−plane型ペルチェ冷却素子12を構成するIn−plane型熱電変換モジュール12aの一方の熱伝導性フィルム12bの冷却面側(吸熱側)を貼付し、他方の熱伝導性フィルム12cの排熱面側(放熱側)には、ヒートシンク14を介してチラーユニット15(冷却水;温度設定0℃)を配置した。加熱ユニット13から3Wの熱量を供給し、In−plane型ペルチェ冷却素子12の熱電素子の両端の電極に、直流電源より0.5V印加した時のIn−plane型ペルチェ冷却素子12の冷却面側と、In−plane型ペルチェ冷却素子12の排熱面側との温度差を測定した。
なお、加熱ユニット13とIn−plane型ペルチェ冷却素子12間に熱伝導グリス16を、In−plane型ペルチェ冷却素子12とヒートシンク14間に熱伝導グリス17を、ヒートシンク14とチラーユニット15間に熱伝導グリス18を設け、それぞれの界面において、空気を巻き込みにくくし、熱抵抗を低く抑えた。
【0059】
<屈曲性評価>
実施例及び比較例で作製した熱電変換材料について、円筒形マンドレル法によりマンドレル径φ10mmの時の薄膜の屈曲性を評価した。円筒形マンドレル試験前後で、熱電変換材料の外観評価及び熱電性能評価を行い、以下の基準で屈曲性を評価した。
試験前後で熱電変換材料の外観に異常が見られず無次元熱電性能指数ZTが変化しない場合:◎
試験前後で熱電変換材料の外観に異常が見られずZTの減少が30%未満であった場合:○
試験後に熱電変換材料にクラック等の割れが発生したり、ZTが30%以上減少した場合:×
【0060】
(熱電半導体微粒子の作製方法)
ビスマス−テルル系熱電半導体材料であるp型ビスマステルライドBi
0.4Te
3Sb
1.6(高純度化学研究所製、粒径:180μm)を、遊星型ボールミル(フリッチュジャパン社製、Premium line P−7)を使用し、窒素ガス雰囲気下で粉砕することで、平均粒径1.2μmの熱電半導体微粒子T1を作製した。粉砕して得られた熱電半導体微粒子に関して、レーザー回折式粒度分析装置(CILAS社製、1064型)により粒度分布測定を行った。
また、ビスマス−テルル系熱電半導体材料であるn型ビスマステルライドBi
2Te
3(高純度化学研究所製、粒径:180μm)を上記と同様に粉砕し、平均粒径1.4μmの熱電半導体微粒子T2を作製した。
【0061】
(実施例1)
(1)熱電半導体組成物の作製
表1に示す実施例1に記載した配合量になるように、得られたビスマス−テルル系熱電半導体材料の微粒子T1と、耐熱性樹脂としてポリイミド前駆体であるポリアミック酸(シグマアルドリッチ社製、ポリ(ピロメリト酸二無水物−co−4,4’−オキシジアニリン、固形分濃度:15質量%)溶液、溶媒:メチルピロリドン、300℃における質量減少率:0.9%)、及びイオン液体1として[1−ブチル−3−(2−ヒドロキシエチル)イミダゾリウムブロミド、電気伝導率:3.5×10
−5S/cm]とを加え、それらを混合分散し、p型ビスマステルライドの微粒子T1を含む熱電半導体組成物からなる塗工液Pを調製した。同様に、微粒子T1を微粒子T2に変更し、n型ビスマステルライドの微粒子T2を含む熱電半導体組成物からなる塗工液Nを調製した。
(2)熱電性能評価用サンプルの作製
(1)で調製した塗工液Pを、スクリーン印刷により支持体であるポリイミドフィルム(東レデュポン社製、商品名「カプトン」、厚さ50μm)上に塗布し、温度150℃で、10分間アルゴン雰囲気下で乾燥し、厚さが10μmの薄膜を形成した。次いで、得られた薄膜に対し、水素とアルゴンの混合ガス(水素:アルゴン=5体積%:95体積%)雰囲気下で、加温速度5K/minで昇温し、415℃で1時間保持し、薄膜形成後のアニール処理Bを行うことにより、熱電半導体材料の微粒子を結晶成長させ、p型熱電変換材料を作製した。同様の方法で、(1)で調製した塗工液Nを用い、n型熱電変換材料を作製した。
(3)熱伝導性シートの作製
