(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、実施形態)について詳細に説明する。なお、実施形態の説明の全体を通して同じ要素には同じ番号を付している。
【0016】
また、特に断りがない場合、「先(端)」や「前(方)」等の表現は、各部材等において液体の噴霧方向側を表し、「後(端)」や「後(方)」等の表現は、各部材等において液体の噴霧方向と反対側を表すものとする。
【0017】
(第1実施形態)
図1は本発明に係る第1実施形態の静電噴霧装置10の斜視図であり、
図2は液体噴霧部20の中心軸に沿った静電噴霧装置10の断面図である。
【0018】
図1及び
図2に示すように、静電噴霧装置10は、平板状の被塗物40の液体を塗着させる部分である前面41に対向するように配置されたノズル22を有する液体噴霧部20と、被塗物40の液体を塗着させない部分である後面42に向けて配置され、導電材料又は半導電材料からなる棒状の部材である塗着防止電極30と、被塗物40と液体噴霧部20及び塗着防止電極30との間に電圧を印加する電圧印加手段50(電圧電源)と、を備えている。
なお、半導電材料とは、例えば、10
10Ω以下の表面抵抗を有するような材料である。
【0019】
なお、本実施形態では、電圧印加手段50は、1つの電圧電源とした場合を示しているが、電圧印加手段50が1つの電圧電源で構成される必要はない。
例えば、電圧印加手段50としては、被塗物40と液体噴霧部20の間に電圧を印加する1つの電源電圧と、被塗物40と塗着防止電極30の間に電圧を印加する1つの電圧電源とを有し、合計で2つの電源電圧を有するような構成であってもよい。
【0020】
また、本実施形態では、電圧印加手段50からの電気配線が被塗物40に直接接続されている場合を示しているが、電圧印加手段50からの電気配線が被塗物40を載置する載置台等に設けられる端子に接続され、被塗物40が載置台等に載置されたときに、その端子に被塗物40が接触することで被塗物40が電圧印加手段50に電気的に接続されるようにしてもよい。
【0021】
また、静電噴霧装置10は、電圧印加手段50から被塗物40に接続される電気配線に接続されたアース手段60を有しており、被塗物40がアースされるようになっている。
なお、アース手段60は、必須の要件ではないが、被塗物40は作業者が触れる可能性があるので、安全面の観点からアース手段60を設けて被塗物40をアースするようにすることが好ましい。
【0022】
(液体噴霧部)
図3は、液体噴霧部20だけを示した断面図であり、液体噴霧部20から後述するように塗料等の液体が噴霧されている状態を合わせて図示したものになっている。
【0023】
図3に示すように、液体噴霧部20は、液体の供給される液体供給口21aを有する液体流路21bが形成された絶縁材料からなる胴体部21と、貫通孔が胴体部21の液体流路21bに連通するように胴体部21の先端に設けられるノズル22と、胴体部21の液体流路21b内及びノズル22の貫通孔内に配置される導電材料からなる心棒23と、を備えている。
【0024】
胴体部21には、心棒23を後端側に取り出すために、液体流路21bと連通した孔部21cが設けられ、その孔部21c内には、心棒23との間の隙間をシールして液体が漏れないようにするシール部材24が設けられている。
なお、本実施形態では、シール部材24としてOリングを用いているが、Oリングに限らず、シールが可能なものであればよい。
【0025】
そして、孔部21cを通じて胴体部21の後端側に位置する心棒23の後端には、絶縁材料からなる摘み部23aが設けられているとともに、摘み部23aのほぼ中央を貫通するように設けられた導電材料からなる電気配線接続部23bが設けられている。
【0026】
図2に示すように、電気配線接続部23bには、電圧印加手段50からの電気配線が接続され、電気配線接続部23bが心棒23に接触するようにされることで心棒23と電気配線接続部23bとが電気的に接続されている。
【0027】
なお、本実施形態では、心棒23を液体噴霧部20側の電極としているが、例えば、液体噴霧部20のノズル22を導電材料からなるものとして、このノズル22に電圧印加手段50からの電気配線を接続するようにし、ノズル22を液体噴霧部20側の電極としてもよい。
