特許第6672671号(P6672671)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6672671
(24)【登録日】2020年3月9日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】掘削モニタリング装置
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/11 20060101AFI20200316BHJP
【FI】
   E21D9/11 Z
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-191043(P2015-191043)
(22)【出願日】2015年9月29日
(65)【公開番号】特開2017-66652(P2017-66652A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2018年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】野口 宏治
(72)【発明者】
【氏名】山元 寛哲
(72)【発明者】
【氏名】久田 英貴
【審査官】 亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−025790(JP,A)
【文献】 特開平11−303583(JP,A)
【文献】 特開2003−314196(JP,A)
【文献】 特開2003−307095(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0024000(US,A1)
【文献】 特開平11−247597(JP,A)
【文献】 谷本親伯 外5名,TBM掘削指数(TEI)に基づくTBM施工管理基準の提案,第36回岩盤力学に関するシンポジウム講演論文集,日本,社団法人土木学会,2007年 1月,第11−16頁
【文献】 小泉悠 外4名,TBM施工におけるディスクカッタの摩耗と岩石の鉱物組成,第37回岩盤力学に関するシンポジウム講演集,日本,社団法人土木学会,2008年 1月,第25−30頁
【文献】 亀山克裕 外3名,岩盤シールド型TBMにおける岩盤強度推定の高精度化,第38回岩盤力学に関するシンポジウム講演集,日本,社団法人土木学会,2009年 1月,第98−103頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 1/00−9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクカッターを備えたトンネル掘削機の掘削動作をモニタリングする掘削モニタリング装置であって、
前記トンネル掘削機の掘削動作を測定した測定値である掘削データを収集する掘削情報収集部と、
前記トンネル掘削機によって掘削したズリの脆性度の入力を受け付ける入力部と、
前記トンネル掘削機の緒元データと共に、前記入力部から入力された前記脆性度を脆性データとして記憶する記憶部と、
前記掘削情報収集部によって収集される前記掘削データと前記記憶部に記憶された前記緒元データ及び前記脆性データとを用い、前記トンネル掘削機の掘削速度を前記ディスクカッターの回転速度で除算した値を前記ディスクカッターの切込量とする計算モデルで掘削前の切羽における岩塊状態の岩盤強度を示す岩盤の一軸圧縮応力を逐次算出する一軸圧縮応力算出部と、
前記一軸圧縮応力算出部によって逐次算出される前記一軸圧縮応力を出力する出力部と、
前記一軸圧縮応力算出部によって逐次算出される前記一軸圧縮応力と前記入力部に入力される前記脆性度とに基づいて、前記ディスクカッターの損傷の有無を掘削状況として判定する掘削状況判定部を具備し、
前記掘削状況判定部は、前記一軸圧縮応力算出部によって逐次算出される前記一軸圧縮応力の変化量がUCS閾値を越えて増加もしくは減少しても、前記入力部に入力される前記脆性度が前記記憶部に記憶された前記脆性度に対して脆性度閾値を越える変化がない場合、前記トンネル掘削機に前記ディスクカッターの回転速度の変更を指示し、前記ディスクカッターの回転速度の変更に伴って前記一軸圧縮応力算出部によって逐次算出される前記一軸圧縮応力が変化しない場合に、前記ディスクカッターの損傷と判定することを特徴とする掘削モニタリング装置。