シリコーン樹脂A(旭化成ワッカー社製、「SilGel612−A」)19.8質量部、シリコーン樹脂B(旭化成ワッカー社製、「SilGel612−B」)19.8質量部、硬化遅延剤(旭化成ワッカー社製、「PT88」)0.4質量部、熱伝導性フィラーとして、アルミナ(昭和電工社製、「アルナビーズCB−A20S」、平均粒子径20μm)40質量部、と窒化ホウ素(昭和電工社製、「ショウビーエヌ UHP−2」、平均粒子径12μm)20質量部を添加し、自転・公転ミキサー(THINKY社製、「ARE−250」)を用いて混合分散し、高熱伝導部形成用の樹脂組成物を調製した。
一方、シリコーン樹脂A(旭化成ワッカー社製、「SilGel612−A」)31.7質量部、シリコーン樹脂B(旭化成ワッカー社製、「SilGel612−B」)31.7質量部、硬化遅延剤(旭化成ワッカー社製、「PT88」)0.6質量部、中空フィラーとして、ガラス中空フィラー(住友スリーエム社製、「グラスバブルズS38」、平均粒子径40μm、真密度0.38g/cm
3)36質量部を添加(低熱伝導部全体積中、中空フィラーが60体積%含有)し、自転・公転ミキサー(THINKY社製、「ARE−250」)を用いて混合分散し、低熱伝導部形成用の樹脂組成物を調製した。
次に、剥離可能な支持基材(リンテック社製、「PET50FD」)の剥離処理された面に、前記高熱伝導部形成用の樹脂組成物を、ディスペンサー(武蔵エンジニアリング社製、「ML−808FXcom−CE」)を用いて塗布し、ストライプ状パターン(幅1mm×長さ100mm、厚み50μm、パターン中心間距離2mm)からなる高熱伝導部を形成した。さらに、その上からアプリケータを用いて、低熱伝導部形成用の樹脂組成物を塗布し、150℃で30分間硬化させることで、該高熱伝導部のストライプ状パターン間に、高熱伝導部と同じ厚さの低熱伝導部が形成された熱伝導性シートを得た。なお、高熱伝導部上には、低熱伝導部が形成されていないことを確認した。
一方、剥離シート(リンテック社製、PET50FD)の剥離処理された面に、シリコーン系接着剤を塗布し、90℃で1分間乾燥させ、厚さ10μmの接着剤層を形成した。接着剤層と基材を貼り合わせ、剥離シートおよび剥離可能な支持基材で挟持された構成の熱伝導性(接着)シートを作製した。前記基材の接着剤層と接する面とは反対側の面において、高熱伝導部と低熱伝導部との段差は実質的に存在しなかった。
(4)In−plane型ペルチェ冷却素子の作製
図1(a)に示すように、スクリーン印刷法によりあらかじめ形成した電極5a〜5e(銅電極パターン、厚み:10μm)を有する、支持体2であるポリイミドフィルム(東レデュポン社製、商品名「カプトン」、厚み:50μm)上に、(1)で調製した塗工液P及び塗工液Nを用い、スクリーン印刷法により、p型熱電素子3及びn型熱電素子4の薄膜が上記電極を介し電気的に直列になるように塗布し、その後、温度150℃で10分間アルゴンガス雰囲気下で乾燥し、それぞれの厚みが100μmの薄膜を形成した。得られた薄膜に対し、アルゴンガス雰囲気下で、加温速度5K/minで昇温し、415℃で1時間、アニール処理Bを行うことにより、熱電半導体材料の微粒子を結晶成長させ、電極を備えたp型及びn型熱電素子の薄膜を作製した(In−plane型熱電変換モジュール)。
次いで、得られたIn−plane型熱電変換モジュールの薄膜の両面に、(3)で得られた熱伝導性フィルム(接着剤層付)を、
図1(b)のように、高熱伝導部7と低熱伝導部8とが同一面上では交互に、対向面上同士では互いに向き合うように配置するよう貼付し、In−plane型ペルチェ冷却素子を作製した。
【0062】
(実施例2)
イオン液体(イオン液体1)を、1−ブチル−3−(2−ヒドロキシエチル)イミダゾリウムブロミドから1−ブチル−4−メチルピリジニウムヨージド(シグマアルドリッチジャパン社製、イオン液体2、電気伝導率:1.8×10