【0028】
また、
図3に示すように、胴体部21の後端開口部21dの内周面には、摘み部23aを螺合接続するための雌ネジ構造21eが設けられ、一方、摘み部23aの先端外周面には、雄ネジ構造23cが設けられている。
【0029】
したがって、胴体部21の後端開口部21dの雌ネジ構造21eに摘み部23aの先端外周面の雄ネジ構造23cを螺合させることで心棒23が取外し可能に胴体部21に取付けられている。
また、摘み部23aの螺合量を調節することで心棒23を前後方向に移動させることができ、心棒23の先端面23dの位置を前後方向に調節できるようになっている。
【0030】
ここで、一般に、静電噴霧装置の液体を噴霧するノズルは、液体が流れる貫通孔の直径が小さい微細な液体流路とされる。
これは、液体が流れ出るノズルの先端の開口直径が大きいと、安定した液体の霧化状態が得られなくなるためと推察される。
例えば、一般には、ノズルの先端の開口直径は0.1mm未満とされている。
【0031】
このため、液体が乾燥したりすると直ぐに、ノズルの先端の開口部が目詰まりするが、開口直径が小さいため、この目詰まりを解消することが難しいという問題がある。
【0032】
しかしながら、理由については、後ほど説明するが、心棒23を用いるようにすることで、従来に比較して、ノズルの先端の開口径を大きな開口直径としても良好な霧化ができることを見出し、このため、本実施形態のノズル22の先端の開口部22bの開口直径は0.2mmの大きな開口直径にできている。
この結果、目詰まりが発生する頻度を大幅に低減することができるようになっている。
【0033】
なお、ノズル22の開口部22bの開口直径は0.2mmに限定されるものではなく、心棒23を用いる形態においては、開口直径は1.0mm程度であっても問題はない。
【0034】
ノズル22の開口部22bの開口直径は、目詰まりが起きにくく、また、目詰まりが起きても清掃ができることを考慮すると、0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましく、さらに0.2mmより大きくすることが好ましい。
【0035】
一方、ノズル22の開口部22bの開口直径は、霧化の安定性を考慮すると、1.0mm以下が好ましく、0.8mm以下がより好ましく、さらに0.5mm以下とすることが好ましい。
【0036】
また、本実施形態では、上述のように、心棒23を前後方向に移動させることができるため、目詰まりが起きても心棒23を移動させることで目詰まりを解消することができる。
さらに、ノズル22の貫通孔の内径も心棒23を配置できる程度に大きくできているため、心棒23を取り外して洗浄液を大量に流して洗浄することも可能になっている。
【0037】
図4は、液体噴霧部20の先端側を拡大した拡大図であり、
図4(a)は、心棒23の先端面23dが後方に位置する場合であり、
図4(b)は、
図4(a)の状態よりも心棒23の先端面23dが前方に位置する場合である。
【0038】
図4(a)に示すようにノズル22は、開口部22b側に向かってテーパ状に内径が小さくなるテーパ角度がαであるテーパ状内径部(範囲W1参照)を有しており、心棒23は、先端面23dに向かって外径が小さくなるテーパ角度がβであるテーパ形状部(範囲W2参照)を有している。
【0039】
そして、ノズル22のテーパ状内径部のテーパ角度αが、心棒23のテーパ形状部のテーパ角度βよりも大きくされている。
また、心棒23の先端面23dの直径は、ノズル22の開口部22bの開口直径よりも小さい直径とされているが、心棒23のテーパ形状部は、後端側に向かって徐々に直径が大きくなり、ノズル22の開口部22bの開口直径よりも直径の大きい部分を有するように形成されている。
【0040】
上記のように、ノズル22及び心棒23の先端側を形成することによって、
図4(a)及び
図4(b)を見比べるとわかるように、心棒23を前後方向に移動させることでノズル22と心棒23とで形成される隙間の幅を調節できるようになり、ノズル22の開口部22bから出る液体の量を調節することができる。
