(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記細胞の前記物質と接触している側を前記細胞の頂端側とし、前記細胞の前記物質との非接触側を基底側とする前記作用を評価する、請求項2〜5のいずれかに記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書の開示は、物質と細胞との間における作用の評価方法、かかる評価のための構造体、物質と細胞との複合体の製造方法等に関する。
【0019】
本明細書において、例えば、
図1に示すように、物質は、液体の除去を介して細胞に供給又は細胞と接触される。液体を媒体とする物質の供給又は物質との接触により、物質と細胞との間における作用をより適切に評価することができる。
【0020】
すなわち、液体を、細胞への物質の供給や接触のための媒体として利用することで、液体の有する溶解特性、分散特性のほか、揮発特性、表面張力特性及び生体に対する適合性を利用して、従来、細胞を利用して評価できなかった物質を評価対象としてできるようになり、また、より確度や定量性の高い評価が可能となる。
【0021】
また、液体は、親水性液体とすることができるほか、非親水性液体とすることができる。液体の蒸発等の除去による物質の露出に適していれば、本開示に用いることができる。
【0022】
液体として非親水性液体を用いるとき、非親水性液体の有する、親水性液体とは異なる溶解性や分散性によって、親水性液体では十分に分散しあるいは溶解しえなかった物質を細胞に対して定量的にあるいは均一に供給させることができるようになる。例えば、気相下では、細胞に対して均一に供給することが困難な水に分散しない油性ゲル状や油性軟膏状の物質を、本開示の方法によれば、細胞に傷害を与えずに、均一に供給さすることができる。
【0023】
また、非親水性液体は、概して水よりも揮発性が高いため、速やかに非親水性液体を蒸発等させて除去することで、物質を迅速に露出させることができる。また、迅速に物質を露出させることで、細胞と非親水性液体とを接触させた状態で非親水性液体を蒸発させても、細胞への傷害を抑制又は回避することができる。
【0024】
さらに、非親水性液体であるために、その蒸発に際して、細胞自体の生存に必要な水分を奪うことが抑制又は回避でき、細胞の生存環境を維持することができる。
【0025】
さらにまた、非親水性液体は、概して表面張力が水よりも小さい。このため、蒸発時における溶質又は分散質が凝集したり、凝集して析出することを抑制又は回避できる。
【0026】
さらにまた、非親水性液体が有する生体適合性によれば、非親水性液体を利用することの細胞へのダメージを抑制又は回避して、確度の高い評価が可能となる。なお、非親水性液体の細胞に対する生体適合性やその評価方法は、本発明者らによって初めて提供されるものであって、後段で詳述する。
【0027】
また、本開示の物質と細胞との複合体を、非親水性液体を仲介媒体として非親水性液体の蒸発を利用して作製することができる。この複合体は、物質の細胞に対する作用の評価用デバイスとして、また、それ自体有用性のある細胞構造体として利用できる。
【0028】
本開示の複合体においては、非親水性液体の蒸発を利用して物質が細胞表面に露出され担持(吸着)されているため、空気などの気体を媒体とする場合とは異なり、通風など気体流を利用しなくてよいため、気流による細胞への傷害性や気流による物質(特に小さい粒子状の場合など)の散逸を回避することができ、細胞障害を回避して非親水性液体中の物質を確実に細胞に付与できる点において有利である。
【0029】
本明細書において「細胞」とは、特に限定しないで、動物、植物、微生物が挙げられるほか、ウイルスも包含する。細胞は、動物細胞としては、例示であって限定するものではないが、ヒトを含む哺乳動物細胞のほか、哺乳類以外の動物細胞が挙げられる。植物細胞としても、特に限定しないで各種の植物細胞を用いうる。また、微生物細胞としても特に限定しないで各種の微生物(原核微生物、真核微生物)が挙げられる。
【0030】
細胞としては、例えば、ヒト気管支上皮細胞、肺胞上皮細胞、腸上皮細胞、ケラチノサイト、角膜上皮細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞、骨芽細胞、間葉系幹細胞、ES細胞、iPS細胞等のヒト由来の動物細胞を好ましく用いることができる。
【0031】
細胞は、接着性(付着性)細胞であってもそうでなくてもよい。接着性細胞にあっては、適当な足場としての支持体を用いることで、その活性や増殖性を確保できる。また、非接着性細胞の場合にも、これらの細胞を保持する支持体を用いることが好ましい。
【0032】
細胞は、細胞同士が結合した状態及び/又は細胞が細胞外マトリックスに結合した状態であってもよい。すなわち、細胞は、シート状体、管状体、積層体等、所望の3次元形状を備える構造体であってもよい。また、細胞は、生体の組織若しくは器官又はこれらの一部であってもよい。さらに、細胞は、幹細胞工学により構築された幹細胞に由来する構造体であってもよい。
【0033】
本明細書において「物質と細胞との間における作用」とは、物質が細胞に及ぼす作用、細胞が物質に及ぼす作用、及び物質と細胞との間の相互作用が挙げられる。こうした「作用」としては、これらの1種のみであってもよいし、2種及び3種であってもよい。
【0034】
物質が細胞に及ぼす作用としては、特に限定するものではないが、「細胞毒性」(細胞適合性)他、細胞の増殖性に対する作用、細胞の運動性に対する作用、細胞のアポトーシスに対する作用のほか、物質の透過性に対する作用、薬理作用を含む種々の代謝上の作用等が挙げられる。
【0035】
また、細胞が物質に及ぼす作用としては、細胞の物質の取り込み作用、細胞が有する酵素等による変換・合成作用等が挙げられる。また、物質と細胞との間の相互作用としては、物質が細胞に及ぼす作用と細胞が物質に及ぼす作用との組合せなどが挙げられる。以下、「物質と細胞との間における作用」を、総称して単に、「作用」という場合がある。
【0036】