【請求項2】
前記掘削状況判定部は、前記一軸圧縮応力算出部によって逐次算出される前記一軸圧縮応力の変化量が前記UCS閾値を越えて増加すると共に、前記入力部に入力される前記脆性度が前記記憶部に記憶された前記脆性度に対して前記脆性度閾値を越えて減少し、さらに前記トンネル掘削機の掘削速度が下がっている場合、前記掘削状況として前記トンネル掘削機が不良地山によって締付けられていると判定することを特徴とする請求項記載の掘削モニタリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル掘削機(トンネルボーリングマシン: 以下、TBMと称す)による岩盤掘削をモニタリングする掘削モニタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
TBMは、一般に、山岳トンネルなどの中軟岩質の岩盤の掘削に好適な掘削機である。TBMの先端に設けられたカッタードラムには、回転して岩を破砕する複数のディスクカッターが備えられている。ディスクカッターで破砕されたズリは、カッタードラムの回転によって順次チャンバ内に取り込まれ、スクリュコンベア又はベルトコンベアにより後方に排出される。
【0003】
このようなTBMを用いて地山の岩盤強度を推定する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、検出された推進用シリンダ装置の油圧力および突出量から岩盤の圧縮強度を推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−303583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術によって推定される圧縮強度は、ディスクカッターの損傷について考慮されていない。すなわち、ディスクカッターは、掘削対象の岩に十分な反力が採れないと偏摩耗を起こし極端に寿命が短くなる。そして、そのままのディスクカッターで切削を継続するとディスクカッターを支える軸受け(ベアリング)の破損につながり、最終的にはカッターヘッド面盤本体の損傷にまで至る危険性がある。一度そのような損傷に至った揚合、切羽内のズリの撤去、作業空間の確保、面盤の修理と工事に与える影響は計り知れない。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上述の課題を解消し、ディスクカッターの損傷を高確率で判定することができる掘削モニタリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の掘削モニタリング装置は、ディスクカッターを備えたトンネル掘削機の掘削動作をモニタリングする掘削モニタリング装置であって、前記トンネル掘削機の掘削動作を測定した測定値である掘削データを収集する掘削情報収集部と、前記トンネル掘削機によって掘削したズリの脆性度の入力を受け付ける入力部と、前記トンネル掘削機の緒元データと共に、前記入力部から入力された前記脆性度を脆性データとして記憶する記憶部と、
前記掘削情報収集部によって収集される前記掘削データと前記記憶部に記憶された前記緒元データ及び前記脆性データとを用い、前記トンネル掘削機の掘削速度を前記ディスクカッターの回転速度で除算した値を前記ディスクカッターの切込量とする計算モデルで掘削前の切羽における岩塊状態の岩盤強度を示す岩盤の一軸圧縮応力を逐次算出する一軸圧縮応力算出部と、前記一軸圧縮応力算出部によって逐次算出される前記一軸圧縮応力を出力する出力部と、前記一軸圧縮応力算出部によって逐次算出される前記一軸圧縮応力と前記入力部に入力される前記脆性度とに基づいて、前記ディスクカッターの損傷の有無を掘削状況として判定する掘削状況判定部を具備し、前記掘削状況判定部は、前記一軸圧縮応力算出部によって逐次算出される前記一軸圧縮応力の変化量がUCS閾値を越えて増加もしくは減少しても、前記入力部に入力される前記脆性度が前記記憶部に記憶された前記脆性度に対して脆性度閾値を越える変化がない場合、前記トンネル掘削機に前記ディスクカッターの回転速度の変更を指示し、前記ディスクカッターの回転速度の変更に伴って前記一軸圧縮応力算出部によって逐次算出される前記一軸圧縮応力が変化しない場合に、前記ディスクカッターの損傷と判定することを特徴とする