【0041】
また、
図4(b)で示す状態よりも、更に、心棒23を前方側に動かすことで、心棒23がノズル22の内周面に当接し、ノズル22の開口部22bを閉塞することが可能である。
したがって、塗料等の液体を噴霧しない状態において、ノズル22の開口部22bを心棒23で閉塞させ、ノズル22内の液体が乾燥することを防止することが可能であり、ノズル22の目詰まりを抑制できる。
【0042】
次に、
図3を参照しながら、まず、液体噴霧部20から液体が噴霧される状態について説明を行い、その後、被塗物40の液体を塗着させない部分である後面42に液体を塗着させないようにしつつ、液体を塗着させる部分である前面41に液体の塗着が行えることについての説明を行う。
【0043】
胴体部21の液体供給口21aに供給された液体は、ノズル22の先端側に供給されていき、電圧印加手段50(
図1及び
図2参照)によって、被塗物40と心棒23との間に印加される電圧に伴う静電気力によって、前方側に引っ張られて前方に離脱・霧化する。
【0044】
より詳細には、電圧印加手段50による電圧の印加は、被塗物40の電位を基準電位(本実施形態では、被塗物40はアースされているので0Vである)としたときに、液体噴霧部20の電位(より正確には心棒23の電位)を基準電位と異なる第1の電位であって、基準電位と第1の電位との電位差がノズル22から液体を帯電状態で離脱させることができるだけの静電気力を発生できる電位差となる第1の電位とするように行われている。
このため、ノズル22の先端側に供給された液体は、静電気力によって、前方側に引っ張られて前方に離脱・霧化する。
【0045】
なお、液体の供給は、噴霧により消費されることで液体噴霧部20から失われる分の液体が順次供給されていればよく、ノズル22の開口部22b(より正確には、開口部22bと心棒23との間の隙間)から液体が噴射するような圧力で圧送供給される必要はなく、液体が勢いよく噴射される状態の場合、かえって霧化ができなくなるようなことが起こる。
【0046】
この液体が離脱・霧化する状態をより具体的に説明すると、液体の心棒23の先端面23d及びノズル22の先端外周縁22aへの表面張力や粘度による付着力に対して、液体を前方に引っ張る静電気力が釣り合うことで、
図3に示すように、ノズル22の先端側に供給された液体が、その先端で円錐形の形状となるテーラコーン80が形成される。
【0047】
このテーラコーン80は、電場の作用によって、液体中で正/負電荷の分離が起こり、過剰電荷で帯電したノズル22の先端のメニスカスが変形して円錐状となって形成されているものである。
そして、テーラコーン80の先端から静電気力によって液体が真直ぐに引っ張られ、その後、静電爆発によって液体が噴霧される。
【0048】
この噴霧される液体、つまり、ノズル22から離脱して液体粒子となった液体は、離脱前の状態に比べ、空気に触れる面積が飛躍的に大きくなるため溶媒の気化が促進され、その溶媒の気化に伴って帯電している電子間の距離が近づき、静電反発(静電爆発)が発生して、さらに、小さい粒径の液体粒子に分裂する。
【0049】
この分裂が起こると、さらに、分裂前に比べ空気に触れる表面積が増えることになるため、溶媒の気化が促進され、上述したのと同様に静電爆発が発生し、さらに、小さい粒径の液体粒子に分裂する。
このような静電爆発が繰り返されることで液体が霧化される。
【0050】
ここで、本実施形態では、ノズル22内に心棒23を設けるようにしている。
仮に、従来の静電噴霧装置のように、この心棒23を設けないものとすると、液体が付着できる部分は、ノズル22の先端外周縁22aだけとなる。
【0051】
そして、このような状態でノズル22の開口部22bの開口直径を大きくすると、液体の付着できる部分が、ノズル22の先端外周縁22aだけのため、例えば、ノズル22の上下左右に液体がふらついたりし易く、きれいなテーラコーン80が形成できなくなったり、また、テーラコーン80自体が維持できなくなるため、ノズル22から離脱する液体粒子の安定性(粒子の大きさ、数及び帯電状態等の安定性)が得られなくなったりし、結果、液体の安定した霧化ができなくなるものと推察される。