これらの作用において、本開示においては、物質は、非親水性液体の蒸発等により細胞の一方の側の表面に気相下に露出され、他方の側の表面は栄養成分等を受け取る親水性媒体に接触される形態となりうる。この形態は、表皮、上皮、腺房細胞及び腺細胞等を含む上皮細胞における物質との接触状態を模倣したものとなっているといえる。こうした細胞としては、特には、肺上皮細胞、皮膚ケラチノサイト、角膜上皮細胞等が挙げられる。
【0037】
より具体的には、この接触状態においては、細胞における物質との接触側は、生体において内腔に接した細胞膜の表面に相当し、頂端膜を模倣した形態となっている。また、細胞において物質と接触しない非接触側は、間質液に接した細胞膜の表面に相当し、基底面を模倣した形態となっているといえる。
【0038】
したがって、本開示における物質と細胞との接触状態によれば、細胞の極性までをも考慮してより現実的な観点から、各種作用の評価が可能となっている。こうした作用としては、細胞の頂端側から基底側への物質の透過性、物質の透過性を考慮した薬理作用等が挙げられる。
【0039】
なお、本開示において「細胞毒性」及び「細胞(又は生体)適合性」に含まれる「細胞」は、本質的には、細胞外要素を備えないnakedな細胞を意味している。そのように捉えると、細胞毒性の要因は、(1)液体により細胞膜が溶解する、(2)液体が細胞中に拡散・浸透して生体成分と反応し変性させることにより、細胞代謝を撹乱する、(3)DNAに損傷を与える、等といえる。
【0040】
以下、本開示の各種実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1には、本評価方法の一例を概念的に示す。また、
図2〜7には、本評価方法の各種態様を記載する。
【0041】
(作用の評価方法)
本開示の評価方法は、
図1に示すように、物質を溶質及び/又は分散質として含む非液体から、前記物質を露出可能に液体を除去して物質を露出させる露出工程を備えることができる。本評価方法は、この露出工程で露出させた物質を細胞に供給して、作用を評価することができる。
【0042】
本明細書において物質を露出させるとは、物質が液体において溶質であるときには、固体として析出又は液体として分離されて気相に露出されることをいう。また、物質が液体において分散質であるときにも、同様に、固体として析出又は液体として分離されて気相に露出されることをいう。
【0043】
(物質)
本評価方法に適用される物質は、特に限定されない。物質は液体に対して溶質であってもよいし分散質であってもよい。なお、分散状態としては、必ずしも均一な懸濁液、コロイド、エマルションになっていることを要するものではない。
【0044】
本評価方法に適用する物質は、非親水性物質でもよいし、親水性物質であってもよい。本明細書において「親水性物質」とは、親水性液体のほか、それ自体、非親水性液体に対して溶解度や分散性が乏しい物質を意味している。また、物質は、非親水性物質であってもよい。本明細書において「非親水性物質」とは、非親水性液体ほか、それ自体、親水性液体に対して溶解度や分散性が乏しい物質を意味している。例えば、0℃以上50℃以下の水に対して、溶解しないとき又は均一に分散しないとき、その物質は、非親水性物質といってもよい。物質は、非親水性液体の利用の意義の観点からは、好ましくは、非親水性物質である。
【0045】
非親水性物質は、例えば、0℃以上50℃以下の水に対して溶解又は分散しない条件において、液体であってもよいし、固体であってもよいし、気体であってもよい。好ましくは、固体又は液体である。本評価方法は、こうした物質に対して有用である。なお、物質は、ゲル状、クリーム状等であってもよい。
【0046】
物質は、低分子有機化合物のほか、樹脂などの高分子有機化合物などの有機質、ガラス、セラミックス、金属、金属化合物等の無機質及びこれらの複合材料のいずれであってもよい。また、物質は、1又は2以上を用いることができる。2以上の物質は、同時に非親水性液体に含有させることもできる。さらに、物質は、組成物(混合物)であってもよいし、抽出物等の成分の少なくとも一部が不明な組成物であってもよい。
【0047】
物質としては、特に限定するものではないが、例えば、ポリテトラフルオロエチレンなどのフルオロカーボンなどのほか、すすなどの有機物の不完全燃焼時に生じる炭素系の微粒子などの燃焼物由来の粒子、大気中の粒子、土壌粒子、花粉、ダニ死骸、生体一部などの動物又は植物など生物由来粒子、金属、金属化合物、石英を含む各種セラミックス、鉱物などの無機化合物粒子、ポリスチレン、アクリル、シリコーンなどの非フッ素系の高分子材料、タンパク質、核酸、多糖類などの生体由来高分子材料、油脂等が挙げられる。
【0048】
(液体)
本開示においては、液体としては、親水性液体、非親水性液体及びこれらの混液を用いることができる。上記のとおり、蒸発等の除去による物質の露出に対して水よりも有利である限り、親水性液体であっても本開示において用いることができる。親水性液体の場合において、後述するように、水よりも相対蒸発速度に優れることが有利である。
【0049】
(非親水性液体)
本開示においては、液体として非親水性液体を用いることが好ましい。非親水性液体は、概して水よりも蒸発しやすく、蒸発時に細胞から水を奪うことが回避され、水に溶解又は分散し難い物質を均一に保持でき、表面張力が小さく、生体適合性に優れるからである。
【0050】
本明細書において「非親水性液体」とは、親水性液体と相溶しない液体を意味する。非親水性液体は、0℃以上70℃以下のいずれかの温度、好ましくは0℃以上60℃以下、より好ましくは0℃以上50℃以下、さらに好ましくは0℃以上40℃以下の温度で、水に対する比率にかかわらず水と相溶しない限りにおいて、その液体は、非親水性液体と称しうる。非親水性液体は、好ましくは水と二相分離状態を形成する液体である。なお、非親水性液体は、水と相溶しない温度条件において液体である。
【0051】
非親水性液体としては、典型的には、水と相溶しない有機溶媒、これらの2種以上を混合した混液が挙げられる。水と相溶しない有機溶媒としては、例示であって限定するものではないが、典型的には、非極性溶媒と称される溶媒が挙げられる。