らに、本発明の掘削モニタリング装置において、前記掘削状況判定部は、前記一軸圧縮応力算出部によって逐次算出される前記一軸圧縮応力の変化量が前記UCS閾値を越えて増加すると共に、前記入力部に入力される前記脆性度が前記記憶部に記憶された前記脆性度に対して前記脆性度閾値を越えて減少し、さらに前記トンネル掘削機の掘削速度が下がっている場合、前記掘削状況として前記トンネル掘削機が不良地山によって締付けられていると判定しても良い
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、出力部35に出力される一軸圧縮応力(UCS)をモニタリングすることで、ディスクカッターの損傷を高確率で判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る掘削モニタリング装置がモニタリングするトンネル掘削機の構成を示す側断面図である。
図2】本発明に係る掘削モニタリング装置の構成を示すブロック図である。
図3図1に示すディスクカッターの切込角度と切込量との関係を示す図である。
図4図2に示す出力部の表示例を示す図である。
図5図2に示すUCS算出部によって算出される一軸圧縮応力(UCS)と脆性度との相関関係を説明する図である。
図6図2に示す掘削状況判定部による掘削状況の判定動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明を実施するための形態(以下、単に「実施形態」という)を、図面を参照して具体的に説明する。
本実施形態の掘削モニタリング装置は、トンネル掘削機1(トンネルボーリングマシン:以下、TBM1と称す)による岩盤掘削をモニタリングするコンピュータ等の情報処理装置である。
【0011】
TBM1は、前胴部2と後胴部3とから構成されている。前胴部2の先端には、複数のディスクカッター20に備えたカッタードラム4が回転可能に配置されている。カッタードラム4の後部側には隔壁5によって仕切られるチャンバ6が形成されている。チャンバ6には、先端取込み口がチャンバ6内に位置するスクリュコンベア7が隔壁5を貫通して設けられている。これにより、カッタードラム4の回転に伴いチャンバ6内に取込まれた掘削ズリは、スクリュコンベア7によりチャンバ6から取り出され、後方に排出される。
【0012】
後胴部3には、セグメント8を組立てるエレクタ9が配置されている。また、後胴部3には、TBM1を推進させるシールドジャッキ10が配置されている。シールドジャッキ10を伸長させ、スプレッダ11を介して組立てられたセグメント8の先端を押圧することで、TBM1全体を前進させ、カッタードラム4を岩盤(切羽)に押し付ける。また、前胴部2には、前胴部2の外周に向けて出没可能に配置された稼働ソリ12が設けられている。さらに、前胴部2と後胴部3とは、中折れジャッキ13によって伸縮連結されている。
【0013】
図2を参照すると、掘削モニタリング装置30は、パーソナルコンピューター等の情報処理装置であり、掘削情報収集部31と、入力部32と、記憶部33と、UCS算出部34と、出力部35と、脆性度比較部36と、掘削状況判定部37とを備えている。
【0014】
掘削情報収集部31、UCS算出部34、脆性度比較部36及び掘削状況判定部37は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を備えたマイクロコンピューター等の情報処理部である。ROMには掘削モニタリング装置30の動作制御を行うための制御プログラムが記憶されている。CPUは、ROMに記憶されている制御プログラムを読み出し、制御プログラムをRAMに展開させることで、掘削情報収集部31、UCS算出部34、脆性度比較部36及び掘削状況判定部37として機能する。