−5S/cm)に変更した以外は、実施例1と同様にして、p型熱電変換材料、n型熱電変換材料及びIn−plane型ペルチェ冷却素子を作製した。
【0063】
(実施例3)
イオン液体1の添加量を10質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして、p型熱電変換材料、n型熱電変換材料及びIn−plane型ペルチェ冷却素子を作製した。
【0064】
(実施例4)
イオン液体1の添加量を40質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして、p型熱電変換材料、n型熱電変換材料及びIn−plane型ペルチェ冷却素子を作製した。
【0065】
(実施例5)
中空フィラーとしてシリカ中空フィラーである中空ナノシリカ(日鉄鉱業株式会社製、「シリナックス(登録商標)」、平均粒子径105nm、真密度0.57g/cm
3)を用いた以外は実施例1と同様にIn−plane型ペルチェ冷却素子を作製した。
【0066】
(比較例1)
イオン液体を加えず、ポリイミド樹脂の配合量を5質量%から10質量%にした以外は、実施例1と同様にして、p型熱電変換材料、n型熱電変換材料及びIn−plane型ペルチェ冷却素子を作製した。
【0067】
(比較例2)
耐熱性樹脂を加えず、導電性高分子であるポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸イオンの混合物PEDOT:PSSとイオン液体1と熱電半導体微粒子を表1に記載の配合で混合分散した熱電半導体組成物からなる塗工液を調製し、p型熱電変換材料、n型熱電変換材料及びIn−plane型ペルチェ冷却素子を作製した。
【0068】
(比較例3)
耐熱性樹脂をポリスチレン(300℃における質量減少率:100%)に変更した以外は、実施例1と同様にして、p型熱電変換材料、n型熱電変換材料及びIn−plane型ペルチェ冷却素子を作製した。
【0069】
(比較例4)
熱伝導性フィルムを高熱伝導部、低熱伝導部のパターンを有さないポリイミドフィルム(東レデュポン社製、商品名「カプトン」、厚み:50μm)に変更した以外は、実施例1と同様にして、In−plane型ペルチェ冷却素子を作製した。
【0070】
【表1】
【0071】
実施例1〜5及び比較例1〜4で得られたp型熱電変換材料、n型熱電変換材料の熱電性能評価、屈曲性評価、及びIn−plane型ペルチェ冷却素子の冷却特性評価に係る結果を表2に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
実施例1〜5の熱電変換材料は、イオン液体を加えない比較例1に比べて、無次元熱電性能指数ZTが1オーダー又はそれ以上高く、また、円筒形マンドレル試験前後で、熱電変換材料にクラック等の割れが発生することもなく、無次元熱電性能指数ZTがほとんど低下せず、屈曲性が優れていることが分かった。さらに、耐熱性樹脂を使用しない比較例2(耐熱性の低い導電性高分子のみ使用)に比べ、無次元熱電性能指数ZT及び屈曲性がはるかに優れていることが分かった。
実施例1〜5の熱伝導性フィルムを備えたIn−plane型ペルチェ冷却素子は、イオン液体を加えない比較例1に比べて、冷却面(吸熱側)と排熱面(発熱側)との温度差が小さいことから、電圧印加による冷却効果と熱交換可能な排熱量に収まっており高性能なペルチェ能を有していることが分かった。
実施例1の高熱伝導部と低熱伝導部を交互に備え、熱を特定の方向に選択的に放熱可能な熱伝導性フィルムを用いたIn−plane型ペルチェ冷却素子は、低熱伝導部のみを備える熱制御性を有しない熱伝導性フィルムを用いた比較例4に比べて、冷却面(吸熱側)の温度が−10℃〜0℃と低く、熱伝導性フィルムによりスムーズに熱交換が行われているため、排熱面の温度がチラーによる冷却で十分冷却されていることから、より冷却効果が優れていることが分かった。