【0052】
非親水性液体としては、特に限定しないで、水と相溶しない各種有機溶媒が挙げられる。例示であって限定するものではないが、典型的には、いわゆる各種のオイル、フルオロカーボン構造を有する液体が挙げられる。なお、フルオロカーボン構造とは、フッ素が炭素に直接結合する−C−F構造を少なくとも1つ有する構造をいう。例示であって限定するものではないが、フルオロカーボン構造を有する非親水性液体及びその他の非親水性液体としては、以下の表に示す溶媒を例示できる。これらの溶媒は、生体適合性を備えることができる。
【0060】
本明細書において、「親水性液体」とは、水に対して親和性を備え、水と相溶する液体を意味する。0℃以上70℃以下のいずれかの温度、好ましくは0℃以上60℃以下、より好ましくは0℃以上50℃以下、さらに好ましくは0℃以上40℃以下の温度で、水に対する比率にかかわらず水と相溶する限りにおいて、その液体は、親水性液体と称しうる。親水性液体とは、好ましくは、水と自由に混和する液体である。なお、親水性液体は、水と混和しうる温度条件において液体である。
【0061】
親水性液体としては、水、水と相溶する有機溶媒、これらの2種以上を混合した混液が挙げられる。水と相溶する有機溶媒としては、例示であって限定するものではないが、典型的には、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の低級アルコール、アセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシルド等が挙げられる。
【0062】
液体は、本評価方法に好適な非親水性液体及び/又は親水性液体を選択することができる。非親水性液体及び親水性液体は1又は2以上を用いることができる。すなわち、2以上の非親水性親水性液体を混合して用いることもできるし、2以上の親水性液体を混合して用いることもできる。また、親水性液体と非親水性液体との混液であってもよい。
【0063】
液体は、評価しようとする物質の溶解性、分散性のほか、それ自体の揮発特性、表面張力特性、さらに、評価に用いる細胞に対する生体適合性を考慮して選択することができる。物質の液体に対する溶解性や分散性は必要に応じて確認することができる。また、揮発性や表面張力特性も当業者であれば適宜取得することができる。
【0064】
揮発特性については、例えば、蒸発速度で規定することができ、蒸発速度が大きいことが好ましい。例えば、蒸発速度は、The Kinetic Theory of Gases, Leonard B. Leob, Courier Publications (2004), The Maximum Possible ate of Evaporation of Liquid S. Penner, The Journal of Physical Chemistry 52巻、2号、pp.367-373(1948)等に基づくと、単位面積あたりの液体の蒸発速度は以下の式で表される。
【0066】
ここで、pは蒸気圧であり、Mは分子量であり、Tは絶対温度であり、Rは気体定数である。例えば、使用温度においける非親水性液体の蒸発速度は、少なくとも前記式より算出される使用温度における水の蒸発測組成物より大きいことが必須である。蒸発速度が水よりも小さいと、細胞に含まれる水より優先的に蒸発させるのが困難である。
【0067】
さらに、ASTM規格D3539に定められた標準試験法を用いて、25℃における各物質の蒸発速度を酢酸ブチル等の基準物質の蒸発速度で規格化した相対蒸発速度により、各物質の蒸発しやすさを比較することができる。例えば、基準物質酢酸ブチルの蒸発速度を1としたときの非親水性液体の相対蒸発速度は、少なくとも水の相対蒸発速度0.36よりも大きいことが必須であり、好ましくは3以上、より好ましくは10以上、さらに好ましくは30以上である。
【0068】
また、表面張力特性については、表面張力(mN/m)で規定することができ、表面張力が小さいことが好ましい。また、非親水性液体の表面張力は、水の表面張力(25℃、72.0)よりも小さいことが好ましい。表面張力は公知の方法で測定することができる。
【0069】
例えば、液体の25℃における表面張力(mN/N)は、70以下であることが好ましく、より好ましくは50以下であり、さらに好ましくは30以下であり、一層好ましくは20以下である。
【0070】
(生体適合姓)
本発明者らによれば、液体の生体適合性に関する情報を、例えば、以下のようにして取得することができる。かかる情報に基づいて、評価する細胞に応じて液体を適宜選択することができる。
【0071】
(ハンセン溶解度パラメータ;HSP)
生体適合性は、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)を用いて特定することができる。本明細書において、HSP(ハンセン溶解度パラメータ)は、以下のように定義される。
【0072】
液体のHSPは、3種類の凝集エネルギー密度値、δD:分散項、δP:分散極及びδH:水素結合項の組合せであり、それぞれの単位は、[J/cm
3]
1/2又は[MPa]
1/2である。液体のHSPは、市販されているソフトウェアであるHSPiP4th Edition version4.0.04における登録値又は推算値として取得することができる。
【0073】
このソフトウェアは、http://hansen-solubility.com/index.html等のサイトから取得可能である。また、こうしたソフトウェアに基づいてHSPを求めるには、ハンセンらによる文献(例えば、C. M. Hansen solubility parameteres: a user7S handbook 2
nd edition, CEC press, 2007, ISBN -10: 0849372488)に基づくことができる。
【0074】
(モル体積)