【0015】
掘削情報収集部31は、掘進動作に測定した測定値として、TBM1の掘削速度:v[mm/min]と、ディスクカッター20の回転速度:Rpm[rev/min]と、ディスクカッター20の推力(1個のディスクカッター20が岩盤に押し付けられる力):Fn[MPa]とを掘削データとしてTBM1の動作を制御するTBM制御装置40から収集する。なお、TBM1の掘削速度:vは、例えばシールドジャッキ10の伸長速度である。また、掘進中に得られる数値として、シールドジャッキ10の変位量をTBM制御装置40から収集し、掘削情報収集部31でTBM1の掘削速度:vを算出するようにしても良い。さらに、シールドジャッキ10は、油圧ジャッキである。従って、ディスクカッター20の推力:Fnは、シールドジャッキ10の油圧をTBM制御装置40から収集することで、カッタードラム4の推力:Fsを求め、求めたカッタードラム4の推力:Fsをディスクカッター20の総数:Nで除算して算出することができる。なお、必要に応じて、切羽の土水圧を計測する土水圧計を設け、計測した切羽の土水圧を推力Fnから差し引くようにしても良い。
【0016】
入力部32は、キーボード等の入力手段である。また、記憶部33は、HDD、半導体メモリ等の不揮発性の記憶手段である。入力部32は、ディスクカッター20の刃先幅:T[mm]と、ディスクカッター20の半径:R[mm]と、定数:Cと、ディスクカッター20間距離:S[mm]との入力を受け付け、入力されたディスクカッター20の刃先幅:Tと、ディスクカッター20の半径:Rと、定数:Cと、ディスクカッター20間距離:Sとは、TBM1の緒元データ331として記憶部33に記憶される。また、入力部32は、岩盤の脆性度:Kの入力を受け付け、入力された岩盤の脆性度:Kは、脆性データ332として記憶部33に記憶される。岩盤の脆性度:Kは、ズリを岩石試料とする一軸圧縮試験や圧裂引張試験によって測定される。例えば、一軸圧縮試験には、岩強度の簡易判定を行うことができるポイントロード試験機(点載荷試験機)を用いることができる。なお、記憶部33には、掘削前に採取した岩盤サンプルの脆性度:Kを脆性データ332の初期値として記憶しておくと良い。
【0017】
UCS算出部34は、掘削情報収集部31によって収集された掘削データと、記憶部33に記憶されている緒元データ331及び脆性データ332とを用いて、掘進時にリアルタイムに一軸圧縮応力(UCS)を算出する。
【0018】
UCS算出部34による一軸圧縮応力(UCS)の算出動作について説明する。
コロラド鉱山大学(CSM)のデータ解析により導かれた計算モデルによると、ディスクカッター20の切込量:P[mm/rev]は、TBM1の掘削速度:vと、ディスクカッター20の回転速度:Rpmとを用いて、次式[数1]で表される。
【0019】
【数1】
【0020】
また、図3に示すように、岩盤に切り込まれたディスクカッター20の最前部から切羽面までの角度を切込角度:θ[rad]とすると、切込角度:θは、ディスクカッター20の切込量:Pと、ディスクカッター20の半径:Rとを用いて、次式[数2]で表される。
【0021】
【数2】
【0022】
切込角度:θを用いると、推力:Fnと、ディスクカッター20が岩盤を破砕するために必要な岩盤破砕必要力:P[MPa]とは、次式[数3]で表される。なお、[数3]において、Tは、刃先幅[mm]、Cは、2.1〜2.7の定数、Sは、ディスクカッター20間距離[mm]、σcは、一軸圧縮応力[MPa]、σtは、圧裂引張強度[MPa]である。
【0023】
【数3】
【0024】
ここで、次式[数4]に示すようにX、Y、Zを定義する。[数4]において、ディスクカッター20の刃先幅:T、ディスクカッター20の半径:R、定数:C、ディスクカッター20間距離:Sは、TBM1の緒元データ331である。従って、X及びYは、切込角度:θによって決定される。
【0025】
【数4】
【0026】
すると、推力:Fnは、X、Y、Zを用いて、次式[数5]で表される。
【0027】