【0052】
一方、本実施形態では、ノズル22内に心棒23を配置して、ノズル22の先端外周縁22aだけでなく、心棒23の先端面23dとの間でも液体は付着する。
したがって、ノズル22の開口部22bの開口直径が大きくても、開口部22bの中央部に液体が付着できる心棒23の先端面23dが存在するため、安定したテーラコーン80を形成することができ、液体の安定した霧化ができるようになっているものと考えられる。
【0053】
なお、心棒23の先端面23dがノズル22の先端外周縁22a(つまり、ノズル22の開口部22bの先端面)から前方に出過ぎるとノズル22から出る液体に電場が作用し難くなり、一方、心棒23の先端面23dがノズル22の開口部22bの先端面から後方に引っ込み過ぎると、開口部22bの中央部に液体が付着できる部分が存在しないのと同じ状態となる。
【0054】
このことから、心棒23の先端面23dの位置は、液体を噴霧する状態において、ノズル22の開口部22bの先端面を基準にして、心棒23の中心軸に沿った前後方向で、ノズル22の先端の開口部22bの開口直径の10倍以内に位置することが好適であり、5倍以内に位置することがより好適であり、3倍以内に位置することが更に好適である。
【0055】
例えば、本実施形態では、ノズル22の開口部22bの開口直径が0.2mmであり、静電気力を考慮しない場合、ノズル22の開口部22bから出た液体は、ノズル22の先端で直径が約0.2mmの半球状となるように出てくる。
【0056】
そして、このノズル22の先端に出てきた液体に電場(静電気力)が作用して円錐状のテーラコーン80が形成できるように、心棒23の先端は、ノズル22の開口部22b近くまで到達した液体の近くに存在することがよく、このためノズル22の開口部22bの先端面から前方(出る方向)の2mm以内に位置するようにするのが好適であり、一方、液体の付着に作用するように、心棒23の先端がノズル22の開口部22bの先端面から後方(引っ込む方向)の2mm以内に位置するようにするのが好適である。
【0057】
上記のように、心棒23を設けることによって、ノズル22の開口部22bの開口直径を大きくしても安定した液体の霧化が行える。
このため、ノズル22の開口部22bの開口直径を目詰まりが抑制できるような大きな開口直径にすることができる。
また、ノズル22の開口部22bの開口直径を大きくできるため機械加工で容易にノズル22が製作できる。
【0058】
なお、本実施形態では、心棒23の先端が先端面23dとして平坦な平面としている場合を示しているが、必ずしも、心棒23の先端が平坦な平面である必要はなく、安定したテーラコーン80の形成に寄与すればよいので、例えば、心棒23の先端はR形状のように、前方側に向かって突出する曲面になっていてもよい。
【0059】
このようにして液体噴霧部20(ノズル22)から噴霧された液体は、静電爆発を繰り返しながら微粒化し、この微粒化した液体は電荷を帯びた状態のため、電圧印加手段50によって液体噴霧部20に対する異極の状態とされている被塗物40側に静電気力で引き寄せられ、被塗物40に塗着することになる。
【0060】
ここで、上述したように、本実施形態の静電噴霧装置10は、
図1及び
図2に示すように、被塗物40の液体を塗着させない部分である後面42に向けて塗着防止電極30が配置されている。
【0061】
塗着防止電極30は、
図1及び
図2に示すように、電圧印加手段50の液体噴霧部20に接続される電気配線から直接分岐された電気配線が接続されている。
このため、塗着防止電極30は、被塗物40の電位を基準電位としたときに、液体噴霧部20と同様に基準電位と異なる第2の電位を有するだけでなく、第1の電位である液体噴霧部20と極性の方向が同じになっている。
【0062】
なお、本実施形態では、抵抗等を間に介すことなく、電圧印加手段50の液体噴霧部20に接続される電気配線から直接分岐された電気配線を塗着防止電極30に接続しているので、液体噴霧部20の第1の電位と塗着防止電極30の第2の電位はほぼ同じ電位になっている。
【0063】