なお、HSPに加えて、液体のモル体積が生体適合性に影響を及ぼしうる。液体モル体積は、分子間の相互作用や速度論的な現象(拡散等)に関連するからである。モル体積が大きいほど、生体を構成する細胞膜成分への溶解性が低くなり、浸透性や拡散性も低くなり生体適合性が増大する傾向がある。一方、モル体積が小さいほど、細胞への浸透性や拡散性が高くなり、生体適合性が低下する傾向がある。なお、混合溶媒のモル体積は、各単一溶媒のモル体積の加重平均として表すことができる。本明細書における液体のモル体積は、HSPiP4th Edition version4.0.04のデータベース登録値及び推算値に基づくことができる。モル体積の単位は、cm
3/mol又はcc/molである。
【0075】
生体適合性のある非親水性液体としては、HSPに関する閾値情報及びモル体積に関する閾値情報で判定することができる。判定例としては例えば、以下が挙げられる。
【0076】
液体のモル体積が、330cm
3/mol以上のとき、好ましくは、以下のHSP球をHSP閾値情報とし、当該HSP球内部にあるHSPを適合性のあるHSPとすることができる。なお、HSPに関する閾値情報は、HSP空間における所定の中心値(δD、δP、δH)及び所定の相互作用半径Rによって規定されるHSP球とし、当該HSP球の内部を適合性あるHSPとすることができる。
【0077】
例えば、モル体積は、330cm
3/mol未満であり、HSPが、中心値(δD、δdP、δH)が(12.73, 2.33, 3.46) ([J/cm
3]
1/2)であり、相互作用半径Rが3.4 ([J/cm
3]
1/2)以内のHSP球内である、非親水性液体が挙げられる。
【0078】
また、液体モル体積は、330cm
3/mol以上であり、HSPが、中心値(δD、δP、δH)が(12.73, 2.33, 3.46) ([J/cm
3]
1/2)であり相互作用半径Rが9.0([J/cm
3]
1/2)以内のHSP球内である、非親水性液体が挙げられる。
【0079】
さらにまた、液体モル体積は、125cm
3/mol以上であり、HSPがが、DNA、コレステロール、水、ホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、ホスファチジルエタノールアミン及びホスファチジルセリンの全てのHSP球外にある、非親水性液体が挙げられる。
【0080】
(沸点及び/又は融点)
液体の生体適合性は、HSP及びモル体積のほか、沸点及び/又は融点を考慮することができる。沸点及び融点は、生体適合性液体の非親水性液体としての利便性や操作性に影響する。沸点は33℃を超えることが好ましい。33℃未満であると、生体の生存に一般的に適した通常の作業環境(約10〜30℃)において、液体として取扱難いからである。また、融点は、25℃未満であることが好ましい。融点が25℃以上であると、通常の作業環境(約10〜30℃)において、液体として取扱難いからである。
【0081】
本発明者らによれば、細胞に対してフルオロカーボン構造を有する液体が細胞に対する生体適合性を有することがわかっている。なかでも、フルオロエーテルが好ましい。フルオロエーテルとしては、例えば、C
4F
9OC
2H
5、C
3F
7OCH
3、C
4F
9OCH
3、C
4H
9OC
2H
5等のエーテル結合の一方にパ−フルオロアルキル基を有し、他方にアルキル基を有するフルオロテーテルが挙げられる。また、CF
3CH
2OCF
2CHF等のエーテル結合の一方及び他方にフルオロアルキル基(パーフルオロアルキル基でない)を有するフルオロエーテルが挙げられる。また、本発明者らによれば、例えば、1-ethoxy-1,1,2,2,3,3,4,4,4-nonafluorobutane,
1-ethoxy-1,1,2,3,3,3-hexafluoro-2-(trifluoromethyl)propane, 1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-decafluoro-3-methoxy-4-(trifluoromethyl)pentane, 2-(difluoromethoxymethy)-1,1,1,2,3,3,3-heptafluoropentane, 1,1,1,2,2,3,3,4,4- nonafluoro-4-methoxybutane等も好適な液体として挙げられる。
【0082】
(物質を含有する液体の準備)
物質を液体に分散又は溶解するには、液体に物質を供給するなどして混合し、必要に応じて、溶解又は分散のために、撹拌、振とう、加温及び/又は超音波処理等適宜行うことができる。細胞に対する物質を接触させる量は、液体における物質の濃度及び/又は液体の総量によって適宜設定することができる。
【0083】
(細胞の準備)
本評価方法に用いる細胞は、物質の種類ほか、評価の目的に応じて適宜選択することができる。細胞は、その種類や形態等に応じて適切に培養後、本方法に供することが好ましい。細胞の培養方法等は、当業者であれば、細胞の種類等に応じて適宜選択することができる。
【0084】
例えば、細胞が付着性細胞の場合には、好ましくは、適当な支持体において細胞を播種及び培養して、支持体表面に細胞を緻密に成長・増殖させることが好ましい。露出工程に供する細胞をかかる状態に培養することで、細胞間結合が生じた付着性細胞の状態の細胞を用いて評価することができてより確度の高い評価が可能となる。高い緻密度で培養することでこうした膜状の培養細胞に対して液体を接触させた際、液体の蒸発等による除去を容易に行うことができる。
【0085】
支持体は各種の3次元形態を採ることができる。例えば、シート状、柱状、管状、このほか任意の形状の支持領域をその全体に又は一部に有することができる。
【0086】
また、支持体は、緻密質であってもよいし多孔質であってもよい。支持体は、多孔質体であることが好ましい。多孔質体であると、被験物質と細胞とを接触させつつ細胞に水分及び水溶性成分を供給することができる。また、支持体が多孔質体であると、支持体を介して液体やガスを通過させて、液体の除去にも寄与させることができる。したがって、支持体を細胞支持体としてのみならず、液体をろ過にて除去する場合の液体キャリア又はその一部として用いることができる。