【数5】
【0028】
Zの項である一軸圧縮応力:σc[MPa]と、圧裂引張強度:σt[MPa]とは、岩盤の脆性:Kを用いて、次式[数6]で表される。
【0029】
【数6】
【0030】
従って、[数4]で定義したZは、一軸圧縮応力:σcと、岩盤の脆性度:Kとを用いて、次式[数7]で表される。
【0031】
【数7】
【0032】
[数5]に[数7]を代入して、一軸圧縮応力:σc[MPa]を求める式に形を整えると、次式[数8]が得られる。
【0033】
【数8】
【0034】
UCS算出部34は、掘削情報収集部31によって収集された掘削データと、記憶部33に記憶されている緒元データ331及び脆性データ332とを用いて[数8]を演算することで、一軸圧縮応力(UCS)を算出する。なお、UCS算出部34は、所定時間毎や、TBM1が所定距離進む毎に一軸圧縮応力(UCS)を逐次算出する。
【0035】
出力部35は、液晶ディスプレイ等の表示装置であり、図4に示すように、UCS算出部34で算出された一軸圧縮応力(UCS)がグラフとしてリアルタイムに表示される。なお、図4に示すグラフは、縦軸を一軸圧縮応力(UCS)とし、横軸を掘削距離とした例が示されているが、横軸を時間としても良い。なお、図4に示す区間Aは、ディスクカッター20に損傷が発生したと考えられる区間である。また、図4に示す区間Bは、ディスクカッター20を交換した後、切羽とディスクカッター20との接合状態が不完全である岩盤面不陸区間である。
【0036】
脆性度比較部36は、入力部32から入力された脆性度:Kと、記憶部33に脆性データ332として記憶されている脆性度:K(前回の測定結果)とを比較し、比較結果を掘削状況判定部37に出力する。なお、脆性度比較部36は、比較を行った後、入力部32から入力された脆性度:Kを、記憶部33に脆性データ332として更新して記憶させる。
【0037】
掘削状況判定部37は、UCS算出部34によって算出された一軸圧縮応力(UCS)と、脆性度比較部36に脆性度:Kの比較結果とに基づいて、掘削状況を判定する。掘削状況判定部37は、掘削状況として、「センサー等の故障」と、「不良地山による締付け」と、「ディスクカッター損傷」とを区別して判定し、これらの状況であると判定した場合には、TBM1の掘削動作を停止させる。なお、図4にBで示す岩盤面不陸区間では、正常な掘削動作であっても一軸圧縮応力(UCS)は大きく変化する。従って、ディスクカッター20交換後の所定区間は、掘削状況判定部37による判定動作を停止させると良い。
【0038】
ここで、脆性度:Kの変化(岩質の変化)と一軸圧縮応力(UCS)の変化との相関関係について図5を参照して説明する。
[数8]によると、脆性度:Kが増加すると、一軸圧縮応力(UCS)も増加し、脆性度:Kが減少すると、一軸圧縮応力(UCS)も減少する。従って、一軸圧縮応力(UCS)と脆性度:Kとが共に増加する場合と、共に減少する場合とは、TBM1の掘削動作が正常に行われている状態である。
【0039】
これに対し、脆性度:Kに変化がないにも拘らず、一軸圧縮応力(UCS)が増加もしくは減少した場合には、切込量:Pの変化が考えられ、ディスクカッター20の損傷の虞がある。
【0040】
また、脆性度:Kの増加に伴い、一軸圧縮応力(UCS)が減少することは、本来ありえないことであり、掘削データを収集するセンサーの故障等の何らかの不具合がTBM1に生じていると考えられる。
【0041】
さらに、脆性度:Kが減少すると、本来はTBM1の掘削速度:vが上がるはずであるにも拘わらず、脆性度:Kの減少に伴い、一軸圧縮応力(UCS)が増加し、TBM1の掘削速度:vが下がっている場合には、TBM1が不良地山によって締付けられている場合が考えられる。また、脆性度:Kの減少に伴い、一軸圧縮応力(UCS)が増加しても、TBM1の掘削速度:vが下がっていない場合は、本来ありえないことであり、掘削データを収集するセンサーの故障等の何らかの不具合がTBM1に生じていると考えられる。なお、TBM1の掘削動作では、シールドジャッキ10には、油圧力を一定で可変させないとして単位時間当たり一定の油量が供給される。従って、TBM1の掘削速度:vが上がると、推力:Fnが下がり、TBM1の掘削速度:vが下がると、推力:Fnが上がる。従って、掘削速度:vの代わりに、推力:Fnを判定に用いることもできる。