図5は、電圧印加手段50によって、被塗物40と液体噴霧部20及び塗着防止電極30との間に電圧を印加したときの電界の状態(電界の方向)を示した図であり、液体噴霧部20の側面側が見える方向から見た側面図になっている。
なお、
図5では、電圧印加手段50や電気配線に関しては図示を省略している。
【0064】
図5を見るとわかるように、被塗物40の後面42側では、塗着防止電極30との間に張られる電界が存在するために、被塗物40と液体噴霧部20との間で張られる電界が後面42側に回り込むことがない。
なお、上面から見た上面図であっても
図5と同様の電界の状態となる。
【0065】
つまり、液体噴霧部20と被塗物40との間の電界は、液体噴霧部20と前面41との間にだけ張られているので、液体噴霧部20から噴霧される液体が、被塗物40の後面42側に回り込むことなく、被塗物40の前面41に引き寄せられ、被塗物40の前面41に塗着することになる。
【0066】
一方、塗着防止電極30を設けない場合には、液体噴霧部20と後面42との間にも電界が張られた状態になっているため、液体噴霧部20から噴霧された液体のうち、被塗物40からオフセットしたような位置に噴霧された液体が、被塗物40の後面42側に回り込み塗着するようなことが起こるが、本実施形態の場合には、そのような回り込み塗着の発生を抑制することができるので、被塗物40の後面42にマスクを設ける必要がない。
【0067】
(第2実施形態)
図6は第2実施形態の静電噴霧装置10を示す斜視図である。
なお、第2実施形態の静電噴霧装置10の構成の多くは、第1実施形態と同様であるため、以下では、主に異なる点について説明し、同様である部分については説明を省略する場合がある。
第2実施形態では、被塗物40が四角柱の形状をしている点は第1実施形態と異なるが、被塗物40の前面41に液体を塗着させる点は第1実施形態と同様である。
また、第2実施形態では、後面42ではなく、左右の側面43、44を主に液体を塗着させない部分とするために、その液体を塗着させない部分に向けて塗着防止電極30を配置し、2つの塗着防止電極30を用いている点が第1実施形態と異なっている。
【0068】
図7は、電圧印加手段50によって、被塗物40と液体噴霧部20及び2つの塗着防止電極30との間に電圧を印加したときの電界の状態(電界の方向)を示した図であり、液体噴霧部20の上側が見える方向から見た上面図になっている。
なお、
図7では、電圧印加手段50や電気配線に関しては図示を省略している。
【0069】
図7を見るとわかるように、やはり、塗着防止電極30が向けられている被塗物40の左右の側面43、44は、塗着防止電極30との間で電界を張るようになっているため、液体噴霧部20との間で電界を張っておらず、このため被塗物40の左右の側面43、44にマスクを設けなくても、液体噴霧部20から噴霧された液体が被塗物40の左右の側面43、44に塗着することがない。
なお、被塗物40の上下面への液体の塗着も防止したい場合には、さらに、上下面に向けて配置する塗着防止電極30を設けるようにすればよい。
【0070】
このように、被塗物40の前面41に主に液体を塗着させたい場合には、ノズル22の先端から被塗物40を最短距離で結ぶ直線軸(
図7のZ軸参照)が被塗物40と交わる点で直線軸(
図7のZ軸参照)に直交する平面(前面41参照)を規定したときに、平面を挟んで液体噴霧部20の反対側の適切な位置、例えば、被塗物40の上下左右面に向く位置や第1実施形態のように後面42に向く位置に塗着防止電極30を位置させるようにすればよい。
【0071】
特に、第1実施形態のように、平板状の被塗物40の後面42に液体を塗着させない場合には、塗着防止電極30が、被塗物40を挟んで液体噴霧部20と反対側に位置するようにすればよい。
【0072】
(第3実施形態)
図8は第3実施形態の静電噴霧装置10を示す斜視図であり、第1実施形態の平板状の被塗物40を円柱状の被塗物40とした点が第1実施形態と異なり、その他の点は第1実施形態と同様である。
このようにすれば、円柱状の被塗物40の液体噴霧部20側を向いた半分の面に液体を塗着させ、残る半分の面に液体を塗着させないようにすることが可能である。
【0073】