【0087】
多孔質体としては、特に限定するものではないが、例えば、多孔質ガラスやセラミックス、多孔質プラスチック、多孔質ポリテトラフルオロエチレンのほか、ファイバーを要素とする積層体、交絡体、編成体や織物等が挙げられる。
【0088】
多孔質体である支持体は、その平均細孔径が10μm以下であることが好ましい。10μmを超えると細胞が細孔内にはいってしまい、支持体の表面に細胞シートを形成しにくくなるからである。好ましくは、平均細孔径は、5μm以下であり、より好ましくは3μm以下である。なお、平均細孔径は、公知の方法で測定できる。典型的には、電子顕微強(TEM又はSEM)によって得られる一定面積の領域の画像を複数個取得し、これらの各領域内における細孔径を測定し、これらの細孔径測定値に基づいて、平均細孔径を得ることができる。
【0089】
支持体は、ゲル状体とすることもできる。ゲル状体は、概してその表面又は内部に細胞を保持可能である。ゲル状体は、水を保持するヒドロゲルであってもよいし、有機溶媒を保持するオルガノゲルであってもよい。
【0090】
支持体は、好ましくは、親水性液体の透過性を有していることが好ましく、より好ましくは、さらに非親水性液体の透過性を有している。こうした透過性を有する支持体8は、当業者であれば公知の材料を用いて取得することができる。
【0091】
支持体を構成する材料としては、細胞保持性や液体の移動性等を考慮して親水性及び/又は疎水性の公知の材料から適宜選択することができる。例えば、細胞が接着性細胞であるときには、当該細胞が接着性を呈する各種公知の細胞接着性物質又は当該物質を含む又はコーティングした材料を用いることができる。こうした接着性物質であって生体由来の物質としては、特に限定しないが、例えば、コラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、ナイドジエン、フィブリノーゲン、エラスチン類、プロテオグリカン類等が挙げられる。また、公知の細胞接着性が認められているガラス材料、プラスチック材料等が挙げられる。
【0092】
細胞の準備は、細胞の緻密度が一定以上にまで細胞を培養するようにすることが好ましい。例えば、シート状の支持領域を有する支持体に細胞を培養した場合には、その緻密度を、経上皮抵抗値(TER)を用いて測定することができる。また、細胞の状態は、TERのほか、細胞数のカウントや細胞形態の観察等によっても行うことができる。
【0093】
なお、付着性細胞の場合には、親水性液体の透過性を有する多孔質性の支持体を用いることで、効率的な評価が可能となる。
【0094】
また、細胞が非付着性細胞や浮遊性細胞の場合にも、適宜細胞の特性に合わせて培養して準備することができる。
【0095】
(露出工程)
露出工程では、
図1に示すように、物質を含む液体を、物質が露出可能に非親水液体を除去することで、物質を露出させることができる。非親水性媒体を用いることのメリットは、物質との関係においては、その溶解特性、分散特性により、非親水性物質等の適切な評価が可能になる。また、液体の揮発特性、表面張力特性により、迅速かつ均一な露出が可能になることである。また、その生体適合性により、細胞に対するダメージを抑制又は回避できることである。
【0096】
露出工程においては、細胞に対する物質の量を、露出工程に供する液体の量や当該液体内の物質の濃度で調節できる。同じ濃度で物質を含有する液体をより多く供することで、細胞に対して接触させる物質の量を増大させることができる。また、細胞に対する接触させる物質の量を一定量に制御することもできる。
【0097】
液体の除去方法としては、物質の存在状態等に応じて、蒸発、ろ過、振り切り、遠心等を適宜用いることができる。なお、ろ過を除去手段として用いる場合には、液体キャリア又は細胞の支持体を、液体を適度な吸引力等の付与により通過可能な多孔質体とすることができる。液体キャリアの全体又は一部が多孔質体であると、液体やガスを通過させて、液体の除去に寄与させることができる。また、当該多孔質体部分を細胞の支持体としても用いることができる。
【0098】
なお、液体を保持する液体キャリアは、液体を保持できれば特に形状を限定するものではなく、プレート状、ウェルを有するプレート状、あるいは容器状等であってもよい。また、その少なくとも一部が細胞を支持する支持体であってもよい。さらに、液体のろ過等を考慮してその少なくとも一部が多孔質体であってもよい。
【0099】
露出工程は各種態様で実施できる。1つは、
図1の(a)に示すように、物質を含む液体と細胞とを接触させた状態で、液体を除去して物質を露出させることができる。すなわち、液体の除去に先立って、細胞と液体とを接触させるようにすることができる。
【0100】
物質と液体との接触及び液体の除去は、各種態様で実施できる。この態様において液体と細胞との接触は、特に限定しないで各種態様を採ることができる。例えば、浸漬、ディッピング、噴霧、塗布、滴下等が挙げられる。
【0101】
また、この態様において液体の除去は、蒸発のほか、ろ過、振り切り、遠心分離等を単独で又は組み合わせて用いることができる。蒸発は、物質が溶質であっても分散質の場合にも適用できる。また、ろ過等の固液分離法は、細胞を支持する支持体又は液体を保持するキャリアの少なくとも一部が多孔質体であって、物質が分散質の場合に適用できる。細胞が付着性細胞等の場合、好ましくは、蒸発により液体を除去する。付着性細胞の支持体への付着状態や細胞間結合状態の低下を抑制又は回避することができる。
【0102】
特に限定するものではないが、かかる態様の具体例として、
図2〜
図4に示す態様が挙げられる。
図2に示すように、液体中に細胞又は細胞を支持した支持体を浸漬した状態とし、その後液体を蒸発やろ過により除去することもできる。また、
図3に示すように、同じく細胞又は細胞を支持した支持体を、液体にディッピングしてその後、取り出した後、液体を除去してもよい。また、
図4に示すように、液体を細胞に対して滴下や噴霧等により供給し、その後に液体を除去してもよい。なお、例えば、