【0042】
掘削状況判定部37は、図5に示す相関関係に基づく掘削状況の判定動作を行う。以下、図6を参照して掘削状況判定部37による掘削状況の判定動作を詳細に説明する。
【0043】
掘削状況判定部37は、UCS算出部34によって算出される一軸圧縮応力(UCS)の変化を監視する(ステップA1)。例えば、掘削状況判定部37は、単位掘削距離や単位時間における一軸圧縮応力(UCS)の変化量が予め設定されたUCS閾値を超えることで、一軸圧縮応力(UCS)の変化有りと判断する。
【0044】
掘削状況判定部37は、ステップA1で一軸圧縮応力(UCS)の変化有りと判断すると、出力部35に脆性度の再試験を依頼するメッセージを出力し(ステップA2)、入力部32への脆性度の入力を待機する(ステップA3)。なお、ステップA2での脆性度の再試験を依頼するメッセージの出力部35からの出力は、脆性試験を人的に行うことを前提としている。脆性試験を脆性試験装置によって機械的に行う場合には、ステップA2で脆性試験装置に対して脆性試験を指示することになる。
【0045】
ステップA3で入力部32に脆性度が入力されると、脆性度比較部36は、入力部32から入力された脆性度:Kと、記憶部33に脆性データ332として記憶されている脆性度:K(前回の測定結果)とを比較し、比較結果を掘削状況判定部37に出力する。そして、掘削状況判定部37は、脆性度比較部36による比較結果に基づき、脆性度の変化有りか否かを判断する(ステップA4)。掘削状況判定部37は、脆性度閾値を越えて脆性度が変化した場合に、脆性度の変化有りと判断する。なお、脆性度閾値は、予め設定された値であっても良く、一軸圧縮応力(UCS)の変化量に応じて変更するようにしても良い。脆性度閾値を一軸圧縮応力(UCS)の変化量に応じて変更する場合には、一軸圧縮応力(UCS)の変化量が大きくなるほど脆性度閾値を大きい値に変更すると良い。
【0046】
ステップA4で脆性度の変化有りの場合、掘削状況判定部37は、ステップA1での一軸圧縮応力(UCS)の変化が一軸圧縮応力(UCS)の増加か否かを判断する(ステップA5)。
【0047】
ステップA5で一軸圧縮応力(UCS)の増加である場合、掘削状況判定部37は、ステップA4での脆性度の変化が脆性度の増加か否かを判断する(ステップA6)。
【0048】
ステップA6で脆性度の増加である場合、一軸圧縮応力(UCS)と脆性度:Kとが共に増加しているため、掘削状況判定部37は、TBM1の掘削動作は正常である判断し、ステップA1に戻り、一軸圧縮応力(UCS)の変化を監視する。
【0049】
ステップA6で脆性度の減少である場合、掘削状況判定部37は、TBM1の掘削速度:vが減少しているか否かを判断する(ステップA7)。
【0050】
ステップA7でTBM1の掘削速度:vが減少している場合、掘削状況判定部37は、脆性度:Kの減少に伴い、一軸圧縮応力(UCS)が増加し、TBM1の掘削速度:vが下がっているため、TBM1が不良地山によって締付けられている状態である「不良地山による締付け」と判断する(ステップA8)。そして、掘削状況判定部37は、TBM1が不良地山によって締付けられている虞を知らせる「締付け警告」を出力部35から出力し(ステップA9)、TBM制御装置40に掘削動作の停止を指示する(ステップA10)。「締付け警告」により、作業員は、TBM1の「不良地山による締付け」を早い段階で確認して対策をとることができる。
【0051】
ステップA7でTBM1の掘削速度:vが増加している場合、脆性度:Kの減少に伴い、一軸圧縮応力(UCS)が増加しても、TBM1の掘削速度:vが下がっていないため、掘削状況判定部37は、掘削データを収集するセンサー等が故障している状態である「センサー等の故障」と判断する(ステップA11)。そして、掘削状況判定部37は、掘削データを収集するセンサーが故障している虞を知らせる「故障警告」を出力部35から出力し(ステップA12)、ステップA10に至ってTBM制御装置40に掘削動作の停止を指示する。「故障警告」により、作業員は、TBM1(掘削データを収集するセンサーの故障等)を早い段階で確認して対処することができる。