なお、これまでの実施形態を含め、塗着防止電極30の電位である第2の電位が液体噴霧部20の電位である第1の電位とほぼ同じ電位となる場合について示してきたが、必ずしも第2の電位が第1の電位とほぼ同じ電位である必要はない。
【0074】
被塗物40の電位を基準電位としたときに第1の電位と第2の電位の極性の方向が同じになるようにされていればよく、その上で塗着防止電極30の電位である第2の電位をどの程度の電位とするかは、液体を塗着させたくない範囲に応じて変更すればよい。
【0075】
例えば、塗着防止電極30に接続される電気配線の途中に可変抵抗を加えるようにすれば、この可変抵抗の抵抗値を変えることで第2の電位を変えることが可能であり、第2の電位を被塗物40の電位である基準電位に近づければ、被塗物40との間で張られる電界が弱くなるので、液体を塗着させない範囲を小さくすることができる。
【0076】
逆に、第2の電位を被塗物40の電位である基準電位から離すようにすれば、その分、被塗物40との間で張られる電界が強くなるので、液体を塗着させない範囲を大きくすることができる。
【0077】
ただし、第1の電位と第2の電位の極性の方向が逆になる場合は、塗着防止電極30が、第1の電位である液体噴霧部20に対する異極になることを意味し、塗着防止電極30と液体噴霧部20との間で電界が張られ、塗着防止電極30が液体噴霧部20から噴霧される液体の塗着するターゲットとなるので、上述のように、被塗物40の電位を基準電位としたときに第1の電位と第2の電位の極性の方向が同じになるようにする必要がある。
【0078】
(第4実施形態)
図9は、第4実施形態の静電噴霧装置10を示す斜視図である。
第4実施形態では、
図8に示した構成にノズル22の外周に固定される絶縁材料からなる近接電極ホルダ71を設け、ノズル22の近隣に配置される近接電極70を備えるようにした点が主に異なる。
【0079】
この近接電極70を設けるにあたっては、電圧印加手段50の近接電極70への電圧の印加が、近接電極70の電位を被塗物40の電位である基準電位と液体噴霧部20の電位である第1の電位の間の第3の電位であって、第1の電位と第3の電位との電位差がノズル22から液体を帯電状態で離脱させる静電気力を発生できる電位差とするように構成すればよい。
【0080】
具体的には、
図9に示すように、被塗物40と液体噴霧部20との間に印加される電圧を抵抗Rで分割して、近接電極70の電位を被塗物40の電位である基準電位と液体噴霧部20の電位である第1の電位の中間程度となる第3の電位とすればよい。
【0081】
このような近接電極70を設けるようにすれば、ノズル22からの液体の離脱・霧化が主に近接電極70と液体噴霧部20との間で行われるため、被塗物40が配置されていない状態でも霧化を行った状態を維持することができる。
【0082】
霧化開始直後は、霧化の状態が安定していない場合があるが、本構成のようにしておけば、霧化が安定したところにコンベア等で被塗物40を液体を噴霧する位置に搬送するようにすれば、霧化開始直後の霧化の状態が安定していない液体が被塗物40に塗着することを回避することができるので、塗布ムラの発生を抑制することが可能である。
【0083】
以上、具体的な実施形態に基づいて本発明の静電噴霧装置について説明してきたが、本発明は、上記の具体的な実施形態に限定されるものではない。
例えば、上記実施形態では、塗着防止電極30が被塗物40の液体を塗着させない部分に向けて配置されている。
しかし、塗着防止電極30が被塗物40の液体を塗着させない部分に向いていなくても、塗着防止電極30は被塗物40の液体を塗着させない部分との間に電界を張るため、液体の塗着を防止することができる。
【0084】
このため、塗着防止電極30は被塗物40の液体を塗着させない部分との間に電界を張る位置に位置すればよく、被塗物40の液体を塗着させない部分に向けて配置されていることは必須の要件ではない。
【0085】
このように、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形や改良を施したものも本発明の技術的範囲に含まれるものであり、そのことは、当業者にとって特許請求の範囲の記載から明らかである。