図4においては、液体と細胞とを接触させるのとほぼ同時に、液体を除去してもよい。より具体的には、液体を細胞に対して滴下や噴霧等により供給しつつ、液体を同時に除去してもよい。
【0103】
なお、液体の蒸発による除去は、液体の揮発性にもよるが、積極的に加温や送風を伴わないでも実施できる。すなわち、一般的な細胞の培養条件である25℃〜40℃程度で、適度な組成のガス雰囲気下で行うことができる。必要に応じて、細胞に対する過度なダメージを抑制又は回避できる程度に加温や送風をすることができる。
【0104】
この態様によると、液体と細胞とが予め接触しているため、液体が除去されると、除去と同時に、液体に溶質又は分散質として含まれていた物質の少なくとも一部が細胞に担持された状態で露出される。すなわち、液体と接触していた細胞の表面に対して物質が露出した状態となる。本態様によると、一挙に(1ステップで)、非験物質と細胞との接触状態が実現される。
【0105】
この態様において、液体を蒸発等させている間も、培地など、細胞のための水溶性成分を含有する水性媒体が細胞に接触又は供給されている状態が維持されていることが好ましい。こうすることで、細胞へのダメージが抑制又は回避されて、その後の評価の確度を高めることができる。例えば、細胞に対して、物質と接触させた側でない非接触側から水分及び水溶性成分を細胞に供給しつつ培養することが好ましい。また、こうした態様であると、物質と細胞との接触状態が確実に確保される点においても好ましい。このような露出工程のための具体的態様は後述する。
【0106】
本方法では、液体を、物質を細胞に接触させるための仲介媒体として用いている。このため、その揮発特性や表面張力特性に基づいて、概して迅速にしかも均一に物質を露出させることができる。このため、細胞に対する負荷を抑制又は回避し、効率的でありしかも定量性等に優れた評価を実施できる。
【0107】
また、物質の蒸発に際しても、細胞に必要な水性成分の蒸発を抑制又は回避できるため(親水性媒体を用いるや気体を用いる場合に比較して)、細胞の活性を十分に維持することができる。
【0108】
露出工程の他の1つの態様は、
図1(b)に示すように、物質を含む液体を適当な液体キャリア内、液体キャリア上、又は細胞を支持していない支持体に保持させた後、細胞が存在しない状態で、液体を除去して、液体キャリアの適当な領域に物質を露出させる態様が挙げられる。この態様において液体の除去を実施することで、液体キャリア等の液体が存在していた領域に、物質が露出されることになる。本態様によると、物質の露出と物質と細胞との接触とは、それぞれ別のステップとして、段階的(2ステップ)に行われることになる。
【0109】
この態様においても、液体の除去は、物質の存在態様等に応じて蒸発やろ過等を適宜採用することができる。ろ過の場合には、液体を保持する液体キャリア自体を多孔質体とすることができる。蒸発は、物質が溶質であっても分散質の場合にも適用できる。多孔質体としては、支持体として既に説明した態様を適宜採用することができる。
【0110】
特に限定するものではないが、かかる態様の具体例として、
図2〜
図4に示す各態様において、細胞を支持する細胞支持体に替えて、細胞を保持しない支持体又は液体キャリアを用いることで、細胞と液体との接触を伴わないで物質の露出工程を実施できる。より具体的には、
図5に示す態様が挙げられる。
【0111】
すなわち、液体キャリア又は支持体を液体に浸漬した状態で液体を蒸発等させたり、液体キャリア等を一旦液体に浸漬後に取り出して蒸発等させたり、さらには、液体キャリア等に液体を噴霧等により供給するとともに蒸発等させたりすることで、物質を液体キャリア上等に露出させることができる。
【0112】
この態様によると、液体を細胞と接触させないため、一層細胞に対する影響を抑制又は回避できる。一方、この態様でも、液体の他の利点を享受することができる。
【0113】
以上説明したように、露出工程では各種態様で物質を露出させることができる。なお、露出工程において、液体の除去にあたって、液体中に分散質として物質を含む場合には、除去操作の開始から終了するまでの間、できるだけ均一な分散状態を維持できることが好ましい。
【0114】
この露出工程によれば、液体を媒体とし、この液体を溶質又は分散質を露出可能に除去することで、除去した領域において溶質又は分散質を露出させることができる。液体の溶解特性や分散特性により、水性液体には溶解し難い溶質及び/又は分散し難い分散質でも、均一な分散状態又は定量的に露出させることができる。また、液体の揮発特性、表面張力特性により、迅速にかつ均一に物質を露出させることができる。
【0115】
(物質と細胞との接触の実現)
本方法では、露出させた物質と細胞とを接触させるようにする。
図1(a)及び
図2〜
図4に例示するように、細胞の存在下で液体を除去するときには、物質の露出と同時に物質と細胞との接触が達成される。
【0116】
一方、
図5及び
図6に例示するように、細胞の不存在下で液体を除去した場合には、露出後に、液体キャリア上に露出された物質と細胞とを接触させるようにする。
【0117】
こうした接触は、例えば、露出させた物質を担持する液体キャリアと細胞とを接触させるようにすることができる。
図6左側に示すように、物質が担持された液体キャリア上の領域に細胞を供給してもよい。また、例えば、
図6右側に示すように、細胞が支持されている支持体に対して物質が担持された液体キャリアを、物質を細胞に接触させるようにあるいは物質をスタンプするようにしてもよい。
【0118】
細胞の準備、物質を含む液体と細胞との接触、液体の除去及び物質の露出・物質と細胞との接触の一連の工程の一例を
図7に示す。
図7に示す態様は、多孔質体又はゲル状体で構成された支持体を一部に有する液体キャリアを用いた例である。
【0119】
図7に示すように、本態様では、細胞の準備工程として、まず、
図7の(1)〜(2)に示すように、液体キャリアを用いて細胞を培養する。液体キャリアは、細胞を支持する支持体をその底部に備えている。支持体は、多孔質体又はゲル状体であり、培地など親水性液体の透過性を有するほか、液体の透過性を有することができる。液体キャリアは、それを収容するキャビティを有する外部液体キャリアに収容可能に形成されている。