【0052】
ステップA5で一軸圧縮応力(UCS)の減少である場合、掘削状況判定部37は、ステップA4での脆性度の変化が脆性度の増加か否かを判断する(ステップA13)。
【0053】
ステップA13で脆性度の減少である場合、一軸圧縮応力(UCS)と脆性度:Kとが共に減少しているため、掘削状況判定部37は、TBM1の掘削動作は正常である判断し、ステップA1に戻り、一軸圧縮応力(UCS)の変化を監視する。
【0054】
ステップA13で脆性度の増加である場合、脆性度:Kの増加に伴い、一軸圧縮応力(UCS)が減少しているため、掘削状況判定部37は、ステップA11に至って掘削データを収集する「センサー等の故障」と判断する。
【0055】
ステップA4で脆性度の変化なしの場合、掘削状況判定部37は、ステップA1での一軸圧縮応力(UCS)の変化が一軸圧縮応力(UCS)の増加か否かを判断する(ステップA14)。
【0056】
ステップA14で一軸圧縮応力(UCS)の増加である場合、掘削状況判定部37は、ディスクカッター20の回転速度:Rpm[rev/min]の減少を指示する(ステップA15)。そして、掘削状況判定部37は、UCS算出部34によって算出される一軸圧縮応力(UCS)が減少するか否かを判断する(ステップA16)。
【0057】
ステップA16で一軸圧縮応力(UCS)が減少する場合には、掘削状況判定部37は、TBM1の掘削動作は正常である判断し、ステップA1に戻り、一軸圧縮応力(UCS)の変化を監視する。すなわち、ディスクカッター20が正常に機能していれば、ディスクカッター20の回転速度:Rpm[rev/min]の減少させることで、ディスクカッター20の切込量:Pが上がり、一軸圧縮応力(UCS)が減少する。
【0058】
ステップA16で一軸圧縮応力(UCS)が減少しない場合には、掘削状況判定部37は、ディスクカッター20が損傷している「ディスクカッター損傷」と判断する(ステップA17)。すなわち、ディスクカッター20の回転速度:Rpm[rev/min]を減少させても、一軸圧縮応力(UCS)が減少しない場合には、ディスクカッター20の切羽への切り込みが正常に行われておらず、ディスクカッター20が正常に機能していないことを意味する。そして、掘削状況判定部37は、ディスクカッター20が損傷している虞を知らせる「カッター損傷警告」を出力部35から出力し(ステップA18)、ステップA10に至ってTBM制御装置40に掘削動作の停止を指示する。「カッター損傷警告」により、作業員は、ディスクカッター20の損傷を、早期に把握することができ、大事に至る前にディスクカッター20の交換を行うことができる。
【0059】
ステップA14で一軸圧縮応力(UCS)の減少である場合、掘削状況判定部37は、ディスクカッター20の回転速度:Rpm[rev/min]の増加を指示する(ステップA19)。そして、掘削状況判定部37は、UCS算出部34によって算出される一軸圧縮応力(UCS)が増加するか否かを判断する(ステップA20)。
【0060】
ステップA20で一軸圧縮応力(UCS)が増加する場合には、掘削状況判定部37は、TBM1の掘削動作は正常である判断し、ステップA1に戻り、一軸圧縮応力(UCS)の変化を監視する。すなわち、ディスクカッター20が正常に機能していれば、ディスクカッター20の回転速度:Rpm[rev/min]の増加させることで、ディスクカッター20の切込量:Pが下がり、一軸圧縮応力(UCS)が増加する。
【0061】
ステップA20で一軸圧縮応力(UCS)が増加しない場合には、掘削状況判定部37は、ステップA17に至ってディスクカッター20が損傷している「ディスクカッター損傷」と判断する。すなわち、ディスクカッター20の回転速度:Rpm[rev/min]を増加させても、一軸圧縮応力(UCS)が増加しない場合には、ディスクカッター20の切羽への切り込みが正常に行われておらず、ディスクカッター20が正常に機能していないことを意味する。