【0120】
液体キャリアの支持体部分に細胞を播種し、液体キャリア内に細胞の培地を供給する。そして、
図7の(1)に示すように、かかる液体キャリアを、キャビティ内に培地が供給された外部液体キャリアに収容して、細胞を培養する。細胞の培養は、例えば、TERで所定のバリア性を呈するまで培養する。
【0121】
次に、
図7の(2)に示すように、液体キャリア内の培地を除去する。そして、同(3)に示すように、物質を含有する液体を所定量供給して、細胞と液体とを接触させ、この状態の液体キャリアを、再び、培地が充填された外部液体キャリアに収容して培養する。液体は、培養細胞のバリア性等により、外部液体キャリア内の培地とは遮断されているため、その揮発性により速やかに蒸発する。
【0122】
図7の(4)に示すように、液体が蒸発してしまうと、液体中の物質が、細胞表面に露出され、物質の細胞への供給及び物質と細胞との接触とが実現される。
【0123】
このような露出工程によれば、物質の露出と、物質の細胞への供給及び物質と細胞との接触とを一挙に実現することができる。また、細胞が液体と接触している間の他、おおよそ常に培地が供給された状態にあるため、細胞は培地から水分及び栄養成分を補給できるため、より確度の高い評価が可能となる。また、このような露出工程によれば、簡易にかつ迅速に物質の露出及び物質の供給及び細胞との接触を実現できるとともに、物質及び培地は、それぞれ独立して細胞に供給(接触)されているために、その点においても、確度の高い評価が可能となる。
【0124】
図7に示す露出工程で用いる液体キャリア及び外部液体キャリアの構造は一例であって、他の構成であっても、当該露出工程における各種態様を実現することができる。
【0125】
(物質の細胞に対する作用の評価)
本方法は、物質を細胞により適切に供給して、ひいては、物質と細胞とを接触させて、物質と細胞との間における作用を評価する。
【0126】
評価は、物質と細胞とを相互作用させることができる種々の態様で実施できる。好ましくは、物質の供給又は物質との接触を経た細胞を一定期間培養する。例えば、物質の供給又は物質との接触を維持した状態で、細胞を培養することで実施できる。あるいは、物質の供給又は物質との接触を一定期間維持した後、物質を洗浄等により除去した状態で培養するようにしてもよい。
【0127】
培養時間は、適宜数時間から数十時間あるいは日単位で適当な期間を設定することができる。その他の培養条件については、評価に用いる細胞の一般的に用いられる培養条件を適宜選択することができる。
【0128】
評価のための培養は、細胞に対して、物質と接触させた側でない非接触側から水分及び水溶性成分を細胞に供給しつつ培養することが好ましい。この態様であると、物質及び培地は、それぞれ独立して細胞に供給(接触)される状態が確保されるからである。
【0129】
また、培養温度、培地組成、ガス組成等の1又は2以上に関して種々の態様で培養を行って、特定培養条件下における被験物質の細胞に対する作用を評価するようにしてもよい。
【0130】
また、物質の供給又は物質との接触を経た細胞を、一定期間保存することによって評価してもよい。例えば、冷蔵状態、冷凍状態及び凍結乾燥等の乾燥状態等の一般的な細胞の保存条件で保存してもよい。これにより、こうした保存状態における物質の細胞への作用を評価できる。
【0131】
物質の細胞に対する作用は、特に限定しないが、評価の目的に応じた態様で評価すればよい。例えば、細胞の培養期間及び/又は当該期間経過後における細胞形態、細胞運動、細胞数、細胞死、アポトーシス、細胞任意の又は合目的的な1又は2以上の酵素活性及びTER等によるバリア性等が挙げられる。これらの評価手法は、それ自体本分野において当業者に周知であり、当業者であれば適宜選択して作用の評価に用いることができる。また、当業者であれば、評価の目的に応じて必要なアッセイ系を適用できる。
【0132】
なお、本方法は、2以上の物質及び/又は2種以上の異なる細胞について、同時に評価することも可能である。例えば、複数個、典型的には6個、12個、24個、64個、96個、384個等の多数個のウェルを備えるプレートを用いて、各ウェル内で本方法を実施することもできる。本方法は、液体を仲介媒体とし液体の除去という簡易な操作で細胞に対して物質をできるため、ハイスループットスクリーニングに適している。
【0133】
以上説明したように、本方法では、液体を、物質の供給又は物質との接触のための仲介媒体として用いている。このため、その揮発特性や表面張力特性に基づいて、概して迅速にしかも均一に物質を露出させることができる。よって、細胞に対する負荷を抑制又は回避し、効率的でありしかも定量性等に優れた評価を実施できる。
【0134】
また、物質の蒸発に際しても、細胞に必要な水性成分の蒸発を抑制又は回避できるため(親水性媒体を用いるや気体を用いる場合に比較して)、細胞の活性を十分に維持することができる。
【0135】
また、本方法によれば、物質の細胞に対する作用を評価できるため、本方法を評価の目的に応じて、その目的のための物質のスクリーニング方法として実施できる。例えば、本方法は、物質の有する細胞毒性、細胞適合姓を評価できるため、毒性物質又は適合性物質のスクリーニング方法としても使用できる。また、物質の薬理作用やアポトーシス作用や増殖作用等も評価できるため、薬剤、アポトーシス剤及び増殖剤等のスクリーニング方法として用いることができる。
【0136】
また、本方法によれば、細胞に対する物質の作用を評価できるため、本方法を評価の目的に応じて、その目的のための細胞(材料)のスクリーニング方法として実施できる。例えば、ある種の物質に反応して増殖又はアポトーシスする細胞のスクリーニング方法、ある種の物質に反応して貪食する細胞のスクリーニング方法等が挙げられる。
【0137】
(物質と細胞との間の作用の評価のための構造体)
本明細書に開示の構造体は、物質と細胞との間における作用のための構造体であって、細胞と、前記細胞表面に担持された前記物質と、を備えている。そして、細胞表面に担持された物質は、当該物質を溶解又は分散させた液体から液体の蒸発に伴って前記細胞表面に露出されて担持されている。この構造体によれば、液体を媒体として、物質が細胞に担持されている。このため、従来、水などの親水性液体に溶解し難い又は分散し難い物質であっても、細胞に均一に及び/又は定量的に担持されている。なお、本開示の構造体は、細胞と物質との複合体でもある。
【0138】
本開示の構造体において、物質、細胞、液体等については、本評価方法に関して既に説明した態様を適用することができる。本構造体は、本評価方法において好適に用いることができる。
【0139】
(物質と細胞との複合体の製造方法)
本明細書に開示の物質と細胞との複合体は、細胞と、前記細胞表面に担持された前記物質と、を備えることができる。本複合体は、物質を溶解又は分散させた液体と細胞とを接触させた状態で、前記非親水液体を除去して前記物質を前記細胞表面に露出させ担持させる工程、を備えることができる。この方法によれば、細胞と物質との複合形態を簡易にかつ細胞に対するダメージを抑制又は回避して構築することができる。
【実施例】
【0140】
以下、本開示に係る実施例を挙げて具体的に説明する。ただし、以下の実施例は本開示を説明するものであって、本開示を限定するものではない。
【実施例1】
【0141】
本実施例では、液体としてハイドロフルオロエーテル(C
4F
9OC
2H
5沸点76.0℃、密度1.43(25℃)、表面張力13.6(25℃)、相対蒸発速度:33(基準:酢酸ブチル))を用い、物質として蛍光ポリスチレン微生物粒子(直径:平均7μm)を超音波処理によって分散させた液体を調製した。この液体を透明なプラスチック容器にいれ、蛍光ポリスチレン微粒子の分散状態をプラスチック容器の底面から蛍光顕微鏡により観察した。この結果を
図8に示す。
【0142】
次いで、この容器をシャーレ内でコンフルエントに培養したヒト気管支上皮細胞Calu−3上に滴下し、引き続きハイドロフルオロエーテルを蒸発させた。蒸発により、蛍光ポリスチレン微粒子が露出され細胞表面に吸着した。蛍光ポリスチレン微粒子を吸着担持させた細胞の位相差顕微鏡像を
図9に示し、蛍光顕微鏡像を
図10に示す。
【0143】
図8〜
図10に示すように、蛍光ポリスチレン微粒子がおおよそ均一に分散して細胞表面に担持されていることがわかった。この結果から、プラスチック微粒子など、水性媒体には分散困難であるものであっても、非親水性液体に分散させることで、簡易に、迅速に及び均一に、物質を細胞に供給し同時に接触させることができることがわかった。
【実施例2】
【0144】
本実施例では、細胞としてヒト気管支上皮細胞Calu−3を用いて、パーフルオロオクタン酸(PFOA)の当該細胞に対する作用を評価した。評価するための装置として、
図11に示す装置を用いた。
図11に示すように、この装置20は、いずれも上部に開口するキャビティを備えるウェルと、インサートとを備え、ウェル内にインサートを収容された状態を維持可能に構成されている。インサートの底部には、細胞を保持して培養可能な多孔質(平均細孔径3μm)の支持体を備えている。この支持体28は、細胞の増殖培地の媒体である水の透過性を有している。
【0145】
まず、インサートの支持体上に細胞を播種し、ウェル内のインサート以外の空間及びインサート内のキャビティの双方を本細胞の増殖培地で充填した。この状態の評価装置20を、CO
2インキュベータ内に数日静置することで、支持体上部全面に及び細胞を緻密に成長・増殖させて前培養工程を実施した。この前培養工程では経時的に経上皮電気抵抗値(TER)を測定し、細胞のインサートに接触する面におけるバリア状態(被覆度及び機能的なタイトジャンクション)が構築されていることを確認した。
【0146】
次に、インサート内の増殖培地を除去し、替わりにパーフルオロオクタン酸(PFOA)を溶解したPFOAのハイドロフルオロエーテル溶液(PFOA濃度:0、0.01、0.1、1及び10g/L)を、各装置のインサート内にそれぞれ30μl加えた。
【0147】
続いて、この装置をCO
2インキュベータ内に静置してハイドロフルオロエーテルを蒸発させた。ハイドロフルオロエーテルは約10分で蒸発した。これにより、PFOAが細胞表面に担持された状態が形成された。
【0148】
その後、同じインキュベータ内で15時間静置して培養した。この間、細胞には、ウェル内の培地から支持体を通じて水分や栄養成分が供給されていた。
【0149】
その後、インサート内に、テトラゾリウム塩の一種であるWST−8(2(2-methoxy-4-nitrophenyl)-5-(2,4-disulfonyl)-2H-tetrazolium)を溶解した培地水溶液200μlを添加し、CO
2インキュベータ内に20分間静置して培養した。
【0150】
その後、インキュベータ内のインサートから培地100μlを採取して、マイクロプレートに移し、波長450nm及び600nmにおける吸光度を測定した。結果を
図12及び
図13に示す。
【0151】
図12はPFOA濃度と吸光度との関係を示し、
図13は、PFOA濃度が0のときの吸光度を1としたときの他のPFOA濃度における相対的吸光度を示す。
図12及び
図13に示すように、PFOA濃度に応じて吸光度は低下し、PFOA濃度が0.1g/Lまではほぼ同程度であったのに対し、PFOAが1g/L以上では、ほとんど吸光度を観察できなかった。すなわち、PFOA濃度が1g/L以上では、PFOAは細胞を細胞死に至らしめるような作用を及ぼすことがわかった。
【0152】
以上の結果から、PFOAのような
物質であっても、細胞に適合性を有する液体を媒体として溶液とし用い、媒体を蒸発させることで、細胞に対して適切に供給し接触させて、細胞を用いてインビトロでかつ濃度依存的に安全に生体適合性(毒性)を評価できることがわかった。また、液体を利用することで、PFOAのような
細胞毒性が高いと思われる物質であっても、細胞適合性(毒性)等の評価を適切に実施できることがわかった。