【0062】
以上説明したように、本実施形態は、ディスクカッター20を備えたTBM1の掘削動作をモニタリングする掘削モニタリング装置30であって、TBM1の掘削動作を測定した測定値である掘削データを収集する掘削情報収集部31と、TBM1によって掘削したズリの脆性度:Kの入力を受け付ける入力部32と、TBM1の緒元データ331と共に、入力部32から入力された脆性度:Kを脆性データ332として記憶する記憶部33と、掘削情報収集部31によって収集される掘削データと記憶部33に記憶された緒元データ331及び脆性データ332とを用い、TBM1の掘削速度:vをディスクカッター20の回転速度:Rpmで除算した値をディスクカッター20の切込量:Pとする計算モデルで岩盤の一軸圧縮応力(UCS)を逐次算出するUCS算出部34と、UCS算出部34によって逐次算出される一軸圧縮応力(UCS)を出力する出力部35とを備えている。
この構成により、出力部35に出力される一軸圧縮応力(UCS)をモニタリングすることで、ディスクカッター20の損傷を高確率で判定することができる。すなわち、UCS算出部34によって算出される一軸圧縮応力(UCS)は、TBM1の掘削速度:vをディスクカッター20の回転速度:Rpmで除算した値をディスクカッター20の切込量:Pとする計算モデルで算出されている。従って、ディスクカッター20の損傷によってUCS算出部34で算出される一軸圧縮応力(UCS)が変化し、この変化に着目することで、ディスクカッター20の損傷を高確率で判定することができる。
【0063】
さらに、本実施形態において、UCS算出部34によって逐次算出される一軸圧縮応力(UCS)と入力部32に入力される脆性度:Kとに基づいて掘削状況を判定する掘削状況判定部37を備えている。
この構成により、岩盤の変化を加味した判定を行うことができる。
【0064】
さらに、本実施形態において、掘削状況判定部37は、UCS算出部34によって逐次算出される一軸圧縮応力(UCS)の変化量がUCS閾値を越えて増加もしくは減少しても、入力部32に入力される脆性度:Kが記憶部33に記憶された脆性度データ332に対して脆性度閾値を越える変化がない場合、TBM1にディスクカッター20の回転速度:Rpmの変更を指示し、ディスクカッター20の回転速度:Rpmの変更に伴ってUCS算出部34によって逐次算出される一軸圧縮応力(UCS)が変化しない場合に、ディスクカッター20の損傷と判定する。
この構成により、作業員は、ディスクカッター20の損傷を、早期に把握することができ、大事に至る前にディスクカッター20の交換を行うことができる。
【0065】
さらに、本実施形態において、掘削状況判定部37は、UCS算出部34によって逐次算出される一軸圧縮応力(UCS)の変化量がUCS閾値を越えて増加すると共に、入力部32に入力される脆性度:Kが記憶部33に記憶された脆性度データ332に対して脆性度閾値を越えて減少し、さらにTBM1の掘削速度が下がっている場合、TBM1が不良地山によって締付けられていると判定する。
この構成により、作業員は、TBM1の「不良地山による締付け」を早い段階で確認することができ、掘削外径の拡大等の対策を行うことができる。
【0066】
以上、実施形態をもとに本発明を説明した。この実施形態は例示であり、それらの各構成要素の組み合わせ等にいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0067】
1 トンネル掘削機(TBM)
2 前胴部
3 後胴部
4 カッタードラム
5 隔壁
6 チャンバ
7 スクリュコンベア
8 セグメント
9 エレクタ
10 シールドジャッキ
11 スプレッダ
12 稼働ソリ
13中折れジャッキ
20 ディスクカッター
30 掘削モニタリング装置
31 掘削情報収集部
32 入力部
33 記憶部
34 UCS算出部
35 出力部
36 脆性度比較部
37 掘削状況判定部
40 TBM制御装置
331 緒元データ
332 脆性データ
図1
図2
図3
図4
図5
図6